被虐と赤眼の教導者   作:トラソティス

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ノエル「百鬼夜行…百花繚乱……とても可愛らしいあの猫のような子…キキョウと呼ぶんですの?なんだか何処となくカロンに似てる気がしますわ」
カロン「あの自称エリート…苗字の長さと言い、名門家といい…お嬢様の喋り方と言い…頭の硬さといい…何から何までノエルにそっくりだな……」

ですわとですの。
対等な関係に取引云々のセリフ、猫と鴉の対立関係。
うーむ…面白い。
因みにキキョウの蔑む顔がびっくりして衝撃受けました。何処かのキャスパリーグさんといい、クーデレキャラに弱い作者。

それとして今回でseason0最終回。
ストーリーの流れとしてはブルアカのストーリー更新時系列に沿う為悪しからず。また本編のストーリーで登場しない生徒の場合はモモトーク、イベントなどでやっていこうかなと考えている所存です。
少なくともアビドス編は一章と二章があるので、少なくともそれまでは何も考えずに進めても問題ないかなと。

#ユウカ・リットナー#東風#相棒#回想せよ#黒の手紙#愉快な仲間達#40点


story10『東風』

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢を見た。

 暗闇の中、幻想的な蝶々が飛び交っている。光の灯火もない、冥界の海……嗚呼、これは夢なのか…と理解をするのに時間は大してかからなかった。

 自分が何処にいるのか、何処に佇んでいるのか、分からないのが怖いけれど……夢だと気付かなければ、これが夢じゃなければ私はあの世だと解釈していただろう。

 連邦生徒会長でも、電車の中で観てた夢でもない――そんな物思いに耽っていると、蝶々達が行く道に光が走る。

 穢れを知らない真っ白な世界――冷えた空気が吹き上がり、七人の人影が並んでいた。

 白くて冷えた世界…それは雪山。背景に馴染む様な迷彩作用が働いているバンの自動車が停まっていた。

 

『それじゃあ…行くとしようか』

 

 その声には聞き覚えがあった。

 グレーのマフラーを首に巻きながら、普段着慣れたスーツの上に羽織る栗色のスーツは、中々に洒落ていた。

 

 

 狡猾な元マフィア――パイソン(27)

 

 

『この7人のチームも、しばしの解散となるが…悪くない日々だったよ』

 

 嗚呼…パイソン。

 懐かしい…これは確か市長選挙前、決戦前に各々で話し合っていたんでしたっけ。

 貴方は知的で、フーゴ、トード、スラッグの抑止力にもなってくれておりましたわね。カロンにも電子機器を教えて下さりましたし…キヴォトスではまだまだ慣れてはおりませんけれど……他にも、私の為にご馳走を振舞ってくれた時も御座いましたわよね。とっても、美味しかったですわ。

 他にも護身用にと持たせてくれた銃の扱い…結局、片腕では銃の反動もあったり、あの時のトラウマもあって中々扱うのに困りましたけど…。

 

 

『次に全員揃うときは、反省会じゃなくて盛大な打ち上げにしたいな!カロン、テメェもノエルとの契約が終わっても、打ち上げにはちゃんと出ろよな!』

 

 

 粗暴な切込み隊長――トード(18)

 

 

 トード…。

 野蛮で猪突猛進な印象が強かったけれど…数少ない女の子同士、もっと仲良くしたかったですわ。

 …ごめんなさい、打ち上げに出れなくて。もし向こうに戻れるのなら、もう一度ただいまって言いたい…私の生徒達とも合わせてみたいですわ。案外、キヴォトスの方々と仲良く出来るかもしれませんわよ?

 

 

『最後の決戦かぁ……記念式典の時もそうだったけど、いざとなると…こう、結構緊張するよね…ッ』

 

 

 陰鬱の変人――スラッグ(17)

 

 

 スラッグ…。

 トードといつも隣にいる貴方のこと、偶に何考えるのか分からなかった時がありましたけれど…メロイ地下街で起てから、少しだけ貴方のことを知れた気がしますわ。

 フーゴ達と何があったのか、彼処で一体何が起きてたのか迄は知り得ませんけれど…少なくとも、トードやパイソン、スラッグ…貴方達(ヴェルデ)の三すくみが居たから、今のフーゴが在るんじゃないかって思いますの。まだまだ貴方のことを詳しく知れませんでしたけれど…ちょっとスイッチが入ると怖くなる時が御座いますけれど、最後の最後まで戦ってくれたのは、凄く頼もしかったですわ。

 

 

『この戦いの後、皆で互いを労うまでがセットだ――無事にカロンと二人で戻るようにな』

 

 

 正義の魔人――オスカー・ドレッセル(23)

 

 

 オスカー…初めて出逢った時は敵同士でしたわね。

 そう言えば、ジーノが仕掛けた爆弾から私を助けてくれた後はどうなったのかしら…?無事だと良いんですけれど…

 得体の知れない怨恨の復讐者――ジーノ・ロレンツィの緻密な罠、幾重もの大悪魔と契約をし、200年以上生き永らえ、ドラットン不在を良い機会にOCTを支配していた臨時総隊長――ルーチェ・マリー…三つ巴とも呼べる激戦…死なないと良いんですけれど。

 

 

『俺たちは俺たちで、この街と闘う――お前ら抜きでラプラスをひっくり返しちまう位のつもりでな。ノエル、カロン――お前らはお前らで、自分の復讐をやり遂げろ』

 

 

 爆熱の魔人――フーゴ・ドレッセル(21)

 

 

 有難う、フーゴ…。

 私、ちゃんとやり遂げましたわよ。フーゴ、トード、スラッグ、パイソン――この廃製鉄所組なら、今の貴方達なら例えラプラス警察だろうと、マフィアだろうと…全部をひっくり返してみせますわよね。

 貴方が望んだその炎は、きっとラプラスに消えない傷として刻まれ、語り継がれていきますわ。

 それは、虚しい世界をも壊すように。

 …ワカモっていう貴方に似た生徒にも、叶うなら合わせてみたいですわね。

 お互い個性的ですから、喧嘩勃発になってしまいそうで怖いですけれどもね…。

 

 決戦前のブリーフィング。

 フーゴ達はこれまで踏破してきたラプラス街に、虐げられた者達の復讐劇を、テロリスト行為をした。

 端から見れば大悪党、秩序を乱す犯罪者――市民達の不安と恐怖を煽っているのは事実だろう。

 然しそれはバロウズに対する復讐でもある。勿論、人殺しや無関係な市民達に怪我を負わす、なんてことをしない前程でだ。

 それでもバロウズが雇用してたラプラス警察や殺し屋、ビアンコファミリーとの掌突は避けられないだろう。

 オスカーは私とカロンと一緒にバロウズへの復讐を……改めて思いましたけれど、カロンとオスカーは結構手を組む機会が多い気がしますわね。

 カロンも私以外にもあそこまで腕を認めてますし…まあ、致命傷を負わせたのが魔人の中ではオスカーで初めてだから、かもしれませんけれども。

 結局離れてしまいましたし…そして、その後に……市長官邸に潜入し、復讐の前に立ち憚る市民達と対立。

 あの時は…言葉では通じない上に、自分と同じ末路を辿り後悔してしまう市民達に…手を汚そうとしてしまったけれど…私より立派になって、私の復讐を応援してくれた親友が駆けつけに来てくれたお陰で、助かりましたわね。

 あの時のジリアン、とてもカッコよくて、立派に輝いてましたわよ。

 それこそ…ジリアンにもこの世界で、たくさんの生徒達と友達になって貰いたい位に…。

 

 こうして、市長官邸の屋上でバロウズとの因縁の決着を果たして、そして復讐を……。

 

 そう言えば、バロウズの身体に浮かんでた始まりの悪魔――ラプラスの天輪って、この世界のヘイローに似てますわね。

 代償も無しに何でも願いを叶えるだなんて…本当、連邦生徒会長と言い、神様の素質ある人たちは皆んな超人で人間離れしてますわ。

 

 

 

 

『これが、先生の選んだ選択肢――』

 

 すると、懐かしい過去の回想を傍観する青髪の少女が立っていた。

 いつの間に――?何処となくルーチェ・マリーに背後を取られた時の感覚と似ていた。

 だけど私よりも背の高い女性は、此方に背後を向けながら、記憶の回想を眺めていた。

 

(あれ?ヘイロー…?)

 

 そう思っても口には出なかった。

 名も知らないキヴォトスの女性は、見覚えがあった。学園都市に訪れて、意識が戻る前の……夢想とも呼べる曖昧な記憶の夢回廊。すると少女はくるり、と此方に向き直る。

 

『嘗て敵として闘った大人や、先生の親友が敵に回っても――復讐(選択肢)を貫いた貴女達なら……何かを捨てずに、全てを見据えて、正しい選択を選んだ貴女になら……私達の信じられる先生である貴女達にならきっと……捻れて歪んだ終着点とは、また別の結果を……』

 

『………』

 

 ニッコリと笑う少女は、何処かアロナに似ていた。

 まるでアロナのお姉様なんですの?と場違いな言葉が出てしまうほどに。

 

『違いますわよ連邦生徒会長――』

 

 うん?と、此方の言葉に反応を示す名も知らない生徒は、言葉を出さずに笑顔を絶やさない。

 

『どんな選択肢を選んだとしても…過ちの結果になったとしても……その選択肢に後悔しては、意味がありませんわ――誤った選択肢を選んでしまったのなら…皆んなで止めれば良い。誤ってしまったとしても、軌道を修正すれば良い……正しい選択肢が、全てではないですわ』

 

 ノエルは連邦生徒会長の頬に手を伸ばし、優しく撫でる。彼女は一瞬、きょとんとした顔を晒しながら、直ぐにクスッと笑った。

 ノエルも嘗ては誤った選択肢を選んでしまった。

 

