被虐と赤眼の教導者   作:トラソティス

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#愚かなラプラス市民#カロリン#太腿#三年生#過去のトラウマ#生徒会長どこ#大悪魔


story1『願い』

 

 

 

 

「キヴォトスへようこそ――先生」

 

 エレベーターに足を踏み入れると、防音や外の景色を隔てた壁ではなく、窓ガラスとなっていた。

 太陽の日差しと共に照らされる学園都市──『キヴォトス』

 遍く高層ビルが並ぶ都市、その光景はラプラスとは違う輝きと美しさが絶景として広がっていた。

 

「す、すっっっごいですわ!!ラプラスの狭い市街地や上層区とは違って、こう…なんて言うんですの?レベルが…これが文化の違いですのね!スラムの高丘で見晴らしてた街とは全く別次元ですわ…」

 

「そう言えばノエルはラプラス出身地…市外に出るのはあの一度っきりだな。文化の違いを垣間見えるのは中々感動的だろう?」

 

 ラプラスという田舎の小さな市街とは違い、学園都市キヴォトスは自分達の住んでた世界とは違う、近未来的な風景だ。

 

「キヴォトスは数千の学園が集まってできた巨大な学園都市です。これからお二人方先生が働くところでもあります――きっと先生がいらっしゃった所とは色々な事が違っていて、最初は慣れるのに苦労するかもしれませんが……あの連邦生徒会長が、お選びになった方ですからね」

 

(私たちを選んだ……?となれば、あの発言…あの記憶――リンの台詞と記憶から照らし合わせ…間違いない、私達に願いを込めた女が連邦生徒会長……)

 

 ならば筋が通る。

 何故、連邦生徒会長が私たちを此処へ召喚させたのかは不明――ただ、あの生徒会長の言葉には、何処か心に突き刺さる。

 問題は生徒会長が何者なのかも気になるところではあるが…と、此処でカロンはふと一つの疑問が思い浮かぶ。

 

「リン――一つ訊ねたい事がある」

 

 エレベーターに乗りながら、カロンはリンに言葉を投げつける。不意にカロンに言葉を聞かれたリンは頭上に?を浮かべて、カロンに向き直る。

 

「はい?どうなされましたか?」

 

「お前達は――何者だ?」

 

 それは余りにも突発性過ぎる発言。

 大悪魔然り、普通の人間然りと…こうして言葉に発する疑問など、日常生活でも早々にないだろう。

 安直にしてシンプル・イズ・ベストな質問だ。

 

「ちょっ、どうしたんですのカロン…?」

 

「前々から気にはなっていたが…私達が住んでたキヴォトス外の、言うなれば元いた私達の領域に住んでた人間とは似て非なる存在――何よりその頭上に浮かんでる模様が明らかにそうだろう」

 

 七神リンに『ゲヘナ学園に悪魔の種族はいる』という貴重なワードが流れ出た。

 自分達と同じ大悪魔か、小悪魔販売店のてんちょーや路地裏トライアルのばんちょーと言った害のない名もなき小悪魔か…将又自分達とは別の存在となる悪魔か…然し種族で悪魔がいる、という事は他にも色んな種族が居るということも裏付けている。

 何者だ――という発言は、種族に対してではなく…正確にはキヴォトスに住まう者達が一体どう言った存在なのかについて純粋に疑問に思っているのだろう。

 それもその筈、自分達は要するに異世界転生とやらを果たしてるのだ。

 そんなコメディなど、ラプラス市では殆ど流通など無かったが…いや、彼処は小さな市であり国から見れば田舎だ。

 ノエルも幾つか書籍は家にあったが殆ど読んでいなかったので、そういう知識も滅多にない。

 そんな右も左も分からない異世界に滞在してるのだから、相手が何者か位聞くのは当然だろう。

 

「これ、ですか?これは『ヘイロー』と呼ばれるものです。キヴォトスに住まう生徒達に存在する…私たちの特徴を象徴としたもの…と、今は判断して貰って大丈夫です」

 

「?随分と謎めいた発言だな。まるで未だに解明されてない謎だ、と言ってる様なもんだぞ」

 

「へェ〜……まるで天使の輪っかみたいですわ」

 

 天使の輪っか…と言われると、キヴォトスに住まう住民の正体は天使なのでは?と一瞬だけ頭が過ったが、悪魔がいる以上その考えを否定する。

 悪魔と天使は対照的だ――自分達の元いた世界、ラプラス市に於いても天使など見かけることもなかった。

 そもそも大悪魔の創生さえ知ってしまえば、悪魔も天使も本質的には変わらない概念的存在だと認識している。

 だからこそ、始まりの悪魔となったラッセル・バロウズは悪魔にして神に等しい存在となったのだが…。

 

「基本的にヘイローは触る事は不可能です。私達の生命、意識と共に存在するヘイローは、個々人の性格として現れているので…。無論、壊す事は不可能です」

 

「概念的な存在…物理的な干渉は不可能、と言う訳か…ふむ…」

 

「私達が何者か…と言われても、そんなこと考えたことも有りませんでした…。その様な質問を投げたのはカロン先生で初めてですから――」

 

「………ほぉ」

 

 つまり、自分達の認識は私達で言う『人間』と変わらないのだろう。それもそうだ――普通の人間に「お前は何者だ」なんて言われても困惑するだろう。

 彼女にとって自分達は、それほど驚異的でも誇示するような特別な存在という訳でもないらしい。

 

(だがこれで情報は掴めたな……この質問が私で初めて、となれば…外部からの干渉は滅多にない、と言う解釈で間違いないだろう)

 

