イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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瑞希さん視点で進みます。




87枚目 【暁山さんの気になること】

 

 

 

 料理が熱そうだから〜、なんて、ありそうで取ってつけたような理由で席を立つ。

 

 もしもボクのポテトが絵名の胃の中に消えていても、必要経費かな。

 ボクの好きなモノよりも優先すべき情報があるのだから。

 

 ──桃井愛莉ちゃん。

 テレビにも出ていたアイドルで、最近はモモジャンとして配信活動中のアイドル。

 

 ……そして、ボクの知らない絵名を知っているかもしれない人物だ。

 

 高校での絵名は、まふゆから凡そ聞いている。

 でも、ナイトコードで絵名本人から聞いている話と乖離していないし、そこから探してもボクが見つけたいものは見つからなかった。

 

 

(だからきっと、過去にあるはずなんだ……絵名がすっごく悩んでいる原因が)

 

 

 ボクにだって秘密があるのだ。

 あんなに寂しそうに笑っていた絵名に、秘密がない方がおかしい。

 

 

 

 

 ──それに、この中で1番伝えてないのは間違いなく瑞希じゃないから、そう思い詰めなくてもいいんじゃない?

 

 

 

 

 今でも電車の音を思い浮かべれば想起される、絵名の声。

 

 結局、あの言葉の意味は本人の口から出てこなかったけれど、何を言いたかったのかなんて容易に想像できる。

 ボクが1番じゃないというのであれば、そう言った本人が1番、伝えていないと思っているのだ。

 

 

(絵名がバスに乗る前に『約束しよう』って先んじて言ってくれたのと同じで……ボクだって絵名が最近、苦しそうだってことぐらい、わかるんだよ)

 

 

 最初は何か嫌なことがあったのかな、と思う程度だった。

 

 ふとした瞬間、周りに誰もいないと絵名が思っている一瞬だけ。

 顔を顰めて、スケッチブックを睨みつけている時があるのだ。

 

 気のせいならそれでいい。ボクの杞憂なら笑い話になるでしょ。

 何もないのならそっちの方が安心だけど、何かあった時が怖いんだよね。

 

 

「見つけた……っ」

 

「あれ、暁山さん? ……何かあったの?」

 

 

 お手洗い付近で、ピンク色の髪が見える。

 それに向かって一直線に進むと、愛莉ちゃんがボクの顔から何かを読み取ったのか、ゆっくりとした声で問いかけてきた。

 

 

「あの、さっきの絵名の話をもう少し聞きたくて」

 

「本当にさっきの続きでいいの? 絵名から離れてまで話を聞きにきたってことは、あの子に聞かれたら不味い話なのよね?」

 

「えっ……」

 

「あら、違った?」

 

 

 流石はアイドルなのか。愛莉ちゃんはあっさりとボクが聞きたい話の大枠を言い当てた。

 話が早い分、ここで頷いてもいいのか、ボクは躊躇ってしまう。

 

 どう切り出したら話を聞けそうかと考えていると、愛莉ちゃんの方から話を切り出してくれた。

 

 

「私もついこの間、絵名と久しぶりに会ったんだけど……あの子、何か悩んでるみたいなのよね」

 

「愛莉ちゃんも?」

 

「ってことは、暁山さんもそう思ったのね。気のせいだったら嬉しかったんだけど」

 

 

 眉を下げた愛莉ちゃんはボクを手招きして呼びつつ、お店の隅まで歩く。

 話をするにあたって、お手洗いの近くで屯するのは邪魔だろうと判断したみたいだ。

 

 ……その辺の気遣いが全くできていなくて、ごめんなさい。反省します。

 

 

「さてと。暁山さん……といつまでも呼ぶのはアレね。瑞希って呼ばせてもらってもいいかしら?」

 

「うん。こっちはいつもの癖みたいなもので愛莉ちゃんって勝手に呼んでたし、全然大丈夫」

 

「ありがとう。それで、聞きたいことは絵名の過去のことでいいの?」

 

「過去、というか高校生より前の絵名を知りたいんだ。そこに絵名が悩む何かがあるんじゃないかって思ってて」

 

 

 ボクの知らない絵名のことを、親友の愛莉ちゃんなら知っているのではないか?