 親友のピアノを褒めてあげず、手を払いのけ逃げてしまった醜態を。

 式典奏者になる為に、人殺しを願ってしまったことを。

 傲慢さのせいで、親友を巻き込み傷つけてしまったことを。

 

 数々の最悪な選択肢を選んでも尚、死にたいと願いたくなるような結末を迎えても――こうして復讐を成し遂げて、今こうしてキヴォトスという学園都市の世界に佇んでいる。

 仲間達のお陰で、生徒達のお陰で、新たな第二の人生を歩む事ができるのだから。

 

『そうでしたね……ふふ、初めて指摘されたかもしれません。嗚呼…やっぱり、先生の言葉がまた『正しい』と気付かされちゃいましたね――』

 

 夢の中だと理解していても、妙に拭えないこの現実味――まるで本当に目の前で連邦生徒会長と対話をしている気分…。だけど旧友と談笑でもするかの様な、自然に流れた会話と笑み。

 

『先生…これからこの先、辛いことが沢山あるでしょう。この学園都市には、まだまだ解決出来てない問題ばかりが多すぎますから…。私がいなくなってから、問題もまた増えていくでしょう――透き通る世界線とは別の、最悪な未来……幾重もの死線を潜り抜けた貴女達ならきっと…』

 

「大丈夫ですわ。私も…まだまだ先生としては未熟で、カロンのように頭が良いわけでもないですし、いきなり教師をやれだなんて無茶な話ですけれど……時に挫折を、時に膝を付いてしまう時や、悩みに苦しんで歩みを止めてしまうかもしれません……だからこそ、カロンや生徒達と一緒に、頑張るんですのよッ」

 

 連邦生徒会長は超人で在ると、誰もが認める彼女は、外の世界ではラッセル・バロウズと同じ様に…神に等しい始まりの大悪魔になれるもう一人の逸材でもあるだろう。

 故に、超人であるがからこそ他者の心が理解できない。

 然し、ノエルもある種の超人である。

 ピアノの才覚、優れた聴覚だけでなく…ノエルという存在がバロウズの代償である『市長の破滅』の要因にもなれば、彼女の生き様に周りに影響を与えたのも、ラプラスの街に傷を刻んだのもまた事実なのだから。

 キヴォトスの基準として彼女の存在は大それたものではないのかもしれない…だが、選択肢と経験も積み重ねたノエルにならきっと……。

 

 すると眩い光が、蝶々となりて世界が崩れゆく。

 夢見ノ世界は、過去の栄光が遠ざかっていく。

 連邦生徒会長は手を振りながら、笑顔で彼女を見送る様に……。嗚呼、これは夢なんだと理解していても、ついつい手を差し伸べてしまう…。

 だけどその手は届かず、夢から醒めるかのように消えてしまう。

 

 

「……むにゃッ?」

 

 涎を垂らしながら、熟睡してたノエルは寝惚けた眼を開ける。

 見ていた夢の内容は朧気ながらも、眠気のある瞳を擦りながらシッテムの箱に手を伸ばす。

 

『先生!おはよう御座います!モモトークが一件、今日はシャーレの当番であるユウカさんが此方に向かっておりますよ!』

 

「……嗚呼、そう…でしたわね…」

 

 シャーレに訪れてから一週間が経っていた。

 様々な業務やら内容で忙しくて、一向に様々な学園の生徒達と出逢える機会が少ない。

 

 スズミにエスコートされながらの街でのデート。

 温泉開発部と呼ばれる火炎放射器を持った少女がアイスを溶かしていたり。

 不良達に絡まれていた所を、謎の銃撃によって助けられたり。

 日々重なる書類の仕事やレポートをこなしたり。

 優雅な休日という息抜きの形で猫カフェに通ったり(カロンは断ってその日はシャーレで酒飲み三昧)

 モモカより話で聞いてた指名手配犯のカイテンジャーによる調査。

 軍需工場やスランピアといった廃墟に軽く調査をしたり。

 

「あれから一週間…早い様で短い様な……」

 

 シャーレの仕事には慣れてない…というより、難しくて厳しい部分が強調されてるけれど、日に日に生徒達が手助けしてくれるというのは、何だかとても嬉しい気分だ。

 ……モモカから聞いた話――回転寿司のコスチュームをした変態不審者がいることに驚きましたけれど…もう一つ気掛かりなのがスランピアである。

 

 元々はモモグループと呼ばれる有名なモモトーク会社にも携わってる有名な一大企業。

 キヴォトスにおいてエンターテイメントとして事業展開を行っており、ユートピアの開発・運営を行っていた。

 ユートピア――キヴォトスで賑やかな、歓喜の感情が満ち溢れていた遊園地。そんな運営企業が半年後、経営不振による苦しい状況が続いたことにより、閉鎖。

 そうして生まれたのが寂れた閉園『スランピア』。

 カロンからはモモグループに関しては僅かではあるが、チナツからモモフレンズ経由で知ったらしい。

 偶に建物のビルに貼られてる広告やチラシなどで宣伝されてる白い鳥(?)のキャラクターがモモフレンズらしい。

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――

 

『廃墟で人が襲われて、食べられちゃったりするんだってさ〜。こんな風に、パリッとね〜』

 

『ふむ……スランピア、廃墟の遊園地に正体不明の……興味深い不可思議な伝承だな』

 

 とある日のこと。

 リンから改めてアユムやモモカに紹介された日のこと。特別依頼となる調査の御話で疑問を抱いたカロンがモモカとスランピアについて話していた。

 モモカは先生を前にしても、一切目上の人間に対して敬語も礼節も弁えず、ぐ〜たらな怠慢態度を取っている。肝が据わってるのか、そういう性分なのか…。

 

『人が食われる、襲われる、行方不明になる廃墟の遊園地か…… オカルトの伝承が語られる封鎖されしスランピア――それが真なら調査をしたいところだな』

 

『うへェ、先生も物好きだねェ〜……そんな不気味な噂が垂れ込んだ遊園地に行くなんて…オカルトや怪談話が大好きなチャレンジャーじゃん』

 

『オカルトや伝承には根源が存在する。私達の存在もまたオカルト現象とは切っても切り離せない縁がある。それが嘘だろうと真実だろうと、そういう伝承や会談が噂として広まってる時点でオカルトとして成立する材料が揃ってしまってるのだ――それに……』

 

 ひょっとしたら、スランピアには大悪魔に似た類の人ならざる者が誕生する可能性もある。

 この手の類は大体、悪魔が誕生する起因にもなり得るのだ。

 それは此処に来てから考察での引用として、スランピアも充分に大悪魔を誕生させる要因にもなり得る可能性は高いと踏まえている。

 だからカロンにとってスランピアの特別調査はこの上ない僥倖とも呼べるものだった。

 

『そういう調査も、どうせ私達の仕事の内にも入るのだろう?他の者達は足を踏み入れたりしてるのか?』

 

『シャーレの権限によって今は封鎖されてるみたいだよ〜。誰も経営してないから事故に遭う危険性も考慮してあるんだけど、一番はそういう都市伝説みたいな噂が広まってるからがしっくりきてるよね〜』

 

 モモカはケラケラと他人事の様に笑いながらポテチを頬張り、カロンは興味深そうにスランピアに関心を持っていた。

 カロンはこう言った都市伝説や怪談話、百物語やオカルト現象などに好意的に興味を注いでいる。大悪魔という存在がそういう類の話に関心を持つのは、同じオカルト的な存在の立ち位置だからか、それとも知恵を司る大悪魔カロンの知的好奇心から来る欲なのか…。

 

『ていうかカロン先生ってば、キヴォトス外部の大悪魔(?)だから、オカルトにはオカルトをぶつけるのも面白いかもしれないね〜?ほら、効果抜群っていうじゃん?』

 

『職務怠慢常習犯のお前にだけは言われたくないぞ……』

 

 ケラケラ笑いながら相変わらずポテチを頬張る彼女に、冷ややかな目で見下ろすカロン。

 他にも軍需工場のAIが暴走したという事件もあったと聞く。

 ミレニアム郊外の封鎖された廃墟の軍需工場、廃棄されていたAIロボットが突然動き出し、暴走を働いている。

 それがどう言った起因なのかは不明ではあるが、逆にこう言った不可思議な現象もまた立派なオカルト、都市伝説ともやべるだろう。

 

『スランピアに廃墟の軍需工場……共通されてるのは、何方も廃墟と封鎖された空間という繋がりか。益々きな臭い』

 

 キヴォトスという世界に訪れたばかりの身としては、まだまだ知恵も足りなければ知らないこともある。

 だが封鎖された廃墟の土台が、こうも不可思議な現象を起こすだろうか。

 外の世界で言うなれば、怪奇現象や科学では証明不可能の非現実的なオカルトとして片付けられるだろう。

 

『……スランピアの関係者を漁ってみたり、軍需工場のシステムについて解析をするのも、悪くはないかもしれんがな』

 

『おぉ〜っ、仕事慣れしてるねェ〜ッ!そいじゃ、仕事が一つも二つ増えても全く問題なッさそ〜♪』

 

『ポテチ食う暇があるのなら、猫の手ならぬドラゴンの手でも借りたいんだが…』

 

『いやいやァ、私なんか全くカロン先生のお力添えにはなれないよ〜?そりゃあリン先輩から他の業務を頼まれてるのもあるけどぉ、私みたいな非力な生徒が特別調査の現地に行ったところで何の戦力にもならんし?雀の涙程度の成果出せれば上手く行った方なんじゃない?』

 

『……ほぉ、それはつまりお前自身は戦えないというわけか?』

 

『?私がバリバリの前線に立って戦えると思う?ううん、それ以前に私が銃持ってドンパチ紛争地帯で活躍する姿とか想像できる?』

 

『……いや、決してそういう意味で言ったわけではないが……なるほど、そうなのか…。ふむ…』

 

