【完結】人生舐めまくってたギャルが優しい陰キャくんにガチ恋しちゃう話   作:崖の上のジェントルメン

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21.台詞と本音

 

 

 

 

 

「……お母さんは、えーと、ボクを許して、くださるだろうか?」

 

棒読み演技以前のアタシの台詞が、舞台の上に響き渡る。

 

アタシたちのクラスは今、お昼休み中に体育館を借りて、劇のリハーサルをしていた。アタシは電車の中みたいな椅子のセットに座って、そこでカムパネルラを演じている。

 

代役をすることになってから、まだ二時間も経っていない。もちろん全然台詞を覚えられていないので、膝の上に台本を開けて置き、それをチラチラと見ながら、なんとかたどたどしく台詞を口にしていた。

 

そんなアタシの対面には、同じようにして座るジョバンニ……つまり、ケンジがいた。

 

「カムパネルラ?一体どうしたの?」

 

ケンジはもう台詞を暗記しているみたいで、台本を持たずに舞台へと上がっていた。言葉も淀みなく、スラスラと口にしている。

 

(凄いなあ……さすがケンジ)

 

もともと銀河鉄道の夜が好きだったとは言え、すぐに台詞を暗記できるのは、やっぱりケンジが頭いいからなんだろうなあ~。

 

「アタシ……じゃなかった、ボクはお母さんが、本当に幸せになるなら……えーと、どんなことでもする。け、けれども、一体どんなことが、お母さんにとって一番の幸せなんだろう?」

 

「カムパネルラ、君のお母さんは、何か不幸なことでもあったのかい?」

 

「ボク、分からない。けれども……誰だって本当に良いことをしたら、一番……幸せ、なんだね。だからお母さんは、ボクを許して、えー、くださると思う」

 

うーん、やっぱり台詞が難しい。

 

ケンジも言ってたけど、銀河鉄道の夜って、なんか言い回しが独特なんだよね。古い小説だからっていうのもあると思うけど、とにかく台詞が口にしずらい。「けれども」とか、今までの人生で一回も使ったことないし。

 

これでもまだ、役者が言いやすいように台詞を変えられてるみたいだけど、それでも難しく感じる。

 

(アタシ、ホントにあと3日でできるようになんのかなあ……?)

 

自分から立候補したとは言え、思ってた以上にカムパネルラを演じるのが難しいことに対して、アタシは不安にならざるを得なかった。

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

そんなリハーサルの途中で、お昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

 

授業を受けるために、みんなで小道具などの片付けをしてから、教室へと戻っていく。その途中で、ケンジはクラスのみんなからたくさん相談を受けていた。

 

「ねえねえ斎藤くん、さっきのシーンって、照明はもっと多い方がいい?」

 

「うーんと、そうだね。むしろ逆に、照明は少なくていいかも。照らされてるところを絞ることで、観客の見る場所をそこに集中させられるかなって思って」

 

「なあ斎藤、BGMを流すタイミングは問題なかったか?」

 

「うん、全然大丈夫だったよ。ボリュームだけ、もう少し上げてもらえると嬉しいかも」

 

ケンジは主役を務めることになったことと、一番銀河鉄道の夜について詳しいことから、劇の相談事を請け負うことがめちゃくちゃ増えていた。

 

美術係の時点で、かなりみんなから意見を求められてたけど、今回はその比じゃない。

 

「斎藤くーん、これどうしたらいいー?」

 

「あ、えーとそれは……どうしたら良かったっけなあ」

 

「おーい斎藤、ちょっと聞きたいことあんだけどー」

 

「あ、う、うん。ちょっと待っててー」

 

「大人数をまとめる」ということについて、ケンジはあまり慣れていなさそうだったけど、それでもクラスの劇をより良くするために、彼は一生懸命頑張っていた。

 

「……………………」

 

胸に抱いている台本を、ぎゅっと強く抱き締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

……みんなと一緒に教室へ戻ったアタシは、自分の席に座り、台本を開いてカムパネルラの台詞の部分にマーカーを引いていた。

 

(ボクは、白鳥を見るのが大好きだ。川の遠くを飛んでいたって、ボクには見える……)

 

たどたどしくも、カムパネルラの台詞を胸の中で読み上げながら、少しずつ覚えていく。

 

