被虐と赤眼の教導者   作:トラソティス

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ブルアカらいぶのコラボで『とある科学の超電磁砲』が来るとはめっちゃ驚きました。学園都市というジャンルはほぼ一致してるとはいえ「ヘイローどうすんの?」ってなりましたが、まさか御坂達がちゃんとヘイロー実装されるとは……ヘイローについて言及された場合、どうなるんだろう…。ね?チェルなんたらさん。
御坂達もキヴォトス外部の不可解な存在としてゲマトリアから解釈されてしまうのか…コラボだからがっつりストーリーには関わらないにせよ、先生の立場がどうなるのやら…。

以下、ブルアカ原作ストーリー未読者はネタバレ注意!↓



新たな総力戦ボス、結構不穏めいてますね。百花繚乱か、ベアおばか、モモフレンズか…色々な意見が飛び交う中、私としては「フランシスが話してた旧友」が関係してるのではないかと推測しております。
何故ならもし新たな総力戦、その題材となる敵になるならば、語り手となる存在が必要となるからです。
デカグラマトンは黒服、人工天使はマエストロ、ゴズやペロロジラなどのパロディメタはゴルコンダ&デカルコマニー…まあ本題はライブラリーオブロアーでしょう。
仮にベアトリーチェならば題材は何なのか?となります。スランピア、デカグラマトン、人工天使、ライブラリーオブロアー……となるとベアトリーチェが色彩だったとしても、それならば他の色彩のボスも存在しなくてはなりません。
どの枠にも存じない新たな総力戦の敵が登場するとしたら、封印されていたゲマトリアが登場する可能性があるのではないかと。
次にVol.5のメインストーリー解禁。最終章での後日談(2)でフランシスの予告、ゲマトリア登場ストーリーが1章と3章(最終章は除く)、奇数となってることから5章で登場するのが高いかなと。時期的にもタイミングが合いそうですからね。
ゲマトリア…カロンと黒服は共通が多い存在…契約を重んじる二人が邂逅できるストーリーが待ち遠しいです。
自らの利益(願い)を叶える黒服と、他者の願いを叶えるカロン…これまた二人の関係もアビドス編で出していけたら良いなと思います。
……というかカロンは人外な見た目も笑い方もビジュアルも何から何までゲマトリアなんですけどね…。
因みにとあるについてなんですけど、被虐のノエルの魔人名などは、とある魔術の禁書目録が起源になってたりするそうです。ちょっと面白いですよね。

#歯磨き粉#戦争#トリニティ#スイーツ#重装#軽装#ハスミ・チェルクェッティ


story8『甘い時間』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノエル・チェルクェッティの朝は中途半端だった。

 気が付いた時には見知らぬ天井が視界を覆っていた。

 病院でもキャロルさんが使っていたスラムの空き部屋でも、灰色の廃製鉄所の衣食住のスペースでも、山奥の廃屋でもない……何処だ此処は?

 

 ノエルはベッドからむくりと起き上がると、両手を見て一瞬だけ驚いた。だがそれも本当に一瞬だけ…理解によって直ぐに顔色は元に戻り、思考が働く。

 

「嗚呼…そうでしたわね。私は……復讐をやり遂げたんですわ」

 

 昨日も、その前の世界でも起きたことが大き過ぎた故に、寝起きからの状況は飲み込めなかった。

 確か…昨日はシャーレの仕事を手伝ってくれたユウカにお世話になって貰ったんでしたわね、と一息吐く。

 ユウカに教えてもらった仕事の内容…覚えてはいるけれど、未だに自分が先生として仕事をする、という感覚は慣れていない…。

 社会経験さえ未知なチェルクェッティが、今まで復讐に一直線だった私が…いきなりキヴォトスに来てから先生をやれだなんて急展開過ぎる。寧ろ流れに乗れてるのが奇跡なのだ。

 

「……あら、そう言えばカロンは何処へ?」

 

 カロンがいない事に気が付けば、周囲を見渡す。いつもどんな時でもカロンは私の身の安全を第一に考慮して付き添っていた。復讐の守護者として一番隣にいた彼がいないというのは、歯痒いというかなんと言うか…。

 

 すると机の上に一枚の手紙が置かれていたのを発見する。

 手書きだと思われる其れを手に取り、目で追って読んでみた。

 

『ゲヘナ学園の生徒に用がある為、席を外す――朝食はシャーレオフィスの冷蔵庫に購入したパンがあるから適当に食え』

 

 メモに記された文字を読み終わると、仕事場に戻り冷蔵庫を開ける。ひんやりした空気が流れ込んで来るのが肌で実感できる。

 中にはジュースや昨日購入したココア、コーヒー、紅茶、そしてパンだった。

 

「フォカッチャやチャパタではないんですのね…これは、また変わったトラメッツィーノですわ」

 

 三角形の具材が挟まれたパンを手に取る。エンジェル24購買店で購入したと思われるサンドウィッチである。トラメッツィーノとはイタリアでいう所のサンドウィッチ――ひんやりしたサンドウィッチと適当に紅茶をコップに注ぎながら、朝食を済ませていく。

 大悪魔になった以上、空腹は感じないけれど…食を嗜むというのは、人間時代の頃から、魔人になっても日課となっていた。

 契約してから贅沢な食生活を送ることがままならなかった分、これからは美味しい味を深く味わって行けという、カロンなりの気遣いなのかも知れない。

 もちろんカロンは「朝食の用意もせずにふらっと何処かへ行ったんですの!?」とノエルに言われるのが煩くて嫌だから考慮したのかも知れない。そしてカロンはきっとこう言うだろう…「そんなもん知るか」と。

 いつまでもお守りではない――両手足が奇跡的に変換されたのだから、自分の手足を使って自由に過ごしてみろ、なんて選択肢もあったのかも知れない。

 サンドウィッチに齧り付く。

 シャクッ、と爽快感溢れるレタスの音が口内に響き、マヨネーズとトマトの味が広がる。自分が食べてたトラメッツィーノとは違うサンドウィッチだけど、悪くはない。

 

