ラモーヌさんとアルダンさんの姉妹の間に挟まれたメジロに転生してしまったお話   作:雅媛

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第六部 年の終わりにおこること
閑話 無敗の皇帝の神話が破れるとき


 メジロラモーヌはレースを愛している。

 愛とは一方的なものである。相手に無償で何かを捧げる行為である。

 対価など考えることもない。ただただ、全力で、レースにすべてをささげるのだ。

 それがメジロラモーヌであった。

 

 だからこそ、函館での敗戦はメジロラモーヌに衝撃を与えた。

 負けたという結果自体はどうでもよいのだ。

 メジロラモーヌはレースを愛しているのだ。

 頑張ったからいい結果が出る、というのは愛ではない。

 だから、1着になろうと最下位だろうと価値は等しい。

 だが、直線でダイナムヒロインに抜かれたときに気づいてしまったのだ。

 自分が惑っていることに。

 

 それはメジロラモーヌにとって衝撃だった。

 少し考えればいろいろなことが思い浮かぶ。

 

 相手を侮ったこと

 観客を意識しすぎたこと

 そして何より、愛する妹の期待に応えたくなってしまったこと

 

「魔性なんて、あの子にこそふさわしいわ」

 

 メジロマーリン

 レースに愛され、しかしレースを愛さないかわいい妹に、メジロラモーヌは惑わされたのだ。

 それはメジロラモーヌにとって驚愕の事実であった。

 自分は何よりもレースを愛していると思っていた。

 妹たちもかわいいが、レースに対する愛には劣ると思っていた。

 だが、彼女はそれを覆したのだ。

 

「本当に困った子ね」

 

 別に彼女が悪いわけではない。今回のことで、メジロラモーヌは自分の愛を再確認した。きっと二度と、このような無様は犯さないだろう。

 だからこそ、メジロラモーヌは、メジロマーリンにも、ダイナムヒロインにも感謝をしていたし、あのレースは無様な黒歴史であると考えていた。

 

「惜しかったね、ラモーヌ」

 

 だからこそ、その言葉が許せなかったのだろう。

 

「本来の力を出せていれば君が勝ったはずだ」

 

 そしてメジロラモーヌは、彼女がすぐに痛い目に合うのだろうなと何となく察したのであった。

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 その年の天皇賞秋はシンボリルドルフが圧倒的人気を誇っていた。G1を6勝した無敗の三冠ウマ娘が負ける姿なんて誰も予想していなかった。

 8枠17番と、大外が絶対的に不利といわれる東京2000mで大外を引いたことすらマイナス要素と考えられていなかった。

 

 ライバルとなるのは小内トレーナーの管理するマイルの絶対王者ニホンピロウイナーぐらいだろうが、本質がマイラーどころかスプリンターな彼女では2000mでシンボリルドルフと勝負するのは難しいだろうというのが大方の予想であった。

 

 ほかの人気ウマ娘、ウインザーノットや、ルドルフの同期のゴールドウェイ、スズマッハ、スズパレードなどは重賞クラスでしかなく、ルドルフ相手には力不足感が否めないというのが大方の予想であった。

 

「ルドルフの負けず嫌いは常軌を逸するほどですから、並ばれたら確実に競り負けますし、先行したら絶対に並んできます」

「なるほど」

「だから勝ち目があるとしたら一つ。最終直線で大外からまくって一気に抜き去る。これだけでしょうね」

 

 そんな中、メジロラモーヌに請われてメジロマーリンはギャロップダイナに協力をしていた。日本一の巨大ウマ娘グループに所属する、ダイナを冠する彼女だったが、ダートのオープン戦で勝利し、芝のプレオープン戦に2着で敗北しての天皇賞秋参加であった。実力はオープンクラスであり、重賞クラスですらない、それが彼女一般的な評価であった。

 ただ、先入観を排してみれば実力は確かなものだった。そもそもオープンクラスというのが学生の中でもそれなりに上澄みであり、今まで実力をうまく発揮できていなかったがフォームもきれいで走り自体もかなり良い。担当トレーナーさんも有名ではないが堅実な中堅クラスの人で、バランスのとれたチームであった。

 普通ならG1を狙える実力はあるだろう。だが、それがシンボリルドルフ相手となると…… いや、彼女相手ではだれでも力不足としか言えないだろう。

 

「体を絞って末脚で一気に抜くのを狙いますか。東京は直線が長いですからね」

「そうだね。どんなに気合を入れても絶対的な自信を持つシンボリルドルフに精神的に優越するのは無理だろうし」

 

 ただ一つ言えることは、彼女たちはまだあきらめていなかった。

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 ミスターシービーにカツラギエースといったウマ娘がいた。

