話自体はBEYONDのものではなくEXODUSの七話「新次元戦闘」直後の芹と織姫を主体としたものになっています。
蒼穹のファフナーという作品に感謝を込めて。ありがとう。
1.新同化現状の代償
芹ちゃんに新同化現状が起き始めた。
他のパイロットにも表れ始めてはいたが、芹ちゃんのものは同化吸収として触れたものをたちまち結晶化してしまうというものだったため隔離の対処が取られた。そのせいもあってか彼女の顔から笑みが消えつつあったことを私自身実感していた。初めはきつく当たってしまっていたが、私は乙姫を継ぐ島のミールであり、芹ちゃんは特別な存在であることを生まれた時から実感はしていた。そして、織姫という名を与えてもらい日々一緒に過ごしていてその想いは募っていく一方だったのだ。ご飯もお風呂も、時には寝る時も一緒に過ごす日々は私にとってとても幸せなものだった。そんな最中で取られたこの処置。無機質な部屋に閉じ込められて、戦闘時以外は基本外に出ることは許されない。他のものに触れることはもちろんのこと、食事として触れるものも同化吸収を行ってしまうこともしばしばあり、それらは芹ちゃんの心を蝕んでいった。私の心の奥底には芹ちゃんには笑っていてもらいたい、幸せであってもらいたいという気持ちがあった。実を言うとフェストゥムの猛攻によって機体が大破され、一時生死の境目を彷徨った時には正直なところ気が気では無かった。島のミールとして中立な立ち振る舞いを求められているということは自覚しているし、表ではそのようにしていたけれど芹ちゃんに対する気持ちは本当であったし嘘はつけなかった。そういった意味ではその死地を潜り抜けた新たな進化は僥倖ではあったけれど、その代償は大きなものだった。私であれば芹ちゃんの症状を多少なりとも制御したり、うまく扱うことができるためあーんをしたり、手をつないだりとなどいろいろと工面したりもした。そんな私に対して芹ちゃんは「ありがとう。」と言ってくれる。少しでも芹ちゃんが笑ってくれるだけで私の気持ちも温かくなった。ただ、それでも足りない。今では私の前で一見穏やかに眠ってはいるけれどまた目覚めれば辛い現実と向き合うことになるのだ。夢がその人だけで完結している不可侵の「眠りの帝国」のようなものだとしても、それは夢が覚めてしまうだけでたちまち瓦解してしまう。帝国というよりもむしろ砂上の楼閣である。新たな力が芽生える代わりに新たな代償を得ることになる芹ちゃんが向き合わなければならない世界は余りにも厳しい。彼女の寝顔を愛おしげに見つめつつ、握った手にふと目をやる。真白ですべすべな手、可愛らしい女の子の手だ…たった一つの要素を除けば。手の指に纏わりついたリングの形。これはファフナーパイロットとして彼女が果敢に戦ってきた証である。この痕に思いを馳せるだけでも痛々しいのに彼女は更に今、そして今後向き合わなければならなくなる。もう少しできないことはないだろうか、そう考えると一つ案が舞い降りて来た。
やったことはないが、これならいけるかもしれない。そう思い、芹ちゃんの顔をもう一度見つめ、意を固める。
「少し、出かけてくるわ。待っていなさい。」
そう言葉を残し、織姫は部屋を後にした。
2.孤独
目を覚ます。
目の前に広がるのは味気ない真っ白い部屋だ、この部屋に来てからどのくらい時間が経っただろうか。もはや自分の中で朝と夜といった時間の感覚も曖昧になっていることを自覚する。今の自分にできることはほぼ何もない。どうやら常軌を逸した再生能力を得た代わりに触れたものを所かまわず取り入れてしまう症状が現れたとのことらしいのでこの部屋に入れられているわけだ。未知な現象にさらされているわけだからその措置自体に問題があるとは思わない。
