『1619K住吉到着。現刻より抑止、ダミーの5150Fを出します』
「了解」
住吉駅のホームにはいつ動くかわからない電車よりも振替輸送を使おうとする乗客が次々と降車し始める。
帰宅時間帯のためか、土休日にしては多くの乗客の姿があった。そのため、一気に降車する人員に対処できなかった階段エスカレーターは満員になり、ホームも入り切らなかった人々で溢れた。
その最中に壁で覆われた横の留置線から自動運転の回送電車が発車した。人々が上へ上へ向かう階段やエスカレーターへ群がっているためか、その回送電車には誰も気づかなかった。
『5150F、順調に住吉駅を発車』
時間通りに北押上駅に到着しそうだ。
テロリストは今か今かと来るはずのない大量の乗客の乗った電車を待ちわびている。
もし、テロリストの1人がコンコースに来たら・・・
もし、突入部隊が全滅したら・・・
毎回、こんな想像をしてサブマシンガンを握る手の力が強くなる。
〝間もなく、4番線に東武伊勢崎線直通、急行南栗橋行きがまいります────〟
土休日の夕方といった混雑する時間帯なのに対し、沈黙に包まれているコンコースとホームに電車の接近を伝える構内放送が鳴り響く。
もう少しだ。
パァァァァ───
警笛がホームに近づいてくる。
『間もなく入線』
あと少し───
あと─────
突如軽機関銃が乱射される音がコンコースに鳴り響いた。テロリストが入線してきたダミー電車に乱射し始めたのだ。
電車が入線から到着までの約1分間、銃声が止むことは無かった。おそらく弾は撃ち尽くすのだろう。所持している武器がその軽機関銃のみだったらどれほど良いかと思うが、絶対護身用とかで拳銃とかを持っているに違いない。
銃声が止み、到着した電車のドアが開く音がすると、今度は拳銃の銃声が鳴り響いた。
リコリスによる銃撃だ。
『敵、残り1人!』
インカムにみずほの声が聞こえた。多分、残ったのは真島だけだろう。真島はここから命からがら逃げ出して襲ったリコリスを襲撃し始めるんだったな。勝ったなガハハ!心配は無用─────
あれ?そんな話だったか?
アニメを見たのは20年以上前。随分と記憶が薄れてしまっていたが、こんな話では無いとはすぐ分かる。
どうやって真島が命からがら駅から逃げ出したのか─────
爆弾だ。
そうだ、思い出した。真島は北押上駅のホームに爆弾を設置しており、それを爆破したから逃げられたのだ。
───今のままではホームで戦っているリコリス達が危ないし、ここも崩れるかもしれない。
「C、D!できるだけホームから離れろ!A、Bは地上に行け!」
『しかし、敵は1人残って・・・』
咄嗟に出した撤退命令。リコリス達が困惑し始める。
「ファースト命令だ!責任は俺がとる!」
その言葉に、困惑しながらもリコリス達は改札から走って離れ始めようとした瞬間だった。
ホームから爆発音が鳴り始めた。ホームに降りる階段やエスカレーターのある空間から爆風や煙が飛び出してくる。
爆発により命の危機が迫っていると瞬時に理解したリコリス達はがむしゃらに走りはじめる。
「走れ走れ!距離をとれ!」
遅れて走ってくるボブの姫カットの白服1人が煙に巻き込まれそうになる。
「コッチだ!」
俺は咄嗟に腕を掴み、柱の陰に白服を押し込んだ。抱きついて白服の全身を庇い、顎まで下がっていたマスクを鼻まで上げてサッチェルバッグに内蔵されている防弾エアバッグを展開させる。
その瞬間、爆風が北押上駅全体を覆った。
爆風が止むと、展開したエアバッグを退かす。エアバッグが役に立ったのか、俺の体で特に痛む場所はない。