 

 ボクはそう思っていたのだけど、少し違っていたようで。

 申し訳なさそうに眉を下げて、愛莉ちゃんは口を開く。

 

 

「ごめんなさい。確かにわたしと絵名は同じ中学だったから、中学時代は大体知っているけど……瑞希が望むような答えは知らないと思うわ」

 

「それってどういうこと?」

 

「瑞希は絵名の悩みが過去に関係するんじゃないかと思って、わたしに聞いてくれたのでしょう? でも、わたしは思い悩むような原因を詳しくは知らないのよ」

 

「……答えてくれてありがとう、愛莉ちゃん。じゃあ、お昼を食べに戻ろっか」

 

 

 知らないのであれば仕方がない。

 

 親友の愛莉ちゃんも知らないのであれば、残された手段は弟くんを捕まえて、何とか吐いて貰うことかなぁ。

 頭の中で物騒な算段を立てていると、愛莉ちゃんから「待って」と呼び止められる。

 

 

「聞くのは難しいかもしれないけれど、絵名の気分転換に誘おうとしていた場所があるのよ。瑞希も一緒に行かない?」

 

「え、ボクも?」

 

「ええ。悩み事がわからなくても気分転換になればいいかなって、雫も連れていこうと思ってたのよね」

 

 

 元気になればそれでいい、というのが愛莉ちゃんの答えなのだろうか。

 確かに、未来のことを考えなければそれでいいのかもしれない。

 

 ……ボクも待ってもらっている身だし。

 

 

「じゃあ、詳しい話を聞かせて貰っても良いかな?」

 

「ええ、連絡先を交換しましょ。遊び終わったら作戦会議よ!」

 

 

 その後、連絡先を交換してから席に戻ったのだけど。

 全く手を付けられることなく、冷めた状態で乗っている料理達を前に、不機嫌そうな絵名が両手を組んでこちらを見ていた。

 

 

「2人共、仲良く遅かったわねー」

 

「あ、はは……まさか待ってくれてるとは思わなかったな~」

 

「うん、それで?」

 

「申し訳ございませんでした」

 

 

 ボクのせいで愛莉ちゃんも遅れてしまったので、午後からは絵名のご機嫌取りに終始した。

 

 長話はするもんじゃないね、とほほ。

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 家に帰ってから、愛莉ちゃんとは大体の打ち合わせは完了させた。

 

 ──あのカフェで仲良くなったボクらは連絡先を交換し、愛莉ちゃん達と一緒に遊ぶことになった。

 そういう流れで絵名も誘って、一緒にピクニックに行く。これが今回のボクのミッションだ。

 

 

(で、そのチャンスがあっさりやって来たと。ボクってば日頃の行いが良すぎて困っちゃうなぁ)

 

 

 まふゆが明日の委員会の準備で少し席を離れ、奏は現在夢の中。

 深夜のナイトコードにはボクと絵名しかいない。

 

 まるで、ここで話しなさいと神様が指示してくれてるようなチャンスだ。

 

 

「ねぇねぇ、えななーん」

 

『遊んだ後だっていうのに元気ねぇ。で、どうしたの?』

 

「いや、今日ってお昼に愛莉ちゃん達と会ったじゃん」

 

『そうね、アレはビックリしたわね。お昼は冷たいしさ』

 

「そこに関してはごめんってば〜」

 

 

 食べ物の恨みは恐ろしいとはよく言ったものだ。

 あのお昼の後も絵名の怒りは収まらなくて、ボクは愛莉ちゃん達と別れた後も平謝りだったもん。

 

 最終的には『私が待ってたのが悪いんだけどね』と悲しそうに笑ってたので、見ているこっちの胸が痛かった。

 

 

「って、そうじゃなくてさ! 本題はこの後からで、愛莉ちゃんと連絡先を交換して、帰ってから電話もしたんだよ」

 

『あの短い時間で連絡先を交換したの? Amiaのコミュ力が怖いわ』

 

「まぁ、ボクにかかればこれぐらいはねー」

 

 

 嘘である。

 本当は絵名補正がとんでもないことになっていたからであって、ボクのお手柄なんてほぼない。

 

 

「その話の中で、来週の土曜日に良かったら遊ばないかって言われてさ」

 

『へぇ。愛莉が初対面の相手を誘うなんて珍しいけど、良かったじゃん』

 

「そこで、相談がありまして」

 

『……急に下手に出るわね』

 