「こうして…誰かに追われることなく、安心してご飯が食べられる…それがどれだけ幸せなこと、なんでしょう…」

 

 警察の目も気にせず、冷たい缶詰生活とはおさらば。

 復讐をやり遂げたら、それでゴール――そう思っていたけれど…まさか本当にこんな二度目の人生を歩むことができるなんて…。

 独りの時間を過ごしながら、朝食を済ませていくと、シッテムの箱と呼ばれる端末から通知音が鳴り響く。

 

『先生!おはよう御座います!昨日はぐっすり眠れましたか?』

 

 触ってもないのに、画面から発声されるアロナの声に視線を移す。

 

「ええ、おはようアロナ。疲れたからぐっすり眠れましたわ……いつもはカロンが隣にいてくれたから、ある程度は安心してましたけれど…一人で行動しても大丈夫なのかしら…?」

 

『もし先生に何かあった時はこのスーパーアロナちゃんがお守りしますからね!』

 

「あら、それは頼りになりますわ。カロンみたいに頼りにしてますわよッ♪」

 

『任せて下さい先生!そういえばですね、ノエル先生宛にメッセージが届いてますよ!ハスミさんからです!』

 

 桃のマークをしたアイコンから赤い数字が1と表示されている。通知欄に手を伸ばし、綺麗な指をスライドさせながらメッセージを確認する。

 羽川ハスミ――確かトリニティ総合学園の生徒。自分よりも年上の生徒を前に、先生だと振る舞うのはユウカの時と同じ気が引けるが…。

 そんなことを思いながら、彼女とモモトークのやり取りを行う。

 

『失礼します先生。昨日のお礼も兼ねてご挨拶を…個人的に聞きたいことや、相談に乗ってほしいことがありまして…もし時間が宜しければお付き合い頂いても宜しいでしょうか?』

 

『ええ、勿論ですわハスミ。私も先生という立場に慣れてない以上…力添えになれるかどうか分かりませんけれど……私に頼って下さるのなら、いつでも応えてみせますわッ!』

 

『あ、有難う御座います!すみません、つい……その、断られてしまったらどうしようかとばかり…凄くホッとしました…』

 

『困ってる生徒がいたら真摯になって相談に乗るのは先生の務め。時間が合わなくて予定を延長することはあったとしても、断る先生なんて何処にもいませんわッ。折角先生としての立場になったのですし、私にも先生らしい振る舞いをさせて下さいまし』

 

 モモトークで返事を終えると、ノエルはやる気に満ちた顔で「よしっ」と応える。こうして何か約束事をして友人や知人に逢いに行くというのは、何処か青春を沸騰とさせる感覚だ。

 まるでお友達と遊びに行くかのような、知人とショッピングにでも出かけるような…そんな高揚さが浮かぶ。

 

「カロンにも報告しておきましょう…いつ帰ってくるかわかりませんし……けれど、ふふ…カロンも随分と先生らしいですわね。私以外にも生徒の悩みに、相談に乗るなんて」

 

 相手がスズミなのかチナツなのか、それともまたもやユウカなのかは分からないけれど。

 両手足を奪って嘲笑う大悪魔は、元相棒に親殺しをさせた大悪魔の面影は何処にもない…。今のカロンが存在するのは、ノエルだけでなくラプラスに居た仲間達がいたこともあって、影響を大きく受けたのだろう。

 だから生徒達の悩みや相談に向き合い、利用するのではなく、大悪魔としての誇りを持って一人一人と向き合う…。

 スラム街での共同生活の頃から薄々と感じてはいたけれど、やっぱりカロンは大悪魔として振る舞うよりも先生としての素質の方が高いのだと思う。

 

「あ、けれどこの場合…金銭はどうしましょう…。大人のカードとやらはカロンが持っていってるみたいですし…」

 

『先生!こういう時はアロナにお任せ下さい!』

 

「あ、アロナ!?」

 

 外出する時は必ず金銭を持ち歩くのは常識。

 然しその肝心な財産はカロンが持ち歩いてるのだ…。今までは二人一組が必ずであった為、そういうことに関してすっかり頭の中から抜けていたノエル。

 そんな彼女の状況を打破するアロナの言葉に、希望が芽生える。

 

『カロン先生が持ち歩いてるカードの経済は、シッテムの箱を通じて決済することが可能です!カードが不在でも、二人の先生は共有財産――全く問題ないです!』

 

 ラプラスに居た世界で言う電子端末決済機能だ。

 現金やカードでなくても、端末での決済が可能なのは今時便利な仕組みだ。だがノエルはお嬢様だということもあり、全く知らなかったようだ。いや…噂では聞いたことはあったにせよ、全く使ったことも興味もなく、更には買い物などは召使いのメイドや両親がやっていたので、買い物自体全くしたことがない。

 せめてジリアンと一緒にアイスを買い食いしたとか…アクセサリーを買ったりとか、その程度だ。

 

「へぇ、世の中便利ですわね。私、カロンのように機械音痴ではありませんけれど…全く知りませんでしたわ。今まで召使いのメイドに欲しい物とか依頼しておりましたから…」

 

 今頃どうしてるのかしら…なんて心の底で呟きながら、嘗てジリアンと一緒に悲惨な家を巡礼してた頃を思い出す。

 お父様とお母様だけでなく、シェフや召使いにまで迷惑をかけてしまったなと、申し訳なさを感じてしまう。あの後はどうしてるのかしら…なんて感傷に耽りながらも、身支度を済まして外へ出た。

 ……もう、昔のことは取り消せなくても…今を、未来を生きることはできる。この第二の人生を――精一杯両手足を使って、目一杯生きることは出来るのだから。

 

 

 

 

 ───────────────────────────

 

 

 

 羽川ハスミはトリニティ総合学園に所属する正義実現委員会の三年生である。

 トリニティ学園はゲヘナやミレニアムに引けを取らないマンモス学校故に、在籍する生徒達はお嬢様だったり善良な生徒達が多かったりする為、ゲヘナと比較すればマトモな部類に入る。

