ラモーヌさんとアルダンさんの姉妹の間に挟まれたメジロに転生してしまったお話   作:雅媛

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12 勝って失ったもの 負けて得たもの

「よかったのかい? おハナさん」

「なにが問題だと思ったの? ルドルフ」

 

 東条ハナはあえて惚けた。ルドルフが何を言っているかわかっていながら、である。

 

「ラモーヌはどんどん強くなるよ」

「わかってるわよ」

「今回のは切り札(ジョーカー)だったはずだ」

「そうね」

 

 メジロラモーヌが史上初のティアラ三冠を目指しているのは聞いている。それが与太話ではないのは彼女の強さからわかっている。

 ダイナムヒロインだってとてもいいウマ娘だ。例年ならティアラの一つや二つ取れるだけの才能と努力する力がある。だが、あのメジロの至宝に比べればどうしても劣る。それこそ、目の前の皇帝の前ではどんなウマ娘も色あせて見えるように。

 そんな彼女に一泡食わせてやれるのが今回の手であった。

 

「絶対強者だからこそ、力量差すら理解して全力で戦いに来る愚者(主人公)に負ける」

「ジャイアントキリングはヒロイン(主人公)の特権さ。特にラモーヌは、妹たちから愛されはすれ、妹たち(格下)から本気で挑まれたことなんてないからね」

 

 メジロラモーヌは無敗ではない。だが、彼女が本気で負けたことがある相手はシンボリルドルフやシリウスシンボリといった、年上で負けてもしょうがない相手しかいない。その無意識の傲慢が明確な隙となり、今回彼女はそこを突かれたのだ。

 

「でも、こんな手口、2回も3回も使えるものじゃないよ」

「当然よ、今回だけでしょうね」

 

 おそらく今回の敗因を一番痛感しているのが本人だ。そして、次からはさらに強く弱点が無くなった女王が立ちふさがることとなる。絶対強者こそ、一番努力し、一番進歩するものなのだから。

 だからこそ、もっといい切りタイミングがあったはずなのだ。例えば年末の阪神ジュニアステークス*1や、ティアラ三冠のどれかのレース、といったタイミングだ。

 女王に勝てる切り札(愚者)が使えるのは一度きりなのだから。

 

「なぜ、おハナさんがあそこで切ったのか、それがわからない」

「本当に? あなたにもかかわる話なのに」

「?」

「借りがあるからよ、私も、あの子も」

「……なるほど」

 

 メジロラモーヌにでは当然ない。彼女のトレーナーであるメジロマーリンにである。東条ハナは、ルドルフの負担を減らすために生徒会へ引き込んだこと、ダイナムヒロインは東条ハナと契約前にトレーニングを見てもらっていたこととトレーナーを紹介してもらったこと、これらは借りであると認識していた。

 今回、担当であるメジロラモーヌの明確な弱点を指摘したのだ。借りは一つ返したといえるだろう。勝つことはついででしかない。

 

「そういえば」

「なんだい?」

「ルドルフはそういう隙は会ったころからなかったけど、だれに負けたの?」

 

 東条ハナが知るシンボリルドルフは最初から皇帝であった。当然誰にでも勝つ、といった風にしか見えなかった。そんな彼女が格下を侮らないわけがない。しかし、東条ハナがシンボリルドルフにあった時にはすでにそういう隙は無かった。その理由が気になったのだ。

 

「メジロマーリンに、だよ」

「ふふ、そうだったのね」

 

 シンボリルドルフの、メジロマーリンに対する複雑な感情が垣間見え、東条ハナは笑った。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

「ボクは貝になりたい……」

「そんなことないわマーリン、ほら、お寿司行きましょうお寿司」

「そうですよマーリン姉さま、悩むなら一緒に走りましょう」

 

 ラモーヌ姉さまの敗戦に一番ショックを受けたのはボクでした。ラモーヌ姉さまがもう少し後ろ向きだったら気合を出してがんばっていたかもしれませんが、なぜかラモーヌ姉さまは負けたのに終始嬉しそうで、ダイナムさんとも楽しそうにお話しているのを見ていたら、すごい罪悪感に耐えきれなくなりました。

 アルダンだけでなくラモーヌ姉さまに慰められているのがまた心に来て、部屋の隅っこで布団被り状態になっています。意外とボクもメンタルが弱かったようです。

 

「お嬢様方、どいてください」

「主治医?」

「マーリンお嬢様、お注射の時間ですよ」

「!?」

 

 そんな布団をかぶっていたら、主治医さんが特大のお注射を持ってきました。実力行使かよ!?

