被虐と赤眼の教導者   作:トラソティス

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#柴関ラーメン#ストーカロン#ぶっ殺すわよ!?#大将#スープスパゲッティ#混乱ホシノ#ブフ…?#愉快な六人団体#ボケたら止まらない


story5『セリカの愉快な日常』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝。

 ゴーストタウンと化している砂に埋もれた街を、大鴉の頭を模した大悪魔カロンは悠々と歩きながら改めて観察していく。

 昨夜カロンはアビドス学校に残り、一人で深夜徘徊がてら学校の敷地内を散策していたのだ。

 契約が終わった時点で寝泊まりなど元々するつもりもなかったのだが、支援物資から借金返済という契約の内容になった以上、現時点ではシャーレに戻るよりアビドス自治区に滞在し、情報収集と共にアビドスの地理や歴史、生徒、借金について触れていく必要があるとカロンは判断した。

 何よりシャーレとアビドスでは距離が大きい。

 往復するより此処にいた方が効率的だと判断したからだ。

 

「……砂嵐が多発したことにより、住みにくい自治区がゴーストタウンと化したという話は、現実でもよくある話だ。疫病、大雨、暴風、地震……自然災害とは人智を越え、古来より人はそれを神と称した」

 

 砂漠や乾燥地帯の国との干渉が少ないカロンは、親指を顎に当てながら考察を捗らせていく。

 砂嵐が起こる原因は明かされている。

 土壌や天候、風に温度、砂塵層――それらの要素が合わさって砂嵐が発生する原因となる。

 アビドス自治区がかの有名な国と似ているのであれば、間違い無いだろう。

 然しどうにも、自然災害がこうも容易く連発して起こるものなのだろうか?

 科学やら研究やらでは決して解明されない現象も存在するのではないかと、カロンはこの世界へ訪れてから明確とは言い切れない純粋な感情論と疑問を抱き始めた。

 

 この世界は神秘で溢れた箱庭――キヴォトス。

 数千もの学園が存在し、モモカが話してたスランピアや軍事の廃墟。

 ヘイローに多種多様な種族、ロボットや獣人の市民に生徒と呼ばれる子供に、「親」と言った大人が存在しない。

 そして連邦生徒会長が遺したと言われるシッテムの箱――ここへ訪れてから凡ゆる常識は簡単に悉く打ち砕かれ、覆され、神秘という超常と理解不可能な概念によって、世界は、日常は回っている。

 

 ならば、この砂嵐も本当に科学や自然現象で済まされて良いものなのか?

 そう言った疑問が湧いてくる。

 明確なる悪意がいるかもしれない、そうじゃないかもしれない。

 だがどうにも、この砂嵐といい悪徳金融会社と言い…妙にきな臭いのだ。

 

「ふむ……ノノミからは郊外エリアでは普通に市民が暮らしてるとは聞いたが…折角だ。今日はそっちに足を運んで様子でも…いや、また遭難してしまう危険性もある。ここは地理に詳しいシロコや他の二人をアテにするか?」

 

 然しシロコはノエルと一緒に付き添いで居てもらっている。

 昨日は契約の条件――アビドス対策委員会の顧問として、セリカを除いた四人と話し合った後は解散という形になった。

 当然寝泊まりする気もなかったノエルとカロンにとっては屋根のある部屋は必要不可欠だ。

 郊外エリアでも宿泊ホテルもあるかもしれないが、アビドスの地は未開な上にシロコが来るまで遭難して騒いでいた程だ。

 結果として探せる訳がないし、かといって生徒に宿泊ホテルを探して欲しいなんて無茶を通せる訳もなく。

 アロナにもナビマップという最先端な技術もGPS機能も付いてるはずもなく、手紙で読んでいた際も噂に聞いた情報を話していただけで、分からずといった反応だった。

 カロンは、自分もノエルも「学校で寝泊まりするから気にするな」とは言ったのだが…

 

『嫌ですわ!夜の学校で寝るなんて…怖いじゃないですの!!』

 

『大悪魔のお前が阿呆なことを抜かすな!!郊外エリアなら宿泊先もあるかもしれんが、かと言って態々向かう必要もないだろう効率が悪いッ。そもそも廃製鉄所やスラム街でも問題なかっただろうがッ』

 

 

 アレだけ正論を言ってたノエルが、突如バカな発言をした時は悩まされた。

 ホシノは『うへぇ、ノエル先生は若くて乙女だねぇ』と言い、ノノミからは『わあ、ノエルちゃん先生は怖いの苦手なんですね〜⭐︎』と可愛がるように、アヤネからは『あはは…それはそうですよね』と苦笑を浮かべて…

 

『ん、じゃあノエル先生は私の家で寝泊まりするべき』

 

 と、シロコは選挙でもするかのように提案を促した。

 そんなノエルに懐いた犬のような彼女に、ホシノは『若い子達はお盛んだね〜?』と我関せずと言わんばかりに第三者の発言をしており、他一同は驚いていた。

 

『シロコ先輩!?幾ら何でもそんな…あ、いやでも、ノエル先生とは同性ですけれども…』

 

『い、良いんですのッ?そんなこと…?』

 

『なんでお前は学校で寝るのが嫌だと言いながら、シロコの提案に確認するんだ…矛盾してるぞ…ッ』

 

『ち、違いますわよ!これはその、何というか…申し訳ないというか、シロコに迷惑掛けないかどうかとか…心配して…』

 

『大丈夫。それに一人で過ごすより、二人で過ごした方が楽しくて良い。カロン先生も来て良いんだよ?』

 

『いや、流石に遠慮しておこう…。それに、折角アビドスという廃校危機の学校に訪れたんだ。この神秘に埋もれた砂の国にある知識の領域――その全貌までは見渡せずとも、教材や資料やらを探そうか検討している。

 何かしら役立ちそうなものもあれば、面白く興味深い内容の代物も見つかるだろう』

 

『良いね〜ッ!カロン先生は若いし、やっぱりこういう探検モノが好きなお年頃なのかな?けど夜中は危ないでちゅよ、ママは心配で夜しか寝れません』

 

『…勘違いのないように言っておくが、私は生まれ変わった身とはいえど、実際の年齢はお前とじゃ比較にならんぞ…何せお前らが使ってる端末さえなかった文化の時代から生きていたからな』

 

『うへぇ、これじゃあカロン先生が本物のおじさんじゃないかぁ〜』

 

 そう言った流れの後、暫くして全員とも解散した。

 今頃ノエルとシロコは何をしているのかは不明ではあるが、少なくともアビドスの地に慣れ、知識を学ぶ上ではシロコを始めとしたアビドス対策委員のような馴染みのある生徒が居た方が助かるだろう。

 オマケに砂狼シロコの実力は大悪魔のお墨付きだ。

 敵の視線、配置や大胆な攻撃から手榴弾や火力支援など、思い切った行動や敵陣を翻弄し、仕留めていく姿は正に戦場の狼。

 キヴォトスに住まう生徒は身体が頑丈であれば、ホシノのタンク役とは違えど、戦場での冷静な分析と判断を行えるシロコが側にいてくれるのは心強い。

 

「……ふむ、折角だ。アヤネに連絡を取って郊外エリアについて…」

 

「け゛っ……なんで此処にいるのよ…」

 

 ――聞いてみよう。そう言って学校に足を運ぼうとした刹那、嫌そうな声が漏れたのをカロンは聞き逃さなかった。

 踵を振り返り、声の主に意識を向けると、偶然にもバッタリと、覚えのある顔がこちらを見つめていた。

 黒見セリカ――猫を象徴とした赤眼の生徒。

 黒髪に艶めいたツインテールが動く度に揺れては、猫耳をピクピクと震わせている。

 カロンと遭遇したその複雑な顔色は、まるで絵の具をグチャグチャに混ぜ合わさったような表情だった。

 シャーレの先生を部外者として認めず、先生の協力を払い除け、部室を退室した。

 後ろめたさ、失礼な言動、同時に今は出逢いたくないと言った感情、その全てを露骨に著していた。

 

「誰かと思えばセリカか、昨日ぶりだな――昨夜はよく眠れたか?」

 

「な、何が『昨夜はよく眠れたか』よ!!馴れ馴れしくしないでくれる?私、まだカロン先生とノエル先生のこと、認めてないからッ」

 

「おっとそうだったな、失礼失礼…クククッ。お前は私とノエルに認めないと豪語していたからな。そんなお前が私達と馴れ馴れしくしていたら、自分の面子が保てないというもの。全く以ってその通りだ――ただ昨日は大衆の面前であれだけ大声で喚き散らしながら出て行ったのだ。お前が恥をかいて眠れてないかどうか心配していたんだ。良眠ならそれはそれで結構結構」

 

「こ、のッ…!!」

 

 部外者の先生なんて認めない――そんな子供の反発に、カロンは相変わらず口がよく回る。悪魔的な笑みを浮かばせ、毒舌で反論する大人のカロンに思わず歯軋りしてしまう。怒りの衝動が膨れ上がってしまう。

