被虐と赤眼の教導者   作:トラソティス

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本編を始める前に雑談を。
ブルーアーカイブと被虐のノエルのクロス作品。ノエルとカロンがいる中で、オリジナル展開は作るのか?について。
作者の考えとして当時は無しだったのですが、ノエルとカロンのことを考えると今後とも作られる可能性はあります。とだけ述べておきます。
理由としては単純にノエルとカロンだけが居て、生徒達とのお話も豊かになるしそれでも面白いな、とは思ってたのですが、それだけじゃ物足りないなと。かと言って盛りすぎるのも雑味が湧いてしまうと。
なので原作両方とも納得のいく、自分なりの解釈と構造でやっていけたら良いなと思います。少なくとも最終章までは全然、大丈夫だと思います。
まあ、そもそも他作とクロスした時点である程度は…っていうのもありますけどね!
ところで皆様、当然だとは思うのですがアニメブルーアーカイブ のノノミの自己紹介見ましたか?あの手のモノマネやってみてください。腕が壊れます。


#マルチ#クリスティーナだお♡#肩幅おじさん#ノノミ柔軟#伏線回収#犯罪者集団#むぎめしいし#そうだ、銀行強盗行こう


story7『アビドスの会議』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある高層ビルのオフィス――窓ガラスに映る夜景からは、幾つにも並ぶ建物ビルが星のように光が照らしているのが見える。これがまた何とも美しいことか。

 仕事を終えた後はこうしてワインを嗜みながら、キヴォトスの夜景を眺めるというのがまた、何とも乙なことだろうか…。

 だが今日は、全く以ってして最悪で、酒など飲む気にもならなかった。

 

「失敗した…――だと?」

 

 これは昨夜の出来事である。

 カタカタヘルメット団がアビドス自治区――廃校寸前のアビドス別館を占領しようと、傭兵を雇い奪わせるように命じたのだ。

 時間は経ってはいるが、奴らとて武力を持ってすれば何れ弾薬も補給物資も底を尽く。

 仮に要請を頼んだところでこれを聞いてくれるものなど誰もいない。況してや廃校寸前以前に9億という破格な借金を背負っているのだ。

 利息を返済するだけでもやっとな奴らに、最早策はないのだと。

 そして今日の朝――ヘルメット団のリーダーと思わしき者から連絡が入った。

 

『今日を以ってしてアビドス高校は我々の手に堕ちる――』

 

 それを聞いて漸く念願が叶ったのだと。

 あの邪魔で鬱陶しい生徒達を追い払い、我々カイザーの手に落ちるのだと。

 だがその願いは叶わなかった。

 ヘルメット団が緻密に練っていた兵糧攻めの計画も、傭兵達の武力も、全部アビドスの生徒達によって無に帰したのだ。

 学園の占領敵わず、返り討ちに遭うどころか雇用していたヘルメット団の殆どがヴァルキューレ警察学校により連行され、更にたった今連絡が入ったのが、アビドス生徒拉致失敗。

 生徒の誰でも良い…うち一人を確実に潰せば、アビドス学園の内部も崩壊し、部活が成り立たなくなるという目論見さえ潰された。

 

「……これだから、使い捨ての傭兵達は使えん」

 

「何かあったのかね?」

 

 電話を切り、悪態を吐くカイザーコーポレーションの大企業たる社長に、老人のような男が訝しげな目を遣る。

 

「いや、なに……貴方の言っていたアビドス生徒の拉致なのだが…我々が雇った傭兵達では全くもって使えなくてな…困ったものだ」

 

「なんと…?ふむ……折角、ヘイローを持つ者に()()の実験を試したかったのだが……いや、流石に早計か」

 

 髭を生やした老人は、カイザーコーポレーションの社長とは違い、生身の人間に近い存在だった。

 だがそれは決して人間とは呼べない存在であり、明らかに異常を来していた。

 紛れもなく()()による領域の者であり…()()ともまた違った異常な存在。

 生徒を始めた人間の部類に近いものの、根本的な存在から理解不能な存在感は、まるで蛇に睨まれてるかのような錯覚に陥る。

 

「多額な資金に、武器まで丁寧に与えていたのだが…幾ら子供とはいえ、我々の期待に応えれないのであれば、今回の取引は手を引こう」

 

「ッ!それは……」

 

「勘違いをするな、カイザーPMC理事よ。今回の一件に限ってはだ……君が言ったのだろう?今回の一件でアビドス自治区はカイザーコーポレーションの手に渡ると。そしてアビドス自治区の一部の領域を()()に提供すると……その為に一部支援をして欲しいと。然し可能性の見込みがなければ、それに投資する物好きなどいるはずがないことくらい、利益を優先する君達カイザーが一番よく知ってるはずだ」

 

「………」

 

 

 カイザーコーポレーション――カイザーPMC理事

 

 

 カイザーは苦虫を噛み潰した声色で、唸り声を上げる。

 何故だ?何故アビドス学校を占領することができない?

 カタカタヘルメット団の実力は決して高いとは呼べないが、それでも奴らは借金に加えて弾薬も補給品もまともに補給する暇もなかったはずだ。

 毎月の利息を返済するだけでやっとな奴らが、まともな部品を補給することも不可能だ。

 それとも誤情報を掴まされたのか?

 

「悪いね…我々も慈善家でもなければ無償で人助けをする大人ではないからな。それに私達はカイザープレジデントの肩を持つわけでも味方という訳でもない。()()()の言うあくまで契約関係に似たようなものだ。もしまた良い情報が入れば、その時はまた連絡を入れてくれ」

 

 白髭の老人がソファからゆっくり立ち上がると、蛇の尻尾を唸らせながら帰っていく。自動ドアが開き、カイザー理事を後に姿を消した。

 消えてゆく蛇人間の老人を見送った後、限界に達したカイザー理事は拳を強く握り締め、ダァン!と台を叩く。

 

「何故だ!?奴らの危機的な状況下、脱することは不可能のはず!それともあの副生徒会長が…?いや、幾ら奴とはいえ主力戦車に対空砲、更にはあの老人が全面的に兵器と金額を支援し投入したのだ…それを…」

 

 全部、アビドスが狂わせた。

 奴らは本当にしぶとい…。絶対に完済不可能である9億の借金を叩きつけられても利息を必死に返し、更にはヘルメット団と名乗る数グループや不良達を雇って嫌がらせとして武力で訴えた。

 

 それでも、抵抗するか。

 それでも、無理なのか。

 それでも、不可能なのか。

 

「……所詮、格下のチンピラごときではあの程度が限界という訳か。態々あの老人に頭を下げてまで協力形態に持ち込めたと言うのに、このザマとは…恩知らずめが…ッ」

 

 あの老人に恥を掻いてしまった。

 カイザー理事として務め、此処まで地位を登り詰めた自分が、頭を下げる側に回るなど…不快不愉快この上ない。

 何がカタカタヘルメット団だ…使えない奴らだ。

 

「こうなれば…専門家に頼むとしよう。いや、初めからこうした方が良かったか。生徒には、此方も生徒をぶつけるべきか…」

 

 目には目を、

 歯には歯を、

 生徒には生徒を。

 

 少数精鋭ではあるが、だからこそ武力も有れば奴らアビドスに対抗する手段とも呼べる。

 

 プルルルル、プルルルル…コールが一回、コールが二回、そして三回目のコールが鳴る途中で、受話器の相手から声が聞こえてきた。

 

『はい、どんな事でも解決致します。便利屋68です』

 

「嗚呼…便利屋よ。仕事を頼みたい――今直ぐにだ…」

 

 沸沸と湧き上がる怒りを押し殺しながらも、ある起業家に連絡を入れるカイザー理事と名乗るPMCの代表取締役は、便利屋68と呼ばれる生徒に依頼を出した。

 

 

『仕事を遂行できなかった不届き者達を制裁した後、アビドス学校の生徒達を一人残らず捻じ伏せろ。手段は問わん――学校を占領さえすれば良い。それが条件だ』

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「セリカちゃん!無事で本当に良かったです…!」

 

