イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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神高の噂:よく神高に遊びに来るピンク髪の宮女の子が、たまーに茶髪の宮女の子を連れてくることがあるらしい。





94枚目 魔境・神山高校……!?

 

 

 

 

 

 とある日の放課後。

 私は学校の廊下なのに、スマホを取り出して予定を改めて確認した。

 

 今日はバイトの日である。

 しかも、部屋でできるタイプではなくて南雲先生に同行して直接、依頼主と交渉するタイプの仕事だ。

 

 そして、そんな交渉相手は鳳家の人で、交渉場所はフェニックスワンダーランド。

 

 近々、フェニランにとっては大勝負とも言える、ライリー氏の最終視察が近日中にあるようで。

 今後のフェニランの為にも、宣伝用のパンフやサイトを刷新するための打ち合わせをするらしい。

 

 バイトである私はその見学というか、ただのお手伝い。ジンベエザメにくっ付く小判鮫みたいなものだ。

 それなので、今日の私はお気楽に廊下を歩いていたのだけど、その空気が一変するような相手がやって来る。

 

 

「絵名さん、絵名さん、絵名さーんっ!」

 

「わわわっ!?」

 

 

 ポーンと私の胸に向かって飛び込んでくるのは、交渉相手のご家族。というか、えむちゃんだ。

 

 倒れそうになるものの、勢いを直前で弱めてくれたのか、ギリギリ持ち堪えることができた。

 

 えむちゃんはニコニコ笑っていて無邪気っぽく見えるものの、相手をちゃんと選んでるし、見ている子である。

 

 飛び込む相手も選んでいるらしく、私が受け止める時は見た目よりも威力が弱いらしい……というのはまふゆの証言だったか。

 逆に、持ち堪えると思われているらしいまふゆには、隣で見ているこっちもビックリするロケット頭突きを放つのがえむちゃんである。

 

 それを唸り声も出すことなく受け止めるまふゆも、どうかと思うのだけど……今はそんな思考は傍に置いておくとして。

 私は威力調整済みのえむちゃんアタックを受け止めて、挨拶をした。

 

 

「おっと……こんにちは、えむちゃん。今日も元気だね」

 

「絵名さん、こんにちはっ! 絵名さんも帰りですか?」

 

「バイト先に直行だけどね。時間があれば、えむちゃんのお仕事先にもちょっとお邪魔するかも」

 

「あぁっ。そういえば今日、お兄ちゃん達と打ち合わせするんですよね?」

 

「私じゃなくて南雲先生がメインなんだけどね」

 

 

 私はいてもいなくても大丈夫なオマケ。今回は置物のようなものである。

 

 胸を張れるような立場でもないので視線を逸らすと、私の視線について来ていたえむちゃんがぐっと両手を握り締める。

 

 

「じゃあ、一緒にフェニランに行きませんか? 寧々ちゃんと一緒に行くんで、そっちの学校にも寄るんですけど」

 

 

 『寧々ちゃん』といえばこの間、えむちゃん経由で何とか再接触して、お礼の品を渡したばかりの草薙さんのことである。

 

 そしてその草薙さんといえば、彰人達や瑞希と同じ学校で同級生──神高生だ。

 つまり、今から神高に寄って、その足でフェニランに行こうというお誘いである。

 

 念の為に時計を見て、南雲先生にもメッセージを送る。

 まるで待機していたかのように爆速で返信が来て、許可をもらってしまった。

 

 ……この先生、えむちゃんには甘いところがあるから、何か察知して返信が早かったのかもしれない。

 

 何はともあれ、許可は得た。キラキラしている目でこちらを見てくるえむちゃんに声をかけよう。

 

 

「お待たせ。大丈夫そうだから、一緒に行こっか」

 

「はい! 行きましょ〜☆」

 

 

 ルンルンと校門を抜けた時の私は、まだ呑気だった。

 

 神高の門前で草薙さんが待ってるのかな、とか見当違いの方向に考えられるぐらいには、余裕があったのだ。

 

 何が言いたいのかって?

