季節は8月。北押上駅の事故からおよそ1月が経った。
浅草線の北押上駅はほぼ被害がなく半蔵門線と繋がっている中央改札が封鎖されているのみで平常通り運転している。
しかし、半蔵門線に至っては爆破テロでプラットフォームだけでなくコンコースも一部が破壊されるという甚大な被害を負った。
そのため、錦糸町〜北押上間と東武伊勢崎線北押上支線北押上〜曳舟間で未だに運転を見合わせている。
世間一般にこれは回送電車同士の脱線衝突事故になっているため、未だに運転再開していないことに苛立ちを感じている人も多い。
そんな半蔵門線北押上駅。
ホームにはまだ瓦礫が残り、電気も完全に遮断されており暗闇が広がっている。
「私達本当に要るんですか?」
その暗闇の下にある瓦礫をペンライトで照らしながらポニテの白服がボヤく。
「さあな・・・」
俺は適当に誤魔化した。この任務は楠木司令からの直々の任務。爆破テロで死亡したリコリスの遺品や弾丸類を回収しろ、との事だった。それに、誤魔化したのはそれを教える場面が絶対に来ると思ったからだ。
「こんなの、裏方部隊がやることでは?」
「まあ、普通はそうだな」
そう思うのも無理はない。DAには民間のクリーナーのように修復専門の裏方もいる。ただ、今回のケースは規模が大きすぎるため、時間がかかっているのだが。
普通俺たちは壊す側だ。回収や修繕なんて専門外だ。
「だけどな」
俺はそう続けると、サッチェルバッグから拳銃を引き抜く。ペンライトを消してガンライトに切り替えるとコンコースに向かう階段に照準を定めた。
階段には数人の高校生から大学生らしき男たちがいた。肝試しかイタズラの類いだろう。くだらない。
「関係者以外立ち入り禁止エリアだ。許可の無い者は今すぐ立ち去れ。立ち去らなければ発砲も辞さない」
本当は〝許可の無い者を通す訳にはいかない〟と言いたかったのだが、セリフがあってない。こっちの方がいいだろうマヌケ・・・。
「許可の無い者はだってようへへへ」
男たちは俺の警告を聞いて笑いだした。まあ、警備がこんな少女だったら舐めてかかるだろう。多分前世の俺だって舐めてかかる。
「嬢ちゃん、警察の真似事かい?その銃はおもちゃでちゅかぁ〜?こわいこわい」
舐めてきたどころか煽ってきた。無性に腹が立つ。
ポニテが苛立ち、今にも発砲しそうになっている。やめいやめい。気持ちはわかるけど。
とりあえずポニテをハンドサインで静止して、威嚇で2発、彼らの足元に撃っておく。脳天よりはマシだろ。
「マジかよ撃ってきやがった!」
「逃げろ逃げろ!」
平和ボケした彼らはまさか俺達が発砲するとは思っていなかったのか、足元に発砲した途端、彼らは驚きながら階段を駆け上っていった。フッ、ザコめ。
「本部、こちらLC2852。数名侵入者あり。現場は見られてないため、警察での対応願う」
『了解』
無線で報告すると、司令部から返答。
現場は暗闇。現場を見られてない以上、殺すわけにはいかない。だが、不法侵入は不法侵入だ。警察にこってりと絞ってもらおう。
「森川、こーいう廃墟っぽいところってこーゆーヤツらが来んのよ。ヤツらから現場を守んのよ私達は」
人が居なくなった建物の治安は侵入者などで一気に下がる。もちろん、
パッと見出入口は規制線で入れなくなってはいるものの、規制線はただのテープ。くぐり抜けようとすれば簡単に抜けられる。しかも、警備の警官もほぼ居ない。こうなってしまうと、直ぐに悪い奴らのたまり場になってしまうのだ。
そうなってしまわないように俺たちリコリスがここに居るのだ。遺品の回収など二の次なのだ。
「あった・・・」
青年たちを追い出してから約30分ほど。俺は瓦礫の中からなにか小物を見つけた。
少し壊れた赤色のバレッタだ。
確かこれは────
「楓のだ・・・」
ポニテが呟いた。確か、任務の前に見た時につけていたような記憶がある。
「ああ、高崎つけてたな、これ。
持っていくか。桜木も喜ぶだろう」
これなら遺品になる。丁寧に持つと小さなビニール袋に入れた。
「よし、次だ」
俺の言葉にポニテはこくりと頷くと次の瓦礫の山に向かうことにした。
いや、やめよう。足音が聞こえる。
「・・・待て」
俺が静止すると、ポニテは足を止める。
「何です───」
ポニテが口を開いた瞬間、俺は咄嗟にポニテの口を覆う。彼女は少し驚いたが、指で静かにというポーズをすると直ぐに首を何回か縦に振ったため、俺は口を覆っていた手を離した。
物陰に2人で隠れ、ライトを消すと階段から2人の慎重な足音とライトの光が見えた。
───誰だ
身を潜めながら確認すると、現れたのは2人だった。1人は小太りの、1人は身長が高い痩せ型の男性だった。
そのうちの、小太りの男性はどこかで見たような気がする。
小太りの男性は線路にしゃがみこむと何やら瓦礫を触り始めた。背が高い男性は何もすることが無いのかライトで駅構内を照らし続けている。
まさか、ここで何があったのかを知ろうとしている・・・?