 前言撤回――このクソカラスは普通に来なくて良かったと思う。

 

「そういうカロン先生こそ、まだ此処から出て行ってなかったのね。然もこんな朝っぱらからのんびりうろついて……いいご身分だことね。それとも先生って暇なの?」

 

「此処アビドス自治区――砂に埋もれたゴーストタウンの住宅街を調査していたところだ。砂嵐、その自然災害によって発生したこの街に何か痕跡が残ってないかとな。まあ遭難者が発生するほど土地も広い…此処を探したところで大海原に落ちた針を見つけるようなものでもあるが、部外者からしたら興味深いものだぞ?」

 

 なんでコイツには嫌味が効かないんだろう。

 一体どうすればこの余裕ぶった上から目線のカラスに何か物申すことができるんだろう。

 逆にそっちの方を考えたくなってしまう。

 

「そういうお前は学校か?この自治区はアビドス学校のルートとは外れてるはずだが……」

 

「はぁ?何?私が何をしようと、別に先生とは関係ないでしょ?」

 

「いや大アリだ。何度も言うが私は先生でありお前は生徒だ――シャーレの顧問であり、現在アビドス対策委員会の部活担当顧問にもなっている。そんな顧問の先生が、況してや昨日はチームと話し合おうともせず、身勝手な判断と感情に振り回されて飛び出したお前のことを、知ろうとしない先生の方が不自然に思えるが?」

 

「はッ…だったら説教でもするわけ?」

 

「ノノミは真っ先にお前を探そうと動きだしたぞ」

 

「ッ!」

 

 それを言われ、思わず身体がビクッと反応する。

 ノノミ先輩はおとぼけてはいるけれど、自分やアヤネちゃん、同級生であるシロコ先輩を可愛がり、ホシノ先輩とも馴染みがある。

 そんなノノミ先輩は、自分が教室を飛び出したとはいえ、先生を認めたくはないとはいえ…確かに先輩はそんな自分を探そうとしてくれていた。

 

「部外者である私なら兎も角、あのノノミがお前を探そうと動きだしたのだぞ。それはつまり、いつものお前なら絶対にしないということを物語っている。同じ対策委員会の仲間にさえ心配かけるお前がどの口を言う?」

 

 否――先生の言う通りだ。

 こればかりは流石にカロン先生が正しい。人を取って食う様な、ムカつく一面もある癖に、こう言う時は人の心理を突く。

 十六夜ノノミはアビドス対策委員会のメンバーを大切に思い、誰かの意見を責めるわけでもなく、優しさと母性的な包容さで心を救ったことがある。

 一人一人のことを確り大切に思うからこそ、仲間同士でのことはある程度熟知している。

 もしセリカが感情的になって飛び出してしまう常習犯なら、ノノミもノエルと同じ意見を述べていたはずだ。

 そんなノノミの顔色に初めて、焦りに似た表情が見えていたことを、カロンは見逃さなかった。

 

「それは……それは、今度ノノミ先輩と会った時に謝罪する…。そこは、アンタの言う言葉は正しいよ…。けど、それとこれとは別!アンタが心配しようとしまいと、私には関係ないもん!少なくとも、依頼はこれで済んだんだから、カロン先生が気に病むことなんてないじゃないっ」

 

「お前が私達をどう思おうと勝手だがな、肝心の借金返済の充てはあるのか?それに何度も言うが私は連邦捜査部『シャーレ』の顧問であると同時にお前達の部活の顧問でもある。もうその時点で既にお前達と私達とて、関係ないなんて言葉は通じんぞ」

 

「だったら何でもっと早く来なかったのよ!!!!」

 

 苛立ちのボルテージがマックスに到達したのか、怒り荒がる声を放つ。

 自分達が苦しんで、何が悲しくてこんだけ多額な借金を自分達が返済していかなきゃいけないのか。

 連邦生徒会ですら助けてくれなかったのに、それなのに…外の世界からやってきた大悪魔と名乗る先生がやって来た。

 支援物資の依頼を承り、補給品や弾薬の手助けをしてくれたのは感謝してる。それは本当だ。

 カロンは昨日の時と同じ様に固まることはせず、セリカを見守る様に、瞳をまっすぐ向ける。

 

「それが、お前の…セリカの思う根本的な本心か」

 

「はんッ…どうだか。私は急いでるから、それじゃあね」

 

 逸らすように話を区切り、セリカは急いで踵を返して道を真っ直ぐ進むが…

 

「おい待て、そもそも学校のルートはそっちじゃないだろう。何処へ行くつもりだ?」

 

「あのね、私がどこへ行こうと勝手でしょ?幾ら顧問だからって私が今から向かう場所を教える必要なんてないと思うけど…て言うか普通に考えて教えるわけないじゃない。それに悪いけど、今日は自由登校だから学校に行かなくても良いの。わかったらさっさと…」

 

「……そうか、ならばお前の後を着いていくことにしよう。悪いが尾行させてもらうぞ」

 

「そうそ……ッて、はああぁ゛あ゛あ゛ぁあ゛ッッッ!!?!」

 

 カロンは臆することも後退りすることもなく、セリカに対して堂々と尾行発言を行った。

 簡潔に言えばストーカー。更に付け加えれば本人の前での宣言。

 これにはセリカも顔を真っ赤に染め上げながら、叫び出す。

 

「ばッ、バカ!!!ばっかじゃないの?!なに普通に生徒を尾行しようとしてんのよこの変態!ドスケベカラス!!プライバシーの侵害よッ!!?アンタ自分が今言ったこと理解してんの!?」

 

「嗚呼、理解してるとも。お前が教えないのなら着いていくしかないだろう。何処へ行くかも分からんし、付け加えればお前の身に何が起こるか分からん」

 

 セリカは思う――何故この先生は変態的な発言を、大人としてどうかと問われる様な行動を、精々堂々と言わんばかりに答えるのだろう。

 カロンは思う――何故セリカと言いノエルと言い、ちょっとしたことで変態だのドスケベだの、罵声を浴びせられなければいけないのだろう。

 

「それに私には人間が美徳とする精神を持ち合わせてなくてな。プライバシーとやらも、命の危険性と比較すればマシだろうに。そもそも後を着けることなど、ノエルは何も言わなかったが…」

 

「あんたノエル先生にもそんなことしてたの…??サイっテー…このクズカラス…」

 

 此処に来て逆にノエル先生への好感的な気持ちが上昇した様な錯覚を感じるのも、このクソカラスの道徳的価値観が欠けてるからだろうと、セリカはドン引きで軽蔑する。

 この先生とは一生分かり合える気がしない。

 

「何とでも言うが良い。だがお前が教えないのなら後を追ってでも真相を確かめなければ、私の疑いは晴れやしない」

 

「そんな、犯罪とか…そういうのじゃないってば!!じゃあね、もう私時間に遅れそうだし、急いでるから!」

 

 これ以上話してると、時間に間に合いそうにないという本心と、付き合ってられないと言う感情論を含めて、砂埃を立てながら逃げる様に去っていった。

 

「アイツ、あんだけ足が速いのか…それなら……」

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――

 

 

「はぁ、はぁ……まあ、此処まで走れば流石の先生も追ってこれないでしょ。それより…うん、時間に間に合いそうねッ」

 

 15分程走り終わった後、セリカは汗をハンカチで拭いながら、長いツインテールの髪を揺らしながら息を整える。

 変質者カロンのストーカー発言には神経を疑ったりもしたが、ここまで走ればどうってことはない。

 

「とはいえ、先生がまさかとんでもない変質者だとは思わなかったわ…生徒になにストーカーしようとしてんのよ…全く…ダメな大人の見本じゃない」

 

「誰が変質者で誰がダメな大人の見本だ」

 

「えっ…?ッ!――ひゃあぁっ!?!」

 

 カロン先生の声が上から聞こえた為、声の主に意識を向けると、エンジェル26と記されたオクトパスバンクが出店する購買店の看板の上に、身体を逆さまにして問いかけてきた。

 空中からアケローンの魔法陣を召喚させ、悪魔の鎖を頼りにぶら下がっている。

 某海外映画に出てくる特選やヒーロー的な既視感が芽生えてくる。

 セリカに追いついた理由は簡単で、シロコと一緒にアビドス学校へ赴いた様に、市街地の使われてない建築物の屋根上を利用して、悪魔の鎖を巧みに扱いながら、セリカのスピードに追いつく様に移動していたのだ。

 

「全く、人が居ないことを知れば好き勝手言いたい放題言いやがって…この頭の硬いお花畑の牝ネコがッ」

 

「誰が牝ネコよ!!というか本当に着いてきたの?!」

 

「ワープ式の移動手段など、それこそ大掛かりな魔法陣を使わなければ私には不可能だ。それを実現可能な奴など、失踪中の連邦生徒会長でも居ない限り、キヴォトス中探しても無理だろうな」

 

「つまり尾行したってことね?」

 

 額に青筋を浮かべながら、ボロクソな批評を浴びせられたカロンにセリカも反発する。

 懐かしいのか、セリカとカロンの言い争いは、スラム街で出会ったばかりの頃のノエルとカロンを彷彿とさせる。

 

