Persona~Alternative~   作:ホワイト・ラム

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今回のたいとるは「じょうとう、ぶっちぎりばとる」と呼びます。
不良の当て字って好きだったりします。


上等!!仏血義理罵闘流!!

『我はイカロス、太陽を求めし自由への挑戦者。

我が翼はこれより汝の物。

共に羽ばたき、共に堕ちるその刻まで我は汝と共に在り』

白亜の石膏像が、地面に突き立てた大剣に両手を乗せている。

石膏の体に鋼の剣、しかしその背中の赤い翼のみは生物の様にふわりと広がる。

 

たった今、縁糸から呼び出された存在がその翼を羽ばたかせる。

 

「――イケッ!」

縁糸を囲む、犬顔の不良たちが突如沸き起こる強風に突き飛ばされる。

敵全体に攻撃できる風属性の攻撃魔法『マハガル』だ。

 

「え、なんで?」

無意識に発した攻撃に、縁糸が困惑する。

 

「困惑しているのか?」

 

「だ、だって、今初めて使ったのに」

()()()()()

縁糸はたった今初めてイカロスを呼び出したと言うのに、その力の使い方が手に取る様に――

否。ずっと昔から使い慣れているとさえ感じている。

 

「君は今、ペルソナ能力に目覚めた。

それは確かにそうだが、ペルソナは自身の心その物。

生まれた時から気が付かないだけで、ずっと君の中に居たんだ。

知ってるのはむしろ、当然なのさ」

その言葉と共に、ニノがヘカトンケイルを呼び出し犬顔を不良を殴り飛ばした。

 

「ぎゃいん!?」

殴り飛ばされた不良は、動きを止めると黒い霧の様になって跡形も無く消滅した。

 

「使おうとするな。君の手や足、眼や耳の延長として使うんだ。

ここからは――――比喩や冗談を抜きにして『死ぬぞ』」

ニノの言葉に僅かな恐怖を感じる。

だがそれ以上に沸きあげる感情が有った。

そこへ、犬の大口を広げ牙を剥きだしにし、縁糸を狙う。

 

『死』が近づいてくる。

 

だが縁糸に恐怖は無かった。

 

「来い――!」

心の中で、イカロスの名を呼ぶ。

再度、石膏の像が現れ一瞬おくれて、赤い羽根が瞬いた。

 

ヒュルヒュル!

 

風が怪物を吹き飛ばす。

次の怪物が襲い掛かってくる。

 

「イカロス!!」

再度、イカロスを呼ぶ。

イカロスが大地に突き立てていた、銀色の大剣が風の煽られふわりと浮かぶ。

そして風は剣を操り、怪物を切りつけた。

 

次々と怪物たちが姿を失って行く。

 

「羽ばたけ!イカロス!!」

赤い翼を広げ、剣を大地に突き立てた、白亜の像は風を振りまき周囲の怪物を一掃した。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

今まで感じた事の無い様な妙な疲れを感じる。

 

「やるじゃないか、少年」

ニノがヘカトンケイルで怪物の首の骨をへし折りながら話す。

 

「だが、生憎だがへばっている時間は無いぞ。

自らに喝を入れ給え。

来るぞ、本陣が――!」

ニノがディアと小さく呟くと、縁糸の体が幾分か楽になる。

 

「グルゥゥ……テメェら、よくも俺の可愛い舎弟共を……許さねぇ!!

ぜってェに!!かみ砕いて殺る!!グルゥゥ!!」

怪物の銀牙の姿が崩れる。

他の怪物たちが、消える様に闇が霧の様に溶ける。

一瞬だけ、元の銀牙に戻るがすぐに(シャドウ)が纏わりついて、銀牙の姿を塗り替えた。

 

「ブン殴る、蹴り潰す、喰い殺すゥ!!」

2メートルをゆうに超える巨大な体躯を学ランに包んでいる。

ブルドックの様な顔が左側に、右側にはドーベルマンの様な顔がそれぞれ目をぐるぐると所在なさげに回す。

首からは錆びて引きちぎれた鎖がブランブランと揺れている。

手に持つのは巨大な骨に無数の釘を打ち付けた持ち手に布を巻きつけた武器。

 

飲み込まれ役割で塗り固められた(シャドウ)だった。

 

 

 

「武ッ!!殺ロースゥ!!」

手に持つ釘骨を地面に向かって思い切り叩きつける。

 

「イカロス!!」

イカロスを呼び出し(ガル)をぶつけるが、釘骨はそれを簡単にかき消した。

 

「何!?効いてない!!」

 