 前も受けた、あの無駄にデカくて大雑把な漫画みたいな注射がボクに迫ります。

 

「ちくっとしますよー」

「やだー! 死にたくなーい! ぎゃあああああ!!!」

 

 反抗するまでもなくお注射を打たれて、ボクは悶絶するのでした。

 

 

 

「うじうじ悩んでいるのは主治医としては不健康ですので、ちゃんとお話合いしてそのあとおいしいものを食べに行きましょう」

「はい」

「はい」

「はい」

 

 人はウマ娘に勝てない? あれは絶対嘘です。だってウマ娘はお注射に勝てなくて、お注射は主治医さんが使うものです。ですからウマ娘は主治医さんには勝てないのです。これ以上うじうじしているとお注射がもう一本飛んできそうなので、ちゃんとお話合い、というか反省会をしましょう。

 

「それでお姉さまが負けた理由なのですが、正直よくわからないんですよね……」

 

 レースプランも完璧。調子も良い。実力もヒロインさんを一枚上回っている。負ける要素がないように思います。

 

「マーリンにはわからないのね」

「姉さまにはわかるのですか?」

「わかるわ。アルダンは?」

「多分ですが……」

「え、ボクだけわかってないの!?」

 

 頭の良さを鼻にかけていたつもりはありませんが、とはいえトレーナー資格を取ったことはボクにとってアイデンティティの一つです。なのに姉にも妹にも原因がわかって自分がわからないというのはかなりショックでした。やっぱり貝になろうかなと一瞬頭によぎりましたが、視界の隅に巨大なお注射が見えたので気を取り直します。

 

「多分、勝ちたいという気合いの差です」

「気合い…… 勝負根性? 姉さまがそれに負けると思えないけど。確かにヒロインさんの気合はすごかったけど、ルドルフとかシリウスさんとかに比べればまだまだでしょう?」

「それはそうなのだけれども…… 格上から向けられる負けられないという気持ちと、格下から向けられる勝ちたいという気持ちは全く違うのよ」

「……うーん」

 

 いまいちピンときませんが、それ以上にラモーヌ姉さまの恍惚の表情が何というか、やばいです。少し紅潮して微笑む姿は、他人に見せていけない魔性の表情です。長年付き合いがあるボクやアルダンでもぼーっと見惚れてしまいます。

 

「もちろん私に油断があったわ。旅行楽しみすぎたわね」

「ごめんなさいラモーヌお姉さま」

「アルダンは悪くないわ。楽しかったし、油断しすぎたのは私のせいよ」

 

 原因は何となくわかったようなわからないような……

 ですが、一番の問題は改善方法です。心構えだけで変わるでしょうか。

 

「今後のトレーニング、どうしましょうか」

「そうね、マーリン。あなた、私のために頑張れる?」

「もちろん」

「じゃあ本気の私に勝てるまでトレーニング、頑張って」

「わかりまし…… え?」

「本気で勝ちに来る格下との経験が必要なのよ。だからマーリンが私に勝ちにくればいいわ」

 

 言いたいことがわかるようなわからないような……

 

「がんばってください、マーリンお姉さま!」

「がんばってね、マーリン」

 

 なぜかボクが頑張ることに決まってしまいました。

*1
史実ではこの時期は阪神3歳ステークス。牝馬限定の阪神3歳牝馬ステークスになったのが1991年なので実はこのころはまだ牝馬限定ではありませんがそこは見なかったことにしています。このころは西の三歳馬の頂点を決めるレースで、最後に勝ったのがゴールドシチーです。




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