ラモーヌさんとアルダンさんの姉妹の間に挟まれたメジロに転生してしまったお話 作:雅媛
2月の大きなイベントというとバレンタインになります。
ウマ娘専門学校であるトレセン学園に異性はほとんどいないですが、数少ない異性であるトレーナーさんにチョコレートが大規模に集まったり、ウマ娘の中でも人気がある子にチョコレートが集まったり、チョコレートが飛んだり、爆発したりする日です。
普通に友チョコとかもあるので全体的に大騒ぎです。
とはいえ個人の間のイベントだから生徒会の仕事とは関係ない…… なんてこともなく、結構もめます。
まず、調理場所の取り合いが始まります。当然2月14日に間に合うようにしないといけないので前日が非常に混み合い予約制になるのですが、1つのスペースに10人以上集まったりしてトラブルが発生するんですね。
調理スペース1か所あたり4人前後が想定されているので倍も集まればそりゃ隣に迷惑になるわっていう話です。
あとは調理スペースを確保できずに強硬手段に走る人もいます。例えば学内で焚火を焚いてなぜか焼きマシュマロを作り始めている目の前の生徒会会長代行のミスターシービーさんとかですね。
「なんでマシュマロ焼いてるんですか」
「チョコは鍋に入れて火にかけたら焦げちゃった♡」
「当り前じゃないですか」
ルドルフが海外に遠征に行ってしまって生徒会長不在になってしまったので、副会長のうち年長のシービーさんが生徒会長代行になりましたが、まあ、よくトラブルが起きます。仕事はできるんですがトラブルも起こすので全体として仕事があまり減っていない感じです。
その分ルドルフと違って他の人に仕事を回すのは上手いので会務自体は回っていますが……
「焼きマシュマロウマー」
「芋も焼けたよ~」
「じゃがバタがいいな~」
ルドルフと違うカリスマ性を持つシービーさんですから何かやると便乗する仲間も大量に発生します。
それで権威と権力もあるものですから止められる人がいないんですよね。だからってボクにストッパー役を回さないでほしいです。
「はい、ハッピーバレンタイン」
「バレンタインは明日ですけどね」
そういって焼けたマシュマロをボクに渡してくるシービーさん。
ホカホカでおいしい焼きマシュマロです。
ため息をつきながらボクは受け取ります。
「大丈夫、マーリンちゃんにあげるチョコはちゃんと後で買いに行くから」
「……」
何が大丈夫なのかまるで分かりませんが、この笑顔を見るとまあいいか、と思ってしまうのがこの人のずるいところです。ルドルフがやったら絶対ドロップキックしてるのに。
結局「火の始末と片づけはちゃんとしてくださいね」という捨て台詞を言ってボクは退散するしかできませんでした。
「マーリンお姉さんも大変そうですね」
「たいへーん」
「……」
そうして逃げ込んだのはカフェちゃんちのカフェです。
学園から近いここが最近の逃げ場になってしまいました。幼女ハーレムに癒されます。
バレンタインということで出される特別メニューのココアを飲みながら一息ついていると、カフェちゃんと幽霊ズ2人が寄ってきます。そうして愚痴っていると慰めてくれるわけです。ここは天国か。
「いやでもシービーさんもすごい人なんですよ」
「三冠ウマ娘ですもんね」
「走るのがかっこよくてすごいのももちろんそれもあるんだけど、ちゃんとみんなのことを考えてやってるんだよねあれも」
「学園で焚火はダメなのでは?」
「ダメなんだけどねぇ」
当然ですが学園で焚火は厳禁ですし、それを三女神さまの像の前でやるんだからなかなか罰当たりなことするな、とは思います。
「学校の調理設備がバレンタイン前は全く足りてなくて、予約し損ねた子なんかは内心不満があるんだよ。で、シービーさんが学園の目立つところでああいう焚火をしながら、そういう不満がありそうな子を集めてくれるんだ」
「ふむふむ」
「で、希望者はそのままシービーさんと一緒に既製品のチョコを買いに行くデートコースになるわけです。手作りしなきゃ、って思いこんでいる子たちも、あのかっこよくて実績があるシービーさんが既製品を買うわけだから、自分もそれでいいか、と思ってくれると」
「すごいんだねー」
半分天然でしょうがすごい人ですよ。あの謎の焚火に参加していなくてもシービーさんがボクに既製品をあげる約束をしていたと聞いた子もいるでしょう。三冠ウマ娘がバレンタインで既製品OKといっていたのだから、というのはかなりの免罪符になるはずです。
女神さまの噴水の前というのも、いざとなれば大量に水がありますから消火も楽だというのもあるはずです。
ひとつのトラブルで複数のトラブルを解消するから、文句も言い難いんですよね。