 ……まさか、えむちゃんが常習犯なんて夢にも思うまいってことである。

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

「あの、えむちゃん?」

 

「どうしました?」

 

「私達、神高に通ってたっけ?」

 

「? 絵名さんもあたしも宮女ですよ?」

 

 

 不思議そうに首を傾げるえむちゃんに、私の口角は引き攣ってしまう。

 

 

 ……さて問題です。現在、私はどこにいるでしょうか?

 

 正解は凡そ、予想できてるだろうけど。

 校門を我が物顔で抜けたえむちゃんに引っ張られて校庭にいる、でした。

 

 

(いや、普通おかしくない? え、神高って宮女と違って他校生ウェルカムだったりする?)

 

 

 だとしたら、彰人にも瑞希にも聞いたことのない新事実なのだが。

 

 我が物顔で草薙さんを探すえむちゃんに手を引かれて入って来てしまったが、絶対にそんな新事実はないはず。

 

 なのに何故か、どの生徒も当たり前のようにえむちゃんに視線を向けないので、私は頭を抱えることしかできない。

 

 気が付けばえむちゃんは草薙さんを探す為に走ってどこかに行ってしまったし、私はポツンと校庭に取り残されていた。

 

 

「──あれ、絵名じゃん。やっほー」

 

 

 えむちゃんを追いかけて校舎に入った方がいいのか頭を悩ませていると、聞き覚えのある声が耳に届く。

 振り返ると神高では恐らくレアキャラ、私にとってはお馴染みの瑞希が手を振っていた。

 

 

「え、瑞希じゃん。学校にいるとは思わなかったんだけど」

 

「ボクは単位調整の為に、ちょっとねー。そういう絵名の方が予想外でしょ。なんで宮女じゃなくてこっちにいるのさ」

 

「あー、えっと。後輩の子について来たらこんなことになっちゃって」

 

「後輩?」

 

 

 瑞希にえむちゃんの話をすると、あぁ、と手を叩いた。

 

 

「ボクも杏から聞いたことあるよ。最初は先生も追いかけてたけど、何回も来過ぎて顔パスになっちゃった宮女の子」

 

「それがえむちゃんってこと? だからここまで来れたのね……」

 

 

 でも私は初侵入なので、少々不味いのかもしれない。

 えむちゃんに連絡してから校門前まで戻ろうとしたら、つい最近見た緑髪が視界に入った。

 

 

「え、草薙さん?」

 

「あれ、宮女の子が来てるって聞いたから来たのに、どうして東雲さんが……?」

 

 

 走ってやって来たのか、少し息を乱しながら草薙さんがこちらを見ている。

 どうやら誰かから話を聞いて、急いでここまで来たらしい。

 

 首を傾げているのを見るに、草薙さんの中では神高に侵入して来た宮女の子といえば、えむちゃんなのだろう。

 

 

「草薙さんの反応を見るに、やっぱり他校生が入っていいわけないよねぇ」

 

「えぇ、ボクが言った時点で信じてよ〜」

 

「えむちゃんがあまりにも堂々と私を引っ張って入るから、1人だけの証言だとイーブンでしょ」

 

 

 入っても良い派と悪い派が均衡していたところ、草薙さんがダメだと突きつけてくれたのである。

 そのおかげで私の中の均衡が常識的な方に偏ったので、早々にこの場を立ち去らなければならないと判断できた。

 

 

「草薙さん、私が来たせいでややこしくなっちゃったみたいでごめんね。えむちゃんも一緒に来てるんだけど、入れ違いになったみたいで」

 

「あぁ、いえ。でも……えむはともかく、どうして東雲さんまで学校に入って来ちゃったんですか?」

 

「あ、はは……間抜けな話だけど、ただえむちゃんに引っ張られて来ただけなの」

 

 

 誰も彼も当然のようにこちらが学校に入ることを受け入れていたので、大丈夫なのだと勘違いした私も全面的に悪い。

 

 今、えむちゃんに草薙さんを見つけたと連絡したので、侵入者はおとなしく校門()に向かおう。

 

 

「草薙さんさえ良ければ、一緒に校門に行く? えむちゃんにも連絡したから、そこで合流できると思うよ」

 

「そうですね。じゃあ、一緒に……」

 

 

 そう草薙さんが言い切る前に、聞き馴染みのない大きな音が聞こえてきた。

 それは瑞希に勧められた特撮やら映画の中という、映像の中でしか聞かないであろう爆発音のような──爆発音!?