しばらく瓦礫を触っていた小太りの男は何かの残骸を見つけたらしく、埃を取り除いていた。
「よーし、よし。あったぞ」
「え!?弾丸!?事故なのに!?」
小太りの男性に瓦礫を見せられた背の高い男性は事故ということになっている現場にある弾丸に驚く。
声からして小太りの男性はリコリコの常連でもあり警視庁押上署の刑事でもある阿部だろう。
マズいところでマズい人に会ってしまった。何故ここにいるのだろう。
それと同時にポニテが今にも銃片手に飛び出しそうになっているのだが、俺がどうにか制止する。
「お前に見せてやろうと思ってな」
阿部はそう言いながら瓦礫を背の高い男に瓦礫の1つを渡し、タバコに火をつけた。おそらく阿部さんはここで何があったかを背の高い男性(おそらく部下)に教えようとしているのだろう。
これは事故ではなく、テロなのだと。
「こんなのテロじゃないか!事故じゃないんだ・・・。署長に言わなきゃ・・・!」
「違う。これは事故ってことになってるんだ」
案の定、部下が小さな声で騒ぐが、阿部は冷静に答える。阿部は風貌や部下がいることから7年前の旧電波塔のテロ以前から警察に居るのだろう。
旧電波塔のテロ以降は事件が激減し、事故ばかり急増ている事態に疑問を抱いていることが当然丸わかりだ。
「黙ってて良いんですか!?」
部下は正義感がつよいのだろう。その正義感に溢れるあまり、阿部に向かって叫ぶように言ってしまった。
「何でも隠蔽しちまうんだぞ!?危なかっしくて相手にできるわけないだろうが!タコ助!」
阿部も部下につられて大声で怒鳴ってしまう。
やっちまったな───
俺がそう心の中で思うと同時にトンネルの方からライトが何個か走って近づいてきた。北押上駅を民間人が入らないように見張っている別のエージェントだろう。
「だぁー、逃げろ逃げろ!」
阿部と部下は逃げ出した。
ポニテは2人を追おうとするが、俺にはそんな気は全く起きなかったため、動き始めるのが遅れてしまった。
当然、俺たちは2人に追いつけずにそのまま逃がしてしまった。
北押上駅から逃げ出した阿部とその部下、三谷はどうにか追っ手を撒き、道路上に併設されたパーキングチケットに停められた覆面パトカーまで辿り着いた。
「不法侵入は、するもんじゃないな」
「俺はまだ納得できません・・・!」
やはり三谷は不満があるのかそうボヤく。正義感の強く、警察官になりたては特にこういう人が多い。
「ま、子どもたちが安全に暮らせていればそれでいい」
阿部はそう思っている。正義感や真実が隠された事実があっても、人々が安全に暮らせているといった事実の方が大切だと考えていた。
ただ、追っ手から逃げている時、暗闇の中で見た追っ手の中の1人にリコリコでよく見る女の子によく似たような少女がいた事が頭に残っていた、