 ノエルは兎も角、自分は明らかにキヴォトスの住民とも違えば向こうの世界では犯罪そのものを主張とする大悪魔だ。

 そんな異形な人型の…人ならざる者を目の前にしても、全く動じずに、それこそ大悪魔の存在が犯罪ですらないと言わんばかりに、日常会話を嗜む様に平然と言葉を交わしているのだ。

 大悪魔が此方にも存在するのか、という疑問も序でに聞きたかったが…その必要はなさそうだ。

 

「はぇ〜…私には難しい話ですわね……それにさっき話してたキヴォトスの命運を賭けた仕事といい、こう言うのは大人がやる仕事ではないのですの?」

 

「言われてみればそれもそうだ…良い着眼点だなノエル」

 

 ノエルは偶にこういう鋭い着眼点を持つことがある。リンは大人びた風格と言えどこれでも学生らしい。大企業の高層ビルにも似たこの建物…これも学園都市の学校の一部に過ぎないのか、本当に大企業や大手の会社なのか…子供が大人並みの仕事をしてる姿など想像つきにくいが…こういう大きな仕事には必ず大人が付き添うものだと考えている。

 

「ええ、ですからこうして先生方にお願いをしてる訳でして……」

 

「…成る程、つまり先生以外の大人は居ない、という訳なのだな?」

 

「はい、お恥ずかしいお話ですが…」

 

 えぇ!?と驚嘆の顔を浮かべるノエル。実は今ちょっとだけカロンも心外だと言わんばかりの表情を露わとなっている。

 

「私達連邦生徒会は全行政を担い、学園都市の運営に従事する中央組織……この学園都市キヴォトスの中枢を占めております。本来こういった仕事は最高責任者――連邦生徒会首席の生徒会長が担うのですが…」

 

「…???」

 

「…これは、生徒が負う所の仕事内容じゃないだろう…ラッセルの市長、という規模よりも大きなスケールだ…」

 

 嘗てラプラスを奔走としていた頃、カロンも契約上の都合で市長に関する仕事を物触したことがある。

 秘密裏の仕事内容や書類、地域や市長、ラプラスで解決するべき内容など、事務的な内容をこなしていたからこそ、遥か上を担う連邦生徒会の在り方と、生徒であり子供…であるにも関わらず、スケールの規模が大きい彼女達の仕事に驚愕を隠せない。

 

「と、また詳細は後日。そろそろ着きましたよ――」

 

 上階から一階へ移動が終わり到着した。

 エレベーターの電子音と共に自動的にドアが開けば、一階の受付場――レセプションルームに足を踏み入れる。

 何やら騒々しい空気が流れてる様で、何人かの生徒達が苦情を出してる様子が窺える。

 

「ふん…連邦生徒会とやらも大変だな……客のクレームを受け入れるのもさぞや気苦労を…――」

 

 などと他人事の様に高らかな上から目線で、同情地味た低い笑いを浮かべると、此方の存在に気付いた生徒達が「発見した」と言わざるを得ない形相で踏み寄ってくる。

 

「ちょっと待って!やっと見つけたわ代行!全く…待ってたわよ!!早く連邦生徒会長を呼んで来て!!」

 

 騒々しい声主は、連邦生徒会長代行の七神リンにクレームを押し付ける様に言葉を述べる。

 彼女にも矢張り当然と言うべきか、ヘイローが浮かんでいる。黒曜石の様な美しく、至ってシンプルな天輪。

 制服の上に白いジャケットを着崩しした、菫色のツインテールを結んでいる騒がしい少女。二丁のSMGを携帯しており、怒気の表情を浮かばせ詰み寄ってくる。

 

「あ゛?何だこのガキは…?」

 

「ちょっと!何で急に高圧的な態度なんですの!?私達、仮にも先生なのですよ!!」

 

「むッ……」

 

 大悪魔としてのカロンは契約者として人間と触れ合うコトがあっても、それ以外…言うなれば外部からの人間とのコミュニケーションは滅多にない。

 一週間ノエルに復讐を休ませ、スラムの住民に溶け込んでた時を除き、まともに会話をした場面など、仲間以外にも中々ない。

 なので言葉を投げられるのは案外慣れてないのかもしれない。反射神経で荒い言葉が出たのだろう。

 

「って、あれ?代行、隣の方は――…」

 

 漸く此方の存在に気付いた少女。口を開こうとするノエルとカロンの前に――…。

 

「お待ちしておりました――首席行政官」

「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が今の状況に納得の行く回答を求めています」

 

 言葉を発する前に、それこそ対話を遮るように、二人の生徒が現れる。

 1人は漆黒の学生服…黒のセーラー服に似た衣装…そして鴉を連想とさせる黒の両翼。沈着冷静、容姿端麗という印象が強い。

 1人は眼鏡を掛けた栗色の短髪をした少女。七神リンと同じエルフ耳、腕章には『風紀』と記されている。大きな鞄を所持しており、片手にはM712を手離さず所持している。

 二人にもヘイロー…いや、もう有るのが自然だと考えれば、一々気にする必要はないのかもしれない。案外こういうのは自然と慣れてしまうのだろう。

 もう一人、黒い両翼と漆黒のセーラー服を着てる凛…とした女性の側にはサイドテールの髪型をした鮮やかな銀髪の少女…白い羽が生えている。

 あの二人は何処となく悪魔というより天使に似た神聖らしい何かを感じる。

 

「……おい、これひょっとして……」

「はぁ……先生のお察しの通り、面倒な人達に捕まってしまいましたね…」

 

 他人事の様に呟いてたカロンは自分達に矢が向けられてる事に冷や汗を垂らし、リンは心の底から面倒くさそうに溜息を吐きながら小さな愚痴をこぼす。この女の腹黒さを垣間見た気がする。

 

「こんにちは、各学園から態々ここまで訪問して下さった生徒会、風紀委員会、その他時間を持て余している皆さん…――こんな暇そ……ごほん、大事な方々が此処を訪ねてきた理由は、言わずともよく分かっています」