 セリカが目覚め、カロンと個人面談を終えてから一時間程経過して、対策委員会のメンバー四人とノエルが

 

「えっと…皆んな、心配掛けて本当にごめんね…ッ?それに、アヤネちゃんも…カロン先生から聞いたけど、泣いてたって聞いてたし…」

 

「へ?あっ…――!?!カロン先生!そう言うのは別に言わなくたって…!!」

 

「いや…別にそう言う意味で言ったつもりではないぞ…。ただあの場の流れとして、真実を吐いただけで…お前を辱める為に言ったわけではなくだな…」

 

 自分が涙を流して心配していたことをセリカに態々公言されたという事実に、羞恥心が込み上げてくるアヤネは必死に抗議する。

 カロンも恥ずかしがるとは思ってもいなかったのか「悪かったって…」と目を細めながらまあまあと宥める。

 奥空アヤネ――個性的過ぎるメンバーの暴走抑止力にもなる廃校対策委員会の一人であり、会議や打ち合わせなど司会役に回ることが多く、突発的な彼女達と比べてかなり常識人な部類だろう。

 よく苦笑を浮かべたり、一歩後ろに下がって見守ったり、オペレーターとして皆の支援やサポートに回ったりすることが多い彼女が、昨夜セリカの身の危険を感じ一番に取り乱していたのだ。

 結局カロンの救出劇もあってか、セリカが無事だったのもあり、今となっては恥ずかしいことだと口では言うが、友達の為に涙を流せる友人というのは素敵なものだ。

 

「ふふッ、それくらいアヤネはすっごく優しい子なんですのよ!私も、アヤネの気持ちも分かるから…共感できますわ」

 

 にっこりした微笑みを浮かべながら、ポンッと肩に手を置くノエルに対して「それ、慰めになってません…」と口を尖らせながらトマトのように耳まで真っ赤に顔を染めるセリカは、もう耳を塞ぎたい羞恥に陥ってるのだろう。

 

 ノエルがカロンと正式な契約を交わす前のこと、自分の過ちが原因で親友を危険な目に遭わせてしまったことがある。

 スケープゴート契約によって死んだ筈の魔女が生きていて、市長にとって都合の悪いノエルを消す為に、誘き寄せる手段として爆弾魔を使い親友を人質にされてしまったのだ。

 あの時はアヤネのように泣き噦ってたのとは違い、自分さえ生きていなければ良かったとさえ後悔した。何もかもが卑屈で、被虐に苛まれ、己の醜さを何度も呪った。

 だからアヤネの気持ちは理解できるし、寧ろ自分とは違ってなんて素敵な生徒なんだろうとさえ今も本気で思っている。

 もしこれを本人の前で言うと恥ずかしさの余り怒られてしまい兼ねないので、これ以上は言えない。

 

「い、いっとくけどカロン先生!この程度でアビドスの役に立ったとは思わないでよね!借りはいつか必ず返すから!!」

 

「ん?ああ、それはコイツらが来る前にも話して…」

 

「皆んなの前でも念の為に言っておいただけだから!!察してよバカ!!」

 

 皆の前では素直になれないセリカは、王道的な発言をカロンに突き立てる。

 蓄積された疲労と、精神的にもいっぱいだった彼女は、初めてカロン先生の前で本音を晒したものの、あくまで二人っきりの時だけだ。自分の苦悩を肯定してくれたカロン先生に対する、セリカなりの信頼的な発言でもある。

 昔なら「もう私達の問題に関わらないでよ!」位、突き放していたはずなのだから。

 ――受けた恩は必ず返す…か。

 これも一種の契約のようなものだろう。感情の起伏が激しくて、衝突することは多いが、彼女なりに認めてもらえたという解釈で良いだろう。

 それに…これもまた一つ言い換えれば、お互い信頼を築く悪魔の鎖で紡がれた契約関係を現した解釈とも読み取ることも可能なのだから。

 

「はいはい、察しの悪い大悪魔がセリカお姫様のご希望に答えれず、誠に申し訳ありませんでしたッと……」

 

「はぁ!?お、お姫様って…何言ってんのよバカ!変態!!ドスケベカラス!!」

 

 何故この猫娘は何か口を開けばバカだの変態だの罵詈雑言を飛ばしてくるのだろう。

 そして何故毎度毎度顔を真っ赤に染め上げるんだこの牝猫は。

 端から眺めてたホシノは「若いって良いよねェ」と温かい目で眺めており、セリカは「うっさい!だから歳変わんないって!」といつもながらの突っ込みを入れる。

 怪我も本当に完治したようで、バイト漬けの疲労も見違えるほどに消えてスッキリしたようだ。

 

「せ、セリカ…その、本当に怪我は大丈夫なんですの?なんか、ロケットランチャーで撃たれたとか聞きましたけれども…」

 

「へ?あッ、ノエル先生…えっと、大丈夫よ…その…ノエル先生にも心配掛けちゃったわね…」

 

 セリカはノエル先生に対して強く言葉が出せない。

 カロン先生は揶揄ったり、デリカシーの配慮が欠けてたりするので、自然と反発的な態度を取ってしまうのだが、ノエル先生は違う。

 私のことを優しいと言ってくれたり、バイトをしてる姿を見ても応援してくれたりと、悪い所が全くない綺麗な人だ。

 ノエル先生が私達と年端が変わらないから…ッていう主張も大きいけれど、一番は他の大人や不良生徒達とは違って、こう…言葉では表現できない不思議な気持ちになるというか…。

 

「…本当に、良かった……」

 

「へ?はっ!?ちょッ…!な、何してんの!?」

 

 優しくセリカの頭を撫でる。

 柔らかくて、細く綺麗な指は彼女の髪から猫耳にまで触れていく。

 ノエルにとってこう言った経験はもう二度としたくないと、親友を自分の復讐に巻き込んだ時から決めていたから。

 カロンが何とか助けたから良かったものの、ひょっとしたらセリカが自分達の手の届かない場所に連れ去られていたかもしれない。

 手遅れになっていたかもしれないし、砂漠の何処かへ…いや、もっと違う別の自治区に連れて行かれたかもしれない。

 怪我の治療も受けれず、ジリアンが誘拐されて監禁されていた時と同じような悲惨な扱いを受けていたのかもしれない。

 かもしれない――そんな可能性の話が、あり得たかもしれない不確かな未来を想像する。

 それは、自分が最悪な道を歩んでしまったから、考えうることができる未来。

 

「もしセリカの身に何かあったら…もし、貴女が酷い目に遭わされていたと考えると……死ぬことよりも辛くて、心が引き裂かれそうな程に辛いですもの…だから、無事で本当に良かったですわ」

 

「あ、あぅぅ…そんな、大袈裟な……」

 

 ――どうしてこの人は、平然と恥ずかしいことを言えるのよッ!?