 何やらカロンは違う節の点で考察を働いてる様子だ。今のどの発言からしてカロンが何を思ったのかは、当事者でなければ分からないだろう。

 

『つまりお前はノエルと同じ何の戦力にもならん紙切れ同然の存在というわけか……お前が戦場で立っている姿さえ想像するのに理解悩み苦しむが、職務でも仕事をサボり、戦闘では何の役にも立たんとなると…お前よく連邦生徒会に所属しているな。リンに今一度私を此処に所属続けさせて頂きありがとうなんて感謝の礼くらい言ったらどうだ?』

 

『むっか……超ムカつくんだけど…!!そりゃあこんな面倒な仕事、放り投げたいし、私が戦えないのは今に始まったことじゃないけど!!それはそれでいざカロン先生に言われるのは腹立つぅ〜……』

 

 ムスッとした顔を晒しながら、相変わらず口煩いカロンの辛辣な毒舌にモモカの顔色が変わる。

 流石は口達者なだけのことはあり、人をよく観察する大惡魔だからか、久方振りに大悪魔らしい台詞を発した気がする。

 

『まあ…特別調査に関しては時間があれば追々と……もし万が一のことがある。確実に調査を行うなら生徒の力を借りるべきだろうな』

 

『あれ?でもカロン先生も充分に戦えてたでしょ?SNSでも戦える先生ってチヤホヤされてたりィ、他にも頭が烏なのはなんで?って呟きにも…』

 

『私は鳥ではない!大悪魔だ!!……私とて元々戦闘向きの大悪魔ではないのだ。知恵を司ることを象徴とする私でも、傷が重なれば戦えなくなるし、下手すれば死ぬ危険性もある。万全を期した状態で行った方がリスクも減らせるからな』

 

『あれあれあれえぇぇ〜〜?じゃあカロン先生ってやっぱり弱いんだァ?じゃあ先生という大層な名前持ってておきながら戦えないんじゃ大したことないじゃんかァ』

 

『煽り返ししてるつもりか?40点だな』

 

 以前ノエルにも似たようなことを言われたことがあった。

 あの時のノエルも、モモカのようなクソ生意気なメスガキだったなと懐かしさが込み上げてくる。

 それにSNSを通じた認知の共有によって、力が漲る鼓動さえも感じる。

 だが決して驕るな、自惚れるな――あくまで五分五分による対等となったまでのこと。

 

『ちぇっ、カロン先生ってば大真面目だし口悪いしノリも悪いしでつまんないなぁ……もうちょっと馬鹿みたいに生きた方が面白いよ?』

 

『なんでバカみたいな生き方をして面白がれなきゃいけないんだ全く……』

 

 知恵を司る大悪魔に馬鹿みたいに生きれば良いだなんて言ったのは、モモカが初めてである。そして昔のねじ曲がった悪魔らしい思考を持ったカロンに対して失礼な言葉を言おうものなら、八つ裂きにされていただろう。

 軽く連邦生徒会の特別調査に当たるお話しはこんな風に幕を閉じたのであった。

 

 ――――――――――――――――――――――――

 

「と、カロンから聞かされた御話でしたわね……私としてはあの指名手配犯の方に衝撃的な印象が残っておりますけれど…」

 

 回転寿司をモチーフにした五人組。

 ヘイローを所有しておりながら、胡散臭い言葉を撒き散らしていたことは覚えている。

 やれ定時で帰るだの、資金源調達だの、FXMK誕生だの、意味不明な言葉を吐いていた気がする。

 特選隊によるネタとして扱われてるカイテンジャーも、箱入り娘のノエルからしたら理解不明で見たことのない変態という印象でしかない。

 然も戦隊モノでありながら、正義とは裏腹に金銭やら利益となるものを奪い、捨て台詞を吐きながら特定不可能な場所へと逃げているのだから、やってることは完全なるテロリストだ。

 自分たちもキヴォトス外部のラプラスに佇んでいた頃は全国指名手配犯のテロリストに認定されていたので否定ができない。

 

「いえ、ですが人様の金品を盗むのは流石に……」

 

 そもそも自分達と変態不審者達とでは立場も何もかもが違うので、比較しなくても良いのかもしれない。

 そんなこんなを考えながら、廊下を歩きシャーレのオフィスへと扉を開ける。

 

「あら、おはようカロン――朝イチで書類の整理と執筆作業だなんて感心ですわね」

 

「お前は相変わらず魔人だった頃と変わらない位に、大悪魔の肩書きを背負ってるのが不思議なほど昔と大差がないなお前は」

 

「今日という一日の初っ端から喧嘩ふっかけるのは辞めてくださいまし?」

 

 額に血管を浮ばせながら、不機嫌になるノエルを他所にカロンは書類の山となっている事務作業を終わらすと、コップに置いてあるコーヒーを嗜むように飲んでいく。

 

「…あら、珍しいですわね。カロンが珈琲を飲むだなんて……」

 

「人間の飯や水など私たちには必要ないが……どうせこうして終わりの見えない未来を生きていくんだ。私もお前や生徒達と同じように、飯や水だの嗜んでいこうと思ってな。お前と食べたティラミスも、チナツと一緒に飲んだ珈琲も、案外私の舌を喜ばせるのに相応しかったしな」

 

「あら、それは良いことじゃないですの。その調子でお酒だけのアルコール中毒者とはおさらばできれば良いですわね。ほら、酒は飲んでも呑まれるな…と言うでしょう?」

 

「人を酒癖の悪い飲兵衛みたいに言うな…人聞きの悪い。それに、お前も知ってはいるだろうが、復讐を続けていた頃なんざ食糧を調達できただけラッキーだったし、なんなら大悪魔が存在してるだけで大問題だったんだぞ……普通に人間が口にするものを物色する機会などあるわけないだろ……」

 

「それはまあ、確かに……そう考えると、自然と口に入れる必要がないからって考えになりますわよね…」

 

 となれば、人間の文化を嗜んで紅茶が好みだったシーザーはかなり優遇扱いされていたのだろうと安易に感じ取れる。

 スピカもOCTの立場に所属していた為、お菓子などにありつけることもできた。

 カロンも第二の人生を機に人間の文化に触れ、興味を持とうとしたのだろう。

 

「あら、カロン…どうしたんですの?その手紙…」

 

 珈琲を飲みながら、書類整理と事務を終えたカロンは一息がてら手紙を読んでいた。

 漆色に塗られた一通の手紙…封筒には白いヒビが入っており、何ともまあ不気味なモノか。

 

「……いや、何でもない。唯の悪戯だろう」

 

 カロンはさり気なく手紙を懐のポケットに、乱雑に仕舞い込む。カロンにしては珍しく、ノエルに目もくれずに言葉を濁すような言葉を返した。

 何となくだが、この時のカロンは何かを隠してる時に見せる素振りだ。況してや悪戯で手紙が来るというのも考え難いが…。

 

「何か隠してたりしてません?イタズラの手紙なら是非とも見せて下さいましっ」

 

「好きで見るようなものじゃないだろう。焼却炉にでもぶち込むさ。ゴミ漁りは感心しないな」

 

 むむむ…絶対怪しいですわ。と、ノエルは眉を顰める。

 この時のカロンは大体ノエルに言えない事があったり、何かを隠してたりする時だ。二人一組として一蓮托生してる身なのだから、こういう時くらいは打ち明けても良いのに…。

 もしカロンに何か身の危険があったりしたらこっちも危ういのだ。それだけの理由ではないにせよ、心配であるというのは紛れもない本当の気持ちでもある。

 だからと言って自分がどうカロンを助けれるかなんて、それこそ大石牢の攻略と奪還の為にフーゴ達の助力でもなければ不可能ではあるものの…。

 

「お待たせしました!先生!!」

 

 すると二人の会話を遮るように扉が開く。二人を呼ぶ大きな声がシャーレのオフィスに響き渡り、声主の方へ振り向けば、天真爛漫な笑顔で朝一の挨拶を発するユウカが来ていた。

 

「おはよう御座いますっ、ノエル先生にカロン先生!今日は宜しくお願いしますねっ!」

 

「あら、ユウカ…おはよう御座いますですわ」

 

「フン、良いタイミングで来てくれたなユウカ。早速仕事の件で取り掛かるか?今日はどう言った業務をこなしていこうか…」

 

 カロンが目を瞑りながら軽くため息を吐く。

 そこまでして見られたくないものなのだろうか?と、ノエルはカロンを一瞥するも、どの道これ以上詮索は難しいと判断したノエルは、渋々この件は諦めることにする。

 もし酒でも提供できれば情報でも吐けるのだろうが、カロンは自分でいつでも酒を購入して、休み時間に好きなように飲めるので、もうあの手は通用するかどうか分からないが、限りなくゼロに近いだろう。

 

「そうですね…ですがその前にノエル先生にちょっとしたプレゼントをしたくてですね…」

 

「へっ?」

 

「ごほん…」とユウカがわざとらしく咳き込みながら、ノエルの前に立つ。

 ――いざこうして口に出すと羞恥心が込み上げてくる。折角今日はシャーレの当番なのだ。先生の仕事を手伝う身とはいえ、ノエル先生は自分達と年端が変わらないにも関わらず、先生という重役な立場で私達を指導してくれている。

 その御礼と考えれば合点は行くのに、どうしてこうも緊張感が増すものなのか。

 理屈では理解していても、手渡そうとするのは…矢張りプレゼントを渡すのに慣れてないからかなのだろうか。

 

「ユウカが私にプレゼント…ッ?えっ!?私今日誕生日では御座いませんわよ!?それなのにユウカが私にプレゼント……?どうしましょう…凄く嬉しすぎて私、喜びが止まりませんわ…ッ!!」

 

「ほぉ、殊勝な心掛けだな。どうした?私が居ない間にノエルと親密な関係にでも至ったか?」

 