 

 にっこりと微笑を浮かべているのに、ノエルに対して心を落ち着かせていた笑顔とは全く違うような…こう、黒い本性と共に嫌味が露骨に現れていた。

 ノエルは「ちょっと…!?」とこれは不味いという正常な判断と表情を顕にし、カロンもちょっぴり引いている。コイツ、私達以外の前だとこうなのか?という人を疑う瞳だ。

 勿論そんな事を言われて黙っていられる程、彼女達四人も落ちぶれてはいない。

 リンとしては現在キヴォトスに起きてる現状と混乱、その全責任を問う為――それを理解していた。

 

「それならさっさとこの現状をなんとかしなさいよ!!連邦生徒会なんでしょう!?数千ものの学園自治区が混乱に陥ってるのよ?!この前、ウチの学校の風力発電所がシャットダウンしたんだから!!」

 

「連邦矯正局で停学中の生徒達について一部、脱走した生徒がいるという情報を聞きました」

 

「戦車やヘリコプターなどの兵器、出所のわからない武器の不法流通も2000%以上増加しました。これでは正常な学園生活に支障が生じてしまいます」

 

「スケバンのような不良たちが、登校中の生徒たちを襲う頻度も、最近急激に高くなりました。治安の維持が難しくなっている以上、被害者が続出するばかりです」

 

 まるで願いを乞う彼女達四人――内容を聞けば余りにもの過激的な問題点、治安の悪さ、ラプラス市の闇と同等…それ以上とも言える武器の違法流通…。

 別世界とはいえ余りにも危険と言うか物騒と言うか……

 

「………」

 

 カロンは「これを連邦生徒会が抱える問題なのか?」と思う一方、ノエルは遠い目をしながら沈黙する。願いを乞う彼女達四人の姿に、何処か嘗ての自分を重ねる。

 

 

『私が式典奏者になる為に……ス、ステラステージ社長を…!殺して下さいまし!!』

 

 

 過ちを犯し、平凡な日常が狂ったあの一夜。

 それだけではない――市長選挙が始まる前、市長官邸の屋上で呟いてた、あの憎き魔人バロウズの言葉。

 

『この街の人間は、いつも何かに縋っている――マフィア問題を、スラムの生活を、ラプラスの治安を、テロリストの問題を……外から来た政治家エラルド・バロウズに…その息子である俺、ラッセル・バロウズに――…力ある者に、警察に、悪魔に』

 

『ラプラス市民というものは、いつもそうだ。エラルド・バロウズの息子にまで勝手に期待を重ね、果てには俺一人を自分達の願いを叶えてくれる神だと信じている』

 

『これまでこのラプラスを回してきたのは誰だ!?お前達の願いを背負ってきたのは誰だ?!』

 

『お前達は、自分では叶えられない願いを全て俺一人に預けたんだろうが……!!』

 

 復讐を果たしたとはいえ、憎いものは憎いといえど…まさか皮肉にも、あのバロウズの言葉の意味を、彼の心境や苦悩を此処で理解する日が来るとは思いもしなかった。

 

 

「連邦生徒会長は何をしているの!?どうして何週間も姿を現してないの…?!今すぐ会わせて!!」

 

 

 彼女が何処か、自分やあの世界のラプラスの市民と重ねてしまう。

 

「現在、連邦生徒会長は席におりません…――正確に言うと、行方不明になりました」

 

「えっ!?」

「……!?」

「やはり…あの噂は…」

 

 三人はリンの真実でも告げる発言に驚愕の反応を示し、唯一噂を耳にしていた長い黒髪の女性は何となく察していたご様子。

 

「結論から言うと、『サンクトゥムタワー』の最終管理者が居なくなった為、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です」

 

 サンクトゥムタワー――耳にしない単語にノエルは勿論のこと、カロンも小首を傾げる。説明を受けてないので右も左も分からない。

 

「認証を迂回できる方法を探していましたが……先程まで、その様な方法は見つかりませんでした」

 

「…?つまり、今の発言ですと…現段階で方法はある、と言う事でしょうか、首席行政官」

 

「はい――この先生方が、フィクサーになってくれるはずです」

 

『!?』

 

 四人の驚愕の顔色に、カロンは「やっと気付いたか」と溜息と共に呆れた視線を飛ばす。何だか今日この娘達、驚いてばかりだな――と心の中で言葉を零す。ノエルに至っても突然話を振られた事に動揺している。

 

「この方が…?」

 

「まるで私達の存在に気付いてなかった――と、言わんばかりの盲目っぷりだな?クックック……リン、コイツらは暇というより自らの願いに必死で忙しそうだぞ?」

 

「時間を取らせて頂きすみません先生…この煩い方々は気にしなくて良いですよっ」

 

「ちょっと!!煩いってなによ!!ていうか、私はちょっと前に気付いて…」

 

 カロンの悪魔っぷりな発言と、腹黒さを備えたリンは意外にも相性が良さそうな気もしなくはない。ノエルからしてはいつも通り、カロンとは絶え間ないジョークに華を咲かせる程度にしか感じないのだが…。

 

「ちょっと待って…?そう言えばこの先生方は一体どなた?どうして先生が二人も…?どうして此処に…?」

 

「オイ、其処の生娘…さっきから質問が長い。一つずつ質問をしろ――」

 

「き、生娘…っ!?」

 

 外部から、況してや見知らぬ大人とは言えど相手は大悪魔――カロンの発言に最早怒りというより衝撃を浮かべるツインテールの少女。今まで悪者だの、ゲーム部の姉妹から文句ばかり垂れ流されていたけれど、大人…というか、この明らかに異形な彼に、それも初対面な大人に面を向って言われたのは生まれて初めてだ。