 調子が狂い、瞳の中は螺旋のように渦巻いてしまう。こんな真剣な眼差しで、況してやそんな風に言われると弱くなってしまうのは、セリカが良心的な生徒の模範だからだろう。

 ノエルは知っている。

 大切な人が破滅へ向かうこと、傷付かれることがどれだけ辛いことか。先生だろうと、個人だろうと、大切な人の身に危険があれば、心配になるのは当然だ。

 それにセリカは襲われてしまったのだから、非は完全にカタカタヘルメット団の方にあるし、心配を掛けたからと言って必ずしも責めることにはならないのだから。

 

「ッッ〜〜〜!!!わかった!分かったから!元気!元気だしもう二度とあんなヘマ起こさないから!!恥ずかしいから辞めてってば!!」

 

 ギャーギャーと大きく騒ぎ出すセリカは、羞恥心が堪えきれず我慢の限界に達したようだ。

 シロコは羨望の眼差しを向け、アヤネは相変わらず苦笑を浮かべてはいるものの内心はノエルと同じ気持ちで、ノノミは二人の可愛さにスマホで写真を撮り、ホシノはカロンの隣で「うへぇ」と温かい目で眺めていた。

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 セリカの復帰祝い(?)も終え、彼女の気持ちも整理が付いたことで、何とか落ち着くと、教室の机を四角形に囲い、皆んなが囲むようにして椅子に座る。

 ホワイトボードを前に、アヤネとカロンは立ちながら、アビドス対策委員会による借金返済の会議を開いていた。

 

 

「さて…黒見セリカが無事復帰を終え、対策委員会が一丸となって『借金返済』に取り組む契約を結んだことで、今からその問題に取り組む会議を開いて行くぞ」

 

「なんか…私が問題大有りのように見えるのは気のせい?」

 

 セリカが眉を顰めながら訴えるも、カロン先生は " 話を続けるぞ " と言わんばかりに、敢えて突っかからずに話を進めて行く。

 

「嗚呼…その前に、セリカは不在だったからな…会議を始める前に事前確認として契約の説明をしておくぞ」

 

「契約の説明?」

 

 鸚鵡返しするセリカに、カロンは軽く頷く。

 それは以前、セリカが「大人なんて認めない!」と教室を飛び出した後、残ったメンバーに契約の方針、条件を話し合っていたのだ。

 セリカは飛び出した後、扉越しである程度会話は聞いていたものの、借金返済による条件を聞いていなかったのだ。

 なので彼女が不思議そうな顔を浮かべるのも仕方のないことである。

 

「――我々はこの借金返済という願いに関しては、なるべく代償を背負わせない範囲で解決して行く…これは絶対だ。故に、無茶な要求と願いは一切受け付けない」

 

「?ど、どういうこと?」

 

「そうだな…私達大悪魔は、言うなれば願いを叶える奇跡のような、絶対的なる存在だ。9億6235万の借金を返済してと願えば、今すぐにポンッと大金が手に入るぞ」

 

「へっ?え!?本当に!?!嘘ッ?!いや、流石に騙されないわよ?!」

 

「うむ、まあ…その反応が普通ではあるが…私は決して嘘は吐かないからな。事実だ――」

 

「いやいや非現実的過ぎるでしょ!?大体そんなことが可能だったらどうしてもっと早く…」

 

「代償なんだよね…カロン先生」

 

 セリカの当然とも呼べるリアクションを遮ったのは、珍しく落ち着いた顔立ちで申し立てたホシノだった。

 

「代償?それって最初に話した背負わせない範囲云々?」

 

「そっ、セリカちゃんならそういう反応を取っちゃうけどさ……考えてみな〜?カロン先生とノエル先生が共有する資金で借金返済に充てるのなら兎も角、契約によって発生する願いなんだよね?それなら必ずリスクが発生するはず。カロン先生にお金を要求してそれで終わりなんて都合のいい話があれば、学園都市キヴォトスは間違いなく権利を求めた戦争が始まっちゃうほど、話が良過ぎることになるよ〜?9億の借金を解決できる願いの代わりに、それに伴う代償が発生する。そうだよね、先生?」

 

 ホシノの解説に、カロンは目を丸くする。

 確かに以前、その話はした――なのでホシノだけでなくアヤネやノノミ、シロコもそれを理解していて当然なのだが…ホシノにしてはヤケに真剣な声色だった。

 本当に、流石は副生徒会長――こう言う時は鋭く、契約に対する重みも敬いも、確りしている。嘗てのノエルに見せてやりたい位だ。

 

「よく理解しているな。その通り――9億6235万全額を私達が目の前で出したとしよう。それはこのアビドス対策委員会全員が一丸となった願い…それを私とノエルが承り、契約を交わした時点で願いが叶う。本当に今この場で札束の…大金の山が埋め尽くすだろう。

 だが現実とは上手く行かず、況してや契約である以上必ずしも都合の良い上手い話ではない…私たちは願いを叶える代わりにそれ相応の代償を引き取る。ひょっとしたら黒見セリカに対して『両手足を奪う』なんてこともあり得るからな」

 

「はっ?え…ちょっと、怖いこと言わないでよ……」

 

「カロン…それは…」

 

 カロンの言葉に、ノエルは胸を抉られた気がした。

 式典奏者になる為に、ピアノコンクールで一位を取る為に、ステラステージ社長の死を願った。

 それは取り消すことも出来なくて、今振り返れば冷静ではなかったとはいえ、裏ではバロウズ市長やシビラが関わっていたとはいえど…罪を回想されるというのは、重い。

 流石のセリカもカロン先生に対してちょっとした恐怖心を抱いたような気もしなくはない。

 

「真実から目を背けるな、嫌なことを聞いて根を上げるな。大悪魔の願いというのは、本来は危険なのだ。アヤネもシロコもノノミも、セリカと同じ気持ちだったと思うぞ。魂の取引こそ私達の…悪魔の契約。然しそれは代償に見合った話で、そして代償をどうするかは我々が決める。そうならない為に、私たちが最善の選択肢を選び、そしてお前達に無茶な代償を押し付けない為にも、皆んなで解決して行くんだ」

 

 もしかしたら、シロコには『人生の破滅』として、自分に関わってきた人間を苦しませ、破滅の呪いを授けていたかもしれない。

 アヤネには『半身を失う』という代償により、願いを叶えた結果として生命維持装置を付けられていたかもしれない。

 ホシノには『命を頂く』という代償が発生し、死んでしまうかもしれない。

 ノノミには『記憶喪失』として、アビドスとして出逢ったことや自分の存在そのものを失くし、己を失うかも知れない。それが精神的か肉体的か…両方かは不明だが。

 

 なにより…もし昔の私なら、喜んで生徒達が破滅へ導く不幸な有様を高笑いしていたのかもしれない。

 …尤も、私が人の不幸を笑う権利さえないがな。

 

「うん、カロン先生がもし私たちのことを考えない大人だったら、問題は解決しても根本的なる解決にはならなかっただろうし、それ以前に私たちの居場所が失われていたのかもしれない」

 

「確かに、セリカちゃんと同じように当時はそれを聞いて怖かったですけど…でも、先生がそうならない為に頑張ろうとしてくれてるのは事実ですから…命あるだけありがたいなって思います」

 

「うんうん!それに、以前ホシノ先輩からもカードで借金完済させようとした時も、止められましたからね。もしカロン先生の今言ったお願いが通っていたら、そもそもホシノ先輩が止めていなかったですもん」

 

 シロコ、アヤネ、ノノミは口を揃えて言葉を並ばせる。

 最初はアヤネも恐怖を抱いたし、シロコは絶句し、ノノミも驚いた。だが、それも当たり前だ。

 そもそも9億なんて借金は簡単に返済できないし、まともなやり方での完済など、利息も含めて足りない。

 悪魔の契約とはそもそも、常人では叶えられない願いを、契約を以てして叶えようとするのだから、危険なのは仕方ないことだ。

 カロン先生曰く、こういうのを『魂を賭けたイカサマ』と呼んでいたし、それは至極当然だな…とも思った。

 それが可能なのに、生徒達の安全を第一に考え、それをしなかった。

 

 だから小鳥遊ホシノはその日確信した――この人は、あの人とは違うと。

 信頼しても良い人なのだと、この時点で信用したのだ。

 

 もし生徒達が危険な道に進みそうになり、そして犯罪に手を染めようとした時、ホシノは絶対に止める。

 ノノミがカードを使用して完済させようとしたのを止めた件に関して、それはカロン先生が言った言葉と同じ理由だから。

 

(……カロン先生は、本当に今までの大人と違うんだね)

 

 最初は大人なんて嫌いで、信用して良いものばかりじゃなくて…信じなかった。

 シロコちゃんが連れてきた二人組も変な先生だな〜位の認識で、ノエル先生は頼りなさそうで、カロン先生はアイツと似てて…でも実際は違った。

 カロン先生は契約を自分の利益として見ずに、本当の意味で誇りに思いながら、胸を張って堂々と語る。

 私達が危険な目に遭っても知らないふりだって可能なのに…

 