「大悪魔とは傲慢な生き物でな。お前が何を言おうと、何処へ行こうと、教えなければ着いていくぞ。契約者であり生徒であるお前の安否…その確認が取れない以上は着いていくしかないだろう。私だって好きでお前を振り回してる訳でもないんだがなッ」

 

「分かった!分かったわよもう…!教えるから…!――バイトよ…」

 

「バイト?」

 

 根負けしたのか、観念する様に吐露するセリカ。

 バイトと聞いてカロンは目を丸くする。

 自由登校の日はバイトでもしてるのか?そのバイトは恐らく借金返済に充てるのだろうと、ある程度予想がつく。

 

「ほら、私は少しでもお金稼がないといけないの!分かるでしょ?私は忙しいの!もう教えたんだから、これ以上着いてこないで!」

 

「バイトで金を稼ぐ…借金返済に、か…」

 

 社会人程の給料額ではないにしろ、それでも資金の足しにはなるのだろうが、正直バイトと言って何かを思い出すかといえば精々コンビニ売店と言った姿しか想像が付かない。

 大人になれば手につく職は山ほどあるにせよ、俗世には疎いカロンはセリカが何処でバイトしているのか想像が付かなかった。

 コイツには小悪魔販売店のアルバイトが似合いそうだなという感覚位だろう。

 

「成る程…バイトか。ではどう言ったバイトなんだ?具体的な内容を教えてくれなければ分からんだろう」

 

「はぁ!?なんでそこまで教えなきゃいけないのよ!!

 

「バイトとは多種多様に存在しているのだろう?キヴォトスと外部の世界では違いもある。この世界を知る為にも、お前達がどういったバイトをしているのか個人的に気になる部分もあるが…なにより一番は危険的なバイトをしているかどうか…だな。借金返済に充てる為の資金調達…ならば高額であればあるほど、お前に負担が大きい場合もあれば、危険な行為に手を染めてないか…それを知る必要もある」

 

「あのねぇ、流石に犯罪に手を染めないってば…!そもそも、危険なバイトってなによ?」

 

「死体洗いやホルマリン漬け、遺体処理…廃墟の心霊写真、詐欺、始末屋から情報……」

 

「いや、そこまで来るともう恐怖なんだけど……」

 

 そもそも契約を通じて凡ゆる犯罪を超常的な現象を以ってして大悪魔が叶えるのだから、人間の闇の部分を露骨に表してるように見える。

 そんなカロンから想像付くバイトは全部人間の闇や恐怖を顕著した内容だった。

 

「カロン先生が何を想像してるのか知らないけど、健全なバイトよ!!もう着いてこないでよね!次追ってきたらぶっ殺すから…!」

 

「契約者を気に入らなければ突然殺す野蛮な大悪魔がいると聞いたことはあるが…まさかの契約者側から大悪魔を殺そうとする奴はお前で二人目だぞ……」

 

 威嚇と殺害予告を余儀なく宣告されたカロンは、苦虫を噛み潰した様に表情を歪ませる。

 セリカは今度こそ大急ぎで、砂埃を立てながら猛スピードで走って消えていく。

 

「流石にセリカが闇バイトや違法に手を染めるのは考え難いか…?いや然し…ふぅむ…」

 

 カロンは悩み考える。

 下手に深追いしたところで、セリカからは警戒されているだろう。バイトと理解しただけでも充分な収穫ではある。

 何故言わないのかについて問うてもはぐらかされるだろう。

 そんな時にふと、モモトークからメッセージが送られてきた。

 宛先はノエルだった。

 

「ノエル?」

 

 モモトークのメッセージを、電子端末を利用して開いていく。するとアビドスの制服を着たノエルの自撮り写真が送られてきた。

 

『じゃじゃ〜ん!どうかしらカロン!シロコと服を入れ替えで試着してみましたわ!』

 

(セリカの問題を追ってると言うのに…このバカは何を楽しそうに……)

 

 それにしてもよくサイズが合ったな、と思うのも束の間――写真をよく見れば少しだけぶかぶかな気もする。

 確かノエルよりシロコの方が身体のサイズは上だったな、と回想する。

 

(……いや、待てよ?そういえばノエルは今シロコと一緒に居るんだったな?それなら……)

 

 ある事を閃いたカロンは、モモトークの文字を慣れない手付きでメッセージを打ちながら送信していく。

 電子機器やらデジタルに疎いカロンも、シャーレオフィスでの仕事をやりこなしている為なのか、パイソンに教わっていた頃と比べれば上達した方だ。

 

(よし、理解したぞ。それならこれで……)

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 アビドス郊外エリア。

 自然現象により住宅街から人が消え去ったアビドスの面影とは離れ、郊外エリアは砂埃のない居住区が見受けられる。

 営業している店舗は数少ないものの、それでも人が暮らすには問題ない居住区域――そんなアビドス自治区に佇む飲食店『柴関ラーメン』となる店舗は、かなり賑やかに振舞っていた。

 

「いらっしゃいませ〜!三名様ですか?此方の空いてる席にどうぞ!」

 

 ブルドックや猫、柴犬の顔をした市民がお店に入れば、活気の良いアルバイトの声が店の外まで届く。

 アビドス郊外エリアでは市民は暮らしてはいるものの、殆どの飲食店はなくなっており、大体がカイザーコーポレーションの企業やブラックマーケット、銀行、ネフティス会社などが携わっている。

 その為、アビドス自治区で有名な柴関ラーメンは他の自治区からも態々遠出をしてまで利用する客もいるんだとか。

 

「少々お待ち下さいッ!三番テーブル、替え玉三つ追加です!」

「此方お冷やになります!ご注文が決まりましたら声をお掛け下さいッ」

「五番テーブル、醤油ラーメン大盛りです!」

 

 そんな大人気の柴関ラーメンで働いてるアルバイト――黒見セリカは慣れた手付きで仕事をこなし、彼女の活気の良い明るい声が響き渡る。

 飲食店を利用する客の雑談に、明るいセリカの声、麺の水を切る音や、店内での賑やかな雰囲気は、来る者を暖かく包み込んでくれる。

 

 ガララッ――と店内の出入り口が音を鳴る。

 反射的にセリカは満面な、輝く営業スマイルをお送り届ける。

 

「いらっしゃいませ〜!お客様は何名様で…――」

「あの〜⭐︎六人なんですけど〜!」

 

 愛想良く振る舞うセリカの接客のスマイルも、出入り口の人影を前に一瞬にして凍り付いた。

 聞き覚えのある明るい声色に、六人という団体な人数、お店の入り口からゾロゾロと足を踏み入れるお客様ならぬ、顔見知りに頭が追いつかずにいる。

 

「わわッ…!?」

「あ、あはは…セリカちゃんお疲れ…」

「んまぁ!此処がセリカの働いてる有名な柴関らぁめんですのね!私、今までこう言ったお店に入ったことがないから、新鮮ですわ!」

「ん、セリカお疲れ。ノエル先生も、目が凄い輝いてる」

「ほぉ、中々賑わってるじゃないか。ゴーストタウンと成った荒廃した地区とは打って変わって、悪くない。私もこう言った飲食店を利用する機会はゲヘナとシャーレの地区を除いてほとんどないからな」

 

 十六夜ノノミ先輩を筆頭に、苦笑を浮かべながら同情じみた言葉を漏らすアヤネに、セリカのバイト姿やある種初めて訪れる飲食店に宝物でも見つけたかの様に瞳を輝かせるノエル先生。

 シロコ先輩は軽い挨拶をし、隣のカロン先生は見たこともなさそうな飲食店内の雰囲気に、周りを観察する様にキョロキョロと視線と顔を動かす。

 

「皆んなどうして此処に!?誰にも教えてないのに…はっ!?まさか、カロン先生…アンタまた私を尾行してッ?警戒はしてたのになんで…ッ?何処にも見当たらなかったのに……」

 

「まあ、私に疑いの目を向けるのは至極当然か…」

 

 考えられる可能性が高いのはカロン先生だと思考に瞬時に辿り着いたセリカは、羞恥心で顔を真っ赤に染めながら、涙目で睨みつける。

 そんな気迫と恨めしい眼差しを向けられるカロンは、人差し指で頬をポリポリと掻きながら呟いた。

 

「うへぇ〜やっぱ此処だと思ったよぉ」

 

 否定をしないカロンを庇うように、最後の列からホシノ先輩が姿を見せた。

 ホシノはのんびりした声色で、カロンを庇う様に言葉を続ける。

 

「あ、因みにカロン先生は悪くないよ〜?ノエル先生に至ってもね。だって、セリカちゃんのバイトといえば、やっぱここしかないじゃん?だから来てみたの」

 

「う゛ッ…!!ホシノ先輩が…」

 

 まさか誰にもバレてないと思っていたのに、不覚にもホシノ先輩にバレていたということに、内心みるみると恥ずかしさが込み上げてくる。

 折角皆んなに内緒でアルバイトして、借金返済の為にコツコツと貯金していたのに…それをホシノ先輩のみならず、皆んなに…更に付け加えればカロン先生とノエル先生に、このアルバイト姿を晒される羽目になるとは夢にも思っていなかった。

 

「アビドスの生徒さんに…おっ!シャーレの先生まで来てくれたのか!セリカちゃん、馴染みのある顔とはいえど、今はお客様として出迎えてくれな。お喋りはそこまでにして、注文宜しく頼んだよ」

 

 厨房から顔を出したのは、長年飲食業を営んでいた歴戦の猛者とも呼べる大将だった。

 頬には誰に付けられたのかと言いたくなる傷痕が残っており、片目も潰れていた。

 一眼見れば分かる――修羅場を潜り抜けた玄人だということを!

