イラスト担当は記憶を無くしました   作:大森依織

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カーネーションって絵名さんほぼ関係ないので。
奏さんと瑞希さんの間に割って入るのも何かが違う気がしましたので、外野から残りの2人で観戦してます。




99枚目 雨天決行

 

 

 

 

 何だか奏に引っ張られてまふゆもぼんやりと考えている時間が増えているみたいなので、今日は強引に外に連れ出した。

 

 

「ねぇ、絵名」

 

「何よ」

 

「雨の日なのに、何で外でスケッチするの?」

 

 

 傘を差して歩くまふゆは至極当然のことを言う。

 

 それもそうか。雨の中なのに画材が濡れるようなことをするもの好きなんていない。

 そもそも雨の日に出かけようとなる人の方が少ないのではないのだろうか。

 

 

「でもあんた、部屋とか図書館にいても、勉強に集中できずにボーっとしてるだけでしょ」

 

「……別に、セカイでも良かったと思うけど」

 

「なんでもかんでもセカイでっていうのも、味気ないでしょ」

 

 

 セカイはセカイで静かで落ち着くけれど、こういう雨の音を聞き、緑に囲まれて静かに過ごすのも悪くはないだろう。

 勉強しなきゃ~と考えなくてはいけない空間に身を置くよりも、良いのではないかと私は思うのである。

 

 それに、まふゆ自身も口では色々と言っているものの、そこまで反対ではないのか昨日聞いた時点でも「行く」の一言だったし。

 色々と言っても行きたくないではなくて「どうして行くのか?」という疑問を解決したいだけのようだし、目的地に辿り着けば解決だ。

 

 まふゆの問いかけをのらりくらりと躱して、目的地である乃々木公園に入った。

 雨が降っているので人が少なく、すれ違う人も公園が目的というよりは近道とかで歩いているだけらしい。

 

 

(これなら、目的の場所は空いてると思うけど……うん、空いてたわね)

 

 

 この乃々木公園にはいくつか屋根のあるベンチがある。

 さらに、花壇の近くの屋根付きベンチは景観を崩さないために、藤棚みたいになっているところがあるのだ。

 

 そこから見る花壇などの景色はかなり綺麗で、雨の日に見ても雨の音と濡れた植物達の姿が幻想的で、私は好きだった。

 

 雨が降っていることもあって、ほんの少し濡れてしまっているベンチにブルーシートを敷いてからその上にバスタオルも重ねる。

 

 ここまで重ねたら座ってしまったせいで濡れた、といった事故は防げるだろう。

 

 ボーッとこちらを見ているまふゆを手招きして、ベンチの隣に座らせた。

 

 

「じゃあ、私はスケッチするから。まふゆも絵でも描いてみる?」

 

「ううん。思ったよりも勉強できそうだから、こっちにする」

 

「えぇ……こんな日のこういう場所でも勉強するなんて、とんでもないわね」

 

 

 まるで鈍器のような参考書を取り出して、膝の上に広げるまふゆ。

 私もこいつに追いつこうと勉強するようになったものの……流石にこんな場所でまで勉強する気にはなれない。

 

 わかりやすいぐらい顔が歪んでいたのか、まふゆは不思議そうに首を傾げた。

 

 

「こんな日に公園でスケッチしようとする絵名と同じだと思うけど」

 

「いや、それだと好きなものや趣味が勉強ってことになっちゃうんだけど。まふゆは勉強が好きなの?」

 

「さぁ?」

 

「さぁって……まぁいいけど」

 

 

 まふゆが勉強をすると言うのであれば、無理矢理連れ出してきた私が何かを言うのは違うだろう。

 普段行かないような場所で勉強するだけでも違うだろうし、わからなくても気分転換ぐらいにはなるはずだ。

 

 私は改めてスケッチブックに向かって雨の中の花壇の風景を描いていく。

 下描きのあたりを付けて紙に鉛筆を走らせていると、ふと、横から熱い視線が向けられていることに気が付いてしまった。

 

