【完結】人生舐めまくってたギャルが優しい陰キャくんにガチ恋しちゃう話   作:崖の上のジェントルメン

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34.恋人と義母(2/2)

 

 

 

……アタシは家に帰ってから、ケンジの昔のアルバムを眺めていた。

 

部屋にある勉強机にそのアルバムを広げて、一枚一枚、目に焼き付けるようにして見つめた。

 

「……ふふ」

 

たくさんのおせんべいを美味しそうに頬張る小さなケンジに、アタシは思わず微笑んだ。ポテトチップスとかチョコとかじゃなくておせんべいな辺りが、すごくケンジらしい気がした。

 

顔の雰囲気、ほんと昔から変わらないなあ~。きっと今ケンジがこの頃くらいまで小さくなっても、すぐにケンジだって気がつけると思う。

 

「……ん?」

 

ふと、アタシはとある写真に目が行った。

 

それは、保育園の入園式の様子を写したものだった。何人もの園児たちが横に並んで、その後ろに保護者が立っている。当のケンジは一番右端に立っていて、恥ずかしそうに下を向いている。

 

その写真の隣には付箋が貼られていて、メモ書きがされている。

 

『4/5 ほしぞら保育園 入園式』

 

「ほしぞら保育園……?あれ?ちょっと待って。なんか……聞き覚えあるような……」

 

もしかして……と思いながら、アタシは人差し指で園児一人ひとりの顔を、目を皿のように薄めながら確認していった。

 

そして……写真の中央に、アタシはとある女の子を見つけた。

 

「あっ!?やっぱり!!」

 

見つけた瞬間、アタシは思わず大きな声をあげてしまった。

 

それは紛れもなく、“アタシ”だった。

 

腰に手を当てて、ふてぶてしく笑っている。その後ろに若いママが立っているから、間違いない。

 

「うっそ……!?じゃあ、アタシとケンジって同じ保育園だったの!?」

 

アタシの感嘆の声が、部屋中に木霊した。

 

(えー?でも、ケンジのこと全然覚えてないんだけど……。この頃は仲良くないから仕方ないけどさ……。うーわマジか、こんな時から縁があったんだ……。え?じゃあ、小学校は……?)

 

アタシはアルバムを何ページかとばして、小学生の入学式の写真がないか探した。すると、アルバムの最後の方に、その写真が見つかった。

 

『宮永小学校』と書かれた正門前に、ケンジが気を付けの姿勢で立っている。

 

「宮永小学校……か。うーん、これは違うかな。アタシ、立岡付属小学校だったし……」

 

どうやら、偶然一緒だったのは保育園だけだったみたい。そっか、もしかしたら小学校も一緒かもと思ったけど、さすがにそれはなかったか。

 

(でも、保育園が一緒なだけでもすごい偶然……。まさかケンジと一緒だったなんて。ひょっとしたらママ、覚えてるかな?)

 

アタシはケンジのアルバムを持って、一階へと駆け降りた。そして、リビングでドラマを見ながら洗濯物を畳んでいるママに向かって、こう尋ねた。

 

「ねえママ!アタシの通ってた保育園にさ!ケンジがいたのって覚えてる!?」

 

「ええ?ケンジって……それ、あなたがよく話してる斎藤 健治くんのこと?」

 

「うん!ほら見て!この写真!」

 

アタシはアルバムを開き、例の入園式の写真をママに見せた。そして、一番端にいるケンジを指差した。

 

「これ!これがケンジなの!ほら!真ん中にはアタシがいるでしょ!?」

 

「あら、確かに佳奈がいるわね。へえ、これが健治くんなのね」

 

ママはアタシからアルバムを受け取ると、パラパラとページを捲った。

 

「このアルバムはどうしたの?」

 

「ケンジママから借りてるの。ケンジの昔の写真を、アタシが見たがったから」

 

「なるほどねえ……」

 

「ねえママ、憶えてる?ケンジのこと」

 

「んー、そうねえ……。いたような気はするけど……」

 

ママは顔をしかめながら、小さい頃のケンジの顔をマジマジと見ていた。

 

「あ、待って。これは覚えてるわ。ああ、なるほど。あの時の斎藤くんだったのね」

 

