私、森川菜々は人通りのない深夜のお台場を歩いている。私の今回の任務は前を歩く男を殺すこと。
いつも通りの任務。なのに私の身体は恐怖に包まれていた。
私の今回の標的は、私のチームメイト2人を殺した犯人たちだ。普通だったらチームメイトを殺されたことで恨みを持ち、復讐心に燃えるのだ。
しかし、今回に至っては戦闘中にすらなっておらず、ほぼ一方的に惨殺されたらしい。しかも殺された2人はチームメイト4人の中でも1番セカンドに近い実力者だった。その2人でも敵わなかった敵なんて、私が相手なんてしたら瞬殺されてしまう。
気づけば復讐心よりも恐怖が上回っていた。任務だから感情を押し殺しているが、何だか体の動きがあまり良くない感じがする。
何度かお世話になっているファーストリコリスの結衣さんに助けを求めたけど、あてにはしない方がいいし、助けに来てくれても多分返り討ちにあうだろう。
今日で私の人生終わりそうだな・・・。
そう思ってしまうのも必然のようだった。
そんな事を考えていても時は待たずに動き続ける。目の前の対象が横断歩道を渡り始めた。
私は半ば自暴自棄になりながら男の背を追い、照準を定めようとした。
ッターン────
「っ!?」
銃声。すかさず私は辺りを見回す。
前、男は背を向けている。
左。異常なし。
後ろ、異常なし。
右────
右を向いた瞬間、目の前には黄色のスポーツカーが目に入った。黄色のスポーツカーはグングン加速し私に突っ込んでくる。
運転席にいる男と目が合う。暗い周辺と車内ではよく分からなかったが、狂気に満ちたような目だった。
銃なんか撃てるような時間なんてある訳なく、私は車を避けるだけで精一杯だった。
「きゃっ!?」
車を間一髪避けられたが、とっさのことであったため、銃を握ったまま転んでしまった。銃が暴発しなかっただけまだ良かったのだが、追尾していた男の仲間たちに包囲されている。
手持ちの銃は転んだ際に手から離れてしまっただけでなく、男たちに奪われてしまってる。遠くにはスポーツカーに乗っていた男がニタニタと笑いながらこちらを見ている。
これ死んだね。リコリスらしく短い人生だった。来世は一般家庭に産まれたいな・・・。
私はゆっくり目を閉じた。
その瞬間だった。
「ぐわっ!」
「グェッ、」
「な、何だ!?」
突然男たちが血を流して倒れ始めた。
まさか、サイレンサー着きの銃で撃ってきている!?
私と男たちが混乱している間に次々凶弾に倒れていく。親玉らしきスポーツカーの男が私と同じ驚きの目でこの光景を目にしている。
私を囲んでいた男たちは1分足らずで全滅した。これは私を助けに来たのか・・・?男もこのことに気づいたのか、私に銃口を向けてくる。
あ、今度こそ死んだわ。
私は観念し、目を閉じる。
数発発砲音。痛みは感じない。これが死ぬってことなのか・・・。
「おい!森川!」
しばらく身動きを取らなかったところ、急に声をかけられた。それは、何度も聞いたことのある声のようだった。
目を開けると目の前に白色のステーションワゴンが止まっており、運転席に座る女性らしき人が窓を開けてこちらを向いている。
「早く乗れ!」
そう叫ぶ女性は黒のキャップに黒のマスク、黒のパーカーといった怪しさ満点の格好だったがこの絶体絶命な状況では藁にもすがる思いだったため、すぐに車に乗り込もうとする。
「逃がすか!」
スポーツカーの男は私たちを捕まえようと白のステーションワゴンに走ってくる。
「早く!」
私が後部座席に乗り込み、ドアを閉めた瞬間に黒の女性はロックを掛けた。男はドアノブを何回も開けようと引っ張っているが開かない。クソワロタ。
「クソっ!」
男はドアを開けるのを諦めると懐から拳銃を出してきた。この車に撃つつもりだ。
「撃って来ますよ!」
「捕まってて!」
女性はシフトレバーをRレンジに入れて車をバッグし始め、男はどうしても私を殺したいのかこの車に向けて撃ち始めた。
「撃ってきた!」
「任せとけ。この車は防弾だぞ?」