 礼拝堂や図書館、音楽堂といった施設が用意されており、トリニティ総合学園の歴史も大きい分、学園都市の中でも目立つほど大規模な自治区にもなっている。

 元々この自治区には幾つもの学園が散発しており、紛争や犠牲を避けるべくパテル、フィリウス、サンクトゥス、という3つの主要な学園を中心とした連合を形成した歴史が存在する。こうしてティーパーティによりトリニティ総合学園という一つの巨大な学園へと統合したのだ。

 

 

「休日とはいえ…先生、無理をなさってないと宜しいのですが…」

 

 

 正義実現委員会の副委員長であるハスミは、指定したとあるスイーツ店の外の席に座っている。

 白いテーブルと椅子が並べられており、外の空気と景色を眺めながら食べるスイーツは最高なのだ。

 先日、連邦生徒会に苦言と混乱の状況に申し出た際に邂逅した二人の先生――一人は鴉を連想とさせた大男。赤眼の大悪魔と名乗るカロン先生に、もう一人は金髪の女性方である隻眼のノエル先生。

 二人一組という奇妙な組み合わせの、何から何まで謎が多い先生方。インパクトも強い二人方にどう接すれば良いか困惑していた時もあったけれど…。少なくともノエル先生はカロン先生よりかは親しみ深く、話し易い人柄だ。

 後輩達によく慕われてるからか、狙撃の手腕を褒められたり、彼女の前向きな姿勢と明るい彼女の雰囲気には、先生と生徒という壁を忘れさせる。自分よりも後輩の類に入るからか、そんな彼女に対してノエル先生と呼ぶのにも少し複雑な気持ちではあるけれど…。

 

「スミ――…」

 

 ――一方で、カロン先生もまた複雑だ。

 傲慢的な態度、キヴォトスとはまた違った悪魔という種族、野蛮にして高圧的な存在は、噂で聞くゲヘナ学園の風紀委員長らしき面影が重なるが…。然し、不思議と憎しみが湧いてこない。

 単純に学園差別をしてる訳ではないのだが、口の悪さにブラックジョークを挟む先生ではあるのだが、私達の手腕を買ったり労いの言葉を掛けたり、他にも信頼を寄せてくれる先生は、また違った感情を…

 

「ハスミ――!!」

 

「ッ――!?」

 

 などと考え事をしていると、隣から大きな声が立つ。

 ビクリ!と身体を震わせ、声主の方向に意識を向けると、そこには自分の身長よりも低く、なお且つ綺麗なルビー色の瞳をまっすぐ、此方へ向けているノエル先生がいた。

 

「の、ノエル先生?いつの間にいらっしゃって…」

 

「今来たばっかりですわ。私の声が聞こえてる様子もなかったですし…ひょっとして考え事でもしてたのかしら?」

 

「えぇ、すみません…少しボーッとしておりました…」

 

 図星を突かれたハスミは、申し訳なさそうに頭を軽く下げる。自分で呼び出しておいて、先生の呼び声に反応すらできなかったとは…。

 

「大丈夫ですわよッ。ほら…ハスミが相談や悩み事があって私にメッセージを送ってくれたのでしょう?そうでなくとも今日は暇でしたし、キヴォトスに訪れたばかり…こうしてハスミや生徒を通じて学園都市なるものを知れたら良いなって思ってましたもの。分からないことばかりですけれど、今日はハスミを頼りに一緒に知っていけたらと思いまして…」

 

「そう言われると、凄く嬉しいというか…お恥ずかしいというか……まさかノエル先生がここまで熱心でいてくれるなんて…」

 

 裏表のない彼女の純粋な気持ちは嬉しいものがある。

 キヴォトス外部の存在であるノエル先生が此処の土地勘を知らないのは当然だ――だとしても他でもない自分に頼られる、というのは悪い気分ではない。寧ろ後輩達に頼られる場面が多いのもある為、此方としては嬉しい気持ちが優っている。

 

「……一応、尋ねますがカロン先生は…?」

 

「どうやらゲヘナ学園の生徒に呼び出されたらしいですわ。朝起床してから姿が見えませんでしたもの…書類整理の仕事と言い、生徒の指導といい…本当、昔も今も無茶しますわ…」

 

 キヴォトス外部のラプラスでも、ノエルの身を守る盾となり、今となっては生徒の指導者だ。

 ゲヘナ学園と聞いて一瞬眉を顰めたハスミだが、その生徒が誰なのか昨日の一連のやり取りと自分の心境から察したらしい。

 

「そう、ですか…ゲヘナ学園……あまり、良い気分では御座いませんが…あの生徒なら、大丈夫でしょう…」

 

「あら、ハスミはゲヘナ学園が嫌いなんですの?」

 

「…すみません。思わず顔に出てしまいましたね…」

 

 僅かながらあの瞬間と声色だけで理解するノエル先生も、カロン先生に引けを取らず相当観察に長けてるようだが…。

 

「いえ、何となく…ハスミの目の色が、カロンに向けてた友人の目の色と一緒に見えて……」

 

 それは憎しみ――あの友人が、人畜無害で努力家の彼女がカロンやオスカーに向けた眼差しが、ノエル以外の物が憎しみにしか映らないような瞳をしていたのをノエルは知っている。

 ハスミのゲヘナに対する目付きが変わったのも、何処となく親友に似ていたからだ。

 

「ノエル先生のご友人…ですか?」

 

「ええ、唯一無二の親友……ちょっとばかり、というか…盲目的なところが大きい子ですけれど、その子のことをちょっとだけ思い出しましたわ。ハスミは昨日、ゲヘナ学園のチナツに対してはそんな目の色をしていなかったのに……」

 

「彼女は良心的ですから…私も学園そのものを嫌ってるのではなくて、生徒の粗暴な行動と、口の悪さ…向こうがいつも喧嘩を吹っ掛けてくるケースが多く…」

 

