ラモーヌさんとアルダンさんの姉妹の間に挟まれたメジロに転生してしまったお話 作:雅媛
一月後、約束の時はきました。
「シリウスの仕上がりはどんなものかな」
傲慢ともいえるような物言いをするのはさすがシンボリルドルフです。その言葉は努力で裏打ちされているのはボクでもよくわかりました。
今日のルドルフはぱっとボクが見るだけでも分かるぐらい『仕上げて』来ています。正式なレース直前と同等に準備してきているのでしょう。油断など何一つない、さすがシンボリルドルフ、といった雰囲気でした。
ルドルフがこの一か月、何度もメジロ家に来ていたのも知っています。今日のレースはメジロ家のコース2000mで行うというのは早い時期に決めていました。ルドルフはメジロ家のコースを確かめに来ていたのでしょう。芝状況、コース形状、そういったものを分析するために何度も何度も足を運ぶなんて、彼女に油断というものはないのでしょうか。いや、シリウスさんの実力を認めているからこその努力なのかもしれないですが。
「ばっちりだよ。ルドルフ」
そんなルドルフにシリウスさんがそう答えると、ルドルフが笑みを浮かべました。とてもうれしそうで、とても楽しそうで、そしてとても怖い表情でした。
こんな感情丸出しの表情をルドルフがすることもあるんだな、というのがボクの正直な感想です。どこかつまらなそうな顔をいつもしていましたから、こんな表情すること自体がボクには意外でした。
「姉さま、どっちが勝つと思いますか?」
「五分五分、ね」
「ここまで仕上げてもですか?」
シリウスさんのことはバッキバキに仕上げています。このレースに賭けている、というレベルです。しばらく小学生向けのレースでの成績が犠牲になるぐらい限界まで仕上げているのが今の状況です。
さらに、そこまで仕上げるまでに過酷なトレーニングを繰り返しましたから、心技体、あらゆる面で1月前より一段階上の実力にパワーアップしているはずです。それでやっとルドルフと五分五分とはちょっと想像していませんでした。
「ルドルフもきっと、本気で走るわ」
「今までのレースは本気じゃなかったんですか?」
あまり好きじゃないルドルフだが、レースに対する真摯さという点は評価できると思っています。今までも走っている姿を何度も見ていますが、彼女が本気じゃない走りをしているとはとても思いませんでした。
「本気とは何か、という話ね。文字通り全身全霊、お互い持てる100%の力で走るのよ」
「ふむ……」
姉さまが言うならそうなのでしょう。ただ、五分ということはどちらも勝ちうるということです。ボクは、固唾をのんで見守るしかありません。
二人が静かにスタート位置につきます。
「よーい、スタート」
アルダンの掛け声で、レースは始まりました。
レースのペースを握ったのはやはりルドルフでした。ベストポジションをしっかり維持しつつマイペースに飛ばしていきます。
それに対し、シリウスさんは後ろにピタッとつきました。徹底マークの姿勢です。
シリウスさんが他人のことをよく見ている、というのは利点にもなりうる特性です。ルドルフのように自分の道を貫くのではなく、それを生かした方がいいだろうと考えた戦法でした。これにより、相手のペースに合わせてそれでいてスタミナ消費を抑えるのです。ルドルフもマークを外そうとしますが、シリウスさんはルドルフの癖なども理解しているため、マークを外すことができません。最初の駆け引きはシリウスさんの作戦勝ちのようです。
ただ、この程度で負けてくれるほどルドルフは甘いウマ娘でもありません。
「雰囲気が変わりましたね」
「ええ、そうね」
ルドルフがシリウスさんを気にするようなそぶりを一切やめました。自分の走りに集中し始めたのでしょう。
自分の最適の走りを続けるルドルフと、ルドルフに合わせて最適な走りをするシリウスさん、どちらが有利かこれだとわかりません。
最終コーナーを回って、二人ともスパートをかけます。シリウスさんがルドルフに並びました。
「抜いたっ!!」
「いえ、まだよ」
一瞬シリウスさんが前に出ました。
抜いた、とボクは思ったのですが、その瞬間、ルドルフが伸びて差し返します。
何という精神力でしょう。絶対に負けないという意思をひしひしと感じます。
それに対し、シリウスさんが再度差し返しました。すさまじい競り合いです。
どちらかがスタミナを使い切るか、精神的に負けるか、そこまで決着はつかなそうです。とはいえゴールもそう遠くはないのですが……
「あっ」
「これで勝負がつきそうね」
シリウスさんが差し返した一瞬少しだけよろめきました。地面の凸凹が合わなかったのか、芝の具合か、たいしたものではないですが、命とりになりかねない一瞬です。
ルドルフさんが再度差し返します。ゴールまであと少しです。これで終わりかと思いましたが……
「ああああああああああ!!!!」
絶叫しつつ、気迫でシリウスさんが差し返しました。バランスの崩れがよりひどくなりますが、それでも全力と同じ速度で走り続けます。転倒のリスクも顧みず、ただ、前に前に足を踏み出し続けます。
その時ルドルフが、一瞬、このレースで初めてシリウスさんのほうに顔を向けました。
その表情が驚きに染まっているのをボクはこの目で見たのです。
ルドルフが再度差し返そうとしましたが、ゴール板は目の前でした。
ほぼ同時に、二人はゴールに飛び込んだのでした。
シリウスさんはゴールして芝に倒れました。スピードは落ちていたとはいえかなりの速度です。大丈夫かと慌てて近寄ります。
「で、どっちが勝ったのかしら?」
一方ラモーヌ姉さまがルドルフにそんなことを聞きます。
トゥインクルシリーズなどならばちゃんと判定がされますが、所詮草レースです。そんな立派な機械はついていません。傍から見ていたら態勢は五分に見えました。
「わかって聞いているだろう?」
「かわいい妹のためよ」
「言えと」
「ええ、言いなさい」
いつもの二人の圧縮言語です。何しゃべっているか全くわかりません。
シリウスさんが起き上がったのでペタペタ触って故障がないかの確認のほうが大事です。幸いすりむいているところはありますが、大きなけがはなさそうです。
「私の負けだ。シリウス」
「ああ、私の勝ちだ。ルドルフ」
傍目からではわかりませんでしたが二人には決着がついていたようです。
何かの儀式のように、確認するかのように二人は告げました。
「どうかしら?」
「とても楽しいな」
「で、どうかしら?」
「とても、とても悔しいな」
ルドルフさんはそういって、目から涙を流し始めました。
負けたことが彼女にとってはそこまで悔しかったのでしょう。
彼女が泣く姿は初めて見ました。
「マーリン、アルダン、ラモーヌ、三人とも1月の間、ありがとうな」
「いえいえ、私こそ楽しかったですよ」
シリウスさんは当然ですが帰ることになりました。かなりすっきりした顔をしていますから、よほどルドルフに鬱憤が溜まっていたのでしょう。まあ腹立つのはわかりますよ。
「マーリン、今度はお前と勝負だからな」
「嫌ですよ、めんどくさい」
ルドルフはまた私に絡みます。あんなやべー勝負に私がついていけるわけないじゃないですか。マーリンは置いてきた、これからの闘いについてこれないからな、ポジションですよ私は。
悔しかったらトレーナー資格取ってから来てください。
そんなボクの気持ちは全く無視され、これからも走って、負けて、煽られて、切れるということを何度も繰り返すんだろうなとボクは薄々察していました。幼馴染なんてそんなものです。
次はどんな話にしようかな(10話以降)
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三姉妹のちびっこレース
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メジロ87年組との絡み
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同期トレーナーとの絡み
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早く学園編に入れ