【完結】人生舐めまくってたギャルが優しい陰キャくんにガチ恋しちゃう話   作:崖の上のジェントルメン

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15.胸のズキズキ

 

 

 

 

 

……なんにも、やる気が出ない。

 

本当にアタシは、夏休みに入る前以上に……脱け殻みたいになってしまった。

 

学校が終わって、1人とぼとぼ帰る時が、一番苦しい。

 

もしまだケンジと付き合えてたら、絶対今……一緒に帰ってた。二人で並んで駄弁りながら、きっと笑い合えてた。

 

 

『ねえ佳奈さん、今度の日曜日はどこへ行こうか?』

 

 

……隣でそんな風に笑うケンジの顔が、ありありと浮かぶ。

 

ズキズキと痛む胸を押さえながら、アタシは今日も1人でいる。

 

 

 

 

 

 

……シャーーーーー

 

学校から帰って、アタシはすぐシャワーを浴びた。まだまだ夏の暑さが残っていて、学校から帰った頃には全身が汗まみれになっている。

 

立ったまま髪を洗い、泡立てたシャンプーをお湯で落としている。

 

背中の肩甲骨の辺りまで伸びているその髪が、アタシの首筋にびったりと触れる。

 

「……………………」

 

頭を洗い終えたアタシは、シャワーの蛇口を止めた。ぽたぽたと髪から滴る水が、アタシの目の前を落ちていく。

 

曇ったガラスに手の平を置いて、それをきゅっと右にスライドして曇りを拭う。

 

今にも泣き出しそうなほどにやつれているアタシの顔が、ガラスの中に写り込む。

 

「……………………」

 

昨日、深雪にぶたれた頬が、少しだけまだ赤い。

 

もうすっかり痛みは引いたはずなのに、まだぶたれた時の感触と衝撃が、頬に残っているような気がする。

 

(……深雪)

 

すっと眼を瞑ると、深雪とケンジが並んで歩いている姿が頭に思い浮かぶ。

 

あの真面目な深雪が、アタシをぶちたくなるほどにケンジのことを好きになっている。だからきっと、深雪はこれからケンジと仲良くなって、いい感じの雰囲気になって……

 

そして……

 

「……………………」

 

……蛇口を思い切り捻って、勢いよくシャワーを出した。

 

シャーーーーーーーー!!

 

肌と頭がびしびし痛むほど出てくるそのお湯を、アタシは眼をぎゅっと瞑って浴びていた。

 

自分の中にあるいろんなものすべてを、このシャワーが洗い流してくれればいいのにと、そう思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……翌日。気分が重たいまま、アタシはまた学校へと向かう。

 

いっそのことサボってしまえばいいのに、それができない。前までのアタシだったら余裕でずらかるところだけど……それはしちゃいけないって思ってた。

 

だってそんなことしたら、ケンジに顔向けができないから。

 

またアタシがだらしない人間になっちゃったら、せっかくケンジから貰ったいろいろな気持ちが、全部台無しになっちゃう気がするから。だからちょっとでも真面目に生きたいと、そう思ってる。

 

……もちろん、そんなことをしたからって、ケンジから褒めて貰えるわけじゃないんだけど。

 

「おはよー田代さん」

 

「田代さんおはよう!」

 

教室に入ると、クラスメイトたちから挨拶をされる。それに「おはよー」と最低限なテンションで返して、自分の席につく。

 

その時、アタシの次に真由と亜梨沙が教室へ入ってきた。アタシが二人に視線を送ると、二人はびくっと肩を揺らして、逃げるようにして自分の席に行ってしまった。

 

あの日以来、アタシはケンジだけでなく、この二人とも上手くいっていない。アタシがあの二人と自分から疎遠になっていった。

 

ケンジに告白するっていう罰ゲームに乗ったのは、もちろんアタシ。だからそこに関しては、絶対にアタシが悪い。でも……ケンジとアタシの思い出をバカにしたのは、本当に許せなかった。

 

 

 

『へえー!本当のカップルみたい!』

 

『すごいなあ佳奈!将来は演技派女優なんちゃうー?』

 

 

 

