ラモーヌさんとアルダンさんの姉妹の間に挟まれたメジロに転生してしまったお話 作:雅媛
「マーリンお嬢様、こちらがお話した漢方薬です」
「ありがとう、主治医さん」
漢方薬は、すぐに届きました。
手のひら大の袋に小分けにされた漢方薬です。それが七袋渡されました。
袋の中には植物の干物みたいな塊がいっぱい入っています。
「これ、どうすればいいの?」
粉薬をイメージしていたボクは、渡された薬の飲み方がわかりませんでした。
塊は大きいわけではありませんが、直接飲むのは辛そうな大きさです。
「煎じて1日3回飲んでください」
「煎じる?」
煎じる…… 聞いたことない方法でした。緑茶なんかを煎茶、というし、お湯に入れるのでしょうか。
不思議に思っていると、主治医さんが大きな陶器製の急須みたいなものをくれました。
「この土瓶を使って、煮るんです」
「普通に煮るんですか?」
「いえ、今回の場合、一緒に入れる水が半分ぐらいになるまで、大体1時間ぐらい煮てもらいます。そのあと漉して、液体部分を毎食前三回に分けて飲んでください」
「ほえー」
急須みたいな、薬缶みたいなもの、土瓶というらしいですが、これ自体がかなり大きいです。1リットルぐらい入るのではないでしょうか?
これで漢方を煮詰めてその煮詰めた汁を飲むようです。かなり手間のかかる方法ですね。
「マーリンお嬢様、お預かりしますね」
「お願い、安心沢さん」
渡された土瓶を抱えながら眺めていると、ボクたち三姉妹担当メイドの安心沢さんが声をかけられました。ただ飲むだけならまだしも、煮詰めるとなると火を使う作業ですから、さすがに4歳児ができるものではありません。作業自体は大人であるメイドさんに頼む必要がありますから、ボクはメイドさんに土瓶を渡します。
「何か不明点ございましたら、またお声がけください。一週間後に様子を見に来ます」
「ありがとうございます、主治医さん」
主治医さんは挨拶をして帰っていきました。メジロの主治医だけでなく、ご自身の病院もあるから忙しいのでしょう。そうして手元には、漢方薬が残りました。
「早速煎れてみましょうか」
「あ、ボクも手伝いたいな」
「火の近くには寄ってはいけませんよ」
「はーい」
メイドさんが早速煎れてくれるようですから、ボクも手伝いと称してその様子を観察することにしました。
談話室に併設されている台所に移動し、早速ボクは漢方薬の袋を開けます。赤・黄・白・黒など、さまざまな色をした謎の物体が中に入っていました。においをかぐと、かなり独特のにおいが鼻を衝きます。薬、というよりスパイスのような香りでした。
「えっと、水600ccを土瓶に注いで、そこにその袋を入れるだけで良いようです」
「はーい」
メイドさんが説明書のようなメモを片手に、計量カップで計りながら土瓶に水を注いでいきます。
土瓶に水が入ったら、漢方薬を入れて、あとは煮詰めるだけです。
「半分程度の分量になるまで煮詰める、と。大体1時間ぐらいかかるようですね」
「本当に時間かかるねぇ」
「完成するまで、お茶でもしながらゆっくり待っていましょうか」
「はーい」
ガスコンロに火をつけながら、キッチンタイマーを1時間とセットします。あとは時々様子を見るだけなので暇なのですが、火を使っている以上近くから離れるわけにもいきません。なので、メイドさんと、台所でお茶を飲むことにしました。
お茶を淹れるため、メイドさんが土瓶の隣で薬缶に火をつけます。紅茶は個人的にとても好きな飲み物です。あまり高いのは香りが強すぎるので安物のティーバッグのほうが好きなのは、前世から引きずる貧乏舌なのでしょうか。ちなみにラモーヌ姉さまは味がわからない人なので高い紅茶だというと普通に飲みますし、アルダンは特に胃腸が弱いせいか紅茶自体あまり得意ではありませんので、白湯を飲んでいることが多いです。こんな三姉妹なので、ボクたちがよく使うミニキッチンであるここに常備されている紅茶は安物のティーバッグだけだったりします。
お湯が沸けるまで、適当に本でも読んでいようかな、と思い本を取り出しましたが…… すぐに異変に気付きました。
「……くちゃい……」
「かなりにおいがしますね」
この漢方薬、煮る前の状態だとそこまで強い匂いではありませんでしたが、煮始めてしばらく経つとすさまじい臭いがし始めたのです。しかも何というか、かなりスパイシーで刺激的だし、若干薬っぽい感じも混ざった、端的に言うと悪臭です。
慌ててメイドさんが換気扇をフルで回し始めましたが臭いは一向に良くなりません。
「もしかして、これで60分……?」
「一応現在5分経ちましたから、あと55分です」
「あまり変わらないよ……」
鼻をつまめば臭いはしなくなりますが、それはそれで息苦しいし……
とはいえこの地獄のような状況に、メイドさん一人置いていくのもどうかと思いますし……
確かにこの臭いだけでも、主治医さんが難色を示すのがよく分かります。同時に、これだけの臭いだと味はどんなものなのだろうかと恐怖を覚えます。
「安心沢さん、大丈夫?」
「耐えられないほどではないですね」
「すごいね……」
「お嬢様は子供ですし、ウマ娘ですから感覚が鋭敏なのかと」
そうはいっても限度があると思うのですが。あまりにひどい臭いに涙が出てきました。
「お嬢様、談話室に避難していてくださいな」
「でも安心沢さんだけここに置いていくのは……」
「大丈夫ですよ」
尻尾が引かれる思いですが、さすがにもう耐えきれなかったので、ボクは談話室に撤退しました。
談話室に移動するとラモーヌ姉さまとアルダンがウマ娘をダメにするクッションの上でダメになっていました。多少体調は良くなったらしく、ベッドから起き上がってきたようです。クッションの上でダメになってたら同じな気がしますが……
「ラモーヌ姉さま、アルダン、体調は良くなったの?」
二人に声をかけると、二人はこちらを向き、そして顔をしかめました。
「マーリン、臭いわよ」
「お姉さま、臭いです」
愛しの姉と妹にこう言われ、ボクは泣いた
しばらく煮ている現場にいたから臭いが移ってしまったのでしょう。
ボクの嗅覚は死んでいますが、よほどひどいのだろうと思いました。