イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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シークレット・ディスタンス編、本格的に開始です。
つまり、あのバチャシンが登場するということですね。






78枚目 問題発生?

 

 

 

 

 ──これはとある日の夕方の話だ。

 

 

『今日はセカイに集合したい』

 

 

 と、奏からそんな連絡が来た。

 

 タイミングとかの理由から、度々セカイに集合することはあっても、奏の方からセカイに誘うなんて珍しい。

 

 何かあったんじゃないかと思って、私は慌てて曲を再生する。

 光が消えた先には奏──ではなく、部活終わりで一緒に帰宅していたまふゆが佇んでいた。

 

 どうやら私よりも少し早く帰ったまふゆは、奏の連絡にひと足先に反応したらしい。

 きょろきょろと周囲を見渡しているまふゆに、私は小さく手を振る。

 

 

「さっきぶり。まふゆも奏の連絡を見て来たの?」

 

「うん。まだ、見つけてないけど」

 

「見つけてないの? ……ミク達もいないし、別のところにいるのかな」

 

 

 まふゆの言葉に再度、周囲を見渡す。

 奏どころか瑞希もいないのだけど、この時間だと丁度、バイトが終わったぐらいか。

 

 

(瑞希がいないのは当然としても、奏も姿を見せないのは少し心配かな)

 

 

 つい最近もまふゆの反応が鈍いことに悩んでいたみたいだし、杞憂であればいいのだが。

 そう考えている間に、奏の連絡に『わかった、今から行くよ』と瑞希の書き込みが加わる。

 

 それをスマホで確認したのとほぼ同時に、セカイに瑞希が現れた。

 

 

「やっほっほー、まふゆと絵名もお揃いで。それで、肝心の奏はどこに?」

 

「さぁ、わからない」

 

「私もまふゆもさっき来たところなんだけど、奏が見つからないのよね」

 

 

 そうして3人で奏を探索していると、見覚えのある長髪が視界に入る。

 何故か1人で立ち尽くしているけれど、間違いない。あの姿は奏だ。

 

 

「いた! あれ奏でしょっ」

 

「あの姿は間違いないね。おーい、奏!」

 

「あ、みんな」

 

 

 瑞希の呼びかけにこちらに振り返った奏は萎れているように見える……というか、いつも以上に元気がない。

 肩を落として1歩も歩こうとしない奏に、瑞希がいち早く駆け寄った。

 

 

「奏、連絡があったから来たけど。急にセカイに集まろうなんて、どうしたの?」

 

「…………その、ごめん」

 

 

 いつもは静謐な湖のような雰囲気なのに、今の奏は真剣そのもので、心の底から申し訳なさそうに謝っていた。

 

 これは絶対にタダ事ではない。

 

 そう感じたのは私だけではないようで、隣に目をやれば瑞希のピンクの目とバッチリと目が合う。

 瑞希が任せて欲しいと言わんばかりに頷いたので、私も小さく頷き返した。

 

 

「大丈夫だよ、何があったとしてもボクは奏の味方だから。それで、一体どうしたの?」

 

「じ、実は──次の曲のデモが、できてないの」

 

「……はい? ちょっと、詳しく聞いても良い?」

 

 

 まるで世界の終わりが近づいているかのような声で出てきた言葉は、瑞希が聞き返してしまうぐらい予想外のモノだった。

 

 

 

 

 ……大袈裟なぐらい落ち込んでいる奏の話をまとめると──どうやら我らがリーダーはスランプに陥っているらしい。

 そのせいで、奏は今も「ごめん」としか言えない状態になってしまっているようだ。

 

 

「……作り続けるって、言ったのに」

 

「うっ……」

 

 

 さらに追い打ちをかけるようにまふゆが呟くものだから、奏は胸を抑えて呻く。

 スランプで奏がチクチク刺されるところは見ていられず、私はまふゆの恨めしそうな視線を制した。

 

 

「まふゆ、追い打ちはやめなさいよね。誰だって好きでスランプになるわけじゃないんだから」

 

 

 私だってスランプに苦しんできた身だし、アイデアが浮かばない時だって多々ある。

 そういう経験があるだけに、まふゆの追い打ちは見逃せない。

 

 

「それに、スランプって辛いのよ。描こうにも全く思いつかないし、無理矢理形にしてみても納得できるものにならないし。そうやって1年も苦しんだらさ、奏のことなんて責められないわよ」