「へ、変なこと言わないで下さいカロン先生!!それに、ノエル先生の期待は凄く嬉しいのですが…その、なんだか逆に渡し辛いと言うか…いざ渡した時にガッカリされたらって思うと……」

 

「何言ってるんですの!私が此処へ訪れてからプレゼントなんて貰ったことないですし…それに、ユウカが私の為に想いを込めてプレゼントを贈ろうとしてくれたのでしょう?それをガッカリだなんてする訳ないじゃないですの。ほら、自信を持って。ね?」

 

「ま、まあ…確かにノエル先生はそういう人ではないことを知ってますけれど……いえ、そうですね。ちょっと緊張してたから、上手く気持ちが整理できてなかったのかも…っ」

 

 ノエル先生の言葉に、何とか心の緊張が解れていく。

 一呼吸置きながら、ユウカは手に持ってた縦長の黒バッグを手渡す。てっきりユウカのバッグかと思っていたが、どうやらこれ自体が贈り物らしい。

 

「先生、これ…開けて見てくださいっ」

 

 ユウカに促され、言われるがままバッグを開封すると…。

 

「…えっ、ユウカ……これは……」

 

「電子キーボードです。嗚呼、滞納用のバッグも込みのプレゼントですからね。持ち歩きも可能なのでいつでも好きなように演奏が可能なんですよ。ほら、ノエル先生ってキヴォトス外部にいた頃はピアニストって聞いてたから…それに、シャーレに来てから一週間が経ちましたし、私たちの先生として祝福をと思って…。私も、ティラミスのご馳走も兼ねてプレゼントしようと思ってましたから…」

 

 電子キーボード――見慣れた鍵盤に、新品とも呼べる代物。

 あの時、シャーレで他愛ない会話から、自分の為にプレゼントを贈ろうと購入してくれたのか?

 それも会計士でありながら、財政に厳しい彼女が、先生としての祝福として、私の為に…?

 

「ご、御免なさい先生ッ。流石にグランドピアノとかは余りにも高価過ぎるのは難しくて……ミレニアムのエンジニア開発部に頼んでも良かったんですけど、あの人達変な機能とか付けてノエル先生を困らせちゃったりするかなって……なので安物ですけど、これで満足して貰えたら嬉しいなって……」

 

「ユウカッ!!」

 

 ガバっ!!

 暖かな感触と、身体の温もりが、ノエル先生の匂いと髪が頬に触れる。

 えっ?――突然の行動に思わずユウカは硬直してしまう。

 そう、ユウカの身体に押し寄せられるのは、ノエルの身体そのものだ。

 

「ノッ…ノエル先生!?あ、あの……ッ!!」

 

「有難う…ッ、有難う……!!私の為を想って、買ってきてくれたのでしょう?こんな高価で素敵なプレゼント……私の為にユウカが自分で選んで買ってきてくれたのでしょう?すっっごく嬉しいですわ…っ。有難うユウカ、本当に素敵で最高なプレゼントですわッ…」

 

 もうピアノに触ることもできない。

 復讐を遂げた後、意識と共に身体が消えゆく刹那――涙と嗚咽を漏らしながら零した彼女の切ない想い。

 それがキヴォトスに転生してから偶然にも手足が戻り、そしてユウカが私の為に購入してくれた電子キーボード(ピアノ)

 こんなの、嬉しすぎて…涙がこぼれ落ちそうになってしまうではないか。

 そして抱きしめられてるユウカは完全に茹でたこのように顔を真っ赤に染め上げながら、引き剥がすことも抵抗もせず、表現不可能な衝撃的な高揚と感情の渦に、硬直して棒立ちになってしまう。

 頬と頬がくっついて、柔らかな柔肌が離れないようにぷにっと密着してるのもまた二人の可愛らしい姿なことか。

 

「ユウカっ、貴女に出逢えて本当に良かった……!私とカロンの、大切な生徒になってくれて有難うッ…。貴女と出逢えて、私は…本当に幸せよっ…!!」

 

「ッ……!!」

 

 それは、ユウカの心臓を跳ねるように、大きく脈を打つ。

 嬉しい気持ちばかりが優って、好意的な感情のパラメーターが吹っ切れそうになる。

 ただでさえ顔が真っ赤だというのに、これ以上真っ赤にされてしまえば、湯気が出て発熱を引き起こしてしまうかもしれない。

 真剣な眼差しで、照れ臭そうにしながらも真正面から、精々堂々と気持ちに応えてくれるノエル先生に、此方も何だか涙腺が緩んでしまう。

 それを何とか堪えながらも、そっぽを向いてしまうのは、嬉しすぎて素直に反応できないからだ。

 本当に、どうしてノエル先生はこんなにも嬉しいことを、恥ずかしいと思えてしまうようなことを真剣に言えるのだろう…。

 いや、本当は理解してる。

 

 これがノエル先生の強さなのだ。

 

 生徒の想いに傲慢であり、生徒の為に気持ちに応えようとする確固たるその姿勢には、先生としての彼女の生き様には、立派な誇りがあるのだから。

 下手すれば完全なる愛の告白シーンとも解釈されるだろう瞬間である。

 

「わ、分かりました…!分かりましたからノエル先生…ッ、その…そろそろ離さないと…逆に私が可笑しくなりそう……ですっ…!」

 

 弱々しく、何とか言葉を精一杯紡ぎ発するのにやっとなユウカは、静かに息を荒げ、心臓の高鳴りを無理やり抑えるのに必死な様子だ。

 ノエルはケロッとした表情で、全くもって無意識だ。

 恐らくユウカの贈り物が嬉しすぎて、こう言ったスキンシップさえも今は全く気にしてない様子なのだろう。

 更に言えばユウカは完全に百合の花園へ足を踏み入れかかってる瞬間なのだ。

 言われたままユウカの身体に抱きついてた腕を解き、電子キーボードを大事そうに抱きかかえる。

 その姿は幼い少女がくまのぬいぐるみを宝物のように抱きかかえるように、ノエルにとってユウカからの贈り物は、キヴォトス来訪して初めての、新たな人生の宝物であるのだから。

 

「ククク…とんでもないわらしべ長者だなこれは。これでピアノを購入する必要はなくなったな」

 

「ええ、それにユウカが自分で選んで、私の為に想って買ってくれたんですもの。一生大切にしますわよ……ジリアンと一緒に食べたアイスと同じように、想い出になる宝物は、誰かと一緒に過ごす大切なものは、数字で表せない価値が、想いが込められているから…。ユウカからの贈り物は、グランドピアノや他の高価なピアノより、比較にならない位立派な宝物ですわっ…」

 

 それを当の本人が聞こえる所で言ってるのだから、ユウカは今この場にいるだけで感情に振り回され、どうにかなってしまいそうな現状である。

 

「それに今の私は悪魔だから……清く美しい、魔を退けるピアノに触る資格なんてない。だから、大切な生徒から私の為に贈られたピアノの方が似合ってる…これで良い、寧ろこれが良い。

 新たな人生を歩み、復讐者から先生になる今の私にぴったりですわ」

 

 ラプラスで復讐を終え、新たな命と新たな人生と共に、キヴォトスで先生となる。

 そしてこれから起こりうる未来は、きっと過酷で困難も待ち受けてるだろう。

 それは想像しり得ない分岐点――だけど、今の私は一人じゃないから。

 最高の相棒がいて、私を慕ってくれる生徒がいるから、自信と誇りを持って先生として胸を張って生きていける。

 

「……そうだっ。私良いこと思い付きましたわ」

 

「どうしたノエル?」

 

「ユウカもちょっと時間、有ります?」

 

「ふぇ?あ…えぇ、今日は一日大丈夫、ですよ…?」

 

「ユウカ…その…顔が凄く赤い上に心臓押さえてますけど大丈夫…かしら?」

 

「大丈夫じゃないと言えば嘘になりますけど……原因はノエル先生、ですけどね……」

 

「えぇっ!?そ、そんな…!!」

 

「で?ノエル…一体何をするというのだ?」

 

「ええ…折角なので、今から時間の在る方達だけでも結構ですので……ユウカから貰ったこの電子キーボードでちょっと演奏を……」

 

 

 

 ───────────────────────────

 

 

 アロナに頼んで連絡先に登録してある生徒達に、モモトークで一斉送信を行ったノエルは、鍵盤のチェックをしながら心地よく電子キーボードの感触を嗜んでいる。

 嬉しい…嬉しいッ。まさか、最後の復讐で奏でたピアノが…こうしてキヴォトスに召喚されて、先生の始まりから触れるなんて。

 

「椅子は此方で宜しかったでしょうか?」

 

「嗚呼、後はこっちの椅子をだな……」

 

 ユウカとカロンは足りない椅子を別の部屋から持ってきては、それぞれ位置を整えたり、デスクをどかしたりと、演奏を奏でるピアノコンクールのような雰囲気を出す為に整理している。

 

「ノエル先生…本当にすっごく幸せそうな顔をしてる…あの人にとって、ピアノは本当にかけがえのない存在なんですね…」

 

「そうだな…私が酒をこよなく愛するように、ノエルにとってもピアノは必要不可欠な程に愛している…アイツにとっても人生でかけがえのない、希望とも呼べるものだ」

 

「う〜ん…カロン先生、お酒の話さえ出さなければ完璧なセリフでしたのに…台無し感が…」

 

 はぁ…と溜息を吐きながら、整理をしていると……。

 

「ノエル先生、お待たせしました。今日はどのような件でしょうか?ここら周辺部は特に治安の悪化はなかったので、安全ルートの確保はできておりますが…」

「失礼致しますカロン先生、それでお呼び出しとは…?」

 

 最初に来訪したのはスズミとチナツだ。

 どうやら二人共ピッタリの時刻で到着したらしい。ノエルの連絡先はトリニティ、カロンはゲヘナ――双方ならば登録してない連絡先も補えるというものだ。

 

