【完結】人生舐めまくってたギャルが優しい陰キャくんにガチ恋しちゃう話   作:崖の上のジェントルメン

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7.あなたを好きになる時(1/2)

 

 

 

 

 

──人を好きになることに理由はない……と、よく言われるけど、実は理由がないんじゃなくて、理由が「シンプル」なだけ。シンプルすぎて逆に、本人もよくわかってない内に好きになる。他の人はたぶんそんな感じなんだと思う。

 

アタシがケンジを好きになったのも、理由自体はシンプルだった。

 

ケンジは、本当に優しかった。

 

アタシが今までに会ったことがないくらいに、優しい人だった。

 

それは、たとえば“強引なナンパたちから身体を張って助けてくれたから”とか、“車が轢かれそうになった時に身をていして守ってくれたから”とか、そういうドラマチックなものじゃない。

 

道を歩く時は、いつもアタシを車道側に行かせないようにしてくれたりとか、レストランで水がセルフだった時は、アタシの分も汲んできてくれるとか、そういうの。

 

でも、ケンジはあんまりエスコートが上手じゃないから、あたふたしながら車道側に行こうとしたりするし、水は途中で転んで溢したりする。最初は全然スマートじゃなくてダサいなあと思ってたけど、そんなダサさも……今となってはケンジらしくて好きだなって思えるところ。

 

……そして、ケンジはちゃんと、いつも気持ちを言葉にしてくれた。

 

「好きです、佳奈さん」

 

顔を真っ赤にさせて、余裕のない感じで汗をかきながら、でもケンジはアタシにそう言ってくれる。

 

ちゃんと「好きだ」って言ってもらえることって、実はあんまりなかった。

 

同世代で付き合ってきた彼氏たちは、みんなその辺カッコつけたがって、全然好きだとか話してくれなかった。

 

だからケンジのストレートな感じが、逆に新鮮で……嬉しかった。

 

こういう小さな積み重ねが、アタシの心を溶かしていった。

 

──だけど、一番の要因……というか、決定打になった出来事は、ちゃんとある。だからアタシは、ケンジのことが好きになった理由がシンプルだと自覚している。

 

それは、ケンジと七回目のデートをした時のことで……ケンジと付き合い始めてから、二週間目に入った時期だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……斎藤と付き合ってから、二週間目の今日。アタシは一人、喫茶店でフラペチーノを飲みながら、斎藤を待っていた。

 

正直……今、かなり悩んでいる。いっそのこと、斎藤に全部打ち明けてしまおうかって。罰ゲームで告白したことを、洗いざらい話してしまおうかなって。

 

今ならまだ、引き返せるはず。これ以上長引いてしまうと、斎藤のことを……傷つけることになる。

 

 

 

『今まで僕とのデートでは、笑われたところを見たことがなかったから、もしかしたらつまらない思いをさせてしまってたのかなって……。だから、今こうして佳奈さんの笑ってるところを見られて、僕、嬉しいです』

 

 

 

斎藤は、めちゃくちゃ素直だ。思ってることをそのまま口に出す。

だから斎藤が本気でアタシのことが好きなのも、伝わってくる。

 

……そんな斎藤へ、罰ゲームで嘘の告白をしたってことに、アタシは最近……モヤモヤし始めていた。

 

最初はまるで、そんなこと思ってなかった。さっさとこのゲームを終わらせて、夏休みを有意義に過ごしたい……そんなくらいしか思ってなかった。

 

でも、だんだんといつの間にか、変なモヤモヤが産まれていた。斎藤があまりにアタシのことを好き好き言うもんだから……なんか……その…………

 

(はあ……でもやっぱり、本当のことを話すのは嫌だわ。アタシが悪い奴扱いされんのも嫌だし。だいたいこれは真由たちの考えた罰ゲームで、アタシは……全然悪くないし……)

 

「佳奈さん」

 

そうしてごちゃごちゃ考えていたところに、斎藤が現れた。

 

「待たせてごめんね、佳奈さん」

 

「ん、別に平気」

 

