ラモーヌさんとアルダンさんの姉妹の間に挟まれたメジロに転生してしまったお話 作:雅媛
レースが終わったら健康診断です。
レースというのは極めて負担がかかる行為であるため、自分でも気づいていない怪我をしていることが少なくありません。それが骨折や肉離れだとのちの影響も大きいですから、早期発見早期治療が大事です。そんな検査のために、メジロはお医者さんまで囲い込んでいるのです。
ということで、選抜レースの翌日、ボクとラモーヌ姉さまは主治医さんのところに来ました。最近は健康優良児ですから、特に何事もなく終わると思っていました。現にラモーヌ姉さまは何も問題なしで終わったのですが……
「マーリンお嬢様は過労ですね。入院か、痛いお注射打って休むか、どっちがいいですか」
「え、なんで?」
主治医さんからのドクターストップが入りました。
「おすすめは痛いお注射打って入院ですね」
「そんなに状態が悪いですか?」
「今はまだ強い自覚症状が出ていないでしょうが、このままいくと近いうちに倒れますよ」
まあ最近かなり疲れてるなーという感覚はありましたが……
「授業受けて、トレーニングして、ラモーヌお嬢様のトレーニングプランを立てて、生徒会の仕事をやって、かなりギリギリなのにレースまでなんて無理しすぎですよ」
「最近はクラスメイトのトレーニングプランも考えてるわよ、この子」
ラモーヌ姉さまからのチクりを聞いて主治医さんがボクをにらみます。
だってクラスメイトとは仲良くしたいじゃないですか。
「お嬢様の体質改善はうまくいきましたが、それでも大本が虚弱体質だった事実は変わらないんです。あまり無理をしすぎると再発する可能性がありますよ」
「うう、ごめんなさい」
「来月からちゃんと通ってくださいね」
毎月通っていた主治医さんの定期健診を入学後全部さぼっていたのもお怒りの原因でしょう。反省しないといけませんね……
「おばあさまにも言われたでしょう? 好奇心を抑えなさいって」
「そうですけど……」
入学時におばあさまからメジロのウマ娘へアドバイスをされるのがメジロの伝統です。大体は長所を伸ばすように、もしくは短所を補うようにアドバイスされるのですが、ボクの場合は「好奇心を抑えなさい」でした。でもやりたいこといっぱいあるしなぁ……
「今の状態でもオーバーワーク気味です。これにレースを始めれば体を壊してしまいますよ。デビューが近くなったら仕事の整理をしてください。今のままではとても許可できません」
「うう…… ライオン丸は平気な顔してやってるのに……」
「ルドルフさんはトレーナー家業はしていないでしょう。それに頑丈なあの方と、もともと病弱だったマーリンお嬢様は根本的に差があります」
「そうですけど……」
今抱えているタスクを調整しないといけなさそうです。デビューはするとしても早くてもラモーヌ姉さまの翌年にしようと思っていますから、調整する余裕はありそうです。
「さて、じゃあお注射行きましょうかね」
「ちょ、それはちょっと大きすぎる!?」
それは お注射と言うには あまりにも大きすぎた
大きく ぶ厚く 重く そして 大雑把すぎた
それは 正に ……
「ちくっとしますからね」
「ちくっとっていうレベルじゃないでしょそれ!!」
ブスッ
「にぎゃあああああ!!!」
ボクの叫び声が病院内に響きました。
ということで、お注射は痛かったですが入院はどうにか回避できましたので、タスクの見直しです。来月には主治医さんに何を変えたか報告しないといけないですし、内容次第ではあの注射というには烏滸がましい何かをぶち込まれるのでそれなりにがんばりましょう。
まずは授業です。一部ですが授業免除を使うことにします。一般的な授業はいいですが、さすがにレース知識やトレーニング知識の授業は暇すぎるので、全部免除してもらいましょう。トレーナー資格持ってますから簡単に申請通りますし、トレセン学園のカリキュラムは午前中が一般的な授業、午後がレース理論やトレーニングなので、これで午後が丸々空きます。