「スズミ!いらっしゃって下さいましたのね…!」

「おお、丁度良かった。チナツ、仕事は大丈夫だったのか?」

 

「先生のお誘いですから。それに…この前は上手くエスケープも出来なかったですし…今回は散歩、という訳ではなさそうですね…?ユウカさんにチナツさん…他の自治区の方々…あの頃の再集結と言ったところでしょうか?」

「ええ、はい…今日は比較的に問題活動も少なく、仕事も早めに終われましたので……ヒナ委員長も呼び出したんですよね?」

 

「嗚呼、耳に入ってるのか…同じ風紀委員ならば不自然ではないが……一緒には来なかったのか?」

 

「ヒナ委員長はイオリのお手伝いをしに行ったみたいで、何でも設備破壊による問題行動を起こした生徒が居たらしく…SOSへ向かったとか…」

 

「………」

 

 例の自治区による治安改善及び問題行動制圧。

 思わずヒナの気苦労に気が遠のいてしまう。無茶をしていなければ良いのだが…。

 

 

「ノエル先生…!お呼び頂き有難う御座います…!あの、これ…もし良ければ…」

 

 スズミ、チナツの後に少し時間が経ってからシャーレに足を踏み入れたのはハスミだった。

 物腰が柔らかく、いつになく上機嫌な顔色が窺えるのは、ノエルとの友好が深まっていることが見解できる。

 

「いらっしゃいハスミ!あら、これこの前私と一緒に食べに行ったケーキ屋の…?こんなに沢山貰って良いんですの?!」

 

「多くの方が来訪されると仰っておりましたし…それに、ノエル先生にはお世話になってますから…御礼と感謝の念も込めてと想いまして…」

 

「私……特に何もしてないような…相談に乗ったことくらいで…それに、私この前ハスミにご馳走になられましたもの…本当に、良いんですの…?」

 

「良いんですよ、先生のお陰で気持ちが楽になったのは事実ですから…♪今日はお茶会…という訳ではなさそうですね?」

 

 ノエルとの会話以降、少しずつではあるけれど…心に余裕が持てるようになった。

 彼女と話し終えた後して数日が経過してから、正義実現委員会としての活動に誇りを持って学園生活を送ることができれば、後輩達への指導もいつもよりかは楽しいとさえ感じるようになってきた。

 当初はノエル先生と話せたことが嬉しかった…という解釈ではあったのだが…一番は偶に思い出す彼女の言葉だった。

 

『カッコいいと思える今の私を見なさい』

 

 その言葉がどうにも胸の内に留まり、響いて行く気がした。

 それがどう言う意味なのか…どれだけ大きな言葉なのか…理解をするのに時間が掛かった。

 

 そうか――私には憧れというものがなかったんだ。

 

 正義実現委員会という憧れの活動に所属して、今でも憧れの委員会に誇りを持っていることは、充分に嬉しいことではある。

 だがそれはあくまで所属する組織であって、ハスミの中にある憧れの…人物像が居なかった。

 

 特にトリニティ最強にして正義実現委員長のツルギと隣を歩み、誰よりも彼女のことを理解して、暴走を抑止している自分だからこそ、憧れとなる人物像が存在しなかった。

 マシロや他の後輩達が私に向ける眼差しに、彼女達を指導していく内に、ノエル先生の言葉を理解したのだ。

 

 あの人のような、カッコいいと思える先生を見たことで、私の中で初めて――ノエル先生という人物像に憧れを抱くようになった。

 

 人間誰しも自分の変化に気付かない方が多い。気付けただけでも大したことだろう。

 だからこそ、ノエル先生のあの時の言葉は――これから征く未来、後輩達を導く先輩である為にも、彼女の言葉は大きな意味を齎した。

 自分を憧れとする生徒達がいるように、自分もまた誰かを、憧れを見つけることが出来たのだから。

 

 それでも外見の苦悩は気にしてしまう所はあるけれど…昔の自分よりかは、何処となく胸を張れるような気がした。

 

 

「………此処が、例の…」

 

 次に訪れたのは、見たことのない美容をした生徒だった。

 浴衣姿に華奢な身体、獣耳を生やした物腰柔らかそうな生徒らしき者が、軽く一礼をする。

 

「……カロン先生、あんな生徒…いましたっけ?何処の自治区の…学生でしょうか?」

 

「ふむっ…私が呼んだ訳ではないしな…ノエルだろう。然し何処かで見覚えがあるような…気のせいか?」

 

 ユウカが軽く耳打ちするようにヒソヒソと小声で話す彼女に、相槌を打つように言葉を返すカロンも、誰だと言わんばかりの顔立ちである。

 

「あら!来てくださったのですわね!浴衣姿、とってもお似合いですわ…!本当、この時の貴女なら誰にも怪しまれないですし、いつになく輝いていて素敵ですわよ♪」

 

「うっふふ…ふふふ…♪ノエル様からのお呼び出し…なんという至福、それもノエル様自ら私を……嗚呼、これをどう言葉として表現すれば宜しいのでしょう…私、嬉しさの余り熱を浴びた感覚に陥ってしまいます故…この焦がれた想い…今すぐにでも解き放ちたい衝動が…ッ!嗚呼、いけませんわ…!そんなことをしでかしてしまえば、折角ノエル様ご厚意に承ったご招待が全て灰に……」

 

 狐板ワカモである。

 当然、アロナの一斉送信の際に後から追加メッセージで『今日は私服で!それと複数人いらっしゃるのと、シャーレのオフィスですので揉め事は禁止ですわ!』と送った。

 ワカモと連絡交換したのは、街中で散歩や買い物の道中、謎の射撃によって不良生徒や身近な人が撃たれたと言う奇妙な事件が起きたあの日のことだ。

 カタカタヘルメット団、日雇バイト、不良達、自分の身の回りの者達が射撃という被害を喰らう現状に不審を抱いたノエルが、いざ現場へ向かうと市街地で爆破が起きたのである。

 犯人はワカモ――爆破テロを起こした彼女がノエルの身の回りで射撃を引き起こしてた爆弾魔との再開を果たしたのである。

 本人にとってこの行動は破壊衝動による想いと、ノエルを発見したことにより身の安全(纏わりつく悪い虫の駆除)を考慮した行動らしいが、やってることは犯罪この上ない殺し屋がやる行動である。

 恋い焦がれながら、紅蓮に燃える焼かれた市街地を背景に、想い焦がれるワカモに、そんな彼女にノエルは真剣に怒った。

 本気で怒った。

 怒声を張り上げる訳でもなく、かといって暴走機関車のように暴力的な意味でもなく、ただただ言葉の重みと謎の圧力――それがワカモの暴走を止めるに等しく、次第にギャン泣きされてしまったのだ。

 何度も謝りながら泣き噦る彼女に、慣れてない場面に遭遇したノエルは気を紛らわせながら、モモトークの連絡先を交換することで何とか泣き止んで貰った。

 それ以降特に目立った行動をしてなかったのと、あの時以降三度目の再会もあってからか、精神的に落ち着いた様子でいる。

 そして全員とも狐のお面を被っていた頃のワカモしか知らない為、現段階で騒がれる様子はない。

 

(嗚呼…貴女様から素敵なご招待…!!このワカモ、なんて言葉を言い表せば良いのでしょう…ノエル様に二度も不埒な醜態を見せてしまったが故に、私も猛省しなくては……あの頃みたいになってしまってはもう……)

 

 一度は敵対者として、二度は災厄の狐として、ノエル先生にこれ以上失望させてしまっては、合わさる顔がない――だからこそ、今日だけはノエル先生の為にも、招待して下さった彼女の為にも…愛するノエル様の為にも、迷惑をかけてしまってはいけないのだ。

 

「失礼するわよ先生……呼び出しがあったから来てみたけど…仕事の手伝いかしら?」

 

 最後に来訪したのは、ゲヘナ学園の風紀委員長にして現ゲヘナ自治区最強の生徒――空崎ヒナ。

 初めて邂逅した時よりも顔色は良く、普段より余裕があるのが見解できる。

 

「忙しい中すまんな、正直お前は断るかと思っていたが……」

 

「今日は幸運なことに、比較的に業務も仕事も少なくて早く終わったわ。特に予定もないし、こうして先生のメッセージでシャーレに来訪したまで…」

 

 幸運、か――あの世で祝賀会を祈るように、コフィンが運命を作用しているのだろうか、なんて考えに浸ってしまう。

 

「あ、ヒナ委員長!お疲れ様です!」

 

「あら、チナツもお疲れ様。トリニティにミレニアムの生徒も集まってるのね……もう一人の生徒は、凄く何処か見覚えがあるのだけど…気のせいかしら?」

 

 ノエルの演奏に集まるように、呼び集めた皆がシャーレへと集う。

 中には不審がる者、シャーレ奪還作戦に赴いたメンバーに懐かしむ者、ヒナとカロンの視線に睨みたくなる衝動を抑えつける狐の者、呼び集めた生徒達が全員とも揃ったようだ。当然、アロナも一人の生徒なので、電源を入れた状態で、アロナにも聞こえるように、シャーレのデスクの上に置いておく。

 ノエルの演奏に集まるように、呼び集めた皆がシャーレへと集う。

 こうしてピアノコンクール仕様の雰囲気にシャーレのオフィスを整えたカロン達は、全員とも席に座っている。こうして見ると中々様になった気分だ。

 それにまさか、シャーレの先生として新たに生まれ変わった自分が、再びピアノに触れて、皆に演奏を聞いてもらえることが出来るなんて…本当に、今日は運が味方をしてくれている。

 

 

「皆様、本日はシャーレにお越し頂き、誠に感謝存じ上げますわ。お忙しい中、本当に有難う…」

 

「何だかこうしてみると、本当にピアノコンクールみたいね……上流階級のお嬢様だって言うのは聞いてたけど…結構様というか、行儀も礼節も弁えてるというか…」

 