 

『何よりそれは私の美学に反する。お前達が覚悟を以て、心の奥底から願わなければ、私とノエルは願いを叶えない。だから、黒見セリカがお前達と同じように願いを込めない限り、生徒と皆んなが一丸とならない限り…私もノエルも、お前達の契約は交わさない』

 

 

 二つ目の条件――それは黒見セリカが先生を認めること。

 それが契約を交わす為の必須条件だった。

 アビドス対策委員会の願いである以上、メンバーの一人でも欠けていれば、それは願いを叶える契約を交わせないと。

 でもね、セリカちゃんは『私達が一丸となって借金を返済しなきゃ!』とも言っていた。

 それはセリカちゃんにとっての夢でもあるから。

 生徒の想いを尊重して、お互いが対等な関係を築き、その上での契約……カロン先生が大人として意図してようと、そうでないにしろ…もう充分過ぎるほど、私たちのことを考えてくれてるってのが、伝わったから。

 私もいて、シロコちゃんやアヤネちゃん、ノノミちゃんにセリカちゃん。全員が揃って始めてのアビドス対策委員会で、契約を以てして漸く物語が始まるんだって。

 

 何よりカロン先生は無意識かもしれないけど、契約のことについて語る時は凄く真剣で、胸を張りながら誇張してるんだよね。

 契約そのものに対して、信念と理念、美学、誇り、その全てが詰まってるんだろう。

 

 だから…ひょっとしたら、本当にこの人達なら信じても良いのかなって、思ったりもするんだ。

 

「そ、そう…だったのね…。そ、そう言うことならもっと早く言ってよ!!全く、ビックリしたじゃない…」

 

「いや、だから今それを話したんだろうが…。早いも何も、物事には順番があるということを知れ……」

 

 全く、驚かさないでよねこのカラス…。

 何を言ってるんだこのメス猫は…。

 

 二人の心はシンクロ率が高く、同時に心の中で愚痴を呟いた。やはり猫とカラスは因縁があるというのは眉唾物ではないらしい。

 

「じゃあ…その点について、契約による危険はないということ?」

 

「内容にもよるし、生徒達を危険な目に遭わせない…という点に関しても連邦生徒会長との契約によって制限されているからな。代償は其方へ行くんだろうが…」

 

 ここでカロンはふと思う。

 連邦生徒会長が代償を背負うということは、このキヴォトスで何千もある学園都市――その生徒達の願いを何回も叶えるとなれば、代償は計り知れず、逆に払えきれず、契約を満了してしまう可能性も捨てきれない。

 そう…ひょっとしたら我々は再び闇に帰る可能性もあるのだと…然し、なんだろう。

 これはあくまで予感なのだが……そう、ならない気がしてきたのだ。

 普通、人間が何度も契約を交えれば、魂が払えきれずに死ぬ可能性がある。

 なので本当ならキヴォトスに訪れたところで、契約の3、4回が限度であるのだが……もし、私達が残っていたとすれば、ひょっとしたら…この世界にいる大悪魔としての存在は、意味合いも込めて変わる可能性も…

 

「――ロン…ッ。――カロン!」

 

「ッ!」

 

 ノエルの呼び声に、我に帰ったカロンは驚嘆の瞳を丸くする。

 

「もうっ、急にボーっとして…どうしたんですの?それとも疲れがまだ残ってるのかしら?」

 

「いや、すまん。何でもない……ちょっと考え事をしていた」

 

 ……――一旦、この話は置いておこう。考察など、また後で幾らでも可能なのだ。

 それより大事なのは、アビドス対策委員会の借金返済。そしてその問題を解決するための会議だ。

 気を取り直して、カロンは軽く黒シャツを整えながら、本題に入ろうとする。

 

「話を続けるか…。さて、セリカを始めた契約への事前報告と確認も終えたことだ。此処から本題である会議を始めていくとしよう。アビドス高等学校借金返済の問題に取り掛かる為にも、先ず最初にお前達のことについて詳しく知りたい」

 

「と、言いますと…?」

 

「ホシノ率いるアビドス対策委員会のメンバーは、私たちが来る前から借金返済の問題に取り掛かっていたと聞く。では具体的にどのような手段で資金を調達し、返済に充ててるか、そこから知っていきたい」

 

「おぉ〜!会議らしいね!いやぁ流石、アヤネちゃんとカロン先生が並ぶと実家のような安心感があるね」

 

「ちょっと…!もぉ、ホシノ先輩ってば…じゃないや、えっと――小鳥遊さん。揶揄うのはやめて下さい」

 

 何で苗字で呼んだのだ?というカロンの疑問を他所に、ホシノが「うへぇ〜…アヤネちゃん会議になると真面目過ぎて苗字読みするんだからぁ。おじさん寂しいよ」と机にのんびり伸ばすような怠慢とした態度で言葉を呟く。

 

「?苗字?」

 

「あっ、えっと…あはは。こうした会議ですし…やはり上の方で名前を呼ぶべきかなって」

 

 直ぐに疑問に思ったノエルは、思わず反射的に口に出してしまったようだ。その事にアヤネは苦笑しながら答える。

 

「え〜……そんな堅っ苦しいというか、他人行儀というか、ぎこちないから私は辞めて欲しいけど…」

「そうか?私はアヤネの提案は悪くないと思うぞ。こう言う時こそ公私混同は避けるべきだ。何より気持ちに確り整理をつけれるだろうに…会議、研究、作戦、こう言ったものはより意識を高める為にも良い案だと思うがな」

 

 猫とカラスの意見が割れた。

 セリカは同級生であり下の名前で呼び慣れ合う親友だからこそ抵抗感があり、カロンは仕事に対して忠実な為、アヤネ思考に偏るのだろう。自分も意識はしてなかったが、アヤネの提案に「悪くない」と思えたのも、彼女の真面目さに感化されたことが窺える。

 

「まあ、私は何方でも…それに苗字で呼ぶ事中々少ないですし…作戦会議はカロンとは何度もしたことありますけれど、こういう生徒達で寄り添って会議をするというのも、高校以来ですわね!」

「それに何だか委員会っぽくてイイと思います〜⭐︎ね、ノエルちゃん先生ッ♡」

「ノノミ、その理屈で言うとお前のちゃん付けも禁止になるぞ」

「あら、なんということでしょう…」

「考えてなかったのかお前は…」

「ん、でもカロン先生やノエル先生もいる訳だから…今日くらいはこう言うのでいいと思う」

「う゛…ッ。ま、まぁ…先輩達が言うなら……私は別にそれでも、良いけど…」

 

 アヤネの意見に過半数が占めた結果、セリカは溜息を吐きながら折れた。確かに折角の会議なのだから、普通なら苗字呼びが普通なのかもしれないが…。

 

「えっと、カロン先生。話を戻しますね――最初に資金調達については、色々御座いまして…。セリカちゃんのようにアルバイトで資金を貯めたりや、苦情解決へのボランティア活動に指名手配犯の確保、誰も使わなくなったアビドス教室の資材や希少価値の高い骨董品の売買など……こう言った活動によって資金を調達しております」

 

「ふむ…そう言えばヘルメット団を壊滅した後もヴァルキューレ警察学校に引き渡し、報酬金を受け取っていたな。成る程、賞金稼ぎも可能なのか……一ヶ月にどれほど稼いだのだ?」

 

「えっと…基本的には760万円から780万円…多くて800万円ですね。ですが毎月の返済利息が788万円……到底、9億借金返済が追いつかない上に、利息すら追いつけないことも多く…」

 

「そう、現在我が校の財政状況は絶望的…破産の寸前しかないってこと!はぁ〜……これを考えるだけでため息が出るわ」

 

 利息の返済さえも…思わずノエルとカロンは二人して固唾を飲む。

 ハッキリ言ってしまえば本当に借金返済など夢のまた夢であり、況してや先生としての初めの仕事にしてはハードルが高過ぎる。

 ラッセル・バロウズへの復讐を貫いた後の初めての契約がアビドス借金返済――どうやら自分が契約する内容はどれも一筋縄でも二筋縄でも行かないようだ。

 五人揃って何百万も稼げれるのも充分過ぎるほどに凄いのだが。

 

