イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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まさか誰も記憶喪失えななんが『響くトワイライトパレード』にしれっと混ざりにくるとは思うまい。という不意打ちの1話です。




68枚目 フェニラン・ペインター

 

 

 私の最優先事項にシブヤアートコンクールがあったとしても、日々の時間は流れていく。

 

 ニーゴの活動もゆっくりと進めているし、学校では定期テストもあったし、小テストも多い。

 

 そして私にはサークルと学校だけでなく、バイトもある。

 今、私がフェニックスワンダーランドに来ているのも南雲先生の依頼があったからだ。

 

 

(ボディペイントの代役をしてほしい、ねぇ)

 

 

 南雲先生の伝手で漫画家のアシスタントやらイラストなど、色々描かせてもらっている私だけれども。

 今度はフェニランにて、プロの代わりにボディペイントの出し物を成功させなければいけないらしい。

 

 いつもボディペイントをしている人は不幸なことに、前日からウイルス性の病気になってしまったようで、場所取りに予約していた日に仕事をするのが不可能になった。

 

 しかし、楽しみにしている人達のためにも穴を開けたくない! というのが担当者さんの意見。

 それを叶えたいと思った大人が2人いたことにより、自分でお金を稼ごう修行の第2弾として、私に白羽の矢が立ったのだ。

 

 

(その上、その人が雪平先生の友人だから断りにくかったのよね)

 

 

 雪平先生と南雲先生という私の中の2本柱にお願いされたら、私如きでは断れない。

 似たようなことをした経験から仕事に対しては余裕があるものの、そうでなければ私の嫌々ゲージは天元突破していただろう。

 

 

(ま、これが現時点の私がどれぐらい成長しているか確認する手段と考えたら、丁度いい話か)

 

 

 幸い、ニーゴの絵は昨日完成したし、アートコンクールの絵も苦戦しているわけじゃない。

 1日消費しても大丈夫な程度には、今の所余裕もある。

 

 その上、事前情報も場所も方法も道具も全て、用意してもらったのだ。

 後は私の度胸とお客さんを納得させる腕を見せるだけ。色紙を売った時よりも心構えはできていた。

 

 

 

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

 

 

 

「──っと、できましたよ」

 

「わぁ、すごい! お母さん、手にフェニーくんがいるよ!」

 

「そうね、よかったわね」

 

 

 今日休んでしまった人がフェニランでコツコツと地位を築いていたらしく、ボディペイントの方は私が何かをしなくても様々なお客さんがやって来た。

 

 今みたいな親子にフェニランのマスコットキャラクターであるフェニーくんを描いたり、友達で遊びに来ている子に希望の絵を描いたり。

 恋人に重ね合わせたらハートの柄ができるペイントとかも描いて、中にはリアリティのあるものを描いてほしいなんていう注文もあった。

 

 それを何とか短時間で捌いていくこと数時間、ほんの少し余裕が出てきたので、そろそろ休憩しよう。

 

 

(最近のフェニランはお客さんが伸び悩んでるって南雲先生が言ってたのに……ビックリするぐらい多かったわね)

 

 

 休憩中、という札を立てて、乾いた喉にお茶を流し込む。

 1つ1つの絵を集中して描いているせいか、体力も削られている気がする。

 

 小さな子供を乗せているような体の重さに深く息を吐いていると、団体さんらしい足音がこちらに向かって近づいてきた。

 

 

「今日はフェニランでも最近、人気の体に絵を描いてくれるお姉さんが来ててね! ──あれ?」

 

「ごめんなさい、今休憩中で──え?」

 

 

 最近、聞いた覚えのある明るい声を聞きつつ振り返ると、これまた見覚えのあり過ぎる集団が目に入った。

 

 ここまで案内していたらしいえむちゃんと、同じ宮女生である咲希ちゃん、一歌ちゃん、望月さん。

 

 他には冬弥くんが『司先輩』と呼んでいた金髪の青年、後はどこかで見た気がする紫髪の青年と緑髪と銀髪の女の子もいる。

 

 

(この男女比がとんでもない集団は……兄と妹の友達を連れて遊んでるとか? うーん、そんなことあるの?)

