ラモーヌさんとアルダンさんの姉妹の間に挟まれたメジロに転生してしまったお話 作:雅媛
6 メジロマーリンとチーム理子ちゃんの日常
メンバーが増えたチーム理子ちゃんの最初のお仕事は全員をメイクデビューに出走させることでした。
現在すでにクラシック時期の3月で、メイクデビューをするにはかなり遅い時期です。レース慣れの問題もありますから、全員をひとまずメイクデビューに出走させることになりました。
正直なところ、ボクは勝てると思っていませんでした。みんな残念ながら売れ残った子ばかりですから実力的には高いわけではありません。長い時間かけてじっくりと鍛え上げていればまだ違ったかもしれませんが、1月程度チームで面倒を見ただけではレベルアップもたかが知れています。
とはいえチームに来たのは皆レースに出ることが目的ですから、ひとまず今のうちに出走を、ということで出走した訳ですが……
10人中1人、ジュエルネフライトさんが見事勝利しました。
阪神レース場の1200m、最内という有利ポジションを得たジュエルネフライトさんは、見事逃げ切ったのです。
その逃げ方もかなり芸術的でした。スタートから200m、全力で飛ばしてハイペースを装い、後ろのウマ娘たちが驚いてペースを落としたところでペースを落としてスタミナを温存したのです。
阪神の直線短い内回りで、セーフティリードを確保したジュエルネフライトさんは、最後クビ差まで追いつかれながらもぎりぎり逃げ切ったのでした。
「はい、お水」
「ありがと、いいんちょー」
応援席で声を張り上げていたボクに水をわたしてくれたのはいいんちょーでした。
「いつも思うけど声上げすぎでしょ」
「だって頑張ってほしいし」
今まで多くのレースを見てきましたし、身内のレースの応援もかなり見てきましたが、ここまで熱が入った応援をしてしまうのは初めてかもしれません。姉さまの時だってここまで熱狂していなかったと思います。
いいんちょーから受け取った水を飲みます。叫びすぎた喉に沁みますね。
「弱いなら弱いなりに戦い方がある、樫本トレーナーの言う通りだったね」
「そうだねぇ……」
理子ちゃんが必死にレースプランを考えていたのを知っています。残念ながら何度も言うようにうちのチームのメンバーはみな実力的に劣っています。ただ、それでも勝てる方法を模索し続けたのが理子ちゃんです。その結果がこのレースです。本当にすごいと思います。
「私も次は勝ちたいな」
「そうだね」
いいんちょー、フェニキアディールさんはダートでメイクデビューしましたが、残念ながら掲示板外でした。ハイペースを予想して控えて追い込むというレースプランでしたが、道中の不利もあり、最後あまり伸びることができませんでした。
他のみんなにも、いいんちょーにも勝ってほしいと思いますが、トレーナーとしての冷静な部分は難しいと判断しています。勝てるよ、と安易に言うことはボクにはできませんでした。
「勝たせますよ」
「樫本トレーナー……」
「どうにか1勝だけは勝たせてみせます。だから、一緒に頑張りましょう」
「はい」
しかし、ボクたちの話を後ろで理子ちゃんは違う判断をしたようです。勝たせる。どれだけ力強い言葉でしょう。安易な慰めではない、誓いのような言葉。それをひねり出すことはボクにはとてもできませんでした。
何か負けた気がして、ボクはうつむくことしか出来ませんでした。
ライブが終わった後はその日のうちにトレセン学園に帰ることもなくホテルに一泊することになりました。
2人一組の部屋を6つ押さえましたから、ボクは理子ちゃんとの相部屋です。
「マーリンちゃんもお疲れさまでした」
「理子ちゃんの方が疲れてるでしょう」
ボクがしたことなんて勝利ウマ娘のトレーナーとしてのインタビューに答えただけです。それだって、途中からボクのことを聞こうとする記者が増えてしまい、それを理子ちゃんが収めるのに苦労していました。
だから確実に理子ちゃんの方が疲れていると思うのですが、理子ちゃんは微笑んだまま膝をポンポンします。
ボクは理子ちゃんの膝に頭を乗せました。
「ボク、役に立ってないなぁって」
「そんなことないと思いますけど…… 誰かに何か言われてなんかいないですよね」
「もちろんそんなことはないけど。でもボクは安請け合いしただけで何もできてないし」
チーム理子ちゃんのメンバーが頑張ってどうにか勝とうとして、現に今回1勝出来た。これは理子ちゃんのトレーナーとしての腕が全てです。ボクは何もしていませんし、仮にボクがトレーナーに専念しても同じこともできなかったでしょう。
偉そうにメイントレーナーとか言っていますが、ボクなんて所詮そんなものです。そう思うとなんかもにゃもにゃします。
「マーリンちゃんが他の子らの面倒を見ていても、確かに今日ジュエルネフライトさんは勝てなかったでしょう」
「厳しいなぁ……」
「でも、口下手な私だけだったらジュエルネフライトさんは私とも、きっと誰とも契約できずに今もいて、おそらく学園を去ることになったでしょう」
「……」
「マーリンちゃんが彼女を連れてきてくれたから今日があるのですよ」
「……そうかな」
確かに理子ちゃんはボクが声をかけるまで誰とも契約ができていませんでした。理子ちゃんだけだったら今年はチームトレーナーではなく教官をやっていたかもしれません。