 何があったのかと顔を上げると、視線の主は素知らぬ顔で視線を私から参考書へと移動させる。

 気のせいか、と普段の私ならそう思うのだろうが、絵を描き始めた時からページが全く進んでいない。

 

 どうやらまふゆは勉強するフリをして、私のことを見ていたようだ。

 まるで巧妙に授業をサボろうとする私みたいなことをするんだな、なんてことを思いつつ、鉛筆を脇に置いた。

 

 

「もしかしてー、私が何を描いているのか気になったり?」

 

「別に。そこまで気にしてない」

 

「そこは嘘でも気にしてるって言いなさいよ」

 

 

 私の絵の内容が気になっているわけでもないのであれば、どういう理由で熱心にこちらを見つめていたのやら。

 まさか自分のことを観察しているはずがないと、ここでも自己評価が邪魔していることに私は全く気が付かないまま、まふゆから視線を外した。

 

 

「ここから見える花壇って大きいし、種類が多いでしょ」

 

「全く同じものはなさそうだね」

 

「そうなの! 晴れている時は近くで見るのもいいなって思うんだけど、雨の日はこれぐらいの距離から見ていると、雨粒や水に光が反射して綺麗なのよね」

 

 

 この綺麗な景色を見たことのない人に伝えられるほどのものを、納得できるぐらいの絵を描くことができなかった……というのもある。

 だけど、どうせ奏の曲のことで悩んでいるのであれば、まふゆにも見せてやろうと思ったのが今回のきっかけだった。

 

 私が見て、感じていることがまふゆにも共有できるかはわからない。

 

 でも、もしも。

 何かがまふゆのヒントになる可能性もあるのであれば、こういう小さなことでも見ていて損はないはずだ。私はそう信じたい。

 

 

「──だから、私はここが好きなんだけど、まふゆはどう?」

 

「どうなんだろう、わからない。けど……悪くはないんだと思う」

 

「そっか」

 

 

 最初の頃に比べると「わからない」でバッサリ切り捨てない分、随分と成長したものだ。

 

 だからこそ現在、まふゆもぼんやりと考えているし、奏も悩むことになっているのだが、どうしてもこういうところは奏任せになるのがもどかしい。

 

 

 ──誰かの想いによって、まふゆが自分をわからなくなったのであれば。

 まふゆが自分を見つけるきっかけになるのもまた、誰かの想いだろうから。

 

 

 奏の(想い)が届くように、私もまた自分なりにまふゆに想いを伝えていこう。

 もどかしかろうが何であろうが、今、自分にできることをするしかないのはどこでも同じなのだ。

 

 

「……あ」

 

 

 私も絵を描く手を止めて考え事をしていたら、まふゆが突然、短く声を出した。

 

 

「何、どうしたの?」

 

「あそこ」

 

 

 まふゆの細くて長い指の先には、2つの傘が並んでいた。

 その傘の中にはここにいるとは思えないような、見覚えのある顔が並んでいる。

 

 

「もしかして、奏と瑞希?」

 

「だろうね」

 

「こんなところであの2人がいるなんて、珍しい組み合わせよね」

 

「そもそも、奏が外に出るのが珍しいと思う」

 

 

 確かにまふゆの言う通り、奏が外に出ているのは珍しい事ではあるけれども、それは言ってはダメだろう。

 こちらが敢えて言っていなかった言葉を言っても、横目で確認したまふゆは平然とした顔で2人を見ている。

 

 わからないというのは本当に強い。見習いたくはない強さだけど。

 

 そう思ったことは一旦飲み込んで、再度、自分の目を横から前へと向ける。

 何かを探すように動き回っていたのに、前を見た時にはもう、奏と瑞希の傘は白色のカーネーションの花壇の前で止まっていた。

 

 