「おぉおおん!!」

ブルドックの顔が口を開く。

そしてそのノドの奥から、炎を吐き出した。

 

「退けッ!!アギラオ!!」

ニノが炎にヘカトンケイルの炎をぶつけて威力を相殺する。

だが完全には勢いを殺しきれずに、僅かな炎がニノに掛かる。

 

「グぅ!?」

 

「ニノ!!」

 

「心配するな、この体だ。多少の火にた耐性があるのだが、他はそうは行かないぞ……」

ニノが自らに癒しの魔術をかけながら言い放つ。

 

「まだ、まだ――だッ!?」

ニノが犬の頭を蹴り上げた。

シャドウ銀牙がその衝撃に後退する。

 

「逃がすか!!」

縁糸がシャドウ銀牙を追いかける。

 

「深追いは危険だ!!」

 

「掛ったな?」

ぎゅると音が出そうな勢いでドーベルマンの目が縁糸を射抜く。

そして口を開け、今度は冷気を放った!!

 

「ぐ、ぐぅあああああ!!!」

冷気は縁糸の体に容赦なく氷の刃を突き刺していく。

 

「ヘカトンケイル!!」

ニノの呼び出したヘカトンケイルが縁糸を抱き上げ、氷結攻撃の車線上から連れ出す。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

「君は氷属性に弱いみたいだな……一層の注意が必要か」

再度ニノがディアを唱える。

縁糸の傷が僅かにだが楽になる。

 

「ちぃ、回復しきれないか、ならば」

再度ヘカトンケイルを呼び出そうとした時、縁糸が手でニノを制する。

 

「その回復の術、俺が風の起こすのと同じで精神力を削るんだよな?

俺より先に学校に潜ってて、先生の怪物と戦って、さっきまで犬顔の不良とも戦って、回復までしてくれた。

そっちもそろそろ、精神力が限界なんじゃないか?」

縁糸の言葉にニノが動きを止める。

 

「回復はまだ出来るが……」

 

「残りの精神力は銀牙を助けるのに使いたい」

今の状況ではじり貧なのは、二人の中では共通認識だった。

ペルソナ能力の先輩としてニノは優秀だが、連戦が続いている。

そしてペルソナ能力に目覚めたばかりの縁糸一人では、不安が拭いきれない。

 

「一気に、決める作戦はあるんだ」

縁糸が自らの作戦をニノに伝える。

 

「君、それは……どれだけ危険か分かってるのか?」

ニノが苦い顔をするが

 

「それしか、手段は無いだろ?

俺を信じてくれよ」

縁糸が言い放ち、シャドウ銀牙に向かって走り出した。

 

「なんだ、貴様!?」

ブルドックの顔が吠えて、釘を打ち付けた骨を叩きつけて来た。

縁糸はそれを寸前で躱す。

 

一歩前へ

 

次は反対の手に装着された肉球型のメリケンサックだ。

それを、イカロスの剣で受け止める。

 

そして、更に二歩前へ進む。

シャドウ銀牙はもう目の前だ。

 

「ようやく、ちかづいた、ぜっ!」

 

「馬鹿か!?死にに来ただけだ!!」

ドーベルマンの口が再度牙を剥く。

喉の奥から、冷気が漂ってくる。

そのケダモノは、目の前の獲物を弱点を決して逃がしはしない!!

 

「ニノ!!今だ!!」

 

「タイミングを合わせる。

行くぞ、ありったけだ!!」

ニノの手の本に赤い光の文字がはしる。

 

ヘカトンケイルが呼び出される。

無表情の金属フェイスに、笑みの口パーツが装着される。

そして吊り上がり、その炎の様に煮えたぎる怒りを湛えた瞳のパーツが装着される。

 

「燃え上がれ!!ヘカトンケイル!!」

6本の腕を合わせ、目の前に炎の球を生み出しシャドウ銀牙の口に向かって放つ。

 

「逆巻け!!イカロス!!」

イカロスにありったけの精神力を使い、術に力を籠める。

赤い翼はヘカトンケイルの炎にたっぷりと酸素を咥え、その炎を更に大きく燃え上がらせた!!