 

 

 いくら何でも男女比率が2対6は極端ではないだろうか。

 中々想像できないシチュエーションに固まる私よりも先に復活したのは、頭数の多いえむちゃん側だった。

 

 

「わぁっ、いつものお姉さんが絵名さんになってる~!?」

 

「うぉぉっ、急に叫ぶんじゃないぞ、えむ!? ……むっ? その呼び方をみるに、その人とえむは知り合いなのか?」

 

 

 えむちゃんが驚けば、あんたも叫んでるような大声出してんじゃん、とツッコミたくなる声を出している『司先輩』さん。

 

 呼び捨てにする程度には仲が良いみたいだし、もしかしてこの司先輩とこの中の数人がえむちゃんが言っていた『ショーをする仲間』なのだろうか。

 

 私と既に顔を合わせている人達とそうでない人の反応が真っ二つにわかれる中、1人冷静な紫髪の青年がえむちゃんに話しかけた。

 

 

「えむくん、彼女とはどういう関係なのかな?」

 

「うん! あたしの学校の先輩で、学校で会うより前から知っていたお友達の絵名さん!」

 

 

 えむちゃんが大袈裟に手を広げて紹介してくるので、私にえむちゃん以外の7人分の視線が集まった。

 

 休憩中の情けない状態からこうも注目されると恥ずかしいのだが……半分は名前も顔も知ってる子達でも、半分は名前を知らない人達だから、私の方から名乗った方がいいかもしれない。

 

 

「はじめまして、私は東雲絵名っていいます。今日はいつもボディペイントしてる人がお休みなので、代理で来てるんです」

 

「ということは、絵名さんが絵を描くんだ!」

 

「うん。今は休憩中だけど、さっきまで描いてたよ」

 

 

 使ってた道具や試供品の絵を見せると、えむちゃんの目がキラリと輝いた。

 

 私が見ても何を言いたいのかがハッキリとわかる顔だ。

 なので、私よりも仲が良さそうな子達ならその様子に気が付けるのも当然で、緑髪の子がえむちゃんよりも先に口を開く。

 

 

「えむ、さっき東雲さんが休憩中だって言ってたでしょ? それなのにお願いするのはよくないんじゃない?」

 

「あっ……そっか」

 

 

 声のトーンといい、顔といい、見るからに落ち込むえむちゃんを前にすると、じゃあ引き続き休憩しますと言うのも忍びない。

 

 ──体感的に集中力も戻ってきているし、腕の疲れもあまりなし。

 人様にお出しする商品としてのクオリティを保ちつつ、今いる人数分の絵を描くことぐらいはできるだろう。

 

 そう頭の中で判断すれば、後は動くだけだ。

 

 

「えっと、気遣ってくれてありがとう。でも大丈夫、えむちゃん達が折角来てくれたんだから、何の絵でも描くよ。何が良いかな?」

 

 

 脇に置いていた道具を引っ張り出して問いかけても、えむちゃんは丸い目を瞬かせている。

 まだ、こちらを心配してくれているのか、答え難そうだ。

 

 ここはえむちゃんだけでなく、他の子も巻き込んでみよう。

 

 

「咲希ちゃんと一歌ちゃん、望月さんもいらっしゃい。ここまで来てくれたんだし、そこの銀髪の子も含めて、お揃いの絵でも描いてみる?」

 

「お揃いの絵!? それってすっごい思い出になりそう! えな先輩はどんな絵を描いてくれるんですか?」

 

「そこのサンプルの絵は勿論、リクエストがあれば何でも描くよ」

 

「わぁ、じゃあちょっと見せてください! ほら、皆も見せてもらおうよ!」

 

 

 咲希ちゃんが食いついて来てくれたのでサンプル写真を渡すと、声をかけた4人で写真を見始めた。

 作戦通りである。後はえむちゃんもこの波に乗ってくれたらいいのだけど。

 

 そんな企みをする私の視界に入ったのは、笑みを堪えながらこちらを見ていた紫髪の青年だ。

 悪寒がないので私に何かしようとしているわけではないようだが、なんだか悪戯を目論む瑞希みたいな顔をしていて、誰かが揶揄われそうな気配がある。

 

 ……なんとなく、その対象が誰なのかわかってしまうのがまた、複雑だ。

 

 そういう顔を出さないように気を張っていたら、紫髪の青年が問いかけてきた。

 

