イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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 ──次に進めと言われても、まだ終わりたくないって足掻いて無様に抵抗してるから。

 きっとあの桜みたいに、綺麗な最後は待っていないんだろうなって──そう思うんだ。






82枚目 約束という名の

 

 

 

 

 大きな桜の木の下で、迷子になっていたまふゆが見つかった。

 じっと桜を見上げているまふゆに対して、奏は優しく問いかける。

 

 

「まふゆは桜を見てたの?」

 

「うん、何となく。目が離せなくて」

 

「そっか」

 

 

 2人の話によると、どうやらまふゆは桜に見惚れていたらしく、それで連絡を忘れていたらしい。

 

 どうやって桜を見つけたのかも不思議だけど、思わず何十分も見てしまうぐらい綺麗な桜だというのは、私も同意見だ。

 

 まふゆと奏が仲良く並んで桜を眺めているので、私は瑞希の方へと移動する。

 瑞希は降り注ぐ桜の花弁を目で追い、ポツリと呟く。

 

 

「桜かぁ……」

 

 

 桜を眺めている瑞希は何かを思い出しているのか、隣に立った私に気が付かずにじっと桜を見つめている。

 熱心に桜を見つめている瑞希に見習って、私も大きな桜の木を眺めた。

 

 

(桜、ね)

 

 

 絵名()は桜の木に対して、思い入れがあったりするのだろうか?

 

 

「花の最後なのに、どうしてこんなに綺麗なんだろうね」

 

「本当に……こんな風に終われるなんて、ずるい」

 

 

 

 奏とまふゆが桜のことで話しているのを聞き流し、私は泡のように浮かんできた考えに想いを馳せる。

 

 春だけ美しいピンクの花を咲かせて、散っていく姿を見せる儚い木。

 桜は終わり方も時期も決まっているからこそ、派手で美しく見えるのだろう。

 

 ならば、終わりたくないと、続けたいと足掻こうとしている私の最後は──

 

 

「──絵名、大丈夫?」

 

「え?」

 

「もう、ボクが声をかけなきゃいけないぐらい、見惚れてたの~?」

 

「……そうね。あの桜、ズルいぐらい綺麗だもの」

 

 

 瑞希に声をかけられて、私は自分が今考えても仕方がないことを考えてしまっていた意識を引き上げた。

 そうやって改めて見ても、羨ましいぐらい綺麗な桜である。

 

 

「私じゃ、あぁいう散り方はできないだろうから」

 

「……そっか」

 

「あー、まぁ……いくら綺麗でも、桜みたいに散りたくないからさ。そういう意味よ?」

 

「うん、そうだね」

 

 

 瑞希は何か言いたげに口を開いたものの、深くは問いかけてこなかった。

 

 その代わりと言わんばかりに、瑞希は楽しそうに『もしもボク達が同じ学校の同じクラスなら』という雑談のタネを提供してきて。

 折角の綺麗な桜の下の前なのに、夜と同じく4人で雑談に興じたのであった。

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 満足するまで話した私達は廃校舎に戻ってきたけれど、主題を忘れていた。

 

 

「ねぇ……言い難いんだけどさ。奏はアイデアの方は大丈夫なの?」

 

「あぁっ、そうだった!?」

 

 

 瑞希もすっかり頭から抜け落ちていたようで、真っ青な顔で奏の方を見た。

 

 

「……うん、大丈夫だよ。神社の姉妹や廃校舎の女の子の話で、救われていない子達がまだ沢山いるって気付けたから」

 

 

 どうやら奏はそういう子達も救えるような曲はないかと考えているうちに、頭の中が整理されて、アイデアが浮かぶようになったらしい。

 

 相手を救える曲はなんだろうか、どうやったら曲を届けられるだろうかと考えれば、アイデアが浮かぶなんて奏らしいと思えばいいのか。

 

 何はともあれ、当初の目的が叶っているのであれば問題はない。

 気がつけば空はオレンジ色に染まっていて、スマホを確認すれば16時を過ぎている。

 

 

「あれ、最寄りの駅までのバスっていつ来るんだっけ?」

 

「5時だったと思う」

 

 

 私がポツリと呟いた言葉に、まふゆが即答した。

 記憶が間違いでなければ、ここからバス停までまぁまぁ歩いたはず。

 