 

「ぎぃ!あああああ、ああああああ!!!」

炎を飲み込まされたシャドウ銀牙が目を向て、悲鳴を上げる。

飲み込んだ炎は体を突き破り、シャドウ銀牙の体すらも包み込んだ。

 

「や、やったか?」

シャドウ銀牙の姿を見てニノが安堵の声を漏らす。

 

「ま、まだだだ……」

炎の中、シャドウ銀牙がゆっくりと姿を現した。

ドーベルマンの頭が燃えて骨だけになっているが、ブルドックの顔は半分を焼かれたが未だに健在だった。

 

「トドメだ、イカロス」

イカロスの大剣が風に巻き上げられ、シャドウ銀牙のブルドックの顔を切り落とした。

 

「わ、ん?」

切り落とされた頭が小さく鳴くと、シャドウ銀牙の姿は霧散した。

 

霧の中、倒れた銀牙がそこにいた。

 

 

 

 

 

4月5日 火曜日 夜

 

縁糸はニノと2人で、倒れた銀牙を連れて学校の外へ戻って来た。

ニノ曰く、セーフハウスと言える場所がこの世界にはいくつかある様だ。

最初に、口を開いたのは銀牙だった。

 

 

 

「な!?君、それはいくら何でも無茶だ。

人間が『異界』でロールを被せられたんだぞ?

いわば、自身の精神を無理やり上書きされた状態だ!

歩くのはおろか、話す事が出来てる時点で最早異常なんだぞ?」

ニノが驚愕に目を見開き、銀牙を見る。

 

「異常?あー、確かになんかダリィな……

風邪でも引いたか?

なんてな!俺はよ、小学生以来風邪なんて一度も引いた事ねーんだよ!

健康優良児系不良少年よ!!がっはははっは!!」

銀牙が大声を上げて笑って見せる。

その様を見てニノが小さく「こやつ、本当にニンゲンか?」と小さく声を漏らす。

 

「あり得ない、あり得ないだろ……

どういう、生き物なんだ?」

正に絶句という言葉が当てはまりそうな顔をニノが見せる。

 

「ダリィ時にはアレだな!

よっしゃ、ミドリ、ラーメン喰いに行こうぜ!」

 

「ラーメン……だと?」

短い言葉だがその声色には、信じられないというニュアンスが含まれていた。

 

「なんだニノ、ラーメンしらねーのか?」

 

「知っているさ!小麦製の麺に、様々な食品添加物と塩分の高いスープに大量の油分……

今の体調でそんなモノ食べれる訳ないだろ!?」

 

「へっ!ラーメンは俺の国民食だぜ。

喰いたくなったらいつでも喰うぜ!」

自信満々といった表情でニヤッと笑い、自信ありげに親指で自身を指し示す。

そしてそのまま、壊れた橋の方へとズカズカと歩いていく。

 

「あの様子なら、心配は無いか」

ニノがため息を着き、縁糸の方へと向き直る。

まぁいいと、一人漏らす。

 

「良いか?最後に一つ言っておく。

この場所と私の事は忘れるんだ」

 

「え?」

ニノの言葉に今度は縁糸が声を漏らす。

 

「まさか、現実世界の人間にここの事を教える積りか?

普通は冗談扱い、最悪精神病院送りだぞ?」

 

「――それも、そうか」

思ってみれば当たり前の事だ。

『崩れた橋の先は異世界に繋がっていました』などと言って誰が信じるだろうか?

今、現実として目撃したからこそ、腑に落ちているだけ。

いや、もし誰かがまた『こちら』に迷い込んだのなら、新たな被害者が出てくるのは目に見えている。

誰にも言わず、そっと心の中にしまっておくべきなのだ。

 

「あー、誰か間違って入ってきたら危ないって、事か?」

 

「ああ、そうだな」

もう良いか?そんな言葉が聞こえてくる様な態度でニノが答えた。

この世界に人間はあまり居て欲しくない。

それは、先ほどまで協力していた2とて例外ではない。

 

「と、兎に角帰ろうか?な?」

縁糸が銀牙の手を取って引っ張る。

 

「お、お?なんだ、ミドリもラーメン喰いてーのか?

分かるぜ、その気持ちよ」

困惑しながらも銀牙が縁糸につれられて行く。

 

「ん、じゃ、()()()ニノー!」

振り返った銀牙がニノに向かって手を振る。

 

「もう、くるなー!」

ニノの声が二人の背中に投げかけられた。

その言葉を背に、二人の視界がミルク色の霧に包まれる。

 

 

 

ザザー、ザザー

 

波の音、潮騒が聞こえる。

夜の海を月と星が照らしている。

 

「すぅー」

銀牙が深呼吸をする。

潮の匂いが肺に満ちる。

 

「帰って来たんだな」

慣れ親しんだ香りに、自然とそんな感情が呼び起こされる。

ニノの言っていたロール?とか言うモノを被せられた時から記憶は無いが、兎にも角にもずいぶん長い間、潮の香りを嗅いでいない気がする。

 

「おかえり、かな?」

銀牙に縁糸が語り掛ける。

 

「ミドリ!」

 

「は、はい!?」

突如、放たれる銀牙の声に縁糸がビクリと体を震わせる。

 

「おめー、根性ある上にヤルじゃねーか!