 

「まあ、此処は挨拶がてら気軽に自己紹介でもしておこう――キヴォトスとやらに召喚されて、私も大悪魔としての威厳は保たねばならん。なぁ、ノエル?」

 

「え?えぇ、そうですわね……今思えば、私もカロンと同じ大悪魔なんですよね…実感は全然湧きませんけれど…」

 

 二人一組となって誕生した大悪魔――現状はどうであれ、先ずは自己紹介から名乗るべきだろう。

 

 

「赤眼の大悪魔カロン――連邦生徒会長の願いに応じ、参上した。全責任を負う契約者(連邦生徒会長)の命により、今日からお前達の大悪魔(先生)と成ろう」

 

 

 赤眼の大悪魔───カロン

 

 

「だっ!だ、だ、大悪魔!?先生ってより…なんで生徒会長は大悪魔なんて呼んでるの!?だ、大体先生はなんで烏…?そこの先生はまださておき…って、さっきの生娘ってなんですか!!?」

 

「烏ではない!!大悪魔だ!!」

 

 カァー!と烏の鳴き声が何処からか聞こえた気がする。

 どうやらこの少女とカロン、端から見れば何となく嘗て契約したてのノエルとカロンのやり取りに似ている。

 

「キヴォトスではない所から来た様ですが…先生、それも大悪魔と名乗る方…」

 

「その様子から察するに、矢張り私やノエル以外の大悪魔はこの世界に存在してない様子か?ふむ…まあ、存在していたらそれはそれで大混乱を招くだろうな。ほれ、ノエル…お前も」

 

「わ、分かってますわよ…!急かさないで下さいまし…!」

 

 カロンに催促されながらも、ノエルは頬を赤らめてプンスカと頬を膨らます。四人からの印象としては「この人は結構普通そう…」と思われているだろう。

 

「わ、私は…ノエル・チェルクェッティですわ――偶然にも、大悪魔として生まれ変わったみたいですけれど…元はピアニスト…だった、被虐の魔女ですわ…」

 

 

 元・被虐の魔女───ノエル・チェルクェッティ

 

 

 改めて説明を、皆の前で説明するのに羞恥心が生まれる。

 契約する前、ピアノコンクールや教室を通ってた頃は、自信に満ち溢れており、更には名門家として恥じない様に振る舞ってはいた。正々堂々としており、羞恥などつゆ知らずの上流階級のお嬢様も、復讐の契約と魔女になってからの過程を終えた今、こうして自分は悪魔と契約した魔女でした〜なんて説明するのは謎の抵抗感が生まれる。

 

「被虐の…魔女ですか?」

 

 風紀委員は眉を顰めてノエルを見る。どうやら彼女はノエルの眼帯に気付いた様子…。被虐というワードに何処か難しそうな顔をしてるのが窺える。

 

「同じ大悪魔なのに…全然違うのですね?」

 

「これには色々と理由がありますけれど…話せば長くなりますし…それより、私達は自己紹介を終えた身ですし、仮にも私達先生と名乗る、らしいんですもの。貴女達のことについても知っておきたいですわ」

 

「仮にも、らしいってお前…もう私達は先生であることが決定されてる身だ。いつまでオドオドしてるんだ…こんなんだと不信感を買うだけだぞ」

 

「私元々15歳だったんですわよ!?座学だなんてピアノ以外教えられないですわ!!実感が湧かないのも無理はなくってよ!?」

 

 15歳なんだ…と全員は心の中で呟く。

 それなら彼女の反応は無理もなく、どちらかと言えば此方と同じ大して変わらない様にも思えてきた。カロン先生とは違って、かなり常識的だ。

 だがノエルの意見も分かる。

 先生として不安なのも…リンもそういった意味で彼女を落ち着かせていたのだ。

 

「なんと言うか…摩訶不思議な悪魔と魔女の二人組の先生で、どうして連邦生徒会長が名指ししたのかは不明だけど…えっと、私こそ改めましてこんにちは!ノエル先生、カロン先生…!私はミレニアムサイエンススクールの……って、今は挨拶なんてどうでもよくって!!」

 

「どうでも良くは無いだろう。名を知りもしない者に手を貸す阿保を見たことがあるか?私がこの世界で先生と名乗り、生徒の願いや想いに応える以上無視はさせんぞ――お前が私たちを先生と名乗る以上、足並みは揃えて貰おうか」

 

「うっ……そ、そう言われると…何も言い返せない……」

 

 目の前の問題を解決したい、この混乱を早くどうにかしろ、という切迫詰まった意識が高かったからか、カロン先生の言葉にぐぅの音も出ない。

 それは他の三人の生徒をも納得させる言葉だった。

 

「は、早瀬ユウカ!ミレニアムサイエンススクールの二年生です…!覚えておいて下さい!カロン先生、ノエル先生!」

 

 

 ミレニアムサイエンススクール───早瀬ユウカ(16)

 

 

契約者(生徒)の名を忘れたことなど一度もない、安心しろ」

 

「…私より一つ上、ですわね…」

 

 早瀬ユウカを見てノエルはふと思った。

 親友のジリアンと一緒に並んでいたので、体型については太ること以外余り気にしなかったが…彼女の太腿、デカい。

 何を食べたらあんなむっちりした太腿になれ…いや、なるのだろうか。短いスカートだから、なんていうプラシーボ効果じみた現象ではないはずだ。そんな年上から先生と呼ばれる感覚はなんと言うかこう…あれ、先生ってなんだっけ???

