ラモーヌさんとアルダンさんの姉妹の間に挟まれたメジロに転生してしまったお話 作:雅媛
「アオハル杯ですか?」
「ああ、参加者がいまいち集まらなくてな」
シリウスさんからアオハル杯の話を聞いたのは桜花賞が迫る頃の話でした。
面倒見がいいシリウスさんは、最近はチームレースであるアオハル杯の手伝いをしているようですが、参加者が少なすぎるのでボクのところに相談に来たようです。
「話題性が欲しいならルドルフとかラモーヌ姉さまにお話を持って行った方がいいのでは?」
「あの辺が出たら手加減なしにぶち抜いて面白くないだろ?」
「あー」
天下の三冠ウマ娘なら宣伝力ばっちりだと思いましたが、あのランクのエースが出てしまうと戦略もなくぶち抜かれてしまいそうです。基本参加しているのはオープンクラスに届かないような子も多いみたいですからね。
「でもルドルフにチーム戦で勝ったら盛り上がりそうじゃないですか?」
「その辺のウマ娘で勝てるのかよ。私とラモーヌとマーリンで組めば勝てるがそれじゃ意味ねーだろ」
「そりゃうちのチームのメンバーで勝つぐらいしないと面白くないでしょ」
「マーリンのところって、一勝した奴か未勝利の奴しかいないよな」
「そうだね」
チーム理子ちゃんのメンバーは徐々に未勝利戦に勝ち始めていますが、とはいえせいぜい一勝クラス。未勝利のメンバーもまだ少なくありません。
「それであのルドルフに勝てるなら面白いし人が集まるだろうが、本当に勝てるのかよ」
「うーん、エキシビジョンでうちから10人ぐらい出してよければ」
「人数増やした程度で勝てるのか?」
普通に考えれば人数を増やしたところで勝てる様にならなそうに思えます。もちろんブロッキングやマークなどでレース運びを邪魔することはできますが、そんなのはルドルフにとってはいつものレースとそう変わらないでしょうから、その程度で押さえられるとも思っていません。
「まー、宣伝も兼ねてエキシビジョンレースでもやってみるか」
「じゃあルドルフにお願いしておいて。こっちも準備するから」
「マーリンは出るのか?」
「でないよ。オープンクラスではないウマ娘でもやりようによっては勝てる、というのを見せたいんだからね」
ボクはこの前一度ルドルフに勝ってしまいましたからボクではあまりアピールにならないでしょう。
そんなこんなでアオハル杯を周知するためのエキシビジョンマッチが行われることになりました。
そう準備することも多くないのでレース当日はすぐに訪れました。天気は快晴。バ場は良。トレセン学園のトレーニングコースを会場にして距離はクラシックディスタンス2400mです。
ルドルフが走るということで観客は結構多いです。これだけでもかなり成功と言っていいように思います。
「本当に勝てるのか?」
シリウスさんが心配そうに聞いてきます。
まあシリウスさんが一番ルドルフの強さを知っていますし、一方対戦相手のチーム理子ちゃんのメンバーはあまり言いたくはないですが落ちこぼれメンバーです。普通のレースなら100回やってもルドルフには勝てないでしょう。
「チーミングありですからね」
「まあちゃんとやれるなら勝ち目はないわけではないけどさ」
チーミング、チームで誰かを勝たせるために走るというのは、トゥインクルシリーズではルール違反な走り方になります。
一方海外、特にヨーロッパではよく行われるれっきとした戦法です。そのえげつなさもまた、ヨーロッパで走っていたシリウスさんには身に染みているでしょう。
そんな会話をしていると、司会の子の号令の下、レースがスタートしました。
まず内枠4人が縦に隊列を取ってすごい勢いで逃げ始めます。
「あれなんだ?」
「トレインですよ。ウマ娘の全力疾走は大体600mから800mぐらいといわれていますから、必要人数を大目に見て風除け三人、本命一人のトレインです」
「あー、スリップストリーム使うから逃げでも構わないのか」
ウマ娘の走る速度はかなりの速さですから、空気抵抗は馬鹿になりません。先頭に立つ逃げがペースを自分である程度作れる有利なポジションなのに王道にならないのは、スリップストリームによる空気抵抗の軽減の恩恵を一切受けられないためです。
ですが、チームでやるなら風除け係の子の後ろについてスリップストリームを得れば良いわけですから、前に行った方がペースは握れるし誰かにブロックされる心配もないしでいいことだらけなわけです。
「で、マーク係のあれは?」
「ルドルフをブロックするのは難しそうですから、横にべた付けして走りにくくしているわけです。まあもう一つ目的がありますが」
前を遮ってしまうのが一番走りにくくできますが、それをやるとルドルフは逆手にとってスリップストリームを利用するなり、強引に抜けてくるなりといったことをされかねません。なので、横にべったりマークをすることで、進路を変えられなくして多少走りにくくしている、ということをしています。
