イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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本格的に『お悩み聞かせて! わくわくピクニック』編始めます。




86枚目 ショッピング・ピンク

 

 

 

 部活もなくて、学校にも残らずに真っ直ぐ家に帰った私は、ナイトコードを繋げてAmiaと一緒に絵の調整をしていた。

 昨日の作業の時にKに言われたところは調整済み。

 

 

「Amia、昨日言われたところは調整で来たんだけど、どう?」

 

 

 それなのでAmiaに声をかけたのだけど、何故か本人から返事がない。

 ガサゴソと物音だけは聞こえてくるので、その場に誰かがいることだけはわかるのに、何故か返事がなかった。

 

 

「Amiaー? 聞こえてるー?」

 

『……あぁっ、ごめん! ちょっとポテチ零しちゃって、机の下を掃除してたんだよ。すぐに見るから待ってて!』

 

「何してるのよ、もう。それ、掃除機で吸い込んだ方が早いでしょ」

 

『だねー。ボクの指でも限界だったよ』

 

「あんたは自分の指の可能性を信じ過ぎじゃない?」

 

 

 大きいものならともかく、細々としたものを拾い集めるのは無理がある。

 

 Amiaも今すぐ掃除するのは諦めたようで、その後、掃除機の音が聞こえてくることはなかった。

 ミュートもしていないので、たぶん諦めたのだと思いたい……が、どうだろうか。

 

 

『うん、いい感じじゃん! これなら良いって言われそうだし、後でKに見せようよ』

 

 

 どうやら要らぬ心配だったようだ。

 僅かながら粘着テープ辺りで掃除を続行している可能性もあったので、私はホッと息を吐く。

 

 

(今日は雪が部活で遅くなるって聞いたから、Kに確認してもらうのが先かな)

 

 

 この後の流れをつらつらと考えていると、Amiaのアイコンが気まずさを表すように点滅した。

 

 

『ねぇ、えななん』

 

「んー、なぁに?」

 

『最近の化粧のノリはどう?』

 

「えぇ、急に何よ? 最近はねぇ……うん、あまり良くないかもしれない」

 

 

 少々、不快になるものが目に入るストレスが肌にダメージを与えているのかもしれない。

 世間話程度だろう、と油断していた私は特に疑うことなく、瑞希の雑談に乗る。

 

 

『そんなえななんに朗報なんだけどさ。最近、いい感じのコスメを売ってるお店を見つけたんだよね』

 

「そういうの、高いんじゃないの?」

 

『それがそうでもなくてさー。えななんに勧めたいのもあるんだよね、ねっ!』

 

「……つまり、一緒に行きたいってこと? 何時行きたいのよ」

 

『行けるなら今週末! どうかな?』

 

 

 今週末といえば……特に予定もなさそうだ。

 

 断る理由もないし、瑞希のセンスは信頼しているし。

 そして何より、私に勧めたいっていうのも気になる。

 

 

「いいわよ。じゃあ、週末ね」

 

『やったね! あ、そうそう。遅刻しないでよー?』

 

「ヤバかったら彰人に声かけてもらうわ」

 

『わー、弟くんかわいそー』

 

 

 その後、Kがやって来て昨日の修正箇所の話になり。

 小さな違和感を無視してしまった私は、Amiaが指定していた週末を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 週末のショッピングモールは人が多いのだけど、正直、そんなことも気にならないぐらい私は店内に夢中になっていた。

 

 

「ちょ、このコスメすっごい良いじゃない!?」

 

「でしょー? 絵名に合いそうだって思ったんだよねー」

 

 

 瑞希に連れてこられたのは、私も行ったことがなかったお店である。

 長続きしている人気のお店も多くあるけれど、入れ替わりも激しいショッピングモールの新規店。

 

 SNSで話題のお店は大体確認していたし、このお店もチラッと見たことはあった。

 しかし、外装的にそこまで好みでもないかなー、と思ってスルーしてしまっていたのだ。

 

 

「こんなに可愛いものが揃ってるなんて……あの時、見逃した私が恨めしいかも」

 

「穴場っていうのは意外なところにあるからねぇ。で、どうかな?」

 

「買う」

 

「やったねー♪」

 

 

 別に自分のお店というわけでもないのに、瑞希は嬉しそうにしている。

 

 人のことでも自分のことのように喜べるのは、瑞希の良いところだと思う。

 口には出さないけれど、そういう姿勢は一緒に買い物をしていて気分がいいし、見習いたい。

 