竜宮島にいる人は皆この島のことが大好きだ。自分の居場所や今自分がここにあることに誇りをもっているからこそ戦ってきている。私もその中の一人であり、島の自然を筆頭にこの島のことが大好きだった。
だからこそ、この状況は身に応えている。島にいながらして、幼い頃から共に過ごした島に住まう生き物たちの息遣いも、海辺に寄せる潮騒の音も、肌に指すような日差しさえ何も感じることができない。無菌室のごとく潔癖な、奇妙な空間で一人過ごし続けることは余りにも耐えがたいものであった。今私がどこにあるのか、同化現象の不安なども含めこのまま居続けることができるのかどうか分からなくなっていた。
そういえば、遠征に向かった広登はどのようにしているのだろう。向こうも向こうでかなり厳しい状況になっていると一報が入ったとのことを耳にした。島の中では親しい男性で、彼が出ていく直前に喫茶楽園にて話した心意気を今でも覚えている。大丈夫だろうか・・・。
また、今まで手にかけてきたフェストゥムたちの幕切れも頭に思い起こされる。幼い頃より虫といった生物と身近に過ごし、命の輝かしさを感じている芹にとってはフェストゥムたちも一つの存在として認めている部分があった。闘いの最中に伝わってくるフェストゥムたちの心根、叫びに触れつつ殺めていく。これらもまた、芹を苦しめる一つの要因であった。
何もない場所に一人残されるととめどなく自分の思考が流れていく。煩悶しては目をつむる。幾許か時間が経つとまた目を開けて煩悶する。もはや自身が覚めているのか覚めていないのか、厳しい現か悪夢なのかも判別し難くなっていた。私は憔悴していた。
そんな中で唯一の救いは織姫ちゃんだった。彼女は島のミールとしての力があり、私の症状の対象とならない。「島を守るために必要なことだから。」、そういって私の世話を焼いてくれる。前からずっと大切な存在ではあったけど今ではそれを増して感じている。私と一緒にいてくれる唯一無二の存在だ。そんな彼女だからこそ、今いないこの瞬間が辛い。先ほどまであった手の温もりと現在の自分の寂寥とした有様は私の胸を締め付ける。
「寂しいよ。」
ぎゅっと身体を抱え込むようにして、そう一言呟いた。
3.織姫のお願い
「料理の作り方を教えてちょうだい。」
部屋を後にしてから織姫は千鶴の元を訪ねていた。料理を習う上で何人か候補はいたが、日々の付き合いも鑑みると千鶴が適任だと考えた。あの真壁一騎も舌鼓を打つくらいの腕を持つという竜宮島の中ではこれ以上ないくらいの評価も得ているのだ。突拍子もない言葉に千鶴はしばし唖然としていたが、気を取り直して快諾してくれた。そうと決まればまずは食材をそろえるべく、商店街の方へ二人で歩く。晴れ渡る蒼い空や心地よい風に包まれているこの感覚は竜宮島の醍醐味だ。それを深く愛している芹ちゃんが感じることができないことに一抹の寂しさを覚える。街の方へ近づいていくと人々の活気が徐々に近づいていることが分かる。千鶴も時折知り合いとすれ違っているのか挨拶を交わしつつ街を歩いていく。戦闘が頻発しているとはいえ、この島民たちは強い。各々が自分にできる事をまっすぐに取り組んでいる。そして、それらの根本を支えているのがパイロットたちなのだ。商店街の真ん中に来た頃だろうか、千鶴が問いかけてくる。
「それにしても、どうして急に料理を?」
当然の疑問だ、基本アルビスで勤務をしていればそこで食事は出るし、そうでない人は各々で済ますことが多い。私に関しては食事は必須ではないため、たまに芹ちゃんとご飯を食べる程度で特段誰かの為に作るということは一切してこなかった。
「芹に食べさせるためよ。新同化現象で物も触れられないし、食べるにしても私が一緒になる必要があるの。かなり応えているようだから私が料理作ってみようと思って。」