「このままじゃ廃校!もし廃校になったらカロン先生とノエル先生による私たちの契約も破綻することになるの!皆んな、分かってる?もういつまでも今まで通りじゃダメ!より効率的に稼ぐ為には、高額入手する情報が必要なの!!」

 

 セリカの覇気ある声に、カロンは彼女に対する頼もしさを感じていた。

 ――そう言えば、コイツは会計士担当だったな。

 アルバイトでの資金の遣り繰り、貯金に利息返済、金額を管理する者にしてはヤケに説得力がある。

 ふむ…頑固な節は有るものの、やれば出来るじゃないか。やれやれ、頼もしい限りだ。

 

「ほう、セリカにしては随分と自信があるようだが…その肝心の高額な資金を調達できる情報とやらは見つかったのか?」

 

「ええ、そうよ!だから此処で一発ドカンと決めちゃわないと!ほら、皆んなこれ見て!」

 

 えらく自信に満ち溢れた声色で、鞄から人数分のビラを取り出し配っていく。

 メンバー全員が目を通すと、そこには…――

 

『ゲルマニウム麦飯石ブレスレットであなたも一攫千金』と記された、胡散臭さが露骨に滲み出た怪しいビラだった。

 

 これにはアヤネも冷や汗を流しながら何とも言えない表情を浮かべ、カロンは思わず額に手を置き溜息を吐いてしまう。

 一同は察したように表情を悟らせてる中、ノエルは口をポカンと開けたまま、間抜けな顔で呆然としていた。

 

「………………………なんですの、これ?」

 

 静寂を破るノエルに「待ってました!」と言わんばかりに、セリカは得意げに解説しだす。

 

「ふふん!これはね、この前街で声をかけられて説明会に連れてって貰ったの。運気を上げるゲルマニウムブレスレットを売ってるんだって!それでね!これを身に付けるだけで運気が上がるんだって!で、これを周りの三人に売れば……――って、みんなどうしたの?」

 

「却下〜」

 

「えぇっ!?なんでぇ!?」

 

 セリカの爛々と希望に満ちた声色で話すのも束の間、重い空気に気付いたセリカが周りを見渡す。ノエルは首を傾げたままなので本当に訳が分からないのだろうが、全員の反応を見た限りセリカが想像していたのと違うようだ。

 そしてそんなセリカの提案を、一刀両断したのが副生徒会長である小鳥遊ホシノであった。

 

「セリカ…お前、マルチ商法って知ってるか?」

 

「?なにそれ?」

 

「確認したいがお前は会計士なんだよな?」

 

 冷や汗を流しながら質問を重ねるカロン先生は、セリカの阿呆ッぷりに益々目を向けられない。

 前言撤回――コイツ、財政管理者として一番危ない人種である。

 こんな頭お花畑娘など、ノエルしかいないと思っていたが、同種がいた。最早似ているどころのレベルじゃない。

 

「セリカちゃん…あのね、これ…いうなれば詐欺だよ…」

「儲かる訳ない」

「寧ろ借金を抱え込むからより火に油を注いでるようなもんだぞ…」

 

 アヤネ、シロコ、カロンが順番ずつ言葉を紡ぐと、セリカは漸く自分が騙されていた事に気付く。

 はぁ?と面を食らった顔で絶句していた。

 

「ねぇセリカ。なんでゲルマニウムブレスレットを身につけて、運気が上がるんですの?そもそも運気が上がることと儲かることってどう繋がるんですの?それに、こういう人気商品が流行ってたら、皆んなも購入して皆んなも運気が上がりますし……ひょっとして大悪魔かてんちょーみたいな小悪魔が、道具に何か魔法でも掛けたのかしら…だとするとマダムのような代償が…」

 

「ん、辞めてノエル先生。セリカのライフがゼロ」

 

 こう言う知識に疎いノエルは、純粋に沸いた疑問をセリカに嵐のように投げ掛ける。

 本人は悪気なく、純粋な気持ちで聞いてるのだろう。そんな純粋無垢なノエルの唇を手で塞いだシロコが優しく制する。

 

「流石に騙されまくったノエルは嫌でもそういう疑問から芽生えるようになってきたか…」

「う゛…それは言わないで下さいましッ……」

 

 両手足をもぎ取られ、シビラやバロウズに利用された彼女なら流石に否が応でも疑いを向けるだろう。

 

「はぁ〜…私二つも買っちゃった……」

 

「然もお前…そこら辺で声をかけた大人に紹介されたんだったな?アレだけ私達のことを信用しないと豪語していたのに…出逢って誰かも分からんやつの言葉を信じたのか…」

 

「そ、それとこれとは話は別よ!」

 

 何処が別なんだ――と突っ込むと喧嘩になってしまうので、喉から吐き出しそうになった言葉をグッと胃に戻した。

 信用できない点に関しては本人の気持ちなので仕方ないと踏んでいたが、その前から騙されているのだから笑い話すらならない。自分達はそれ以下だったのかと問いたくなる。

 

「………お昼、抜きにしてまで頑張ったのになぁ…」

「大丈夫ですよセリカちゃん!お昼、一緒に食べましょう?私が奢ってあげますから⭐︎」

「うぅ゛ぅ゛〜……ノノミせんぱぁい……ぐすッ…」

 

 騙されていたこと。

 借金の負債になっていたかもしれないこと。

 何より努力で貯めたお金をこんな結果になってしまうなんて…。

 

 目に浮かぶ涙を拭きながら、母性の塊とも呼べるノノミに思わず甘えてしまう。

 ノノミは皆んなのムードメーカー的な立場であり、誰よりも人が落ち込んでる時や悩んでる時、そういった弱った仲間を助けられるメンタルケアーの生徒である。

 

「……セリカ」

 

「何よ……騙されてることに怒ってるの?それとも嫌味でも言うの?」

 

「起きてしまったことはもうどうしようもないからな……だが、お前が今後ともこう言った手口で騙されないように、私がある程度の知識は授けてやる。だからまあ…気にするな…」

 

 言いたいことは山程あるが、自分が利用されて騙されていたと言う感情はノエルと同等に苦しいものだ。そんな状態の生徒に先生が文句だの何かを言ったところで、追い込ませてしまうだけだ。

 だから今後ともこう言ったことがないように、教えれる時間があれば詐欺対策位は教授すべきだろう。

 と言うかそうでもしないと普通に借金の負債がどんどん増えかねない。

 

「あ、有難う……その、ごめん…」

「謝るな。今後からこう言ったことを学んで行こう。それにこう言う時はな、早く気付けてラッキーと思えばそれで良いんだよ。もしこのまま進んでいたら負債ばかり背負う羽目になっていたからな…」

「ねェセリカ。序でにそのマルチ云々の仕事関係…後で教えて下さる?」

「へ?良いけど…何するの?」

「ちょっと…対策を講じるだけですわよッ」

 

 目元が暗くなった彼女は、笑顔ではいるけれど目が笑ってない。

 完全にシビラや愚かなラプラス市民に向けた時の表情をしている。

 後々とアビドス対策委員会と対峙する企業家が、マルチ商法だと知り爆破するのはもっと先の話である。

 

「はいは〜い!次は私〜!」

 

「はい、えっと…3年の小鳥遊委員長、どうぞ。ちょっと嫌な予感はしますけれど……」

 

「うむうむ、えっへん!我が校の一番の問題は、全校生徒がここにいる人数だけってことなんだよね〜」

 

「……そう言えば、そうだったな」

 

 アビドスに訪れてからカロンが疑問を抱いた点だ。

 借金を負っている廃校寸前とはいえ、残っている生徒がたったの5人と言うのは、広大な自治区――アビドス高等学校にしては、少な過ぎる。

 生徒会長もノノミからは二人っきりの時に「行方不明になった」とだけしか知らされていなかった。

 その点についてもっと深く追求はしたかったものの、正直情報量が少な過ぎるので、下手に追うべきではないと判断した。

 