「カーネーションって他の花と一緒で色によっても花言葉はあるけど、本数でも意味があるのよね」

 

「……絵名って問題の答えはすぐに出てこないのに、花言葉とかはすぐに出てくるよね」

 

「もうちょっと上手く褒められないわけ? ……まぁ、西洋の美術は文字とか直接的なものを使えない分、動物とかそういうのにメッセージを入れるのよ。だから、こういうのはすぐに出てくるってだけ」

 

 

 どれだけ頑張っていても、やっぱり好きなものには敵わないのかもしれない。

 

 

(それにしても、白いカーネーションね)

 

 

 それは仕方がないので置いておくとして、私は気になったことを改めて考える。

 白のカーネーションといえば「純粋の愛」や「尊敬」、「私の愛は生きています」という言葉がある。

 

 だけど、その花言葉以外にも亡くした母や子を偲ぶという意味もあるらしい。

 そういう意味を知っていたせいか、杞憂のようなひらめきが頭の中に舞い降りる。

 

 

(病院で何かあって、瑞希が付き添ってるとか? いや、考え過ぎか)

 

 

 遠目から見た奏は悲壮そうな顔というよりはどこか穏やかな顔をしているし、最近の曲を作らなくてはという思い悩んでる様子もない。

 逆に、今日ここに来たことによって何かを見つけられたような、そんな顔をしている気がする。

 

 まだまだ降り続けるのではないかと思われた雨も、奏の気持ちに呼応するように晴れているし、私が何かをしなくても解決してしまいそうだ。

 

 

「まふゆ、雨も止んじゃったし公園から出よっか」

 

「奏達には声をかけなくてもいいの?」

 

「瑞希と2人で来てるところを邪魔するのもね」

 

 

 どうやらルカの言葉と瑞希のサポートで奏も突破口を見つけたようだし、今、まふゆと鉢合わせさせる理由もない。

 

 

「今日見たことは黙って、奏の曲が完成するのを楽しみに待ちましょ」

 

「奏の曲の完成を待つのはいい。だけど」

 

「だけど?」

 

「建前じゃなくて、本音は?」

 

 

 雨上がりの空の下、ベンチの屋根から出る私の手を掴み、早く吐けと言わんばかりにじっとこちらを見つめてくる、青い目。

 

 何となく真っ直ぐ見てられなくて、そっと視線を逸らしつつ、私は口を開いた。

 

 

「実はこっちが予想してたのが全部勘違いで、なんか2人がいい感じの雰囲気になってたりしてたら、気まずくない?」

 

「……絵名」

 

「いや、だって。2人の会話なんてこの距離から聞こえないし! もしかしたらもしかするでしょ!」

 

「そもそも、どうして2人揃ってたらいい感じの雰囲気とかの心配をするの?」

 

「うぇっ!?」

 

 

 まるで無垢な子供みたいに問いかけてくるまふゆに、私は間抜けな声を出してしまう。

 

 そうだ、まふゆはわからないし知らないんだった。

 知ったところで「ふぅん、それで?」と言う姿しか想像できないけど、私の口から言うのも憚られる。

 

 

「まふゆ、まだわからないことが多いあんたには早い世界があるの。だから、今日は声をかけずに退散するわよ」

 

「……今の絵名の方がわからないんだけど」

 

「わからない方がいいことだってあるってことよ」

 

「……そうなの?」

 

「そうなの」

 

 

 まふゆがわかっていないことを良いことに、私は上手く彼女を丸め込むことに成功する。

 口は災いの元だとよく言うが、最近はそう思うことばかり言ってしまっている気がする。

 

 

(気をつけよ)

 

 

 ……そう思っても、思ったことを隠せるほど器用な人間じゃないってことも、自覚してるんだけども。

 

 

 

 






雨の日は雨の音とか雨が降ってるのを見ていると落ち着くので好きです。
……でも、行き帰りが土砂降りだと嫌になるので、やっぱり嫌いかもしれません。

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