被虐と赤眼の教導者   作:トラソティス

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投稿遅れてすまない⭐︎
ブルアカアニメがもう始まったという事実に驚きを隠せない。
先生のビジュアル解禁して一番驚きました。アビドス編なので先生がいないとストーリー進行不可能なのは存じておりましたが…まさか男性と女性どちらでも認識可能という枠を超えて…いや、待って欲しい。あの先生のビジュアルは男性でありながら女性的な可愛さもあるのだ。つまり、そういうことなのだ。

私個人の意見としては「先生はそれぞれの世界線で色々な先生がいる」と解釈しています。要するに「ユーザー版先生」「便利屋68先生」「ゲーム部先生」など、他にもコミックアンソロジーや創作などで登場してる先生も、その世界での主人公であり生徒の為の先生だと解釈してます。
多次元という概念がもうブルアカで登場してる以上、ありがたき救済処置ですよね。


#泣き顔アヤネ#タクシーアヤネですまない⭐︎#ラプラスアヤネ#走れアヤネ#ぱぇ?


story8『奥空アヤネ』

 

 

 

 

 

 

 会議という説教を終え、自由に解散となった一同は申し訳なさそうに帰路に就く。

 最初はアヤネへの謝意を込めて何処かご馳走する様なオモテナシを考えていたのだが、凄まじい怒りの後、明らかにそう言った空気では無かったので後日改めて…いや、翌日を以て再度声を掛けようと彼女を除いた対策委員会は決意したのだった。

 一方で、解散した後もアヤネは、怒りを落ち着かせるべく教室に残りながら片付けをしていた。

 …――ノエルと一緒に。

 

「全くもう……皆さん、少しは真面目に考えて下さいッ…」

 

 頬をぷっくら膨らませるアヤネは珍しくも拗ねていた。

 常識人故に、苦労する事ばかりが多い彼女にとって、先程の巫山戯た会議に沈澱していた怒りが爆発したのだろう。

 

「ま、まあ…アヤネも…少しは落ち着いて…。ね?カロンだって、別に悪気があった訳でもないんですのよ?ただこう、悪知恵が働いてしまったというか…」

 

 唯一、地雷に触れなかったノエルはアヤネにとっても数少ない常識人として救いでもあった。

 あの説教でもノエルは彼女の後ろで、叱られてる皆んなを眺めていたのだ。あれだけ激怒したアヤネに、正直ノエルも目を丸くして固唾を飲んでいた程に。

 今まで通りのアヤネが如何に穏便な生徒だったか理解できる。

 

「ノエル先生…うぅ…ッ。どうして皆さん、悪い事ばかり考えるんでしょうか?それとも、私が可笑しいんですかね…?」

 

「ち、違いますわ!違うの…!アヤネは何も悪くありませんわ!だからそんな、泣かないで…ね?嗚呼もう……ハンカチ、使います?」

 

「い、いえ…大丈夫です……」

 

 ぶわっ!と止め処ない感情がダムのように流れ出したアヤネは、瞳を潤わせながら涙目を溜め込んでノエルに訴える。

 懐から取り出したハンカチで涙を拭うように渡そうとするも、子供のように扱われるからか、それとも単に自分で持っていたからか、薔薇の刺繍が入ったハンカチを取り出して涙を拭う。

 

「はぁ……いえ、私も流石に言い過ぎたな、とは思いますけれど……それでも犯罪に手を染めたら、ダメじゃないですか…」

 

「そう言えばシロコと言いホシノと言い…結構、犯罪思想が凄かったですわね…。私も聞いてて耳を疑う内容ばかりでしたけれども…」

 

 ホシノが本気にしていたかは兎も角、シロコは本気(ガチ)だと言うのが本人の真剣さと自慢げに話していた様子を伺い、本能で理解した。

 セリカは騙されていた為仕方ないにしろ、ノノミこそあそこ迄怒られるものでも無かったのでは?とついつい考えてしまう。

 

「カロン先生が居てくれたから…今度こそ真面目に出来ると思ったのに…」

 

 その様子だといつもは真面目では無かったのだろう。

 あのカロンに対して怒りをぶつけるアヤネも充分大した器ではあるが、それ程に彼女がカロンに対して期待の眼差しを向けていたのも事実なのだろう。

 だからこそ見せる激情――結局カロンもあの後は謝罪こそはしたものの、アヤネには何も反論はしていなかったし…。

 

「…アヤネは、確りしているんですのね」

 

「へ?いえ、私なんて全然…。セリカちゃんの時だって慌てて何もできませんでしたし…それを言うならノエル先生こそ…」

 

「う〜ん…私が確りしてるか、と問われても首を縦に頷けませんわ。確かに悪いことをするのは極力避けてますけれど…それだってカロンが居てくれたお陰でもありますし…。それに比べて、アヤネは私とは比較にならないほど、しっかりしてて偉いなって思いますもの」

 

「そんな…ノエル先生、大袈裟ですよ…」

 

「いいえ、大袈裟なんかじゃありませんわ――」

 

 抱えていた書類と弾薬をテーブルの上に置き、アヤネの手を優しく取って握りしめる。

 彼女の突発的な行動に、思わずビクッ!と身体を震わせてしまうも、ノエルは真剣な眼差しをアヤネに向ける。

 

「アヤネはオペレーターなのでしょう?私は頭が良くありませんし、カロンのように戦えもしませんから、貴女のように裏で誰かを支えたり、助けたりなんて…できませんもの。それに、アヤネが皆んなを怒ったり、確りしているのだって、あの子たちのことを想ってのことなんでしょう?貴女が居てくれるから、皆んな間違った選択肢を取ることなく前を向いて歩けるんですわ」

 

「なッ!?え、えぇ!?そんな…誇張し過ぎでは……」

 

 ここまで誰かに褒められたことのないアヤネは、目をグルグルにしながら頬を赤らめる。

 ――会議が始まる前のセリカちゃんの時と言い、人を褒める事が上手と言うか、口達者というか…反応に困ると言うか…。

 それが決して嫌だと言う訳ではないのだけども、いざこうして面と向かって直接褒められると、気が動転してしまう。

 

「そんなことありませんわ。アヤネはちょっとこう…自分に自信を持ってないと言うか、謙虚過ぎますわ!自分だからこそ、皆んなを支えられる。そう言う風に胸を張っても良いと思うんですの。それにセリカの時だって、親友が危険な目に遭ったら取り乱すのは当たり前ですわ」

 

 親友の為に涙を流せる彼女は、人一倍優しい。

 自分でさえも親友が危険な目に遭って、迷惑ばかり掛けて黙って退場しようと自分勝手を重ねていたのに。

 彼女は必死になってでも親友のセリカを助けたくて一生懸命だった。

 

