Persona~Alternative~   作:ホワイト・ラム

3 / 12
久しく放置されていたこの作品も投稿ですよ。
テンポよく物語を進めたい半面、ペルソナは心に関する作品なので、内情を疎かに出来ない二律背反。
内面をかける分、文字媒体とは相性がいいと思うのですが……


必要とされるモノ

4月4日 午後

 

 

「な、なんだ、コレ……!」

あり得ない光景に縁糸が混乱する。

 

目の前は夕闇に包まれる、古い木造校舎。

絶えず回り続ける、校舎に飾られた時計。

そして黄色赤青とファンシーな色で塗り分けられた、二宮金次郎の像。

だがおかしいのは色だけじゃない。

 

「おいおいおい、何処の田舎かな?

『挨拶には挨拶』当然の礼だろ?」

二宮金次郎像が何をやってるのかと、言いたげに手を横に広げやれやれのポーズをする。

 

「しゃべった……」

縁糸が茫然としたように、たった今喋って動いて見せた二宮金次郎像を見上げる。

 

「おっと、何時までも見上げさせるのは礼儀がなっていなかったな。

失礼をした。許されよ」

その言葉と共に二宮金次郎像が台座から飛び降りた。

銅像たがその着地は非常に滑らかだ。

 

「すげーな、ナントカ次郎!けっこーな高さだぞ、この台座!」

隣の大男、銀牙がケラケラと指さし笑う。

 

「君、指さし笑うなど失敬だぞ。

それに私はナントカ次郎ではなく、二宮金次郎だ!

……まぁ、気安く『ニノ』と呼んでくれる方が私としては好ましい」

ニコリとニノが銀牙に笑みを投げかける。

 

「おう、ニノな覚えたぜ。2文字で覚えやすくて助かるぜ。

俺っちの名は鹿野 銀牙だ。

この学校の番長だぜ!」

 

「番長?君にはその『ロール』が与えられたのか。なるほどなるほど……

隣のそいつは舎弟という奴か?」

ニノが縁糸に視線を投げかける。

 

「え、いや、俺は舎弟とかじゃなくて……」

一見人間に見えるニノ、しかし近くで見るとまるで作られたキャラクターの様な不自然な色をしているのが分かる。

強いて言うならば、二宮金次郎像を使って塗り絵をしたような感覚だ。

それが近づくのが縁糸にとって凄まじく不気味に思えた。

 

「え、えっと……」

 

「むむぅ?」

作り物染みた顔をしたニノが縁糸の顔を覗き込む。

ニノの瞳が一瞬だけ、金色に染まった。

 

「ッ!貴様――もしや、あちらの存在か!?」

ニノがその場所から飛びのく。

 

「来訪者だと……?

なぜ今になって――!」

ニノの手のひらに一冊の本が現れる。

石で出来たであろうその本のページが軽やかに捲れる。

 

その瞬間――!

 

ボォウ!!!

 

「え、な、アッツイ!?」

縁糸を囲む様に3本の火柱が立ち上がる。

なんの前触れも無く現れた炎に、縁糸が驚くが感じる熱は現実その物。

 

「帰るのだ来訪者よ。君はこの場所に居るべき存在ではない」

 

「あ、え」

混乱する縁糸を前にニノが再度本を開く。

 

「さっきのは威嚇だ。次は腕の一本も覚悟してもらわなくてはならんぞ?」

ニノが本を構えにじり寄ってくる。

縁糸の頬にひやりと汗が流れる。

 

「え、えっと、その」

縁糸が右腕で左腕を押える。

 

「おらぁ!!ニノ!!いきなりなにしやがる!!」

 

「な、何をする!?」

突如、銀牙が後ろからニノに組み付く。

 

「ケンカに妙なマジック使うたー、卑怯なヤツだな!!

手品は人を喜ばす為のモンだろ!!

番長のオレ様は卑怯なヤツは許さねーぜ!!」

組み付く銀牙にニノがバタバタと暴れる。

 

「あー、もー、離せ!!

お前らは此処にいちゃいけないんだよ!!

早くしないと、シャドウ共が感づいて――」

 

ボーン、ボーン、ボーン

 

ニノの言葉が終わる前に、学校の鐘が鳴った。

 

「ちぃ!?遅かったか!!いや、まだ間に合うか!!」

ニノが本をしまい、銀牙を抱き上げる。

そしてそのまま走り出し、今度は縁糸に手を伸ばす。

 

「俺のダチに何しやがる!!」

銀牙がニノの腕から、縁糸を叩き落す。

 

「あ、クソッ!!こんな時に――!!」

ニノの言葉と共に地面に落ちるハズの縁糸。

しかし、体に受けたのはアスファルトの衝撃ではなく――

 

ザッブ――!!