 

「うぅ…ッ、は…はいっ…。えっと、お客様?それでは広い席にご案内致しますので…こちらへ、どうぞ…」

 

 同級生や顔見知りの先輩に、寄りによって一番相手にしたくないノエル先生とカロン先生――このトリプルセットを相手に接客業は羞恥と理性が苦情を訴えかけてくる。

 それでもアルバイトで培ってきた経験を糧に活かし、何とか接客を試みるセリカ。

 ノエル先生の「頑張ってセリカ!」という謎の応援じみた視線が嫌に刺さって視線を逸らしてしまう。

 

 セリカのアルバイト先を知っていたのはホシノではあるが、そもそも全員がこの柴関ラーメンへ行く根本的な要因がカロンである。

 モモトークでノエルに送られてきたメッセージに『セリカのアルバイト先わかるか?』と送ったのが始まりだった。

 ノエルはシロコに、シロコはホシノに聞いた結果としてこの柴関ラーメンに繋がったとのこと。

 何という伝言ゲームみたいな奇跡だろうか。情報網とは末恐ろしいものだ。

 案内された席は大人数として向いており、席も丁度六人分座れるスペースとなっていた。

 

「ノエルちゃん先生は私の隣にど〜ぞ⭐︎」

「ん、ノエル先生は私の隣に来るべき」

「何故私求められてますの!?ど、どうしましょうカロン…私は誰の隣を選べば…」

「知るかッ。さっさと好きな席に座れば良いだろう」

「あははッ!ノエル先生はモテモテだねぇ〜」

 

「アンタら人の店でイチャイチャするな!!!」

 

 すっかり大人気となったノエル先生。というかタダでさえ顔見知りが自分のアルバイトしてる店に来るのでさえ恥ずかしくて死にそうなのに、公共の場で、況してや自分のアルバイト先で顔を知られた上に、ノエル先生を求めるノノミとシロコの二人に突っ込んでしまう。

 至極真っ当な意見である。

 

「でもシロコちゃんは昨日ノエル先生と一晩過ごしたんですよね?それなら今度は私がノエルちゃん先生と仲良くなる番です!ほら、捕まえた⭐︎」

「きゃあ!?ノノミッ?!」

「むぅ…んっ、良いもん。それならカロン先生、隣来て一緒に食べよ」

「人を余りモノ扱いするな全く…」

 

 ――ちょっと待って、今さり気なくシロコ先輩とノエル先生が一晩過ごしたとか聞こえたんだけど、気のせいよね?うん、気のせいだと思いたい。

 私が帰った後に、この人達に何があったわけ???

 

 ノノミはノエルを捕まえるように抱きつけば、隣の席に半ば強引な形で一緒になる。

 シロコはむくれる顔を浮かべるも、カロンを見るや否や、空いてる席をトントンと指で叩く。

 カロンが隣に座ると、殆ど肩を密着させる様にシロコとカロンの距離は近く、またノノミもノエルとの距離は密着していて隙間がない。

 

「…近過ぎじゃないか?」

「カロン先生が大きいだけだから気にしなくて良いッ。因みに私はこれくらいの距離が丁度良い」

「セリカちゃん、バイトのユニフォームとっても可愛いです⭐︎」

「私も小悪魔印の、てんちょーのお店でアルバイトしてた時がありましたけれども、飲食店での営業なんて凄いですわ!セリカ、すっごく頑張ってますのね!」

「いやぁ〜セリカちゃんってそっち系かぁ。バイトのユニフォームで決めちゃうタイプ?」

「ち、ちち、違うってば!関係ないし…!ここは、その…い、行きつけのお店だったし…」

「ユニフォーム姿のセリカちゃん、写真撮っておけば一儲けできそうだね〜。どう?一枚買わない?」

「ダメですよホシノ先輩っ!変な副業始めないでください!」

「そうですわよ!アヤネの言う通り、大切な生徒の写真を売買するなんて、悪魔の所業ですわ!けど、折角だからお金とかそういうのじゃなく、個人的にはアルバムとか、記念的な意味でお宝にして大事に取っておきたいですわね」

 

 喋り出したら会話が止まらないこの団体数人。

 完全にホシノ先輩は揶揄いに来てるし、ノエル先生も恥ずかしいこと言ってくるし、マトモなアヤネちゃんは「どんまい…」という視線を向けてくるし…。

 今日はなんて厄日なんだろう。これもきっとこのドスケベカラスが悪いに決まってる。うん、絶対そうに違いない。

 

「ていうかもう良いでしょう!?さ、さっさと注文決めてよね!!」

 

「そこは『ご注文はお決まりですか?』でしょ〜セリカちゃん?お客様には笑顔で親切に丁寧に接客しないと〜。ほら、笑顔笑顔!」

 

「う゛っ…!く゛、な゛……こ゛、こ゛注文は…お、お決まりですか…?」

 

「…声が小さいぞ?今朝私に浴びせた罵声の様にもっとハッキリ言ってもらわなくては、こっちが恥ずかしいというものだ。クククッ――」

 

 このクソカラスは鬼か悪魔か?…本人曰く、悪魔だった。

 自分がアルバイトで働いてるのを機に、上から目線で調子に乗ってるのが余計に腹立つ…。然も他の先輩たちやアヤネちゃんもいるから、下手な発言も出来ないし…ッ。絶対後で覚えてなさいよカロン先生。

 

「こら!カロン、折角セリカが頑張ってますのに茶々入れないの」

「ちょっとしたジョークだ。それにらぁめん…か」

 

 セリカはトレイに乗せたお冷とお絞りを人数分提示し、注文用のメモを手に取る。

 ――はぁ、さっさとラーメンを食べて帰って欲しい。

 そんなセリカの内心溜息と共に溢す愚痴を他所に、六人はメニューを手に取りながら色々と会話が飛び交う。

 

「じゃあセリカちゃん、えっと…私は味噌でお願いしますッ」

「じゃあ私は特製味噌ラーメン!あっ、炙りチャーシュートッピングね!」

「私は塩が良い。カロン先生は?」

「私はチャーシュー麺にします⭐︎ノエルちゃん先生は何か食べたいモノ決まりしたか?」

 

 アヤネは味噌ラーメン。

 シロコは塩ラーメン。

 ノノミはチャーシュー麺。

 ホシノは特製味噌ラーメンにトッピング付き。

 麺の量や硬さなど、確認を取りながら次々とメモを取るセリカ。最初は見知った顔全員がこの店に来た時、どうなるかと焦りもあったけどこれなら案外終われそ……

 

 

「あの、ノノミ……らぁめんってなんですの?」

 

 

『!!?』

 

 これには一同全員一致で驚愕した。

 思わずセリカは注文用のメモとボールペンを落としてしまい、身長差もあってか、隣のノノミにもじもじと恥ずかしそうに顔を見上げるノエル先生は、完全に飼い主を見つめる子犬の様だった。

 

「ちょっ!?ノエル先生ラーメンも知らないの!?!」

 

 予想外過ぎる展開に、思わず喉から声を出して叫んでしまう。そんな世間知らずで俗世に疎いノエルは、更に恥ずかしそうに顔を下に俯きながら上目遣いで言葉を足す。

 

「ご、ごめんなさいッ…。その、私…セリカが働いてるバイトを知って、行ってみたいなとは思ってみたものの…今まで聞くらぁめんについて全く知らなかったですし、看板に書いてあった名前もてっきりそういう名称なのかと…」

 

「う゛っ…いや、そんな風に謝られると…こっちが……」

 

「おやおやぁ〜?アルバイトくん、な〜にうちの可愛いノエルちゃん先生をいじめちゃってくれてるんだい?初めてのグルメをそんな風に言っちゃあ、ダメダメだよぉ〜〜?」

 

「流石は箱入り娘。いや、ラプラスにはらぁめんと呼ばれる食は存在しなかったな…況してや上層区の人間だったんだ。無理もないか――まあ、斯くいう私も目にしたことはないが、聞いたことはある」

 

 こればかりはぐぅの根も言えない。

 世間のことを知らない箱入り娘――更に付け加えれば食文化の違いと隔てる壁があった結果として、ノエルは今まで一度もラーメンと言った食を口にしたことがなかったのだから。

 