爆発により電源が落ちたのか、コンコースは暗闇に包まれており、光は地上からの入口から射してくる光だけだった。咄嗟にポケットからペンライトを出して辺りを照らした。
「ゲホッ・・・、大丈夫か?怪我は・・・?」
マスクをしていても隙間から入ってきた粉塵で少し咳き込みながら庇った白服の状態を確認する。
「ゲホゲホ・・・。はい・・・、大丈夫です・・・」
俺が庇ったからか、白服には埃汚れ程度の汚れしかなく、目立った外傷は見当たらない。
「津川、ライトは持ってるな?」
俺の問いにコクコクと頷き、ポケットからライトを取り出した。
「よし、じゃあ大丈夫だ」
俺はそう言うと白服の頭を撫で、立ち上がった。残りのA隊全員の無事を確認しなくては。それ以外の隊はそれからだ。みずほが無事かどうか気が気では無いが、今の俺はファーストリコリス。私情よりも最優先することがある。
「こちらA1。全班応答せよ」
近距離チャンネルで無線を飛ばしたが、反応がない。全滅したか、無線が使えなくなったか。いずれにせよ、状況は不明だ。
「こちらA1。残った対象の1人が爆弾を起爆。現在被害状況を確認中。医療班の派遣を請う」
『り、了解。医療班は10分で向かう。被害状況は順次報告を求む』
「了解」
俺の報告を聞いた司令部は少し混乱していた。爆弾が爆発したことはラジアータも司令部も予想外のことだったしい。
とりあえず捜索の再開だ。2人が逃げたと思われる地点には浅草線の中央改札がある。改札機の電源は落ちているため、当然ゲートは閉じずにそのまま通り抜けられた。
「森川、菱!無事か!居るなら返事しろ!」
改札内で大声を出して呼びかけながら歩き回ると、浅草線の西馬込方面ホームに続くエレベーターの後ろからポニテとウルフカットの2人が出てきた。
爆風にやられたのか、2人には少し傷があるようだが、これでA隊の無事は確認された。あとはB、C、Dの3つだ。
「A隊は全員無事。残りの班の状況も確認する」
『司令部、了解』
結論を言うとB班は、怪我こそしているものの全員無事だった。俺たちA班と同じくコンコース階に居たこと、そして反対側で騒いで逃げる俺たちを見て同じく逃げ出したからだ。
車両から降りて攻撃をしていたD班は俺の指示を聞いて咄嗟にホームドアを乗り越えて線路に降り、4人中3人は難を逃れられた。ただ、爆風をモロにくらってしまい、無傷の子は1人も居ない。しかし、彼女たちはまだ幸運だった。
D班の残り1人とC班は特に悲惨だった。
C班は車両中央部に居たため、全員逃げられなかった。
爆発により天井が落ち、その瓦礫で下に停車していた東急5000系電車は無残にも潰された。
コンクリートの塊に対し、電車の薄っぺらい鉄の塊に為す術なく潰し、爆弾に備えて伏せていたリコリス達を巻き込んだ。
「みずほ!おい、みずほ!」
「負傷者1名発見!繰り返す、負傷者1名発見!」
『了解。医療班を向かわせる』
ちょうど中間車両で指揮をとっていたみずほも当然巻き込まれた。
みずほは運が良かったのか、瓦礫が少なく、スペースが多く空いているところだった。
ただ、爆風により気を失い、骨折もしているように思える。
「向こうは?」
「1名発見!」
向こうでも1人発見されたようだった。キズは酷かったが、脈はあるし五体満足だ。早く医療班に連れて行ってもらおう。
・・・ここまでは良かった。生存者が居たから。
ここからは地獄だった。合流した医療班と合同での捜索で見つかった
ある者は頭が無かった。ある者は金属片で真っ二つ。ある者は下半身が無かった。
数人のリコリスがこの現場を見て吐きそうになっている。
結局、C隊は12人中生存者は3人だった。
死者計10人。しかも主犯格を1人逃し、駅は大損壊。作戦は失敗だった。