 

「?そもそもお前は大悪魔になった以上、年齢なんて概念は存在しないぞ。年上とか年下とか気にするな――それを言ったらお前…パイソンやオスカーなんて明らかに大人の部類だぞ」

 

 嗚呼、確かに。

 余りにも魔人だの悪魔だのとは無縁すぎる彼女達に、何故か年齢を気にしてしまった。それも復讐を終えたから見える景色の範囲なのだろう…。

 

「私はトリニティ総合学園所属、三年生――羽川ハスミです…此方こそ宜しくお願いします」

 

 

 トリニティ総合学園───羽川ハスミ(17)

 

 

「……翼の生えた生徒、か。トリニティ…ミレニアム、ゲヘナと言い、随分と神話に深い名前の学園が在るものだ」

 

「………」

 

 カロンの隣で放心としてるノエルは、ハスミを見て圧巻している。

 デカい――ユウカとは違い、別の所が。

 寧ろ三年生でこの体型…決して口では言えないけれど、余りにも大人だと見間違える様な容姿体型に、自分の身体が貧相であることを主張してるという錯覚さえ感じてしまう。

 

「同じくトリニティ総合学園所属の二年生――守月スズミです。自警団として活動しています」

 

 

 トリニティ総合学園───守月スズミ(16)

 

 

「自警団までいるのか……いや、治安の悪さから察して当然か…にしても子供が解決するべき内容じゃないだろう」

 

 唯一、自分とそこまで大差のない生徒に胸を撫で下ろす。…なんで自分はこう、外見でああだこうだ気になるのだろう。それはきっとユウカの露出しすぎた太腿や、ハスミの大人を連想させる見た目だからだろう。破廉恥ですわ、とツッコミを入れても良いのかもしれない。

 

「ゲヘナ学園所属一年生――火宮チナツです。以後、宜しくお願いしま――…」

 

 火宮チナツがゲヘナ学園所属と聞いた途端――カロンの目の色が変わる。ずぃっと、歩み寄り、彼女を観察する様に顔を近づける。

 

「ッ――!!?」

 

「ほぉ、リンが噂してた悪魔の種族が存在するゲヘナ学園か――私も大悪魔を名乗る者として大変興味がある。お前は悪魔……ではないか、ふむ…だが大悪魔そのものが物珍しい限り、スピカやシーザーの様な上級悪魔は存在しないのだろう」

 

 顔を近付け、まるで獲物を品定めする様に、真剣な眼差しで観察するカロン――対してチナツは突然顔を近付けられ、観察され…挙句に距離が近い。思わず顔を真っ赤に染め上げてしまう。

 

「あ、あの……カロン先生、その、距離が………」

 

「ん?何だ。何が可笑しい――というか何故顔を赤らめ…」

 

「とぉりゃあ!!」

 

 不思議そうに首を傾げるカロンの横腹を蹴る様に、けたたましい声を上げながら、ノエルは蹴りを入れる。

 

「ぐはッ!?ッて、何をするノエル――!!」

 

「先生である以上生徒にセクハラ紛いなど許しませんわ!チナツが嫌がってるでしょう!!汚職なんて悪魔のする所業ですわ!」

 

「そんなつもりなど無かったが…というか、ぶっちゃけ大悪魔だからな」

 

 カロンは大悪魔である以上、性的なる感情は存在しない。

 食欲、色欲、其れ等の欲求は備わっていない…が、何故かノエルは生前とほぼ似た身体の構造になってるからか、そういうのはある程度欲するらしい。

 それだけ生身の身体に近いという意味なのか…

 

「ごめんなさいチナツ――カロンが変なことしてしまい…彼は人間観察が趣味らしいですので…悪気があった訳では御座いませんわ」

 

「い、いえ…大丈夫です……!」

 

 

 ゲヘナ学園───火宮チナツ(15)

 

 

 彼女も突然のことに心臓の脈打つ鼓動が早まっている。烏顔とはいえ、タクシード正装に紳士とポリシーを重んじる大悪魔。気品と気高さのあるカロンに突然迫られたことに気が動転としてるのは無理もないかもしれない。

 

「ゴホン!自己紹介も終えたご様子ですし、話を続けます…。先生は元々連邦生徒会長が立ち上げた、ある部活の担当顧問として此方に来ることになりました。連邦捜査部『シャーレ』――単なる部活ではなく、一種の超法規的機関。連邦組織の為にキヴォトスに存在する全ての学園の生徒達を制限なく加入させることすらも可能です。各学園の自治区で制約無しに戦闘行為を行うことも」

 

「滅茶苦茶ですわね……街並みは私達と似てる部分はあるのに、こう…常識や認識が通用しないと言うか…本当に別世界に迷い込んだみたいですわ…」

 

「バロウズに雇われてた頃のフーゴが聞けばさぞ喜ぶだろうな。生徒達の携帯する武器はどれも銃……案外キヴォトスは、フーゴみたいな野蛮的な生徒がそれはもううじゃうじゃといるだろうな」

 

 丸くなったフーゴが何だか常識的にさえ思えてしまうではないか。それに生徒達が銃を持つなんて、歴史の教科書に載ってた紛争地帯に駆り出されたチャイルドソルジャーではないか。

 

「なぜこれだけの権限を持つ機関を、連邦生徒会長が作ったのかは存じませんが…。今は先生をシャーレへ送り届けるという仕事を最優先事項としています」

 

「?連邦生徒会長を探すのが重要ではないんですの?」

 

「ノエル――これだけ私達の事を知っておりながら、対策や優先を間違える程ではない筈だ。況してやリンは連邦生徒会長代行…つまり、連邦生徒会長の捜索はほぼ壊滅的と考えた方が妥当かもしれない」

 

 リンが発言をする前にカロンが代弁する。

 流石は知恵を授かりし悪魔――未だにキヴォトスの事など右も左も分からない部外者だと言うのに、リンの思考を読んでいるかの様に明確に説明してくれる。

 