「ノエル先生、ピアニストだったのね…」

 

 ユウカは知っている。

 ノエルが如何にしてピアノに対して人生を捧げたい程に、全てを懸けていたのかを。

 ヒナは知らない、ノエル・チェルクェッティがピアニストの名門家であると言うのは初耳である。尤も、音楽に対して全く興味がないので、無愛想な反応を示してしまうのは無理もないだろう。

 

 

「それとカロン、ちょっと良いかしら?貴方にはやって頂きたいことが御座いますの」

 

「ん?何だ…?ひょっとして審査でもやれというのか?それなら生憎だが、私は音楽性に対する評価基準というものを知らんぞ。お前のピアノの音色は素晴らしいというのは、この上なく実感しているが……」

 

「そうじゃありませんわ!はい、これ…」

 

「指示棒?お前、私に何をやらせるつもりだ?」

 

「何って……指揮者ですわ」

 

「………は?」

 

 素っ頓狂な声と共に、何処か遠くで烏の鳴き声が聞こえた気がした。特にノエルとの間では偶に聞こえるが、それは特に気にしないでおく。

 

「いやいやお前ッ、私が指揮者だなんて無理だぞ!?況してや知識の欠片もなければ音楽に携わる経験も……」

 

「流石にそれくらい承知の上ですわよ。でも構いませんわッ…あくまで形だけでも結構ですもの。奏者には指揮者だって必要ですのよ?まあ、ラプラスのピアノコンクールでは一人で演奏するものでしたが…今の私は貴方と一緒、一蓮托生する者同士――なら、私と貴方と一緒に、演奏をしましょう?これは私達の新たな第一歩。そして……ラプラスとの決別という意味も兼ねた儀式を、ね?」

 

 その言葉には、色々な意味が重なっているのだろう。

 新たな第二の人生――ラプラスからキヴォトスへ訪れた二人の大悪魔は、復讐者から先生へ。

 まだまだ慣れないことも、未熟な部分もあるけれど…それでも今を噛み締めて、今いる生徒達のために全力を以って、両手足を使って生きていく。

 だからこそ未練であるラプラスを決別し、仲間達とのお別れと、復讐者という肩書きを払拭するための、演奏を奏でる。

 決して仲間達を断ち切るとか、忘れる訳ではない。

 寧ろ仲間達に会えない事が、何よりも苦しいことは絶対なのだ。

 だが、その気持ちをいつまでも引きずってはダメなのだと、大悪魔である以上、これからの未来で先生として生きる以上…心の中にある迷いと霧掛かったモヤを晴らすために、全ての想いを込めた演奏をキヴォトスの…シャーレで奏でる。

 

「だからこの演奏は、私たちが前に進むために必要な、第一歩ですもの。足並みは揃えてもらいましょうか、カロン――」

 

 まさか、こんな時にでもアクエリアス社で放った言葉の意趣返しが来るとは…。本当に、初めて出会った頃から今に至るまで、見違えるほどに成長したものだ。

 

「……下手でも笑うなよ」

 

「あら、電子器具に疎い貴方が今更気にする必要ないですわよ」

 

「フン…こいつ…」

 

 ポッ…と頬を赤く染めるカロンは、そっぽ向いてしまう。そんな二人の尊い空間に何故かピキりと反応してしまうワカモは、黒いオーラを何とか鎮めながら目を瞑る。

 

「それでは…改めて、ごほん……今期、連邦生徒会長の代わりを、シャーレの先生として務める私、『被虐の大悪魔――ノエル・チェルクェッティ』、新たな始めの一歩として、この一週間素敵な出会いをした生徒達に向けて、奏でますわ」

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

『嗚呼…それならもう一つ、私も言わなければならないことが御座いますの――』

 

『なんだ?』

 

『…………』

 

 ヒナと出会う前の日の、先生としての方針を照らし合わせていたあの夜――ノエルはカロンにこう告げた。

 

『私の、大悪魔としての名を――』

 

 ほォ…と、カロンは目を大きく見開いた。

 嘗て大悪魔カロンと復讐の契約を果たした彼女の名は『被虐のノエル』――今は魔人ではなく、大悪魔なのだ。

 戦力としては底辺で、生まれ変わったが故に堕天の鎖もモータルリンカーも使役できない彼女は、完全なる後方指揮者だ。

 

『お前も様式美だな……』

 

『大悪魔である以上、そう言うモノなのでしょう?』

 

『フン…そうだな。私は慧眼から再び赤眼として戻ってしまったが…さて、未熟さと誕生したばかりの、多くの大悪魔は赤眼を名乗るモノだが…少なくとも今のお前は……赤眼、というよりも…』

 

『被虐の大悪魔――というのは、どうでしょう?』

 

 それは余りにも単純で、魔人名から大悪魔の名前へと引き継がれた名を冠していた。

 

『……意図を聞こうか。その魔人名は、お前が契約を交え、手足と目を手放し、死地へと赴いてでも、破滅を覚悟してでも復讐を果たす名として、立派な魔女の名前が込められた…』

 

『ええ、ですが…この被虐の大悪魔――この意味は違いますのよ……私なりに、色々考えたの』

 

 今の私は、復讐する相手ではなく先生として終わりの見えない未来を生きること。当然、今の生徒達と同じ時を歩むことはできないけれど…。

 でも、この被虐の大悪魔というのは…ラプラスからキヴォトスへと引き継がれた『被虐』の本質と、人間から魔人へ、大悪魔へと受け継がれし生業。

 そして…───

 

『カロン…貴方は先程こう言いましたわね。私達の先生として、連邦生徒会長と契約を交えたと。今の私は座学として生徒達に知識を授けることも、生徒達と対等に戦えるような戦力もない…けれど、先生である私に可能なこと…それは、責任を負うことですわ』

 

 カロンは以前、ノエルにこう言った。

 私は私の為すべきことを、ノエルはノエルの成すべきことを為す。それが大悪魔と契約者の紡がれた鎖――対等な立場であることの証明だと。

 

『連邦生徒会長は、超人であるが為に、それ故に彼女は一人で凡ゆる願いを叶えてきたとも呼べますわ。同時に…頂点に立つ者は、責任を負う――そんな彼女が失踪して、私たちは生徒達を導く立場…なら、あの子達や、まだ見ぬ生徒達の責任も、罪も、想いも…全てこの身で受けて、生徒達に最善の気持ちで応えますわ。傷つくことも、ぶつかることも、衝突しあうことを恐れず、真っ直ぐ自分の道を征く――生徒達に寄り添う、被虐の大悪魔ですわ』

 

 夢に見た連邦生徒会長はこう言った。

 この先、辛い事が沢山ある。

 カロンの言葉通り、生徒達に破滅が刺さってしまうかもしれない…そんな彼女達を、生徒達を守る為、自分の為、大悪魔の矜持として、大悪魔の名として……被虐(責任)を負う。

 

『……フッ、それは正にお前にしか成し得ない大悪魔の名だな…ワカモの件でもお前は、臆することなく立ち向かったのだから説得力がある……――気に入ったぞ、被虐の大悪魔(ノエル・チェルクェッティ)

 

 

 ――――――――――――――――――――――――

 

 

 こうして、改めて大悪魔の名を冠して公表すると言うのは、皆に囲まれて見ているのも相まって、些か恥ずかしい気もしなくはないけれど…けど、これは私が決めた道だから。

 私は、生徒達と一緒に自分の道を征きますわ――

 

 

 ノエルはドレスコートの裾を軽く握り、優雅にお辞儀をする。キーボードに触れる前に、改めて周りを見渡す。

 左にはヒナ、チナツ、ワカモ。

 右にはユウカ、ハスミ、スズミ。

 

 そして真正面にはシャーレのホワイトボード前に置かれていた指示棒を手に、まるで指揮者を演じろと言わんばかりの無茶っぷりの役を演じられてるカロン。ぎこちなさそうな顔色に、思わず頬が緩んでしまう。

 だが素人でも形だけで良い…今から奏でるのは、ラプラスとの決別と、新たにキヴォトスで先生として足を踏み入れる第一歩…その儀式とも呼べる始発点なのだから。

 

 軽く一瞥を終えると、ノエルは懐かしくも手慣れたように、ピアノに触れる。

 鮮やかな手つき、そして清く美しく傲慢に、演奏を弾いていく。

 

 

 ―― 嗚呼、今なら…最高の演奏ができますわ…。

 

 

 東風――それは正に、この瞬間こそが最高の演奏である題材だろう。

 ピアノに触れた瞬間、演奏を弾いてはシャーレ室内に音色が流れていく。

 そしてそれはやがて、シャーレからキヴォトス全域へと流れていくかのように、東の風の流れに乗って音楽が届いていく。

 

 傲慢にも美しい演奏は、心を魅了させ、聴いてる者達に想いを届ける。

 そう、それは自分たちがラプラスで過ごした全てを、回想せし記憶と、経験と選択から生まれた想いと、数々の出逢いを、全てをピアノに乗せて――

 

 

 曲を奏でると共に、頭の中に鮮明に流れ込んでいく。

 まるでシーザーの時の審判のように、バックグラウンドでも映し出すかのように、記憶に残ったラプラスの想いが回想する。

 

 

 一ノ時節が巡りし時――『臨終の復讐者』

 

 

『お前の復讐に関係する戦いなら、私は悪魔のプライドに賭けて契約を全うする。それが私たちを紡ぐ…悪魔の契約という鎖――』

 

『さあノエルゥ…!お友達を返して欲しければ俺と戦え…!お前が出来ないならその悪魔をけしかけて、俺を倒してみろ!!それすらできないなら、お前も人質もここで消し炭になるだけだ!』

 

『迷惑をかけるだけ掛けて、自分は黙って退場するつもりか?お前はそうやってまた一つ…――自分勝手を重ねるか?』

 