 そんなことを考えつつも、予算の範囲内で購入し、別のお店で服を見て回って。

 朝からお店を梯子していると、気がつけばお昼になっていた。

 

 

「うーん、ボクのお腹の時計がお昼を告げてるなぁ。絵名ー、そろそろ休憩しない?」

 

 

 隣で歩いていた瑞希がお腹に手を当てて、へにょりと力無く笑う。

 

 

「そうね。じゃあ、今度は私がお店を紹介しよっかな」

 

「おっ、いいね! 絵名が選んだお店はどこもハズレがないから、楽しみだな〜」

 

 

 お腹が空いて弱々しい笑みから一転、瑞希は満面の笑みを浮かべる。

 最近、愛莉から聞いた後にリサーチもしたお店だから、瑞希も気に入ってくれる自信がある。

 

 ちょっと人が多いからと相席させてもらう形で席に向かうと……見慣れた2人が座っていた。

 

 

 

 

「あっ」

 

「あら、絵名ちゃん?」

 

「こんなところで会うなんて、偶然ね」

 

 

 

 

 ──この展開は予想できていなかったんだけど。

 

 アイドルである雫と愛莉が、カフェにて優雅にお昼を楽しんでいるのはいいとしよう。

 しかし、その席に何の前情報もなく相席するのは、どういう可能性なのだろうか。

 

 私の口角が自分でわかるぐらい引き攣っているのに対して、瑞希は隣で目をキラキラさせていた。

 

 

(あー。そういえば、瑞希ってアイドルとかも好きだったっけ?)

 

 

 カフェの中でうるさくしてはいけない、というブレーキが働いているのか。

 大興奮して大声を出したいのがわかってしまうぐらい、瑞希は小さな声で叫ぶ。

 

 

「うわー、本物だ! あれ、本物の桃井愛莉ちゃんと日野森雫ちゃんだよね!?」

 

「……あんた、器用ねー」

 

「迷惑だってわかってるから、声のトーンはスッゴイ抑えてるけどさ。正直、滅茶苦茶大きな声で叫びたい! うわぁぁーって!」

 

「うん。瑞希が興奮してるのはわかったから、早く座らない?」

 

 

 いや、でも。どっちに座れば──と、おかしな抵抗をする瑞希を愛莉の方に押し込んで、私は雫の隣に座らせてもらう。

 

 

「まさか愛莉と雫に会うなんて思ってなかったけど……相席させてくれてありがとう。後、2人が遊んでるところ、邪魔してごめんね」

 

「いいわよ、店員さんにわたしの方からお願いしたんだから。一緒に食べましょ」

 

「そうね。ここで絵名ちゃん達と会ったのも何かの縁でしょうし……私、絵名ちゃんのお友達とも仲良くなりたいわ」

 

 

 愛莉の言葉は普通だったけど、雫の発言が興奮気味の瑞希に更なる燃料となって投下された。

 

 

「テレビとかで見てた本物が目の前にいるなんて、本当にふたりともカワイイし! ねぇ絵名、本当に本物だよね!?」

 

「はいはい。瑞希は一旦、落ち着きなさい。ほら、メニュー決めてる間に頭、冷やしてね」

 

 

 目を輝かせている瑞希の視界をメニュー表で遮って、頭を冷やすように促す。

 

 頭をメニュー表で叩けば、ブラウン管のテレビみたいに治る可能性もあるかもしれない。

 しかし、それはあくまで最終手段。力技で解決する前に正気に戻れと、最後通牒を突きつけた。

 

 

「ふふ、絵名ちゃん達は仲が良いのね」

 

「そうねぇ。仲が良いのはいいんだけど、そろそろこっちのことも考えてくれると嬉しいわ」

 

 

 そんなやり取りを見ていた雫は微笑み、愛莉も苦笑している。

 

 恥ずかしいところを見られてしまった。

 2人から視線を外すと、こちらを見ていたらしい瑞希とバッチリ目が合う。

 

 ……見た感じ、もうテンションは通常に戻っている様子。

 今なら大丈夫そうだし、2人に瑞希を紹介しよう。

 

 

「愛莉はちょっとは知ってるかもしれないけど、その子が私が活動させて貰ってるサークルメンバーの1人、暁山瑞希って子なの」

 

「初めまして、暁山瑞希ですっ。2人のことはテレビとかで見てて、最近の動画も絵名から聞いて、ちょっと見てます!」

 

「ちょっと……?」

 

 

 私がモモジャンの初配信を見てあげてー、と宣伝してから、毎配信丁寧に感想文を送りつけてくる人間が、ちょっと見てます程度なの?