「ありがとう。じゃあ行こうか」

 

「うん」

 

そうしてアタシらは、二人揃って喫茶店を出て行った。

 

斎藤も最近になって、ようやく敬語を止めた。というか、止めてもらった。

 

アタシの方から「敬語使われんのムズムズするから止めて」と言って、強引に止めさせた。

 

「佳奈さん、今日は……本当によかったの?」

 

街中を歩きながら、斎藤がアタシへ尋ねてくる。

 

「何が?」

 

「いや、今日は僕の行きたいところに行っていいって……」

 

「うん、まあ……ほら、動物園行った以外はウィンドウショッピングとかそんなんばっかだったし、マンネリ気味だったから」

 

と、いうのは建前。アタシはずっと斎藤のことを騙……嘘コクしちゃった負い目的なのを払拭したくて、斎藤の好きな場所を選ばせてあげたのだ。

 

(いや、アタシがそんな負い目を感じる必要は全然ないんだろうけどさ……)

 

とにかく、今日は斎藤の行きたいところを選んでもらった。斎藤は「うーん」って感じの顔をしつつも、アタシをある場所へ連れていった。

 

それは、まさかの県立博物館だった。

 

「は、博物館……?」

 

アタシがぽかんとしながら建物を見上げていると、斎藤は照れ臭そうに笑って言った。

 

「う、うん……今月の展示は僕の好きな宇宙がテーマなんだ。も、もしよければ……ここを観たいんだけど……いいかな?」

 

「……………………」

 

博物館なんて、小学生以来だった。当時ですらつまんないと思っていたのに、高校生になって楽しめる場所なの?ここ?

 

あまりにジジ臭いというか、お堅い場所に連れて来られて、ぶっちゃけアタシは後悔していた。「斎藤の行きたいところに」なんて、軽々しく言うもんじゃないなあ……。

 

「……あの、佳奈さん」

 

「え?」

 

「や、やっぱり……嫌でしたか?」

 

「ん……いや、まあいいよ。来たかったんでしょ?」

 

「え、ええ……」

 

「なら、別にいいよ。つまんなかったら、アタシ一人だけ外に出ておくから」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「ほら、また敬語」

 

「あ……えーと、ありがとう、佳奈さん」

 

「ん」

 

そうしてアタシらは、博物館の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……わあ……!すごい!これが2000年前に地球へ落ちてきた隕石なんだあ……!」

 

斎藤は、子どもみたいに目をキラキラさせて、なんかよく分からない石を眺めている。

 

(ただの石なのに、何をこんなに興奮してんだか)

 

アタシは斎藤の隣で、あくびを堪えるのに必死だった。

 

「あ!ねえ佳奈さん、見てよこれ!月の石だって!」

 

「……ふーん」

 

「凄いなあ……!これが月にあったなんて、信じられないや」

 

「月の石……ねえ」

 

こんな地味~な石にワクワクできる斎藤が、なんかだんだん羨ましくなってきた。

 

(はあ……どうしよっかな。もう外に出ていいかな……?)

 

そう思いつつも、隣ではしゃいでいる斎藤にそのことを伝えると、絶対悲しそうな顔をされるのは目に見えていた。

 

「や、やっぱりつまらなかった?」みたいな感じで、きっとしょんぼり言うんだろう。はあ……仕方ない、もう少し付き合おう。

 

そうしてアタシは、自分の気持ちを抑えて、珍しく“我慢”をしていた。

 

 

……入館してから二時間ほど経った頃、斎藤がベンチで休憩しようと言ってきたので、二人で並んで座った。

 

「ごめんなさいね、佳奈さん」

 

「なにが?」

 

「いえ……僕の趣味に付き合わせてしまって」

 

「だから別にいいってば。気にしすぎだって、アタシのこと」

 

「だって……せっかくなら佳奈さんも楽しんでほしいって思ってるし」

 

「……もう、気にしなくていいって言ってんじゃん」

 

「ご、ごめん……嫌だったかな?」

 

「……………別に。嫌じゃ、ないけどさ」

 