今のアタシにできることは、とにかくカムパネルラの演技を完成させること。

 

せめて台詞だけでも、きちんと暗記していたい。棒読みでもいいから、台本を持たずに台詞を話せるようになりたい。

 

「……よし」

 

まず1ページ分の台詞を読み込んだ後に、一回台本を閉じて、その状態で台詞を頭の中に思い浮かべてみた。

 

(ああ、しまった。ボク……えーと、水筒を持ってくるのを忘れた。あと……なんだっけ?そうだ!スケッチ帳も忘れてた。でもいいや。もうじき……えー、白鳥座の駅だ。ボク、白鳥を見るのが大好きだ。川の遠くを飛んでいたって、ボクには見える……)

 

ある程度まで台詞を思い浮かべた後、もう一度台本を開いて、そのページを確認する。

 

(やった!ちゃんとあってた!ここのページは覚えられた!)

 

小さくガッツポーズをしながら、また同じ要領で、次の台詞にマーカーを引き、何度も何度も読み込み、そして台本を伏せて頭で台詞を唱える。これをたくさん繰り返していた。

 

「田代さん」

 

そんな時、ケンジがアタシに声をかけてきた。

 

「今日の放課後、演技の練習のために役者の人たちを集めて残ろうかと思ってるんだけど、田代さんは大丈夫?残れそう?」

 

「うん、アタシこそちゃんと練習しないとヤバいし、もちろん残るよ」

 

「良かった。それじゃ、また放課後ね」

 

「うん!」

 

アタシがそう答えると、ケンジは「ありがとう」と言って、自分の席に戻っていった。

 

(放課後……か。よし、それまでに覚えられるだけ覚えておかなきゃ!)

 

アタシはまた台本を開いて、新しい台詞を頭の中にインプットしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……カムパネルラ、あれはなんだい?あそこに光る、赤い星は」

 

放課後の午後4時頃。アタシたち役者組は教室に残って、演技の練習をしていた。

 

本当は舞台の感覚を掴むためにも、体育館で練習したかったんだけど、先に他の組の予約が入ってしまっていて、取れなかったみたい。

 

なので、教室にあるみんなの椅子を使って、汽車の座席っぽく作り、そこに座って劇を進めていた。

 

「ジョバンニ、あれはさそりの火だよ」

 

ケンジと対面して座るアタシが、覚えたての台詞を口に出す。

 

この場面では、四人の役者が登場する。ジョバンニとカムパネルラの他に、タダシとかおるという名前の姉弟がいた。

 

弟のタダシはジョバンニの隣に座り、お姉ちゃんのかおるはアタシの隣に座っている。

 

このアタシたち四人の演技を、まだ出番がない役者たちや、役者じゃないけど演技を見ていたいクラスメイトたちが何人か見物していた。

 

「さそりの火なら、私知ってるわ」

 

かおる役の子が、落ち着いた雰囲気でそう告げる。

 

「さそりの火ってなんだい?」

 

ジョバンニがそう聞くと、かおるが答えた。

 

「さそりが焼けて死んだの。その火が、今も燃えているのよ」

 

すると、今度はジョバンニの隣に座るタダシが、おっきな声を出した。

 

「さそりって、虫だろう!?」

 

「ええ、そうよ」

 

「さそりはいい虫じゃないよ!尾にこんなカギがあって、それで刺されると死ぬって、そう先生が言ってたよ!」

 

みんなたくさん練習してるだけあって、台詞への抑揚のつけ方とか、感情の出し方とかがちゃんと舞台っぽい。

 

(凄いなあ……みんな上手……)

 

アタシ一人だけ、まだまだ台詞も間違えちゃうし、棒読み演技になっちゃってる。

 

でも、今はまだしょうがないよね。とにかく本番までに、できることを頑張んなきゃ……。

 

「おや、どこからか祭りの音が聞こえるよ」

 

あ、このジョバンニの台詞の次は、アタシの台詞だ。

 

「そうだ、ここはケンタウルの村だね。アタシ……じゃなかった、ごめん。ボクにも聞こえるよ」

 

あー……!また間違った。アタシ自分のことを「ボク」って言うのに慣れてなくて、たまにこんな風に間違えちゃうんだよね。

 

「佳奈ちゃん頑張れー!」

 

