ラモーヌさんとアルダンさんの姉妹の間に挟まれたメジロに転生してしまったお話 作:雅媛
「どっせい!!!」
「どわあああああ!!!!」
珍しくアルダンと姉妹喧嘩をしました。
ことの発端はビューティドリームカップです。
今年は引退したのもあって何とラモーヌ姉さまが参加することになったのですが、その相方の座を巡ってアルダンと喧嘩になったのです。
ちなみに力では現在惨敗したところです。
体格的に重戦車にふさわしいムチムチっぷりになったアルダンにはさすがに勝てないうえ、同級生から金剛八重垣流とかいう古武術まで習い始めたアルダンに、ボクが勝てるわけなかったわけです。
いままさに投げ飛ばされて、背中を踏まれたうえで、「妹より優れた姉などいねえ!!」などという勝利宣言をされたところです。悔しい、でも全然勝てる気がしない……
「そもそもマーリン姉さまは、ラモーヌ姉さまに合わせたファッションとか選べます?」
「うぐっ」
「当然私は手伝いませんよ」
「む、むりでしゅ……」
シリウスさんあたりにすがればどうにかなるかもしれませんが、それはそれで負けた気持ちになりますし、自分でファッションのことなどまるで分りません。
「ということで、ラモーヌ姉さまの相方は私ということで」
「ぴえん」
完全敗北したボクは、逃げることしか出来ませんでした。
あとよく考えたら一方的にボコられて論破されただけなので喧嘩になっていませんでした。
ということで、やることがありません。
ビューティドリームカップは、一生に1回しか出られません。成績なんてそう大きくは変動しませんから、何回でも出られるとずっと代わり映えがしないなんてことも起きちゃいますからね。なので去年参加してしまったボクは参加権がないわけです。
夏合宿前のこの時期は若干余裕もあるため、本当に手持ち無沙汰になってしまいました。なのでチームルームでふて寝をきめ込みます。
「これがティアラ三冠ウマ娘の妹で、ティアラ二冠を達成したウマ娘の姿か……」
ボクの姿を見て大げさに嘆くいいんちょー。
いやまあ、スカートも上着もめくりあがってお腹も出している姿は確かにだらしないの極みだと思いますし文句は言えませんが暑いので……
「だって何もやることないし……」
「ビューティドリームカップでラモーヌさんのパートナーするんじゃなかったの?」
「妹に取られました」
「アルダンさん、強いわねぇ……」
ガラスの薄幸少女的な設定はもうすでに過去のかなたで、現状重戦車という異名にふさわしい体格とパワーと勢いがあります。もうだれにも止められませんよあれ。まあそれでもかわいいんですが。
とはいえ暇なのは暇なのです。
アオハル杯の準備も理子ちゃんがしているし…… 一応ボクも出る予定ですけどね…… やることないんですよ……
「じゃあちょっとさ、手伝ってほしいことがあるんだけど」
「ん? 何々?」
「今度のビューティドリームカップなんだけど私も出ようと思って」
「おー、いいんじゃないの」
いいんちょーは学級委員長だけあって結構頭が良い方だ。今回ビューティドリームカップに出れるぐらいの成績だったらしい。
「でもデザイナーさん誰に頼んでいいかとか何もわからなくて」
「ボクの時にデザインしてくれた人に頼んでみようか」
「どんな方?」
「ビューティ安心沢さん」
「ひぇ……」
いいんちょーが凄まじく恐縮した。
「有名なの?」
「最近勝負服デザインですごく有名な人じゃない。なに? メジロの力で知り合いになったとか?」
「まあそんな感じかな? ボクら三姉妹のお付きのメイドさんの妹さん」
「……マーリンちゃんってお嬢様なんだねぇ…… メイドって……」
まあ確かにメイドなんて今時超お嬢様かもしれないけど……
「腕は確かだよ。ボクの勝負服二つともビューティーさんのだし」
「……まあお願いするよ」
なぜかすごい警戒をされてしまいました。解せぬ。
「ということでこんにちは。ビューティー安心沢よ」
「お久しぶり~」
「は、はじめまして!!」
ということでお姉さん経由で呼んだら早速来てくれましたビューティー安心沢さん。
今回はお姉さんである安心沢さんも同行しています。
「なんで安心沢さんまで来たの?」
「マーリンお嬢様の生活が心配で」
「大丈夫だよ?」
「この前スカートと上着めくりあげて下着丸出して扇風機の前で寝てました」
「いいんちょー!?」
早速いいんちょーが裏切ってチクりました。
安心沢さんがすごい良い笑顔で緑の悪魔を胸元から取り出しました。
「ちょっとその取り出し方エッチだしジュースが肌の温度に…… むぐっ!?」
あまりにまずいロイヤルビタージュースを飲まされて、意識が飛びかけました。
きっとボクでなければぶっ倒れてますね。劇薬一歩手前ですよこれ。
「それでフェニキアディールさんの花嫁勝負服ですか」
「はい、お願いしたいです」
ビューティーさんといいんちょーはボクたちのやり取りはスルーして早速話を始めます。