 

 イヤホンから苦笑いするような声が聞こえてくる。

 わかっているんだろうけど、ボクが言うのを待ってくれているであろう声だ。

 

 

(ほんと、絵名はズルいよね)

 

 

 こっちにはスルリと入り込んで、手を伸ばしてくるのに。

 なのに、こっちが伸ばした手は見ないフリをするのが上手なんだ。

 

 だからこそ、こんな遠回りなことをしてるんだけどさ。

 

 

「愛莉ちゃんの他に雫ちゃんも来るらしくて、流石にその2人相手に、初回からボクだけ混ざるのは勇気がいるといいますか」

 

『……つまり、付いて来てほしいってこと?』

 

「本題は来週の土曜日、一緒に遊ぼっていう誘いだけどね」

 

『んー、でも。Amiaが誘われたところに、私も混ざっていいの?』

 

 

 至極当然の疑問だけど、そもそも愛莉ちゃん達とボクが遊ぶ理由が『絵名』なので、何1つ問題はない。

 

 前向きそうな絵名の様子に、ボクは思わず食い気味に頷いてしまった。

 

 

「全く問題なし! 愛莉ちゃんも『気まずかったら絵名を誘っても良い』って言ってたからね」

 

『ふぅん、ならいいけど。来週の土曜日なら空いてるし、どこに遊びに行くのかとか、必要なことを教えてもらってもいい?』

 

「オッケー。えっと、愛莉ちゃんに聞いた話はね──」

 

 

 絵名もボクか、あるいは愛莉ちゃんが共犯で何か考えてるだろうという可能性も考えているだろうに。

 

 

『じゃあ、来週の土曜日、予定空けておくから』

 

 

 特に何も聞かず、嫌な素振りも見せず。

 こちらの作戦に乗ってくれる絵名に対して、流石というべきなのかな。

 

 予定を詰めてから絵名が落ちるのを見送ってから、ボクは息を吐いた。

 

 

「ふぅ、第一段階は成功か」

 

『……みたいだね』

 

「うわっ、雪ってばいつから聞いてたの!?」

 

 

 さらりと離席していたはずの(まふゆ)が混ざり込んでいて、ボクは上擦った声を出してしまった。

 

 正直、心臓に悪い。

 ここで奏に声をかけられてもビックリするけど、まふゆに声をかけられても心臓がうるさいぐらい高鳴っていた。

 

 

『途中から様子を見てただけ』

 

「遊ぶ約束をしてただけなんだけどね」

 

『でも、最近のえななんも今日のAmiaも、2人揃って変だったから』

 

「変って……そっかぁ」

 

 

 確かに、ボクも絵名の電車とかの様子が気になっていて、まふゆから見たら変に思われることをしていたかもしれない。

 

 

『えななんは隠れんぼが上手だって、ミク達が言ってた』

 

「はは、らしいや。隠れんぼが下手っぴなら嬉しいんだけどなー」

 

『……Amiaはえななんが上手な方が、嬉しいんじゃないの?』

 

「え? それってどういうこと?」

 

『わからない……けど、そう思っただけ』

 

 

 まふゆはそう言ってから、明日は委員会があるからと落ちてしまった。

 

 友達が苦しんでる方が嬉しいんじゃないかって、遠回しに言われているかのような言葉。

 そんなまふゆの言葉にボクが言い返せなかったのは──きっと。

 

 

(きっと、心のどこかでそういうことを思っているから、言い返す気になれなかったんだろうな……)

 

 

 

 ボク自身の問題を棚上げにできるからってさ。

 友達の苦しみすら逃げ道に使ったのか、ボクは。

 

 

 あーあ。

 ……自分が嫌になるな、ホント。

 

 

 

 

 






《えななんの最近の様子について》

証言K:えっと、ナイトコードとか作業の時は特におかしなことはないよ。でも、セカイにいる時はたまにスケッチブックを睨んでるから、絵のことで悩んでるのかも。

証言雪:……表向きは隠してる。けど、よく見てたら変だと思った。理由? さぁ、わからない。聞いても、誤魔化されるから。


ピクニックでえななんヒントタイムが挟まれるので、瑞希さんの視点がこの話以外にもう1話、入る予定です。
自然と瑞希さんの視点が多くなっちゃいますね。

次回は視点が戻ります。

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