Persona~Alternative~   作:ホワイト・ラム

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最近すっかり寒くなりましたね。
皆さん、風邪などお引きに成りませんように。


翼、開く時

4月5日 火曜日

 

そこは、異様な場所だった。

濃紺で彩られた狭い部屋。

 

壁には無数のモニターに、揺れる計器、丸い窓からは深い青と時折、魚影の様な物が群れを成して去って行く。

ピコーン、ピコーンと響くソナーの音はここが潜水艦の中だろうと縁糸に想像させるのに十分だった。

だが、そんな無機質な電子音を、女の歌声とピアノの旋律が彩っていた。

武骨で飾り気のないハズの潜水艦の内部が、内部の青さと混じりある種、幻想的な姿を映し出していた。

 

「ようこそ、我がベルベットルームへ……」

潜水艦の中央、簡素なテーブルを挟み、鼻の長い老人がこちらを見ていた。

 

「わたくしの名はイゴール、このベルベットルームの主だ」

 

「私……の……名は……レイシア……以後お見知り置き……を……」

イゴールの隣、長身銀髪のメイド姿の女があくびを噛み殺した。

 

「貴方が……ここに……訪れたのは……力の……力の目覚めが……近づいて……」

レイシアが話しているウチだというのに、こくりこくりと船を漕ぎ始める。

 

「レイシア、起きなさい。

客人の前だ」

 

「は、っ!?我が主……申し訳ありません」

レイシアが目をパチリと開くと再度説明を始める。

 

「貴方は、既に力の切っ掛けを掴んでいます。

このヴェルベットルームにいる事こそが、何よりの証拠」

 

「しかしだ」

イゴールが言葉を引き継ぐ。

 

「貴方の力はまだ弱いどころか、完全に目覚めてすらいない。

私たちはその力の手助けをする者。

何時でも、来なされ。

貴方は既に、我らの客人なのだから。

レイシア、例の物を」

 

「どうぞ、これを」

レイシアが銀のトレイに乗せて差し出したのは、ドッグタグだった。

 

「このドッグタグが本艦の客人の証です」

 

「あ、はい……」

縁糸が言われるまま、手にすると景色が遠くなっていく。

 

「またの、()()()をお待ちしております…………zzz」

レイシアの言葉を最後に、縁糸の視界は溶けて行った。

 

 

 

 

 

「まってください!!」

縁糸が意識を覚醒させると、既にそこに濃紺の潜水艦など何処にも無かった。

夢でも見たか?の言葉が脳裏を一瞬だけ過るが、右手に握るのは確かに貰ったドッグタグ。

 

「夢じゃなかったんだ、()()()も」

見上げるとそこは、異様な校舎。

赤、黒、緑と歪んだ色に彩られ、時計の針は絶えず渦巻く、現実離れした場所。

だが、前回と違うのは、前に居たハズの二宮金次郎が居ない事。

 

「金次郎、いないのか?」

 

不審に思った瞬間――

 

パリィン

 

小さな音が成り、学校の校舎の窓が割られる。

割れた破片が地面に落ちた。

外からじゃ無い、誰かが内部から割らないとこうは成らない。

 

「銀牙、いるのか?」

居てもたってもいられずに、縁糸はその窓が割られた階数を覚えると近場の階段に向かって走っていった。

 

 

 

学校の中も、似たような物だった。

赤黒緑の絵の具をぶちまけた様な不快なカラーに、古ぼけた設備。

ガラスが割れたのは、校舎の3階。

 

縁糸が階段を勢いよく走り始める。

踊り場の横の壁に鏡が飾ってある。

古ぼけた木目の床に、うすら明るい吊るされた電球。

2階をまわり、3階への踊り場に足を踏み入れた時――

 

『おまエ、ジュ業はドウしタ?』

 

「!?」

突如、床から現れるのは細身の怪物。

紐をぐるぐる重ね、人型にした様な姿。

眼に当たる部分が黄色い光の球と成っている。

教師が着る様な、飾り気の無いスーツを纏っているのが逆にシュールだ。

 

「喋った?」

怪物がかなり聞き取りにくいが人間の言葉を話す事に衝撃を受ける。

 

『授ぎぃよう、ヲさぼたージゅとは、ゆるせンな!!

きょーいくてき!!()()!!』

人型の怪物が姿を変える。

青い薄ら笑いを浮かべた様な仮面。

身体を背後から覆うような掌、そして魔術師を思わせるローブ。

 

「なんだ、こいつ!?」

背中の掌がハネの様に揺らめくと、足元に電撃が走った!

