【完結】人生舐めまくってたギャルが優しい陰キャくんにガチ恋しちゃう話   作:崖の上のジェントルメン

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18.優しい人

 

 

 

 

 

……アタシは、自分の部屋のベッドへうつ伏せになって、枕に顔を埋めた。

 

握り締める枕が、ぎゅうっという鈍い音を鳴らす。

 

「うう……!ううううう!!」

 

くぐもったアタシの嗚咽が、部屋に小さく響いている。

 

アタシの情緒は、もうめちゃくちゃだった。

 

深雪とケンジが仲良くしている場面を頭に思い浮かべるだけで、吐きそうになる。

 

悔しくて悔しくて、たまらない。こんな悔しさを覚えていい立場じゃないのに、それが止められない。

 

(やだ!!やだよお!!ケンジ……!)

 

自分が嘘コクしたせいで、彼と別れることになった。自分のせいで、ケンジを傷つけた。

 

だから当然ケンジは、他の女の子と付き合う権利がある。もちろんアタシは、その邪魔なんて絶対しちゃいけない。

 

でも……!でも!でも!でも!

 

ケンジが他の女の子と一緒にいるところなんて!!想像したくない!!あのケンジの優しい笑顔が!!他の子に向くなんて耐えられない!!

 

激しい深雪への嫉妬が、胸の中で噴火してる。

 

「……はあっ!」

 

息が苦しくなってきたアタシは、枕から顔を離した。

 

枕は、涙でぐっしょりと濡れていた。

 

「……………………」

 

肩で息をしながら、鼻をすする。顔中が涙に濡れて気持ち悪い。

 

「……あーーーーー!!もう!!アタシ……!アタシ!どうしたらいいの……!!」

 

両手で髪の毛をくしゃくしゃにして、また顔を伏せてうずくまる。

 

時計の針の音だけが、静かに耳に届いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……というわけで、太陽系というのは水星から海王星までの8個の惑星があり……」

 

翌日の学校。

 

みんなは先生が黒板に書いてる授業の内容を真面目にメモってるけど、アタシはいつも以上にやる気が起きなかった。

 

広げてあるノートには一文字も書いてなくて、真っ白なままだった。

 

(……はあ、もう嫌だ…………)

 

頭の中は、ケンジと深雪のことばかり。

 

昨日から何回も泣いたせいで、目がしょぼしょぼしてる。朝鏡で自分の顔を見たら、若干充血してたし。

 

(なんでアタシ、嘘コクなんてしちゃったんだろ……。本当にバカ。バカすぎる)

 

自分へのムカつきがどんどん膨れ上がってきて、右手に持っていたシャーペンを固く握り締める。

 

(嘘コクなんかじゃなくて、ちゃんとケンジと接して、本当に好きになってから、告白したかった。今さらどんなに後悔しても遅いけど……でも、考えずにはいられない)

 

いつまでもいつまでも、ぐるぐると同じ思いが駆け巡る。違う表現だったり異なる言い方をしているだけで、考えている内容は同じだった。

 

アタシは、ケンジのことが好き。でも、もう一緒にはいられないんだって。

 

(できることなら、ちゃんと話し合いたい。今はちゃんと、ケンジのこと好きだって、そう言いたい。またよりを戻したいって……そう伝えたい)

 

でも、ケンジがそれに応じてくれるかどうかは、正直微妙だ。だって、「今はちゃんと好き」っていうことは、やっぱり最初の告白は、嘘だってことだから。それは誤魔化しようのないことだから。

 

 

 

『僕は……田代さんのこと、本気で好きだったよ』

 

『告白された時、本当に本当に嬉しくって……凄く舞い上がってた。家に帰ってからも、何回も君の言葉を思い出して……』

 

『いいんだ、田代さん。気を使わないで。1ヶ月っていう短い期間だったけど……僕は、良い夢を見られたよ。だから、ありがとう』

 

 

 

 

(……やだ、また……泣きそうになっちゃう)

 

真っ白なノートに、ぽたりと涙の雫が一滴落ちた。アタシはあくびをしたフリをして、その涙を誤魔化した。

 

自分がこんなに、心が弱いとは思わなかった。昨日だけで散々泣いたはずなのに、まだ枯れることなく涙が溢れてくる。

 

(なんで……!なんであんなに優しい人を、アタシは傷つけちゃったんだろう……!もう、自分が憎くてしょうがない……!)

