イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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この調子だと余裕で100話超えますね、恐ろしい話ですけど。
一応、今回と次でディスタンスは終了予定です。




81枚目 その後に

 

 

 

 真っ暗なトンネルを抜けた後、瑞希に連れてこられたのは森に囲まれた古い神社だった。

 

 よく言えば歴史があるのだろうけど、私個人の感想としては、手入れもされていないので劣化してしまっているように見える。

 

 外は明るいし、瑞希が真顔で今来ている心霊スポット『呪いの縁切り神社』の解説をしていてもへぇ~、と薄い反応を返してしまった。

 

 瑞希によると、仲の良い姉妹がかくれんぼをしている最中に火事で亡くなり、一緒に死ねなかった姉妹は強く思い合う人を呪いで離ればなれにするらしい。

 そんな傍迷惑な2人の魂を鎮めるためにできたのがこの古びた神社なんだとか。

 

 瑞希の話しが終わるのを待ってから、私は率直な感想を言う。

 

 

「死んだ後も他人を呪うなんて、随分とまぁ仲のいい姉妹なのねぇ。そこまで仲が良いのは珍しいんじゃない?」

 

「そうかなー、ボクはお姉ちゃんと仲が良いけどな~」

 

「バラバラに死んだ後、呪っちゃうぐらい?」

 

「あー、ごめん。流石にそれはないかも」

 

「でしょうね」

 

 

 瑞希のお姉さんは年齢が離れていて、現在は海外で暮らしているという。

 

 そういうこともあって、帰って来た時の瑞希のテンションはかなり高かった記憶があるのだけど。

 そういうのを含めて瑞希のところが仲が良かったとしても、呪うぐらいだなんて考えられない。

 

 私の家だって記憶を無くす前の絵名()でも、そんな風になるとは思えなかった。

 頭の中で色々とシミュレーションしていると、瑞希が両腕を組みながら口を開く。

 

 

「でも、死んでも会いたいって思うぐらい仲が良いのはすごいよね~。皆はそういう人、いるの?」

 

(死んでも会いたい人、か)

 

 

 死んでも離れたくないとか、離れるぐらいなら呪ってやる! と思うぐらい一緒にいたい人がいれば、そう思うのだろうか。

 そう仮定をするのであれば、瑞希が聞いている意味で会いたい人は私にはいない。

 

 でも、もしも。

 もしも、私が消えることで会える人が……過去の絵名が戻ってくると言うのであれば、私はソレを選べるのだろうか?

 

 昔は即答できていたことも、今ではとても難しい。

 

 

(大切なものが増えちゃったからな……私も)

 

 

 この変化が良いものなのか悪いものなのか、それを判断するのは未来の自分だろうと問題を棚上げにし、私は瑞希の質問に答えた。

 

 

「私は仲が良い人がいても、呪いたいとまでは思わないわね」

 

「わたしも尊敬する人はいるけど、誰かを呪おうとは思わないかな」

 

「……」

 

 

 私の後に奏も追随して答えてくれるのだけど、まふゆだけは黙って虚空を眺めていた。

 

 いつものわからない状態なのか。

 もしくは、自分が聞かれているとは思っておらず、反応していないだけなのかもしれない。

 

 そんな可能性があるのに、何故かそれらとは違うように感じて、私はまふゆに問いかけてしまった。

 

 

「まふゆはどう思うの?」

 

「……どうだろう。わからない」

 

 

 いつもより歯切れが悪く感じたものの、返ってきた答えはまふゆらしいものだ。

 やはり気のせいだったのだろう。もしくは私が気にし過ぎなのかもしれない。

 

 

「ちなみにボクも別にいないよ。皆いないから仲間だね!」

 

「それは胸を張って言うことなの?」

 

 

 胸を張る瑞希に首を傾げていると、奏が苦笑いを浮かべる。

 

 

「いないならわたし達は呪われないし、良いんじゃないかな」

 

「そうそう。大事な人がいなくて良かったね〜♪」

 

 

 瑞希の嬉しそうなリアクションも、やっぱりちょっと違う気がする。

 

 そんな話をしている間に、まふゆが曲を作れるかどうか問いかけて、奏をまた落ち込ませていた。

 まだ曲を作るインスピレーションが湧いてこないらしいけど、瑞希曰く、次の心霊スポットが最後らしい。

 

 瑞希の話を聞き流しつつ、私は神社の姉妹の話を思い返して。

 

 

「──呪うぐらいなら……私が消えた後も、皆には幸せに過ごしてほしいけどな」

 

 

 皆には言えない感想を鼓膜を震わせないぐらい小さな呟きに乗せて、空気に混ぜるように溶かし込む。

 