 

「いって!?」

 

『校長曰く「クサッタ、ミカンは我が校にヒツヨウ、なー死!」

よって、死ネ!!』

怪物が更に背中の、掌を広げる。

 

「まず――ぐぅああああ!!」

光るイナズマ、全身を割く様な衝撃と痛み。

 

「く、そっ」

縁糸がしびれる体にムチ打ってなんとか立ち上がる。

 

『うひゃややや!!げひゃはははは!!』

無表情の仮面の下から、下品な声を漏らす。

怪物は悠然と近寄り、再度背中の掌を広げる。

 

「君は、また戻って来たのか!?」

何処か気取った喋り方をする、ビビットな銅像が下の階から姿を見せた。

 

「二宮金次郎……?」

 

「気軽にニノと呼んで欲しいと言っただろ?」

 

『むムぅ!?クサッタ、ミカンが増えタ!!貴様にもきょーいくてき死導!!』

怪物が背中の手を広げ、ニノにターゲットを変える。

 

『ぃいいいいいい!!!』

羽の様に広げた掌で踊り場から、階段のニノへと飛び降りる。

 

「ロール持ちのシャドウか。

相手はしたく無いが、仕方が無い、か」

ニノの手に石の本が現れる。

石のハズの本がパラパラと捲れていく。

そして赤い閃光が走り、本に文字として刻まれていく。

 

「ペルソナ!!」

ニノの本が瞬いた瞬間、蒼い光がガラスの様に割れる。

 

『ぎぎっ!?』

怪物、ニノがシャドウと呼んでいた存在が空中で6本の腕に押さえつけられる。

そして、横にいなし地面に叩きつけられる。

 

『ひひぃ!?』

シャドウの笑みを含んだ笑いが消える。

 

「来い、ヘカトンケイル!!」

ニノの言葉に呼応し、再度青い光が砕け何かが現れる。

さっきは縁糸には見せなかったソレの姿。

 

成形色の武骨な銀色の機械的な、無表情の顔が浮かぶロボの様な頭部。

上半身は黒く筋肉質な人間の様。

下半身はレンガ積みの塔の様になっており、僅かに空中に浮かんでいる。

 

『ぎぃぃ!!』

シャドウが躍りかかる時、ヘカトンケイルが向き直る。

ヘカトンケイルの2本の腕がシャドウの体を掴む。

 

『きょうし、に暴りょクか?』

 

「やったらやり返される。知らなかったのか?

一つ、勉強に成ったな。()()()()

ヘカトンケイルの金属の無表情の顔に、顎の下のパーツが移動し口を隠す。

隠したパーツには笑った様な口が付いており、無表情だったヘカトンケイルが笑っている様に見えた。

下半身のレンガが腕の様に変化し、更に背中からも機械の腕が現れ計6本の腕がシャドウを捉える。

 

『おまエラ、たいがく処分ダ!!』

 

「おいおい、何を言うんだ?私はこれでも優等生で通っているんだぞ?」

シャドウを押さえつけているヘカトンケイルの顔のパーツが更に動く。

額の上のパーツがスライドし、今度は目の部分に。

動いてきたパーツは怒りに燃える眼のパーツ。

笑った口のパーツに対して怒りの眼が合わさる事で、今度は大口を開き怒りを露わにする表情へと変わる。

 

「アギラオ……!」

 

『アジジジ時、あ事ジジ、あ時事ジ!!』

ヘカトンケイルの怒りを現すかの様な炎がシャドウを飲み込んだ。

シャドウは階段を転がり落ちて行った。

 

「君、また来たのか?」

ニノが階段を上り、踊り場で蹲る縁糸に尋ねる。

 

「ん?不思議そうだな、さっきの力はペルソナと言って――」

 

「鹿野は、何処だ!」

ぜえぜえと息を切らしながら、縁糸がニノを睨んだ。

 

「ッ、この現状の説明よりも友の心配か。

その態度、素晴らしい。

感動した!なんて美しき友情!!」

やや大げさな態度でニノが手を叩く。

 

「立てるか?ここは危険だ、いったん校舎から出よう。

さっきの騒ぎを聞きつけてシャドウたちが集まってくるとも限らない」

身体がまだ、僅かにしびれる縁糸に肩を貸しゆっくりと階段を降り始めるニノ。

 

