ラモーヌさんとアルダンさんの姉妹の間に挟まれたメジロに転生してしまったお話 作:雅媛
10 西欧に吹く夏の風
夏に入り、ボクは渡欧することになりました。
「ちょっと心配だからシリウスの様子を見てきなさい」
との姉さまの指示です。
向こうの情報を手に入れるのはそれなりに手間ですし、姉さまのトレーナーと生徒会のお仕事でてんやわんやしていましたからシリウスさんの状況を確認できていませんでした。ですが姉さまが仲がいい従姉とはいえわざわざ他人の心配をするぐらいですから、あまりいい状態ではないのかもしれません。
「ルドルフはシリウスさんの状況聞いてる?」
「同じシンボリだからある程度は。これが資料さ」
同行するのはルドルフです。ボクは英語も怪しいしフランス語とか全くなのでしゃべれる同行者が必須でしたが、ラモーヌ姉さまを連れて行くわけにもいかず結局ルドルフになりました。
ルドルフから渡された資料を確認します。シリウスさん、かなり苦戦しているな、というのが正直な感想です。原因ですがレベルが違うのもありますが、何よりコースが日本と違いすぎるのではないかと資料を見て思いました。
形状が独特ですし、アップダウンも中山の坂がおもちゃに見えるぐらいとんでもないところがあります。
アスコットレース場の22mの高低差の下り坂とか、ロンシャンレース場のコーナーの高低差20mの下り坂とか。
全体的に野原の真ん中によさそうな感じでレース場の柵を立てました、みたいなコースばかりで、日本の競バになれたウマ娘ではうまく走れないでしょう。芝の質も全然違うと聞きますし。
「そういえばルドルフは秋はヨーロッパで走るの?」
「未定、だね」
ルドルフは今年の頭に渡米し、アメリカで勝利を収めましたが、その後怪我をして日本に帰ってきていました。海外勝利は記録に残る業績ですが物足りないのも確かです。たしか春はアメリカ、秋はヨーロッパを目指していると聞いていましたが、怪我の具合もあるのでしょう。
「じゃあ今回のは事前の視察でもあるわけだ」
「そうだね。今回で見て最終判断する予定だよ」
ルドルフの海外挑戦は出発前はそれなりに積極的に見えましたが、今は消極的に見えます。事前の視察ならば東条トレーナーとかを連れてきてもいいはずです。忙しいのかもしれませんがそれならサブトレーナーもいますしボクを帯同させる時点であまり積極的ではなさそうに思います。
アメリカはアメリカでダートメイン、しかもそのダートは本当に土でできていて、砂の柔らかい地面とまるで違うとか、いろいろ違うみたいですからね。
パリまで飛行機で10時間以上。こんな長い旅路の遠征は、レースでしたくないな、というのが正直なところでした。
「……なんだ、無様を笑いに来たのか? 皇帝サマ」
「シリウスさんがグレた!!!」
「……マーリンも一緒かよ」
「どうしようルドルフ、シリウスさんがグレてる!!!」
「指さすな!!!」
会って早々歓迎してくれないムードだったのでボクは大騒ぎします。自分もあまりシリウスさんの情報を集めていなかったのは棚に上げていますが。
「だって、シリウスさんのことだから、ボクが来たら、よく来たねマイハニー、とか言って抱きしめてチューぐらいしてくれると思ったのに!!」
「どこの誰だよそれは!?」
「シリウス、チューしてくれないのかい?」
「ルドルフもわけわからない期待するんじゃねえ!!」
ぎゃおーと吠えるシリウスさん。ちょっと調子が戻ってきたかもしれません。
まあ確かに異国の地で一人で1年も努力してきたわけですから、そりゃグレてもしょうがないかもしれません。海外遠征のノウハウなんてほとんどないでしょうから全て手探りでしょうしね。
仕方がないからボクから抱きしめてチューしようとしたら、おでこを抑えられました。
「んー!!!」
「なんだそりゃ、タコの真似か」
「熱いべーぜをですね」
「ちっ、そんなに変だったか?」
「ルドルフさんに対してはいつものことだけど、ボクに対してまで冷たいのはちょっとショックでした」
「ああ、すまんな」