アタシは脚を組んで、その膝の上に肘を乗せて、頬杖をついた。目の前を横切っていく他のお客たちの顔を眺めながら、ぼんやりと考え事をしていた。

 

(……どうすればいいんだろう、アタシ)

 

タイムリミットは、あと二週間。その時になったら、斎藤とは結局別れることになる。

 

斎藤がアタシを大事にしようとしている気持ちは、よく伝わる。あと二週間もそんな気持ちに当てられて、平気でいられる気がしない。

 

今ですらモヤモヤしてるのに、あと二週間もモヤモヤしっぱなしなのは、絶対ムリ。

 

(……ちょっと、真由に相談しようかな)

 

頭の中でごちゃごちゃと考えを巡らせてたその時、すっと目の前に手が出てきた。

 

その手には、小さな水色の月の形をしたイヤリングが握られていた。その手の主は、もちろん斎藤だった。

 

「……?なにこれ?」

 

アタシがそう聞くと、斎藤はいつものように顔を赤らめて言った。

 

「あの……これ、よかったらどうぞ」

 

「……イヤリング」

 

「は、はい。佳奈さんに……似合うかなって。その、佳奈さんの爪の色と同じやつにしてみました」

 

「!」

 

「こ、こういうのって揃えた方がいい……んですよね?たぶん」

 

「……………………」

 

アタシは斎藤からイヤリングを受け取った。それを手の平に乗せてじーっと眺めていると、また斎藤が話しかけてきた。

 

「今日は……いや、今日もか。いつも一緒にいてくださって、ありがとうございます」

 

「……………………」

 

「あ、また敬語になっちゃった。えーと……日頃のお礼的な感じで、受け取ってもらえると嬉しいな」

 

「……………………」

 

「好きです、佳奈さん」

 

……その時アタシは、斎藤の顔を見なかった。見ようとすると、顔が熱くなることが、なんとなく分かっていたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……その日のデートを終えて、家へと向かうアタシは、自分の足元にある影をぼんやりと眺めながら歩いていた。

 

……斎藤は、なんでアタシのことをこんなに好きなんだろう。

 

デートの度に、毎回毎回好きだって言ってくるし、ずっとアタシのことを気にかける。そりゃもう、鬱陶しいくらいに。

 

「……………………」

 

好きだって言われる毎に、胸のモヤモヤが強くなってくる。嘘コクしたことがどんどん、悪いことのように感じてくる。

 

それはたぶん、斎藤の気持ちに自分が応えられないことを分かっているから。

 

「……はあ」

 

大きなため息をつきながら、家にたどり着いたアタシは、玄関の扉をゆっくりと開けた。

 

「佳奈」

 

ふと見ると、目の前には腕を組んで立ってるママがいた。なーんかピリピリした感じの雰囲気で、アタシを睨んでる。こういう時って、ママがだいたい怒ってる時だ。

 

「……なに?」

 

めんどくさいなあと思いつつアタシがそう答えると、ママは「なにじゃないでしょ」と強い口調で言った。

 

「今日は、学校の補修だったはずよね?」

 

「ほしゅー?」

 

「あなた赤点ばっかりだから、夏休み中に補修を受けるよう、先生から言われてたはずよ」

 

「……あー、そうだっけ?」

 

「佳奈!だらけるのもいい加減にしなさいよ!」

 

ママは突然、そう言って怒鳴ってきた。

 

「今日ね、先生から電話があったの!あなただけ補修に来てないって!補修を受けないと留年するかも知れないって、そう言われたわ!」

 

「……………………」

 

「なのにあなたと来たら、いつもいつもどこかへ出かけてばっかり!だらだらだらだら遊んで!それでいいと思ってるの!?」

 

「はいはい、ごめんって」

 

「佳奈!目を見て話しなさい!」

 

「っさいなあ……。別に、アタシの人生なんだから、ママにはどうだっていいじゃん」

 

「……っ!あなたねえ!私がどれだけあなたのことを心配してるか分からないの!?」

 

