イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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前回はこの先の展開のために不穏にしちゃったので、次に行く前に特に読まなくても大丈夫なお話を2話入れました。休憩タイムです。
まずは宮女のお話から。



75枚目 東雲サポートセンター

 

 

 

 

 最近、宮女の屋上が人気らしい。

 

 1年生の時はそうでもなかったのだが、2年生になってからは誰もいない屋上というのを見なくなった。

 

 そもそも、普段からモモジャンの皆が昼休みや放課後といった隙間時間にちょくちょく集まってる……というのもあるけど。

 

 このところ毎日、気分転換で屋上で絵を描いていると、高確率で誰かに会うのだ。

 瑞希辺りに言えば「絵名ってば思い込みが激し過ぎ〜」と笑われそうだが、これはきっと気のせいではない。

 

 ここ3日間のことを振り返っても、高頻度で誰かに会っているのだから、間違いない。

 そう思うけど、私の体感上の話だし、改めてここ3日の遭遇率を振り返ってみよう……

 

 

 

 ──まずは3日前のお昼休みの話で、片手におにぎりを食べつつ絵を描いている所を望月さんとえむちゃんに目撃されてしまい、揃ってお昼ご飯を食べることになった。

 その日のお昼は「言いにくいんですけど、どちらか片方に集中した方が……」に近い言葉を望月さんにやんわり言われたので、今までの自分を反省することに。この時点でもう2人だ。

 

 

 その日の放課後には遥ちゃんがみのりちゃんを探しに屋上まで来ていて、ついでに「最近、みのりが無理して練習していないか心配で。どう声をかけたらいいと思いますか?」という相談を受けて、3人目。

 

 行き過ぎだと思ったら止めた方がいいけれど、今は思うように行動させて、見守ればいいのでは? と言ってみたけれど。

 私もどちらかというと無理する側。お前が言うなとニーゴの誰かに言われそうなのは棚に上げておこう。

 

 

 

 

 ──そんなこんなで2日前のお昼休みでは、小豆沢さんがひょっこりとやってきた。これで4人目。

 どうやら白石さんにアクセサリーを貰ったので、お返しのプレゼント選びで困っている様子。

 

 そんな時にふと、私のことを思い出してくれたらしく、屋上まで来てくれたとのこと。

 私を頼ってくれたのが嬉しかったので、白石さんに合いそうなアクセサリーがある雑貨店を教えた所……後日、白石さんが如何に喜んでくれたのかということを細かく書かれた御礼の連絡が送られてきた。

 まぁ、これはまた別の話ということで省略する。

 

 

 さらに同日の放課後、5人目の訪問者として愛莉が笑いながら私に差し入れをくれた。

 近況を話し合って、愛莉が動画の作成依頼で上手く伝えられていないんじゃないかと悩んでいる、という話を聞き出してしまい。

 

 瑞希から聞きかじっている話を交えながら相談に乗ったところ、その日の夜にお礼の電話がかかってきた。

 無事、寝る時間が無くなった私はその日、徹夜した。とはいえ、それは今は関係のない話なので放置しよう。

 

 

 

 

 ──昨日のお昼は記念すべき6人目のお客さんに一歌ちゃんがやってきた。

 どんよりとした顔で屋上にやってきたので、どうしたのか尋ねた所、覚悟とは何かと思い悩んでいるようだった。

 

 私もできることなら力になりたいけど、覚悟とか精神的な話は自分で考えなければブレるのだ。

 

 私ができることといえば、私なりの言葉と応援を伝えて、一歌ちゃんが自分なりの答えを見つけることを祈るのみである。

 

 

 その日の放課後には遥ちゃんが心配しているらしいみのりちゃんが、熱心にダンスの練習していた。

 とある動画投稿者の人とコラボをするようで、現在リベンジの為に練習中のようだ。

 

 無理していないか心配だと遥ちゃんが心配していたので、私も気を配ってみたけれど、みのりちゃんの場合は必要な無理をしているようにも見える。

 それなので、遥ちゃんには改めて見守ってあげたらどうか、と連絡を入れてその日は帰った。

 

 

 

 

(……こうやって振り返ってみても、3日で7人も会うなんて何か変じゃない?)

 

 

 まふゆとは毎日会ってるのでエンカウントから外していても、知っている人と会うのはこの短期間で7人である。やっぱり、ここ最近の遭遇率は異常だ。

 

 一体、宮女高等部の屋上で何が起きているのか?