 そんなアヤネの優しさに、ノエルは感心した。

 嘗ての自分を重ねてるような気がした。

 どうにも、アビドス対策委員会のメンバーには自分を重ねてしまう人物が多い。

 似た者同士惹かれ合うとはこう言うことなのか、とノエルは直感的に想う。

 真面目だからこそ、アビドス対策委員会が間違った過ちを犯さないようサポートしてくれている。

 そんな存在がどれだけ心強くて、頼もしいか。

 

「ほ、褒め過ぎですってば…!もぅ……」

 

 頬を膨らませながらそっぽを向く。

 決して悪い気はしないし、何なら嬉しすぎてどうにかなりそうな気分になってはいるのだが…。

 だからこそ、これ以上ノエル先生の褒め言葉を聞いてしまうと、ついニヤケてしまい、変な顔になってしまいそうだ。

 

「……セリカちゃんの時もそうでしたけど、ノエル先生ってば…褒める事が多いですよね…。一体どうしてです?」

 

「へ?う〜ん…確かに、改めて考えてみると結構褒めてる時が多い様な、そうでない様な…」

 

 アビドス対策委員会だけでなく、ユウカやハスミをやたらと褒めていた気がする。

 ヒナに関しては人間離れたしたポテンシャルとスタミナ、仕事量を抱えてるので、誰もが尊敬している部分が多いのだろうが。

 

 

「尊敬してるから、かしら…」

 

 

 ノエルから放たれた台詞は、余りにも予想外過ぎた言葉だった。

 その言葉に、アヤネは目を丸くして二度見する。

 聞き間違いではない――ノエル先生は確かに、生徒を尊敬してるからと言っていた。

 普通、生徒が先生や大人に対して尊敬の念を抱くことは多いが…先生が生徒を尊敬すると言うケースは聞いたこともない。

 

「アヤネは、私のことをマトモと言ってますけれど…そんなこと無いですわ。寧ろ昔の私は、誰かを褒めるどころか、人を妬んだり…醜い嫉妬で友達を傷つけてしまったことがあったから…。今の私はそんなことはないにしろ、アヤネや周りの皆んなが想っているほど、私はそんなに優しい存在じゃないんですのよ」

 

 例え其れが己のつまらないプライドだったとしても。

 其れが全く別人とも呼べる過去の過程だったとしても。

 確かにカロンと出逢う前の自分は、誰よりも醜かった。

 

 ジリアンは私のことを、尊敬していると言っていた。

 カッコ良くて、憧れで、友達になれたのが嬉しいと。

 でもいざピアノコンクールで優勝できなかったとなれば、平気で人を罵倒し傷付けてしまう。

 今にして思うのは、復讐者になる前から自分勝手で、誰かを尊敬さえしたこともなくて……あの頃から自分は何もなかった。

 いや…何もなかったと言うのは少々語弊があるか。

 ピアノ以外何もなかった。

 自分にとってピアノこそ全てで、それこそチェルクェッティ家としての全てでもあったのだ。

 両親が有名な一流ピアニストで、その家庭で育った自分は、偶然ながらもピアニストの才覚が有り、今までピアノに触れて育ってきた。

 だからハスミと同じ様に憧れや尊敬する対象が無かった。

 

 ジリアン以外の友達も居なくて、何かの興味もなくて、自分にないモノを見ることもなく、興味のカケラもなかった。

 

 

 だからこそ、自分が改めてキヴォトスの先生として赴任してから、一人一人の生徒達を観て「凄いな」「カッコイイな」「尊敬するな」そんな漠然とした気持ちが心の内から湧いてくる。

 

 セリカは自分と年端が変わらないのに、人一倍アルバイトを頑張ってたり。

 シロコは運動が大好きで、長距離もお散歩感覚に移動できる程に優れていて。

 アヤネはオペレーターや書記の役目として、周りの皆を纏める副リーダー的且つプレーンでもある。

 ノノミは興味が多種多様あって、ファッションや流行のモノ、アニメなど好きなものがいっぱいある。

 

 自分にない長所や個性を持っていると、妬みや羨望の欲を持ってしまう。

 サラリーマンや社会人は、怠けてる人間を観ると羨ましがり。

 ホームレスや無職の人間は、社会人を観るとそう成りたいと願う様に。

 

 自分にない長所や個性を知り、人は初めて己を知る。

 己を知り、互いを知り、人の長所や個性を褒めたり、羨ましがり、総括して尊敬の念を抱く。

 ただ優れてるだけではない――他者から観てどう思われるかにも限るが…少なくともノエルにとっては、アビドス対策委員会と言う存在は、今まで出会った生徒一人一人が尊敬すべき尊い存在なのだ。

 

 ラプラスに居た頃は、殆どの人間がそうではなかった。

 バロウズが言っていた通り、常に誰かに縋り願いを叶えて欲しいと想うばかりの人間が大半以上を占めていた。

 その中には、過去の自分がいたのだから。

 

「だから、魔女として生きてきた――けど今の私は破滅を覚悟して突き進む魔女じゃなくて、貴女達の先生だから。だから、生徒達の素敵な部分を沢山知って、私も色んなことを知っていきたい。皆んなの様には戦えませんし、やれることも限られますわ。だから貴女達ほど優れてるわけでも、誰かの役に立てるかどうかも実感が湧きませんけれど…でもこれだけは言わせて」

 

 すると、ノエルは懐かしい友人と話す様に、アヤネの両手を握って、顔を近づけてにっこり笑った。

 

「尊敬する貴女達を、誇りに思いたい。胸を張って、貴女達のカッコ良くて素晴らしい長所を自慢したい。それは先生として、ノエル・チェルクェッティ個人としての本心だから」

 

 はにかむように笑うノエルに、アヤネは目を丸くしたままポカンとしていた。

 口を開けたまま呆然としていた。

 本当に、あのカロン先生の隣にいて何故ノエル先生はこんなにも芯が通ってるのだろう。

 

「それに…先生は生徒の味方なんですもの。褒めるところはいっぱい褒める!悪いことは当然悪いと言う。私は先生なんて経験したこと無いから、難しい話は分かりませんけれど…でも、自分が先生だと思って信じる私が居て、初めて貴女達が呼んでくれる『ノエル先生』なんじゃないかなって」

 

 先生という存在は幾らでもいる。

 体育会系で怖い先生。

 人に甘い先生。

 課題が多い先生。

 どちらも個性的ではあるものの、単に先生だからという理由だけでは説得力に欠ける。

 先生という存在には、己がなければどんな先生か分からない。

 だからノエルは、自分がこう有りたいと願った先生として、胸を張ってシャーレの顧問となり、アビドス対策委員会の顧問として赴任してるのだから。

 

