ニケがEDF式導入開始
今回のあらすじ
アーク封鎖完了
足踏みし過ぎの中、何とか先へ……
2ヶ月と3週間。
アーク封鎖に必要な期間。
その間、兵士達は耐えねばならなかった。
病気や怪我、飢餓や戦闘。
不衛生な環境に足りない物資。
我慢して、互いを励まして日々を生きた。
人類の為だという信念。
生き抜く覚悟の元、一丸となり人類最後の砦を守り続け、為すべき事をやり遂げた。
それを嘲笑う様にして、記憶に無い光景……ラプチャーの襲撃もあったが、それらはストーム1が蹴散らした。
空軍や砲兵隊が機能している内に来たのが不幸中の幸いで、ストーム1の誘導指示により大群は吹き飛ばせたのだ。
余物はゴッデスを筆頭としたワイら歩兵で各個撃破して片付けられる程に済む。
合間の訓練も生き残る糧になった。
コンバットフレームの正規パイロットが怪我で動けない日は、予備パイロットとしてニケが乗り込んで迎撃したし、フェンサーの高機動を真似たニケが通常より戦果を上げた事もある。
短期間である程度戦える様になったのは、単に優秀だったという以外にも、ストーム1や仲間達がいたお陰であろう。
畑を耕し始める者も現れた。
昨日今日で育つ物でも無し、素人であったが、生存者皆で知恵を出し合って色々やり始めたのだ。
それは生きる為、生きているのを実感する為だった。 ニケは身体が機械とはいえ、思考転換を防ぐ為に食事を摂るように、生きていられるからとジッとしていては駄目だとした思考故の行動であった。
後は正史と似た道のり。
ゴッデスメンバーらは鹿を狩り、ピナちゃんは捌き方を教えてあげて。 紅蓮は畑を耕す様になった。
違うのはドロシーが漆喰みたいなパーフェクトを調理する事なく、給養員が料理をやって飲み食い出来るモノを作ってくれる様になった事。
その調理過程に、スノホワが無表情で涎の滝を流しているのも日常と化した。
そうした、戦場の束の間の休息。
けれど。
運命の日は変わらずやって来る。
遂にその日が来た時、ゴッデスとストーム1、ワイとピナちゃんは1ヶ所に集まった。
オスワルドの通信を100年振りに聞く為に。
歴史は変わるのか。 それとも……。
ゴオオオオオ───
その日、地軸を揺らす様な轟音と共に。
アークの封鎖は終わった。
ひとつの戦いが終わった───
「……終わりましたね」
「お疲れ様でした」
ドロシーらゴッデスが息を吐き、ピナちゃんが労いの言葉を掛けた。 けれど「本番」を想えば、肩の荷は重くなる。
『現時刻をもって、アークの封鎖が完了しました。 ゴッデス部隊と皆様に改めて感謝申し上げます』
「お疲れ様でした。 では私達も移動しましょう。 何処に行けば良いですか?」
『皆さんの功績を称え、アークには巨大な勝利の女神像が建てられるでしょう。 そして皆さんを神格化した書籍や広告を作り、アーク内で積極的に展開していく予定です。 みんながゴッデス部隊を崇めるでしょう』
指示もなく、淡々とアークにおけるゴッデスの扱いのみを語るオスワルド。
それに察し始めたドロシー。 目から光が消え、怒りの感情が湧き上がる。
ワイらとストーム1が捨て駒にされるのを予め伝えていたが、やはり実際に受けるダメージは計り知れない。
結局、歴史通りになるって事。
変えられない。 戦局的にも。
「……………………………あなた、お名前は?」
『事情により、名前は言えません』
「名前」
圧のある口調に折れて、奴は名乗る。
『……オスワルドです』
ストーム1は伝えなかったんやなって。
そんな本人は黙って会話を聞くのみだ。
たぶん、内容を敢えて聞いている。
過去から生まれる今と未来を変える改善点を模索しているのだろうな。
「そうですか。 オスワルド。 ひとつ、約束して差し上げましょう。 あなたを、それが無理ならあなたの家族、子孫を。 この世で最も苦しい方法で殺してあげます」
『恐ろしい事を言いますね』
それだけドロシーが怒り心頭って事よ。
他の者も内心そうである。
それ故もあって、感情に任せるドロシーを止める者はいない。 ワイは単純に怖くて出来ないチキンであります。
「最初から私達を受け入れるつもりは無かったのですね?」
『はい。 言葉通り、封鎖ですから』
「私達を失うのは、アークとしても大きな損害だと思いますが」
『科学は発展するものです。 既に第3世代ボディの開発が最終段階に突入しています』
「私達に蓄積されたデータは、スペックの差を簡単に越えられます」
『それもまた、少し経てば旧式のデータとなるでしょう』
もう使う理由が無いのでヤリ捨てます発言に冷静さを取り戻し、交渉を諦めて願望をぶつけ始めるドロシー。
「オスワルド」
『どうぞ』
「ドアを開けて下さい」
『開けられません。 開けたいのは山々ですが、できません』
「開けて下さい」
『できません』
「開けて下さい。 開けなさい!!」
強い口調は、どこか悲壮感漂った。
見ているのもツライさん。 予想はしていたし、100年前にも見た光景だが、気分の良いモノではない。