「ユウカの発言から察して、在籍不在が二週間…数千もの学園が混沌とした状況だぞ?連邦生徒会の人数にも限りがある。広大なキヴォトスで生徒会長を探せなど、大海原に落ちた針を見つけろと言ってる様なモノだ。失踪したことさえコイツ等は今日迄理解してなかったのだろう?失踪した手掛かりも無し…発見報告も皆無……生徒会長様とやらが重要ではあるにせよ、捜索するのは現段階でなくても良い…寧ろ効率が悪すぎる。それを踏まえた上でリンに考えがあるのだろう?」

 

「代弁と理解把握、誠に感謝します先生――」

 

 カロンの説明は皆を納得するのに充分だった。

 気苦労とストレスが蓄積されたリンにとって、カロンは思った以上に頼れる心強い先生だ。

 出逢って間も無く相手の心を知り、思慮深い先生は充分、契約者(生徒)の真の願いを考え見抜いている。

 人間観察を得意とし、知恵に長けた大悪魔だからこそだ。

 

「シャーレの部室は此処から30km離れた外郭地区に有ります。今は殆ど何もない建物ですが、連邦生徒会長の命令で、そこの地下に『とある物』を持ち込んでいます――…モモカ、シャーレの部室に直行するヘリが欲しいのだけど」

 

「…ねえカロン、今リン…っ……から、30kmなんて発言ありましたけど……此処、本当にどうなってますの?此処からどれくらいの時間が…」

 

「車でも道路の混雑状況から考えて1時間30以上はあるんじゃないか?自動車など持っていないが…それともリベリオに追われてた時みたく、命懸けのドライブをもう一度体験してみるか?時間短縮出来るかもしれんぞ」

 

「そんな事したら幾ら命があっても足りませんわ!!」

 

 どうやら自分が先生という自覚を持つようになってきたのか、名前を呼び捨てにする様になってきた。ノエルにとってリンは自分よりも立場が何重も上の偉い人間に見えるらしい。上流階級のお嬢様に自然とさん付けさせるリンの業績と立ち振る舞いは完璧という訳であり、箔がついてる証拠だろう。

 

『シャーレの部室?ああ〜…外郭地区のこと?そこ、今絶賛大騒ぎ中だけど…?』

 

 通信が繋がると、視認確認可能のホログラムが映し出される。電子的且つ科学的な効能技術――明太子ポテチを摘みながら頬張るピンク髪の少女は、何とも気怠そうな声で返事をする。

 

「うぉっ!?何だこれは…!」

 

「何ってホログラムですよカロン先生――ご存知ないのですか?」

 

「ユウカ…その、カロンは大悪魔ですけれど…いえ、大悪魔だからこそ?機械や光学的な技術には滅法弱いんですのよ」

 

「え!そうなんですか!?」

 

「何が悪い!!大体最近の若い奴らはやれすまほ、だの…どろーん、だのはっか、だの一々専門用語が多い上にまどろっこしい!!」

 

「ちょっとカロン、台詞が何処となく爺臭いですわ」

 

 ノエルもキヴォトスの光学的技術の発達と、近未来的な現象に内心驚きを隠せない。カロンに至っては最早魔法のようなものだろう。パイソンならかなり興味深そうに好奇心を煽られるに違いない。

 

『んっとねぇ〜…ほら、矯正局を脱出した停学中の生徒が大騒ぎを起こしたの。そこはもう今戦場になってるよ〜?』

 

 

 連邦生徒会───由良木モモカ(15)

 

 

「うん?」

 

 リンの顔色がみるみると黒く染まる。額に青筋が浮かんでるのも視認できる。

 

『連邦生徒会に恨みを抱いて、地域の不良達を先頭に周りを焼け野原にしてるみたいなの。巡航戦車までどっかから手に入れてきたみたいだよ〜?んでね、どうやら連邦生徒会所有のシャーレの部室を占拠しようとしてるらしいの。そこに何か大事なものでもあるみたいな動きらしいけど?』

 

「………ふうぅう〜〜〜…」

 

 不味い、リンが憤りを抑えるのに精一杯のようだ。

 完全にキレる寸前だ。

 

『まっ、別に良いんじゃな〜い?あそこなんてとっくに滅茶苦茶な場所なんだし、行ったって意味ないって!あっ、先輩お昼ご飯のデリバリーが来たからまた連絡するね?んじゃね〜☆』

 

 ブツン――!!モモカの言葉と共に連絡通信が遮断された様だ。

 ほぼ最後に至ってはリンに対する煽りにも読み取れた。彼女の肩がふるふると震えている。

 

「オイ、アイツ…連邦生徒会だろう?幾ら何でも職務怠慢過ぎるだろ……」

 

「………だ、大丈夫です先生……普段は、こうではないんですよ……こんな不運が続くのは……」

 

 完全に怒りで声が震えてる様だ。

 このままでは彼女の心労とストレスによって精神が落ち着かないだろう。そしてそんなメンタルの状態であれば、何かしら支障が出てしまう可能性もある。

 仕方ない――契約者(生徒)の為にも、メンタルケアを務めるのも私の仕事か。何より初対面の先生とは言え動じず、挙句にリンは結構確りしている。これだけ一人で背負ってるのだ…。

 

「リン――一旦深呼吸をしろ。アイツの職務怠慢の不届は後で罰せれば良い。愚痴も後で聞く、今は目の前の目的をどう処理するかが肝心だ。なに、安心して私たちに仕事を委ねれば良い…仕事、キヴォトスの命運とやらの成功は絶対だと誓おう。この大悪魔の願いに不可能などない――」

 

「カロン先生……すうぅぅ〜〜…ふぅ、そう…ですね。有難う御座います…先生。貴方とノエル先生がいるお陰で、普段よりかは抑えが効くみたいです…」

 