 

 この数日で変わったことといえば、まふゆが部活や委員会でお昼休みはすぐに姿を消して、放課後もほぼ会っていないということだけど……それ以外に私には心当たりがない。

 

 

(いや、この心当たりも後々が怖いだけで、最近の遭遇率とは関係なくない?)

 

 

 ここ最近の屋上の人気具合に何が起きているのかと考えても、やっぱり関係のなさそうな事ばかり考えてしまう。

 空模様の写生の為に動かしていた筆の動作を忘れて、私は知り合いのエンカウント率の高さにばかり考えてしまった。

 

 くだらないことで頭を悩ませていると、今日もまた、屋上の扉が開く。

 

 

「あ、えな先輩がいた!」

 

「本当だわ。咲希ちゃんの言う通りね」

 

 

 本日、4日目昼休みのお客様は咲希ちゃんと雫だった。

 全く見たことがない珍しい組み合わせである。名前を呼んでいるのを聞く限り、私を訪ねて屋上まで来てくれたのはわかるけれど、この2人はどういう関係なのだろうか?

 

 

「咲希ちゃんと雫って、珍しい組み合わせだね」

 

「ふふ、そうかしら? 絵名ちゃんもしぃちゃんのことを知ってるでしょう?」

 

 

 雫がしぃちゃんと呼ぶ子は彼女の妹である日野森志歩さんの呼び方だ。

 で、その日野森志歩さんという名前は……フェニランにて咲希ちゃん達と会った、幼馴染の1人だと聞いた子の名前だったはず。

 

 

「つまり……咲希ちゃんと雫も幼馴染ってこと? それなら一緒にいても不思議じゃないか。それで……私を探してたみたいだけど、どうしたの?」

 

「あ、用事があったのはアタシで。えな先輩なら南雲先生がどこにいるか知ってるかと思いまして」

 

「……もしかして咲希ちゃん、選択授業で美術取ったの?」

 

「はい! 何でわかったんですか!?」

 

「あの人、他の生徒相手でも同じ対応しててさ。困らせているのよねぇ……うん」

 

 

 南雲先生は私や雪平先生の名前すら覚えられない、困った欠点を持つ人間である。

 

 致命的に人の顔と名前を覚えられないので、席順で評価して点数を付けているあの先生は、授業か部室以外で誰かと会うのは滅茶苦茶嫌がり、学校にいる日も誰にも合わないように姿を消すのだ。

 

 それなので、比較的捕まえやすく南雲先生とも仲が良いと知られている私に、質問したい子達が集中する。

 唯一の救いは美術という科目において、質問するような生徒が少ないことと、授業中に聴けばいいかと諦めてくれる子が多いことか。

 

 それでも諦めきれない子だけが私の元に訪れるので、私に南雲先生の行方を聞いてくる子相手の対応には慣れてしまった。

 

 

「もしも何かあるのなら、私が伝えておくから。要件を教えて貰っても良い?」

 

「ありがとうございますっ。えっと、この前の水彩画の授業のことで──」

 

「ふぅん……あぁ、それなら私でもいけるかも。良かったら私が話を聞こうか?」

 

「いいんですか!? お願いします、絵名先輩!」

 

「咲希ちゃん、良かったわね」

 

 

 咲希ちゃんの要件も私が対応できる範囲だったので話している間に、お昼休みは終了。

 雫が咲希ちゃんと一緒に来た理由はわからなかったけど、咲希ちゃんの様子がおかしかったのが気になった。

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 

 

 まふゆが弓道部だと聞いたので、今日も私は屋上で絵を描いている。

 最近のブームは空の絵。この時間は夕焼けが綺麗で、青色の空とは違う顔が描けるので好きだった。

 

 黄色と赤色、白の絵の具をグイッと絞って紙を黄昏色に染めていく中、何度も聞いた扉が開く音が鼓膜に届く。

 ちらりと目だけを扉の方に向けると、猫っぽい翡翠の目がこちらを見ていた。

 

 銀髪といい、間違いない。雫の妹さんにして咲希ちゃん達の幼馴染の1人、日野森志歩さんだ。

 

 相手の名前を思い出していると、日野森さんが無言で会釈してくるので、こちらも会釈を返す。

 黙ってベースを取り出したのを見るに、屋上には1人で練習しに来たのだろうか。

 

 