 

 瑞希の発言に固まる私の隣で、雫が嬉しそうに両手を合わせる。

 

 

「まぁ! 動画を見てくれてるなんて、とっても嬉しいわ。ねぇ、愛莉ちゃん」

 

「そうね。ファンな上に、貴重な絵名の友達みたいだし、仲良くしてもらえると嬉しいわ」

 

「ちょっと! 自分の親友を遠回しにボッチっていうのはやめてよねっ」

 

 

 確かに中学の時は1人だし、高校も基本的にまふゆと一緒にいることが多いけれど、事実は人を簡単に傷つけることもある。

 

 

「でも、絵名って友達の判定が厳しいでしょ。中学の時なんて、頑なにクラスメイトって姿勢だったし」

 

「へぇ、絵名の中学時代ってハリネズミだったんだ」

 

 

 愛莉の話に瑞希が食いついてきて、私の話という共通の話で盛り上がっている。

 店員さんに注文をした後も私の中学の話をしていて、話の張本人は蚊帳の外だ。

 

 

「ふふ、愛莉ちゃんも暁山さんもすっかり打ち解けてるわね」

 

「話題の本人を置いてきぼりにする程度には、盛り上がってるわねー」

 

「あら。絵名ちゃん、拗ねちゃったの?」

 

「拗ねたんじゃなくて、ああいうのを目の前で話されると恥ずかしいの!」

 

 

 どうやら雫には昔話による羞恥心はないようで、微笑ましそうに笑っているだけだった。

 このアイドル、無敵なのか。いや、もしかしたら宮女の弓道部が無敵の集まりなのかもしれない。

 

 雫もまふゆも弓道部。

 ほぼノーメイクなのに顔面偏差値で殴りかかってきて、私がダメージを受けるようなこともノーダメージで受け流せる猛者。

 

 

(東雲絵名サイボーグ説より、弓道部無敵説の方が流行るべきでしょ)

 

 

 私が世の中の理不尽を嘆いていても、愛莉と瑞希の昔暴露話は止まってくれそうにない。

 

 ……ように思えたのだが、その終わりは意外とすぐに来た。

 愛莉が席を離れて、瑞希に話してくれる相手が消えたのである。

 

 

「あっ、ごめんなさい。注文したものが来る前に少し、席を外させてもらうわ。注文したものが来たら、机に置いてもらってもいい?」

 

「いってらっしゃい、冷める前に帰ってきなよ」

 

 

 愛莉を見送ると、タイミングよく店員さんが料理を持って来てくれる。

 

 出来立ての料理が4つ分なので、湯気がすごい。

 猫舌な瑞希は困ったように眉を下げてから、こちらへ顔を向けた。

 

 

「ボクも冷めるまでちょっと、席を外そっかなぁ……ボクのフライドポテト、食べないでよー?」

 

「食べないっての。心配なら早く行って、早く帰って来なさいよね」

 

「はぁい」

 

 

 うだうだと言葉を重ねる瑞希を席から追い出してから、私は腕を組んで料理を眺める。

 スプーンにも手を伸ばさず、一向に食べ始めない私に雫は首を傾げた。

 

 

「絵名ちゃんは食べないの?」

 

「2人もどこかに行っちゃったら、先に食べるのもアレでしょ。ちょっとぐらい待とうかなって」

 

「ふふ、そうなのね。なら、私も一緒に待とうかしら」

 

「えっ。待ってるのは私の都合なんだから、雫は先に食べててよ」

 

「絵名ちゃん、ありがとう。でも、私も一緒に待ちたいから、気にしないで。愛莉ちゃん達が戻ってくるまでお話ししましょ」

 

「雫がいいなら……」

 

 

 ──そうやって雫と待つこと幾分か。

 

 お喋りしている間に料理から湯気が消えて。

 瑞希と愛莉が戻ってくる頃にはすっかり料理が冷たくなり、恨めしい目を2人に向けてしまったのは許してほしい。

 

 理不尽だからって怒りを我慢しただけ、私は偉いと思うのだ。

 

 

 





(記憶喪失えななんの)お悩み聞かせて! わくわくピクニックと化したイベストです。

次回は愛莉さんの方に行った瑞希さん視点でいきます。
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