 仮に、絵名の記憶が戻って『私』が消えてしまったり、戻らずに記憶ごと私が消えてしまっても。

 

 誰かの不幸なんて願わず、皆の幸せだけを祈っていたいと思うのはきっと、普通のことだろうから。

 だから私には『呪いたくなるぐらい仲の良い人』はいないのだ。

 

 

 

 ……自分が消えても良いぐらい、幸せを願ってる人達ならいるんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後の心霊スポットは古びた学校と、ありきたりの場所に到着。

 

 建っている古びた校舎は使われていない旧校舎か、廃校になった学校のどちらかだろうけど。

 全く取り壊されずに時間だけが経過し、心霊スポットとして残っているのが今の状態なのだろう。

 

 いかにも出そうな風貌の校舎を皆で眺めていると、瑞希はお決まりの心霊スポットの解説をし始めた。

 

 

「この学校、音楽室に生徒の霊が出るって噂があるんだ──」

 

 

 なんでも、ピアノの全国コンクールに出れるぐらいすごい女の子が皆の期待に耐えきれなくなって、亡くなったらしい。

 この学校が潰されないのもその女の子の霊が邪魔するせいで、計画そのものがなくなったんだという。

 

 

(それはまた……まふゆの1つの可能性みたいよね)

 

 

 期待がプレッシャーになって、最終的に消えてしまった。

 それはまふゆが選ぼうとしていた結末の話に近いのかもしれない。

 

 あいつはピアノの全国コンクールに出ていないけれど、皆や……何より親からの期待に答えようとして、原型がわからなくなるぐらい自分を着飾って。

 

 その結果が今のまふゆなのだから、彼女が聞いたら何と思うのか。

 

 その答えは本人の口から零れ落ちた。

 

 

「期待をかけられてソレを選んだのなら、良かったのかもね」

 

「まふゆ……」

 

「余計なものがなくなれば、その方が楽だもの」

 

 

 普通であれば旅行クラッシャーのような言葉に注意をしなければならないのに、その場で声を出したのは瑞希だけだった。

 

 ちらりとこちらに視線を向けたものの、まふゆはそれ以上何も言わず、背中を見せる。

 スタスタとその先に行くのは当然のように、学校の校舎の方へと進んでいった。

 

 

「あ、まふゆ! 取り壊し予定だった建物の方に行ったら危ないってば!」

 

「止まってくれないのならしょうがない。ボクらも追いかけよう」

 

 

 私が大きい声で呼んでもまふゆは振り返ることなく、校舎の方へと消えていく。

 瑞希の言う通り、止まらないのであれば私達が追いついて止めるしかない。

 

 慌てて3人でまふゆの背中を追いかけたのだが……校舎の付近にはもう、まふゆの影も形もなかった。

 

 

「……見える範囲にはまふゆ、いないね」

 

「まふゆったら勝手に行動して、まさか校舎の中に入ってないわよね……?」

 

「入り口は鍵がかかってたよ。窓から入ってるのなら気づくだろうし、校舎の中には入ってないと思うけど」

 

 

 奏が周囲を見渡して、私は校舎の中を窓から覗き込む。

 少し離れたところにあった入り口の扉が開かないか、瑞希が試してくれたものの……開かなかったので大きな進展はない。

 

 まふゆが忽然と消えて、私達だけが残された状態のままだ。

 

 

「まふゆー!」

 

 

 瑞希が大きな声を出して、まふゆに声をかける。

 

 一応、スマホの方に連絡を入れてみたものの、電話は出ないし既読はつかない。

 何の為の『携帯』電話なのか。携帯しているのに肝心な時にはコレだ。

 

 

「ちょっとボク、あっちの方を探してくるよ! 2人は門の方で待っててねー!」

 

「あ、ちょ、瑞希!?」

 

 

 まふゆに加えて、瑞希までまふゆを探しに行こうと走り出した。

 

 呼び止めてもダメなら物理的に止める。そう思って手を伸ばしても、相手は私よりも明らかに早いのだ。

 私の手は虚しく虚空を舞うだけで、瑞希を掴んで止めることも叶わなかった。

 

 

「あぁもう! こういう時ってバラバラに行動しちゃダメでしょ!? 自分が主催者(ホスト)だからって、もう!」

 

「絵名、落ち着いて。わたし達もできることをやろう。とりあえず、まふゆには連絡してたんだよね?」

 

 

 牛のような鳴き声で文句しか言えなくなってしまった私を、奏が宥めるような声をかけてくれる。

 カーッと頭に昇った血がゆっくりと流れていくように、冷静さが私の元に帰ってきてくれた。

 

