本格的に『お悩み聞かせて! わくわくピクニック』編始めます。
部活もなくて、学校にも残らずに真っ直ぐ家に帰った私は、ナイトコードを繋げてAmiaと一緒に絵の調整をしていた。
昨日の作業の時にKに言われたところは調整済み。
「Amia、昨日言われたところは調整で来たんだけど、どう?」
それなのでAmiaに声をかけたのだけど、何故か本人から返事がない。
ガサゴソと物音だけは聞こえてくるので、その場に誰かがいることだけはわかるのに、何故か返事がなかった。
「Amiaー? 聞こえてるー?」
『……あぁっ、ごめん! ちょっとポテチ零しちゃって、机の下を掃除してたんだよ。すぐに見るから待ってて!』
「何してるのよ、もう。それ、掃除機で吸い込んだ方が早いでしょ」
『だねー。ボクの指でも限界だったよ』
「あんたは自分の指の可能性を信じ過ぎじゃない?」
大きいものならともかく、細々としたものを拾い集めるのは無理がある。
Amiaも今すぐ掃除するのは諦めたようで、その後、掃除機の音が聞こえてくることはなかった。
ミュートもしていないので、たぶん諦めたのだと思いたい……が、どうだろうか。
『うん、いい感じじゃん! これなら良いって言われそうだし、後でKに見せようよ』
どうやら要らぬ心配だったようだ。
僅かながら粘着テープ辺りで掃除を続行している可能性もあったので、私はホッと息を吐く。
(今日は雪が部活で遅くなるって聞いたから、Kに確認してもらうのが先かな)
この後の流れをつらつらと考えていると、Amiaのアイコンが気まずさを表すように点滅した。
『ねぇ、えななん』
「んー、なぁに?」
『最近の化粧のノリはどう?』
「えぇ、急に何よ? 最近はねぇ……うん、あまり良くないかもしれない」
少々、不快になるものが目に入るストレスが肌にダメージを与えているのかもしれない。
世間話程度だろう、と油断していた私は特に疑うことなく、瑞希の雑談に乗る。
『そんなえななんに朗報なんだけどさ。最近、いい感じのコスメを売ってるお店を見つけたんだよね』
「そういうの、高いんじゃないの?」
『それがそうでもなくてさー。えななんに勧めたいのもあるんだよね、ねっ!』
「……つまり、一緒に行きたいってこと? 何時行きたいのよ」
『行けるなら今週末! どうかな?』
今週末といえば……特に予定もなさそうだ。
断る理由もないし、瑞希のセンスは信頼しているし。
そして何より、私に勧めたいっていうのも気になる。
「いいわよ。じゃあ、週末ね」
『やったね! あ、そうそう。遅刻しないでよー?』
「ヤバかったら彰人に声かけてもらうわ」
『わー、弟くんかわいそー』
その後、Kがやって来て昨日の修正箇所の話になり。
小さな違和感を無視してしまった私は、Amiaが指定していた週末を迎えた。
……………………
週末のショッピングモールは人が多いのだけど、正直、そんなことも気にならないぐらい私は店内に夢中になっていた。
「ちょ、このコスメすっごい良いじゃない!?」
「でしょー? 絵名に合いそうだって思ったんだよねー」
瑞希に連れてこられたのは、私も行ったことがなかったお店である。
長続きしている人気のお店も多くあるけれど、入れ替わりも激しいショッピングモールの新規店。
SNSで話題のお店は大体確認していたし、このお店もチラッと見たことはあった。
しかし、外装的にそこまで好みでもないかなー、と思ってスルーしてしまっていたのだ。
「こんなに可愛いものが揃ってるなんて……あの時、見逃した私が恨めしいかも」
「穴場っていうのは意外なところにあるからねぇ。で、どうかな?」
「買う」
「やったねー♪」
別に自分のお店というわけでもないのに、瑞希は嬉しそうにしている。
人のことでも自分のことのように喜べるのは、瑞希の良いところだと思う。