「生徒の数イコール学校の力。トリニティやゲヘナ、ミレニアムの三大学園みたいに、生徒数を桁違いに増やせたら、毎月のお金だけでもかなりの金額になるはずだよー?」

 

「え、そ…そうなんですか?」

 

「ほぉ、良い着眼点だな小鳥遊ホシノ――例えるなら、一人100万円程の資金を調達したとしよう。一人一人が資金を多く稼げれば、利息と借金を返済し減らす事が可能…そう言うわけか。いやはや全くもって良い発想だ。ならどうする?アビドス学校に転入したいと言う生徒を探すか?それとも来年を見越して新入生でも待つか?」

 

 大多数の人間とは、古くから力のある象徴として描かれてる事が多い。

 国を支えるには圧倒的なる武力。

 個としての質より、量としての質を求められたり、オカルトや宗教などでも大人数による信仰によって、本来存在しない神や悪魔と言った架空の存在が、この世界に受肉を齎すと言う話もある。

 学校という領地に生徒の数が多く増えることは、アビドス自治区に大きな変革や影響を及ぼすことを示唆する。

 セリカのマルチ商法と比較すると、大分マシな案件だ。

 

「そうだね〜。数が多くないと、議員も輩出できないし…連邦生徒会にも発言権も与えられないから、新入生を待つって言うのは希望的観測にすらならないかもぉ。だから取り敢えず、他校のスクールバスを拉致っちゃおっか!!」

 

「………………は?」

「はい!?」

 

 司会役カロンと書記役のアヤネが素っ頓狂な声を張る。

 巫山戯たおじさんと言うボケ設定を担ってる彼女から、爆弾発言を投擲してきたのだ。

 大悪魔でさえも耳を疑うホシノの提案は、大悪魔並みの思考と発想を備えていたのだ。

 

「登校中のスクールバスをジャックして、うちの学校への転入書類に判子を押さないとバスから降りられないようにするの〜」

 

「………ホシノ、貴女自分が何言ってるか分かってるんですの?それ脅迫ですわよ!?」

「でもこれで生徒数がグン!と増えること間違いなしだよ〜?どう?名案だと思わない?」

「これを名案だと言えるお前の神経に私は恐怖を感じるんだが……」

 

 大悪魔でさえも後退りする彼女の犯罪的思考に、カロンとノエルはドン引きする。

 さり気なくスクールバスをジャックするという強盗的な発想を言い出してるのだ。それが可能な実力を秘めてるのだろうし、その気になれば実行する事も造作もないことが窺える。

 矢張りゆるりふわりとした雰囲気とは裏腹に、底知れない本心を隠し持っている。脳ある鷹ならぬ、隼は爪を隠す…とは正にこの事か。

 

「それ、興味深いね。狙うならどの学校にする?ミレニアムは最新技術を持ってる方が多いし…ゲヘナは風紀委員の数が多いし、トリニティに至っては分派が存在するって耳に挟んだことがある。学園ごとによって狙いと地の利を活かした攻略…作戦を考えないと…」

「シロコ?ダメですわよ?あと目が凄い輝いてますけれど…宝探しか何かと勘違いしてらっしゃって?」

「お?ええっと…う〜ん、そうだなぁ…トリニティ、いや…ここはゲヘナにしよっかな?」

 

 そうなってしまうと、カロンがヒナとチナツに向かって額を地面に擦り付けなければいけなくなるのだが……簡潔に言う土下座である。

 ホシノに至っては冗談で言ってたつもりらしく、シロコが目を爛々と輝かせてるのを一瞥して「ありゃ、火が点いちゃったかも…」なんて浮かない顔をしている。

 

「ちょっと待って下さい!そもそもそんなの、強制的且つ一方的な契約じゃないですか!?それに他校の風紀委員も黙ってられませんよ?!ダメです!」

「契約というか強奪というか…ホシノ、お前の凶暴性を垣間見た気がしたぞ…」

 

 寧ろ敵対関係による宣戦布告とも読み取れる。

 下手にスクールバスをジャックして、強制的に生徒達を我が校の生徒へ転入させたとしても、風紀委員達が黙っていられるはずがない。

 アビドス自治区に新たに戦争が舞い降りるだろう。

 

「だよね〜…」

 

「だよね〜…じゃないですよ、ホシノ先輩っ。こういう真面目な会議には、ちゃんと臨んで貰わないと。折角、先生お二人方が協力してくれて、会議にまで出席されてるんですし…」

 

 

 アヤネがホシノを説教している場面はなんと珍しいことか。流石にホシノは悪ふざけで話したと思うが…それにしてもよくもまあ、スクールバスをハイジャックするなんて発想を思い付いたものだ。

 矢張りキヴォトスの人間だからこそ、なのだろう。

 

「ん、次は私。良い考えがある」

 

「………はい、2年の…砂狼シロコさん……」

 

 全く以って良い気がしないであろうアヤネの反応は、二人と比べて明らかに何かを悟り物語っている気がする。

 声色のトーンも下がっており、もうシロコが何かを言う前に、大方予想が付いてるとさえ見えている。

 

「ん、銀行を襲う」

 

 ――絶句。

 アヤネ、カロン、ノエルは言葉も、声も、何も発せずに茫然としていた。

 

「……ごめんなさい、シロコ。もう一度仰ってくれても宜しくて?」

「ノエル先生、銀行を襲うの」

「ああ、聞き間違いじゃなかったんですのね……」

 

 悪魔並みに聴覚が優れてるノエルが皮肉ながらに尋ねても、結果は変わらなかったようだ。

 マルチ商法、スクールバスジャック、銀行強盗――会議が始まってから挙げられた議題は全部犯罪だらけだ。

 実はアビドス対策委員会と名ばかりの、武力と叡智で強奪する盗賊なのではないかと言う疑問が芽生えてきた。

 昔のカロンもラッセルと何度も市長になる為の汚職に手を染め、犯罪計画を交えているので他人事ではないにせよ、借金返済の問題に対して自分から悪魔的な思考に走るとは…夢にも思っていなかった。

 

「確実かつ簡単な方法、ターゲットも選定済み。市街地にある第一中央銀行――金庫の位置、警備員の動線、現金輸送車の走行ルートは事前に把握しておいた。5分で一億は稼げる」

 

「……お前が、私と一緒なら9億稼げるだの、銀行強盗だの……犯罪に手を染めただの…言っていたのは、そういうことか……」

 

 此処に来て見事な伏線回収――全てを察したカロンは、理解した。

 アビドス対策委員会の教室に訪れてからアヤネが「遂に犯罪に手を染めたんですか!?」と驚いていた反応に加え、ヘルメット団襲撃の計画や作戦などヤケに興味津々で聞いてたり、やれ三日で三倍稼げれるなど、ラーメン屋でのやり取りも全部その銀行強盗に関係していたのか…と結論を導いたカロンは自然と溜息を吐いてしまう。

 

「さっきから地図を真剣に眺めていたのはそう言うことだったんですね…」

 

「どうかな?地の利を活かした戦術に加えて、退路を断つために爆弾を設置。それに身バレしない為にも覆面を用意しておいた」

 

 紙袋に手を突っ込み、ゴソゴソと物音を立てながら覆面を取り出す。全部で五つ――赤、青、緑、黄、ピンク。そして額の部分には数字が記されていた。

 目と口の部分をくり抜いた、明からさまなテンプレ偽装の覆面に、カロンは言葉を失っている。

 

 ――― コイツら大丈夫か?