 

「い、1年……!?」

 

「おーい、絵名。1年間スランプだった話をこの状況で言っちゃったら、追撃になってるからねー?」

 

「え?」

 

 

 奏が震えて、瑞希が待ったをかける理由がわからずに、首を傾げる。

 

 だが、考えてみればすぐに原因がわかった。

 要するに私は──奏に『このまま1年、曲を作れなくなるかもね』と言ったのと同じような発言をしてしまったのだ。

 

 

「そ、そんなつもりじゃなかったのっ! ごめんね、奏ーっ!」

 

「わぁっ!? 急に大声を出さないでよ、奏もびっくりしてるって!」

 

 

 瑞希が何かを言っているけれど、私はそれどころではない。

 まふゆの行為を見逃せないと言いながら追撃するなんて、サッカーでオウンゴールするようなものなのだ。明らかな戦犯である。

 

 あまりのショックに膝から崩れ落ちている私を他所に、騒ぎを聞きつけたリンとミクがこちらにやって来た。

 

 

「一緒に来て騒がれると煩いんだけど……どうして皆はここに集まってるの?」

 

「リン、この前は皆が来ると楽しいって……」

 

「んんっ……それで、どうしてここに集まってるの?」

 

 

 私を一瞥してから、見て見ぬフリをしたリンは首を傾げる。

 ミクのツッコミすらスルーしたリンが再度問いかけて漸く、奏が反応した。

 

 

「1人で考えてもアイデアがまとまらないから、相談した方が良いかなって思って」

 

「と、言ってもね。追い打ちしちゃった罪悪感はあるけれど、私も瑞希も門外漢だし」

 

 

 いつまでも落ち込んでられないので、立ち上がりながら考える。

 私も瑞希も戦力外。単純に考えるなら、まふゆを頼ることになるのだけど……

 

 ちらりと視線を向けると、まふゆはゆっくりと首を横に振る。

 

 

「私には、誰かを救えるような曲は作れないよ」

 

 

 だから聞かれてもわからないと、まふゆの目は口ほどに物を言っていた。

 

 まふゆもダメ、私や瑞希もダメとなると、後は──状況を変えるしかない。

 

 同じようなことを続けていたって苦しむ時間が長引くだけなのは身をもって体験している。

 私がスランプから抜け出した要因が変化なのだから、その時と似たようなことを奏にもできればスランプだって脱却できるはずだ。

 

 ……ここまでは私も考えられるけれど、ここから先が思い浮かばない。

 

 

「こういう時って環境や情況を変えるか、新しいことに挑戦するのがいいのかなぁって思うんだけど。具体的な案がねー」

 

 

 それとなく説明口調で話してみると、反応したのは瑞希とミク。

 ただ、瑞希がこちらの話への反応だったのに対して、ミクの反応はまた別のものだったようだ。

 

 

「これは……」

 

「来るね」

 

 

 ミクとリンが誰もいない方向へと視線を向けている。

 何が来るというのか。不思議に思っていると、全員が集まっているはずなのに、誰かが近寄ってくるような足音が聞こえてきた。

 

 

「──あら。みんな揃ってるなんて、出迎えに来てくれたの?」

 

 

 ミクやリンに近いけれど、全く違う声がセカイに響く。

 

 それと共に現れたのは、黒を基調にしたドレスを着た女性だった。髪の毛は私と同じく短めの茶髪……と言いたいところだが、私よりも明るい茶。

 最近、リンと出会ったこともあって、彼女がバーチャルシンガーのMEIKOだと思い至った。

 

 

「メイコ」

 

 

 その答え合わせの機会はすぐにやって来て、ミクが女性を見ながら名前を呼ぶ。

 

 

「うわっ、ビックリしたぁ。まさかリンに続いてメイコも来ちゃうなんて!」

 

「ミクやリンが反応してくれなかったら現れる兆候すらわからないし、こんなの驚いて当然でしょ」

 

 

 『誰もいないセカイ』というのに人が増えていくのは不思議な話だけど、この調子だと他のバーチャルシンガーもひょっこり現れそうだ。

 

 それだけまふゆの心に変化が出ているということだろうか。

 このセカイがどう変わっていくのか楽しみな反面、今でも私の悪いところを見習っていたり、首輪やら付けようかと突拍子もないことを考えているので、怖さもあった。

 