口には出さないけれど、そういう姿勢は一緒に買い物をしていて気分がいいし、見習いたい。
そんなことを考えつつも、予算の範囲内で購入し、別のお店で服を見て回って。
朝からお店を梯子していると、気がつけばお昼になっていた。
「うーん、ボクのお腹の時計がお昼を告げてるなぁ。絵名ー、そろそろ休憩しない?」
隣で歩いていた瑞希がお腹に手を当てて、へにょりと力無く笑う。
「そうね。じゃあ、今度は私がお店を紹介しよっかな」
「おっ、いいね! 絵名が選んだお店はどこもハズレがないから、楽しみだな〜」
お腹が空いて弱々しい笑みから一転、瑞希は満面の笑みを浮かべる。
最近、愛莉から聞いた後にリサーチもしたお店だから、瑞希も気に入ってくれる自信がある。
ちょっと人が多いからと相席させてもらう形で席に向かうと……見慣れた2人が座っていた。
「あっ」
「あら、絵名ちゃん?」
「こんなところで会うなんて、偶然ね」
──この展開は予想できていなかったんだけど。
アイドルである雫と愛莉が、カフェにて優雅にお昼を楽しんでいるのはいいとしよう。
しかし、その席に何の前情報もなく相席するのは、どういう可能性なのだろうか。
私の口角が自分でわかるぐらい引き攣っているのに対して、瑞希は隣で目をキラキラさせていた。
(あー。そういえば、瑞希ってアイドルとかも好きだったっけ?)
カフェの中でうるさくしてはいけない、というブレーキが働いているのか。
大興奮して大声を出したいのがわかってしまうぐらい、瑞希は小さな声で叫ぶ。
「うわー、本物だ! あれ、本物の桃井愛莉ちゃんと日野森雫ちゃんだよね!?」
「……あんた、器用ねー」
「迷惑だってわかってるから、声のトーンはスッゴイ抑えてるけどさ。正直、滅茶苦茶大きな声で叫びたい! うわぁぁーって!」
「うん。瑞希が興奮してるのはわかったから、早く座らない?」
いや、でも。どっちに座れば──と、おかしな抵抗をする瑞希を愛莉の方に押し込んで、私は雫の隣に座らせてもらう。
「まさか愛莉と雫に会うなんて思ってなかったけど……相席させてくれてありがとう。後、2人が遊んでるところ、邪魔してごめんね」
「いいわよ、店員さんにわたしの方からお願いしたんだから。一緒に食べましょ」
「そうね。ここで絵名ちゃん達と会ったのも何かの縁でしょうし……私、絵名ちゃんのお友達とも仲良くなりたいわ」
愛莉の言葉は普通だったけど、雫の発言が興奮気味の瑞希に更なる燃料となって投下された。
「テレビとかで見てた本物が目の前にいるなんて、本当にふたりともカワイイし! ねぇ絵名、本当に本物だよね!?」
「はいはい。瑞希は一旦、落ち着きなさい。ほら、メニュー決めてる間に頭、冷やしてね」
目を輝かせている瑞希の視界をメニュー表で遮って、頭を冷やすように促す。
頭をメニュー表で叩けば、ブラウン管のテレビみたいに治る可能性もあるかもしれない。
しかし、それはあくまで最終手段。力技で解決する前に正気に戻れと、最後通牒を突きつけた。
「ふふ、絵名ちゃん達は仲が良いのね」
「そうねぇ。仲が良いのはいいんだけど、そろそろこっちのことも考えてくれると嬉しいわ」
そんなやり取りを見ていた雫は微笑み、愛莉も苦笑している。
恥ずかしいところを見られてしまった。
2人から視線を外すと、こちらを見ていたらしい瑞希とバッチリ目が合う。
……見た感じ、もうテンションは通常に戻っている様子。
今なら大丈夫そうだし、2人に瑞希を紹介しよう。
「愛莉はちょっとは知ってるかもしれないけど、その子が私が活動させて貰ってるサークルメンバーの1人、暁山瑞希って子なの」
「初めまして、暁山瑞希ですっ。2人のことはテレビとかで見てて、最近の動画も絵名から聞いて、ちょっと見てます!」
「ちょっと……?」
私がモモジャンの初配信を見てあげてー、と宣伝してから、毎配信丁寧に感想文を送りつけてくる人間が、ちょっと見てます程度なの?