シリウスさんは確かに感情の起伏が激しい方ですが、今日は機嫌の良し悪し以前の問題な気がしました。めんどくさそうにしながら追い払われることは今までなくはなかったですが、会って嫌そうな態度をされたのはさすがに今回が初めてです。
「ヨーロッパはそんなにつらいかい?」
「皇帝サマはどうだったよ」
「アメリカはつらかったよ」
「ちっ、比較はできねえが多分同等以上だよ」
「そうか……」
ルドルフさんはそれだけで察するところがあったようです。すごい心配そうにシリウスさんを見ます。
「日本に帰らないか?」
「はっ、この成績でか? 無様さらして、シンボリにもなんていえばいいんだよ」
「……シリウス、やっぱり帰ろう」
「いやだね」
ルドルフが珍しく食い下がります。
基本全てのウマ娘を自分の庇護下とみる悪癖があるルドルフですが、シリウスさんや姉さま、ボクあたりは例外枠らしく、あまりそういった態度はとりません。
基本放任主義で時々無茶振りする相手という迷惑な認識をされますが、そんなルドルフが本当にシリウスさんの心配をするなんてかなり意外です。
シリウスさんも気づいているのか、苛立ちを隠せなくなっています。
「後生だ、シリウス」
「そこまで情けないか私は」
「……違うんだシリウス、そうじゃない」
傍から見ていると完全にすれ違っていますが、どう口を出したものか……
おそらくルドルフは友人としてシリウスさんを心配していると思います。
ですがシリウスさんにとってはルドルフのあの無関心こそが友人の象徴なのでしょう。心配されるというのは格下にみられている、という解釈をしてしまっています。
ルドルフのコミュ障のツケな気もしますが、とはいえボクもシリウスさんは心配ですし、ルドルフの心配もわかります。
「シリウスさん、今の目標は?」
「凱旋門賞だ。そこを出なければ……」
「じゃあ凱旋門賞終わったら一度帰りましょう。姉さまも寂しがってますし」
シンボリが、とか他の人の目を気にしている時点でシリウスさんがおかしいとボクも思います。今すぐ連れ帰りたいルドルフの気持ちもわかりますが、いきなり言っても聞いてはくれないでしょう。
幸い凱旋門賞という大きな区切りがありますから、一度日本に帰ればリフレッシュするなりなんなりできるでしょう。
「しかしなぁ……」
「じゃあボクもしばらくこっちにいてシリウスさんのフォローしますよ」
「マーリン、ラモーヌはどうするんだい?」
「凱旋門賞とエリザベス女王杯の間は1月ありますし、姉さまならちょくちょく戻れば大丈夫です。メジロの他のトレーナーとかにフォローしてもらいましょう」
正直単身でシリウスさんを居させるのも心配です。ルドルフが帯同してもらうことも考えましたが、この感じだとヨーロッパ遠征はしないつもりなのでしょう。怪我が思ったより重いのかもしれません。
姉さまは幸いメジロ家のトレーナーもいます。ボク自身もずっとこちらにいるわけでもなくちょこちょこ帰りますし。メジロのトレーナーたちもチクチク言ってきていましたから、多分大丈夫でしょう。姉さまもわざわざ行かせたということはここまで想定していたでしょうし、奴らも姉さまに振り回されるがいいわ。
ついでにボクにメイクデビューしろとか言う話もうやむやにできるのではないかと企んでいます。
「ということでシリウスさんよろしくお願いします」
「あ、ああ、わかったよ」
「じゃあまずパリデートしてください。おいしいレストランがいいです」
「早速食い気かよ…… 仕方ねえな」
苦笑するシリウスさん。
前の感じが少し戻った気がします。
凱旋門賞がどうなるかはわかりませんし正直ボクにはどうでもいいです。ただ、シリウスさんがレースを楽しめればそれ以上のことはありません。
なお、半月ほどシリウスさんを振り回し続け、シリウスさんの調子もよくなったと思った頃に一度帰国したら、姉さまがデブっていました。
メジロのトレーナーの皆さんと、姉さまを締め上げて減量させるのにものすごく苦労しました。
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ぱくぱく メジロマックイーン
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