Almost broken―――壊れかけ――― 作:全智一皆
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「流石に気になるな…」
スレイン法国の都市を歩く彼は、周囲の人々から向けられる様々な視線に少しばかり困っていた。
彼は基本的に山に住んでいるが、しかし決して都市に顔を出さない訳ではない。というか都市に行かねば魔物の換金なども出来ない。
キャラクターのまま異世界に転移したとは言えど、種族は人間だ。結局は、ただ長生きしているというだけの人間でしかないのだ。
感情は死んでいない。自分から人と関わろうとしないだけで、人と関われるなら関わるし、人の事を気に掛ける事もある。
人間なら当たり前の事だ。
「おぉ、これはこれは英雄殿!」
「英雄って…そんな事言われる程の事はしてないぞ、ルーインさん」
どうしたものかと頭をかいていれば、見知った顔が近付いてきた。
ニグン・グリッド・ルーイン。このスレイン法国における最高の特殊工作部隊《六色聖典》の一つである《陽光聖典》の隊長を務める男。
かつてのエルフとの戦争を勝利へと導いた彼を、英雄と呼び讃える人間の一人である。
彼としては、英雄と呼ばれる程の事などしてはいないのだから、呼ばれるのは中々嬉しくない。所詮は殺人なのだから。
「また御謙遜を。貴方はかの長き戦争を勝利へと導いた英雄なのです、それは誇るべきだ」
「…そうかい。それはそれとして、ルーインさんが街を出歩いてるのは珍しいな」
「実は仕事が入りましてね。万が一殺されるような事などありはしませんが、その万が一が起きた時の為に、こうして故郷を焼き付けているのです」
「…それ、こんな公の場で言っていいの?」
「皆は貴方に夢中ですので、問題ありませんよ」
「盾みたいに…まぁ、良いけど。それくらいの距離感の方がありがたいよ」
「貴方のお望みですから。それに、こうして故郷を記憶に残す事を教えてくれたのも貴方です」
戦場には等しく死が訪れる。万が一の事態とて、当然の様に起きる。それこそが、戦場という場所である。
強い人間も弱い人間も等しく戦士。戦場では誰であろうと例外はない。少しの切っ掛けであろうとも、たったそれだけの事で簡単に死を招く。
だからこそ、大切なものは記憶にしっかりと残しておくべきだ。彼は見知った顔の戦士に、そう伝え続けてきた。
何でも良い。家族の事でも、恋人の事でも、友人の事でも、形見の事でも、故郷の事でも。とにかく、大切だと思うものを確かに残しておけば、生きたいと思えると。
かつての自分がそうだった様に。今の自分の様になってしまわない様に。
「仕事、頑張って。万が一にも死なない様に」
「えぇ、勿論ですとも」
それが、彼らの最後の会話だった。