「……カロンも、口の悪さが目立ったりしてますけど…ハスミはカロンのこと、苦手?」

 

「苦手、というよりも…接し方がよく分かりません。確かにゲヘナ学園に似た口の悪さや傲慢さは目立ちますが、それがゲヘナの生徒とは違って不快感がそこまで無いんです。勿論、悪い部分ばかりではなく、あの先生は私たちを一人一人、確り見ておりますから…だから、一概的に否定するのは難しく…」

 

 嗚呼…それはハスミではなくとも、カロンも大層怒りを買いますわ…と心の中で言葉を漏らす。

 ゲヘナ学園に関しては精々「悪魔」的な風貌とイメージを抱いてたのだが、あの物腰が柔らかい彼女がその理由で怒りを露わにするのだから、相当なのだろう。いや…もしフーゴみたいな爆弾魔のようなゲヘナの生徒が常日頃から生徒達に迷惑をかけていたら、自然と苦手意識を向けてしまうのは可笑しくないのかもしれない。

 

「…ッと、すみません……こんな愚痴を溢すような…折角お越し頂いたのに…」

 

「そんなことありませんわよ。沢山私の前では愚痴りなさい…?私は先生としての立場ですけれど、この際先生や生徒という壁なんて忘れて、思いっきり本音を吐いてしまっても良いですわ。それこそ、憎しみに駆られて、取り返しのつかないことをする前に、発散して心をスッキリした方が身の為ですもの。そういう意味でも、相談や悩みに乗れますし!」

 

「……本当、ノエル先生は優しいのですね。是非、お時間が御座いましたらツルギにも合わせてあげたいですよ」

 

「ご友人かしら?ふふッ、きっとハスミが心の底から信頼してる友人なら、優しくて素晴らしい方なのでしょうね。親友のジリアンを紹介できないのが残念ですわ…」

 

 その優しさだけでも、心が癒されるのはノエル先生の魅力なのだろう。優しさと気品ある振る舞いがあるからか、相性が良いのもあって話が弾む。

 

「そうだ、こうしてお越し頂いた身ですし…お茶でもしながらお話でもどうでしょう?此処のスイーツはかなり評判のある店なんですよ?」

 

「ハスミのお墨付きって訳ですわね。何があるのかしら…」

 

 ノエルが家で食べてたスイーツは、クレープやドルチェなど高級スイーツを嗜んだことがある。スラム街でもクレープを味わったことはあるが、家で食べる高級さとは違い、案外庶民が口にするスイーツの方が味わい深く、美味しかったり口にあったりする物だ。

 況してやキヴォトスの世界に存在するスイーツ…ラプラスに居た頃とは違った品が存在するかもしれないし、名門チェルクェッティの家では食べられなかったスイーツも堪能できるかもしれない。

 そう考えるとハスミの提案はノエルにとって正に至福の時――僥倖とは正にこの一時を指す言葉だろう。

 彼女のエスコートに流れるまま、二人は店内に足を踏み入れる。

 店内は市街地のケーキ屋の内装に、ガラスのショーケースには色とりどりの華麗なスイーツが並べられている。

 

「いらっしゃいませ!」

 

「ひゃっ!ロボットですわ?!」

 

 そして店内に入場して早々に自立思考人型ロボットの挨拶と共に出迎える。カロンの言ってた通り、どうやらキヴォトスの住民はハサミやユウカだけでなく、二足歩行の動物やロボットまでもが当然のように街を歩き、当たり前のように生活している。

 意思を持ったロボットが店員として働いてるというサイバー感に驚きを隠せない。

 

「ご注文は何に致しましょう?」

 

「そうですね…ノエル先生は何か欲しいものは御座いますか?」

 

「あ、えぇ?えっと、そう…ですわね……」

 

 此方の驚く態度に全く気にも止めずに話を進める二人に、ノエルはショーケースに留まっている品を眺めながら、暫し間を開けながら考えた後…。

 

「そ、それならこの季節のフルーツを添えたティラミスとコーヒープリン…後はこのマリトッツォを頂きますわ…あ!後は紅茶を…」

 

「かしこまりました!そちらの方は…?」

 

「では私は……ハニーミルクティーとバタープリン、ショコラバウムクーヘン、チーズタルトを一つ…」

 

 結構食べますわね――と、内心呟くノエル。

 流石にこれ程の量となると夕食が食べれなくなるという理由で、基本スイーツ系は少食に偏りがちになるのだが…。

 

「後はこの季節のフルーツを添えたティラミス、オレンジマドレーヌと、クロッカンショコラを二つ、それから抹茶クレープと…」

 

「え?」

 

 ハスミがまだ注文を続けることにノエルは目を丸くしながら茫然と立ち尽くす。

 

(こ、これ以上注文だなんて正気ですの!?…いえ、きっとこれは…ハスミのご友人に差し入れとして持っていくに違いありませんわ!!じゃなきゃ幾ら何でもこんなに食べ切れる訳……そう、ハスミはそのことを踏まえて……いけない、てっきり一人で全部食べてしまうのかとばかり…)

 

 何人分のスイーツを頼むんだろうかと思いつつも、それは偏見だと思考回路に至る。

 いけない…直ぐに決めつけてしまうのは悪い事だ、とノエルは首をブンブン横に振る。

 

「後は……ええ、これ位で充分ですね。それではノエル先生、一緒に召し上がりましょう♪」

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「此処のミルクティー…とっても評判なんですよ?ノエル先生のお口に合えば宜しいのですが…」

 

「ええ、そうねハスミ――ミルクティーに限らず、私が頼んだレモンティーも…家で嗜んだ紅茶に引けを取らず、素材も活かした味わいが深くて素晴らしいですわ。けれどね、ハスミ…一つ、良いかしら?」

 

「どうなされましたか?ひょっとして何か問題でも…?それとも、お行儀が悪かったでしょうか?」

 

「違いますのハスミ…寧ろ食事のマナーは問題ないですし、代金を払おうとした私に貴女が『誘ったのは私ですから遠慮せず…』と奢ってくれたのも嬉しかったですわ。そうじゃないんですのよハスミ……」