 

ぽっかりと心に大きな穴が空いたような感覚と、このままじゃいけないからなんとかしなきゃという焦りが、同時に胸を襲ってる。

 

アタシはその気持ちをなんとか抑えるために、小さなため息をついた。

 

「……ということで、海王星の外にある星が、太陽系外縁天体というものに分類される。冥王星がまさにそれだな。以前は惑星に分類されていたが、2006年にそれが変更された……と。おい田代」

 

突然、先生が名指しでアタシのことを呼んだ。アタシはまさか呼ばれると思ってなかったので、「はい?」と少し気の抜けた返事をしてしまった。

 

「ずいぶんと眠そうじゃないか。俺の授業はつまらないか?」

 

「あ、いや……」

 

「ノートもお前、全然書いてないな。やる気あるのか?」

 

「……………………」

 

淡々と、だけど間違いなく、先生は怒っていた。

 

泣いてるのを誤魔化そうと思ってやったあくびが、まさかこんなことになるなんて。

 

「……ごめんなさい」

 

アタシがそう答えるけれど、先生は納得してくれなかった。

 

「田代、やる気ないなら出ていってくれ。今みんな真面目に授業受けてるんだよ。一人でもそういう奴がいると、全体の気が緩むんだよ」

 

「……………………」

 

「せめて予習だったり復習だったりとか、そういうのならまだ許そう。何もせずただボーッと席にいるだけなのは、論外だろ」

 

「……………………」

 

……やだ、もう、止めてよ。

 

ただでさえ心が擦り切れてるのに、今ここでそんな怒られたら、もうキツすぎる。

 

なんで嫌なことって、こんな風に立て続けに起こるんだろう。

 

「おい田代、聞いてるのか?授業のみならず、この注意すらも満足に聞けないのか?」

 

「……………………」

 

「やる気がないなら出ていけって言ってるんだよ。聞いてるのか田代」

 

「……………………」

 

耳が痛いほどに静まり返っていた教室の中で、アタシはチクチクと先生に怒られていた。

 

もういよいよ教室から出ていかないと、先生が本気でブチ切れて怒鳴られそうだなと思い、アタシは席を立とうとした……その時だった。

 

ガタンッと、背中越しに誰かが席を立つ音がした。そして、「先生」と言って話し出した。

 

「もう、それ以上は止めてあげてください」

 

「……………………」

 

その声は、紛れもなく、ケンジだった。

 

アタシはおそるおそる、顔を後ろへ向けた。右斜め後ろにいるケンジが、緊張した顔つきで先生のことを見つめていた。

 

(……ケンジ)

 

アタシの視線に気がついたケンジは、一瞬だけアタシの方へ目をやったけど、すぐにまた先生へと戻した。

 

「先生、確かに田代さんの授業態度は良くなかったかも知れません。しかし、人間いつでも集中していられるわけではありません。もしかしたら体調が悪かったり、何かしらの悩みがあるのかも知れません。どうかそこを、ご理解いただきたく存じます」

 

ケンジがそう言うと、先生は腕を組んだ。

 

「斎藤、これは田代の問題だ。お前が口を出してどうのという話じゃない」

 

「いいえ、先生。僕の問題でもあります」

 

「なに?」

 

「彼女は、僕の…………クラスメイトです。クラスメイトが傷ついてしまうと、僕も辛いのです」

 

「……………………」

 

先生は大きくため息をついた後、「わかった、斎藤座れ」と告げた。そして、アタシの方をじっと見つめて言った。

 