千鶴は得心がいったのか私に微笑みかける。
「なら、とびきりのものをつくらなくちゃね。」
そんなのことを話しているうちに魚屋の前を通りがかった。初老の亭主がひらひらと手を振ってくる。
「お元気ですか、遠見先生。」
「ええ、おかげさまで。魚の調子など、そちらはいかがでしょうか。」
「今日は良いものが入ったよ、波も穏やかで漁もしやすかっただからね。」
「それではどうしようかしら・・・うーん。」
千鶴が魚を物色し始めた、店頭には取れたての活きのいい魚が並んでいる。ひときわ目につくのがスズキだ。上の部分が黒々としているのとは裏腹に、下はぎらぎらと銀色を光らせている。白身魚であっさりとしているため、少し気も身体も弱ってしまう芹ちゃんでも抵抗なく食べることができるだろう。出世魚でもあることから、今新たな祝福を受けようとしている意味でもいいゲン担ぎにもなるはずだ。その中でも大きく、身のしまったものがあったため私はそれを真っ先に指をさす。亭主は面を食らったようにううんと唸った。
「お嬢ちゃん、それを選ぶとは見た目によらずかなりの目利きだね。今の旬を理解しているのはもちろんのこと、白身魚は淡白さがウリだから脂ののったものよりしまったものが好まれるんだ。」
「島のミールとしては当然よ。私たちが今どこにいるか、生物たちがどのように生きているかはある程度把握しているわ。誰よりも近いところで感じ取ることができる。」
見た目によらず、と小娘扱いされたことが少々癇に障ったのか説き伏せるように言ってしまった。当の亭主は分かったような、分かっていないような神妙な面持ちで聞いて
「これにはしてやられた、お嬢ちゃんの慧眼に敬意を表しておまけをつけてあげよう。遠見先生、この子は本当に大したもんだねえ。」
「ありがとうございます。ええ、本当に。織姫ちゃんは私、いえこの島の誇りです。」
千鶴も誇らしそうに笑みをたたえながら魚を買い、受け取る。魚屋を後にし、商店街を回っているうちにその他必要なものを買っていった。全て買い揃った頃には気づけば日も傾き始めていた。そろそろ帰って準備を始めなければ夕飯に間に合わない。帰途に就くべく森を通り過ぎた時、気づけば辺りは力強いセミの鳴き声からどこか侘しさを彷彿とさせるような、儚げなひぐらしの鳴き声に移り変わっていた。前者は青々とした森と共鳴し鳴り響くが、後者は淡いオレンジ色の西日が森へ差し込み暖かな色で満ちるのとともに染み入るように鳴り響いていた。この島は四季折々、更には時刻に応じて様々な顔を見せてくれる。ちらちらと木漏れ日が差し込む森を抜けて坂道を上り視界が開ける。ふわりと遠くから運ばれてきた潮風が肌をなでる。淡い潮の香りが鼻腔を擽る。右には石壁がある一本の道にたどり着いた。あと少し道を歩けば千鶴の家だ。ふと、左へ顔を見やると地平線と沈みゆく太陽がそこにはあった。それは日の時間の終わりと夜の訪れであった。学校帰りに遊んでいた子どもたちであろうか、数人の集まりが私たちが立ち止まり景色を見ている合間に脇を通り抜けていく。そこには平和があった。あの子どもたちの中からまた新たなパイロットたちが選べれるのであろうか。この連鎖を断ち切り平和に至るべく今みんなは頑張っている。人は明日を、未来を志向せずに、希望無しでは生きていけないものなのだ。なるべく早く本当の意味で皆が平和になりますように。そう願いながら足を進めていった。
4.はじめての料理
千鶴の家に着き、早速始めようとしていたところ、千鶴から呼び止められる。
「その恰好ではもしも汚れた時に大変だから念のためにエプロンを付けましょう。あと、髪もまとめておきましょうか。」
千鶴がてきぱきと身支度を進めてくれて料理を行う準備ができあがる。