ママは突然、とある写真を指さした。それは、保育園で行われた遠足会の写真だった。

 

どこかの山頂に、入園式と同じ感じで園児たちが横に並んでいて、保育園の先生とともにカメラに向かってピースをしている。でもよく見ると、その中にアタシの姿がない。

 

「あれ?なんでアタシ、こん時いないの?」

 

「この日はねえ、佳奈が途中でお腹痛くなっちゃって。仕方なく私が家へ連れて帰ったのよね」

 

「へえ」

 

「保育園の先生から『お迎えに来てもらえますか?』って連絡を受けて、すぐに車を走らせて迎えに行ったのよ。そしたら、佳奈が木の下でお腹を抱えてうずくまってたのよ」

 

「うん」

 

「その隣にね、例の斎藤くんがいたのよ」

 

「え?ケンジが?」

 

「そう。『大丈夫?おうち帰る?』って心配そうに声をかけながら、佳奈の背中を擦ってたののよ」

 

「…………………」

 

「それを見た時にね、『ああ、佳奈はいい友達に恵まれたわね』って思ったのを、今でも覚えているわ」

 

「そうなんだ……。アタシ、全然覚えてないや」

 

「まあ、まだあなたも四歳になったばかりだったものね。覚えていられなくても仕方ないわ」

 

「…………………」

 

アタシは幼い頃のケンジの写真を、黙ってじっと見つめた。微笑ましい小さなケンジが、なんだかより一層愛おしく感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんですって?健治と保育園が一緒?」

 

翌日、ケンジママへアルバムを返すと同時に、アタシがケンジと一緒の保育園だったことを伝えた。

 

今日も昨日と同じく、ベッドに眠るケンジの横で、丸椅子を置いてそこに座る。

 

「うん。アタシ、当時のことあんま覚えてないから、まさかケンジと一緒だったとは思いもよらなかった」

 

そう言って、紙袋に入ったアルバムをケンジママへ手渡した。

 

「ありがと、ケンジママ。昔のケンジのことが知れて、楽しかった」

 

「…………………」

 

ケンジママはアタシから受け取ったアルバムを、足元に置いた。そして、微かに聞き取れるほどの小さな声で、「そう」と言った。

 

……今日も外では、雪が降っている。風の音が部屋の中に入り込んでいて、時々窓枠をカタカタと鳴らす。

 

「あなたと健治は、なぜ別れたの?」

 

不意に、ケンジママがアタシへそう尋ねてきた。

 

「昨日、あなたはこう言ったわね。自分はまだ健治が好きだけど、健治がどうかは分からないと」

 

「……うん」

 

「ということは、健治があなたを振ったということ?」

 

「…………………」

 

アタシは横たわるケンジを見つめながら、ごくりと息を飲み込んだ。

 

どうしよう?なんて答えたらいいんだろう?

 

健治からフラれたのは確かにそうなんだけど、間違いなくアタシが悪かったことだから、そこはちゃんと嘘をつかずに言うべきなんじゃないだろうか。

 

でも、そしたらケンジママはなんて思うだろうか……?下手したら、めちゃくちゃ怒鳴られるかも知れない。

 

(だけど……だからって本当のことを伏せるのは、良くない……よね)

 

アタシは頭の中で何回も何回も同じことを繰り返し考えた。そしてようやく、ケンジママへ答える決心がついた。

 

膝の上に拳を置いて、ふうと息を吐く。

 

「……アタシの、せいなの」

 

「…………………」

 

「全部正直に話すと……アタシ、最初はケンジに嘘の告白をしたの」

 

「嘘の告白?」

 

「友達との、罰ゲームで」

 

「…………………」

 

「それで、それがケンジにバレちゃって……。ケンジから愛想尽かされちゃって……」

 

「…………………」

 

「アタシ、最初は罰ゲームで告白しただけで、ケンジに全然気持ちなんてなかったけど、何回も会う内に、どんどん好きになっちゃって……。だから、罰ゲームで告白したことを、すごく、後悔してて……」

 

「…………………」

 

とりあえず、アタシの言いたいところまでは話すことができた。あとはケンジママがなんて思うかね。

 