「………本当に、凄いなぁ……」

 

 自分と年端が変わらないという意見は誰もが持っている。

 セリカちゃんが教室を飛び出した時、ノエル先生は決して彼女を否定した訳でもなく、彼女の我儘を肯定した。

 今だって同じだ。

 どうしてノエル先生はこんなにも生徒を褒め称えるのだろう…と聞いた結果、10点満点を軽々と超えて100点満点のような回答をしてきた。

 本当に、これが自分と年端が変わらない子供なのかと疑いの念を抱きたくなる。

 シロコ先輩が、ノエル先生を凄く頼りにしてる部分も何となく…というか、大分理解できるし、あのシロコ先輩がノエル先生にこうも心を開いていた理由が分かった気がする。

 

「私も……こんな素敵な人と、早く出逢いたかったな……」

 

 この人と早く出逢っていたら、どれだけ救われていただろう。

 希望的憶測に過ぎなくても、自然とそう考えてしまう。

 自分達アビドス対策委員会のメンバー並びに、在校生徒が五人しかいないから、比較できる生徒もいなければ、尊敬だの何だのとはよく実感が湧かなかったけど…。

 それを教えてくれるノエル先生は、もう立派な教師なんだなって、それだけは理解できる。

 

 実はアビドスにとんでもない先生がやってきてくれたのではないかなと。

 カロン先生やノエル先生の言う『願いを叶える』ことが可能な時点で、既に大それた存在ではあるのだが。

 

「ノエル先生も、カッコいいですよ。こんな素敵な先生が、私達の借金問題を返済しようと頑張ってくれることに、何だか頼もしさや誇りを感じます。改めて、本当にありがとうございます!何だか、気持ちがスッキリしました…。そうですね、怒ってばかりじゃ仕方ないですし、また明日皆さんと一緒に話し合いたいと思います!」

 

「ふふ…そう言ってもらえると嬉しいですわ、有難うアヤネ。じゃあ、さっさと片付けを終わらせて、用事を済ませちゃいましょう!」

 

 これが、連邦生徒会長がキヴォトスに呼び出した先生。

 超人が呼ぶは超人という同類か――似た者同士か…。

 褒められる事に慣れてなければ、ノエル先生のように芯が通り真っ直ぐな意見が嬉しくて、素直になれず恥ずかしくなる事が多いけれど、それでもノエル先生が嬉しそうに私達のことを大切に、誇りに思って言ってくれるというのは、こうも嬉しいものなのか。

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 片付けや掃除を終え、会議室として使用していた空き教室から出たノエルとアヤネは、本件である倉庫へ足を運び赴いていた。

 

「学校の隅に、資材置き場として使われていた倉庫があるんですけど、その中には使われてない資材が沢山あるので、今日は廃品回収業者の方に頼んで取引をするんです」

 

「へぇ…アヤネの場合はこう言った契約とか、取引で資金を稼いでるんですのね。あっ、会議でも高価な品を売って…とかの例が挙げられてましたものね」

 

「はい!私の場合は特にそう言った事が中心的ですね…。アビドス分校でも、使われてない教室を掃除していたら古い小説を見つけたり、古いオーパーツに古文書などを収集して、アンティークショップなどで取引をしたりとか…。まあ、高価な物かどうか、判断する基準さえ分かれば良いんですけどね…」

 

「アンティーク…そう言えばてんちょーのお店も、如何にもそう言った雰囲気を纏ってましたわね」

 

「はい?てんちょー…ですか??」

 

「嗚呼、いえ…失礼。此方の独り言ですわ…」

 

 てんちょーなのだ!と聞き慣れたセリフが余裕で脳内再生された。

 アンティーク系の代物は、どう値が張るか見極めが必要である。

 案外悪魔とかなら、アヤネの話してた物価に対して理解できるのかもしれない。

 

「…そうだ!カロンとかなら案外、分かりそうですわ」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「ええ、カロンは機械には疎いですけれども、逆に言えば古い文献の歴史やオカルトとか…逸話だったりとか、そう言うのは結構詳しいですし」

 

 例えば大悪魔痕跡に於いて、魔法陣や悪魔召喚方法による書物を一眼見ただけで暗号だと理解していた。

 他にもノエルは知らないが、アビドスの古い教材を漁っては知識を吸収しようと嗜んでた辺り、古代的なものに対しては興味が湧くのだろう。

 他にもアビドス砂漠の環境や、砂に埋もれた街を観て興味深そうにしていたし、神秘が溢れるこの学園都市――主に理解されず謎の多い土地に対して、カロンの知的欲求が刺激される場所なのだろう。

 それに知恵を司る大悪魔カロンは、投資活動やオークションによる物価の変動など見極めることが得意そうでもある。

 

「では、今度相談してみたいと思います♪」

 

「ええ!あっ、そう言えばアヤネ。その…取引についてなんですけども、業者とは一体どんな取引をするんですの?使われてない資材を資金へ変える為っていうのは分かりましたけども…」

 

「あ、そうですね。今日は使われてない鉄の資材を業者へ依頼して取引する予定なんです」

 

「鉄?」

 

 アヤネの説明を聞くと、アビドスの古い倉庫を見回りしていた所、どうやら防水用シーツに被せられた鉄の資材を発見したんだとか。

 幸い、防水用シーツが被せられていたお陰で、埃を被ることもなければ雨水などに濡れることなく、錆や汚れなど一切なかったそうだ。

 

「これならかなりの額にもなりますし、何より需要のある資材ですから、これで少しでも借金返済の充てになれば良いんですけど…」

 

 出張費は目を瞑るとして、それなりの額になれば返済利息の足しになるだろう。

 

「因みに、鉄ってどのくらいあるんですの?」

 

「えっとですね、見た感じざっと300kg近くですね」

 

「鉄ってそんなにするんですのね…知りませんでしたわ…」

 

 てっきり数十キロと考えていたノエルは、300kgの鉄の量と重さに想像付かないだろう。名門家としてピアノで育ってきた娘とは言え、こう言った世間一般の知識は愚か、こう言った話に関しても知識を持ち合わせていない為、実感が湧かずにいる。

 廃製鉄所で世話になっていた頃、やたらと汚れた鉄錆の資材が散らばっていたなと思っていたくらいで、大して気にもしていなかったのだ。

 

「業者さんが手伝って運んでくださるので、ノエル先生がお手伝いすることは特に何もないので…これと言って面白いものはありませんが…」

 