『…いえ、簡単に諦めてはダメ!絶対にどうにかしてみせる!!私はもう…黙って退場なんかしない……あんな奴を相手に、泣き寝入りなんてしない…!!』

 

『――喰らいやがれですわ!!』

 

『――ただの、魔女ですわ』

 

『自らの死すら覚悟して死地に赴く、その捨て身な生き様……その名も――被虐のノエル』

 

 

 二ノ時節が巡りし時――『盲目な忠誠』

 

 

『…大悪魔カロン――海の底で自分のした事を悔やみなさい…!』

 

『じりじりと這い上がってくる…ノエル様――そのゴキブリのような生命力にだけは私も感嘆しております』

 

『そう…貴女にも復讐しないといけませんの……』

 

『あの日から私は"お前の復讐に付き合わされている"などと思ったことはない』

 

『私が殺らなきゃ復讐になりませんもの――』

 

『そして私に謝って無様に死になさい…!!』

 

『殺したら…もう、戻れなくなる』

 

『それが今の貴方の、悪魔の契約ですか……変わりましたねカロン様――私は昔の貴方こそ、そうあって欲しかった…!』

 

『後悔なんてありませんよ…契約は市長の為でもあり、私の為でもあったのですから……』

 

 

 三ノ時節が巡りし時――『埋葬された過去』

 

 

『市長としての人生の破滅――即ちお前は破滅する為に死に物狂いで戦うのだ!お前の言葉が真実ならそれでも良いのだろう?』

 

『オレを縛っていた全てが崩れ落ち、やっとラッセル・バロウズの人生が始まるんだ…!!』

 

『自らの力でラプラスの頂点に立ちたい――そう願ったお前が今や悪魔の契約に頼みきりとは……落ちぶれたな、ラッセル』

 

『――さらばだラッセル。お前とラプラスを奔走した日々も、悪くはなかったぞ…』

 

『あーもうっ!肝心な時にいませんのね!格上の悪魔の一人や二人、自分で何とかできないんですの!?あの契約を交わした以上、私が死んだら貴方の美学も道連れですわよ!さぁ、大悪魔カロン――私を助けなさい!』

 

『これまでの私を打ち砕くことだ!!』

 

『ダメだよノエル――それ以上自分を捨てては駄目』

 

『どうか迷わないでノエル、復讐なんてする必要ないよ。ボクがいる限り――これ以上ノエルだけに、辛い思いはさせないから…!!』

 

 

 四ノ時節が巡りし時――『落ちていく高揚』

 

 

斬り裂き魔(リッパー)――またの名を魔人斬り…貴様らを倒す正義の魔人名だ』

 

『ノエル・チェルクェッティ……貴様は復讐を掲げる魔人だと聞いた。ならばその復讐に、復讐の為に全てを捨てる覚悟があるか?』

 

『あの子が立ちはだかって…リッパーに問われて気付いたんですの…っ。私が本当にしなきゃいけないことは、あの子と向き合うこと――私はジリアンと戦えない…!!』

 

『復讐は貫く――そのうえでそれ以外の全てを捨てずに向き合う。私は自分の信念も大切な人も、全てを見据えて復讐を貫く!!これが私の答えですわ!!』

 

『クソが…クソが…ッ!!ノエル……チェルクェッティイイィィイィーーーーッッッ!!!』

 

『…友すら立ちはたがる――それなのに、それを払い除けてまで復讐を貫こうとする…それどころか払い除けた上で向き合うだと…?何故そのような選択肢が…』

 

『破滅を覚悟してでも復讐者になることを選んだ――被虐の魔女だからかしら』

 

『ジリアンちゃんに免じて今は見逃してあげる…♡だから…――アタシに女の顔を殴らせないでね』

 

 

 五ノ時節が巡りし時――『炎中の反撃』

 

 

『私の復讐に力を貸しなさいボマー!損はさせませんわ、やるからには必ずやり遂げる!!』

 

『俺の力を借りたいなら口先だけじゃねぇことを証明してみせろ。口だけじゃ何とでも言えるんだよ……口だけのやつは、ウンザリだからな……』

 

『いい加減にしやがれですわ――!!』

 

『ねェ、ノエルちゃん。アタシちゃんと最後通告したわよね?これ以上権力に逆らうのは辞めなさいって…。それなのにな〜んでこんな所にいるのかしら?』

 

『分かっていて一太刀を望むのであれば、慈悲は要らぬな…』

 

『どうか怖がらないで――これもまた自分の復讐の道に想いを込める…立派なノエル・チェルクェッティですのよ』

 

『ええ、此処から私達の反撃開始ですわ――!!』

 

 

 六ノ時節が巡りし時――『大いなる賭け』

 

 

『あたしは銃じゃなく、このテーブルとカードであんたを殺してみせよう』

 

『この部屋に人間はいない。名乗るとすれば…運命の魔女、ってとこかね――』

 

『今、下でノエルが大勝負してる。アイツが勝つまでこの場を投げる訳にはいかねえ…』

 

『でも…僕たちがやられたら、フーゴやノエルに迷惑がかかるよね……』

 

『そうだ、ここは勝つんじゃなくて死守するんだ!ノエルが勝って、このカジノを破産するまではな!』

 

『サポートに回れたのがカロン一人だけというのが心苦しいが…後は、彼女が勝つのを待つだけさ』

 

『俺たちを導いてくれた被虐の魔女の為にも…!』

 

『背中を守ってくれる仲間がいる……共に戦う仲間が、今はこんなにいる…。まずはそれを意識してみますわ…!!』

 

『バスト――あたしの負けだ。おめでとう、ミスティの所有権はアンタのものだ』

 

『…マダム……ッ!アタシもあんたも…同じように誰も信じずに戦ってきた…――それなのにどうして……アタシだけが地べたに這いつくばってるのよ……!!』

 

『いや、違う…まだ分からないのかい?逃げ道ばかり気にしてる内は、あたしには勝てないよ――』

 

 

 七ノ時節が巡りし時――『偏執の終わり』

 

 

『復讐者になるって、こういうことなんだよノエル!!こんな好き勝手されても、何も言えない立場なんて…余りにも悔しいよ…!』

 

『それにさ…――やっぱり辛いもん、ノエルの敵って…ボク、応援したいよ……』

 

『やめてよシーザー……もう、ボクの意思を込めた戦いは終わりだって、言ったのに……酷いよ…もうボクじゃコントロールできないの…?』

 

『何も聞こえない…何も見えない、感じない…怖いよ……このまま意思一つ貫けないで死ぬのかな……ノエルに強引なことばっかしてきたし…バチが当たったのかな……ボクなんてやっぱり、いないほうが良かったのかな……?』

 

『ボクの我儘にノエルを巻き込んで死なせるようなことがあったら…例え、死んでも死にきれないんじゃ……』

 

『私のことを想って……ピアノにだってこめられなかった想いを、込めてくれたんでしょう?だったら、それを見捨てたりなんてしませんわ…今日の貴女は輝いていて、カッコよかったですわよ――』

 

『答えは得た――もはや私がラッセル・バロウズなどを守る意味はない』

 

『悪魔が最も恐れるべきことは死ではない、誇りを失うことだ』

 

『ジリアンは日常に帰り、私という大悪魔は消える。ノエル・チェルクェッティの復讐を止めることではなく、応援することがジリアンの真の願いとなった今――それで、全てが通る』

 

『契約のルールなどに翻弄されず、常に契約者の願いに傲慢であれ』

 

 

 八ノ時節が巡りし時――『赤眼の覚醒』

 

 

『意思なんて言葉には、何も詰まってねーよ!!好き勝手ほざいてんのはお前の方だろうが!分ッかんねェのかよ!!』

 

『絶対的な高みから、契約者を弄んでこそ、誇り高き大悪魔よ――』

 

『お主は、ラッセル・バロウズを滅ぼさなければならん。過去の契約のため、そして今の契約のため――嗚呼、此処には未熟者しかおらん、つまらんのぅ』

 

『理不尽な運命に巻き込まれて!魔人になって戦いに放り込まれた…!そんな奴が意思なんてもんに酔って、軍隊まで敵に回す気か!?お前とは戦いたくねーんだよ!!』

 

『受け取ったぞ…改めて、お前が選んだ願いを。ならば、大悪魔カロンは全うしよう…新たな、第二の契約を――』

 

『ノエルの復讐は必ず、成る。私がノエルの意思を、そのまま力に変える』

 

 

 九ノ時節が巡りし時――『名前を焼き尽くす』

 

 

『誰かを踏み台にすることは俺が気に食わねえ!俺が気に食わねえから、勝手にお前を連れていくぞ!!』

 

『動け…!動けるだろ…!!何の為の魔人だよ…!!』

 

『間に合ったみたいですわね――』

 

『さあ、どうやって俺を倒す?もっとお前が信じた力をぶつけてみたらどうだ!!』

 

『"目の前の敵駒だけじゃなく、もっと盤面全体を見渡せ。"……なんだろ?』

 

『私はその熱量こそが人に火を灯し……大きく、どうにもならない理不尽を覆す力になると信じているよ』

 

『勝手にイチ抜けしようとすんじゃねえよ。お前もちゃんと最後までついてこい、スラッグ――』

 

 

 十ノ時節が巡りし時――『深淵の秘密』

 

 

『――いつから仲間を履き違えるようになった?』

 

『ミスティでアンタに負けて、思い出しちまったんだ。何にも縛られず、風に吹くまま世界を駆ける楽しさを――だからあたしは、ミスティを捨てた。嘗て決定付けられた、自分の運命に逆らった』

 

『ノエル…アンタの復讐だって同じだろ。その戦いはアンタのエゴだ。これまで一度でも、自分の復讐が正義であるなどと主張してしたか?自分の無力さを盾に協力を求めたことがあるか?その復讐を認めてほしいと人の顔色を窺ったことがあるか?』

 