「此処はお前たちが思い描く、世界が具現化した場所だ」

おもむろにニノが口を開く。

 

「おもい、えがく?」

階段を下りながら、ニノの説明に声を漏らす。

 

「皆が思い描く場所。

無意識の世界は本来1つの形を持たない。

だが、皆が持つイメージを擦り付け、押し付け、塗り固めた時。

僅かに像を結ぶ。

恐らく、ここは『学校』のイメージが像を結んでいる」

 

「だから、先生みたいな奴もいた?」

 

「ご名答、話が早くて助かるよ」

ニノがニコリと笑う。

 

「悪いけど、丸腰じゃ危険だ。

とりあえず校舎の外に出よう。

今はまだ、授業時間だからシャドウも教室の外には出てこない」

ニノに連れられ、一階の玄関の前まで戻ってくる。

安全と言われた場所に戻って来た事に、僅かに安堵した。

 

その時――

 

『タ、退がく、たイがク、たたたた、たいいがががく!!!』

突如、倒れていたシャドウが起き上がり襲い掛かって来た。

電撃を纏う体で体当たりをくらわせようとしてくる。

 

「しまった!コイツ、まだ――」

ニノが肩を抱く縁糸を庇い、一瞬反応が遅れる。

 

『邪魔だ、先公』

パキィン!

 

『た、退、学くぅ……』

空気を割く音と共に冷気が駆け抜ける。

先ほどのシャドウが壁に叩きつけられて、そのまま凍っている。

数秒の後、シャドウは黒い塵と化して消えた。

 

『ひゃははは!!番長様の前に立つからだぜ!』

 

『流石はアニキだぜ、一発でノックアウト!』

下品な声が廊下に響く。

奥から姿を見せたのは、様々な犬種の顔をした学ランの不良たち。

襟詰めを開く者、ズボンからチェーンを垂らす者、木刀を肩に背負う者

皆が皆、顔が犬であることを覗けば、ステレオタイプな不良その物だった。

 

「マジかよ……」

 

「なんだ、コイツ等は?」

縁糸、ニノの二人が言葉を失う。

 

カラン、コロン

 

不良犬たちの奥、下駄のなる音が聞こえてくる。

 

『オメェら!!道を開けろ、授業に遅れちまうだろ?』

 

『へ、へい、アニキ!!』

その声を聴き、不良犬たちが一声に道を開ける。

校内だと言うのに鉄下駄、手に持つのは巨大な釘バット、金髪のリーゼントのアルファベットのWの形の様なサングラス。

そして、真っ白な学ランに踊る様々な刺繍、所謂特攻服という奴を纏った大男が姿を見せる。

 

その姿は――

 

「鹿野!!」

居なくなった鹿野その物だった。

 

『テメェ!今、アニキを呼び捨てにしやがったかぁ?』

 

『このお方を我ら【腕々苦羅武(わんわんくらぶ)】の(ヘッド)としての、狼藉か!!』

不良犬どもがキャンキャン吠えたてる。

 

「最悪だ、最悪な事が起きた……」

ニノの声が震える。

 

「どうしたんだ?」

 

「この世界はイメージの世界。徘徊するシャドウは自身を保つ為『ロール(役割)』を演じる。

お前の友達は、この世界での役割を飲み込んだんだ!!」

ニノが震えながら話す。

 

「飲みこんだ!?」

 

「初めはそうだろう、だが今は逆に飲み込まれたというのも間違いではないか?

アイツ、日常的に回りから不良のレッテルを貼られてただろ?」

ニノの言葉にはっとする縁糸

鹿野の言葉の端々からは、自身を『不良』だと、自任する事が見て取れた。

 

「自らを『不良』と思う精神性、その感性に『学校』が持つ『不良』のイメージが『共感』した結果。

アイツは大衆のイメージに()()()()()()

この世界はな、待ってるんだよ。自分のもつ役割を入れ込める『器』をな!」

 

『うぅるせぇぞ!!テメェらぁ!!!あ”あ”ん!?

殺っちまうぞ、ごらぁ!!』

鹿野だった物が、釘バットを地面に叩きつける。

縁糸が右腕で左腕を掴もうとして、止める。

代わりに、両手の拳を握りしめる。

 

「か、帰ろう、みんな、待ってる!皆、心配してるぞ!!」

 

『はぁ!?俺様は不良だぜ!!不良の帰りを待つ奴も、心配する奴も居ねーのよ!!』

 

「やめろ!アイツはシャドウに飲み込まれた!!