 二人とも実力あふれるウマ娘だった。ルドルフはそんなウマ娘達にも勝ち続けてきた。

 しかし、今回はそんな彼女らがいない。その意味を、解っているのはおそらく自分だけだろう。メジロラモーヌはそう思った。

 

 なるほど確かに東条トレーナーは優秀な歴戦のトレーナーである。だが、いくら経験豊富でも、無敗の三冠ウマ娘の経験は全くない。当たり前だ。それだけルドルフは空前絶後のウマ娘なのだ。

 だから彼女の分析もおおむね間違ってはいないが、全く正しいわけではなかった。

 ルドルフ自身は、きっともっとわかっていないだろう。

 

「ラモーヌ、控室へ激励なんて珍しいじゃないか」

「悪いかしら?」

「悪くはないよ」

 

 天皇賞秋当日、ラモーヌはルドルフの控室を訪れた。

 ラモーヌは迷っていた。告げるか、告げまいか。自分が負けたときにルドルフが言ったことについて腹が立ったのは確かだ。だが一方でルドルフは大事な友人である。前のことは直接文句を言えばいいわけで、彼女の今の問題を指摘するのが友人ではないだろうか。そんな迷いがラモーヌにあった。

 

「はい、お土産よ」

 

 瓶に入ったロイヤルビタージュースをラモーヌが渡すと、ルドルフは顔をしかめた。

 

「これ、まだ作ってるのか」

「最近は量産されて購買でも売ってるわよ」

「誰が買うんだい、こんなの……」

「罰ゲームやお仕置きには好評みたいね」

 

 これを好き好んで飲む人など、開発者ぐらいである。ラモーヌも常飲しているが、それでも未だ慣れることはなかった。

 ラモーヌが見る限り、ルドルフの闘志はいつも以上に張っている。だからこそ、自分の考えが正しいと確信した。

 

「ルドルフ」

「なんだい?」

「あなた、今日負けるわよ」

「? ははは、私は勝つよ」

「……ならいいわ」

 

 結局良心に従いラモーヌは言った。

 だが、その言葉はルドルフには届かなかった。普段のルドルフならこれだけで理解してくれるだろうに、それが届かないぐらい彼女は迷っていた。

 

「帰るわ」

「ああ」

 

 もう仕方ないとラモーヌは思った。負けたら死ぬほど罵ってやろう。それくらいしかもう考えることができなかった。

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

「そんな……」

 

 会場の観客は絶句した。

 ラモーヌの横で見ていたマーリンも絶句していた。

 ルドルフが勝つことは太陽が東から登るぐらい普通のことだと皆信じていた。

 

 残り100m ウインザーノットを競り落とし、ニホンピロウイナーを突き放し、完全に勝利を確信したその瞬間。瞬脚をもって一気に抜いたのがギャロップダイナであった。

 ルドルフすら呆然としていた。無敗神話がここで崩れたのだ。

 祝福の声も、非難の声も、何も上がらない。ただただ皆呆然としていた。

 

「当然ね。レースは乙女なの。浮気するヒトには微笑まないわ」

 

 強力なライバルが不在のレースなど、ルドルフは経験が少ないのではなかろうか。ビゼンニシキも、カツラギエースも、ミスターシービーもすでにターフにいない。競う相手すらいないという傲慢がきっと彼女にもあったはずだ。

 さらに言えば視線が先に向きすぎていた。秋の三冠に勝利し、渡米、そして渡欧、そんなプランがあることもラモーヌは知っていた。

 だが、それはレースを舐めすぎていた。天皇賞という日本の国家元首をタイトルとするレースがそんな甘いわけがない。いくら無敵の皇帝とはいえ、相手が当然あきらめるわけではない。

 3着に入ったウインザーノットやニホンピロウイナーだって、勝つために競りに行ったのだ。結果は競り負けたが、それが彼女らの作戦であった。そして、それと違う作戦をとり、勝つために全力を尽くした者が勝ち、そしてルドルフは負けた。

 人々の信仰ではない、リンゴが木から落ちるぐらい当然の摂理により、ルドルフは負けたのだ。

 

「借りは返したわよ、ルドルフ、そして東条トレーナー」

 

 ラモーヌはつぶやく。やっぱり自分もあの負けは結構引きずってるな、とラモーヌは自覚した。





【挿絵表示】

特に理由はないスクール水着マーリン。一番露出が少ないですね。

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そこそこ前から動いているディスコード鯖です。
気になった方はお気軽にどうぞ

第三章はどんな話にしようか

  • ラモーヌ姉さまのティアラ三冠
  • メジロマーリンの学園生活
  • マーリンのメイクデビューとレース
  • アヤベさんの担当になる(時間がかなり経過
  • アルダンちゃんの面倒を見る
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