見物しているクラスメイトから、応援の言葉を貰う。アタシはなんだか恥ずかしくなって、今度こそ間違えないようにしようと胸に誓った。

 

 

 

 

 

……それからはなんだかんだ言って、順調に劇の練習は進んでいった。

 

アタシも何度か言い間違えることはあったけれど、自分で思ってたよりは台詞を覚えられていた。

 

「それじゃあ、さようなら」

 

タダシやかおるとかの、銀河鉄道に乗っていた他の乗客たちが降りていき、とうとうジョバンニとカムパネルラだけになるシーンがある。今から演じるのはそのくだりだった。

 

「カムパネルラ、とうとう僕たち、二人きりになったね」

 

ジョバンニが……いや、ケンジから真正面にそう言われて、アタシはちょっとドキッとした。

 

周りからクラスメイトに見られていることもあって、アタシの心臓はいつもよりもうるさかった。

 

「あ、ああ、そうだねジョバンニ」

 

そのせいで、つい台詞がどもってしまった。いけないいけない、落ち着かないと……。

 

「これから僕たちは、どこへ行くんだろう?」

 

「さあ、ア……ボクにも分からないよ」

 

危ない!「アタシ」って言いかけたところを、ギリギリのところで「ボク」に変えることができた。よかった、ちょっとずつ慣れてきてるのかも知れない。

 

ここのくだりを過ぎれば、カムパネルラの出番はなくなる。一通り終わりまで、とりあえず頑張りたいな。

 

「ねえ、カムパネルラ」

 

「なんだいジョバンニ」

 

「……………………」

 

「……?」

 

あれ?おかしいな。

 

この後はケンジの台詞なんだけど、なぜか彼は口を開こうとしなかった。

 

ケンジが言葉に詰まるなんて、今まで一回もなかったのに。どうしたんだろう?

 

台詞を忘れた……のかな?でも、ケンジだったら「忘れてしまった」と素直に言って、台本を確認するはず。

 

気のせいかもしれないけど、なんだか心なしか、少し悲しそうにも見える。アタシを真っ直ぐに見ていた目が、今は浅く伏せられていてる。

 

「……………………」

 

その目が、徐々にまたアタシの方へと向き始めた。

 

「……これから、僕たち」

 

そして、苦しくて絞り出すような声で、彼はこう言った。

 

 

 

 

「これから僕たち、いつまでもずっと、一緒にいよう」

 

 

 

 

「……………………」

 

「ああ、そうさカムパネルラ。僕はどこまでも、君と一緒だ」

 

「……………………」

 

……アタシは。

 

アタシはその時ほど、泣くのを堪えた瞬間はなかった。

 

だって。

 

だってケンジから、一緒にいようと言われたんだもの。

 

それがたとえ、劇の台詞だったとしても。台本に書かれた言葉だったにしても。

 

ケンジがアタシを見つめて、いつまでも一緒だって言ってくれたことが……たまらなかった。

 

「……………………」

 

いろんなことが、胸の奥から込み上げてくる。

 

ケンジと過ごしてきたたくさんの思い出が、頭の中で風のように吹き抜けていく。

 

あなたの優しくて安らぐ笑顔を思い出す度に、心の底から熱くなる。

 

「……………………」

 

アタシは膝の上に置いていた手を、ぎゅっと握り締めた。

 

そして、小刻みに震える唇で、こう答えた。

 

 

 

「……アタシも、ずっと一緒にいたい……」

 

 

 

「……………………」

 

ケンジが静かに驚く顔を見て、アタシはようやく我にかえった。

 

自分の言った言葉が変だったことに、その時やっと気がついた。

 

「佳奈ちゃーん、また『アタシ』になってるよー!」

 

クラスメイトからいつものようにそう指摘されて、アタシはこの場を誤魔化すために、無理やり笑った。

 

「あ、ホントだー!ごめんごめん、また間違えちゃったー!」

 

「佳奈ちゃん、いっそカムパネルラは女の子でいくー?」

 

ははははははは!!

 

……教室が、クラスメイトたちの笑い声に包まれた。

 

アタシもアタシで、薄く作り笑いを浮かべていたけれど、ケンジだけは、ただただじっとアタシのことを見つめていた。

 

 

 

 

 

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