季節は春から夏に移り変わり、制服も長袖の冬服から半袖の夏服に移り変わる時期だ。
確かたきなのパンツトランクス騒動も夏服に切り替わってからの話だったっけ。もし予定が合うなら一緒に買いに行ってみたい。今の俺は女の子だから問題ないだろう。
錦糸町を南北に貫く四ツ目通りを、眠い目をこすりながら歩きながらそう考える。
「結衣。また変なこと考えてるでしょ」
右腕にひっついているみずほはキッ、と睨んでくる。考えていることがわかるなんてさすが腐れ縁なだけある。
「ん?いや?みずほとのこと考えてた」
適当にはぐらかすと、教えてくれてもいいじゃんと、ブツブツ言いながらも組んだ腕をなかなか離さない。さては君、愛が重いって言われない?
いつも通りに愛が重い女が右腕に、いつも以上に重いリュックサックを後ろに背負い、重い目を擦りながらリコリコに向けて歩いていく。
リコリコに着くやいなや、みずほはドアにかけられている営業状態を示しているプレートに目をかけた。
「お、
「
どこかのCMで聞いたようなネタで軽口をたたきながらリコリコの中に入った。
「いらっしゃーい!お、今日はみずほちゃんもいる!」
「お久しぶりです、みずほさん」
「久しぶり千束ちゃん、たきなちゃん」
中には、千束とたきながいつも通りの和装で出迎えてくれる。俺もこの服を着たいと思うのだが、まあ、到底叶いそうは無いだろう。
「今日は何にするー?いつものー?」
お盆を抱えながらににへへと笑いながら寄ってくる千束。クーッソ可愛いー!
「結衣のいつものって何?」
なかなかリコリコに来ないみずほは俺がいつも頼む物は知らないため、千束に聞いていた。
確かにそうだ。地下鉄1本で来れるとはいえおよそ10駅分も揺られ、さらに地上も歩いてて行く労力は果てしないからだ。
「煎茶とだんごのセットだよ」
「じゃあ私もそれで」
即答だった。
注文が終わるとトテテテと、千束は店の奥に消えていく。たきなも奥で行う仕事があるのか既に店の奥に消えていた。
座敷に座るとすぐに眠気に襲われる。
「眠っ・・・」
どうにか起きようとしていると、ねぇねぇとみずほが呼びかけてくる。
「朝帰りだったもんね。寝てもいいよ」
みずほが自身の膝をぽんぽんと叩いた。膝枕。これ程ありがたいものは無い。
「ありがとう・・・」
言葉に甘えてみずほの膝に頭を埋める。
女の子特有の柔らかさと匂い。ああ〜、たまらねぇぜ。
満足な気持ちになって眠りにつこうとした時、誰かが横をパタパタと歩く音がした。
眠い目を開けると、そこにはセカンドリコリスの制服を着たたきなの姿があった。
「すみません、私は別の用事があるのでココで」
そう言いながら店を出ようとするたきなの手には紙袋が。おそらく、珈琲豆をヤクザの組長宛に持っていくのだろう。別に怪しい粉とかでは無い。
「またね〜」
ヒラヒラと手を振ると、たきなは会釈して店を出ようとする。
たきながドアノブを触った時、たまたま足元に何やら紙屑が1つ落ちていた。
たきなはそのまま左膝に手をついて空いた右手でゴミを拾った。
「・・・!」
その光景を寝そべりながら見ていた俺は、見てしまった。いや、ようやく見れたと言っても過言ではないものを見た。しかし、実際見てみると萎える。興奮などはしない。
さっきまでの眠気は完全に覚めた。そんな俺に気づかないたきなはそのままゴミをゴミ箱に捨てて出ていってしまった。
「どうしたの?」
眠気がスっとんだ俺を不思議に思ったのか、みずほが問いかけてくる。
「トランクスだった」
は?と言いたげな目で見てくる。いや、だって本当にトランクス履いてるんだから。
「おまたせー。ん?どったの?」
俺たちが頼んだ煎茶とだんごのセットを持ってきた千束が不思議そうに聞いてきた。
「たきなちゃんのパンツ、男物のトランクスだったわ」
「えっ?」
〝コイツ、疲れてるな〟といった目でみてくる2人。
「今日ほとんど寝てないからおかしくなったんじゃない?」
「おいコラ」
みずほが俺のことを煽ってくる。確かに今日は寝てない。
「いや、まさかたきなのパンツがトランクスなわけないじゃん」
真顔で見てくる千束。やめてくれ、その顔は効く。だが、2人が否定しようとたきながトランクスを履いているのは紛れもない事実なのだ。
「いや、絶対に履いてた」
ここは譲れない。
「本当に?」
「本当の本当」
俺のゴリ押しに根負けした千束は、頭をポリポリと掻いた。
「わかった。じゃあどうだ?もし本当に履いてたら私がちさとスペシャルを奢ってやろう」
「望むところだ」
やった。採算度外視のメニュー、ちさとスペシャルゲット。
そう思いながら心の中でガッツポーズをしてると、千束がコソッと耳打ちした。
「あと、良ければ2人ともついてきてくれない?」
恐らく、基準になる人がもう2人居た方がたきなのパンツの異常性を彼女自身に認識させるのだろう。
「いいぞ。なあ、みずほ」
「うん!楽しそうだし!」
原作の雰囲気を感じたかった俺は快諾した。まあ、
・・・パンツ選びの日に何か起こるような気がしたが、結局思い出せなかった。
その日の夜、千束からの個人チャットで明日パンツを買いに行くことが決まった。
「明日、北押上駅B3出口に12時だって」
「いやぁー、楽しみだなぁー」
俺の言葉に、みずほは声を弾ませながら足をパタパタさせていた。ただ、〝たきなちゃんのトランクス見られなかったのは残念だった〟と残念がっていたが。
明日の私服をどうしようかとワクワク状態だったが、俺のスマホがバイブレーションを出し始めた。
「・・・っ!」
「!」
バイブレーションに驚きながらスマホの画面を見る。
あの人だ。
・・・最悪だ。明日は千束達とは出かけられないことが決定した。