ダンジョン・ブレイカー   作:さわZ

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第三話 チキン「ちょっとあいつ、痛い目に遭わせてきます」

 冒険者たるものダンジョンに挑むときは万全を期すべし。少しの不備で命を落とすダンジョンは文字地通り魔京。もしくは地獄である。体調しかり武器防具しかり。不備が起こればそこから冒険者の命は零れ落ちるのだ。

 

 「むっ」

 

 それは当然タカヒトにも通用する。エリーから受け取ったホーリーボトルを服用してダンジョンに挑んで半日ほど経過した時。相棒ともいえる片手持ちのナイフに違和感を覚えた。現在はバトルチキンという三メートル台の巨大な鶏を仕留めた際に手持ちのナイフの刃が欠けた。このナイフは数少ない友人の祖父が直々に作り上げた物。彼の生命力や【呪い】。このナイフ仕留めたモンスターの魔力を吸い上げて成長していくという生きた武器。リビング・ウェポンである。世間一般。ギルドで売り出しているダンジョンと同レベルの切れ味だが、耐久性があり、自動修復機能があるナイフ。それが刃こぼれするという現象。実はこれ、結構ある。

 ロックリザードと言った硬い鱗やバーサーク・カウと言った硬い角や蹄を持ったモンスターの攻撃をいなす時にこのナイフを用いる。そして、岩や鉱物で出来た巨人。ゴーレムの攻撃を訳あって受け止めた時。その時は普通に折れたため、予備の普通のナイフで何とか事態を脱したが、それを作り主に伝えるとしこたま怒られた。

 暗殺特化の技術しかないのに真正面からモンスターとやりあうなとか。モンスターと力比べするなとか。あくまでナイフであり、盾や鎧ほどの防御効果は見込めないのは理解しているだろうとか。ゴーレムとかいう超重量級を相手にするなとか。

 タカヒトの戦闘スタイルは主に不意打ちや暗殺と言った一撃必殺やヒットアンドウェイといった相手の攻撃を一度も受けないテクニカルタイプ。それに合わせてナイフを作ってやったのにその真逆をやるのは馬鹿がすることだと。

 いやまったくもってど正論。でもしゃーないやんけ。【呪い】のせいで体の主導権を奪われるんだから。いい恰好したがるのか他の冒険者のピンチを目撃する度に彼等の前。モンスターの前に飛び出して戦闘を開始するんだから。まあ、特段ピンチでもなければ【呪い】も発揮することなく行動できる。この目立ちたがり屋さんめ。

 ナイフの刃こぼれという武器の劣化に気が付いたタカヒトはこれ以上ダンジョンに潜るのは危険と判断して、仕留めたバトルチキン。高級食材なモンスターを解体して魔石を抉り出し、食用に適していない内臓をその場に捨て、持ってきたマジックバック。【錬金術師】が作り出した使用者のレベルに応じた容量を収めることが出来るバッグに、解体したバトルチキンを押し込む。自分の進行状況とダンジョン攻略具合を推し量り、今回のダンジョン攻略でも、ダンジョンコアを手に入れることは出来ないと判断したタカヒトはため息をつきながらも来た道を引き返すことになった。

 ちなみにマジックバックはモノを収めることが出来るだけで、中に入れた物はおもちゃ箱のような状態。ギルドで中身を取り出した時、バトルチキンの血のせいで他のモンスター素材や魔石は血まみれだったため、買取価格は少しだけ値引きされることになった。

 

 

 

 「装備に不備が出た。それを解消するため渡米する。そこでも謝肉祭を受けるだろう。万全を見越して自制している」

 

 「え、武器が壊れたから直すためにアメリカに行く。その時に大量にお肉を食べさせられるからセーブしている。ですか」

 

 なんで翻訳できるのこの子?【聖女】って、すごい。

 

 ダンジョンで仕留めたバトルチキンの肉を含めた素材。その四分の三を換金してもらい残った四分の一の半分。八分の一をエリーのいる協会に持っていったタカヒト。八分の一でも二十キログラムはある肉塊を持ってこられた時はタカヒトを怖がっている孤児たちも驚きと興奮で目を輝かせていた。マジックバックの中に入れたものは常温で保存してしまうので適切な処理をしなければ普通に腐ってしまう。そうなる前に世話になっている協会の関係者で食べてもらおうとやって来た。残りのお肉はアメリカの武器屋の人に渡す予定だ。