「どんなのにしましょうか」
「はい!!」
「マーリンちゃん、何か意見あるの?」
「極限まで布を減らしてスピードを追求するのはどうでしょう、ふぎゃっ!!」
背中に笹針がぶっ刺さりました。一番痛いところに的確に刺されています。
「お嬢様? まさかお嬢様の勝負服みたいな破廉恥なものを提案しようとはしてないですよね?」
「だってあれが一番速い……」
「黙りなさい!! メジロの総帥は倒れそうになるし、ドーベルちゃんは鼻血を吹き出すし、すごい大変だったんですからね! あれ!!」
「姉さん、それくらいで……」
「イサミちゃんもなんで止めないんですか! 全く!!!」
ぷんすか怒る安心沢さんの前に、ボクは静かに正座しました。安心沢さんは小さいころから面倒を見てくれて来たメイドさんですから、実の母親より実質母親みたいな存在です。基本だだ甘でやさしいのですが、怒らせると全くかなう気がしません。
ここまで怒らせてしまうと、もう正座して反省の意を示すしかないです。
安心沢さんにくどくど言われる中、いいんちょーの勝負服のデザインは少しずつ決まっていきました。
ビューティドリームカップはレースではありますが、速さ以上に美しさを競うレースです。
なのでレースはもちろん重要ですが、一番は美しさがポイントです。というか速さで競ったらラモーヌ姉さまぶっちぎっちゃうし……
まあ美しさの面でもラモーヌ姉さまぶっちぎりですけどね!!!(シスコン)
とはいえ今はいいんちょーの陣営なわけで、いいんちょーが勝つように努力しないといけないわけです。
いいんちょーだって可愛くないわけではないです。というか普通に可愛いです。童顔で優しくて気が利いて、ちょっと垢抜けなくて、ボクが男だったら絶対いいんちょーえらびますね! だって姉さま正直外見威圧感すごいし、並んで立てるのは余程のナルシストですよ。
ただ、今回求められているのはその畏怖すらしかねない美しさであって、親しみやすい可愛らしさではないわけです。
まあビューティー安心沢さんの腕なら極限に可愛らしくはしてくれるはずです。
「あとは演出ですかね」
「さすがに魔性の黒鹿毛に正面からの美しさで勝てるわけないもんね……」
「いいんちょーも十分かわいいとは思いますけどね……」
とはいえ演出も難しいです。まず、そういったことができるのはパドックの間とレースの間だけで、時間もそう長くありません。
また、ラモーヌ姉さまには付き添いのアルダンがくっついています。
自慢ですが、うちの妹のアルダンもそりゃ顔がいい。すごくイイ。シスコンですが断言できますし異論は受け付けません。
そんな二人が並べばもうそれだけで勝ちですわ!
つまり演出上も勝ち目ないしもうこれ無理ですね……
「うちの最高に可愛いラモーヌ姉さまと、うちの最高に可愛い妹のアルダンのペアに隙なんてあるわけないから無理ですね。証明終了です」
「シスコンに聞いても無駄だった……」
「でもどうせなら、楽しむのもいいんじゃないですか」
「? どういうこと?」
「チーム全員でパドック出ちゃうとか。付き添い人数に制限ないので」
基本付き添いは一人ですが、ルール上制限がないのは確認しています。
ならばチームメンバー全員で出ていい思い出作りにしちゃおう大作戦です。どうせ勝てないんだし。
「でも全員分のドレスどうするの?」
「姉さまかアルダンの使ってないドレス借りてきますよ」
「マーリンちゃんのドレスは?」
「ボクほとんどドレスもっていないので……」
おしゃれがわからな過ぎてドレスなんてほとんど買わないから全部着潰しちゃったんですよね…… 今着られるの、勝負服のウェディング含めて2着しかないです。
後のは全部ボロボロなので雑巾とかになりました。
「まあ、安心沢さんに管理してるドレス出してもらって、ビューティーさんにいいんちょーの勝負服に合うやつ選んでもらえばいいんじゃないかな」
「なるほど、楽しそうだね!」
ということでボクたちは勝利なんてもう投げ捨てて、チームみんなで楽しむ方向にかじを切るのでした。
さて本番ですが、まあ盛り上がるには盛り上がりました。理子ちゃんまで含めた総勢12人でパドックに乗り込んだのだからそれはそれは目立ちます。しかも理子ちゃん以外全員ドレスですし、理子ちゃんは一人タキシードです。リコちゃん、外見は厳しいスマートな感じなので、男装が似合っていました。まあ中身はふにゃふにゃよわよわなカワイイ系なのですが。
みんなでうまぴょい伝説とトレセン音頭を歌って、酸素吸って帰ってきました。もうやりたい放題です。
でも楽しかったのでよしとしましょう。レースは惨敗でしたし人気投票も全く振るいませんでしたが。
「いいわね、楽しそうで」
ラモーヌ姉さまがポツリとそれだけ言ったのがボクとしては誇りです。
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