あの時……もっと早くアタシが二人を止められてたらと、いつもいつもそう思ってしまう。

 

ケンジに罰ゲームであることがバレたというショックが大きすぎて、全身がフリーズしちゃってたけど……あそこで真由たちをすぐ止めに入れてたら、まだケンジの傷口も浅かったかも知れない。

 

今さらこんなこと思ったって仕方ないんだけど、でも、考えずにはいられなかった。

 

 

 

……その日のお昼前に、体育の授業があった。

 

今回は持久走がメインであって、暑い日差しの中、グラウンドを5キロ分ぐるぐる回るというものだった。

 

「あー!もうダリ~」

 

「持久走とか一番つまらんやん」

 

クラスメイトたちからブーイングが出るけど、先生は全然そんなこと気にせず、「喋ってないで、ちゃんと走れー」とだけ言った。

 

アタシもダルいなと思いつつも、黙々と1人でグラウンドを周回していた。

 

「……………………」

 

走っていると、時々ケンジとすれ違う。アタシの方が早くて、周回する時にケンジを何回か追い越すからだ。

 

ケンジは辛そうに息を切らせながら、汗だくのまま走る。そしてアタシの視線に気がつくと、一瞬だけアタシを横目で見た後、顔を伏せる。そんなやり取りが何度か続いた。

 

「……ふう」

 

わりと早めにゴールしたアタシは、呼吸を整えて、グラウンドから少し離れた場所で、先に終えた人たちの溜まり場に歩いて行った。

 

特にそこで誰かを話しをすることはなく、地面に座って、ぼんやりとみんなが走っている様子を眺めていた。

 

時間が経つにつれて、1人、また1人とゴールしていく。

 

だけどケンジは、まだずっと走っていた。顔も随分と青ざめていて、すっごくキツそうだった。

 

(大丈夫かな?ケンジ……)

 

何か助けることができたらいいけど、持久走はアタシがサポートしようがないし、見てるしかない。

 

……それに、ケンジはアタシなんかに助けられても、きっと嬉しくない。だから……

 

「……………………」

 

そんな想いを胸に秘めていた……そんな時だった。

 

「あっ!」

 

アタシは思わず、声を出してしまった。

 

ケンジが走ってる途中に、倒れてしまった。

 

すぐに立ち上がって、彼に駆け寄ろうとした。だけど……既に彼の元には、何人か人集りができていた。

 

「大丈夫か?斎藤」

 

「す、すみません……」

 

先生がそう聞くと、ケンジはなんとか身体を起こして、震えながら立ち上がった。

 

でも、まだ足はふらふらだし、顔もなんだか赤みがかってる。

 

「斎藤、具合はどうだ?」

 

「ちょ、ちょっと、頭がぼーっとします」

 

「熱中症かも知れんな。よし、保健委員!誰かいるか?」

 

「はい、私です」

 

先生がそう言うと、彼の周りにいた1人の女の子が手を上げた。

 

「すまないが、斎藤を保健室へ連れていってくれ」

 

「わかりました」

 

彼に駆け寄ったその女の子は、自分の肩を貸しながら、ケンジに優しく語りかけていた。

 

「大丈夫?斎藤くん」

 

「ご、ごめん……迷惑かけて」

 

「いいのいいの、ゆっくり歩こう。あ、走り終わったばっかでちょっと私、汗臭いかも。ごめんね」

 

「い、いや……そんなの気にしないよ。ありがとう」

 

そうして、二人は身体を密着させたまま、保健室へと歩いていく。

 

「……………………」

 

アタシ……アタシ、付き合ってた時でさえ、あんなにケンジと触れ合ったことない。

 

ケンジが恥ずかしがりやだから、アタシが近寄ろうとすると、いつも顔を赤らめて離れてしまう。

 

そんなケンジが可愛くて、アタシはいつも……

 

「……………あ、あの!ちょっと待って!」

 

その時アタシは、保健室に向かう途中の二人の背中に声をかけた。

 

「どうしたの?田代さん」

 

女の子が、アタシの方へと振り向いた。アタシはごくりと生唾を飲んで、「代わりに行く!」と告げた。

 

「アタシ、結構前に走り終わってたから、体力あるし」

 

