たきなのパンツトランクス騒動があった次の日。俺とみずほは昨晩あった急な電話のせいでショッピングをキャンセルさせられていた。
千束とたきながショッピングに行くということで、俺とみずほの2人も一緒に行きたかった。
だってアニメで見た時にめちゃくちゃ楽しそうだったからだ。特にたきなが恥ずかしそうにやる〝さかなのポーズ〟とか。
現実で見たら腹抱えて笑うだろう。だが、見れない。ああ見れない。
せっかくリコリコの常連になって2人と仲良くなったのにこの仕打ちはあんまりではないか?
そう思いながら2人がショッピングをしているであろうモールの外観を北押上駅のB3出口から見つめている。
今の俺はいつもシュシュで纏めているセミロングの黒髪を下ろし、赤色の制服に身を包み、茶色のサッチェルバッグを背負っている。もちろんマスクも忘れない。
今は立ち止まっているが、動くと背負っている茶色のサッチェルバッグからバックルが互いにぶつかっているような金属音が小刻みに聞こえる。
ここまで言ったら全員俺の正体についてわかるだろう。そう、俺は転生してリコリスになってしまっていた。
一般
あれれ?
俺は、リコリスになってしまった自分自身の将来のことを考え、ため息をつくことしかできなかった。
さて、作戦開始時刻まで何をしようか・・・
しばらく駅出口でスマホと睨めっこしていた俺は、ふとそう思った。もちろん、みずほもリコリスで今は任務で別行動のためここにはいない。
駅近辺は旧電波塔の建設と同時に造られたショッピングモール、前世で言う東京スカイツリーの下にあるソラマチのようなところだ。
ショッピングをするのには申し分無いが、俺はこれから任務がある身。買い物などして荷物を増やしたら確実に邪魔になる。
仮にコインロッカーに預けても任務で負傷でもして病院に搬送されたら荷物は受け取れないし、入院でもしたら荷物は受け取れずに管理施設に持ってかれてしまう。
リコリスは戸籍が無いということは、身分証明書を持っていないことになる。となると、管理施設に持っていかれた荷物は受け取れず、処分されるのみ。お金がもったいない。
任務前に買いたいものを選んでおいて帰りに買う。これが無難かもしれないが、無事に済まない現場も多々ある。買いたいものを見るだけ見て最終的には買えないとか地獄だ。
だから俺は無事で終わった時のみ帰りに買い物をすることにしている。その方が良いからね。
辺りを見回すと、今日の作戦に参加するであろうサードリコリスの姿がチラホラと見え始めた。
俺はその中でも話す相手がいない暇そうなサードをとっ捕まえて時間を潰すことにした。
ちょうどスマホを弄っていたポニーテールのリコリスの所に行き、話しかけた。白服にとって俺たち赤服は雲の上の存在。気安く話しかけられるような存在ではなく、あわあわとし始めた。可愛い。
そんなこんなで雑談タイムのはじまりはじまり。
会話の途中で、チラッと私服姿の千束が見えたのだが、俺は今髪型を変えているため彼女は多分こちらには気づいてないだろう。
しばらくポニテの白服と話していると、俺との会話に慣れたらしく少しずつ笑顔になり始めていた。そんな時、左耳に着けたインカムからテロ発生の想定車両が始発駅を出発したとの連絡が入った。
彼女の笑顔が嘘のように真剣そのものの真顔になる。ここから俺たちの作戦は開始される。
当該電車が北押上駅に到着するのはおよそ1時間半後。それまでにリコリスのみが乗っているダミーの電車との入れ替え、駅構内の封鎖並びに構内の民間人の避難まで行わなければならない。これは骨が折れそうだ。
『当該電車、渋谷駅を発車』
インカムから、司令部からの情報が伝わる。
「了解。作戦開始」
電車が到着するまであと30分だ。急いで民間人を避難させ、駅を封鎖させなければならない。俺とポニテの白服は頷きあうと、駅構内へと向かった。
「ガスが漏れている可能性があります!避難してくださーい!」
2社乗り入れている北押上駅構内では、地下鉄両社の駅員が構内にいる乗客たちを外へ避難させている。当然、この駅員はDAの後方支援部隊のエージェントだ。
ガス漏れなんて事実は無い。これはただのブラフだ。
当然、この駅に停車する電車は両社ともに全て通過。SNSに投稿された北押上駅のガス漏れ事故の話題なんてDAの最新AIラジアータによって消させ、その痕跡を残さないだろう。
ガス漏れ事故の情報が流れてから15分。駅構内は人っ子一人居ないもぬけの殻と化した。改札には駅員1人と数人の民間人らしき人が残っているのだが、彼達は全員エージェント。心配する必要は無い。
改札から見えない位置で待機していると、ツナギ姿に全員がボストンバッグを抱えた10人以上の集団が改札を抜けて行った。
その中でも緑のブロッコリーみたいな髪型をした1人は、アロハシャツに季節外れのロングコートと服装が異なっていた。間違いない。千束の敵にあたるテロリストの親玉、真島だ。
大荷物の中身は間違いなく軽機関銃。電車に乗る無実な人々を撃ち殺すことになったであろう兵器だ。
テロリストが全員改札内に入ったのを確認すると、エージェント達は全員駅の外へと退避した。
俺とポニテを含めた4人はサブマシンガンを抱え、半蔵門線押上側改札に身を潜める。俺はマスクを顎まで下げると1回深呼吸。
『
B隊は配置を完了したらしい。B隊は反対側の業平側改札に同じくサブマシンガンを抱えて待機している。本来は
『
みずほの声がインカム越しに聞こえてくる。セカンドリコリスであるみずほが指揮するC隊は住吉駅東武線方面留置線にて待機中のダミー電車の中間号車に待機している。駅に到着後ホーム真ん中にいるテロリストに真正面から攻撃する算段だ。
『
D隊も配置が完了した。D隊はダミー電車の渋谷方先頭車に待機しており、到着後に正面からの攻撃を避けるテロリストを横から攻撃する予定だ。
人数はC隊が一番多い12人となっており、火力はそこに集中させている。ただ、そこにサブマシンガンの配備を認められなかったのはいかがなものかと思う。
「了解。あとは電車だけか───」
住吉駅での電車入換。これを待つしかない。
この時、俺はアニメを見たはずなのに大切なある事がすっかり頭から抜け落ちていた。