「真矢が小さい頃に使っていたエプロンで申し訳ないけれど、どうかしら。」
エプロンの裾に動物の刺繡があしらわれている。今の大人びた彼女には似つかわしくないものとなってしまっているかもしれない。年齢的には未だに少女だが、環境もあり大人の在り方へ一歩、いや数歩早く辿り着いてしまった者たち。真矢に限ったことではないが、こうやって置いていかれてしまったものを見ると行き場のない感情がふと浮かんでしまう。胸の中に浮かんだ哀惜を取り払いつつ
「サイズは問題ないわ、十分よ。ありがとう。」と回答する。
まずは千鶴が手本を見せてくれることになった。野菜の皮剥きから魚の切り方など基本の一連の流れを見せてもらった後に、見よう見まねで挑戦してみる。これがなかなかに難しい。、野菜は皮だけなく身までを深く切りそうにもなるし、魚の鱗はあちこちに跳ねる。日々料理という行いをしている人の文化的豊かさと技量にその時織姫は舌を巻いていた。どうにかして切り分けることができた。やや不格好な形だったり身がちぎれかけているものもあるが初めてにしては上出来であろう。できた切り身をコンロに入れようとしたところでインターホンが鳴った。千鶴が応対に出るとそこにいたのは文彦だった。どうやら、最近は千鶴の家でご飯を食べることも多いようだ。部屋に入り、私の姿に気づくと少し驚いた顔を見せる。
「織姫も来ていたのか・・・、君が料理をしている姿を見るのは初めてだ。何かあったのかね。」
「色々とあってね。文彦は千鶴の家によく来るのね。仲睦まじいのは良いことだわ。」
私の突発的な動機を知られるのも少々気恥ずかしく、話の方向をそれとなく変える。文彦と千鶴は向こうは向こうで顔を向け合ってはにかみながら笑みをたたえていた。芹ちゃんに対する私も大概ではあるが、どうしてこう、この島の人物らはなかなか想いをそのまま態度に表すことが苦手らしい。みんな思い思いの心の温かさがあるというのに。
もうすぐできあがるとのことで千鶴は文彦は席に着くよう促し、台所へ戻ってくる。同様の流れで千鶴に手ほどきをしてもらいながらごはん、みそ汁といった和食の定番の料理を作っていく。文彦はそんな私たちの姿を何を想っているのか、優しげな面もちで見守っていた。千鶴の腕前による手伝いもあり、思いの外早く出来上がった。出来立ての、温かみを感じる家庭料理だ。芹ちゃんの家で出てくる、食べさせてもらっているご飯も同じ。彼女は今それを食べることができない。千鶴が出来上がった料理をこぼれない様に盛り付けラップをして私に手渡す。
「上手にできたわね、冷めないうちに早く持って行ってあげて。」
「千鶴がいてくれたからできた、ありがとう。」
芹ちゃんの元へと駆け付けたい逸る気持ちが私の中にあることを察してくれているのだろうか。その好意と手伝ってくれたことに感謝をしつつ私は千鶴の家を出て、芹ちゃんの元へと向かう。
5.皆城家への思い
皆城織姫が出た後、真壁文彦と遠見千鶴は食事を前に向かい合っていた。
「それにしても、織姫が料理を作りたいと言い出すとは・・・。立上芹、彼女に向けたものなのでしょうか。」
「よく分かりましたね、文彦さん。今パイロットたちは新同化現象による辛い状況にありますから・・・。特に立上さんはアルビスの一室に隔離されていますし。」
「なるほど、織姫がアルビス内の食事を立上の元へ運んでいたのは知っていましたが自分で作ると言ったわけですね。…どこか感慨深いものがあります。行美さんが今回のミールは人懐っこいと言っていたのにも納得がいきますね。」
「確かに、乙姫ちゃんの時には見られなかったことですし。織姫ちゃんならではの振る舞い、成長も見られますよね。・・・文彦さん?」