「へぇ…じゃあ私、少し倉庫の他にも、此処の周辺を探索しても宜しくって?折角の機会ですし、私もアビドス学校の地理に慣れておきたいんですの。こう言う場面でもなければ、自分から探索する機会なんてないと思いますの」

 

 カロンとは違い、石頭のノエルはこう言う時間のある機会でもなければ探索だの探究などしようとする気はないだろう。

 況してや学園都市キヴォトス全貌が計り知れない程広大な土地となっており、アビドスの領域だけでラプラスが居た街どころか、国の領域さえも軽々しく超えている。

 砂漠なんて生まれて初めて見たノエルからしても、この学校は兎にも角にも知らないことだらけだ。

 気分転換や息抜きに、一人で歩いて探索するのも悪くはないかも知れない。

 

「分かりました!私の方も業者さんが来るまで待機してますので、何かあったら連絡ください。と言っても、ここにはノエル先生が思ってるほど、面白いものも御座いませんけど…あはは」

 

 廃校寸前のアビドス別館は、埋もれた宝物は見つかったとしても、変わったものは殆ど無い。

 然しノエルからすれば、これだけ領地の広い学校は大変珍しいものでもあったりする。

 ラプラスという片田舎の小さな市に住んでいたからという理由もあるが、自分が通っていた学校にはない景色が、砂に埋もれた広大な土地が、何だか本当に異世界へ迷い込んだのだと実感が湧く。

 そもそもラプラスとアビドスでは全くの真逆だ。

 自分達の居た世界では、自然の海が大きく広がった景色や展望を見渡せた。

 その点乾燥地帯による砂漠化が広がっているアビドス自治区の領域は、ノエルにとっては初めて見る神秘的な開放的な場所でもあったりする。

 

 ノエルはアビドス別館の領地、その学校の敷地内を改めて見渡した。

 倉庫や体育館、ボロい古小屋から使われてないサッカーのゴール、飼育小屋まであった。

 錆びたサッカーのゴールは色も薄れており、網が所々破けて痛々しいし、飼育小屋は何も飼われておらず、最近まで動物がいた形跡もない。

 

「……本当に、学校自体が懐かしいですわね…」

 

 ピアノ教室やラプラスで通っていた学校を想起する。

 あの頃は兎にも角にも、ピアノ以外何の興味もなかったし、式典奏者になるという誰しもが願い想いを馳せる目標も、ノエルにとっては通過点でしかなかった。

 学校の生徒として、ピアノ教室で習う教習生として、何の熱意も想いもなかったノエルは冷めていたのだろう。

 ジリアンと過ごした日々や、ピアノに取り組む熱心な気持ちも確かにあった。

 其処には嘘偽りもない、本物の気持ちだ。

 だがそれは両手足と共に、人間としての生活を失って初めて気付かされる事実だ。

 でなければ幾ら市長がピアノコンクールの順位をすり替えたとしても、親友が優勝したことに対して、否定的に手を振り払うはずがない。

 衝動的で、感情的だったにせよ、親友を妬んでいた気持ちは、今でも鮮明に甦る。

 それ以前に、もしジリアンと出会わなければ、自分はとうの昔にピアノ教室をやめていたのかもしれない。

 ピアノが大好きなのは確かだが、そこにやり甲斐を感じなければ、趣味や嗜好はいつしか苦痛や無関心へと変貌してしまう。

 チェルクェッティ家として褒められて当たり前で、完璧な演奏を弾けて当たり前。ピアノの教習でも完璧な演奏を弾けても「チェルクェッティさんなら当然よね」という声も上がっていた。

 特に自分と同じ同年代の世代からの目線はどれも「できて当然」「チェルクェッティさんは特別だから仕方ない」どれも同じ目線で語ってくれる人なんて、誰もいなかった。

 だからこそ、ジリアンという親友と出会えたことは、ノエルがピアノを好きでいられる大きな理由でもあった。

 

「あの子には、本当に救われてばかり…でしたわね」

 

 数少ないが、親友と一緒だったからこそ大きかれ小さかれ、青春という学生が送る性分を味わえた気がする。

 箱入り娘で、世間一般の常識に疎い上層区のお嬢様であっても、学生だからこそ味わえる一瞬のひと時を、懐かしく思える。

 この学校の景色を見ていると、ふとそんな過去を連想する。

 けど、今の自分は大悪魔であり先生で、それ以前の自分は世間から嫌われた被虐の魔女だった。

 そんな自分だからこそ、全てを失って、大切なものを置いてきた自分は、改めて学生が送る青春の物語に尚更、羨望さえ感じてしまう。

 アビドスの生徒達に、ユウカ、ハスミ、スズミ達が輝いて見える。

 ……ワカモは脱獄囚で、ヒナは過労過ぎる仕事量に、若干青春かどうか疑わしく思えるが…。

 

「けど、この学校も昔はもっと賑やかだったということ、ですわよね」

 

 埋もれたアビドス別館校内に入り、歩いたことのない廊下を見渡しながら、ふと言葉を垂らす。

 過去のアビドス本校が如何なるものか、想像付かないが、少なくとも学園が存在しているということは、過去は生徒達も賑やかに過ごしていたということだ。

 ホシノやシロコからは砂嵐に埋もれてしまい、借金が発生してからは生徒達も転校やら退校などしてこの自治区を去っていったと言っていた。

 では、借金が発生する前はどんな景色だったのか。

 ひょっとしたら砂嵐がない時期には、今のように寂れたアビドス別館とは違って、それこそ砂に埋もれてもなく、ゲヘナ学園やトリニティのように活気よく生徒達が大勢いたのでは…。

 

「…ん?ちょっと待って下さいまし?」

 

 …それは、可笑しくないか?

 確かに砂嵐が巻き起こったのは、自然現象なのだろう。

 然しそれが当の昔から起きていたのであれば、尚更この学校は既に埋もれていてもおかしくないのでは?