「そうだな田代、確かに厳しい言い方だったかも知れないな。それは謝ろう。だが、次回からは気をつけるように」

 

「……はい」

 

そんなやり取りが終わったところで、ちょうど授業が終わるチャイムが鳴った。

 

先生は教室から出ていき、一旦休憩時間となった。

 

次の授業は音楽なので、音楽室に移動しなきゃいけない。なので、この休憩時間にみんな教科書を持って移動していた。

 

がやがやと談笑しながらみんなが教室を出ていく中、アタシはすぐにケンジの前へ行って、お礼を述べた。

 

「ケ……じゃなくて、えっと……斎藤、さっきはありがとね」

 

彼はさっきと似た感じで、一瞬だけパッとアタシの顔を見てから、視線を手元の方へと戻した。

 

「お礼なんていらないよ。実際、キツい物言いだと思ったし……何より僕は、田代さんには恩があるから」

 

「恩?」

 

「持久走の時に、倒れた僕を担いで保健室まで運んでくれたでしょ?」

 

「ああ、そう言えばそうだったかも」

 

「そう、だからいいんだ。何も気にしないで」

 

そう言って、ケンジは右手に教科書とノート、そして左手に筆箱を持った。

 

「相変わらず、優しいね」

 

「……僕は別に、優しくなんかないよ」

 

「ううん、そんなことない。この前も、アタシが転んだ時、気にかけてくれたじゃん」

 

「……………………」

 

気がつくと、教室にはアタシたち以外誰もいなかった。みんなもう、音楽室へ移動してしまったのだ。

 

「……田代さん、もうそろそろ行かないと、遅刻しちゃうよ」

 

「あ!う、うん!」

 

アタシは急いで、机の中から教科書を取り出した。ケンジはその間に、スタスタと先に廊下へ出てしまった。

 

本当はアタシのこと待ってて欲しかったけど、結局「待って」と言うこともなく、ケンジに続いてすぐに廊下へ出た。

 

「……………………」

 

アタシの数メートル先を、ケンジはコツコツと歩いていた。こっちのことを気にしてくれているのか、一度だけちらっと振り返ってくれた。

 

(……ケンジ)

 

本当は今すぐにでも彼のそばへ駆け寄って、その隣に立ちたい。でも、今のアタシには、そんな勇気はなかった。

 

ただただ、前を歩くケンジの背中を、じっと見つめるばかりだった。

 

(なんでケンジは、こんなアタシのこと、いつまでも気にかけてくれるんだろう?)

 

もうアタシのことなんて、嫌いになってもおかしくないのに。あんなに酷いことをしたんだから、全然口をきかれなくなっても不思議じゃないのに。

 

いつでもケンジは、アタシのことを心配してくれる。今は態度が冷たそうにしているけど、やっぱりそれでも気にかけてもらってることが伝わるし。

 

「……………………」

 

誰よりもアタシのことを、心配してくれてる。アタシが辛い時に、庇ってくれてる。

 

それがたまらなく嬉しくて……死にたくなるほど苦しかった。

 

いっそのこと、とことん冷たくされてしまったら、もうアタシも諦められる。でも、こんな風に優しくされると、どうしても期待してしまう。ケンジとまたよりを戻せるチャンスがあるんじゃないかって……そう思ってしまう。

 

実際のところ、ケンジがアタシに対してまだ好意を抱いてくれているかは、分からない。

 

でも、アタシに好意があろうとなかろうと、ケンジはやっぱり……優しいと思う。

 

アタシのことが嫌いだったとしても、先生に怒られてる場面で、彼は助けてくれる。

 

そんな優しいケンジが……アタシは、アタシは……。

 

(ケンジ……)

 

アタシは口だけを動かして、声を出さずに「好き」と言った。

 

何回も何回も、ケンジの背中に向かってそう言った。

 

当然、彼にその声は届かない。無声の告白が伝わるはずがない。

 

それでもアタシは、何度でも口にした。

 

溢れる気持ちを表現する方法が、それ以外に思い付かなかったから。

 

 

 

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