 

 

 

「しょっぱい!?」

全身に掛かる大量の水だった。

一瞬の混乱の後、そこが海水だと理解する。

幸いな事に地面に足はつく。

立ち上がって周りを見回すと、自分が世話に成っている島の入口だった。

島の奥から明稀が姿を見せた。

 

「お、よーやく帰って来たな。

けど、島まで泳ぐたぁびっくりだ。

明日からは船を使った方が賢いぜ」

意外と根性あるじゃねーかよ。と肘で脇腹をつついてくる。

 

「…………」

島を見上げた縁糸。

星灯かりに照らされて、灯台はただひたすら闇の中に沈黙していた。

 

その後の事はよく覚えていない。

明稀が何か騒いで、響喜が学校はどうだったかとお決まりの質問をして。

薪を割り、風呂に入り、明日の準備をして床に就いた。

 

(なんだったんだ、アレ……)

僅かに残る頬の熱に意識を向けない用にして、縁糸は無理やり自分を納得させて眠りに就いた。

 

 

 

 

翌日 4月5日 火曜日

 

縁糸の気分を現す様にうっすらと暗い雲が空を覆っていた。

昨日と同じような時間を過ごし、学校に向かう。

 

「とりあえず、昨日の事を聞いてみようかな……」

 

昨日の出来事の当事者は自分だけではない。

ならば、銀牙も登校しているハズ。

そんな希望を願って、縁糸が教室に入る。

生徒は3分の2程度は揃っているが、未だに銀牙の姿は無い。

縁糸の脳裏にイヤな妄想が浮かぶ。

 

(だ、だいじょうぶ、まだ来てないだけ……昨日だって、遅刻ギリギリに来てたじゃないか……)

自身を誤魔化すように、不安を隠す様に縁糸は右手で左手を押える。

 

「おっはよう、転校生クン。

今日も一日よろしくねぇ!」

昨日の派手なギャルが声をかけてくる。

 

「あ、ああ、そうだね……よろしく……」

 

「あはは、怯えちゃってー。私がきゃわいいから緊張しちゃった?

ねぇねぇ、昨日はあの後、バ鹿能とラーメン食べに行ったんでしょ?

今日、放課後、私とお出かけしない?

この辺のコト、いろいろ教えてあ・げ・る」

派手ギャルが縁糸に体をすり寄せる。

 

「私も、都会のコト、色々知りたいし~?」

僅かに香るコロンの匂いをこすり付ける様に、派手ギャルが寄り添う。

教室だと言うのに密着するシチュエーションとコロンの香りに頭がクラリとする。

 

「おーい、出席とるぞー」

その時、教師がドアを開けて姿を見せる。

 

「あ、こんな時間!んじゃ、放課後考えといて!」

派手ギャルが手を振って、自分の机に戻る。

そしてそのまま、出席の点呼が行われるのだが……

 

「鹿能ー、おーい鹿能?休みか?」

 

「鹿能君、休みみたいです」

委員長がキョロキョロと教室を見回す。

 

ざわッ

 

先生が出席を取る時に成り、銀牙の欠席に皆が僅かにざわついた。

 

「珍しいな……アイツが無断欠席なんて……」

白髪塗れの頭をペン先で掻きながら担任がボヤく。

 

「うっそ、バ鹿能は元気と真面目だけが取り柄なのよ。

滅多に風邪なんて引かないし、仮に引いてもその日のあさイチで休む連絡入れる様なヤツだよ?

遂に、学校の電話番号を忘れるほど、バカが悪化した?」

 

「九条、流石にそれは無いんじゃないか?」

 

「あ、はーい、反省しまーす」

九条と呼ばれた隣の派手ギャルが返事をする。

縁糸は今更になって、隣の彼女の名を知った。

 

朝礼後

 

「あ、あの、九条さん……」

 

「んー?どうしたの」

派手ギャル、改め九条が縁糸の言葉に反応する。

 

「鹿能君のコトなんだけど、電話番号とか知ってたりしない?

最後に会ったの俺だから、なんか心配なんだよね……」

 

「バ鹿能の電話?ちょい待ち……ほい」

スマフォを操作に、縁糸に差し出す。

耳に当てて、コール音を聞く。

 

「バ鹿能とは結構、古い付き合いだけど、こんなのは初めてなのよね。

心配っちゃ、心配。

どーせ、連絡忘れて家で寝てるだけだろうけど」

 

『おかけに成った、機材は現在電波の届かない場所に有り、ご連絡できません』

九条の言葉を聴き流しながら、帰って来たコール音は無慈悲な物だった。

 

「つながった?」

 

「いや、繋がんない。

ありがとう」

小さく礼を言ってスマフォを九条に返した。

 

そのまま、流れ作業の様に午後の授業を受ける縁糸。

異様な姿の学校。あの場所にまだ銀牙が居る?

そんな想像が頭をよぎる。

 

『どうしよう』

小さな声が自身の中からこぼれる。

 

『うるさい』

左手で右腕を掴み、その声を押えようとする。

自分の中の言葉を忘れる様に、誤魔化すように、逃げるように午後の授業を縁糸は受けた。

 

 

 

放課後

 

「ねぇ、霧崎君。なんか、疲れてる?」

邂逅一番に九条が縁糸の顔を覗きこむ。

 

「え、ああ、そんな事ないよ……」

 

「あ!そう言えば、昨日バ鹿能と一緒にラーメン食べに行ったんでしょ?

