イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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今回は瑞希さん視点で進みます。





90枚目 【暁山さんと少しの手かがり】

 

 

 

 絵名と雫ちゃんとは別に、ボクは愛莉ちゃんと一緒にグリーンアドベンチャーに来ていた。

 

 絵名が乗り気じゃないのであれば参加するのもと躊躇っていたところ、愛莉ちゃんの言葉でボクの意思はころっと反転しちゃったのだ。

 

 唯一、絵名の中学時代を知ってる人に『絵名のことで話したいことがある』って言われたのだから、仕方がない。

 欲しい餌がチラついてたら、ホイホイついて行っちゃうよね。

 

 ……それはそれとして、折角遊ぶのならグリーンアドベンチャーも楽しもっと。

 

 

「えーっと。まずは1問目のパネルを探して、木の名前を答えるのね」

 

 

 ボクが色々と考えている間に、愛莉ちゃんが早速、周囲を見渡していた。

 順応が早い。愛莉ちゃんもボクと同じで楽しもうと思っていたんだろうか。

 

 マップと睨めっこして、それでもパネルが見当たらないのか、愛莉ちゃんは首を傾げる。

 

 

「マップだとこの辺にパネルがあるはずなんだけど、どこかしら」

 

「うーん……あ、この木の根元にあるヤツじゃない?」

 

「あ! やるじゃない、瑞希! えっと、このパネルには……ヒントが2つあるわね」

 

 

 愛莉ちゃんの隣に並んで、ボクもパネルを覗き込む。

 

 1つ目のヒントは、神社に植えられていることが多い。

 そして2つ目のヒントは、アオスジアゲハの幼虫がこの木の葉をエサにする。

 

 この条件に一致する特徴は図鑑とかクイズ番組で見た記憶がある。確か……

 

 

「その2つなら、クスノキかな」

 

「えっ、もうわかったの?」

 

「偶然、記憶にあるものだったからねー」

 

 

 別に植物に詳しいわけでもないし、偶然知っていたことを偉ぶれるほど、知識が豊富というわけでもない。

 

 パネルから視線を上に向ければ、鮮やかな緑とそれを支えるように茶色の木の幹が見える。

 木みたいなちょっと褪せて見える茶ではないものの、絵名の髪色と同じ茶色。

 

 

「……絵名、虫が苦手だけど大丈夫かな」

 

 

 瞼の裏に描かれるのはつい最近のこと。

 ミステリーツアーのトンネルで、真っ青になりながらも気丈にトンネルを歩いていた姿だ。

 

 前々から、暗いところは苦手だと言っていたけれど、あの反応はボクの予想外だった。

 叫ぶことなく自分の体を抱きしめて震えている姿を見れば、ボク自身の好奇心を恨みそうになったのは記憶に新しい。

 

 もしも、絵名が苦手なものに関してミステリーツアーのような態度になってしまうとしたら?

 ボクが予想していたように「キャーッ」って叫ぶことなく、震えていたら……ボクは今度こそ、自分を恨んでしまうかもしれない。

 

 

「お化け屋敷ならともかく、虫に関しては大騒ぎしちゃう程度だから、そこまで心配しなくても良いと思うわ」

 

 

 そんなボクの心配が顔に出ていたのか、愛莉ちゃんが自信ありげに頷いてくれた。

 お化け屋敷の話を出すということは、愛莉ちゃんも絵名の苦手なことについて知っているのだろう。

 

 

「虫は大丈夫なんだ?」

 

「普通に嫌いなだけらしいわよ。暗いのとはまた違うんですって」

 

「そっか、じゃあ大丈夫かな……大騒ぎして雫ちゃんに迷惑かけてないか心配だけど」

 

「そこも大丈夫でしょ。絵名ってしっかりしてるし」

 

 

 それもそうだ。

 ボク以外の面々をセットにしていたら、文句を言ったり喜んだり態度が違っていても、絵名は誰にでも世話を焼いている。

 

 雫ちゃんは同い年だけど、放っておけないと思ったら世話焼きお姉ちゃんモードに入るから、その辺りは心配ないのかもしれない。でも。

 

 

「頭ではわかっていても、気になるって感じね」

 

「あはは。やっぱり、わかっちゃう?」

 