とはいえいろいろ気疲れしたのでカフェちゃんを抱っこしてなでなでします。
見た目は表情が出にくく、しゃべり方もぼそぼそとしていて暗い印象を抱くカフェちゃんですが、中身はとてもかわいく、人懐っこい猫みたいな子です。抱っこされるのも好きだし、なでられるのも好きなようですから、いっぱい構いたくなっちゃうんですよね。癒される……
こんな感じで実体がないロリが過半数を超えるロリハーレムを堪能しているとお客さんが来ました。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ」
「アヤベちゃんとお母さん、こんにちは」
「……こんにちは」
アヤベちゃんとお母さんです。正直普段は結構閑古鳥が鳴いているお店ですので、他のお客さんはめったに見ません。
アヤベちゃんの妹(仮)ちゃんのこともありますからアヤベちゃんのお母さんにお店を紹介したら無事常連になってくれたので、そこそこの頻度で喫茶店で会います。
アヤベちゃんのお母さんが来ると、アヤベちゃんの妹(仮)ちゃんはすぐに甘えに行きます。座っているお母さんの膝に頭をのせて膝枕の姿勢になっていることがほとんどです。お母さんの方も、見えたりはしていないようですが、何か感じることがあるのか、無意識に頭をなでていることがほとんどです。ほのぼのしますね。幸せそうで何よります。
ただ、少し気になるのはアヤベちゃんが何となく最近元気がないんですよね。個人情報ですから主治医さんに現状を聞くわけにもいきませんし……
ひとまずお母さんに一言入れてから、アヤベちゃんを抱っこして強制連行です。
「むぅ……」
アヤベちゃんは何か不満そうですが、抵抗しないのでそのまま連れ込んでなでなでモチモチをし続けます。ボクが楽しみたいだけといわれるとそうかもしれませんが逃げないのでよしとしましょう。
「何か困ったことある?」
まあ少しだけ聞いてみてもいいかなと思ってそんなことを聞きます。
言いたくないならしつこく聞くつもりもないですが、その辺のよくわからないお姉さんになら話せることもあるかな、と思って聞いてみました。
「……あのね……」
「うん……」
「……」
迷っているのか、言いにくいのか。言いたくないなら言わなくてもいいけど、と思いつつもココアを飲みつつゆっくりと待ちます。アヤベちゃんのココアはゆっくりと湯気を立ち昇らせていました。
「最近妹の夢を見るの」
「うん……」
「妹が言っていたの。返してって」
「……」
「体も、脚も、心も、魂も、命も」
「……」
「全部全部全部全部全部、私に返してって」
アヤベちゃんの言うことは真剣です。きっとそんな悪夢を見てしまったのでしょう。
アヤベちゃんの妹(仮)ちゃんを見ます。お母さんの膝枕で幸せそうに居眠りしています。そもそも今日もアヤベちゃんたちが来るまでにボクの金でチョコパフェ2つもむさぼっていたのがあれです。
あれがそんな複雑な恨み言考えているとはとても思えません。アヤベちゃんより絶対人生? 幽霊生? をエンジョイしてますよ。
何か変な悪霊でもついているのかな、と心配になりカフェちゃんの方を見ますが、ゆっくり首を横に振ります。そういう悪霊が悪さをしているわけではないようです。でも、アヤベちゃんが嘘を言っている、と言いたいわけでもありません。別の悪霊とかでないなら、おそらくそれはアヤベちゃんの罪悪感でしょう。
「――――――それができないって言うのなら」
「……」
「せめて、私と同じところまで堕ちて来てよ、お姉ちゃん って」
「……」
喫茶店に勝手に住み着いて客の金でパフェを食う生活か、いいな、ボクもそこまで堕ちたい。
そんなどうでもいい思考が頭をよぎります。現実逃避でもあります。
後で主治医に相談するとして、この場をどう切り抜けるかは難しいところです。
否定しても意味がないでしょうし……
「ボクは……」
「……」
「アヤベちゃんに元気に幸せになってほしいな……」
「……」
頭を撫でながらそれくらいしかボクには言えませんでした。
あー、なんか悔しいな、と思いますが所詮ボクも彼女よりはお姉さんですが客観的に見たらただの小娘です。すごいことなんてできません。当たり障りのないことしか言えないなぁと思っていたら状況が動きました。
テーブルの向かい側で聞いていたカフェちゃんが怒った表情でこちらに来たのです。いつも無表情でそれ以外の表情を見たことがないカフェちゃんがここまで怒るのを初めて見ました。
え、どこがカフェちゃんの怒りポイントだったの!? と思いましたが戸惑っている間にカフェちゃんは
ぱしーん!!