 カロンの言葉一つで、怒りを何とか消化させる様に落ち着かせるカロンのメンタルケアは伊達ではない。

 元相棒――市長になる為、汚い仕事をこなすバロウズの張り詰めた緊張を解く為、共に酒の杯を交わしたり。

 ノエルの苦悩と葛藤、自虐、折れそうな心を何とかカバーして立ち直らせたり、誤った道を正したり。

 案外カロンは本当に先生に向いてるのかもしれない。

 

「わ、私何もしてませんわよ!?寧ろ、カロンが動く位で私なんて……」

 

「急に謙虚になるな。リンの言ってる事は間違いではないぞ――ユウカやハスミ、スズミ、チナツも…お前の意思を貫き、想いを込める姿を見れば、誰もが納得するさ」

 

 リンからしてノエルは確かに他の生徒と何ら変わらない印象だ――然し何故だろう…本能とでも呼ぶべきか。彼女からは何処となく自分たちとはまた違った凄さを、近くにいるだけで心が癒される感じがするのだ。

 何より……全く容姿も雰囲気も違うのに、何処か生徒会長と似た面影が、チラついてしまう。

 

「それに…丁度、ここに各学園を代表する、立派で暇そうな方々がいるので――カロン先生に引き続き、貴女達がいてくれて心強いです」

 

「……へっ?」

 

「キヴォトスの正常化の為に、暇を持て余した皆さんの力が今、切実に必要です…行きましょうか」

 

「おぉ、ソイツは奇遇だな。私も同じ意見を考えてた……クックック、どうやらリンと私の思考が一致していた様だ。

 これだけの武装と各学園の実力者が揃っている――そして私は契約(約束)こそは果たすが、私とノエルの二人だけでその願いを叶えてやるのもポリシーに反する。何の為に銃を持っている?それは飾りか?ならば武器を持って実力行使と行こうじゃないか――」

 

 リンとカロンって此処まで意気投合してるんですの?

 彼女の黒笑と、カロンの悪魔の笑みが相性抜群で、実はもうリンとカロンは契約をした悪魔と魔女なのではないかという疑問さえ浮かび上がるノエル。この二人の組み合わせが怖すぎる。

 

「…ねえ、ノエル先生。カロン先生って結構嫌われてたりしない?」

 

「……一応、私と共に指名手配されておりましたわ…」

 

 ユウカもノエルと同様に二人の組み合わせに恐怖を感じたのだろう。混ぜるな危険とはこの事だ。現にノエルも此処までリンとカロンが息ぴったりだとは思いもしなかった。それもリンもまたカロンと同じく知恵に長けてるからだろう。

 

「まあ、私もその意見には賛成ですわ」

 

「なんでよりによって私達が不良達と戦わなくちゃいけないの!?幾ら生徒会長が不在だからって……」

 

「………ねぇ、ユウカ」

 

「え、あ…はい?」

 

「私…キヴォトスという学園都市に来たばかりで、常識が覆されてる現状。先生だと言われる事自体…実感すら湧きませんし、務まるかどうかも不安ですわ……けれど、これだけは言わせて」

 

 ノエルのいつにも増した真剣さと声に、ユウカは謎の緊張が走る。それは…それはまるで、先生の道徳的な授業を受けてる様で、ノエルの真っ直ぐとした瞳に、吸い込まれてしまう。

 

「今まで貴女達の問題を、願いを、叶えてきたのは生徒会長で…その人は確かに偉大だったのかもしれません。全責任者、だなんて…とてもじゃありませんが私には想像さえつきません…けれど、その人も貴女達と同じキヴォトスに住む一人の住民なのですよ」

 

 カロンはノエルの言葉に、意思に、瞬時に察した。

 ――嗚呼、ノエル。そうだ…お前の真っ直ぐとした、現実から逃げないお前の前向きさは、大悪魔として余りにも未熟だった私を…嘗て爆弾魔だったフーゴを、ジーノに騙され利用されていたオスカーを、虐げられた者の志を共にする同志を、偏執の魔女だったジリアンを、全てを諦め仲間を手放したリベリオとOCT-solidの結束を、負けない事こそが勝つという信念を掲げたコフィン・ネリスを――変えてきたのだ。ノエルに惹かれ、影響を与えた。

 …ひょっとしたらノエルのこの前向きな想いは…ラプラスどころか…キヴォトスをも変えるのかもしれない。

 

「その生徒会長のことを、少しでも考えた事はあるのかしら――例えその人がどれだけ責任者であろうと…人並み外れた天才で、苦言を申し出なかったとしても…貴女達がそれを機に仕方がないと思っても、私はそうは思えない」

 

 ノエルの言葉に、リンも吸い込まれる様に彼女の言葉に耳を傾けてしまう。

 生徒会長は文字通り天才で、全てを見越したかのような…不知火カヤが憧れるほどの超人。

 だから彼女が嫌な顔をしていなくても、大規模な問題を抱えてはそれを全て解決する彼女も…決して手が届かない存在なのだと…。

 

 だから誰も、生徒会長に気を悩める人など…居なかった。

 

 

「まだ生徒会長が優しかっただけ奇跡ですわ。ですが…もしこれが、子供を喰いものにする悪い生徒会長だったら?願いを叶える代わりに、スケープゴートみたいなことをやらされてたら?それでも『生徒会長だから大丈夫』だなんて、口が裂けても――両腕両脚を失っても、仕方ない…と、言えるのでしょうか…」

 

『ステラステージの社長を殺したかったのは俺だが、それを悪魔に願って、お前に代償を支払わせたって訳だ』

 

『ノエル…お前は俺にまんまと騙されて、確かに自分の意思で、俺の願いを願ったんだからな!!』

 