トレーニングも減らしましょう。ラモーヌ姉さまに付き合っての併走に加えて同期トレーナーの勉強会での新しいトレーニングの実験で走り回っていましたが、後者の方は今後ボクは走らないようにします。トレーナーなりたての頃は人脈がありませんでしたが今は頼めるウマ娘もいますからね。クラスメイトに頼んでもいいですし。
「うーん、一応多少はマシになったけど……」
トレーナーとしての仕事はこれ以上削るのは難しいでしょう。
とするとどうにかするのは生徒会のお仕事になります。最近はシリウスさんのお仲間なんかも手伝ってくれるのでそれなりに楽には…… あまりなっていないですがシリウスさんのお仲間がトラブルを起こす量が減ったのでそれはそれで仕事が減っています。
ある程度形ができたのでルドルフに投げ返すことも考えましたが、彼女は彼女で今菊花賞に向けて最終調整中です。無敗の三冠がかかっている状況で仕事を増やすのもどうかなぁと思ってしまいます。
仲は悪いですが足を引っ張りたいわけではないですし。
「ぷえ~」
まあひとまずはどうにかなるだろうということで、生徒会室の隅っこで、持ち込んだウマ娘をダメにするクッションを抱きしめながら寝転がります。
ここの絨毯は物がいいので寝転がってもいいんですよねぇ…… そんな感じに休憩していると……
「クッションはっけーん」
「にゃあああ!?」
いきなり誰かに上から抱きしめられました。
誰だかわからず思わず変な叫び声をあげてしまいます。
生徒会室に入ってくる人なんて非常に限られています。そのうえで、ボクが寝転がっているクッションの上に飛び乗ってくる人なんて思い当たる人がいませんでした。
「だ、だれですか!?」
「ん? クッションがしゃべった?」
「クッションじゃないです! ウマ娘です!!」
慌てて引きはがして不埒ものから遠ざかります。
白いハットの髪飾りが特徴的なその不埒ものは……
「……ミスターシービー会長?」
「あれ、私のこと知っているの?」
生徒会長のミスターシービーさんでした。
「いや、知っているのも何も、結構前に副会長に任命されたメジロマーリンですよ!?」
「あー、ルドルフからそんなの来てたね。初めましてマーリン。生徒会長のミスターシービーだよ」
「この人、何も知らないのにサインしたんだ……」
一応ボクはこの人から任命されているはずなのですが、本人が顔もわからないというのはいいのでしょうか。今年の初めから長期休養中で学校に来ていなかったのは知っていますが、写真ぐらいはルドルフが送っていると思うんだけどなぁ……
「で、抱き心地抜群の副会長はこんなところでなんでクッションになってたの?」
「ただ仕事の合間に休憩していただけですよ」
「なるほど。お疲れ様」
机の上に残った書類を確認し始めるシービーさん。
そばにあったボールペンを手に取ると、さらさらとサインをしていく。
「中身確認しなくていいんですか?」
「大体わかるよ。これとこれは差し返して、あとは通してあげて」
「天衣無縫すぎる……」
レースでは天衣無縫の豪脚といわれる素晴らしい追込みを魅せるシービーさんは、私生活でも自由なようです。まあ、会長がサインしたなら粛々と進めるだけですけどね。資料も見ずにゴーサインでいいのか不安ではありますが。
「私も今日から復帰するからね。困ったことあれば手伝うよ」
「いえ、シービーさんも復帰戦忙しいでしょうから……」
「少しぐらい手伝う余裕はあるよ。まあ、仕事がなければクッション抱っこしに休みに来るから」
シービーさんはシービーさんで秋の天皇賞、そしてジャパンカップから有馬記念を目標に頑張っているはずです。トレーニングも忙しくなると思いますが、仕事はしてくれるつもりのようです。
まあ手伝ってくれるならいいか、と思っていましたが、翌日から毎日クッション代わりに抱っこされるようになるとはボクは予想できていませんでした。
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