特急電車は終着駅に着き、俺たちは電車を降りて草津温泉に向かうバスに乗り換える。駅から温泉街までのバスはここから約30分。ここに来るまででも既に2時間以上かかっているのにみずほの気分は右肩上がりのままだ。俺は、任務に支障がないと言いきれないこの状況にため息をついた。
任務の内容は、草津温泉に宿泊している男を生け捕りにしろ、といった内容だった。
東京支部と群馬支部の合同任務。それにしては支部単独でも良いような内容なのだが、合同になっているのには訳がある。
たきなが機銃掃射で殺した武器商人達。実は、あの時参加していなかった人が居たということが判明したのだ。しかも、不参加だったのは武器商人の補佐。商人までとはいかないが、重要な情報を得られるだろう。
そして人選だが、やらかしたチームよりも、まだ何もやらかしてないチームの方が対外的には良いのだろう。
というのが東京支部の司令部が出した答えだった。
俺たちを乗せたバスは、定刻より少し遅れて温泉街の外れにあるバスターミナルに停車した。
バスを降り、トランクスペースからスーツケースを出していると、後ろから声をかけられた。
「こんにちはー。群馬の高橋志織ですー。よろしくお願いしまーす」
茶髪のショートヘアに間延びした口調、そして紺色の制服。群馬支部のセカンドリコリスだ。
「長旅お疲れ様でした。ホテルまで案内しますよ」
「ありがとう」
志織に連れられ、草津の温泉街を歩く。温泉街は大量の観光客で埋め尽くされており、制服姿で歩く俺達が異質に思えてしまう。
草津温泉の源泉が湧き出ている湯畑。もちろん、温泉街の中心部でもあり、湯畑を囲むようにして建ち並ぶ宿泊施設はお高いところばかりだ。
任務とはいえ流石に全額DA持ちは気が引ける。
俺の気持ちを知って知らずか、みずほはどこからか買ってきたソフトクリーム片手に志織とだべっている。
お前、満喫してんな・・・。
「ここです。ここが宿泊するホテルです」
湯畑を一回りした後に志織に案内されたのは、〝草津インターナショナルホテル〟といったホテルだった。
湯畑に面しているホテル。それだけでホテルの価格は1番安くても
制服、浮くんだけど。
辺りを見回すと高そうな壺、真っ赤な絨毯、部屋まで荷物を持ってくれるコンシェルジュ────
うん、どう見ても修学旅行とか部活動で来るようなホテルではない。まさか、ここにターゲットが泊まってるってことじゃないよね・・・?
志織がフロントから部屋のカードキーを2枚預かってきて、俺たちに館内の案内と共に手渡す。
「はい、コレ」
「ありがとー」
「ありがとう。ちなみにカバーストーリーは?」
カードキーを受け取った俺は、エレベーターホールへ向かいながら歩く志織に問いかけた。設定の認識は大切だ。少しでも矛盾が生じると計画そのものが破綻する可能性があるからだ。
「部活の遠征でここに来た。ホテルは遠征先の学校が好意で用意してくれた」
えぇ....(困惑)ちょっと雑すぎませんかねぇ・・・。
ま、不都合なことがあったらDAが揉み消してくれるからヨシ!
カードキー認証タイプのエレベーターに乗り、自動的に向かった階で降りる。志織はエレベーターを降りると慣れたようにスタスタと廊下を歩いていく。
「ここだよ」
志織は階の奥、非常階段横の部屋まで案内した。
なるほど。非常階段横ならすぐに逃げられる確率があがる。
よくこんな部屋取れたな。
志織がオートロックを解除し、戸を開けると寝室の窓からは先程まで見ていた湯畑の景色があった。
「わぁー!湯畑ー!」
みずほはぴょんぴょんしながら窓際ではしゃぐ。子どもか。
俺はそんなみずほを無視して部屋を眺める。部屋はホテルと言うだけあってベッドが2つ並ぶツインルームの洋室だ。
チラッと調べたところこのホテルには和室もあるらしく、温泉宿では和室が良いなぁと思ったりもしたが、人に取ってもらったホテルだし仕方がない。それに、和室だと夕方頃布団を敷きに部屋に入ってくるため、防犯上の問題もあるのだろう。
「ふかふかベッドー!」
そんなことを知って知らずか、みずほはベッドの上に寝そべって足をパタパタさせている。
お前本当に俺と同い年か?俺が高校生の時こんな感じじゃなかったぞ?
みずほがはしゃいでいるのを横目に、俺は俺とみずほのスーツケースの中身の整理を終わらせる。時間は有限だからだ。仕方ない。
「作戦会議は明日になるから今日はもう自由時間だよ。どうする?」
スーツケースの整理が一段落した時にふと、志織がそんなことを言い出した。
せっかく草津温泉に来たのに任務で暗殺して終わりとは何となく悲しい。やっぱり初日だけでも満喫はしたい。
「遊ぶ」
「だな」
もちろん、みずほも同じことを思っていたのか、俺より早く志織に答えていた。こんな時だけ意気投合するのか・・・、俺ら。
そんなこんなで志織に連れられ、俺たちは草津温泉の散策を始めることにした。
ホテルのメインエントランスが接している湯畑から1本小道に入ると、土産物屋や娯楽施設などが多く建ち並ぶ通りになる。もちろん、世間一般の学生達は夏休み期間のため、人通りは多い。
制服だと浮きそうだが、意外と何とかなりそうだ。
「学生さん!どう!?草津の温泉まんじゅう!」
土産屋のおばちゃんに温泉まんじゅうを試食と共に勧められる。やっぱり若々しい見た目と制服だと学生に見えてしまうのだろう。ごめん、殺し屋だよ!残念だったね!
