イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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というわけで始まりました、『KAMIKOU FESTIVAL!』編。
初めてハーメルン様の特集タグをぼかしや透明以外で使った1話です。

前半はえななん視点で、後半は瑞希さん視点で進めてます。




64枚目 潜入・神高フェスティバル!

 

 

 噂によると、彰人達が通う神山高校──通称・神高では今日、文化祭をやるらしい。

 

 神高に通っていない私には関係のない話……と言われたらそれまでだけど、コンペ用の絵を描く気分転換になればという気持ちと。

 後は滅多に入れない他校に誰でも入れるとなれば、ちょっと覗きたいと思う程度には好奇心があった。

 

 残念なことにまふゆは予備校だし、愛莉は練習日だから遊ぶのは難しい。

 準備も無しに奏を誘うのも、奏自身の負担を考えると高過ぎるので無し。

 

 そうして厳選していけば誘えそうな友達は外部にはいなかったので、神高内で誰かを捕まえればいいかと思い、家を出た。

 

 

(あぁでも、瑞希って文化祭に参加するのかな?)

 

 

 私が病院で休んでる日に遊べちゃうぐらい、瑞希は学校をサボりがちだ。

 そんな瑞希が土曜日に学校に来るなんて考えられないし、文化祭もサボっている可能性が高い。

 

 そう考えると、誰かを捕まえる難易度が一気に跳ね上がる。

 

 瑞希以外に捕まえれそうなのは彰人や冬弥くんだけど……流石に姉同伴は嫌だろうし。

 いくら記憶喪失だからって、それをダメだと思う良識を忘れることはなかった。

 

 

(今回は1人でいっか)

 

 

 ここで最悪のことを考えても仕方がないし、ポジティブな思考に切り替えて、神高に突撃することにしよう。

 

 ──そういう経緯で私は1人、神高まで私服で乗り込んでいた。

 

 文化祭というだけあって、神高生っぽい制服の学生だけでなく、他校の制服の子や私服姿の人達も目に入る。

 流されないように隙間を縫って、受付でお金と食券を交換して、と。

 

 

(へぇ、どこの文化祭にも看板はあるのねぇ。いかにもって感じがするし、模擬店も面白そう)

 

 

 他校の中庭という珍しい空間を歩いていると、見覚えのある2つの後ろ姿が目に入った。

 

 私の見間違いだったり、髪色やファッションセンスまでそっくりさんでなければ、瑞希で間違いないはず。

 隣にいる絶妙なセンス……いや、文化祭仕様の白シャツを着ているのは、白石さんだろう。

 

 瑞希と同じクラスで仲が良さそうだったし、2人揃って模擬店で買っている姿は、遠目で見ても楽しそうだ。

 

 

(やっぱり、私は1人で回ることになりそうね)

 

 

 学校の友達と遊んでいる中に、約束もしてないのに割って入るような勇気はない。

 しかし、1人で回るにはあまりにも目の前にいる2人の条件が良すぎる。

 

 私も混ぜてもらおうか? と迷っている間に、瑞希や白石さんの間に女の子──小豆沢さんが駆け寄ってきた。

 

 

「あっ、杏ちゃん……!」

 

「こはね! 来れないかもって言ってたのに、来てくれたんだ!」

 

 

 白石さんが嬉しそうに小豆沢さんを歓迎し、瑞希に紹介していた。

 益々、参加しにくい空気が出ている気がする。当初の予定通り、1人で回ろう。そうしよう。

 

 

「──じゃあ、2人で回ってきてよ!」

 

 

 ……日和って踵を返そうとしたら、何故か瑞希が1人、校舎に向かって走り去ってしまった。

 白石さんと小豆沢さんの困惑を見るに、どうやら瑞希は自分の判断で2人と一緒に回らないことを選んだらしい。

 

 

(緊張してるようにも見えたし……瑞希のやつ、小豆沢さんに気を遣ったのかな)

 

 

 どちらにしても、自分から1人になったのであれば、私が邪魔しても問題なさそうだ。

 

 

「ん、追いかけてこないみたいだね」

 

 

 校舎に入って、白石さんの方ばかり警戒する瑞希の背後に、ゆっくりと近付く。

 

 瑞希は看板を眺めたり、周囲の子達を見たりと注意散漫だ。

 足音を多少出しても、気がつく素振りもない。

 

 これはいつも揶揄われる仕返しをするチャンス。

 今こそ、肩に手を乗せてわっ、と驚かせる時……!