「ほぉ、シャーレの先生はラーメン初めてかい?それなら、ウチの『柴関ラーメン』で初めて口にするって訳か。ほら、セリカちゃんもあんまり失礼な態度取ったらダメだよ。仕事やってる内は公私は別にな?」

 

「あうぅぅ…」

 

「お客さん、注文が決まったらまた呼んでくれ。セリカちゃん、四番テーブルの席呼んでるから、注文受けてくれるかい?」

 

 生まれて初めてラーメンを口にする店が柴関ラーメンというのは、セリカとしてはこれを喜ぶべきなのだろうが、よりによってノエル先生が相手ということに複雑な気分を抱いてしまい、素直に喜べない。

 そんなセリカ達とのやり取りを見た柴関の看板を背負う大将が横槍を入れる様に口を挟む。

 流石に喋りすぎたのかもしれないが、殆どこの六人団体に問題があったと思いたい。

 店長の正論に反論もできず、苦虫を噛み潰した様に渋々頷いたセリカは、四番テーブルの席へと走っていった。

 

「ノエルちゃん先生、ラーメンをご存知なかったなんてすっごく意外ですっ。ノエルちゃん先生の可愛いところ、また一つ見つけちゃいました♡」

「うぅぅ〜ッ!か、揶揄わないで下さいまし!!しょうがないじゃありませんの!私も、見たことのない店で、初めて訪れる飲食店ですし…その、皆んなと一緒に楽しく食べたいなって……」

「それセリカちゃんに聞かせてあげたいね〜。いやぁでもおじさんも正直驚いたよぉ。カロン先生も食べたことないみたいだし、二人にとって記念すべき良いお店なんじゃない?セリカちゃんの行きつけみたいだしさ〜」

「ん、でもエナジードリンクのことも知らなかったみたいだし…今思うと不思議でもなかったかも」

「そ、そうなんですか?あっ、でもノエル先生やカロン先生もキヴォトス外部の人ですし、此処と外では食べ物も違うのかもしれませんね」

「ねェカロン、このメニュー表ヤケに品の種類が少ないですわよ?ほら、ノノミの言ってたちゃぁしゅうめんなるものも御座いませんし…特製柴関らぁめんと、二郎系ヤサイニンニクマシマシ?こ、これは呪文か何かですの??後は…ジャンボらぁめん牡蠣とっぴんぐ?牡蠣ってなんですの?」

「馬鹿が、それは期間限定メニューの方だ。通常のメニューはこっちだ、ほれ」

「んまぁ!本当ですわ。色々あるんですのね!へぇ〜…調味料を使ったラーメンなんですのね。ホシノの言ってた特製味噌ラーメンもありますわ!けど、アヤネが注文した味噌と、ホシノが注文した特製味噌の違いは何ですの?」

「味噌の種類や調味料の作り方が違うんじゃないか?味噌とは古来より東洋で作られた発酵食品の調味料だと聞く。料理はレパートリーも奥深さもあるそうだが…まあ、そこは口にしないと分からんだろう」

「そうだ!ノエルちゃん先生、後でセリカちゃんに頼んで小鉢を頼んで食べ比べてみたらいかがですか?」

「い、良いんですの!?そんなことして貰っても…」

「いやぁノエル先生の頼みならしょうがないなぁ〜。おじさんとアヤネちゃんが口にしたラーメンを食べるノエル先生、罪深いねェ」

「変なこと言わないでくださいホシノ先輩っ!あ、私の方も気にしなくて大丈夫ですよっ。初めて、ですもんね」

 

 マシンガントークの如く、会話が止まらない超越愉快な六人団体。

 四番テーブルの…隣の隣の席の注文をとりながら、談笑飛び交う六番テーブルの六人の会話に猫耳をピクピクさせながら、聞く耳を立てていたセリカは、どうにも気になって仕方がない様子だ。

 

(ううぅぅ〜〜ッ!!どうしよう、さっきまで全員とも早く帰ってほしいって思ってたのに…めっちゃ気になって業務に集中できない!!それに、ちょっと嬉しいと思ってる自分がいるのもどうなのよッ…!)

 

 今までの会話は全部筒抜けである。

 というか注文も取り終えて、色んな席に注文を受けたラーメンを配膳したりなど、店内で彼方此方飛び交う様に足を働かせるセリカとしては、幾ら何でも丸聞こえなのだ。

 何より大好きな行きつけの柴関ラーメンで、純粋に楽しく食事がしたいと言われてしまえば、もう断るも何も否定も反論もできないのだ。

 というかさっきからこの六人の会話が面白い。

 大将も料理を作りながら、偶にノエル先生達の方を向いて笑顔でいるし…絶対和んでる。

 

「そう言うカロン先生は何を頼むの?もう決まった?」

「私は基本的に飲み食いは必要ないと…いや、折角ここまで足を運んだ上に、お前達のお誘いだ。ノエルの意見も一理ある…此処で断るのは野暮というものか。ならばここのオススメはなんだ?」

「此処の看板メニューにあるアビドス名物――柴関ラーメンだね。それにする?値段も安くて美味しくて評判に良いんだって」

「ならば私はそれを頂こう。ふむ…写真を見る辺り、スープスパゲッティが豪華になった感じか」

「らぁめんって、麺を使ってますしてっきり焼きそばかパスタのようなものかと思ってましたけれど、どんぶりなのですわね。そう言えば私、食べきれますかしら?」

「そういうノエルは何を決めたんだ?量は決めれるし、お前なら少食でも充分じゃないか?」

「えぇ〜!?ノエル先生若いんだからもっと食べなきゃ大きくならないよ〜?!お母さん、お残しは許しませんッ」

「おじさんと言ったり母親といったり忙しいやつだなお前は…」

「そうなのよぉ〜…子供が五人もいると、子育ても大変で……ねえアナタ?」

「それやめろって昨日の会議で言ったこと忘れたか…?」

「ごめんねぇ、おじさんこの歳になると忘れ物が多くて…湿布貼らないと立てないくらいでさぁ」

「そこまでいけば老ぼれの域だ。じゃあお前は財布を忘れたら記憶喪失で誤魔化すつもりか?」

「そこは何とか若返って記憶を取り戻すよ〜」

「今回は使えなかったのか、若返りと記憶の返還」

「うへぇ、学校に忘れてきちゃった」

「取り戻せ阿呆」

「まあまあ、カロン先生も決まったことですし…ノエル先生はお決まりになりましたか?それとも迷っちゃいますかね?」

「ラーメンの種類が沢山あるから、初めて訪れる方も迷っちゃいますからね〜⭐︎ノエルちゃん先生、ゆっくりで良いですからね?」

 

 ……長いっ!!

 え?まだ注文決まってなかったの?いや、ラーメンを食べたことのない異文化の先生達とは言えど、飲食店…況してやラーメン店でここまで長く悩む人達なんて初めてなんだけど?

 皿洗いも終え、他のお客を相手に注文を取ったりしながら、この愉快な六人組の会話をさっきからずぅっと聞いてるのである。

 

「うぅ〜む……あら?この期間限定メニュー…裏にも記載されてるんですのね?どれどれ…自家製激辛ラーメン…これ良いですわね!」

 

 するとまたしても、カロンを除く一同は目を丸くする。

 セリカも聞いてないフリをして接客していたものの、こればかりは二度見してしまう。

 確か此処の期間限定メニューに出された自家製激辛ラーメン――完食した人、未だにいなかったはず。

 

「えっっと…ノエル先生?その、本当に大丈夫ですか?」

「アヤネ?どうしたんですの?」

 

 恐る恐る震えながら申すアヤネに、小首を傾げながら純粋な眼差しを向ける箱入り娘のお嬢様先生。

 

「ここの自家製激辛ラーメンって、結構辛くて評判はあるんですけど…初心者にしては厳しいかなって……」

「ああ…大丈夫ですわ。私、以前スラム街で食べたカレーも一番上から二番目で完食しましたし。こういう味付けが病みつきになって、今度辛いものをまた食べてみたいなって思ってましたもの!」

「コイツ、辛いと言いながら普通に完食していたからな…お前の意外な好みを知れたぞ」

「私っ、この一番上の、辛いらぁめんを食べてみますわ!」

「……初めてのお店でよくそんな辛いものに挑戦できるな?一応忠告しておくが残すなよ?食べ切れるのか?」

「少食にして召し上がりますわ!流石にお残しなんてしませんわよッ。これでもチェルクェッティ家で食事のマナーは学んでおりますの」

 

 ふんす!と鼻息立てながら、ノエルは自家製激辛ラーメン最大の10辛に挑む。

 改めてメニューが決まり、テーブルの席に設置してある呼び鈴のボタンを押す。

 ピンポーンッ!という典型的な音が鳴り、セリカは「漸くか…」と内心愚痴りながら足を運ぶ。

 ――まあ、嫌でも声は聞こえてたんだけど…。

 

「ご、ご注文は、お決まりになりました…でしょうか…?」

 

 改めてぎこちない態度で声を振り絞りながら、改めてノエル先生とカロン先生に視線を向ける。

 