「勝手に心配してんのは、そっちでしょ。アタシはカンケーないし」

 

そう言って、アタシはママと目を合わせないまま、横を通りすぎて二階へと続く階段を登った。

 

「佳奈!ちょっと佳奈!」

 

何度もママに呼ばれたけど、それも全部無視した。そして最後、背中越しにママはため息とともに、ぽつりと独り言を呟いていた。

 

「はあ……深雪とは大違いね。あんな子にする予定じゃなかったのに」

 

バタンッ

 

「……………………」

 

アタシは、自分の部屋に入って、鍵を閉めた。

 

 

『あんな子にする予定じゃなかったのに』

 

 

ママから言われた言葉が耳に残って、木霊する。

 

「……………………」

 

それを思い出す度に、めちゃくちゃにイライラして、思わずアタシは肩にかけてたポーチを床へ投げつけた。

 

「……いいよ、どうせアタシは深雪みたいに良い子じゃないよ。ママが好きなのは深雪みたいな子で……アタシのことなんて、どうでも……」

 

むしゃくしゃして、頭をバリバリと掻きむしる。

 

「あーっ!イライラする……!真由にでも愚痴ろうかな」

 

そう思って、アタシはスマホを床に投げたポーチから取り出した。

 

「……………………」

 

電話をかけようとしたその時、アタシは真由じゃなくて……斎藤の顔が浮かんだ。

 

 

『好きです、佳奈さん』

 

 

「……………………」

 

なんでかは分からない。でも、アタシは真由じゃなくて、斎藤に電話をかけていた。

 

『は、はい、もしもし?』

 

電話越しに彼の声が聞こえた。

 

『か、佳奈さん、どうかした?何か用事?』

 

「……………………」

 

『……?か、佳奈さん?』

 

初めての電話だからか、斎藤は異様に緊張している。アタシはそんな斎藤に向かって、突然こんなことを口走ってた。

 

 

 

「ねえ、斎藤。アタシのこと好きって言ってよ」

 

 

 

『……え?』

 

「いいから。好きなんでしょ?アタシのこと」

 

『そ、そりゃ……もちろん』

 

「じゃあ言ってよ。今すぐ」

 

『か、佳奈さん?どうかしたんですか?』

 

「ねえ早く!言ってってば!」

 

『は、はい……。んんっ、えっと……好きです、佳奈さん』

 

「……もっと言って」

 

『も、もっと?』

 

「ねえ、お願いだから。もっとたくさん言ってよ」

 

『す、好きだよ、佳奈さん』

 

「……………………」

 

『本当に、本当に好きだよ』

 

「……うん」

 

『え、えっと……まだ、続ける?』

 

「まだ、まだやって」

 

『わ、わかった。その……僕は、佳奈さんのこと、好きだよ』

 

「……なんで?」

 

『え?』

 

「なんで好きなの?それも教えて」

 

『え、えっと……佳奈さんは優しくて、とても可愛いらしいって思うよ?』

 

「……………………」

 

『あんまりね、こう……優しいところをアピールするタイプじゃないけど、僕に千円を返してくれたり、何かと気にかけてくれたりしてくれるところで、優しいなって思う』

 

「……………………」

 

『それから、今日も僕と一緒に博物館に来てくれて……。佳奈さん、ずっと退屈そうにしてたけど、あくびとか堪えてて、僕に気を遣ってくれてるんだなって分かってさ』

 

「!」

 

『それで……申し訳ないなと思いつつも、優しい人だなって』

 

……優しい、だって。

 

ふん、バカじゃないの。斎藤、アタシはあんたのこと、騙してるんだよ?

 

本当は好きじゃないのに、嘘ついてコクって……それなのに、アタシが優しい?バカだよホント。

 

『……佳奈、さん?』

 

「なに?」

 

『どうかした?』

 

「なんで?何もないけど?」

 

『じゃあ……どうして、泣いてるの?声が……震えてるよ?』

 

「……………………」

 

アタシは眼を擦り、鼻をすすりながら答えた。

 

「別に、泣いてないし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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