 

「では一体何が……?」

 

「貴女も頼んだ季節のコースに添えた期間限定のティラミスも、コーヒープリンも…いえ、此処にあるスイーツは全く以って問題ないですわ。あのねハスミ……

 

 ―――幾らなんでも頼みすぎですわ!!」

 

 テーブルの上に出されてる、注文したスイーツ全て。

 テイクアウトではなくお召し上がりで、と言われた時から言わねば…と思っていたのだが、食事ですらないのにこのスイーツの量…思わず叫んでしまう。

 

「そ、そんなに…ですか??」

 

「びっっっくりしましたわ!私てっきりハスミのご友人の為に買っていくのかと思って黙って見ておりましたのに……いえ、買えと言ってるわけでは御座いませんけれど…ご飯前にその、ちょっと食べ過ぎではなくて…?ハスミと私の胃の量が違うのもあるかもしれませんけれど……」

 

 ノエルの言葉はご尤もである。

 贅沢をしても精々3、4個だろう…それでも多い方ではあるが、流石にこれほどの量はノエルでも食べ切れない。

 自分ではなくハスミが食べるのだから、他の人に食事がどうのこうの云々かんぬん言う筋合いは無いのだが……。

 

「す、すみません…ノエル先生は余り召し上がらないのですか?」

 

「そう、ですわね…ピアノ教室を終えた後の帰り道に、親友と一緒にアイスの買い食いをしておりましたけど、アイスは一個しか食べませんでしたわ。けど、ハスミは育ち盛りだったり、食べても問題ない体質なのかしら?だとしても…」

 

「い、いえ…!決して太らない体質では御座いません…!御座いませんけれども…ッ!!ですが…そのッ…!」

 

 ハスミの顔が徐々に赤く染まっていく。

 羞恥、否定、困惑、様々な感情が絵の具のように混ざっていくのが見解できる。流石にこれ以上はハスミに対して失礼かしら…と、ノエルは自分の発言を振り返る。

 そもそも女性同士だから何とかなっているが、発言しているのがカロンだったら間違いなく修羅場となっていただろう。仮にこれがカロンでなくとも異性であればセクハラ対象に認定されてしまう。流石に人に嗚呼だこうだ言うのは宜しくない。

 

「…いえ、御免なさい。流石にデリカシーに欠けた発言でしたわ。ハスミが私の為に休日を使ってお呼びして下さいましたし、こうして一緒にスイーツを嗜むというのも…第二の人生を歩む私にとってこれ以上ない贅沢ですわ……それをああだこうだ言う立場ではありませんでしたわね」

 

「い、いえ…そう言われると…此方も大人の常識が足りてなかったと言うか……そう、ですね…流石に抹茶クレープは無しにして、クロッカンショコラは二つではなく一つにするべきでした…」

 

 ――そういう問題ではないんですのよ?

 ズレた解釈をしたハスミに、ノエルは口を閉ざす。女性は体型やカロリーなるものに敏感だ。彼女の余りにもスイーツに目がない胃の容量と注文の多さに思わず失言をしてしまったが…ノエルの謝罪に先程の顔色も嘘のように滅却したようだ。

 スイーツは別腹とは言うけれど、ハスミの胃袋はひょっとしたら甘いスイーツにのみ異次元へと収納されているのかもしれない。

 

「それなら!今日は私とハスミ――楽しくお話したり、遠慮なく相談や悩みを言い合ったりする楽しい日にしましょう?休日なんですから、こんな日は楽しんだもの勝ちですもの!ね?私も今日はいっぱい、ハスミの頼んだものも味わって食べてみますわ〜!」

 

 よっしゃー!ですわー!と元気よく両腕を上げながら、子供っぽい声色でフォークとナイフを扱って目の前のスイーツを食べていく。ハスミもポカン…とした数秒後、クスッと微笑を浮かべた。

 彼女の優しさも充分嬉しいけれど、これはきっと…ノエル先生の心の底から楽しそうに笑う輝きや、元気そうに楽しむ姿を見て、日頃のストレスや内心溜まっていた疲労が消えていくようにさえ感じていく。

 

「ふふッ、そうですね…♪」

 

「今度ハスミのオススメのミルクティーも飲んでみますわッ。私の専属シェフに頼んで、是非とも季節のフルコースをご馳走してあげたい位ですもの」

 

「ノエル先生の家って…ティーパーティーのような家柄なんでしょうか?」

 

「ふぇ?お茶会?」

 

 ティーパーティーと呼ばれるホスト達をお茶会と間違えるのはノエルと放課後スイーツ部の何処かの誰かさん位だろう。そしてラプラスではマスコミが取材に来る程の超名門お嬢様だ。身分やマナー、お嬢様レベルではあの三人に引けを取らない。

 さっきからケーキを食べる手付きと言い、一切食事の物音を立てない礼儀良さ…外の世界でお嬢様の生活を送っていたと言うのは安易に想像が付く。

 

「そうですわね…私はピアノの名門家として英才教育を受けていたのも御座いまして…あの頃は不便な生活なんて御座いませんでしたわね。ティラミスだけでなく、クレープや茶菓子を作って下さることもありましたし……今はそれも叶いませんが…」

 

 キヴォトス外部だからという理由も含まれてるが、一番大きいのはノエル・チェルクェッティという家は今となってはもう空き家…もう専属シェフもメイドも存在しないゴミ屋敷と化した廃屋はもぬけの空となってしまったが……。

 

「……本当に、こんな風に誰かと楽しくお話ししながら、甘いものを嗜めるなんて、夢にも思ってませんでしたわ……」

 

「……先生は、ご友人とアイスを買い食いしてたと仰ってましたが…特別だったり、するんですか?」

 

「そう、ですわね…。皆んなが当たり前の様に味わっていた嗜みも、私にとっては…特別、でしたわ」

 