「マーリンちゃんがスカウトして、私が育てる。ディールさんがみんなをまとめて、他の子が盛り上げる。それぞれがそれぞれ得意なことをやる。それがチームというものです」
「……そっか」
確かに、それぞれがそれぞれ助け合ってこそチームです。
自分で全部やろうとするのは違う、そんな単純な事もわかっていませんでした。そんな傲慢な自分に気づいて余計落ち込んでしまいます。
「ぶみゅぅ」
「マーリンちゃんもまだ子供なんですから甘えてもいいんですよ」
頭を撫でる理子ちゃんの手がとても柔らかかったです。
「単にマーリン姉さまはみんなに勝ってほしいだけですよね、それ」
「ん~?」
アルダンとデートに出かけたとき、アルダンにそう言われてボクは少し困惑した。
ラモーヌ姉さまは生徒会のお仕事や趣味のお絵かきで忙しく、アルダンの方も友達がみなチームのトレーニングに取られてしまっていて暇だったらしい。なので暇だった二人で喫茶店デート中なのである。
そんな中、もやもやした気持ちを話したら返ってきたアルダンの言葉である。
「マーリン姉さまって、ラモーヌ姉さまや私のレースにいつも応援に来てくれましたが、あそこまで一生懸命だったのは見たことないですし」
「そうかな」
「そうですよ。それはそれで勝つだろうという信頼なんだと思いますが…… マーリン姉さまはチームメイトが勝てないと思いつつもどうにか勝ってほしいんですよね。だから声が枯れるまで応援してしまうんでしょう?」
「そうかも」
「私もマーリン姉さまに熱烈応援されたいですね~」
アルダンはそんな軽口をたたきながら、パフェをぱくついていた。
「そもそもマーリン姉さまの悪い癖が出てると思いますよ」
「悪い癖?」
「ルドルフさんにいつも言ってるじゃないですか。仕事を自分で全部やろうとするな、分業しろって」
「あ~」
「マーリン姉さま、普段は分業しようとしますが、時々全部自分でやろうとしますよね。ラモーヌ姉さまに対してとか思いっきりそうでしたし」
「ううう、反省します」
最愛の妹から、ルドルフと似た者同士ですよねというありがたくない感想を述べられてボクはへこんだ。
「今はレースに集中した方がいいんじゃないですか? チームのみんなもお友達もみんな姉さまを応援してるでしょう?」
「そうかなぁ?」
「え、そこ疑問に思います?」
「だってぇ……」
「姉さまのファン、学園内ですごく多いですよ」
「嘘だぁ……」
「マーリン姉さま、なんで自分のことになると途端にポンコツになるんだろう」
頭を抱えるアルダンですが、ボクは信じられませんでした。
だって普段結構一人行動多いし。人気者というと例えばダイナムヒロインさんですが、彼女なんていつも何人もの友達と一緒に行動してますし。
うじうじしていると、アルダンが電話をかけ始めました。
「マスター、今からマーリン姉さまのファンでこの店を埋め尽くしますが、よろしいですね。答えは聞いていない」
「いいよ」
「ちょっとアルダン」
「店に入りきらないぐらいきちゃったらごめんなさい」
「いいよ」
マスターもノリよく答えますが、そんなに集まらないでしょう。喫茶店、広くないとはいえ埋めるには20人ぐらいは必要です。チームメンバーぐらいは来てくれるかもしれませんが、それでは埋まり切らないでしょう。それ以上なんてとてもとても…… そう思っていたのですが……
「なんだ、私が一番か」
「シリウスさん」
「うちのポニーちゃんはよくわからないことで悩んでるな」
最初に来たのはシリウスさんとその仲間たちです。これだけで店がいっぱいになります、
「マーリンのファンを集めろって聞いたが、なんでそんなことしてるんだ、アルダン」
「マーリン姉さまが自分の魅力に鈍感なのでわからせようかと」
「あー。意外と阿呆なところがあるからな、マーリン」
「ぷみゅー」
シリウスさんとその仲間たちに囲まれて、なんかいけないお店に来てしまった気分に包まれます。シリウスさんを筆頭にみんな顔がいいですし、そんなお姉さま方に囲まれてちやほやされるともうどうしていいかわからないです。
「ふむ、一番ではなかったか」
「遅いぞルドルフ」
「キミと違って暇ではないんだよ」
続いて来たのはルドルフたち生徒会のメンバーでした、ラモーヌ姉さまはいませんし、全員ではないのはお仕事がまだあったのでしょう。
生徒会のメンバーとシリウスさんの仲間たちでボクの取り合いが始まりました。そのうち真っ二つに裂かれてしまうかもしれません。そんなボクを見てアルダンは爆笑していました。
「もう一杯ね。立食形式にしましょうか」
その後もクラスメイトとダイナムヒロインさんが来てくれたり
「マーリンちゃんは可愛いなぁ」
いいんちょー達チーム理子ちゃんのメンバーがボクに抱き着いて来たり
「人多すぎやろ」
タマモクロスさんら夏合宿で仲良くなった後輩が来てくれたりと、喫茶店は人で埋め尽くされました。
みんなウマ娘でガンガン注文するので、喫茶店の売り上げには貢献しているでしょう多分。
「ね、マーリン姉さまはこれだけ愛されているんですよ」
アルダンがどや顔で言ってきたので、ボクはアルダンのほっぺをこねくり回すのでした。とても柔らかかったです。
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