もう、お前の知ってるアイツじゃない!!

逃げるぞ!!」

ニノの言葉が聞こえて瞬間、縁糸の視界が反転する。

一瞬遅れて、地面に叩きつけられる感覚。

 

鹿野を探すと、手にしていたバットを振りぬいていた。

 

(殴られた、のか)

数瞬遅れて理解する。

 

『おめぇ、うぜぇな』

今まで聞いた事の無い冷酷な声が、耳に届く。

 

「鹿野は、そんな事言わない。

この前、会ったばっかりだけど、面倒見良くて、優しくて、バカだけど、みんなに慕われていた!!」

頭から血を流して、縁糸が立ち上がる。

 

「やめろ!!勝てる相手じゃない!!にげるぞ!!」

ニノの悲鳴にもにた声が届く。

 

『ひゃはぁ!?逃がす訳ねーだろ!!』

 

『てめぇらは此処でおッ死ぬんだよぉ!!』

キャンキャンと不良犬どもが喚く。

 

『往生、しなぁ!!』

シャドウ鹿野がバットを振り下ろす時。

無意識に縁糸の口が笑った。

 

「ん、だよ……親の都合で、田舎に飛ばされたと思ったら、バカな不良に絡まれて、おかしな世界に迷い込んで、挙句の果てに怪物どもから命まで狙われてるのかよ……」

力なく縁糸が笑う。

にっちもさっちも行かない、雁字搦めの八方塞がり。

逃げ道なんて、ありはしない。

逆転の手段なんて、ありはしない。

そんな力の抜けた、諦めの笑みだった。

 

「けど、さぁ。諦めたくないんだよ。

お前を待ってる人達の為にも!!」

 

「ぐぅ!?」

縁糸の体に痛みが走る。

バットの痛みではない。

何かを突き刺される様な、鋭い痛みだ。

 

「ソレ、は――」

ニノが目にする。

蹲る縁糸の背中、制服のシャツを透けて血の様な赤い光は刺青の様に、彼の背中に翼の文様を書き示す。

 

『我の名を呼べ、我は汝、汝は我。

我が翼は貴君の自由の為のに――!』

自身の中から、声が聞こえる。

不思議な事に、何をすれば良いのか、既に知っていた。

 

「ペルソナ」

魚が生まれつき泳ぎを知っている様に。

鳥が風を読む方法を知っている様に。

口が自然に『ソレ』の名を呼ぶ

 

「来い!!イカロス!!」

その言葉に導かれ、縁糸の中の『ソレ』が動き出す。

背中の文様を目印に『ソレ』が鼓動を始める。

 

びゅぅ――!

 

一陣の風が舞う。

暗闇の中の校舎を。

怪物たちの囲む包囲網を。

絶対絶命の危機からすらも、するりとすり抜ける様に。

 

『な、んだ!?』

風がシャドウを吹き飛ばす。

 

『我はイカロス、太陽を求めし自由への挑戦者。

我が翼はこれより汝の物。

共に羽ばたき、共に堕ちるその刻まで我は汝と共に在り』

白亜の石膏像が、地面に突き立てた輝かんばかりの大剣に両手を乗せている。

その無機質な中、大きな赤い翼がその像を包む。

赤い翼が再度羽ばたき風を起こす。

 

『てめぇ!?マジか!!』

シャドウ鹿野が驚く。

それはニノも一緒だった。

 

「君も、ペルソナ使いだったのか!?」

 

「ああ、たった今から、そうなったらしい」

イカロスの風が、吹きすさんだ。

縁糸を縛るモノはもう、何も無かった。




ちょっとした、ペルソナメモ

『ヘカトンケイル』

剛毅属性
火属性攻撃、物理攻撃、僅かだがサポートも可能な万能型。

炎、呪怨に耐性。半面雷が弱点。

ニノの繰り出すペルソナ。
近未来を思わせる無表情な機械の頭部。
真っ黒な筋骨隆々の上半身。
古ぼけたレンガが詰みあがった下半身を持つ。
無表情な機械の顔は、顎の下の笑った口パーツを取り付けると笑顔に。
更に上部の怒りの眼のバイザーをかけると怒りの顔となる。

防御&待機状態の無表情。
サポート&回復の笑顔。
物理&攻撃魔法の怒り。
のイメージ。

刺青の形は体では無く、本に文字という形で現れる。
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