 張り詰めたピアノ教室を終えた帰り道、夕暮れの市街地で声をかけてくれたジリアンと一緒に、アイスを買い食いしたことがあった。

 庶民の嗜みや日常に疎いノエルにとって、ジリアンが居たからこそ「友人と一緒に美味しいものを食べる喜び」を知れた。

 最初は躊躇ったりもした、悪いことをしてるのでは?なんて考えました。庶民の価格とパティシエが作る値段の違いに驚きもした。

 けれど…ピアノを頑張った後、夕陽が沈む景色を眺めながらジリアンと隣で食べたアイスはとっても美味しかった。

 それは決して高級素材を活かしたジェラートや、パティシエが作ってくれたアイスを家で食べる至福とは違う…言葉や価値などでは決して表せない…特別な味。

 因みに大石牢でノエルと衝突したあの後の一週間後、ジリアンがアイスクリーム屋で買ったチョコミント味のアイスを一人で食べても『全く味がしなかった』らしい。それがどんな意味を表すのか、安易に想像ができるだろう。

 

「もう……あの子とは、二度と一緒にアイスを食べることは出来ませんけれど…ね」

 

『でも、ボクたちもう二度とここでアイスを食べることはできないよ』

 

 キヴォトスに訪れたとしても、記念式典襲撃前の寄り道でジリアンに言われた通り…復讐者を選んだ時点で、もう友人と一緒に買い食いなど不可能なのだから。

 だからこそ、第二の人生で歩む中…ユウカやカロンの三人でティラミスを食べながら談笑したり、ハスミとこうして甘いスイーツの時間を過ごすと言うのは、奇跡にも等しいのだから。

 

「上流階級に住んでた身でしたもの。あの子がいなければ、誘われなければ…きっと友達と甘いものを食べる喜びを知ることは出来なかったでしょうし…。そう言った意味でも、特別ですわね。ハスミはご友人と一緒にスイーツ、食べたりしないんですの?」

 

「え?ああえっと…そう、ですね…。一人で食べる時間は大切にしてますが…偶にはご友人と一緒に茶菓子を嗜んだりと……」

 

「あら、良いじゃないですの。今度はハスミのご友人と一緒にティーパーティーでも開きましょう?」

 

 多分ノエル先生は本気でティーパーティーの組織をお茶会と勘違いしているのだろうとハスミは改めて再確認された。エデン条約でゲヘナ学園との関係がより緊張的なこの現段階、ノエル先生がもしナギサ達と出逢ったらどんな反応をするかちょっとだけ興味を持ってる自分がいる。

 

「それにしても本当にハスミはスイーツがお好きなのですわね…甘いものは好きでも、時に飽きたりしませんの?」

 

「飽きるだなんてとんでも御座いません…!もし正義実現委員会に所属していなかったら、放課後スイーツ部に入っていたかもしれませんし…♪」

 

「す、凄いグルメスイーツな部活ですわね……」

 

 セミナー、正義実現委員会、放課後スイーツ部…この学園都市にはどの位の部活が存在するのだろうか。

 

「ですが最近はダイエットを始めてるのですが……中々痩せれなくて…」

 

(それは今まさに甘いものの誘惑に負けて、こうして爆食いしてるからではなくって…?)

 

「其れどころか何も食べずとも、何もしなくても太ってしまう一方で…」

 

(ええ…そんなの聞いたことありませんわよ??)

 

「今回お越しして頂いた理由も、ノエル先生…ごほん、女性の方である先生なら、何かアドバイスがあるのではないかと…」

 

 取り敢えず爆食いを辞めれば良いのでは?と思ったのだが、此処でとんでもない発言をしてしまえば、地雷を踏んでしまうというのは安易に想像が付いてしまう。

 

「そ、そう…ですわね…あ!じゃあ例えばカロリーの低い食べ物を中心にしたり、食事の栄養バランスとか…他にも、運動をしたりとか…」

 

「そう、ですね…試しはしたんですけれど…矢張りどれも成果がなくて……勿論、勘違いのない様に言っておきますと、今回ノエル先生と一緒にスイーツを楽しんでるのだって、毎日というわけでは御座いません。ちょっと我慢した自分へのご褒美ということで…」

 

「う〜ん…体質であるのなら難しいですけれど…一気にガッツリ食べてしまうのは太る太らない以前に健康状態だって…あら?」

 

「?どうかなされましたか?」

 

 ノエルはふとある重大な点に気付いた。

 ハスミがダイエットをしてると聞いた今、彼女の体重が増えていると言うこと前提で話を聞いていたが…よく見てみると彼女、太ってないではないか。

 普通これだけの量に加えて食事など召し上がれば認識できるような分かりやすい体型になるはずだ。

 況してや何もせずとも太ってしまう傾向だと聞いた…にも関わらず太ってなどいない。

 寧ろ彼女は自分よりも身長も高ければ、その……発育の良い場所が目立つ上に、翼だって大きいではないか。

 そう考えると体重など数値は大きくても、外見的な容姿に関しては困る必要はないのではないか?

 

「……ハスミ、ダイエットはしなくても良い…なんて誰かに言われたりしませんか?」

 

「同じ正義実現委員会のマシロはそう仰ってましたね…」

 

 きっとその子の言ってること、的を得てますわ。

 身長とスリーサイズ、翼の重量から計測して間違いなく体重は女性の平均だと思われる。彼女は数値を気にしてるのだろう。

 確かに体重とは、数字が全て――その常識は間違ってないにせよ、目先の結果に囚われすぎない様にして欲しいのが本音である。

 

「それに、ハスミの考え過ぎではないかしら…大体、ハスミのことを悪く言う生徒だなんて居ないでしょうし……」

 

「居るんですよそれが……」

 

 え?とノエルは言葉を喉に詰まらせる。

 こんなにも人の為に優しく、思い遣りのある生徒に対して侮辱する生徒がいることに驚嘆を隠せない。

 

「まあ…不良達はただ暴走するだけです…。基本的にツルギが粛清を施すので問題ありません。ですが…問題はゲヘナ学園に当たります――」

 