「私はこの看板メニューに記載されてる柴関ラーメンで頼む」

「私はこの自家製激辛ラーメン10辛!一番上の辛いものを頼みますわ!あ、量は少なめで頼みますわね」

「あっ、序でにセリカちゃん小鉢の方もお願いね?」

 

 本当に大丈夫なのだろうかノエル先生。

 5辛で完食するのがやっとの人がいるのに、10辛なんて絶対残しちゃうでしょ。

 

「えっと、繰り返し注文を確認させて頂きます。柴関ラーメンがお一つ、自家製激辛ラーメン10辛量少なめの方がお一つ、以上で、宜しかったですか?」

 

「嗚呼、宜しく頼むぞ」

 

 ――宜しくじゃないのよこっちは。

 けど、どんな理由であれど…純粋に此処の店を楽しみにして足を運んできたのだから、悪い気はしなくもないけど…やっぱりカロン先生は腹立つ。

 注文票を大将に渡し、接客やら料理やら皿洗いなどなど、作業に再び戻ると同時に、セリカは猫耳を立てながら六人の会話を聞き立てる。

 

「あの〜…そういえばお金は大丈夫なんでしょうか?またノノミ先輩に奢ってもらう事になるのでしょうか?」

 

 此処で心配になったアヤネが、恐縮ながらも手を上げる。

 そんなアヤネちゃんのナイスな質問に、セリカは「そういえば…」と思い当たる。

 ノノミ先輩はとある大企業の娘であり、大体買い物や飲食店などの支払いは決済のカードを使って解決していた。

 本人は問題ないというのだが、ノノミ先輩ばかりに奢ってもらうのもなんというか、逆に申し訳なさが勝ってしまうというか…。

 

「私は問題ないですよ〜?限度額もまだまだ余裕がありますし!」

「いやいや、またご馳走になる訳にはいかないよ〜?きっと先生が奢ってくれるはず。そうだよね、先生?」

「オイちょっと待て、初耳だぞ。そんな話聞かされてなかったんだが?」

「良いじゃ〜んッ。今話したんだから…食べ終わった後に話した訳でもないし、セーフってことで。ね?会計宜しく〜!なんなら先生の奢りってことで替え玉も頼んじゃう?可愛い生徒達の空腹を満たしてあげるカロン先生かっくぃ〜!」

「ホシノ、お前……自分で言ってて図々しいとは思わんのか……?」

「まあまあ!良いじゃありませんの…私の方も限度額は後5万は残ってますし。尤も、貴方が酒を大量に購入しなければも〜〜っっと余裕がありましたけれどもね!そう言った意味ではカロン、貴方も図々しいですわよ!」

「クッ……ユウカに続きお前も…」

 

 どうやら金額のお支払いはカロン先生とノエル先生二人の共有財産で支払うことになったようだ。

 人様のアルバイト先を嗅ぎ回ってたり、ストーカー行為に及んでたのだから、寧ろ奢ってでもしてくれないと気が晴れない。

 ……というか、皆んな少しでも借金返済の資金に充ててるのだから、本当に協力する気があるのなら、コレくらいの誠意は見せないと…。

 

「ん、カロン先生。お酒は飲み過ぎちゃダメだよ?ダメな大人の見本になっちゃうから。というかお酒は美味しいの?飲み食いは必要ないって言う割には好みがあったんだね」

「酒は頭を働かせるにはもってこいだぞ。お前達ガキには一生分からんだろうがな、ククク…。特に喉を焼く感覚がまた最高の刺激だ…よく昔の相棒とは酒を交わして色々と計画を立てたものだ」

「…銀行強盗とか?」

「何で今の発言で銀行強盗というワードが出てきた?」

「あはは…もう、シロコ先輩カロン先生が困ってるじゃないですか。御免なさい混乱させて…」

「ねえねえ、ホシノとノノミ。貴方達が言ってたちゃあしゅうって、何ですの?」

「豚肉のことですよ!部位をカットして、柔らかなお肉がすっごく美味しいんです!」

「炙りチャーシューはやっぱり程よい食感と、あの美味しさが堪らないよねぇ!」

「あ、豚肉の名前だったんですのね!私はよくイベリコ豚の肩ロースに、ミディアムで焼いたステーキなどで召し上がりますわ。チャーシューって豚の名前を使った素材なんですのね」

「ノエル先生?あの…チャーシューは焼豚という料理名でして…」

「なんと…!キヴォトスにそのような料理名が…」

「ゆとりお嬢様が…生徒達がドン引きしてるぞ…。確かチャーシューは東洋に存在する中国が起点で作られた料理だったな。お前の場合は文化も国も違うからな、流石に口には入れれなかったか。未知なる食材イコールキヴォトスにするな阿呆」

「ん、逆に聞くけど…ノエル先生って普段何を食べてたりしてたの?流石に世間のことを知らなすぎるというか…」

「ん〜…シェフが作る料理にもよりますけど、よく口にしてたのがレモンのオリーブオイルドレッシング添えのカプレーゼに、栗のポタージュ、スズキのアンクルートに、お好みはブフ・ブルギニヨンですわ。パーティーでのご招待もありましたし、多種多様なフルコースを嗜んでたことも…」

「ブフ…ッ?な、なに?」

「うへぇ〜っ、おじさんはついていけないよぉ〜……これ以上聞いてると、混乱ホシノになっちゃうよおぉぉ〜〜……」

「ごめんなさい、あの…カロン先生は分かりますか?私もちょっと何の食べ物かよく…」

「カプレーゼはモッツァレラチーズとトマト、レタスを使った前菜料理だな。ラッセルも好んで口にしてた。ブフ・ブルギニヨンは牛肉を赤ワインで煮込んだ…まあ、コイツの郷土料理だな」

「ノエル先生って、凄いお嬢様のお家なんですね…。私も食べたことがあるので分かりますけど…簡単に言うとビーフシチューですね」

「因みにお前らが口にするビーフシチューの起点となる原点でもあるな。酒と料理の相性とやらをラッセルと話したことはあるが、酒を使った料理というのもまあ、口にはしてみたいな」

「酒蒸しのエスカルゴのブルゴーニュなんかも行けそうですわね」

「カタツムリも食べるの??」

「以外と美味しいですわよ?それにしても、やっぱり食文化の違いってあるんですのね。シロコとアヤネ、ジリアンやスラッグに話した時と同じ顔をしてましたもの」

「ノエルちゃん先生のお家って、どれくらい凄かったんでしょうか…」

「い、家なんて関係ありませんわ!それに、暫くは缶詰め生活や冷たいレトルト食品を食べることが多かったですし……チェルクェッティ家の話も、過去のお話ですわ」

「そうだな…それに我々が意識してる食文化も、所詮は価値観でしかない。今口にしてる飯を食えるだけ、有難いと思うべきなんだろう」

「おっ、カロン先生良いこと言うじゃ〜ん!こんな立派に育って…お母さん涙が出ちゃうよ」

「ホシノ、その涙はお前が欠伸をしたからだ」

「けど…ノエル先生のことを少し知れた気がして、こういうお話も悪くないですね!二人がいるからか、いつもの対策委員会の雰囲気とは違って、楽しいですもん」

「アヤネ…ッ!うぅ、本当になんて良い子なんですの……ホシノやノノミ、シロコに…あの子――セリカも、アビドス対策委員会の人達は皆んな優しいんですのね」

「そ、そんな大袈裟な……」

 

 愉快なトークは衰えることを知らず、寧ろ薪を焚べた燃え盛る火のように盛り上がるばかり。

 会話の歯止めが効かない所を割り込むように、セリカは注文された品をテーブルに持って提供していく。

 というかセリカも途中でノエル先生のぶっ飛んだ呪文じみた料理名に付いていけなかった。そこからは簡潔に言う宇宙猫のような状態で、半分聞いてるのをやめていた。

 ……ただ、私のことを優しいって言ってくれたノエル先生の言葉は聞こえたので、そこはちょっとだけ嬉しく思ったり。

 

「えっと、大変お待たせ、しました。特製味噌ラーメン炙りチャーシューの方がお一つ、味噌ラーメンの方がお一つ、次に塩ラーメンの方がお一つ…叉焼麺の方がお一つ、それと…柴関ラーメンの方お一つ、最後に自家製激辛ラーメンの方お一つ……ご注文の品は以上で宜しかったでしょうか?」

 

 各々の前に料理の品が出されて行く。

 香ばしいラーメンの香りが食欲を唆り、熱々の湯気が立ち、空腹によりよい刺激を与えていく。

 

「有難うセリカちゃんッ。あ、それじゃあ皆さん頂きましょうか!」

「ええ、けどその前にちょっと待って下さいまし。頂くのは良いですけれど、肝心なモノを忘れてますわよセリカッ」

「へ?あっ、な…なに?注文はこれで以上だったと思うけど…あれ?ひょっとして聞き逃してたとか?」

 

 そんな筈は…と、セリカは記憶を回想し、ホシノやアヤネ、ノノミにシロコも首を傾げながら全員の品を見て何が忘れているのか理解不能な顔をする。

 

「ほらだって――フォークがないじゃないですの」

 

 お客様――当店ではフォークは取り扱っておりません。

 

 もうここまで来るとある種ノエル先生のこの天然とも呼べる文化の違いは一種のステータスなのではないかとさえ考えが芽生えてしまう。真面目に突っ込みを入れるのがバカバカしく思えてきた。

 

「ノエル先生…フォークは使わないんだよ」

「な、なんですって!?それならどうやって食べるんですの?」

「ねぇノエル先生。ひょっとして箸は使えない?」

「箸?使ったことがないですわ」

 

 ――これ食べる前から詰んでない?