「上手く隠せてると思うわよ? でも、少し上の空だから、何かあるのかなぁってカマかけてみたの」

 

 

 流石は大人の世界で揉まれてきたお茶の間のアイドル。

 

 ……いや、自分の露骨な態度を反省すべきだよね。自分のことなら隠せてる方だと思うんだけどなぁ。

 

 

「瑞希も気になってるみたいだし、次のポイントに向かいながら、本題に入りましょうか」

 

「本題って、受付前に言ってた話したいことってヤツ?」

 

「ええ、ちょっとだけ話したかったの」

 

 

 さっきまで溌剌とした笑みを浮かべていたはずの愛莉ちゃんは、神妙な面持ちでボクを見ていた。

 

 この先の話は揶揄ったりしていいようなものではないと、そんな警鐘が頭の中で木霊する。

 お腹に力を入れて、背筋を伸ばす。話を聞く体制ができたと伝えるために、ボクは小さく頷いた。

 

 

「絵名って自分の中に明確な線引きがあるのは、瑞希もわかってるわよね?」

 

「うん、はっきりとしてるよね」

 

 

 面倒見が良いし世話焼きであるけれど、絵名には絵名なりの線引きがある。

 ボクらはありがたいことに数少ない内側に入れてもらっているのかな、と思うんだよね。

 

 思い込みなら恥ずかしいけど。

 

 

「好意って意味でもそうなんだけど、それは触れて欲しくないラインも同じみたい」

 

「触れて欲しくないライン、か。もしかして、それが過去なの?」

 

「ええ、わたしの予想が正しいのなら、絵名が話したくない範囲は『中学2年生の時より前』だと思うわ」

 

 

 愛莉ちゃんと絵名が仲良くなったのは中学2年生の時であり、愛莉ちゃんも知らないとなると、必然的にそれより前になる。

 

 そこまでは愛莉ちゃんも予想していたらしいけど、何か予想外のことがあったのだろう。

 愛莉ちゃんは眉で八の字を作り、肺の中の空気を吐き出すように言葉を紡いだ。

 

 

「瑞希が欲しがってる答えもそこにあると思うわ。だからこそ、気をつけて欲しいんだけど」

 

「何でかって、聞いても良いかな」

 

「もちろんよ。少し長くなるけど、これは中学3年生の時、ある女の子がわたしの前に現れてから始まったことなの──」

 

 

 愛莉ちゃんは次のポイントへと歩きながら、その頃に起きたことを話してくれた。

 

 

 

 

 ──それは、愛莉ちゃんに『絵名の友達だという女の子』が接触したことから始まった。

 

 

 小学校の時から中学1年生まで、よく話していた女の子。

 しかし、中学2年生でクラスがバラバラになり、そこから女の子と絵名の関係は急に遮断された。

 

 女の子も最初の頃はクラスが離れたし、少し疎遠になっただけだと思っていたらしい。

 そう思っていたら1年が過ぎ、3年生になって少し時間が経っても、女の子が抱く違和感は消えなかった。

 

 連絡しても繋がらず、話しかけようにもやんわりと避けられて。

 体育の授業でペアになった時に声をかけても、どこか壁があって余所余所しい。

 

 そこで、違和感を無視できなくなった女の子は動いたのだ。

 

 他の友達は自然と疎遠になったらしいが、その子だけは絵名が心配だったらしく、愛莉ちゃんが学校に来ている時に相談したのだという。

 

 

「あの時はその行動がありがた迷惑だとか、考えてなかったのよね」

 

 

 話していて女の子も悪い子ではないように見えるし、何かすれ違いが起きたのだろう。

 そう考えた愛莉ちゃんは良かれと思い、絵名と女の子の仲をさりげなく取り持とうとした。

 

 

「それが絵名にとって、敵対行為みたいなものだったらしくて。ほんと、生きた心地がしなかったわ」

 

 

 軽く探りを入れる愛莉ちゃんに対して、絵名は瞬きするような間だけであるものの、感情が剥がれ落ちたかのような無表情になったそうだ。

 このままではまずいと思った愛莉ちゃんが慌てて取り繕うと、絵名は申し訳なさそうに「気持ちはありがたいけど、無理」と首を横に振ったという。

 