「…………………」

 

ケンジママは、まだ何も言わなかった。この静けさが逆に怖かった。手に汗が滲んできて、落ち着かない。

 

でも、ここでなんと言われようと、後悔しない。アタシはアタシが正しいと思うことをやる。ケンジママがどんな反応でも、アタシがケンジのそばから離れないことに、変わりはない。

 

「……そう、そうなのね」

 

アタシがもろもろを正直に話してから、およそ五分後。ようやくケンジママはそんな風に答えた。ああ、いよいよ怒られるなと思って身構えたけれど、結局それ以上、ケンジママは何も言わなかった。

 

 

……ピ、ピ、ピ、ピ……

 

 

ケンジの心電図の音が、小さく部屋に木霊する。

 

 

ひゅーーーー……

 

 

窓の外から、微かに風の音がする。

 

「……じゃあ、私は先に帰るわね」

 

ケンジママはそう言うと、紙袋を持って立ち上がった。

 

「あなた、名前は?」

 

「え?」

 

アタシがケンジママの方へ顔を向けると、ケンジママはじっと、無表情でアタシのことを見つめていた。

 

「あなたの名前は、なんと言うの?」

 

「……田代 佳奈」

 

「そう。なら、田代さん。もし健治があなたのことを嫌いだって言ったら、どうするの?」

 

「…………………」

 

「あなたが健治を好きでいても、健治の方の気持ちは分からないのよね?もしそう言われたら、どうするつもり?」

 

「……その時は…………」

 

「…………………」

 

「……その時は、ケンジから静かに離れる。そして、遠くでケンジが幸せであることを、祈りたい」

 

「!」

 

ケンジママは、目を大きく見開いた。でも、それはほんの一瞬だった。

 

すっと顔が無表情に戻り、短く「そう」とだけ答えた。

 

そして、病室の扉に手をかけて、何も言わずに出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ブロロロロロ

 

 

私は、健治の病室から家へと帰るバスの中にいた。

 

夕方の四時という半端な時間のため、バスの車内には私以外誰もいなかった。

 

「…………………」

 

私は、そんなバスの座席に座りながら、とある手紙を眺めていた。

 

それは、先日我が家で見つけた手紙だった。健治の本や私物を整理していた時に、本の隙間からするりと落ちてきたものだった。

 

その手紙の送り主は、健治の父……つまり、私の元夫だった。

 

 

 

 

 

百合子へ

 

この手紙を読んでくれているということは、君は俺との縁を完全には切らないでいてくれたんだということだね。

 

まずはそこに、感謝の意を示そう。読んでくれて、ありがとう。

 

実はこの度、俺はドイツへと旅立つことになったんだ。おそらく、もう二度と日本へは帰らないだろう。

 

君とは本当に、いろいろなことがあったね。

 

初デートで、俺が君を図書館へ連れて行った時のことを覚えているかい?「え?初デートで図書館?」と、目を丸くして驚いた君の顔を、今も鮮明に、この目蓋の裏が覚えている。

 

俺と別れた後、君は重度のベーチェット病を患い、健治を育てることに随分と苦労しているだろう。一番大変な時に支えになれなくて、申し訳ないと思ってる。お金の援助はこれからもし続けるつもりだから、何かあったら遠慮なく頼ってほしい。

 

百合子。君は俺のことなんて、もう毛虫のように嫌いだろうけど、俺は今も変わらずに、君を愛している。

 

俺のことを信じてくれだなんて、もうそんなことを言うつもりはない。でも、俺の気持ちは、ちゃんと伝えたかった。ちゃんと伝えないまま、日本を離れたくなかった。

 

俺は俺の愛に、嘘をつきたくなかった。

 

それじゃあ、いつまでも健康でいてくれ。君と健治が幸せであることを、遠くから祈る。

 

斎藤 真治より

 

 

 

 

「…………………」

 

遠くから祈る。それがさっきの、田代さんの姿を思い起こさせた。

 

 

『ケンジから静かに離れる。そして、遠くでケンジが幸せであることを、祈りたい』

 

 

「…………………」

 

私は大きくため息をついて、手紙を四つ折りにした。そして、それをお財布の中へと閉まった。

 

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