『勝負とは常に、己と向き合う孤独なもの――』

 

『自分の一手は、自分にしか打てない』

 

『マダムに理解を求めた…。お互い得るものがあるから、私の復讐に加わってくれと…。私の代わりにバロウズ市長を陥れてくれと…!でも、それじゃダメなんだ。私の復讐は、私にしかできない…!!』

 

『行きなノエル。あのカードはもうアンタのもんだ…まっすぐ自分の道を征け――』

 

『そんなに急かさなくても、自分の棺にゃ自分で入る。とっておきのベットはダークホースに一点賭けだ――ざまあみな』

 

『…ノエルちゃん。アンタいつまで勝手にメソメソしてんのよ……。腹が立つったらありゃしないわ…。マダムは死を覚悟してでも、自分の戦いにケリをつけることを選んだ。アンタだってわかってんでしょうが…』

 

『さぁ…アンタは自分の為に、アタシと取引する度胸があるかしら?ノエル・チェルクェッティ……!!』

 

 

 十一ノ時節が巡りし時――『生きる屍の反逆』

 

 

『お母さんが死んじゃったのはお薬が足りなかったからでしょ!?悪いことは全部お星様になすりつけても何の解決にもならないじゃない!!』

 

『カーラは毎日、頑張って薬草をつんだよ!でも大人のみんなは会合、会合って、そればっかり!』

 

『家族も、大人も、誰も助けてくれぬまま大鎌で首を落とされたのじゃ』

 

『仲間にちやほやされて、悪魔がなんでも願いを叶えてくれて……!!失うモンのないガキは言いたい放題で羨ましいな!!』

 

『――失えるものは全部、置いてきましたわよ。これまでの人生も、目も、腕も、足も…』

 

『俺は、Living Deadじゃない。不屈の魔人――リベリオ・ストラーダ!やろうぜ、スピカ!テメェが"おねむ"になるまで相手してやるよ!!』

 

『俺がボロ雑巾になるか、お前が全部吐き出し尽くすかの我慢比べ。それを先に始めたのはお前だぜスピカ!だったら昔のこと気にしてよそ見してんじゃねーよ!!』

 

『へっ……もう終わりか?こっちは不死身だ、限界はないぜ…。テメーの駄々が収まるまで…――幾らでも相手してやるよ』

 

 

 十二ノ時節が巡りし時――『幻影(過去)の改訂』

 

 

『俺はアイツの影にビクビクしながら逃げるように生きるのなんてゴメンだぜ』

 

『アタシ達だって、理不尽ばかりなこの街にケンカ売ってやるって、自分で決めてんだ』

 

『俺の正義が立ち向かうべきなのはバロウズ市長だ――お前達に負けたあの日、お前達が気付かせてくれたことだ』

 

『僕がここで立っていられるのも、ノエルのお陰なんだよ。本当に有難う……!!』

 

『マダムの船もそうさ…モータル・リンカーなしでは、バロウズ市長に対抗できなかった』

 

『この場にいる者全員が、それぞれの理由でラプラスと戦おうとしている。その意思には優劣も上下もない』

 

『私はピアノを失って…これまでの人生も、これからの夢も、全て失いましたわ。私には何もなくなって、自棄になって…でも、そんなどん底でも同じ志を持つ仲間に恵まれて…――一人では挫けてしまうような場面も、乗り越えることができた』

 

『苦しいはずの日々の中で、笑ったり、前を向いたりすることができましたわ』

 

『この復讐は…この戦いは、私の新しい夢そのものだから――』

 

『ラッセルよ…お前は神になどなれはしない』

 

『お前の破滅はとっくに用意してある。私達は、お前の先を歩む為に戦ってきたのだから――ノエル(コイツ)がお前を破滅させるんだよ』

 

『ラプラスの長として宣言しよう!この戦いは俺の…』

『大悪魔として宣言しよう。この戦いは私達の…』

 

『『――勝ちだ!!』』

 

 

 終焉ノ時節が巡りし時――『復讐の終わり』

 

 

『黙って聞いてりゃどいつもこいつもスカスカだな。お前ら程度のヤツら、ノエルが態々手を汚すまでもない――ノエルは、アイツらよりずっと先を歩いてるんだから』

 

『人が生きた証は、そんな簡単に消えないんだ!!』

 

『有難うジリアン…貴女はもう、私なんかよりずっとずっと立派な人間ですわ。貴女と出逢えて、本当に良かった…!』

 

『俺が市議になった頃から何も変わっちゃいない…。その愚かさが、お前達の作戦を狂わせ…――こうして俺を神にする!!』

 

『カロンと、貴方に復讐すると決めた日から……私達はずっと強くなったんですもの!!』

 

『貴方には一生分からないでしょうね!!』

 

『俺は……!!オレは凡ゆるものから解き放たれた、この街の神だぞ…!!』

 

『知りませんわよそんなの――私にとって貴方は…クソ野郎ですわ!!』

 

『――結構楽しんですのよ、願いを叶える為に汗をかくのって…!!』

 

 

 そして…キヴォトスに訪れてから…今の私達。新たな世界、始まりの意味。

 零ノ時節が演奏と共に今を刻む――『 devil of the beginning(始まりの大悪魔)

 

 

『連邦生徒会長は何をしているの!?どうして何週間も姿を現してないの…?!今すぐ会わせて!!』

 

『もし、私がキヴォトスの生徒だったとして…抱え込み悩む問題があったとしても…生徒会長ばかりに頼らない――私は、願わない』

 

『な?言った通りだろう?コイツはとっくの昔から覚悟が決まっていたのさ――これが、外の世界で復讐を果たした…被虐の魔女だよ』

 

『だとしても…私に聞く義務も答える義務も御座いません…。現にこうして貴女を撃ち抜くことも容易いという現状を理解しておられます?』

 

『だからなに?撃ちたければ撃てば良いではありませんか――貴女の武器は、脅し道具の飾りではないのでしょう?』

 

『迷惑じゃないですよ!!だって、こんなにも人のことを想える先生が、私達の事を考えて言ってくれたんでしょう?そこに事情なんて関係ないですよ!!そんな先生を生意気だなんて言わない!!』

 

『もし、周りの言葉に我慢できなかったら……私を思い出しなさい。その為なら、私は――ノエル・チェルクェッティは幾らでも傲慢にだって成れますわ。その時だけ、カッコいいと思える今の私を見なさい』

 

『被虐の大悪魔――というのはどうでしょう?』

 

 

 

 

 指が鍵盤を弾く度に、傲慢で美しい音が流れ吹く度に、観客の生徒達一人一人は、ノエルとカロンの演奏に釘付けになる。

 脳内に響き渡り、耳の中にいつまでも残り続ける音は、高揚を与え、心を落ち着かせていく。

 あの音楽に対して微塵の興味も示さなかったヒナでさえも、熱中しているのだから。

 皆が言葉を失うほどに人を魅了する音楽。天才ピアニストの演奏は、大悪魔に生まれ変わったとしても、ノエルの演奏は衰えることなく人々の心に影響を与えていく。

 あれだけポンコツそうで、偶に頼りなさそうな面影をちらつかせていた彼女が、生徒達と向き合うノエルの今の姿は、正に傲慢たるや大悪魔に引けを取らない、誇りある輝いた姿だった。

 

 友人になる前から、ノエルの演奏に憧れた一人の少女がいたように、彼女の一つ一つ奏でて行く仕草は、優しくも、力強く、時に滑らかに静かに……音楽を奏でる彼女のピアノは、とびっきりに輝いていた。

 

 そして終止符――ピアノが弾き終われば、静寂な空気が辺りを漂い支配する。

 弾き終われば、髪を揺らしてスッ…と立ち上がる。再びドレスコートの裾を軽く摘み、礼節たる優雅なお辞儀を終えてから、カロンも指揮棒を止めた。

 

「ふぅ……お越し頂いた皆様、ご清聴有難う御座います…ですわ」

 

 その言葉を告げた後、観客とも呼べる生徒達一人一人の拍手の音が、鳴り響く。

 

 さようなら――ラプラス

 フーゴ、パイソン、トード、スラッグ、オスカー、ジリアン……貴方達もどうか、元気でね。

 

 そして…ユウカ、チナツ、ハスミ、スズミ、ワカモ、ヒナ……これからも、どうか何卒――宜しくお願い致しますわ。

 

 

 

 被虐と赤眼の大悪魔

 season0―― devil of the beginning

 

 トラソティス

 

 

 To—Be—Continue

 

 

 






東風。これは被虐のノエル最終章で流れた曲ですね。
何故東風を選んだのかというと、これはラプラスとの決別を意味しており、復讐を終えた証とも呼べます。
春は新しいことが始まるシーズン、ラプラスで復讐を終えた二人は、キヴォトスという新しい世界に訪れ、復讐者から教導者になったという表現になっております。
ノエル達はOCT編で冬を過ごし、復讐を終えてからキヴォトスにやってきて、春から夏に向かって生徒達と共に道を歩んでいく。
だからこそ、東風を選んだのです。

バロウズは反面教師。
破滅、バッドエンドのお手本、この大人はやばいを象徴とした彼もまた経験値として、ノエルとカロンがこれから歩む道のりと成っていく。
何せもう向こうの世界ではバロウズは射殺されて死亡という扱いになっておりますからね。そして此処では彼が死んでることすら知らない二人組。
でも考えてみてください、バロウズがいたお陰でカロンもまた根本的には変われたわけです。
ノエルの人殺しを止めたり、親友など切り捨てろなんて言い出したりもしませんでした。
カロンが一番大きく変われた要因はノエルではありますが、根本的な根元で言えばラッセルが最初だと思います。

それとseasonのタイトルにある翻訳は、人それぞれということで自分はこう言った解釈をしてますよという事で意味表示しております。

同時にですが、今のノエルとカロン…何処かの総力戦ボスに似てませんかね?

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