瑞希の発言に固まる私の隣で、雫が嬉しそうに両手を合わせる。
「まぁ! 動画を見てくれてるなんて、とっても嬉しいわ。ねぇ、愛莉ちゃん」
「そうね。ファンな上に、貴重な絵名の友達みたいだし、仲良くしてもらえると嬉しいわ」
「ちょっと! 自分の親友を遠回しにボッチっていうのはやめてよねっ」
確かに中学の時は1人だし、高校も基本的にまふゆと一緒にいることが多いけれど、事実は人を簡単に傷つけることもある。
「でも、絵名って友達の判定が厳しいでしょ。中学の時なんて、頑なにクラスメイトって姿勢だったし」
「へぇ、絵名の中学時代ってハリネズミだったんだ」
愛莉の話に瑞希が食いついてきて、私の話という共通の話で盛り上がっている。
店員さんに注文をした後も私の中学の話をしていて、話の張本人は蚊帳の外だ。
「ふふ、愛莉ちゃんも暁山さんもすっかり打ち解けてるわね」
「話題の本人を置いてきぼりにする程度には、盛り上がってるわねー」
「あら。絵名ちゃん、拗ねちゃったの?」
「拗ねたんじゃなくて、ああいうのを目の前で話されると恥ずかしいの!」
どうやら雫には昔話による羞恥心はないようで、微笑ましそうに笑っているだけだった。
このアイドル、無敵なのか。いや、もしかしたら宮女の弓道部が無敵の集まりなのかもしれない。
雫もまふゆも弓道部。
ほぼノーメイクなのに顔面偏差値で殴りかかってきて、私がダメージを受けるようなこともノーダメージで受け流せる猛者。
(東雲絵名サイボーグ説より、弓道部無敵説の方が流行るべきでしょ)
私が世の中の理不尽を嘆いていても、愛莉と瑞希の昔暴露話は止まってくれそうにない。
……ように思えたのだが、その終わりは意外とすぐに来た。
愛莉が席を離れて、瑞希に話してくれる相手が消えたのである。
「あっ、ごめんなさい。注文したものが来る前に少し、席を外させてもらうわ。注文したものが来たら、机に置いてもらってもいい?」
「いってらっしゃい、冷める前に帰ってきなよ」
愛莉を見送ると、タイミングよく店員さんが料理を持って来てくれる。
出来立ての料理が4つ分なので、湯気がすごい。
猫舌な瑞希は困ったように眉を下げてから、こちらへ顔を向けた。
「ボクも冷めるまでちょっと、席を外そっかなぁ……ボクのフライドポテト、食べないでよー?」
「食べないっての。心配なら早く行って、早く帰って来なさいよね」
「はぁい」
うだうだと言葉を重ねる瑞希を席から追い出してから、私は腕を組んで料理を眺める。
スプーンにも手を伸ばさず、一向に食べ始めない私に雫は首を傾げた。
「絵名ちゃんは食べないの?」
「2人もどこかに行っちゃったら、先に食べるのもアレでしょ。ちょっとぐらい待とうかなって」
「ふふ、そうなのね。なら、私も一緒に待とうかしら」
「えっ。待ってるのは私の都合なんだから、雫は先に食べててよ」
「絵名ちゃん、ありがとう。でも、私も一緒に待ちたいから、気にしないで。愛莉ちゃん達が戻ってくるまでお話ししましょ」
「雫がいいなら……」
──そうやって雫と待つこと幾分か。
お喋りしている間に料理から湯気が消えて。
瑞希と愛莉が戻ってくる頃にはすっかり料理が冷たくなり、恨めしい目を2人に向けてしまったのは許してほしい。
理不尽だからって怒りを我慢しただけ、私は偉いと思うのだ。
(記憶喪失えななんの)お悩み聞かせて! わくわくピクニックと化したイベストです。
次回は愛莉さんの方に行った瑞希さん視点でいきます。