ラーメン屋で風邪でも拾ったんじゃない?

バ鹿能をノックアウトする風邪だもん、霧崎君が調子悪いのも無理ないよね?」

縁糸の言葉を勝手に理解した九条が大げさにリアクションして見せる。

 

「調子悪い時に、出かけたく無いよね。

今日は早めに帰って休みなよ。

町の紹介はまた今度してあげるからさ!」

九条がウインクを飛ばしてくる。

 

「うん、ありがとう……」

若干、ハズれた気遣いを受けて縁糸が愛想笑いを返す。

高校の前からバスに乗り、ナントカ島の近くのバス停に戻ってくる。

帰るのを後回し、後回しにし続けた結果、夕闇が迫りつつある時間に成っていた。

 

「早く、帰んなきゃ。叔母さんも心配するし……」

島の見える海岸まで向かう。

そして、昨日の先が崩れたコンクリ橋の前を通る。

 

「――――あ」

縁糸が小さく声を漏らす。

もうすでに夕闇の中に溶ける島の中、ぼんやりとした光が見えた。

 

「見える――今日も……」

縁糸が立つコンクリート製の橋の向う、確かに灯台がぼうっと明りを灯していた。

思い出すのは、アキの言葉。

 

『あの、灯台はもう10年も動いてねーよ。機械もボロボロだし電気自体来てねーんじゃねーか?』

決してつくハズの無い灯台の明かりが今日も灯っている。

()()()()()()

 

「居る、のか、な?」

小さく声が漏れる。

学校にも居なかった。

電話も繋がらない。

 

たった一日だけど、銀牙は行方不明になっている。

 

「か、関係ない……あっちに、いるかも分かんないし、それに、俺の思い違いかもしれない」

並べる。言い訳を。

やらない理由を並べて行く。

 

「お、俺には関係ない。第一、アイツとは昨日会ったばっかりで、ってか、不良って迷惑だったし、寧ろこれで良いって言うか」

誰に話すでもない。

自分自身に言い聞かせる、塗り固める、見ないふりをさせる為の言葉。

 

だが、思い出すのは今日のみんなの態度。

鹿野の心配をする九条、クラスメイト、先生。

 

確かに銀牙は不良を名乗っている。

しかし、それ以上に多くの人にとって大切な存在だと分かった。

 

いや、既に分かっていた。

昨日の自分に話しかける銀牙で。

 

「アイツは、きっと誰かに必要とされてる。

必要にされてるなら、俺もきっと同じだと思う!」

縁糸がコンクリ橋へ向かってゆっくり歩き出した。

 

 

 

 

 

夕闇の中、霧が立ち込め始める。

暗い道は何時からか、白い迷宮へと姿が変わっていく。

 

「…………!」

闇の黒と霧の白。

現前のうっすらと見える光は灯台か月か……

 

縁糸が左腕を右手で強く掴む。

『帰ろうか』そんな弱気な心が縁糸の後ろ髪を掴む。

そんな物関係ないと、自らを奮い立たせ歩を進める。

 

「…………っ」

1歩、足を踏み出す。

それは弱く、小さな一歩。しかし、足は止まる事は無かった。

続いて2歩、3歩、更には10歩、20歩。

 

こつ、こつ、こつ

 

縁糸が闇と霧の中、僅かな光に向けてゆっくり走り出した。

 

『怪物が出てくる』『危険だ、止めろ』『あの不良なんて知らない』『帰れ、見なかった事にしろ』

弱気な自身が縁糸にしがみ付く。

先の見えない黒と白の中、縁糸が夢中で走る。

 

「俺は、俺は、俺は――」

縁糸の右腕が左手を離す。

そして、空を掴むように前に差し出した。

その時――

 

キィ――

 

扉の開く様な音と共に、視界の黒と白は消えうせ鮮やかな濃紺(ヴェルヴェット)の世界に塗り替わった。

 

「…………おや…………これは……珍しい…………予定外の………………お客様…………ですね………………」

 

ピコーン、ピコーンと何かを探知するピンガー音、何処かから響く女が歌うような声。

薄暗い部屋には様々な計器が並び、皆忙しそうに震えていた。

小さな丸窓からは、部屋の濃紺よりも、なお濃い暗い青が満ちていた。

 

「潜水艦……の内部?」

縁糸は咄嗟にそう思った。

 

「!?」

何者かの気配を感じ、縁糸がそちらに向き直る。

潜水艦の内部、その中心に簡素な木製のテーブルがある。

銀色の髪の長い、紺色のドレスを身に纏うメイド服の女が恭しくお辞儀をし、脇に逸れる。

そしてその向こうに、ギロリと目を向ける鼻の長い老人がこちらを見て口角を吊り上げた。

 

「ようこそ、ベルベットルームへ。

私の名はイゴール、以後お見知りおきを」

不気味な老人の血走った眼が縁糸を捉えていた。




次回作のイゴールの声優さんは誰になるのか……
地味に気になるんですよね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。