 すると彼女の顔色が変わった。

 何やらまたゲヘナ学園に対する瞳の色が変わった様な…それこそ、怒りと憎しみを抱いているドス黒い感情が…。

 

「今は連邦生徒会がエデン条約の話を少しずつ進めている様ですが…勿論、それを善しとしない者がいるのもまた事実です。派閥が存在するトリニティとしては、尚のこと複雑な環境下でしょうけれど…」

 

「ひょっとして…ゲヘナ学園が嫌いなのは、ライバルという認識だけでなく、治安の悪さや暴走する野蛮な輩が多いから…トリニティへの紛争要因になりかね無い…とか?」

 

「そう…ですね。勿論、問題行動が目立つという理由もあります…然し、何より私達に対する侮辱の言葉は許されざるを得ません。私個人に対して言われるのも頭に血が上りますけれど…奴等が原因で他の生徒達が傷付いたりでもしたら?心に傷を負わされる様な汚い言葉を吐かれたら…そう思うだけで虫唾が走りますから……」

 

「………」

 

「それでも、チナツさんのように心優しい方がいらっしゃるのも事実ですから…学園に対して大きく悪い印象を浮かべるのは、生徒達の悪い行動が大きいから、でしょうね…。御免なさい…先生は昨日来たばかりですのに、こんな啀み合う争い事の愚痴なんて…」

 

 他にもノエル先生には言えないだけで、ゲヘナ学園に対する嫌悪は非常に高い。それはハスミだけでなく、ティーパーティーの聖園ミカなど、他にもあの学園に向ける憎悪は計り知れない。

 まるで意識的に、概念として植え付けられたかの様な非常に高いまである憎悪。

 それはノエルでさえ計り知れない感情だ……

 

「……私は、ハスミや此処にいる生徒達の…ゲヘナ学園に対する偏見と憎しみは、理解できませんわ」

 

「ええ…それは…――」

 

「けど…それを踏み止めるお手伝いなら、幾らでも助力致しますわ」

 

 ハスミは目を丸くした。

 てっきりノエル先生からは「やめろ」だの「争い事はするべきではない」なんて止められるかと思った。

 だがノエルは其れを否定しなかった。

 

「自分にだけでなく周りが傷付いたり、罵倒されたりするのは誰だって怒りますわ。私の場合、未来を奪った挙句友人を人質に取ったり、私の良心を利用して友人を破滅へと導こうとした『悪い大人』を憎まない時なんて一切ありませんでしたから。寧ろ私は一度だけ…踏んではならない一線を越えようとしましたから…」

 

『私が殺らなきゃ復讐になりませんもの――』

 

『私の四肢を、ピアノを、未来を奪ったのは貴女――呪わずにはいられない!!』

 

『ねえカロン――後コイツは何発撃てばメモリを手放すと思う?』

 

 人を殺そうとした。

 片手を取り戻して、マガジンを握り締めながら、人を撃った。

 あの時握った引き金の冷たい感触は今でも忘れず、シビラの嗚咽と悲痛の声は脳裏に焼き付いている。

 撃てば撃つほど、アイツが死へ近づけば近づくほど感じたドス黒い感情――『ざまあみろ』『私が失った分だけ貴女も失って、じゃなきゃ不公平じゃない』『憎いコイツをもっと苦しめたい』それは決して抱いてはいけない、破滅と呪いを植え付けた、殺意の感情。

 復讐を貫く為なら、なんだってなれる。

 破滅を覚悟して、人を幾らでも殺せる気さえした。

 

「そんな時、私を止めて下さったのがカロンなんですのよ」

 

「カロン先生が…?」

 

「ハスミは言いましたわよね。カロン先生に対してどう接すれば良いか分からないッて…確かに私も最初は啀み合いが多かったですわ。人の人生を滅茶苦茶にした悪魔の誇りなんて知ったこっちゃないですわ〜なんて。それでもね…どれだけ傲慢な態度で、高圧的な彼でも…常に命を賭けて私を守って下さったんですのよ」

 

 市長官邸で警備員に襲われた時、ラプラス警察から追い回された時、一騎打ち勝負によるコフィン・ネリスと命を賭けたデス・ゲームの時でも、私の心が折れないよう必死に激励したり…契約だから当然だと思っていたけれど…それでも充分過ぎる程に感謝している。

 

「言葉と上辺だけで感情的に判断する訳じゃなくて…ハスミはもうちょっと冷静さを持った方がいいかも知れませんわね。勿論、今でも冷静さがあるから大丈夫だとは思いますけれど…その、何というか…一々言葉に対して敏感に考えなくても良いというか…」

 

 要するにノエルはハスミにもっと自信を持って欲しいと言いたいのだろう。誰かに何を言われても気にしない様な、前向きさと芯を通した信念に通じる心の強さを。

 

「できるのでしょうか…私に……ただでさえ身体のことも気にして、周りの目線や言葉だけでも反応してしまう私に…」

 

「大丈夫ですわよハスミ――私の大事な親友が、胸を張って誇れる自分を見つけた様に、例えゲヘナ学園に何を言われても…貴女がどんな風に言われようと、そんな周りの戯言を吹き飛ばせる様な、自分の想いを込めた道に自信を持って征きなさい。だって、正義実現委員会なのでしょう?」

 

『もう私だけを見る必要はありませんわ。貴女はもう自分の道に立派な意志を込められる、私と対等な存在なのだから。貴女も、もう――自分の道を、征きなさい』

 

「ノエル先生……」

 

 それは――ノエルの言葉は明日を生きる生徒に希望と自信を持たせてくれる。親友と前を向き合い、ぶつかり合い、衝突したからこそ言える言葉。

 どれだけ手腕が良くて、後輩達に慕われてても、自分に誇りが持てなくては先輩としての矜持が保てない。

 ゲヘナ学園に対する偏見と憎悪――それはノエルにとっては計り知れないものだろう。それを否定まではしない…嘗てノエルは超えてはならない線を踏み越えようとしたのだから。