 私達の視線を受けた瑞希は、スマホをじっと見つめてから大きく頷いた。

 

 

「そうだね。いい時間だし、そろそろ移動しよっか!」

 

 

 どうやら瑞希も帰らないとまずいと判断したらしく、率先してバス停の方へと歩く。

 私が瑞希の横に並んで歩くと、まふゆと奏も2人揃って後ろを付いてきた。

 

 

「まふゆ、今日はどうだった?」

 

「どう? ……いつもなら行かないような場所に行ったから、面白かった……ような、気がする」

 

「そっか、まふゆも楽しんでくれてたのなら、良かった」

 

 

 奏とまふゆの会話を背後で聞きつつ、私も瑞希に会話を振った。

 

 

「主催、お疲れ。今日は結構楽しめたよ」

 

「そう言ってもらえると嬉しいよ。でも、てっきり怖いのが苦手なんだー程度の認識で絵名を連れてきちゃってごめんね」

 

「別にいいってば。暗いだけならあぁはならないし……不幸な事故みたいなものよ」

 

 

 食い下がってくる瑞希に私の正直な感想を伝えると、瑞希は眉をハの字にしながらも引き下がってくれた。

 

 

「でも、主催者としてああいうことがないようにしたいし……そうだ。ねぇ、皆!」

 

 

 瑞希はくるりと体を半回転させて、奏やまふゆも視界に収めながら口を開く。

 

 

「またリベンジしたいし、全体的にはボクも楽しかったから、こんな風にまた来年も──また、来年も……」

 

「瑞希?」

 

 

 突然、言葉に詰まる瑞希に奏は心配そうに声をかける。

 胸の前に手を持ってきて、少し下に視線を向けている姿は最近も見た姿だ。

 

 言葉の流れ的に、言いたいことは予想できている。

 私も丁度、同じようなことを言いたかったので、次の言葉が簡単に出てきた。

 

 

「──来年も、こうやって遊びに行きましょ。あ、でも! 今回はなんやかんや大変だったし、今度は怖くないところでお願いね!」

 

 

 ピッと小指を立てて、約束のジェスチャーを瑞希に見せる。

 瑞希が反応するかと思いきや、何故か真っ先に声を出したのはまふゆだった。

 

 

「大学に行くなら……私達は来年、受験生だけど」

 

「まふゆ、余計なことを言わないの。あんたなら1日ぐらいどうにでもなるでしょ」

 

「さぁ。絵名は大丈夫なの?」

 

「ほう。その言葉、わからないでは済まない煽りなんだけど、自覚ある? 喧嘩売ってるのなら高値で買うけどー? んー?」

 

「はーいはい、どうどう。絵名、落ち着いてー」

 

 

 どう頑張って好意的に解釈をしても、喧嘩を売っているとしか思えない言葉。

 私の手が怒りのあまり戦慄いていると、瑞希が間に立って宥める。

 

 

「ほら、バスがもう来ちゃうからさ。いっそげ~♪」

 

 

 奏とまふゆを前に押し出し、瑞希は私の背中を軽く押す。

 歩いているだけで距離を作ってしまうぐらい早いまふゆとそれを追いかける奏を視界に入れてから、私は数歩前に出て瑞希の方へと振り向いた。

 

 

「瑞希、また来年も遊ぶってこと。約束だからね」

 

「……あはは、もしかして気を遣ってくれたの? 別にボクは」

 

「は? 別に瑞希のためじゃないし、私が遊びたいって思っただけよ。勘違いしないでよね」

 

「……そっか。じゃあ、また来年もだね」

 

「最初からそう言ってればいいのに」

 

「もう、絵名ってば強引なんだから~」

 

 

 ヘラリと笑った顔には、さっきのような影はない。

 良かったと前を見ると、いつの間にかまふゆを追いかける奏の背中まで豆粒近く小さくなっていた。

 

 

「瑞希、急ぐわよ」

 

「だねぇ」

 

 

 ここで置き去りにされるのはごめんだ。

 別にそこまで足が速いわけでもないので瑞希に簡単に抜かされて、私はバス停付近まで3人の背中を追いかける羽目になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

 

 

 