「ほんと?大丈夫?」

 

「うん、だからケンジを……」

 

「わかった、じゃあお願い」

 

そうして、アタシはその子に代わってケンジに肩を貸した。

 

「田代さん……?」

 

「ごめんケンジ、アタシ……我慢できなかった」

 

「我慢……?」

 

「……………………」

 

──他の女の子がケンジに触れているのが、我慢できなかった……と、そう言いかけて、止めた。

 

ふと後ろを振り向くと、グラウンドにいるクラスメイトたちがみんな、アタシたちの背中を見つめていた。

 

アタシはなんだか怖くなって、また視線を前に戻した。

 

 

 

 

 

……ケンジを保健室へ運ぶ間、アタシたちには全然会話がなかった。

 

何を喋っていいのかわからないし、どんな話もしちゃいけない気がして、口が開かない。

 

「……………………」

 

ケンジの頭から微かに香る、彼特有の匂いが、汗の匂いとともに鼻をくすぐる。

 

その匂いを嗅いでいると、ああ……ケンジがそばにいるってすごく実感できる。

 

そう言えばアタシたち、キスもまだしてなかったっけ。

 

「う、うう……」

 

ケンジが小さく苦しそうに唸っていたので、アタシは一旦足を止めた。

 

「大丈夫?ケンジ」

 

「う、うん……ごめん、田代さん」

 

「ううん、いいの。ケンジのためなら、このくらい」

 

「……………………」

 

その時、ケンジはなんだかすごく、切なそうな横顔を見せていた。アタシは直感的に「今のは言うべきじゃなかった」と思った。

 

ケンジにそういうことを言って、困らせちゃうのはよくないと思った。

 

でも……かといってここでごめんと言うのもおかしな気がして、結局また、無言のまま二人で歩いた。

 

 

……保健室に行くと、先生がいた。「どうしたのー?」と能天気に訊いてくるその先生に、ケンジの容態を話した。

 

「熱中症っぽいんで、ベッド借りていいですか?」

 

「あら、ほんと?もちろんいいわよ」

 

「ほら、ケンジ。保健室についたよ」

 

「……うん」

 

ケンジは下を向いたまま、「もう後は1人でいいから」と、そうアタシに言った。

 

「……………………」

 

一緒にいる間、彼は一度もアタシと目を合わせてくれなかった。ずっとうつむいたままで、足元だけを見ていた。

 

寂しいなと思いつつも、仕方ないことなんだからと気持ちを切り替えて、ケンジから離れようとした時……

 

 

彼はアタシの右手を、軽く握った。

 

 

「……!」

 

正確に言うと、ケンジはアタシの人差し指と中指の、第ニ関節から先を軽く握っていた。

 

やろうと思えば、すぐにすっと引き抜ける程度の力しかケンジは込めていない。だけど、アタシは全く手を動かすつもりはなかった。

 

バクバクと心臓が鳴って、仕方なかった。「どうしたの?どうして指を掴んでるの?」と一言声をかけたくなったけど、何か言葉を発した瞬間に、この状況が一瞬にして壊れてしまうような気がしてならなかった。

 

「……………………」

 

「……………………」

 

ケンジもアタシも、何も話さなかった。ただじっとお互いの目を見つめているだけだった。

 

彼は、いろんな想いを込めた眼をしていた。悲しそうでもあるし、怒っているようでもあるし、少しだけ……嬉しそうにも思えた。

 

「……………………」

 

ケンジがアタシの手を握っていたのは、時間にして10秒程度だと思う。

 

それでもアタシは、その瞬間が体感的には何十分にも感じた。

 

彼がアタシの手を離した時、名残惜しさに思わずこちらから手を握り返そうとしたくなったのを、なんとか必死に堪えていた。

 

そうしてケンジは保健室に入り、アタシは1人でまたグラウンドに戻った。

 

「……………………」

 

こつん、こつんと、誰もいない廊下にアタシが歩く音だけが響く。

 

その誰もいない廊下で、アタシはケンジが触れていた右手の指先に……小さく、キスをした。

 

胸の中にあるズキズキが、前よりももっと増した気がした。

 

 

 

 

 

 

 

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