 女の子は悪くないし、全面的に自分が悪いのだけど──親友である愛莉ちゃんにもその理由は言えない。

 どうしても仲を取り持つつもりであれば、これまで通りに接することは難しい、と。

 

 そう言われてしまうと、愛莉ちゃんも踏み込めなかったようだ。

 

 

「その時、もっと深く話を聞いていたら……瑞希にも話せたかもしれないけどね」

 

「確かにそう言われるとボクも躊躇っちゃうかも。でも、愛莉ちゃんは知りたいとは思わなかったの?」

 

「思わなかったと言えば嘘になるわ。でもね、どんな過去があったとしても、わたしは絵名と親友だから。それなのに、絵名を悲しませてまで聞くことなのかなって、そう思っちゃってね」

 

「あ……」

 

 

 もしかして、絵名がボクに何も聞かないのも愛莉ちゃんと同じなのだろうか。

 

 それなのにボクはこうやって、絵名に内緒で探っている。

 ボクがやろうとしていることはもしかしたら、待ってくれている絵名に対して酷いことをしているのかもしれない。

 

 

「でも、瑞希のやろうとしてることもまた、1つの答えだと思うわ」

 

「え」

 

「わたしは選ぼうとしなかったことを、瑞希は選ぼうとしてる。それで絵名が楽になるのなら、わたしはそれも良いと思う」

 

「本当に、いいの?」

 

 

 愛莉ちゃんは絵名を思って知らないことを選んだ。

 なら、今話してくれたことだって、絵名との関係を壊したくないのであれば探るなっていう警告のはずで。

 

 自分でもわかるぐらい目を瞬かせてしまうボクに、愛莉ちゃんは苦笑した。

 

 

「わたしの時と瑞希の時とでは、絵名の周辺の関係が違うわ。今なら大胆な選択も選べるでしょうね」

 

「あっ、そっか。絵名の中学時代って」

 

 

 絵名本人も冗談半分で『絵画教室で話す子はいても、中学には愛莉以外に友達はあまりいなかった』と話していた記憶がある。

 

 ボクの考えたことは正解だったらしく、愛莉ちゃんは首肯した。

 

 

「あの時の絵名は孤立してたから。それこそ、わたしがいなくなったら本当に1人でずっと、絵にのめり込んじゃうんじゃないかってぐらいだったの」

 

「……流石は親友、似たもの同士って感じだね」

 

 

 後から聞いた話で、絵名も『まふゆが1人になるから、大人しくセカイに拐われた』と言ってたっけ。

 その時の絵名はまふゆの味方がいなくなっちゃうからって、ボクらが来るまで寄り添おうとしていたみたいだし。

 

 愛莉ちゃんも同じ気持ちで絵名に寄り添うことを選んだのだとしたら、本当に似たもの同士で、仲のいい親友なんだなって思う。

 

 

「絵名なら準備が整ったら首を突っ込みそうだけど、わたしは自分の夢を優先してしまったから……そう見えたのなら、嬉しいわね」

 

「ああいう芸当ができるのは絵名ぐらいだよ」

 

 

 ビックリするぐらいこちらを見ていて、的確に欲しい言葉や行動を取れるのは絵名のトンデモ能力だ。

 ボクだってそういうことに自信はあったんだけど、絵名のアレには勝てない。

 

 普通の人なら躊躇うようなことも選択肢に入れてるからこその強みだってわかってるから、ボクもあまり見習おうとは思わないんだけどね。

 

 

「2人っきりになった割に、瑞希が知りたいことは何も話せなくてごめんなさい」

 

「そんなことないよ、色々と聞けて助かったし……それに、今から愛莉ちゃんが知ってる中学時代の絵名の話とか、聞きたいからねー」

 

「あら、じゃあ何から話そうかしら」

 

 

 そう言って笑う愛莉ちゃんは、絵名があまり語らない中学生の時の話を面白おかしく話してくれた。

 

 ……これがまた、面白いのがちょっとずるい。

 

 

 

 でもまぁ。

 愛莉ちゃんの話を聞いているうちに──いつか、ボクも絵名も真っ直ぐ話せるようになったら良いなって思ったのは、ボクだけの秘密にしようかな。

 

 






記憶喪失えななんの秘密に迫るためのほんの少しのヒントを添えて。

次回は視点が戻ります。
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