 

 大悪魔に勝るのは狂気であり、その混沌とした狂気がアビドス対策委員会だったのだ。

 自分達もこれまでに何度か犯罪に手を染めたことはあっても、砂狼シロコ達とはまた違った何かを感じさせる。

 然も何故かシロコが凄い自慢げに話してるのが、彼女なりの本気を物語っている。

 

「お〜!シロコちゃんの手作り〜?」

「わあ、見て下さい!レスラーみたいですぅ♤私はクリスティーナだお♡」

「だ、だお…??だおってなんですの…?」

「いやぁ〜良いね!人生一発でキメないと…ねぇセリカちゃん?」

「そんな訳あるか!却下!却下ー!犯罪なんていい訳ないでしょうが!!」

「マルチ商法を無意識にやろうとしてた奴が一体どの口で言ってるんだ」

「変に此処で盛り返さないでよバカガラス!」

「だからカラスではない!大悪魔だと言っとるだろうが!!」

「いや、その突っ込みは初めてなんだけど…」

「だ、ダメですわよ犯罪なんて!シロコ、めっ!めっ!ですわ!銀行強盗はやってはダメな行いなんですわよ?」

「ん……」

 

 銀行強盗で様々な反応が上がる。

 シロコの覆面を嬉々として被るノノミ、面白く笑うホシノ、却下だと提案を拒否するセリカとカロンは漫才を繰り広げ、ノエルはシロコを…子犬に躾をするかのように、何度も「めっ!」してる。これが成人男性なら変態的な部類に、悲惨に扱われてるのだろうが、ノエルがやると何故か百合的に見えてしまうのは気のせいだろうか。

 シロコは膨れっ面を浮かばせながら、何度もノエルに頭を撫でられる。

 余程悔しかったのか、残念だったのか…まるで悪戯がバレた子供のような一面だ。

 

「カロン先生となら……27億…目標額は100億…」

「いや私はやらんぞ!?…これが生徒を尊重する契約ではないのなら、そう言った未来もあったのかもしれないが……」

 

 もしこれがラプラスにいた頃の自分なら、

 もしこれが銀行強盗という契約なら、

 もし先生になる前の大悪魔としてなら、

 

 シロコとカロンは確実なるパートナーとして銀行強盗をしていた未来もあったのかもしれない。

 何せたった二人で街を敵に回し、方や地の利を活かした戦法、方や相手の財政を崩す計画…様々な悪事を働かせ、知恵を施したカロンであればシロコとの相性は抜群だろう。

 鴉と狼は、それぞれ地を活かした狩り場で共生することが多いと聞く。そう言った点では、シロコの発想もある種的を得ている。

 

「皆さん!借金返済なのになんで犯罪計画を企ててるんですか!?もっとしっかりして下さい!!」

 

 唯一、このアビドス対策委員会の常識人である彼女はこの砂漠のオアシスとも呼べる女神だろう。

 彼女の常識に自然と癒される。

 

「は〜い!じゃあ次は私です!」

「え?はい、えっと…じゃあ、二年の十六夜ノノミさん。詐欺と犯罪は抜きにお願いします…」

 

 会議で犯罪と詐欺の提案を出してるのは此処アビドス対策委員会だけだとノエルは思う。

 自分達も散々そう言った計画を練っては実行にまで移ったのだから、決して人のことは言えないが。

 然し、ノノミからは犯罪的な思想が出るとは思えない……いや、そう思いたい…がこの流れでは確り来る言葉だろう。

 だが案外ノエルの思いは的中したようで、詐欺や犯罪といった悪質な手口ではなかった。

 

「はい!犯罪でもマルチ商法でもない、とってもクリーンかつ確実な方法があります!」

「………なんだそのポーズ」

 

 自信満々に語りながら、両手の指をマルにして目に当てるという変なポーズに、カロンは反射的に突っ込んでしまう。

 

「そう――アイドルです!スクールアイドル!!」

 

 アイドル?――全員とも微妙な反応だ。

 特にノエルに至ってはアイドルに対する知識が疎い。

 一応、曲を歌ったり踊ったりする程度の認識はあるものの、殆どが歌手としてのイメージが強い。

 そして当時のノエルはピアノの練習にひたすら向き合っていたので、アイドルは勿論…皆が流行りに乗ってる小説や漫画、娯楽、最近のニュースなど殆ど触れてすらいなかったのだ。

 

「偶像崇拝か…」

「なんでそうなるんです?」

「いやすまん…だが、我々悪魔にとってアイドルの活動はそう言ったように見えるもんなのだ…」

 

 ノノミからの意外な突っ込みに、カロンは冷や汗を垂らしながら弁明する。

 カロンにとってもアイドルとはよく知り得ないが、大悪魔の視点からすると一種の宗教的な活動に見えてしまうのだ。

 アイドルを偶像と見做し、それを熱狂的なファンが想いを送ることで信仰と例えれば、偶像崇拝という解釈になり得るし、「可愛い」「愛してる」と言った感情に疎いカロンからすれば尚のことだろう。

 ラプラスで言う「市長選挙」の時に似たような、始まりの悪魔創造に近いオカルトとも読み取れる。

 

「アニメで観たんですけど、学校を復興する定番の方法はアイドルです!私たち全員がアイドルとしてデビューすれば間違いなしです!」

 

 趣向が変わり、犯罪商法から意外にもマトモな提案ではある…いやこれ、マトモか?

 ――と言うか、アニメってなんだ?

 

「アイドルという知識には疎いが…裏ではそれなりに手を回す必要があると思うんだが……。プロデューサーだの、カメラマンや撮影地…そう言ったものを提示する必要がある…というかお前、歌えるのか?」

 

「Dreamin Go!Go!は歌えます⭐︎皆さんで練習していっぱい曲を歌いましょう!⭐︎」

 

「却下」

 

「あらぁ…これもダメなんですか?」

 

 嬉々として熱く語るノノミの提案を、またもや無慈悲に切り捨てたのは小鳥遊ホシノであった。

 お前の提案も充分却下対象だぞ――とカロンは心の中で呟いた。

 

「なんで?ホシノ先輩なら特定のマニアに大受けしそうなのに?」

 

「ないわ〜ないない。こんな貧相な体を好きだとか言ってる輩なんて、人間としてダメでしょ〜…」

 

「……だ、そうだぞ。ノエル」

 

「カロン。貴方、私に蹴られるかホシノに蹴られるか、好きな選択肢を選ばせてやりますわ」

 

 ホシノの体型に近いノエルを見て、謎の親近感を掴んだカロンは揶揄いがてらノエルに挑発をする。

 然も三年生であるホシノがノエルより身長が下なのだ――カロンと比較するとそれはもう60㎝もの差が開いている。

 

「本当は恥ずかしかったりするんじゃないですの?って私はアイドルとかよく見ないので分かりませんけれど…」

「確かにコイツが歌ったり踊ったりする所は想像できんな」

「急におじさんディスり酷くな〜い?泣いちゃうよぉ?」

 

 急に飛び火がホシノに向けられる。

 国によって体型の関係によってアイドルの合否が決まるとは言うが…確かにホシノがアイドルをしてる姿など想像ができやしない。

 

「折角決めポーズも名前も考えてたのに……」

 

「参考までに聞くが例えば?」

 

「水着少女団のクリスティーナで〜す♤」

 

「はぁ!?なにそれ…何が「で〜す♤」よ!!それに水着少女団ってダサい!!」

 

「……アイドルと水着に何の関係性が…?」

 

「でもセリカ。貴女ならどう言った名前にするんですの?私だったら(ヴェルデ)ファミリーにしますわ!」

 

「はぁ!?いや、私に名前なんて…ていうか!私もアイドルとか分かんないし!」

 

「お前、今のその発言…フーゴ達がこの場に居なくて良かったな…アイツらがどんな反応するかは兎も角として…」

 

 それをフーゴが聞いたら頭の血管が三本くらいブチッと切れそうな気がする。

 何ならトードからは「ノエル、ゴールデンスパイクドラゴンの鯖にされてぇのか?」なんて言いかねない。

 何が悲しくて、彼らの意思をこんな形で遺すのだろうか。

 ノノミはしょんぼりした態度で「徹夜で考えたのに…」と呟いていた。

 

「あのぉ…議論がなかなか進まないんですけど、そろそろ結論の方を…」

 

 アイドルを否定しなかったアヤネは、恐る恐る手を挙げて申告する。

 これじゃ埒が明かないと悟ったのだろう。ナイスファインプレーだ。

 

「折角なんだし、先生が選んでもらったら〜?この好きな選択肢の中で」

 

「ちょっ?!」

 

 完全にこの流れをやり投げたホシノに、結論というボールを無条理にも投げられたノエル達。

 スクールバスジャック、銀行強盗、アイドル――これらを選べというのか?