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハーッハッハッハッハッハ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひゃっ!?」

 

「え!? 何今の、笑い声? って、後ろに絵名もいるし!?」

 

 

 ゆっくりと肩に手を伸ばした瞬間、上から大き過ぎる笑い声が響き渡る。

 あの大声のせいで私は声を出してしまい、瑞希に気付かれてしまった。

 

 

「もう、何なのよ! もう少しで瑞希を驚かせたのに!」

 

「それを態々言うって……これってボク、あの大きな声に助けられたのかな?」

 

 

 テイク2をやるには、あまりにもガッツリ見つかってしまった。

 

 いつも揶揄ってくる仕返しするチャンスを逃した大声に私がクレームを言えば、瑞希は苦笑いを浮かべる。

 

 

「で、悪戯っ子な絵名はどうして1人で神高の文化祭に来てるの?」

 

「コンペの絵の気分転換にちょっとね。知り合いもいるし、冷かそうかなーって」

 

「それでぼっちなんて、めっずらしー」

 

「誰も捕まらなかったからしょうがないでしょ。後、ぼっちって言うな」

 

 

 瑞希も白石さん達から離れたのだから、同じぼっちだろうに。

 ぼっち仲間の瑞希をキッと睨みつけ、ごめんごめんと軽い謝罪を引き出した。

 

 

「ねぇ、瑞希は誰かと回る予定なの?」

 

「ううん。あの大声が気になったから、1人で見に行こうかなって思ってたぐらいだよ」

 

「そうなんだ。じゃあ、私も一緒に行ってもいい?」

 

「それは……絵名はいいの?」

 

「良くなければこんな提案、するわけないでしょ」

 

 

 何を遠慮しているのか、どこか弱々しく見える瑞希に私は頷いた。

 というか、友達がいるのに今更1人で回らなければいけないなんて、私の心が惨めさで荒んでしまうからやめてほしい。

 

 そんな正直な説得が功を奏したのか、瑞希は遠慮するのをやめて、頷き返してくれた。

 

 

「じゃあ、まずは絵名をビビらせた大きな声の正体を探してみない?」

 

「ビビらせたは余計よ! ……まぁ、私も気になるし反対しないけど。どこにいるか心当たりはあるの?」

 

「たぶん、上の教室だと思うんだよね。案内するからついて来て」

 

「はいはい。人も多いし、置いてかないでよ?」

 

「それは絵名次第じゃないかな~」

 

 

 楽しそうに笑いながら先導する姿は、こっちに無駄な遠慮もしていないように見える。

 白石さん達のように逃げられる気配は今のところなくて、安堵の息を漏らしつつ。

 

 私は意気揚々と上に向かう瑞希から逸れないように、足早に制服姿の背中を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

《side.瑞希》

 

 

 1人で適当に彷徨う予定だったのに、何故か今、絵名と神高内を歩いている。

 まふゆも忙しくて友達とも予定が合わなかった結果らしいけど、ボクにとっては幸運だったかもしれない。

 

 

「結構距離があるし、空き教室ばかりのエリアに来たけど。本当にここに声の主がいるの?」

 

 

 大き過ぎない? と背後から1歩前に出て、隣に並んだ絵名が呟く。

 案内しているボクが言うのも何だけど、向かっている教室から声が聞こえてくるのってあり得ないんだよね。

 

 よく考えたらわかるんだけど、下の階って出し物があるから騒がしいんだよ。

 

 それなのに、その下の階にすら聞こえてくる大声って。

 楽器じゃあるまいし、そんな声を人が出すなんて普通は考えにくい。

 ……その声の主が普通じゃないんだろうけどさ。

 

 

「うん、間違いなければこの空き教室のはずだけど」

 

 

 絵名に話しながら人の気配のある教室をそっと、覗き込む。

 そこには見覚えのある人と、その友達のような人達が楽しそうに何かの練習をしていた。

 

 

(あれって、もしかして類?)