 ほら、もうホシノ先輩も笑顔が引き攣って冷や汗流してるもん…。ノノミ先輩に至っては「何だかノエルちゃん先生って、本当に可愛いんですね⭐︎」と母性的な感情さえ芽生えてる始末だし…!アヤネちゃんに至ってもただただ苦笑しかできずに無言でいるし…!

 

「でも、スプーンが御座いますわよ!」

「それレンゲ」

「蓮華?」

「ショートコントをするな。箸位お前でも使えるぞ。海外の人間でも扱えるのだからな――主に、東の国で扱われてる食事の作法…お前ほど器用な手つきなら直ぐに覚えれる。こう、使うんじゃないか?」

「なんで食に疎い貴方が扱えるんですの?」

「此処の店に入った時から、他の奴らが箸を使ってるのを見て覚えた。郷に入っては郷に従えとも言う――ほら、割り箸使って食え。冷めないうちにな」

「え、けどフォークで巻かずに食べるのって、啜るってことですの?行儀が悪いのではなくって?」

「お前よくセリカが働いてる本人の前で言えたな……焼きそばを食ってる時もそうだったが、こう…ずずずッて啜って食うもんだろ」

「そ、そうなんですの?うぅ、知らなかったですわ…けど、これが普通なら、行儀は悪くない、ですものね…」

「良いこと考えつきました!ノエルちゃん先生。私があーんして食べさせてあげますね⭐︎そうすれば音もなく食べれますよ♪」

「アンタら良い加減にして!!人様の店で何やってんのよ!!!?」

 

 至極真っ当なツッコミが店内に響く。

 ノノミ先輩はどうしてこんなにノエル先生を可愛がるんだろうか…。まあ、お金持ちっぽさそうだし、似た者は類を呼ぶとかなんとやら、かしら。

 

「麺を箸で掬って、レンゲに乗せて食ってみろ。行儀よく食えるぞ」

「あ、だからスプ…ごほん!レンゲがあるんですのね。てっきりスープを嗜むものかと思ってましたわ…」

「ノエル先生、小鉢でホシノ先輩と私の分も取っておきましたので、良ければ…」

「わっ!気が利きますわ!流石はアヤネですわね♪あ、カロンのも…ちょっと頂きたいですわね。代わりに辛いもの、入ります?喉が焼ける感覚が味わえると思いますわよ」

「物は言いようだな…然しまあ、酒を飲む時の辛さとは違うものなのか…ちょっとだけ味見してみるか」

「カロン先生、私のもどう?」

「ふむ…シロコのも折角だし頂こうか」

 

 何やらラーメンシェアが始まった。

 

「ちゅるちゅる……ん、このアヤネが注文した味噌らぁめん…奥深くて濃厚な味わいが…。ホシノの特製味噌らぁめんは…コクが深くて、味わい深いですし…同じ味噌が付いてるのに、違った味わいが楽しめるなんて、凄いですわね!」

「塩…というのはさっぱりしてるんだな。てっきり潮風味のように、しょっぱい味かと思ったが、これはこれでイケるぞ。それにお前、思いっきりのない食い方だな。そんなんじゃ日が暮れるぞ?」

「これでも罪悪感と戦ってますのよ!それにしても…私の激辛らぁめん…見てるだけで唾液が止まりませんわ」

「うへぇ、見てるだけでお腹痛くなりそうだねェ…。あ、私のはシェアしなくていいからねノエル先生。辛すぎるのは身体に良くないし」

「改めて見ると、赤いな……香辛料も調味料も相当入ってるんじゃないのか?本当に食い切れるのかお前??」

 

 唯一、このテーブルの中で異彩を放つのはノエルが頼んだ自家製激辛ラーメン。

 これでもかと言わんばかりに、ドロッドロの赤みがニラと挽肉共に溶け込んでいる。辛味調味料や成分を抽出し、化学合成物質で誕生した激辛ラーメン。

 然も一番上を頼んだのだ――これを食べ切れたらプロフィールの好きなものに辛い物を付け足して良い気がする。

 

「ちょっと近くで見ると、インパクト凄いですね……メニューに記載されたサンプル写真とはまた…」

「……ノエル先生、死なないでね?」

「死ぬだなんてそんな大袈裟な……ここ、らぁめんの飲食店ですのよ?」

 

 ゴクリと固唾を飲むシロコと、隣に座ってるノノミでさえも寄せ付けない10辛特製ラーメンは、見てるだけで生唾が止まらない。

 生体反応による唾液腺が刺激されるからだろう。

 ノエルは早くも覚えた手つきで箸を使い、麺を掬う。

 七味や唐辛子、青唐辛子が刻まれ、粉砕された辛味が麺に染み付いている。

 レンゲに乗せて、恐る恐る口に運ぶノエルに、他のメンバーは見守るように釘付けになる。

 

「……ぅ゛ッ!?〜〜〜ッ゛ッ゛!!!け゛ほッ!こ゛っほ!!こ、これは中々…辛いですわ!!水、水ッ!」

「…………私も食べてみる、か…」

 

 改めて辛みを味わってみるのも悪くはない、とほんの数分前まで考えてた自分を殴ってやりたいと後悔するカロンもまた、恐る恐る口に運ぶ。

 

「ッ…!!?おい!これ辛いどころじゃないぞ!?!何が喉を焼き尽くすだ!!食ってから物申せ!!」

「ひぃ〜ッ!ひいぃ〜〜ッ!舌がピリピリしますわッ!!これ、全然お冷足りませんの!飲んでも辛味が引きませんわ…ッ!!」

 

 熱い、辛い、痛い、トリプルパンチのデスコンボ。

 冗談抜きに、洒落にならない辛さは口の中で留まり続け、自慢の味覚がバカになりそうだ。

 カロンも額に怒りの血管を浮かばせながら、ノエルに八つ当たりする。

 

「二人共……特にノエル先生…汗、凄い…」

「はふっ!はふ…ッ!!んんッ゛…!こ゛ほッ!!以前食べたカレーとはまるで別格ですわね…!」

「いや、それでも現在進行形で食べれてるお前は充分に凄いんだが……」

 

 水を飲み干しながら、追加のお冷をもう一杯飲み干すカロンに、ノエルは大粒の汗をボタボタと垂らしながら、涙目で麺を啜る。

 口の中に入れただけで、完全に敗北を喫してしまいそうな激辛の渦が口の中に入れる度に襲い掛かる。

 味覚が、舌が、口内が、痛覚を通り越して麻痺を引き起こしてしまう。

 七味、唐辛子、青唐辛子、鷹の目、他にもラー油と山椒を加えてるのだ。当然、激辛好きのチャレンジャーも一筋縄ではいかないこの期間限定メニュー。10辛を頼んだのもまたノエルが初めてなのである。

 

「うぅ!御免なさい!ノノミっ、お冷の追加取って下さいまし!」

「む、無理しないで下さいね?本当に、無理しなくても大丈夫ですからね?」

「お、お残しなんてダメですわッ!そんなの、折角作ってくださった方々に申し訳ないですし…!!何より注文した私の非でもありますのッ!辛いッ!本当に辛すぎますわ!!もう、お腹がタプタプになってる気がしますのよ!」

「申し訳ないと思うなら初めて訪れた店で辛いのを一番上にするな馬鹿ッ!一口食べただけで未だに辛味が残ってるんだが…」

 

 言ってることは至極当然なのだが、ノエルの天然さと止まらない馬鹿加減に、カロンの突っ込みが合わさって混沌を招いている。

 テーブルの上やドレスも汗だくで凄いことになっている。

 

「…うへぇ、なんだか見てるだけで本当にお腹痛くなってきた」

「私達、ラーメン食べにきただけですよね?こんな格闘のような雰囲気になりますっけ?」

「アヤネ、気にしなくて良いぞ。このバカが招いた種だ。自分で片付けるのがコイツのけじめだ」

「ちょっと!げほごほッ!人のことをバカバカ言わないで下さいまし!ちゃんと食べてるんだから良いじゃないですの゛っ!け゛ッほ!か゛はッ!馬鹿って言った方が、馬鹿なんですのよ!」

「ちょっと待て、お前…今顔が凄いことになってるぞ」

 

 涙と汗と鼻水ですごい顔になってるノエルの反論虚しく敵わず、思わずニヤケ顔が止まらないカロン。

 指摘されたノエルを見つめる他の生徒たちも、ちょっと笑いを堪えそうになってるのが伺える。

 