 常識的に考えて全ての選択肢は却下されるべきである。

 …いや、アイドルの方は興味もあるし、そっちは残しても良いかな、なんてノエルは考えてはいるが、実現性が薄いとは思う。

 

「カロン…貴方はどういう選択肢を取るべきだと思います?」

「それは私が聞きたい……ふむ…」

 

 カロンは親指を顎に当てながら暫し考察すると、ふとあることを閃いた。

 

「……待てよ、そういえば私達は以前、莫大な資金を稼いだことがあるじゃないか」

 

「なになに〜?ひょっとして宝くじでも当たった?」

 

「こんな所で妙に現実性を出すな…」

 

 カロンの思い当たる節に、ノエルは直感で理解した。

 

「あっ!それって…カジノ・ミスティ!!」

 

「そうだ。我々はキヴォトスに訪れる以前…ラッセルの資金源を断つ為に、カジノの金を吐き出させ…一時的とはいえノエルの手にカジノ・ミスティの支配権が渡ったしな」

 

「か、カジノ?!」

 

 此処に来て結論どころか第四第五の発想に、アヤネは困惑する。

 何故司会役が新しい選択肢を開口するのだろう。

 然もカジノ経験ありと来た。

 

「へぇ、カジノ… こういうのって、遠隔操作されてたり…敢えて儲からせた上で外させるようにするのがセオリーらしいけど…と言うか、カジノに行くって、カロン先生ギャンブルに興味があったりするの〜?ダメだよ?あんまりお金を使っちゃ…もう子供達に食べさせるご飯がないわ!貴方、帰ってきてお金がチョコになってるってどういうことなの!?」

 

「私を勝手にギャンブル中毒の依存症にするな…というか私は知識はあるが基本カジノと言った娯楽はやらんぞ。私達は6人のメンバーで…イカサマ上等、100%金を稼ぐカジノに挑んだことがある」

 

「ん、先生その話詳しく。詳しくッ」

 

「こら!カロン先生!シロコ先輩が興奮して目ェ輝かせちゃったじゃない!どうすんのよ!」

 

「もしこのキヴォトスにカジノの施設があれば、私たち全員の力を集結させれば、100億どころじゃない…1000億は行けるぞ。確かカジノ・ミスティが抱えてた金額もそうだったしな」

 

 一チップだけでも多額なのを、カジノ・ミスティが抱えてたチップは1000万チップ――賭け金が増すたびに、人の人生が揺さぶる多額を…ベットに賭け、損失と取得にどれだけ心臓が揺さぶられたことか。

 

「でも…そう言うのって不正が働かない為にも、結構な数の監視カメラが作動してるんですよ?バレちゃったらエンコとかあるかもしれませんし…」

 

「エンコってなんですの?」

 

「指切りだな。そんなのまだ可愛いもんだ。最悪臓器売買されたり、消される可能性だってあるからな」

 

「えぇっ!?」

 

「だが安心しろ。監視カメラの部屋を私が独占して、全部掌握すれば良い。100や200のモニターを同時観察など、大悪魔である私なら朝飯前だ」

 

「キモッ……ストーカーの素質ある人は監視カメラにも慣れてるのかしらね…?」

 

「……お前、反省してるんだよな?」

 

 額に怒りの血管を浮かばせるカロンは、セリカを睨む。

 酷いことばかり言ってごめんと言ったあの正直者の彼女の本心は何処へ行ったのか。

 

「私が監視カメラを掌握し、無線でお前達に指示を送る…。監視カメラの動線、視界、全て私が細心の注意を払いお前達を指示しよう。一日で借金も利息も一気に完済。どうだ、悪くないだろう?況してやギャンブルのボスがマダム――コフィン・ネリスでもあるまい」

 

「確かに、運命の魔女と戦うなんて…もう二度と戦いたくないですわね」

 

 運命の魔女との戦い――今思い出せばとんでもない闘いでもあれば、アレはノエルでしか太刀打ちできなかっただろう。

 戦いたくはない。けれど、死んで欲しくなかった…共に生きて欲しかった。

 けれどそれは自分のエゴに過ぎず、マダムはマダムなりに自分のけじめを付けるために戦い、死ぬ間際に自分達の勝利を賭けてくれたのだから。

 

「でもここら辺にカジノなんてあったっけ?」

 

「ん、他の学園で情報がないかカロン先生達に調べさせて貰って、私たちが参入すれば問題なし」

 

「い……」

 

 全員がカジノの思考に偏る中、ぷるぷると身体を震わすのはアヤネ。

 先程まで静かに書記役として務めていた彼女の雰囲気が変わっている。

 

「い?」

「いいわけないじゃないですかあぁ!!!!!」

 

 ガシャアあぁン――!!

 

 瞬間――アヤネの爆発的な怒号が轟き、目の前の机をちゃぶ台返しする。

 机の上に乗っていたマガジンやショットガン、弾薬、ボールペンや書類までひっくり返し、床に散らばっていく。

 

「あ、アヤネ!?」

「出たー!アヤネちゃん式、伝説のちゃぶ台返し!!」

「アヤネちゃんが怒り出しました!非常事態です!」

「ちょっ、アヤネちゃん落ち着いて!?」

「「………」」

 

 初めて見せる彼女の激動に、ノエルは驚愕。

 ホシノは茶化し、ノノミはちょっと驚いていて、

 セリカは落ち着かせるように宥め、

 シロコとカロンは二人揃って黙り込んだまま目を丸くし萎縮していた。

 アイツ、あんな風に怒るのか…というか、凄い声が出たぞ。

 

「うへぇ〜、キレのある返しができる子に育って、ママは嬉しいよ〜んッ」

「誰がママですか!!もうっ、ちゃんと真面目にやって下さい!口を開けばふざけたことばっかり!マルチ商法だの銀行強盗ばかり言って!!」

「アヤネはこんなに荒ぶるのか…初めて見たな…」

「カロン先生も何考えてるんですか!?先生が司会役をやってくれるって聞いて、頼もしい先生がいるからスマートに行くかと思ったら何でカジノ行こうって話になるんですか!?!先生ならもっとしっかりして下さい!!此処にはノエル先生と私以外まともな人はいないんですか?!!」

 

 あのカロンがおされてる上に、滅茶苦茶説教されている。

 こればかりはラプラスに居た頃からは見たこともなく、今までの契約者でさえこんな輩居なかっただろう。

 人生産まれて初めて、説教を喰らうカロン。

 大悪魔が契約者に怒りを見出すことはあっても、まさか契約者が大悪魔を叱る日が来るとは夢にも思っていなかっただろう。

 

 

 ――その後、ノエル以外全員アヤネにめちゃくちゃ説教されたのであった。

 

 

 

 






そう言えば、被虐のノエルを知らない方にノエルとカロンはどう言った声なのか?について疑問に思う方もいると思うので、此処で説明するとドラマCDと変わらずと言った所です。
もし分からない方がいれば検索してみては如何でしょうか。
次にブルアカのアニメ…当初はオリジナルかな?と思ったのですが、完全に第一章アビドス対策編ですね。
便利屋68の方々もいるので確定でしょう。
となれば、市民達やカイザーPMC、理事、そして黒服のCVも分かるかもしれません。

そして作品を描く度に、自己紹介PVを毎日閲覧してしまうことが発生。特にセリカが可愛すぎ問題。
いや、皆んな可愛い。

次回「アヤネのご機嫌取りにノエルが頑張ってオペレーターをするぞ!!タクシーアヤネですまない」


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