おばちゃんからまんじゅうを受け取り、みずほと共に頬張る。
「うわっ、美味しい・・・」
「確かに・・・」
美味しい・・・。普通の餡が入った温泉まんじゅうだが、店先で蒸しているからなのか、それとも観光地にいるという気分なのか、とても美味しく感じてしまう。
「買おう買おう!」
「買いすぎんなよー」
みずほが土産屋の中に入るとすぐに、買い物カゴを手に持つ。これが司令部用とー、リコリコ用とーと言いながら温泉まんじゅうが入った箱を入れていく。
個人的には司令部とかには長持ちしそうな菓子類がいいと思うのだが・・・。俺はこの抹茶ラングドシャを選ぶぜ。
「温泉まんじゅう買わないの?」
「家用だけだよ」
温泉まんじゅうに魅入られたのか、妙に推してくる。そこまで推してくるなら、少しだけは買おう。大量に買うと後々がキツイからな。
温泉まんじゅうをカゴに入れ、横にいるみずほの方を向くと、みずほは何やら茶色の棒の様なものを手にしていた。
「ねえ結衣!これ買おうよ!」
木刀だ。ここ以外でも京都とか日光とかの観光地とかでよく見るアレだ。お前は修学旅行中の男子中高生かよ。
「絶対後悔するぞ。というかどうやって持ち帰るんだ?」
買ってから後悔するのはお決まりなのだが、1番の問題が持ち帰るのにとても向かない代物だということだ。
スーツケースになんて長すぎて入るわけないし、持ち運ぶのだって目立つのがあまり推奨されていない俺たちリコリスにとっては宜しくない。
「じゃあ宅配便」
「木刀だけ送る気かお前」
確かに、送れないことは無い。だがそこまでしてどこでも売ってる木刀を買って送るのか・・・?そんな価値ないぞ・・・?
「ダメー?」
「駄目だ。さっさと買って次行くぞ次」
ブーブー言うみずほを横目に、俺は俺自身の分とみずほの分を会計し、さっさと土産屋から離れる。
「木刀欲しいのー!」
駄々をこねはじめたが、店から離れるとあっさり諦めて俺についてきた。あんなに粘ったくせに諦めはえーなお前。
この光景を横で見ていた志織は
「君たちって仲良いんだねぇー」と呟いていた。
ひとまず、次の行く場所を決めよう。土産屋以外で。そうしないと奴さん、木刀買うかもしれない・・・。
ちょうどそんな時に見つけたのが昔懐かしい見た目の射的屋。これなら何とか楽しめそうだ。とりあえず、みずほに聞いてみよう。
「射的か・・・
良いね!点数で勝負だ!」
みずほは素直に提案を飲んだ。そんなこんなで、射的屋で遊ぶことになった。それと同時に射的屋で点数ゲームも開催されることになった。
射的屋にはいくつか点数のついた的がある。それを11個の弾で倒して獲得した点数が多い方が勝ち、というゲームだ。
「負けた方はジュース奢りね!」
「望むところだ!」
「2人とも頑張って〜」
もちろん、負けた方が買った方に飲み物を奢るという罰ゲームつき。ちなみに志織は案内人のため、見学だ。仕方ない。
店員のおっちゃんに2人分の弾代を渡してコルク製の弾を受け取り、銃身に込め、構える。
「よーい、始め!」
俺の掛け声を合図に勝負は開始された。
「負けたー!結衣半端ないって!1つの弾で2つ以上の的倒すとかそんなんできひんやん普通!」
あの後も少しだけ散策してから志織と別れ、ホテルの部屋に戻る廊下。みずほは悔しそうに叫んでいる。結局、射的の結果は俺の勝利だった。スコア差はほぼダブルスコア。誰がどう見てもみずほの完敗だった。
「ファーストに勝つなんて100年早いわ!」
にししと笑いながら、目の前に自室のドアが来たことを確認してカードキーを認証させてドアを開く。
中に入り、カードキーをキーポケットに入れて電気をつけると、ベッド脇に何なら棒みたいのがあるのが見えた。
「あっ・・・」
何やらみずほの様子が怪しいが、あまり気にせずその棒に近づいて何の棒かを確認する。
これは木刀・・・?いつ買ったんだ・・・?あんなに止めたのに・・・?
「なあ、アレなんだ?」
「えっと・・・、そのぉ・・・」
俺がみずほに問いかけるとみずほは露骨に目線を逸らした。やりやがった。マジかよこの野郎、やりやがった。あんなに止めたのに。
「なんだアレ」
「その辺で拾ってきた木の棒だよ・・・?」
みずほは冷や汗をかきながら目線を逸らして言い逃れをしていたのが、とりあえずそんなのはどうでもいいし、俺の話を聞いていなかったお仕置きとしてバックドロップをくらわしてから部屋に吊るしておいた。