とアヤベちゃんのほっぺを平手でひっぱたきました。
あまりにいい音に時間が止まります。
「訂正してください」
「……え?」
「妹さんがそんなひどいことを言ったなんて、訂正してください!!!」
カフェちゃんが叫びます。
おともだち! 止めておともだち!! と思いましたがおともだちも周りにいません。というかカフェちゃんの存在感がこう、すごい大きく感じます。もしかして、憑依合体すると能力二倍とか、そういう特技がカフェちゃんにあったりするのだろうか、みたいなどうでもいいことを考え始めます。
「あなたに…… あなたに妹の何がわかるのよ!!」
「あなたよりいろいろわかりますよ!!! 今そこでお母さんに甘えてるのも!! コーヒーが苦手でチョコレートパフェが好きなのも!!! お母さんが大好きで、何よりもあなたのことが大好きなことも知っています!!!」
「!?」
「何より私の大事な友達です!! みんなの幸せを祈る、やさしくて大事な友達なんです!! それがそんなことを言ったなんて嘘は許せるわけがありません!!!」
「う……」
「だから!! あなたの言うことは許せません!!! 訂正してください!!」
「うわああああああん!!!」
泣きながら詰め寄るカフェちゃんに、大泣きをし始めるアヤベちゃんという地獄の状況が出来上がりました。
ああ、ロリハーレムの天国だとか言っていたボクに罰が当たったのでしょうか。
マスターが慌ててカフェちゃんを回収します。
アヤベちゃんのお母さんもアヤベちゃんを受け取ります。
2人の幼女の泣き声が店内に響く中、ボクは居心地が悪い気分になりながらも立ち去ることもできず冷めたココアを飲むことしかできませんでした。
結局子供の喧嘩ということで、先に手を挙げたカフェちゃんのお父さんであるマスターが謝ってその場は収まりました。多分、収まったと思います。
「すいませんボクもちゃんと対応できなくて……」
「いえいえ、アヤべもちょっと最近不安定だったから…… 主治医さんにももう一度相談するわ」
「お手数おかけします」
「それで……」
「なんでしょうか」
アヤベちゃんのお母さんに頭を下げると、アヤベちゃんのお母さんがボクを見つめます。
「マーリンさんは、私のもう一人の娘も見えているのでしょう?」
「……多分」
「今どうしてるかしら?」
「お母さんの尻尾につかまってます」
アヤベちゃんの妹(仮)ちゃんは、泣き疲れて寝てしまったアヤベちゃんを抱っこしたお母さんの尻尾につかまっていました。
お母さんが振り返ってしゃがむと、ちょっと遠慮しがちに胸に飛び込みます。
「そう、ずっと一緒にいてくれたのかしら」
「いえ、最近はあそこのカフェに居ついていました」
「あらあら、お世話になってしまったのね……」
そういうお母さんは少し悲しそうに、でも少しうれしそうな表情をしました。
「この子の話、又聞けるかしら」
「カフェちゃんの方がお話してたみたいですから、カフェちゃんに聞いてもいいと思いますよ」
「そうなのね。カフェちゃんが嫌がらなきゃいいけれど」
「優しい子なので大丈夫かと」
他人の家の子ですが、それくらいは言ってもいいでしょう。
そのまま挨拶してお母さんと別れます。アヤベちゃんもこれでうまくいってくれればいいんだけど、と思いながら、ボクはその背中を見送りました。
【挿絵表示】
ろりまいやべがちゃん
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