 

「……うん、連絡したけど返信はなかったわ。取り乱してごめんね、奏。ありがとう」

 

「大したことはしてないから、大丈夫だよ。瑞希の言う通りにしたら任せきりになるし……わたし達は瑞希とは反対周りでまふゆを探そう」

 

「それがいいかもね。まふゆが校舎に入ってなければ、いずれ見つかるでしょ」

 

 

 念の為、窓が空いてたりしないか1つ1つ確認しながら、私と奏は校舎の周りをぐるりと回った。

 

 歩いて回っていた割には、走っていたはずの瑞希と会うことはなく、私達は瑞希と別れた門の近くまで来てしまう。

 

 

「瑞希もいなければまふゆもいないって、本格的に怖くなってきたんだけど……」

 

「……待って。あれ、まふゆじゃない?」

 

 

 奏が指差した方には少し大きな枯れ木と、まふゆがいた。

 どうやらまふゆはこちらに気がついていないようで、ふらりふらりと何かに導かれるように校舎付近から外の方へと歩いていく。

 

 

「まふゆーっ!」

 

「やっぱり、何かが邪魔して聞こえてないのかな」

 

「ちょ、奏まで怖いこと言わないでよ。瑞希もいないし、本当に少女の霊とかいたら……」

 

 

 あり得ないことはあり得ないのは、私自身もよく知っている。

 嫌な寒気に体が震えるものの、こういう時こそ怖気ついてはいけないと、自分自身に喝を入れた。

 

 

「よし、奏。追いかけよう」

 

「ごめん、もう1回待って。今度は瑞希が出てきたから」

 

「え? あ、本当にいた! 瑞希ーっ!」

 

 

 廃校舎の物陰からふらりと現れた瑞希に、今度こそ気がつくようにと身振り手振りでアピールした。

 これで気が付かないのなら、本格的に呪われているのだろうけど。

 

 幸いなことに、瑞希は大きく目を見開いていたものの、私達に気が付いてくれた。

 

 

「わっ! 絵名と奏じゃん、どうしたの?」

 

「まふゆがあっちにフラフラって歩いて行ったの。瑞希もちょうど見つかったし、一緒に追いかけましょ。ほんと、世話が焼けるんだから……!」

 

「そっか、まふゆを探してくれてありがとう。よし、また見失っちゃう前に、早く追いかけよっか」

 

 

 まふゆが歩いた足跡を追いかけて、私達はズンズンと校舎から離れていく。

 

 先頭を歩く瑞希が何かを見つけたらしく、言葉の途中で立ち止まった。

 

 

「校舎から離れちゃってるけど、まふゆはどこに行っちゃったんだろ……って。何あれ」

 

 

 瑞希が立ち止まった先には視界いっぱいに広がる桜の木が1本、生えていた。

 桜の木そのものは見たことがあるけれど、今、目の前にあるのは写真や絵ぐらいでしかお目にかかれないぐらい、巨大なもので。

 

 

「すご……ビックリするぐらい大きな桜じゃん」

 

「ほんとだ。こんなに大きな桜、みたことないかも」

 

 

 私が呆然と呟くと、奏も桜に目を奪われた状態で頷く。

 大きな桜の木の下には見慣れた紫髪もいて、同じように桜に見惚れているようだった。

 

 

「まふゆ!」

 

「絵名? ……瑞希に奏も。いたんだ」

 

「いたんだって、こっちは散々探したんだけど!? フラフラ〜ってどこかに行くとしても、スマホは見なさいよ!」

 

「ごめん」

 

「……まぁ、わかればいいんだけどさ」

 

 

 まふゆはこちらに振り向いて頭を下げてから、再び桜の方へと顔を向ける。

 

 そんなに桜が大事か。そうツッコミそうになったものの。

 

 

(──確かに、絵を描きたくて右手がソワソワしちゃうぐらい、綺麗なのよね)

 

 

 絵描きとしての血が騒ぐというか、創作意欲が刺激されるというか。

 

 スマホを見るのを忘れてしまうぐらい、見惚れてもしょうがないと思わせる散り様。

 ピンクの花吹雪を浴びながら、私も桜の巨木を見上げるのであった。

 

 

 






ちなみにまふゆさんはこの頃、桜に見惚れて連絡を忘れてたのではなくて、女の子の霊と関わっていました。
瑞希さんは途中でセカイに行ってたので、合流が遅れてます。
残念なことにこのお話は瑞希さん視点じゃないので、メイコさん達のシーンは泣く泣くカットです……(詳しくはサイドストーリーと原作のストーリーで!)




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