『歯車が歯車でいたいと言うのなら、俺は喜んで歯車達が投げ出した願いを背負ってやる』

 

 悪魔という存在がない以上――代償も願いも無いのかもしれない…だが此処は神秘の箱舟キヴォトス。

 そして常識の通じない世界…悪い大人が跋扈してる可能性だってゼロではない。

 

 それは、加虐の魔人――ラッセル・バロウズの復讐を果たした彼女だからこそ言える言葉。

 

 この子達を、嘗ての自分と同じ過ちを踏んで欲しくない。

 もう、私は…何も間違いたくない。

 目の前の現実から、逃げたくない。

 

 

「もし、私がキヴォトスの生徒だったとして…抱え込み悩む問題があったとしても…生徒会長ばかりに頼らない――私は、願わない」

 

 ひょっとしたら、生徒会長――貴女が選んだ先生は…ひょっとして…。

 

「先、生……」

 

 被虐の魔女だの、元ピアニストだの…15歳だのという少女の言葉にしては、迫真で、まるで…経験談のように語る彼女の言葉には重みがあった。

 それは、虐げられた者の悲痛と蓄積した経験…ユウカだけでない、ハスミもスズミも、チナツでさえ言葉を詰まらせていた。

 

「ええ、勿論…だから一人で抱え込めとは言いませんわ。私も一人だけで復讐も果たせませんでしたし。どうしても叶えれない願いを、諦めろとは言いませんわ――」

 

「じゃあ…どうすれば良いんですか?生徒会長がいない、私達でも解決できない問題なんて……」

 

「あら、貴女達も知らないんですの?私もつい最近知って、やっとその楽しさを知れたんです。それなら、少しは先生らしい事…言えるかしら?」

 

 

 

『───この戦いは、私の新しい夢そのものだから』

 

 

 

「皆んなで力を合わせて願いを叶えれば良い――此処には、三つの学園の生徒達が居るのでしょう?他校だろうと、一緒に力を合わせれば、可能性は何度だってある。

 

 結構楽しいんですのよ――願いを叶えるために汗を掻くのって!」

 

 

 それは復讐に終止符を打ち、あの夕焼けの陽が沈む前に命の灯火が掻き消えた少女が遺した想い。

 

 

 嗚呼…彼女が何故、生徒会長と面影を重なるのか、何となく理解した。きっと、ノエル先生は彼女のことを知らないのだろう。でも、それを前提としている。

 自分を知ってから相手を知る……彼女が遺したある言葉が頭の中で思い浮かべる。

 

 

『理解できない他人を通じて、己の理解を得ることができる』

 

 

「……先生、御免なさい。私、凄いお見苦しい姿を見せてしまって…その……」

 

 ユウカは頬を赤らめながら、先程まで『連邦生徒会長どこ!』と連呼していた自分が恥ずかしくなった。何より…この言葉を聞いてしまって、自分の情けなさに顔を隠したくなる。

 ノエル先生に、こうまで直面して…真っ直ぐ目を向けられて、真剣に言葉を紡がれたのなら…。

 

 

「大丈夫ですわ。それを言ったら私なんて…そんな大それたこと、昔まで言える資格すら無かったんですから…でもこれは、私とカロンを此処へ呼び出した生徒会長の…そして――」

 

 大切な仲間達に対しての、礼儀であり応えだから。

 今頃フーゴ達はラプラスの丘台で、お墓参りついでの打ち上げとして、積もる話に華を咲かせたり、ジュースやお菓子を飲み食いしながらこれからの未来を生きていく様に――もう一度貰ったこの命を、この子達の為に使おうと。

 

 

「な?言った通りだろう?コイツはとっくの昔から覚悟が決まっていたのさ――これが、外の世界で復讐を果たした…被虐の魔女だよ」

 

 リンの隣で呟くカロン――相棒を誰よりも誇らしく想い、彼女の勇姿と想い…。ユウカが謝罪してるのも、きっと彼女の言葉の想いを受け取ったからだろう。

 それを納得し、己と相手を通じて理解したのだろう――嗚呼、なんだ。ちゃんとお前も先生らしいことやれてるじゃないか。

 

 

「あ、御免なさいリン…時間を取らせてしまって…でも、彼女達とどうせ仕事に当たるのなら…生徒達の結束は固めておくべきかなと…」

 

「――カロン先生」

 

「?何だ…?」

 

「……先程の怒りは、どうやらとっくに消えてしまった様です。急ぎましょう…。どうやら、先程まで嘆いてた生徒達の顔もスッキリしたことですし」

 

 あの皮肉と黒笑を浮かべていたリンの表情は、何処となく吹っ切れた様子だ。

 

「駄々を捏ねている現状より、意思を…結束を固め、同じ志を持つ者同士で仕事に当たる…なんだ、ちゃんと足並みは揃えれるじゃないか…では、行くとしよう」

 

 

 

 






思った以上に長くなりました。
ブルアカは結構テクストにするのが難しい部分が多いのと、この前の投稿から久しぶりの執筆なので、文章力が乏しかったりや、何処か違和感を覚えてしまった場合、暖かい目で見守るか教えてくれると嬉しいです(⚪︎⚪︎)。

ユウカ達がラプラプ市民と重ねたのも、ノエルとカロンが復活した体感時間がバロウズの復讐を終えた後。つまりあの盲信的なラプラス市民と、バロウズに願いを叶えてくれと、問題を解決してくれと縋る市民と重なったのでしょう。
そして連邦生徒会長もまた同時にラッセル・バロウズと似た立場にあったことを考えて黙ってもいられなかったのでしょうね。
ブルアカを通してたら連邦生徒会長すげぇ、も…ノエルからしたら生徒会長って神や始まりの大悪魔になれちゃう可能性あるんですよね。


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