(屋上そのものに用事があったのね。話しかけるのも悪いかな)

 

 

 そもそも、私はギターとベースの違いすらわからない素人である。

 

 咲希ちゃんとかの話で『日野森さんがベース担当』と聞いているから、手に持っているものもベースだと断定している程度の知ったかぶりだ。

 日野森さんが持ち歩いてなければ、ベースとギターの違いなんてわからない。

 

 そんな人間が何を話せばいいのやら。そう思うからこそ、ベースの音をBGMに絵を描こうと思っていた、のだが……

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 一向に音が鳴らない。何なら、日野森さんの口が溜め息という音を漏らしている。

 一歌ちゃんも咲希ちゃんも、ほんの少しだけ暗い顔をしていたし、やっぱり何かあったのだろう。

 

 何時まで経っても音が奏でられないベースと、一定のペースで吐き出される溜め息。

 放っておくには気になり過ぎて、私は脇に置いていた鞄を掴み、屋上を後にする。

 

 あの調子だと私が自販機から戻っても、同じような状態で日野森さんは黄昏ているはずだ。

 そんな予想通りに、私が温かいお茶を2本持ってきても、日野森さんは変わらず思い悩んでいるようだった。

 

 

「日野森さん」

 

「……あ、すみません。邪魔でしたか?」

 

「ううん、そうじゃないの。気分転換したいな~って思ってたところでさ。日野森さんさえよければ、ちょっと話さない? 報酬はこのお茶ね」

 

 

 片方のお茶を渡すと、日野森さんはぽかんとした顔でお茶を眺めている。

 念押しで「どう?」と問いかけてやっと、日野森さんが再起動した。

 

 

「バイトまでの時間ならいいですけど。それで、話って何をするんですか?」

 

「うーん。別に私の話をしてもいいんだけどね、日野森さんは何か悩んでそうに見えてさ。その溜め息の理由とか、ほぼ関係のない先輩に話したら、楽になるかもよ?」

 

「……確かに、東雲先輩ならいいかもしれないですね。じゃあ、1つだけ。2つのうち、1つしか選べない場合──東雲先輩なら、どちらを選びますか?」

 

 

 その質問はあまりにも最近、悩んでいたことなので、ビックリしてしまった。

 真っすぐ向けられる明るい緑の目からは、酷く思い悩んでいるのがありありと伝わってくる。

 

 ……でも、その質問ならば既に私の答えは出ている。

 

 

「それ、どうしても1つを選ばなきゃいけないの?」

 

「え?」

 

「もしかしたらその2つを取れる道があるかもしれないし、それ以外の道も何らかの手段で切り開けるかもしれない。もしかしたらほんの少し時間を待つだけで、2つだった道が1つになる可能性もある。それなのに1つだけ選ぶのは、諦めちゃうのはもったいないなって、部外者だから思っちゃうな」

 

「……」

 

「って、日野森さんがどう悩んでいるのかわからないから、外野として好き勝手言っちゃってるけどね。でも、外野であるからこそ、私でも言えることもある」

 

「それは……何ですか?」

 

 

 私が何かを言わなくても、日野森さんには心配してくれる人がいるだろうし、いらぬお節介だろうけれど。

 

 

「少しでも可能性ができたのなら、その道を怖がらずに進むこと。日野森さん達が揃って演奏する姿、楽しみにしてるね」

 

「えっ、どうして……?」

 

 

 吊り目を丸くしているけれど、ここ最近の一歌ちゃんや咲希ちゃんの様子や、今日の日野森さんの姿を見れば、凡そは察してしまうだろう。

 

 

「……ところで、そろそろ下校時間だけど、時間は大丈夫?」

 

「えっ、あっ。すみません、バイトに遅れそうなので失礼します」

 

「うん、気をつけて帰ってね」

 

 

 ベースを片付けて、屋上を去っていく後ろ姿に手を振ってから、ふと、思う。

 

 

(本当に、ここ数日の忙しさというか、遭遇率は何だったんだろう?)

 

 

 次の日、まふゆとセット行動する日々が戻ってからは変な忙しさもなくなったし……本当に、よくわからない数日間だった。

 

 

 






犯人の手がかり:自分が忙しくて構ってもらう時間が無くなり、無意識に拗ねてた人がえななんを探してる人に屋上にいると吹聴していたらしい。


次回はWEEKND GARAGEにお邪魔します。

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