 

 

 かつて、中学の頃に屋上で度々会っていた変わった先輩、と言えばいいのかな。

 そんな彼が楽しそうに友達と話していた。

 

 どうやら、屋上でひとりぼっち同士で会っていた彼は、楽しさを共有できる仲間ができたらしい。

 それが嬉しくもあればどこか胸が締め付けられて、ボクは教室から目を逸らすことしかできなかった。

 

 

「教室にいる人、知り合いっぽいけど……声、かけなくていいの?」

 

 

 目を逸らした先には絵名が立っていて、真っ直ぐボクを見つめていた。

 咎めるわけでもなく、呆れているわけでもない。それでいいのかと問いかけてくるだけの目。

 

 不思議と逸らさなくてもいいかな、と思ったボクはできるだけいつも通りの笑みを心掛けて笑った。

 

 

「まぁ、仲間と楽しくやってるみたいだしね。声をかけるのはやめとこうかなって」

 

「ふぅん、そっか。じゃあ、下に戻る?」

 

「そうだね~、戻ろっか」

 

 

 絵名が先に歩く姿をゆっくりと追いかけながら、もう1度教室の方を見る。

 あれはこれはと金髪の男子と薄緑の女の子に話しかけている姿は、屋上にいた時の類を知っているボクとしてはとても柔らかくて、楽しそうだ。

 

 1人で文化祭を回ろうとしていたボクとは違って……

 

 

「もう。やっぱり気になるんじゃない」

 

 

 そんな声が隣から聞こえてきて、ボクは慌てて顔を横に向ける。

 先に進んでいそうな絵名は何故か隣に立っていて、呆れているようにも聞こえる言葉を投げかけてくるのに、どこか温かさもあった。

 

 

「ほら。声をかけないって決めたのなら、さっきのところまで戻るわよ」

 

 

 ──あんた、また止まっちゃいそうだから。

 

 なんて台詞を付け足して、絵名はボクの手を取って進む。

 それが何となくあの夏の日、絵名が手を引っ張って連れ出してくれた時の後ろ姿に重なって見えて。

 

 

(あ、そっか。羨まなくてもボクにもちゃんと、いたんだった)

 

 

 ボクより小さな体はぐいぐいと前に進んで、臆病なボクを簡単に引き上げてくれるのだ。

 

 直接、顔を合わせて話した時間で言えば、お姉ちゃんにも類にも負けてしまうはずなのに。

 彼女はどうしてこうも、沈みそうなボクを浮上させてしまうのか。不思議で仕方がない。

 

 

「ねぇ、瑞希」

 

「何?」

 

「あの教室にいた人と、どういう関係かは知らないけどさ。文化祭で一緒に回っている時ぐらいは代わりを務めることはできると思うの。って、代わりとかなんか嫌なんだけど。いやでも、だから、ええと、その」

 

 

 もごもごと言葉に詰まる絵名は初めて見たかもしれない。

 

 頭の中で言葉を選んでいるような話し方はあっても、なんやかんやはっきりと言えることと言えないことをわけている絵名だ。

 こんなに意味のない言葉を繋ぐ姿を見たことが無くて、ボクは思わず吹き出してしまった。

 

 

「は、ちょっと! 何で急に笑うのよ!?」

 

「絵名がハッキリ言わないなんて、明日は槍でも降るのかな~って思うと、おかしくて」

 

「ほんっとーに失礼ね!」

 

 

 ばか、と幼稚な罵倒と共に、振り返った絵名が足を止める。

 前も今も、手を引っ張ってくれるキミへの答えなんて、たった1つしかないのだ。

 

 

(代わりなんていらないよ)

 

 

 だって、ボクにとってのキミはかけがえのない友達なんだから──代わりになろうとするなんて、頼まれてもお断りだ。

 

 

「よ~し。なにか面白いものがないか探しに行こう、レッツゴー♪」

 

「もう。元気になったのはいいけど、置いて行かないでよね!」

 

 

 





絵名さんを捻じ込めそうだったので、ぐいっといっちゃいました。
次回は普通にとある2人と合流します。
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