 いや、だが悪徳とはいえ金融会社に頼んで砂嵐を克服しようとしていたのだ。ひょっとしたら昔からそう言った砂嵐の克服を続いてきた結果として、違法なまでに借金が膨らんだのかもしれない。

 アビドスが学園として建てられた経歴がどの位か知らない以上、考察したところで結局は憶測にしかならない。

 

「…理解が及ばないことも、また自然現象、なのかしら…」

 

 郊外エリアは無事で、肝心の学園自治区の領域は砂で埋もれている。

 砂嵐の発生場所が偶々学園で発生したというには、偶然が出来すぎてる気もしなくはない。

 そしてその偶然たる自然現象を必然と思い込むことでオカルトという現象が生まれるのだ。

 砂嵐などの自然現象も、元いた世界…それこそラプラスの世界ではこう言った人智を超える自然現象は神として崇められ、敬う神秘と畏れる恐怖により、悪魔が誕生した。

 サンタンジェロ公立大学に潜入した時の、バロウズが遺した論文を思い出した。

 

「ひょっとしたら、ここアビドス別館でも何か情報を仕入れそうな有効な書物とかあったりして…」

 

 それはカロンもアビドスに訪れてから考えていたことだ。

 ノエルには話してなかったが、シロコの部屋でお泊まりしたり、セリカの看病をしていた際も、カロンはアビドス別館に残り、一人でアビドスの地理や歴史に触れようと古い文献を手当たり次第探しては、読み漁っていたのである。

 

「けど、これだけ広い場所で…何百冊もある文庫から、一体何を……アヤネと相談でもしてみようかしら…」

 

 そもそも本なんて滅多に読まないノエルからして、探し出すことは至難だろう。

 結局、アビドス別館の校舎内を軽く歩いた結果として、収穫できるものは何もなかったが、改めて別館内を少しだけ知れた気がする。

 これ以上長く歩いてると、アヤネも何か心配するかもしれないし、軽く様子を見に行くがてら戻る選択肢を取ったノエルは、再び古い倉庫の方へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

「いつも有難う御座いますアヤネさん。じゃあまた後で連絡致しますので、宜しくお願いしますね」

 

 再び倉庫の方角へ戻っていくと、校門の方でアヤネとトラックの荷台を積んでいる業者の方が話しているのが見えた。

 黒い眼をまん丸にした可愛らしい柴犬の大人が、トラックに乗り込むとエンジン音を鳴らし、出動していった。

 

「今のは、さっき話していた業者の方なんですの?」

 

「あっ!ノエル先生、丁度良いところに…。はい、いつも取引して貰っている廃品や資材を回収する業者さんでして。たった今終わったところなんですよ」

 

 ホクホク顔でご満悦なアヤネの顔振りから察して、どうやら相当良い値が張ったようだ。

 

「いつも取引してるって仰ってましたけど…資材なんて何処で調達してるんですの?今回は倉庫に使われてない資材の取引をしてたみたいですけれども…」

 

「あはは…ここの校舎は意外と広くて大きいので、案外掘り出し物とか探すと見つかることが多いんですよ。なので掃除したり探し物をしていると、思わぬ形で資材を集めることができるので、そこまで困らなかったり…他にも、使われてない倉庫や建物から資材を調達したり…」

 

「まるで、宝物探しみたいですわね…ちょっと、楽しそうかも」

 

 自分もラプラスにいた頃は、クラフトなど行ったりや、キズ薬にPの入手など、落ちていたものを拾ったり探して調達してたりもしていたので、何処となく気持ちは分からなくもない。

 因みにPに関しては未だに不明であり、てんちょーにしか分からない。

 

「ノエル先生も、今日は有難う御座いました。折角ですから、せめて御礼でも…」

 

「あら、もう終わりなんですの?倉庫の片付けとかは大丈夫なんですの?」

 

「えぇっ?そ、そんな…流石に悪いですよノエル先生……何もそこまで…それに今回は鉄の資源を運んだだけで、特段散らかった訳でもないですし…」

 

「折角ですし手伝いますわっ。ほら、ひょっとしたら何かとんでもない掘り出し物とか見つかるかもしれませんわよ?」

 

 倉庫内がどう言った内装なのか、興味があるという点が強い方でもあるが、折角だから少しでもアヤネの為に手伝いたいという思いもまた事実でもある。

 暇をしていたのもあり、会議が説教で終わってしまったのだから、次にカロンや他のアビドス生徒会の四人と会う時に機嫌が少しでも良くなっていたら…という意味も込めて、ノエルはふんす!と鼻息を鳴らしてやる気を見せる。

 流石に彼女の善意を無碍にする訳にも行かないと感じたアヤネは「じゃあ、お言葉に甘えて…」と、苦笑しながら承諾してくれた。

 

 ガララ…とした扉を開く音が鳴り響くと共に、真っ暗な景色に外の光が流れ、視界が映る。

 倉庫内は思ったよりも薄暗く、長年使われてない独特な雰囲気と香りが鼻腔をつんざく。

 

「倉庫内はこんな感じ、なんですのね」

 

 サッカーボールの籠、脚立、ロッカー、鏡、塗装用のペンキ、移動式黒板、バット、毛布、テニスラケット、六段型の跳び箱、数えたらキリがないが、この古い倉庫内はスポーツ類の置き物が多かった。

 学校の体育の授業で学び触れたことのある競技系の道具に、何だか学生に戻った気分だ。

 

「と言っても余り面白いものはございませんけれど…あはは……」

 

「あら?この大きいシートは何かしら?防水?」

 

「嗚呼、これはさっき業者さんに引き受けて貰った鉄の資材を保護していたシートですね。折角なので再利用の為に折り畳んで、いつでも使えるようにしておきましょうか」

 

 ひょっとしたら資材を手にした時に、シートを使って錆や埃を被る際に大きく役立つだろうと判断した。

 確かに貴重のある資材から、使われなくなったものまで、何かしら保護する形で使うにはもってこいだろう。これだけ面積が大きければ、ある程度の資材を包むには丁度良く…。

 

「あれ?アヤネ、これ何か書いてありますわよ?」

 

 ノエルが端っこのシートを手にした時、裏にマジックペンで小さく記されていた文字を見つけたノエルは、アヤネを呼び掛ける。

 

「へ?一体なんでしょうか…?」

 

 アヤネが調べた時は見つけられなかったのだろうか、その様子を見た限りだとどうやら知らなかった様子である。

 アヤネと一緒に、小さく記されていた文字を目で追って読んでいく。

 

『取り扱い注意!この資材は大変高価な特殊性の鉄の為、温度や湿気、埃など注意が必要。詳細は…』

 

「「………」」

 

 これを読んで二人は数秒ポカンと呆けていた。

 

「高価な…?然も特殊性の鉄?」

 

「………へ?高価な……。えっ…?高価な!??」

 

 ノエルの言葉に続いて、言葉を咀嚼し漸く我に帰ったアヤネは、焦りの表情へと一変させる。

 

「あれ、アヤネ?」

 

「――だ、ダメぇ!!ダメです!!」

 

「ちょっ!?アヤネぇ!?」

 

 飛び出すように大慌てで倉庫から飛び出たアヤネは、一目散にアビドス別館へと走って行く。

 あの様子からして何かしら不備があったのか、訳も分からず取り残されたノエルは取り敢えず猛スピードで走り去ったアヤネの後を追うように、ノエルも教室へと走って行った。

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――

 

「ひぃ……ひぃ〜……ぜぇ、ぜぇ…っ!はぁ、はぁ……っ」

 