話していると文彦が愁眉を開いたような表情をしていたので、その意図を問いかけるように名前を呼ぶ。
「すみません。少し皆城家の方々を思い出していました。元々はフェストゥムの研究の為に尽力していた鞘さんがミールの暴走で亡くなり、最後に私たちに託して下さった存在だった。我々はその存在によって守られてここまで生き永らえたのですから。そのことに感謝しつつも、どこか憂いの気持ちはあったのです。ただこうやって彼女なりに縁を紡ぎ、成長している姿を見ると勝手ながらではありますが許されている、報われているような気持ちになってしまって。」
特に文彦は公蔵から託されて司令官になり、その後も彼の息子である総士の多大なるサポートによって戦地を潜り抜けて来たことから皆城家に対しては並々ならぬ思いがあった。そんな文彦を近くで支えていた千鶴も思いは同じである。
「それは私も同じです。私たちは幾人の思いがあってここにいることができています。でも、今日織姫ちゃんに料理を教えていて、彼女が立派に作ることができて、最後にお礼を言ってくれるなんて・・・。お礼を言わなければいけないのは私の方なのに。」
「千鶴さんはいつも色々な人の助けになっていますよ。あなたがいなければクルーの体調はもちろんのこと、この島の要であるパイロットたちが満足に戦うこともできません。無論、私だってあなたがいなければここまで生きることはできなかった。あなたも、多くの命を救っているんですよ。もし、自分が大したことをしていないと思っていても他者にとってはそれが変え替えの無いものであることも少なくない。大なり小なりありますが、私たちは共に支えて、ここにいます。いつもありがとうございます。」
万感の思いを込めながら、それを感謝として表す。千鶴は胸をいっぱいにしながら「はい。」とその言葉を受け止めた。
「さあ、せっかく作ってくれたのだから頂きましょう。文彦さん。」
「ああ、そうしよう。」
普段の食事の団欒が始まる。しかし、今日はちょっぴり特別だった。千鶴であれば行わない、少し拙い切り方の野菜などもあったが、それもまた格別なもので美味しく感じたのであった。
6.いただきます
長いアルビスの廊下を歩いていたがいつのまにか私はもう芹ちゃんの部屋の前まで来ていた。そして、つい扉の立ち止まってしまっていた。初めての料理だったこともあり、緊張しているのだ。突然自分の手元にあった料理がひどく不格好にも見えてくる。でも千鶴に教えてもらった通りやったし、料理の手順、時間などもズレなく完成させたはずだ。こう理屈立てて自分を安心させてしまうのは叔父譲りなのだろうか、ふと総士のことが頭に浮かびくすりと笑ってしまう。なんだかいい具合に緊張もほぐれてきた。もう、大丈夫。
音を立てて室内に入るとベットの上で身体を丸めて座っている芹ちゃんが目に入った。芹ちゃんも私に気づいたようで顔を少しあげる。私と気づいたやいなや完全に身を起こし、こちらを見つめてくる。・・・なんだかちょっと気恥ずかしいような、嬉しいような。
「食事の時間よ、芹。」
机の上に配膳していく。どれも私が作ったものだ。私が並べ終えるといつも通り私が箸を持ち、食べる体制に移る。
「いただきます。」
「何から食べる?」
芹ちゃんが手を合わせて、その後に私が聞く。いつもの流れだが私は内心ドキドキしていた。
「じゃあ、まず魚から。」
魚の切り身を食べやすい大きさに分けて「あーん。」と芹の口へ運ぶ。その後ごはん、みそ汁といつものルーティンだ。人通り口にした後、所在なく私の視線はつい彷徨ってしまう。いつもなら芹ちゃんがご飯を食べる姿、顔を眺めているのだけれどどうも今日は真っすぐ見つめることができない。そんな私の様子に何か芹ちゃんが気づいたのか、私に目線を合わせてくる。
