Almost broken―――壊れかけ―――   作:全智一皆

3 / 3
第二話「邂逅前」

 

 

■  ■

「流石に気になるな…」

 

 スレイン法国の都市を歩く彼は、周囲の人々から向けられる様々な視線に少しばかり困っていた。

 彼は基本的に山に住んでいるが、しかし決して都市に顔を出さない訳ではない。というか都市に行かねば魔物の換金なども出来ない。

 キャラクターのまま異世界に転移したとは言えど、種族は人間だ。結局は、ただ長生きしているというだけの人間でしかないのだ。

 感情は死んでいない。自分から人と関わろうとしないだけで、人と関われるなら関わるし、人の事を気に掛ける事もある。

 人間なら当たり前の事だ。

 

「おぉ、これはこれは英雄殿!」

「英雄って…そんな事言われる程の事はしてないぞ、ルーインさん」

 

 どうしたものかと頭をかいていれば、見知った顔が近付いてきた。

 ニグン・グリッド・ルーイン。このスレイン法国における最高の特殊工作部隊《六色聖典》の一つである《陽光聖典》の隊長を務める男。

 かつてのエルフとの戦争を勝利へと導いた彼を、英雄と呼び讃える人間の一人である。

 彼としては、英雄と呼ばれる程の事などしてはいないのだから、呼ばれるのは中々嬉しくない。所詮は殺人なのだから。

 

「また御謙遜を。貴方はかの長き戦争を勝利へと導いた英雄なのです、それは誇るべきだ」

「…そうかい。それはそれとして、ルーインさんが街を出歩いてるのは珍しいな」

「実は仕事が入りましてね。万が一殺されるような事などありはしませんが、その万が一が起きた時の為に、こうして故郷を焼き付けているのです」

「…それ、こんな公の場で言っていいの?」

「皆は貴方に夢中ですので、問題ありませんよ」

「盾みたいに…まぁ、良いけど。それくらいの距離感の方がありがたいよ」

「貴方のお望みですから。それに、こうして故郷を記憶に残す事を教えてくれたのも貴方です」

 

 戦場には等しく死が訪れる。万が一の事態とて、当然の様に起きる。それこそが、戦場という場所である。

 強い人間も弱い人間も等しく戦士。戦場では誰であろうと例外はない。少しの切っ掛けであろうとも、たったそれだけの事で簡単に死を招く。

 だからこそ、大切なものは記憶にしっかりと残しておくべきだ。彼は見知った顔の戦士に、そう伝え続けてきた。

 何でも良い。家族の事でも、恋人の事でも、友人の事でも、形見の事でも、故郷の事でも。とにかく、大切だと思うものを確かに残しておけば、生きたいと思えると。

 かつての自分がそうだった様に。今の自分の様になってしまわない様に。

 

「仕事、頑張って。万が一にも死なない様に」

「えぇ、勿論ですとも」

 

 それが、彼らの最後の会話だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。