 バトルチキンの差し入れを喜んで受け取り、すぐに調理してタカヒトを含めた協会の皆で食べることになった。シンデレラ・カウのシチューからバーベキュー。丸焼き、照り焼きにサンドイッチにサラダと。とにかく鶏肉が使われた料理が出される中、タカヒトはサラダとシチューだけと少し寂しい量しか食べていなかった。そんな彼にどこか不調があるのかとエリーが尋ねるとタカヒトの返事が【呪い】付きで返された。のだが、それを十全に理解した【聖女】。三年と言う付き合いの中でここまで理解してくれる人はなかなかいない。それなのにこの【呪い】ときたら。本人を無視して勝手に方針を決めるから困る。特にその方針に文句が無いのも困る。だが、行動強制は止めてほしい。本当にやめて欲しい。

 

 「武器の整備と言うと。…イブ・ナイトーさんのところですか。…この町の武器屋では駄目なんですか?」

 

 「俺の武器をこしらえるのはあそこしかない。…不服か?」

 金銭的にも人格的にも俺の頼みを受けてくれるのはあそこくらいなんだよなぁ。え、なにか気になる点でもある?

 

 使っている武器がリビング・ウェポンであるため、製造元以外では整備が出来ない。愛用している武器であり、手慣れた頑丈なナイフだからこそアメリカにあるガンショップにいかなければならないのだが。実はナイフとダガーの差が未だに分からないのは内緒だ。

 

 「い、いえ。そんなことは、ない、ですよ」

 

 「心配無用だ」

 

 エリーが視線を泳がせているのはわかる。…まさかこれは。嫉妬か?!我が子が取られた母性から来る嫉妬!?ホーリーボトルを受け取りに来た時、自分の冒険談を真摯に聞いてくれるエリーママから俺が離れるわけないだろう!!

 

 さすがに五文字だけの返事の内容を十全には理解できなかったエリー。これは幸いだった。もし、タカヒトの内情を掴めた人物や存在がいれば「クソボケがぁあああっ!」と罰を与えるだろう。現にバーベキューしているチキンの油がはねてタカヒトの目に入った。あまりにもタイミングがばっちりだった。神がセッティングしたのではないかと思わんばかりのタイミングだった。これを天誅と言わずしてなんとなる。

 

 目に入った油を洗い落とすためタカヒトは協会の手洗い場に足早に移動した。痛みがしみる上に下手した視力が低下するという冒険者の強さにも関わる事態になる。おら、急いで目を洗うんだよ!

 洗い場で目を水で洗うとエリーがハンカチを差し出してくれたため、受け取り目元を軽く拭く。この場合のハンカチはどうすればいいのかと思っていたらエリーがそれを優しく受け取るとタカヒトの口元を拭う。どうやら唇に着いたシチューの油を拭い取ってくれたよようだ。それをポケットに収めたエリーはバトルチキンのお礼を言う。

 

 「チキンの差し入れ。ありがとうございます。それで、そのすぐ帰ってきてくれるんですよね?」

 

 「無理だ。武器が直るまではアメリカのダンジョンの上層で金銭を稼ぐことになるな」

 武器が直るまでは本格的なダンジョン攻略は出来ないから今やっているダンジョンは挑めないなぁ。でも、お金も必要だから、代用のナイフを買ってアメリカのダンジョンで比較的に浅い所でモンスター討伐してお金稼ぐよ。

 

 言葉足らずなタカヒトの言葉にエリーは目に見えてしょんぼりした。それは端から見ている教会関係者、孤児院の子ども達から見ても気落ちしているのが分かる。タカヒトだってそれには気が付いている。気が付いているだけで内容までは正確に判断できていないだけ。愛用の武器なしでのダンジョンアタックを心配しているのかな?くらいである。

 

 「俺が帰る場所はお前だ。必ず戻る」

 ホーリーボトルの補充しないといけないからね。しかし、気障な【呪い】だな。嘘じゃないけど。

 

 「ま、待っていますからねっ。必ず帰ってきてくださいねっ」

 

 タカヒトのある意味、殺し文句を受けたエリー。この時だけは【聖女】らしい理解力はなく、恋する乙女フィルターで受け取ってしまった。

 やはりタカヒトはクソボケでは?ダンジョン攻略に感情のリソースを全振りしているからか、赤面して俯いているエリーの気持ちに気がつけていないのか?教会関係者はタカヒトという上客を逃したくない。言葉と態度は悪いがそれも【呪い】のせいだと考慮するとエリーにふさわしい人間かもしれない。冒険者にしては冷静に見えるが、その人格は好ましいというのがエリーの話だ。孤児院の子ども達を邪険に扱う事もあるが、暴力やきつい言葉で追っ払ったりはしない。だが、しかし、このクソボケ。アメリカとか他の場所でも同じことをやっているならとんだ天然の女たらしだ。【聖女】の相方にはふさわしくないのでは?

 

 タカヒトとエリーのやり取りを見ていた人達の予想は見事に当たっていた。

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