 

 

「なんで普通の公立高校で爆発音なんて聞こえてくるわけ!?」

 

「あー、あれは類だろうね」

 

 

 仕方がないなぁと瑞希は肩を竦めている。

 私のそばから離れていたので勝手に帰ったのかと思いきや、近くで息を潜めて待機していただけらしい。

 

 

「類って神代さんのことよね? え、神代さんが原因ってどういうこと?」

 

 

 困惑する私を他所に、草薙さんですら「あぁ、また類か……」とどこか諦めたような呟きを漏らした。

 神高で爆発音が聞こえてきたら、イコールで神代さんに繋がるのが共通認識のようだ。

 

 

「それって、共通認識になるぐらい爆発音が常日頃から聞こえてくるってこと? 爆発音が日常な学校って何!?」

 

「はは、絵名のリアクションは良いね。帰らずに待機してて良かった~」

 

「ちょっと瑞希。笑いどころじゃないんだから、笑うのはやめなさいよね」

 

 

 人の困惑を肴に腹を抱えて笑う瑞希に人差し指を指して、注意する。

 イイ性格をしている瑞希を睨みつけていると、爆発音の方向を見ていた草薙さんから声をかけられた。

 

 

「東雲さん、校門に急いだほうがいいかも……爆発音で先生が出てきたら、東雲さんもマズいと思いますし」

 

「あー、そうね。見つかるのはマズいかも」

 

「ボクも嫌な先生に見つかったら大変だし、類達に引き付けてもらわなきゃ」

 

 

 それぞれの思惑でそそくさと校門に向かう中、先ほどの爆発音よりもさらに大きな音と共に、今度は何かが宙を舞った。

 

 

「え、あれって……」

 

 

 私の見間違いでなければ、人が跳んでいるように見える。

 影からは「ぬぅぉぉおおお~~ッッ!?」とすぐ近くで叫んでいるような大きな声が聞こえてくるし、人であることは確定だ。

 

 さらに、あの人影に見覚えがあるのか、草薙さんが呆れの籠った溜め息を零す。

 

 

「はぁ。これからステージ練習もあるのに、2人揃って何やってるんだろ」

 

 

 あの大声と金髪、草薙さんの反応から推測するに──今、宙を舞っているのは天馬さんだろう。

 

 

(……神高は爆発音が日常的に聞こえてくるわ、人が空を舞うわととんでもないところね)

 

 

 宮女からちょっと距離があるだけの共学校だと思っていたが、私の認識が甘かったらしい。

 ここまでの魔境だとは思っていなかった。恐るべし、神高。

 

 

「わーい」

 

 

 そんなことを頭の中で考えていたら、追加で宙を舞う鮮やかなピンク髪が見えた。

 いや、そこで宮女も対抗するんじゃない。お陰で校門前まで何事もなく来れたけど、私の口角が引き攣ったまま戻らないではないか。

 

 

 ──結局、天馬さんに続いてえむちゃんまで飛んでいたせいで、合流するのは結構時間がかかってしまった。

 

 何とか先生を巻いてきたえむちゃんが校門に合流する頃には瑞希も帰っていたので、私達は予定通り、3人でフェニランに行くことになった。

 

 なお、後日草薙さんから聞いた話なのだけど……あの後、真面目に1人だけ歩いて逃げていた天馬さんだけ練習に遅れて来たらしい。

 あの爆発音はステージに使う予定の試作品だとも聞いたので、もう少し音を抑えた方が良いのではないかと提言しておいた。

 

 

 

 ……彰人もあんな魔境的学校で苦労してそうだし、ちょっとは優しくしてあげよう。

 そう思う1日だったのは、草薙さんには伝えなかったけど。

 

 

 






イメージ:神山高校、エリア会話にて。瑞希さんと草薙さんと宮女のえななんの組み合わせで聞ける。
原作では神高生(夜間)なのでセーフ……?

次回はレオニのところにかるーくお邪魔してます。
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