 全力疾走で教室に戻ったノエルは、息を切らしながら汗を垂らしながら、息を荒げていた。

 汗が雨玉のように垂らし、バクバクと高鳴り暴れる心臓を抑えながら、乱れる呼吸を整える為に肩で息を取る。

 体力が少ないことに加えて、取り戻した両足の感覚がそこまで上手く馴染んでないノエルにとっては、中距離の走り込みは身体に効くものだった。

 それでもアヤネは息一つ乱すことなく、業者へと電話をしていた。

 

「ダメです!先程の業者さんやお店の方にも電話をしたのですが…何方も応答しません…!ど、どうしましょう?!」

 

「あ、アヤ……あやね………ひゅぅ、ひゅぅ……ちょっと、落ち着いて……」

 

 瞳を潤わせるアヤネは、涙をポロポロ流しながら訴えかけてくる。

 ――というか何でアヤネは汗一つも掻かずに、呼吸も乱れず堂々としていられるのだろうか。実はアヤネはオペレーターという役職を務めているだけであって、ホシノやシロコのように充分戦えるのではないかという疑問がノエルの思考から芽生えてきた。

 どうやらあの廃品業者と取引していた鉄の資材は、特殊性の高価ある鉄だというのを知らずに引き渡してしまったそうだ。

 つまり、値段が段違いな程に跳ね上がるのである。

 もしこのまま行ってしまえば、損をしてしまう。1000万獲得できる換金を、100万で換金してしまったと考えると、アヤネにとって相当な痛手だ。

 

「はっ…!そ、そうですよね…!どんな時でも落ち着かなきゃ…。確りしてアヤネ…!追い込まれた状況なんていつものこと…!」

 

(――なんだか、己を鼓舞してますわ?)

 

 頬をパチパチ!と両手で叩きながら、自分に自信を保つように鼓舞するアヤネは、気を取り直してパソコンを開く。

 どうやらアビドス自治区のマップを開いてるらしい。

 

「ふぅ、よし…!先ずは、状況の把握を!そしてルートの確認を……」

 

 独り言を呟きながら、険しい顔立ちでパソコンのキーボードを慣れた手つきでカタカタとタイピングしていく。

 

「…OKです、整理できました!あのトラックは直接処理場に行くわけではなく、貨物駅で列車に積み込むはず。貨物列車に乗せてしまえばもう手出しが出来ません。つまり、ミッション失敗です」

 

「……………ん?」

 

「いえ、それ以前に貨物駅に向かうハイウェイに乗ってしまった時点でもう追跡は不可能でしょう」

 

「あ、アヤネ……?」

 

 アヤネは相変わらず凄まじいタイピングでパソコンの情報を仕入れていく。指の手捌きと言い、慣れた手つきはピアノの旋律を奏でるような、滑らかな手つきだ。

 とはいえ、そんな悠長な考えや感想に浸る余韻もなく、ノエルはなにが何やらと困惑している様子だ。

 話が一切読めないと言わんばかりのノエルなどお構いなしに、アヤネは独り言を募らせる。

 

「あっ!ひょっとして取引の業者に連絡を入れて、どうにか止めて欲しいとか…そういう電話をする為に居場所を探ってるんですのね?だからさっきからナビマップ機能まで運用して……」

 

「此処から一番近い貨物駅は無人で運用されているので、そこに連絡を受けてくれる人はいないんです」

 

「へ??」

 

「そして今から貨物駅に向かってもトラックの到着が早いので、私達の勝負所は貨物駅ではありません」

 

「………はい?」

 

 さっきからアヤネの物語に置いてけぼりのノエルは、呆けた顔で目を丸くしたまま、間抜けな声を喉奥から漏れてしまう。いや、本当にさっきから何を言ってるのか一ミリたりとも理解が及ばない。

 そんなノエルなどお構いなしに、アヤネは思考回路をフル稼働させながら、作戦と実行を練り上げるように考えている。

 

「その前に勝負を付ける必要があります。ですので、そこまでの動線を考えましょう」

 

(勝負って、なんですの???)

 

 私たちは一体何と戦わされてるのだろうか。

 突っ込みを入れたくなってしまうが、余計に話がややこしくなって時間が勿体無いと言われそうなので、敢えて黙っていることにした。

 ――まさかだと思うが……アヤネは無賃駅へと行き着くトラックを追い越そうとしてるのではないのだろうか?

 先程、取引先の店や業者とは連絡が付かないと言っていた。

 つまり、現在進行形で無賃駅へと移動しているトラックを、どうにかしようとしているのだろうか?どうにも、アヤネの発言からはそうとしか聞こえない。

 仮に、だ。追い付くにしてもどの様な手段を用いて追いつこうとするのだろうか?此処にはヘリも無ければ、唯一と言って良い自動車位しかない。と言うか、アヤネは免許持っているのだろうか?

 

「以前からずっと取引している方なので、その辺りの情報は記録していたはず……。――はい、成る程。いつも通りであれば、アビドス商店街にある大型建築資材管理センターに向かうはず……」

 

「…では、そこに向かうんですの?」

 

「…いえ、ですがそれはきっと『まだトラックに積み込みができる場合』でしょう。今はトラックに300kgの荷物が載せられています。あそこであれ以上載せられるものは無いはずです。何よりあの場所は文字通り、大型建築資材を取り扱う場所なのですから」

 

「な、な…なる、ほど??」

 

「万が一行ったとしても、その分をショートカットして先回り可能です。そこをパスしたと仮定して、その次は……――」

 

 カタカタカタカタ――文字を打ちながらアビドス自治区周辺の建物やトラックの配送ルート、配送時間、渋滞予測、モニターに映し出されてる様々なデジタル情報を瞬時に頭へインプットしていく。

 

「此処です!『アビドス中央公園第3地区』!ここの公園では今撤去作業がされていますので、ある程度軽いものを載せるはずです!距離は約3km…遠くはありません!予測される到着時間まで約10分……」

 

(アヤネ、貴女ひょっとしてカロン並みに賢いのではなくって??)

 

 アビドス周辺自治区の状況と地理を把握。配送ルートから到着時間まで念入りに計算する彼女は、現状アビドスの凡ゆる盤上を把握し認識しているのだ。

 カロンも地の利を活かし、相手の動向を予測、計算し作戦を立てることに特化している。

 案外、アヤネやカロンの様な知恵を司ることに長けた賢さの高い悪魔や人間は、こう言った状況整理と判断に対してとんでもない才能を発揮するのではないかと改めて考える。

 

「で、では…その10分後に電話をかけたり…とか?」

 

「いえ、恐らく電話に出る可能性が不安定な以上、これを逃したらもう後がありません。なので私自ら出向いてお話しするしか確実な選択肢がありません」

 

「アヤネ、貴女車の運転は出来るんですの?」

 

「自動車の運転は可能ですが、道路の渋滞を考えると間に合わないかと……なので、走ります」

 

「……………ぱぇ?」

 

 素っ頓狂な声が出た。

 恐らく人間としても大悪魔としても、生まれて初めて喉から絞れた間抜けな声だろう。

 ――この子、今なんて言いましたの?走る?え、走る??はしる…???