窓や車体に弾丸が当たる音が聞こえてくる。が、防弾仕様のため、拳銃くらいの弾は全く効かない。
一定バックし終わると女性はシフトレバーをDの位置まで動かしてアクセルを踏む。ハイブリッドカーらしからぬエンジン音を鳴らしながら車は急発進する。
男も自身のスポーツカーに向けて駆け出しており、この車を追跡するつもりなのだろう。
スポーツカー対大衆車。果たして逃げ切れるだろうか・・・。
スピードを出したカローラツーリングは首都高の入口をスルーし、何でもないような角を曲がる。
「どこ行くんですか!?」
「色んな道を通って撒く!」
路地に入り右左に曲がる事に不安を感じた私に対して出した答えだった。スポーツカーと一般大衆車。どちらの方が市街地を走行するのに向いているのかは一目瞭然だった。
最初の方はルームミラーに写っていたスポーツカーも、角を曲がるにつれて遠ざかっていく。
しばらく走り、車は山梨経由で長野まで向かう国道20号に出た。ここまで来ればバックミラーには何も映らないし、車のハッキングもされていない。一安心だ。
安心したなら1つ確認することがある。
「ところで貴女、結衣さんですよね?」
「きっしょ、なんでわかるんだよ・・・」
この女性の身元だ。というか東京支部のリコリス達なら東京のファースト全員の姿と声くらい覚えていて当たり前だ。すぐに当てられる。すぐに当てられたことに対して結衣さんは帽子を取りながら今巷で人気の漫画のセリフを真似する。
リコリスとはいえ、流行に疎いと潜入捜査の時にボロが出るため、こういった流行についてはチェックすることが推奨されているのだ。
そういった点では、結衣さんは違和感なく溶け込めるため、高校とかの潜入捜査では重宝するのだろう。やはりDAの外で活動しているからなのだろうか?
とりあえず、私はDA本部まで送って貰えることになった。本部に向かう車内で秘訣を聞いてみよう。
夏だ!海だ!リコリコだ!
はい。皆さん近藤結衣ちゃんです。
結局あの後もう1人も助けられました。やったぜ。第1部、完。
いやー、2人殺されたからどうなるかと思ったけど、どうにかなるもんだね!真島、大したことなくね?(特大フラグ)
今日は2人を助けたから自分へのご褒美として千束スペシャルを2つ食べようと思う。たまにはこんな日もあってもいいはずだ。
「なんだか今日は上機嫌ですね」
「いやぁー、いいことがあってねぇ〜」
俺がいつもとなく上機嫌だったことに疑問を感じたたきなが理由を聞いてきたのだが、俺は自身がリコリスということを黙っているため、わけを話すことは無い。
・・・ずっと気にしないようにしていたんだが、クルミが俺の方をジッと見つめている。
え?俺なんか変なことクルミにやったっけ?それとも何か俺の情報がインターネットに流失しているのか・・・?
そもそも俺はリコリスだから俺関連の情報は現時点でクルミ以外に引き出せるとは思えないのだが。
俺が千束スペシャルを2つ注文し、ミズキが金にならないと半ば発狂した感じで厨房の奥へと消えていく。
メニューから消しても頼めるリコリコが悪いんや・・・。最悪値段上げたら・・・?
そんなこんなで注文が終わり、いつも通りパソコンをデスクに広げようとすると、クルミが声をかけてきた。
「なあ、少しいいか?」
そう言いながら店外に向かって歩き出すクルミ。ほぼリコリコに籠りきっている彼女にしては珍しい。
クルミは喫茶リコリコの外に出ると、建物前のベンチに座る。ポンポンとクルミは座っている横の空いたベンチを軽く叩く。
「ねえ、いきなりどうしたの?」
俺がこのようなことを聞いたのはクルミがこんなことをするなんて珍しい。といった好奇心からだった。
この言葉を聞いたクルミは、俺に目線を合わせながら口を開いた。
「お前、リコリスだろ」
さっきまでの嬉しかった感情はどこへやら。一気に全身を冷や汗が流れていく。
正直、逃げ出したかった。
しかし、クルミは俺をずっと見つめていたのだった。