「織姫ちゃん、今日のご飯特別だよね。私が家で食べるご飯と近い味がする。具材の切り方も手作りだって分かるし。これ・・・もしかして織姫ちゃんが?」
「・・・そうよ。気が向いたから作ってみたの。よく気付いたわね。」
「さっき言った味も作り方もそうだけど、具材も分かりやすいもん。焼き魚はアルビスの食事でもついてるけど、そこに並んでるこの焼きイカ。イカが出てきたの初めだったから。織姫ちゃんイカ好きだもんね。」
鈴を転がすように芹ちゃんが笑う。綺麗だ。やっぱり芹ちゃんには笑顔でいて欲しい。
「そんなことで気づくなんて、芹は目ざといのね。私がイカが好きなことなんて特に誰かに言ったわけでもないのに。」
「だって前にオムライスを持ってきてくれた時に、上にケチャップでイカを描いていたあったでしょう。織姫ちゃんは何も言ってなかったけど織姫ちゃんが描いたんだろうな、って私思ってたんだ。今日それが確信になった。」
「よくそんなことまで・・・。よく頭突きをしているから記憶でも飛んじゃうんじゃないかと思っていったけどその様子だと大丈夫そうね。」
「もー、織姫ちゃん・・・。」
芹ちゃんがそこまで私に関してよく見ていること、覚えていることに嬉しさと恥ずかしさが自分の中で混同してしまい、つい棘のある返しをしてしまう。芹もあの独特の闘い方は変成意識がある際は何とも思わないようだが、通常時ふと我に返ると思う所もあるらしい、口を尖らせている。
「ほら、とにかく食べる。あなたが元気でいないと島のミールとして私も安心できないんだから。」
芹の口元へ箸を運ぶ。
「でもね、織姫ちゃん。本当に美味しいよ。ありがとう、私のためにこんな立派なもの作ってくれて。まるで家で一緒に食べていた頃みたい。」
工夫してくれたであろう立上家に近しい味付けはもちろん、織姫にとっては少々不格好になってしまった具材の切り方までも愛おしい。芹にとっては心の底からありがたい、温かな料理であった。芹の目元に涙が浮かんできた。「よかった・・・。」と、織姫は芹が喜んでくれたことに安堵しつつ、引き続き食事の手伝いを行い、食べ終わった。
「お腹いっぱい、ご馳走様でした。ここの部屋はすることないし・・・食べて寝てるだけじゃ太っちゃうよ。」
「そんな細身でよく言うわ、休めるうちに休む。これは鉄則よ。あなたは島を背負って頑張っているのだから」
食べさせる際にイスに座っていたが、私はベットの上に腰を掛けて芹の隣に身を寄せる。温かい、芹の香り。この部屋は極めて無機質で生活感も何も感じられないけれど、こうやって芹に近づけば芹の香り、温もり、存在を感じ取ることができる。
「織姫ちゃんの方が細いよ、細くて小さくて。(人知れず背負っているものも・・・)」
思う所があるのか芹は思いつめたようにして私の手を包んでくれる。やっぱり私はそんな顔を芹ちゃんにして欲しくない。
「休みましょう、私も初めてのことをして色々と疲れたわ。あなたの家に帰ったら今度はあなたの料理を食べさせてね。」
「うん、織姫ちゃんの好きなものなんでも作ってあげる。今日は本当にありがとう。おやすみなさい。」
と芹の身体に手をまわして一緒に横になる。目と目を合わせて向かい合うようにし、祈るように二人で手をつなぎ合わせて目を閉じた。
蒼穹のファフナーに感謝を込めて。
できる限り原作に即したものになるよう努めて執筆致しました。
ファフナーのテーマである「平和」、「島の自然や人々」、「いなくなったものを忘れない心」といったものをできる限りつめこんだつもりです。
久しぶりの執筆かつ、ファフナーファンとしてはまだまだ新参者なため、見苦しい部分もあったかも知れませんが、ご了承ください。
ここまで読んで下さり、誠にありがとうございました。