 

「トラックの経路はそれなりに遠回りですし、信号もあります。一方で私でしたら最短距離で3kmを10分で追跡可能です!」

 

「えぇえっっ?!!う、嘘ぉ?!ほ、本当なんですの…!?」

 

 アレだけの距離を自転車も自動車もなしに一人で10分完走するなど、一体どんな身体能力を持ち合わせているのだろうか。矢張り、この子達生徒と呼ばれるキヴォトスの人間は、大悪魔と同等の立ち位置として渡り合えるのではないかと、お世辞も比喩も無しに本気でそう思えてきた。

 

「先生、指揮をお願いします…!」

 

「わ、わわ…私がカロンの代わりをやれと?!」

 

 突然、指揮の希望を任されたノエルは困惑の色を見せる。

 こう言った指揮全般は、大体カロンが自ら進んで指揮系統を担っていたので、アヤネに一任されると思わず身体の筋肉が強張る様に緊張の根をあげてしまう。

 

「大丈夫です!私がオペレーターとして皆様の支援サポートを行なっていた様に、ノエル先生が扱っていただければ…!それに、ノエル先生も一時的とはいえ…聴力による指揮とサポートを見ていましたので…充分信頼できると思っています!」

 

 アヤネは知っている。カタカタヘルメット団がアビドス学校を占領しようと、襲撃を仕掛けてきた時、カロン先生が近くに居たからとはいえ、セリカちゃんやシロコ先輩に、優れた聴覚力や連邦生徒会長が遺したシッテムの箱と呼ばれるオーパーツで、私たちをサポートしてくれていたことを。

 本人は自覚がないのかもしれないが、生徒達に指示を送っていたノエル先生は、充分程に私達の力に成ってくれていた。

 だからこそ、オペレーターとしての役割も、ノエル先生になら問題なく任せられると信じている。

 

「し、然し……」

 

 と、此処でノエルが反論をしようとした時、ふと脳裏に昨日の夜中の出来事を思い出す。

 

『私からも…カロン。本当にありがとうですわ!それに比べて…私は全然、役に立てなくて…』

 

 気絶し倒れてたセリカを担ぎ、ボロボロになってまで単身で救い出したカロンに向けて言い放った、軟弱な過去の自分を想起した。

 所詮自分はカロンがいなければ、半人前で何もできない。そう決めつけて、過去の自分を嘆いていた。

 だけど…カロンが居なくても、自分だって悩みの一つや二つ、解決しなければ、大悪魔とは呼べない。

 例えそれが二人一組の大悪魔と呼ばれる奇妙な存在だとしても――生徒の一人や二人、頼まれた望みや願いを叶えなければ先生としての名が廃る。

 

 それ以前に一度、カロンが囚われたなかでも単身で特別独房に乗り込み、武装された警備が在る中、フーゴを無事説得して脱走したではないか。一歩間違えれば即射殺されていたあの頃と比べれば、屁でもない。

 何より、アヤネが真っ直ぐな瞳で、真剣に自分のことを信じてると言ってくれてるのだ。

 こんな自分を信じて託してくれるのを、私だからと…そんな情けない理由で断るわけにはいかない。何より…

 

 ――そんな情けないことを、私が言う訳にはいかないのだ。

 

 

「…いえ、失礼。御免なさい、御見苦しい姿を見せて。アヤネがそこまで覚悟を以ってして仰るのなら、私も全力でその気持ちに応えますわ!オペレーターなんて、初めてやりますけど…アロナの時と同じ感覚で、間違いないですわよね…」

 

 

 ノエルは耳にイヤホンを付けながら、パソコンの席に座る。正直、パソコンに映し出されてるマップ画面の進行状況とルートを確認しながら連絡を取り合うのは…難しそうな気もするが、やる以外の選択肢などない。

 

「有難う御座います…!私は極力荷物を減らします。それに地図を確認しながらでは全速力で走れません…。なので私に道を教えて下さい」

 

「それを込めての指揮、なのでしょう?大悪魔の誇りに賭けて、絶対成功させてやりますわ!!」

 

「では、行ってきます!!」

 

 アヤネは全速力でダッシュすると、風の様に消えていった。

 キヴォトス民の人間は身体が頑丈なだけでなく、身体能力も向上していると判断しても間違いではないだろう。

 シロコやセリカの体力面、ノノミやホシノの筋力、そしてアヤネの身体機能……。GPS機能とルートを確認すると、もう校門から出て数十メートル先の道路へと飛び出した。

 

(………やっぱり、キヴォトスって凄いんですのね……)

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――

 

 

『先生!十字路です!どの方角ですか?!』

 

「み、右!右ですわ!」

 

 暫くして数分後、アヤネが全速力で走りながら質問をする度に、ノエルは必死になって画面に食らいつきながら、ルート案内の指示を送る。

 正直、想像より大変だった。

 アヤネの全力疾走による猛スピードに、一々飛び交う指示を送るノエルは、もう兎に角一寸の隙も息吐く暇もなかった。

 

「はぁ…!はぁ……!せ、先生!向こう側のはずなのですが…っ!横断歩道がありません…っ!」

 

「300m先に歩道橋がありますわ!!」

 

「300先…!了解、でっ……きゃあ!?」

 

 バタン!!