 カロンが止めてくれても、シビラやラッセルに対する復讐心と憎悪は、消えない訳ではなかった。然し憎悪にも色々な方向性が存在する様に、例え誰かを憎んだりしても…超えてはいけないラインを踏んでしまっては、後戻りできなくなると知った。

 それはいずれ…憎しみ傷つけ合う地獄と化してしまう――そんな悲惨な末路を、生徒達が人殺しになってしまうのなら…希望と信用を持って、周りの価値観や偏見なんか吹き飛ばす様な、自分の正義に想いを込めて生きていた方が、ずっとマシじゃないか。

 

「もし、周りの言葉に我慢できなかったら……私を思い出しなさい。その為なら、私は――ノエル・チェルクェッティは幾らでも傲慢にだって成れますわ。その時だけ、カッコいいと思える今の私を見なさい」

 

 その言葉は、親友を縛り付けた一種の呪いでもあった。

 上層区と市街地の出身の違い、身分の差によって自信を失くしたジリアンに励ましと、自信を持たせる為に放ったあの言葉から、彼女は偏執の魔女としての素質が露わとなっていた。

 だけど…今度は違う。

 これはハスミが『超えてはならない憎悪』から遠ざけて、自分の誇りを保つ為の言葉として…誰かを救う為の、ノエルとしての言葉なのだ。

 

「……そんな、選択肢もあるのですね。なんとも、素敵な御言葉を有難う御座います。考えても見ませんでした…そんな事……なんて御礼をすれば良いのでしょうか…」

 

「スイーツを食べさせてくれた駄賃と、今日は私と一緒に楽しい時間を過ごして下さった御礼だと思って下さいまし!!それに、外見のことなど関係なく、ハスミはもっと自分に自信を持った方がいいですわ!」

 

 知っているからこそ、間違って欲しくない。

 だからこそ選べれる誇りの選択肢。

 憎しみとは否定ではなく未来と向き合う一つの心である。

 

 ――ノエルだからこそ、選択できる答えなのだから。

 

 自分の身分も身内も、トリニティもゲヘナの憎しみなんて関係ない。今を誇れる自分であるのなら、周りの言葉なんて気にしなくても良い。

 それでも人間である以上、憎まれ口を叩かれたりしたら怒りたくもなる、衝突しあうことだってこの先生きていれば幾らでもあるのだから。それはゲヘナとトリニティに限らず、特別と言う訳でもなく…皆んなそうなのだから。

 

「ふふッ…。今日はノエル先生と逢えて、こうしてお話が出来て嬉しかったです♪また、もし…悩みや相談が増えた時は、こうしてノエル先生からアドバイスを貰っても良いですか?」

 

「私が力添えになれるのなら全然。寧ろ、私もなんだか嬉しいんですのよ…生徒の悩みや相談を叶えるのって――これがきっと、大悪魔たる姿、なのでしょうね」

 

 被虐の魔女として生きてきた自分は、カロンと共に復讐の道を貫いた。こうして得た過程で、復讐という夢を叶える喜びを知れたのもあるけれど…きっと、カロンやシーザー…数多の大悪魔達も理由はどうであれ、願いを叶える立場である以上契約者がどうであれど…こういう性分なのかなと考え込んでしまう。

 大悪魔とは願いを叶える超常的な絶対たる存在――ノエルもカロンも生まれ変わった身である故に、まだまだ下級に過ぎない生まれたばかりの若き芽。

 それ以前に…復讐を見据え、全てと向き合いぶつかってきた自分が、こうして誰かの力になれるというのは…悪い気がしないものだ。

 

「ノエル先生の強さには…ツルギとはまた違ったモノを感じられますね……」

 

「私は戦えませんけれど…それでも、今の私に必要なのは生徒と、貴女や他の生徒達と寄り添う事ですから。まだ先生としての実感は湧きませんけれど…私も先生としての立場に悩んだり、自信がなくなる時もありますもの……その時は、ハスミとこうして甘いひと時を過ごしても宜しくッて?ハスミの大好きなものとか、オススメのお店とか…知りたいですもの」

 

「ッ――!!ええ!是非、一緒にスイーツ巡りをしましょう♪」

 

 ハスミとノエルの絆と信頼が、大幅に上がった気がした。

 こうして先生や生徒としての立場や悩みだけでなく、ダイエットの相談だったり、スイーツの好みや正義実現委員会のメンバーのお話をしたりや、ハスミからチョコミントが歯磨き粉味というのは禁句だったりなど、色々なことを教えてもらったりした。

 

 

 こうしてノエルとハスミの過ごした時間は、甘い一日として終わったのであった。

 

 

 






もう一つ、ノエルが何故「人を怨むな!憎むな!」と言わないのか。season10でコフィンの「復讐に対して理解を求めていたか」について大きく影響を受けております。
ノエルは生徒達には平和でいてほしいし、できるならゲヘナ学園とだって仲良くしてほしいとさえ思っております。それは無理だとしてもせめて争い事が減ったりすればなぁ…程度。
思っていても、お願いはできても生徒に命令はしません。そしてそのお願いはエゴの押し付けであり、先生に言われたから仕方なく辞める、じゃ意味がないのだとノエルは考えてます。だから生徒達がちゃんと憎しみに向き合えるかどうか、意志を尊重しているんです。
ノエルはちゃんと、コフィン・ネリスの想いも確り背負ってシャーレの先生やってます。
やっぱり15歳なのにキヴォトスの中ではアズサ並みにメンタル強いです。

それはそうと朝一、軽く朝食を買うカロンについて…

ソラ「あ、いらっしゃいま……ひぃ!?!」
カロン「オイなんだ…まるで両手足を奪った鬼畜の悪魔を見るような恐れる眼は…ほれ、欲しいものがある。カードで払うから…」
ソラ「え、えっと……えぇ!?ええぇぇ!?!か、カラス…化け物…こ、殺される?!」
カロン「カラスではない!大悪魔だ!!」

裏ではこんなことがありましたよと。


早くアビドスに入りたい…。

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