 バスから電車に乗り換えて、長い間揺られている間に眠ってしまったようだ。

 薄っすらと目を開くと頬杖をついて眠るまふゆと、起きているらしい瑞希の姿が見える。

 

 目だけで隣を見れば奏も眠っていて、私の体は奏に寄りかかっているみたいだった。

 

 

(うわ、奏に申し訳ないことしちゃった)

 

 

 慌てて奏から離れようとしたのと同時に、瑞希の大きな溜め息が聞こえてきた。

 動かず、寝たフリをすると決めた私は瞼を少し開けて様子を窺うことしかできないものの、思いつめているような顔をしているのはわかる。

 

 

「来年、か」

 

 

 まさか私が起きているとは思っていないのか、電車が走る音と共に瑞希の呟く声が耳に届く。

 

 来年、というのはさっきのことだろうか。目を閉じて耳に集中しても、呟きの続きは全くなくて、電車が走る音しか聞こえてこない。

 

 

(うーん、来年……なんだろう?)

 

 

 情報が少なくて、瑞希が何を思い詰めているのか把握できない。

 神高の文化祭の時の話の地続きだと私は予想しているけど、はたして、本当にそれが正しいのだろうか。

 

 もう少し何か情報が貰えないかと聞き耳を立てていると、瑞希は再び呟いた。

 

 

「ボクが1番、何も伝えられてないじゃないか……」

 

 

 苦しそうに吐き出された言葉を聞いてしまったら、寝たふりをし続けるのは難しかった。

 瑞希は俯いているせいか、こちらの様子に全く気が付かず、目を開いて見つめても暗い調子のままだ。

 

 いつまで経っても気が付いてくれない瑞希に、私は思っていることを口に出した。

 

 

「瑞希が1番伝えてないって、そんなわけないでしょ」

 

「え、絵名? 聞いてたの?」

 

 

 私に聞かれているとは思っていなかったのか、瑞希の目がわかりやすいぐらい泳ぐ。

 それでも、瑞希には言いたいことがあった。

 

 

「瑞希は気にし過ぎなのよ。それに、この中で1番伝えてないのは間違いなく瑞希じゃないから、そう思い詰めなくてもいいんじゃない?」

 

 

 瑞希が口を開く前に、電車がタイミング良く止まった。

 

 瑞希も先程のように悩むことはないだろうし、奏とまふゆに聞かれてしまう可能性がある以上、これ以上の言葉は不要だろう。

 

 

「ま、そういうわけだから。じゃあ、駅に着く前に起こしてね。おやすみ」

 

「待ってよ絵名、さっきの言葉はどういう意味なのさ!?」

 

 

 小声なのにうるさいという器用な叫び声で私を呼ぶ瑞希を無視して、私は寝たふりを決行する。

 

 瑞希は自分のことよりも私の言葉の続きが気になるようで、まふゆや奏を起こさないように気を遣いつつ、必死に私を呼びかけている。

 

 

(……この様子ならもう、瑞希も変なことは考えないでしょ)

 

 

 瑞希が伝えていないというのであれば、私の方が伝えていないし、ズルい人間だ。

 

 それに、さっきの来年も遊ぶ約束だって、半分は瑞希の言葉に乗ったけど、半分は私のためだった。

 

 

(ほら、約束って守らなきゃダメだからさ)

 

 

 握るとわかる、いつの間にか(・・・・・・)鞄に入っていた四角くて薄い物。

 

 かつては机の中に保管していたソレは、最近では手の届く距離にあるようになってしまった物。

 

 

(……約束があれば、私も少しだけ。もう少しぐらいは、このままで……思い留まれるかもしれないじゃん)

 

 

 

 

 次の絵を描けと言わんばかりに主張してくる存在を、ずっと無視し続けることはできるとは思えないから──どうか、来年ぐらいまで鎖になってほしい。

 

 

 

 ──ほら、皆が引き止めてくれるのなら、もう少し此処に居座れる気がするじゃん。

 自分勝手な話だけど、許してほしいな。

 

 

 

 






既に待ち人がいる瑞希さんは原作と比べて精神的ダメージが軽減してます、が。

スケッチブック君が借金の取り立てのように精神的ダメージを与えてくるので、参っちゃったえななんの精神状態が浮上してきます。

今回で『シークレット・ディスタンス』編は終了ですので、次回から別の話を挟みます。


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