俺はよぅ、不良だけど友情にはアツいんだ」

ニヤリと銀牙が笑みを浮かべた。

 

「ミドリ、おめー今日から俺の親友だぜ!」

ぐっと拳を握って突き出してくる。

 

「しん、ゆう?」

ずいぶん久しぶりに聞いたその言葉に、縁糸が目を白黒させる。

その響きがなぜか、とても心がくすぐったく感じる物だった。

 

「ん!」

銀牙が急かす様に、突き出した拳をこちらに近づけてくる。

 

「ん、ん?」

どうしたら良いかと分からぬまま、縁糸は困惑する。

 

「んだぇ?ミドリ、オメェしらねーのか?

こうやるんだよ」

縁糸の右手を握り、拳を作らせる。

そして縁糸の拳に自身の拳を叩きつけた。

 

「いッ!?」

縁糸が痛みに小さく声を漏らす。

 

「うっし!ラーメン喰いに……今、何時だ?やっべ!母ちゃんに叱られる!!」

銀牙がズボンからケータイを取り出し時刻を確認して目を見開く。

それに釣られて縁糸のも自身の携帯を見るが、間もなく深夜に近づこうという時刻だった。

 

「この時間じゃ、ラーメン屋も終わりだな。

わりぃミドリ、ラーメンはまた明日な!」

一方的にそう言い放つと、夜の闇に向かって走り始めた。

銀牙が見えなくなった瞬間、縁糸の肩からドッと力が抜ける。

 

「はぁ、疲れた……」

岸に止めてある船に乗り込み、酷く疲れた体にムチを打ちながら船をこぐ。

波の音、星と月の光、そして目的地に光る家の輝き。

 

凄まじく濃厚な今日を過ごし、縁糸がため息を着く。

必死になった家までたどり付き、明稀に絡まれるのを必死に受け流し、自室のベッドに倒れ込むと泥の様に眠った。

瞬きをするつもりで目を閉じると、次の瞬間には太陽が高く昇っていた。

今日も、また学校がある。

 

 

4月6日 水曜 朝

 

 

 

「おいーっす、オメェら!元気してっか?」

ひょこっと、扉の間から銀牙が顔を覗かせる。

その瞬間、教室がざわっと色めき立った。

 

「バ、バ鹿野!!アンタ、一体今までドコに行ってたのよ!?」

九条が立ち上がり、銀牙に詰め寄る。

嬉しくてたまらない、責める様な口調だがそんな気持ちがありありと伺えた。

九条だけではない、クラスメイトの皆が温かい視線を投げたり、安堵した様な表情を浮かべる。

それだけ銀牙がこのクラスのメンバーから大切にされている事の証左だった。

 

その様に縁糸は――

 

(俺だったら……こう、なっていたか?)

左手で震える右手の二の腕を掴む。

 

「あ、ああ、えっとよ……」

銀牙が困ったように頭を掻く。

その様子に縁糸は一瞬だけ、頭を過った考えを振り払う。

 

「(ひみつ、だろ?)」

隣に立つ縁糸が肘で銀牙の脇を突きながら小声で話す。

 

「お、おう、そうだったな!」

銀牙がクルっと振り返って縁糸に笑いかける。

 

「ん?何よ?なにが、あったのよ?」

九条が腰に手を当て、下から銀牙を睨む。

 

「おう、実はな、ここじゃない変な学校に行っちまったんだよ!」

 

「は?」

銀牙の言葉に九条が眉を顰める。

それは縁糸も同じことだった。

 

「言っちゃったよ……」

銀牙の言葉にサーっと血の気が引いていくのが自身でも分かる。

ニノの『最悪精神病院送り』の言葉を思い出す。

 

「ちょっと、バ鹿野、それって――間違って他の学校に登校したって事!?

あんたのバカも遂にソコまで来たかぁ……」

九条が額に手を当てオーバーにリアクションをする。

教室がその掛け合いにドッと笑いが起こる。

恐らく()()が何時も日常なのだと何となくだが分かる

 

(銀牙が戻って来たお陰ってなら、ちょっとは誇らしいよな)

教室の空気を感じて、縁糸が笑みを零した。

腕の震えはもうすでに無くなっていた。

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