 GPS機能による移動が、大きな音と共に止まった。彼女の悲鳴と言い、この声は恐らく…。

 

「アヤネ!?だ、大丈夫ですの?!ひょっとして転ん…――」

「な、何でもありません!いっつつ……つ、続けて下さい!!」

 

 …絶対、転びましたわね。

 内心そっと小さな声で呟くと、また直ぐにアヤネが走り出した。ちょっと痛々しい声が漏れていたので間違いない。

 

「つ、次は何方へ…?!」

 

「えっと…左ですわ!」

 

「み、見えました…!歩道橋!後は……――」

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、タクシー並走も夢ではないアヤネの見事な走りっぷりに、10分経過した。

 

「はぁ……はっ、はぁ……こんな事なら、普段ならもっと…きちんと、運動……はぁ、はぁ…っ、しておけば……よかった、です……」

 

 目的地に無事到着。

 アヤネの息苦しそうに、肩で乱れる呼吸を整えながら、汗だくになったアヤネの声はかなり極まっていた。

 正直、廃品回収業者が稼働していたトラックを、全力疾走で追跡可能だとは…。悪魔の奇跡とも呼びたいが、キヴォトス民にとっては偶にある…というレベルで解釈しても良いのかもしれない。

 

『えぇっ!?ちょっ、アヤネさんどうしたの?!こんな所まで来て…一体何が?!』

 

『あ、あの……その、鉄は……』

 

 結局、満身創痍のアヤネは廃品回収業者に訳あって説明した後、交渉内容による鉄の価値を二倍近くにまで跳ね上げてくれたらしい。

 帰ってきた後も、笑顔ではあったものの、途中で転んだからか怪我…こそはしていないが、アビドスの砂で服は汚れてしまったそうだ。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――

 

 

「はぁ……今日は本当に、1日大変でした……」

「お疲れ様ですわアヤネ、はいっ紅茶!」

 

 廃品回収業者との一件を終えた後、アビドス教室に戻ってきたアヤネは、ため息を吐きながら席に座り、ノエルが淹れてくれた紅茶を啜る。

 時間はもうすっかり夕暮れ時…烏の鳴き声が木霊し、眩しく焼き尽くす様な夕焼け色が眩しく見える。

 

「あ、有難う御座います…っ」

 

「アヤネ、転んだ所は痛くないんですの?大丈夫?」

 

「だ、大丈夫です…そ、その話はしない方が、良いかもしれません……」

 

 本人曰く恥ずかしいらしい。

 頬を膨らませながら、真っ赤にしてるのが何とも拗ねてるのか羞恥心から来る表情なのか…なんと可愛らしいことか。

 

「うう……でも、こうなるならもっと事前に確認をしておくべきでした…今回は、教訓を得た…と言うことにしておきましょう…」

 

 気を紛らわす様に、紅茶を飲み干したアヤネは、複雑な表情を立てながら唇を尖らせて呟いた。

 確かに今回は間に合ったからこそ良かったものの、もしこれが後少しでも気付くのが遅ければどうなっていたことやら……。

 

「でも、アヤネって本当に凄いんですのね。私、初めてオペレーターをやったので、その…大変さが身に沁みたと言いうか…」

 

「そ、そうなんですかね…?あ、でも…初めて経験する人なら、難しいかもしれませんね…」

 

 アヤネは最早天職と呼んでも良いほどに、オペレーターとしての役割は文句なしに完璧だ。それ故に、出来て当たり前と思い込んでいる節があるため、そこまで難しいという考えがアヤネには薄れてるのだろう。

 

「私はアヤネ一人で指揮をするのにやっとでしたもの…それを、シロコ、セリカ、ノノミ、ホシノ…あの四人のサポートをするって考えると……」

 

 ノエルの脳や意識があと三人分必要ということになる。改めて実感すると普通に無理だろう。

 気が遠くなるのを、ブンブン!と頭を左右に振りながら、気を取り直す。

 

「それより、ノエル先生も改めて、お疲れ様です。ノエル先生の指揮があったお陰で、こうして事なきを得ず、正式な値段で取引することに成功しましたから…。もしノエル先生がいなければ、一人じゃ無理でしたもの……そう考えると、私が担ってる仕事が誰かを救えてるって、それを知れた良い機会にもなりましたから…」

 

 ニコッと、柔らかな笑顔を差し向けてくるアヤネが何処となく輝いていた。

 

(かっ、可愛い……ですわっ)

 

 素直で、優しくて、柔らかな笑顔が疲れを吹き飛ばすように、彼女の笑顔に心を奪われそうになる。

 そんな同性愛に目覚めそうな煩念を振り払う様に、頭をブンブン!と二度振り回す。それを見てるアヤネは「何してるんだろう…?」と疑心に思ったり…。

 

「…――そうだ…!折角ですし、アヤネ。暗くなる前に、頑張ったご褒美として一曲、お聴きします?」

 

「へ?ノエル、先生?」

 

 教室の使われてない机の片隅に置いていた電子キーボードと滞納バッグを取り出す。

 ノエル先生が偶にピアニストだったと聞いたことはあるが、改めてこうして電子ピアノを取り出すと、彼女が紛れもないピアニストだったということを実感した。

 

「泊まり込みで、シロコにも聴かせたことがありますけれど…今日はアヤネ以外誰もいませんし、何なら此処は学校ですもの……此処で曲を奏でても誰かに怒られる、なんてことはありませんし」

 

 笑顔でアヤネの顔に近付きながら、立てた人差し指を唇に当てる。赤眼の瞳が、此方を見据える様に、ジッと瞳を見つめ合ってくる。

 そんな彼女の仕草に、心なしかドキッ!とくるものがあった。ノエル先生って、実は人を魅了すると言った特別な能力とかあったりするのだろうか、なんて錯覚的な思考回路に行き着いてしまう。

 

「い、良いんでしょうか…?そ、それなら…えっと、折角ですし……ノエル先生にお願い、しましょうか…」

 

「えへへっ…!良いですわよ!アヤネ、今日はいっぱい頑張ったんですもの。ご褒美くらいあったって、バチは当たりませんし、偶には息抜きも必要ですもの!」

 

 

 その後、夕暮れ時の校舎の下二人。

 ユウカから貰った愛用の宝物である電子キーボードから、幻想とも呼べる美しい音色の曲が奏でられた。

 焼き色の夕焼け照らす寂れた校舎から、色彩を放つように輝く色褪せた音色が染まる様に、包み込んで行く。

 

 アヤネとノエルは、一曲だけ特別にピアノを弾いて、一日を終えた。

 

 

 






アヤネ「ノエル先生はマトモですよ!魔女って言わないでください!」

ノエル
・大悪魔召喚及び契約により魔女になる(重罪)
・ステラステージ社長殺害
・市長官邸不法侵入
・アクエリアス社不法侵入及び器物破損
・国会議事堂襲撃
・無賃電車
・ラプラス警察オスカー・ドレッセル重傷
・ラプラス警察特別独房侵入及び、指名手配犯の爆弾魔脱獄手配
・カジノ・ミスティ破壊
・記念式典ピアノコンクール襲撃及び市長への暴行(プレゼントですわ!)
・検問強制突破
・OCT隊員暴行
・市長官邸襲撃
・屋上で市長蹴り飛ばす

アヤネ「」即倒。

こう並べるとアリウスが霞む。
なお当時、両手足ない模様。
オスカーやカジノ破壊に関しては、小説版よりノエルの所為にされてる模様。

次回!ハルカが柴関ラーメン店にどうもこんにちは!お楽しみに!!


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