 

「東雲さん、絵はリクエストでも可能ですか?」

 

「代理とはいえ、今日は私が絵を提供するので。1人の絵描きとして、リクエストであれなんであれ、半端な作品は出しませんよ」

 

「なら、そこの金髪の……司くんのおでこに『天翔(あまか)けるペガサス』を描いてもらうことも?」

 

「おでこ……? えっと、額に描くこと自体はできますけど」

 

 

 ボディペイントといえば、今日書いているだけでも手の甲や腕、頬に描く人が多かった。

 額に何かを描くなんて、罰ゲームで漢字を1つ、描くようなイメージしかない。

 

 なので、その『司くん』と呼ばれる青年が納得するかと聞かれたら、私は難しいと思うのだ。

 私の懸念は正しかったようで、金髪の青年はよく通った大声を出した。

 

 

「類ぃ~っ!? なんでオレの額にペガサスを描くって話になってるんだぁーっ!?」

 

「フフ、司君はよく天翔けるペガサスって言うだろう? ついでに星も一緒に描いて貰ったら、もっとスターになれるかもしれないよ?」

 

「ぬ。そういう考え方も、あるのか……?」

 

「いや、あるわけないじゃん」

 

 

 納得しかけた金髪の青年に、緑髪の女の子のツッコミが炸裂した。

 

 ──何という的確なツッコミなのでしょう。

 

 謎のナレーションが私の頭の中にこだまする。

 特に、この息をするように揶揄って、ボケてから別の人がすかさずツッコむのが芸術点が高い。

 

 ノリツッコミもありだが、それはコンビの場合。

 トリオであれば、今の3人が理想だ。

 

 ナレーションの次は冷静に評価する何かは放置するとしても、普段から何らかの活動を一緒にしているのか、息がピッタリである。

 

 そして、サンプルを見てる側で4人、今の3人とえむちゃんも含めて4人と。

 

 

(天馬兄妹がそれぞれ3人の友達を紹介して、遊んでるみたいね。えむちゃんがいるお兄さんの方が案内役なのかな)

 

 

 この不思議な集団が揃っている理由を考察していると、咲希ちゃんのグループが何を描くのか決めたらしく、はいはいと元気よく手を挙げている。

 

 

「咲希ちゃん、決まったの?」

 

「はい! 皆でフェニランに来た記念に、手の甲にフェニーくんを描いてほしいです!」

 

「東雲先輩さえよければ、全員のイメージカラーで描き分けてほしいんですけど、できますか?」

 

 

 咲希ちゃんが元気に宣言した後に、すかさず望月さんが詳しい要望を添えた。

 色の変更ぐらいならそれほど難しい話ではない。

 

 

「うん、大丈夫。それぞれ色を教えてもらってもいい? すぐに描くからね」

 

 

 ……結局のところ、咲希ちゃん達の手の甲以外には、えむちゃんの腕に楽しそうなフェニーくん達というリクエストを描いただけで、他の人達は遠慮されてしまった。

 

 いざ出番になった時に、緑色の髪の女の子が紫髪の青年の後ろに隠れてしまって出てこなかったので、今回は遠慮しますということになったのだ。

 

 その後は8人という集団とも別れてボディペイントをし続けたのだが……直前になって断られたのは後にも先にも彼女だけ。

 

 私の絵の魅力が足りなかったのか、ボディペイントなんて恥ずかしいと思うような絵しか描けていなかったのか。

 どちらにしても、私の絵の実力が彼女の首を縦に振らせるには至らなかったということで。

 

 

(自分なら絵を描けると思っていたなんて……いつの間にか知らない間に天狗になってたみたいだし、感謝しなくちゃ)

 

 

 自分の力にいつの間にやら思い上がっていたことに気が付けたのだ。

 今日の集団には感謝したいし、彰人の知っている人なら何かお礼の品を渡してもらおうか。

 

 

 後々お願いしたら今まで見たことがないぐらい嫌そうな顔をされることなど知らず、私はそんなことを考えながら日が落ちる前にフェニランを後にした。

 

 





セカイの住人は置いておいて、プロセカメンバー顔見せ完了ですね。
68話かけてその程度かって? ……それは私も思ってます。はい。
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