 

「まぁ。何にしても、これから仲良くしたい……」

 

「最初に言っておくけど、私のことは気にしないでいいわ」

 

 

 瑞希が言い切るよりも先に、メイコは自分のスタンスを主張した。

 

 

「あなた達に力を貸すのはミクとリンで十分でしょう。私は違う点から見守ることにするから、私のことはいないものだと思って、続けてちょうだい」

 

 

 人と同じように、バーチャルシンガーも十人十色なのかもしれないけれど……これはまた難しそうな相手だ。

 

 ションボリと眉を下げる瑞希の肩を、私は励ましの意味も込めて軽く叩いた。

 

 

「このセカイに現れたメイコは、ちょっと対応が冷たいみたいね。で、相手のご要望通りにするの?」

 

「確かにそっけない感じはするけど……まぁ、それはそれとして、必要なこともあるよね」

 

 

 そっけなく対応されたのに、瑞希は諦めることなくメイコに近づく。

 

 

「ボクは暁山瑞希! そして、ボクの隣から絵名と奏とまふゆだよ! よろしくね、メイコ!」

 

「……私はいないものだと思っていい、と言ったはずだけど?」

 

「それはそれ、これはこれで名前ぐらいは教えてもいいでしょー? ねっ?」

 

「……そうね」

 

 

 瑞希の勢いに負けて、メイコは折れた。

 

 自己紹介ぐらいならいいだろうと思ったのかもしれない。

 それすら『必要ない』と突っぱねてこない辺り、想像してたよりも悪い人じゃないのだろう。

 

 

「それで、結局どうするの?」

 

 

 瑞希とメイコのやり取りが終わったのを見計らって、まふゆが口を開いた。

 

 メイコが乱入して来たことによって、話の流れが途切れたけれど、前の話では……

 

 

「環境や情況を変えるか、新しいことをするかって言ってたんだけど。瑞希は何か、思いついたんだよね?」

 

 

 メイコが来る前の反応を思い出しながら、私は瑞希の方へと視線を向ける。

 瑞希は任せろと言わんばかりに大きく頷いてから、両手を握りしめた。

 

 

「そうそう! それで提案なんだけどさ……皆で日帰りミステリーツアー、してみない!?」

 

「ミステリーツアー? それって何?」

 

 

 リンが首を傾げて問いかけると、瑞希は人差し指を口元に当てて、返答する。

 

 

「まぁ、どこに行くかわからない旅行って感じかなぁ。ボクがコースを考えるから、皆はついてくるだけでオッケー! どこに行くかは、着いてからのお楽しみってことで。どうかな?」

 

「ふぅん。今まで行ったことのないような場所で、奏のアイデアを引き出そうって作戦ね。瑞希もよく考えたわね、私は別にいいよ」

 

「でしょでしょ! 奏とまふゆはどうかな?」

 

 

 こういうものは1人が是と答えたら、事態が動き出すものだ。

 私が真っ先に瑞希の提案に乗れば、まふゆもこくりと頷く。

 

 

「奏の曲作りが進むなら、何でもいい」

 

「うっ……」

 

 

 まふゆの余計な言葉のナイフが奏にダメージを与えたものの、奏もこのままなのは良くないと思っているのか、震えた声で言葉を紡いだ。

 

 

「そうだね。曲を作るためにできることは全部しなくちゃ……行こう、瑞希」

 

「やった〜!」

 

 

 覚悟を決めたような顔をする奏に対して、瑞希はとても嬉しそうに笑う。

 

 

「それじゃ、ミステリーツアー決定〜! コースが決まったら連絡するから、お楽しみに!」

 

「……」

 

 

 自信満々な瑞希とは対照的に、黙ってこちらを窺っているメイコが目に入る。

 じっとこちらを見てから、瑞希を見る姿は何かを見定めているようで、本当にミク達とは別のアプローチをしようとしているらしい。

 

 

(外側から見た方が気付ける事もあるっていうし、メイコは私達に足りないのはそういう視点だって思ったのかな)

 

 

 何であれ、皆に悪影響がなければどんなアプローチでも私は構わない。

 瑞希の提案もメイコのことも、一先ずは様子を見よう。

 

 

 






既に待ってもらってる瑞希さんはそこまでダメージを受けることはないでしょうけど。
そういえば1人、継続ダメージを受けてる子がいますね……
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