「いやぁセリカちゃんの写真も良いけど、ノエル先生のこの顔も写真に撮っておきたいね〜!」

「ホシノっ!?貴女までカロンのような悪魔思考に走らないで下さいましッ!?」

「ん…おしぼり、使う?新しいの頼もっか?」

「お゛ねがい、し゛ます゛わッ…」

「ノエルちゃん先生ファイト〜!⭐︎でももう半分も食べ切れましたね、あと少しですよ!」

 

 少量のラーメンを頼んだノエルが、目の前の激辛ラーメンに苦戦してる間中、他の外野は既に食べ終えていた。

 カロンはお絞りで丁寧に口元の汚れを拭き取り、シロコはセリカからお絞りを追加で注文。アヤネは絶えのない苦笑を浮かべ続け、隣のノノミはノエルを応援している。

 ホシノが端末で写真を撮ろうとするのを、アヤネに止められる。

 

「あ〜…もう、本当に何しにきたんだか……」

 

 賑やかというか、騒々しいというか…

 喧し過ぎる気もするこの団体に対して、呆れを通り越して溜息を吐く。

 正直、ノエル先生に至っては馬鹿加減が凄いというか、ボケたら止まらないというか、世間に疎すぎて自分達と住んでる価値観も違うし、けど…自分達と年端は変わらない。

 

(でも……今まで、こんなにも笑顔が溢れてたっけ?)

 

 遠目で六人を観ながらふとした言葉が頭によぎる。

 ノノミ先輩はいつもニコニコしてるし、ホシノ先輩もヘラヘラしてるし、アヤネちゃんも苦笑いを浮かべてる所とかよく観てるけど…。

 ノエル先生とカロン先生が訪れてから、白黒の世界を彩るように、楽しさに拍車が掛かった気がした。

 借金返済という大き過ぎる目標を前に、楽しんでる余裕なんてないと思っていたけれど……あの二人が来てからこそ、そう思い込んでしまう。

 

(だ、ダメ!騙されちゃ………けど、騙されるって、なんだろ…)

 

 特にノエル先生を観てると、そんな風に考えてしまう。

 当然あの人が騙す理由はないのだろう。そもそもあの人が嘘を吐いたとしても、何となく見破れそうな気がしなくもないけど…。

 黒見セリカはアルバイト先で働く度に、辞めては仕事をするというやり繰りをしていた。

 当然、短期間のバイトという意味もあるのだが、大半は仕事の報酬とは割に合わない卑劣な大人だって存在した。

 

『は?そりゃあお前、予定の金額だからな。不満があるなら辞めろよ』

『貴女はアビドス学校に借金があることを隠してましたね?契約違反として通常支給される金額を50%に下げてっと…』

『おらぁ!キビキビ働けよ!これ全部今日中に終わらなかったら給料全部ナシだからな?!』

 

 いっぱい、騙されてきた。

 人が血と汗を滲んで、バイトをいっぱいして、頑張ったのに…お金さえ支給されないタダ働きなブラック企業の会社もあれば、話が違うこともいっぱいだった。

 ノエル先生とカロン先生も、そんな大人の人達なんじゃないかと――けど、こんな風に生徒達と仲良く楽しんだり、馬鹿だけどちゃんと私達のことを大切に思えてるノエル先生に、ストーカー行為こそするけども真剣になってまで生徒のことを見ようとするカロン先生が、本当に自分達に手を貸してくれないなんてことはあるのだろうか?

 

 柴関ラーメンの、大将さんには凄く感謝してる。

 アビドス自治区での飲食店は少ないし、行きつけのお店で人手が足りなかったところを、アルバイトの話をしたら快く受け入れてくれたし。

 分かってる――悪い大人ばかりではないことを。

 だけど……

 

 

「はふうぅ〜〜ッッ!!た、食べ切りましたわッ!!」

 

 

 ノエル先生の完食の合図に、直ぐ我に返ったセリカは、いつもの団体に目を遣った。

 

「わあ〜♪ノエルちゃん先生完食お疲れ様です!いっぱい、頑張りましたねッ⭐︎」

「ひいぃ〜〜…口の中が辛味の暴力で支配されてますの…っ。もうお水も飲めないのに、い、痛い…辛くて痛いですわ…!!」

「そう言えば辛味って正確には痛覚らしいね〜?ノエル先生、ひょっとして痛くて激しいのが好きなのかな〜?」

「へぇ〜…そうなん、ですのねッ。けほ!けほッ…!けど、この辛味も病みつきになるんですのよね…」

「アレだけの辛味で根を上げていたのにまだ懲りないとは…流石、被虐の名は伊達じゃないな」

 

 胃の中がグツグツとマグマが煮え滾ってる感覚がして、ノエルは自分のお腹をさする。

 流石にスープまで全部は飲み干せてはいないけれど、それでも完食した器がカラリ…と物語っていた。

 口の周りも、何もかもが辛味で味覚も馬鹿になる程麻痺を起こしてるノエルは、当分辛い食べ物は摂取したくないと言わんばかりに、目を閉じながらべろを出して冷やそうとしてる。

 

「あっ!カロン先生…」

「ん?なん――」

 

 会計をしようと立ち上がるカロンに近寄るノノミは、顔を近付け周りの生徒に聞こえないように小声で金色のカードを取り出す。

 

「先生、こっそりこれで支払って下さい」

「これは…私とノエルが使ってるやつと同じ……ふん、どうやら大人に近いのはお前だったか」

 

 金色のカードには小さな文字で『セイントネフティス』と記されていた。確か埋葬の女神を冠した神話の…。

 恐らくカロンとノエルの財布事情を察したのだろう。カロンは数秒黙り込んだ後、ノノミにカードを返す。

 

「え?か、カロン先生?」

「要らぬ心配を掛けたな。私なら大丈夫だ、安心しろ――ホシノの提案とは言え、どの道この店に行く大きな要因となったのは私だ。此処は大人に任せておけッ」

「い、良いんですか?」

「うむ。それにガキは食うのも仕事だ――人様の財布事情なんか気にせず、お嬢様はエスコートされるんだな」

 

 まあ、なんやかんやでコイツらは借金返済の為に汗水垂らして頑張ってるのも事実で、多少無理をしてでもセリカの事情を確認しようと走った結果なのだ。

 ホシノが上手い具合に話を立ててくれたお陰で飛び火はなかったのもあれば、彼女なりの心遣いなのかもしれない。

 

「それにお前は今までコイツらの飯を奢っていたのだろう?お前も学生だ――偶には奢られる身にもなってみたらどうだ?存外、悪い気はしないと思うぞ?」

「そ、それじゃあ…遠慮なくッ」

 

 申し訳なさと同時に、気配りやカロンの配慮に嬉しく思えたのか、優しい笑みを浮かべて軽く頭を下げる。

 

 ――十六夜ノノミ。

 小鳥遊ホシノと同じく情報が足らず、どう言った人物像か余り把握していなかったが…少なくとも、アビドス対策委員会に於けるムードメーカー且つ、皆のことを一番に思える良心的な生徒なのだろう。

 

 結局会計を済ませたカロンは、満腹になった生徒達と共に柴関ラーメンを後にした。

 

「いやぁ〜ゴチでしたっ!カロン先生とノエル先生ありがとうね〜!!」

「ご、ごち…ですの?」

「ご馳走様の略だな」

「ん、お腹いっぱい。それに、久しぶりに笑ったかも。ノエル先生とカロン先生とまた皆んなで柴関ラーメン食べに行こっか」

「ふざけんな!!二度と来ないで!仕事の邪魔っ!でていけーっ!!」

「私達を山賊や盗賊か何かだと思い込んでないかこのメス猫…?」

「ばーかっ!カロン先生のバ〜〜ッカ!ホント嫌い!あんた達全員死んじゃえ〜!!」

 

 やっぱり猫と烏は不仲なんだなとノエルは端から眺めながら理解し、カロンはやれやれ…と冷や汗を流しながら背中を向ける。

 

 

 ――やっぱり、やっぱり認めない!私はこの二人を認めない!!!

 

 

 

 

 

 

 

 





セリカの「サイッテー…」発言の時の表情は、完全にブチギレだ時の顔です。
シロコがめっちゃノエルに対して甘い理由は、一夜過ごしたからです。決して百合すぎる展開になった訳でもなく。
因みに何故ノノミがノエルに対して好感度が高いのかというと、確かにノノミ自体は原作でも先生に甘えて欲しいと言った印象が見受けられるのですが、一番は自分に似てる部分があるからだと思います。
ノノミはネフティス会社の娘
ノエルはチェルクェッティ家の娘
どちらも超が付くほどの名門家お嬢様です。
ノノミはその気になればカードで借金返済できますし、ノエルも家の財産がかなり高いのと、カジノミスティで人生変えれる程の莫大な資金を手に入れた(一時的に)ので、惹かれる部分があるのだと思います(小並感)

それはそうと今回結構会話パートが多かったです。

次回「被虐のセリカ」

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