しかしその走りにくさはサブの効果でして、メインは……
「まったマーリンらしいいやらしい手をやるな」
「お褒めに与り光栄です」
逃げる四段ロケットの先頭が、600mを過ぎて切り離されます。
そうして垂れてくる、先頭を切っていたフェニキアディールさんは、思いっきりルドルフと進路が重なるように失速しました。
横をガードされているルドルフは、そのまま下がるしか出来ません。途中で交わされるかと思いましたが、ルドルフは最後尾まで下がりました。
ペースを思いっきり乱されましたからルドルフは序盤から消耗しているでしょう。しかも、マークするメンバーは再度ルドルフをマークしようとペースを合わせます。
同じ手をくらわないようマークを振り払うルドルフと執拗にマークしようとするうちのメンバーで激しいポジション争いが始まります。
あまり速度を出せないルドルフに対して、一段切り離した本命の三段ロケットはどんどんリードを広げていきます。
「こういうチーミングは普段やらねーだろ。その割に巧いな」
「うちのチームは仲が良いですからね。息が合いやすいんでしょう」
そうこうしているうちに、焦れたルドルフがペースを上げます。ルドルフがよくとる戦法は王道の好位抜け出し型先行ですが、逃げから追込みまで何でもできるウマ娘です。
どうやらペースを変えて逃げの態勢に入るようです。
みんな必死に追いすがりますが、地力の差もあり先ほどまでのようなマークは難しくなっています。
とはいえみんな必死にまとわりつくようにマークをしてルドルフに本来の走りをさせないようにしています。
「ルドルフもやりにくそうだな。マークされるなんていつもの事だろうに」
「普段受けるマークはルドルフより一歩前に行くためだけど、今回のはルドルフごと沈んでもいい類のものだからね。普段と勝手が違うんでしょ」
「なるほど」
ルドルフがライバルとしてきた相手に比べたら今日のメンバーは一段も二段も落ちる相手ですが、そのすべてがルドルフを負けさせようとするわけですから普段と勝手が違いすぎるでしょう。
そんな混戦模様の中、最終コーナーに入って、先頭を走っていたジュエルネフライトさんが失速し、本命のタヴァティムサさんがスパートに入ります。リードも十分そうに見えましたが……
「さすがルドルフだな」
「あそこからでもこれだけ伸びますか」
タイミングを計っていたルドルフがスパートをかけると、差がどんどん縮まっていきます。トレセン学園のコースの直線はそう長くはないですが、これは少しきついかもしれません。
逃げるタヴァティムサさんにルドルフがどんどん迫りちょうど並んだあたりでゴール板前を通過しました。
「ちっ、ルドルフも大人げない」
「ライオン丸様がレースで手心加えるわけねーだろ」
「そうだけどー」
ここでルドルフに勝てばアオハル杯の弾みも付きそうに思いましたが、結果はぎりぎりぐらいでした。ルドルフ大人げないんだよなぁ…… ラモーヌ姉さまに頼むべきだったか……
ただ、ラモーヌ姉さまはお願いすればいい感じに走ってくれるでしょうが、負ければ絶対不機嫌になりますし、不機嫌になった姉さまをなだめるにはアルダンを生贄に捧げるだけでは不十分なので、それはそれで面倒だったんですよね……
とはいえルドルフと接戦だっただけでもそれなりに話題にはなり、アオハル杯の参加者も増えたようです。うちのチームも今回から出ますしね。普段片手に数えるほどのチーム数しかなかったのが、今回は10チーム以上の参加になりました。
「アルダンもチーム組んだんだって?」
「はい、チヨノオーさんとかオグリさんとかといっしょに。ただメンバーが足りなくて……」
「なら私が加わろうかしら」
「ラモーヌ姉さま!?」
アルダンたちがチームを作っているところにさっそうと登場したシスコンラモーヌ姉さまである。大人げない。
アルダンはその申し出を聞いて困ったような様子だ。
「ラモーヌ姉さま、あの……」
「遠慮しなくていいわよ。なんでも走ってあげる」
「足りてないメンバー、短距離のメンバーなんですが」
「……大丈夫よ、走ってあげる」
姉さまの得意なマイルや中距離は層が厚い一方、短距離、長距離は適性があるウマ娘が多くないのは確かです。ダートは意外とダート専科の子がいるんですけどね。
アルダンのところも短距離のメンバーが足りず、無事(?)ラモーヌ姉さまは短距離のメンバーとして加わることになったようです。
ちなみに6月末のアオハル杯での短距離レースは1000m直線の予定です。短距離力が非常に試されるレースになります。
「短距離だって走ったことあるし、大丈夫よ……」
「さすがラモーヌ姉さま」
強がるラモーヌ姉さまと、それを純粋に信じるアルダン。
楽しそうだなと思ったのでボクは二人を止めることはしませんでした。
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