「今すぐドアを開けなければ、入口を壊しますよ! そうすれば貴方達はお終いです!」
『できません。 あなたには』
「いいえ! できます! だから開けて下さい!」
『貴方達は高貴な存在です。 自分達の為に多くの人々を危険に晒す様な事はしません。 いや、正確には出来ません。 そういう方たちなのです、皆さんは』
NIMPHによる行動制限か。
或いは信仰心故の発言か。
「1つ聞こう」
そんな中、スノーホワイトが質問する。
オスワルドは拒否する事もなく、遺言を聞く様な声色で促した。
『どうぞ』
「貴方の独断なのか、皆の判断なのか」
『皆の判断です』
「……分かった」
スノホワは怒るでもなく、ただ受け入れる。
内心はグチャグチャだろうに。 皆もよく感情を殺す事が出来ると思う。
『これで通信を切ります』
「待って! 待って下さい……ッ!」
───ピッ。
ドロシーの悲痛な叫びも虚しく、通信は切れた。
『通信が終了しまシタ』
「もう1度繋いで!」
『回線が閉ざされまシタ。 接続できまセン』
「……!! そん……な……」
絶望に崩れる彼女。
スノホワは冷静を装いながら、声をかけた。
「ドロシー様。 ひとまず休みましょう」
「……ッ、はい……」
ピナちゃんがドロシーに寄り添って、部屋から退室。 その背を追う様に皆は解散し、部屋で休み始める事にした。
嗚呼。
結局こうなるのかい。
既に経験済みなのでショックは少ないが、ストーム1もいるのにこの仕打ちは酷い。
またも100年もの歳月を過ごさねばならないんじゃと考えるとツライさんである。
「予想通り、いや記憶通りか?」
ストーム1と2人きりになって、尋ねられた。
「はい」
そう答えるしかない。
「ドロシーの様子を見るに、俺達の言葉に半信半疑のままだったな。 いざ現実を突きつけられて、ようやく受け入れるしかなかった」
「その様で。 でもピナちゃんや他のメンバーがケアしてくれるから心配していません。 それより今後について考えないと」
淡々と話すワイ。
我ながら酷い奴だと思う。
変わらぬ光景は昔みた映画のワンシーンみたいに映ってしまうのだ。 それで感想も同じく「ああこのシーンね」程度になって感情が大きく揺れなくなる。
タイムリープってのは人の心をこうも簡単に蝕むものか。 せめて違うオチなら「おっ」となったものを。
「そうだな」
ストーム1は咎めるでもなく、同意してくれる。
相変わらず彼は優しいままだ。
それに対しても、いつか飽きてしまうのだろうか。 そう思うと怖くなってしまう。
「どうした?」
「あ、いえ……前の記憶を掘り返してました」
「そうか。 前に話してくれた通りなら、ゴッデスは解散。 クイーン討伐を目的にしつつも、それぞれの生き方をするのだったな」
「はい。 でもドロシーは……」
「エデンに所属。 そしてアークを恨み、ゴッデスとは袂を分つ」
「歴史通りなら」
「案ずるな。 ここまで来たら大凡同じ様に事は進む。 経験者は語るものだ」
「頼もしい様な、悲しい様な」
「そう言うな」
そう、彼は変わらずワイの頭を撫で回す。
コンコンと胸が温かくなって、寂しさが紛れた気がした。
「それでも違う点はあるか?」
「あ、はい。 ここまで多くの生存者は存在しませんでしたから。 あと、その……」
「どうした」
「あ、あなたも……」
「ふっ、そうだったな。 君が来なければ俺は会う事なく焼かれていた。 礼を言う、ありがとう」
顔が熱い。
たった一言すら、胸が熱く締め付けられる。
最初は名声に嫉妬して欺瞞の英雄だと軽蔑したのに、今じゃ認めてしまっている自分を恥じているから。
そんな彼を間接的にも助けられた。
それは誇りだ。 間違いない。
うん。 そういう事にしておく。 決して思考転換してメス堕ち侵食を受けた訳じゃ無い。
「……生き延びた士官にコトを話す。 その後は最寄りのベースに移動。 251にリングがあるかどうか調べよう」
「あ、あなたと同じ事を考えてました!」
ワイはナニを口走っているんや!?
そうするのが吉ってだけだって!
「流石だな」
「うっす!」
……生き延びた兵士達が彼に従うと良いが。
いや大丈夫だ。 こういうオチは想定出来る大人だから。 ただ口にしなかっただけで。
それにストーム1がいる。 彼になら皆がついて行く筈だ。 そうした魅力が彼にある。
それに彼の言う通り、調べ物がある。
銃を振り回すだけに刻を翔けた訳じゃない。
「リングがあって元の時代に戻れるなら、1度戻って状況の変化を確認したいな」
バタフライ効果がマジであるなら、な。
改善した件もあるかも。 マリアン含めて。
裏切られた。
アークに。 人類に。
命を捧げて守り抜いた人類に。
すぐそこに、足元に楽園があるのに。
入りさえすれば今までの苦しみ全てが報われる楽園が、そこにあるのに。
入れない。 入れてくれない。
私たちは地上に捨てられた。
幻想だった。
信じて救われたのは足元だけだった。
荒廃した世界に置き去りにされたのだ。
ピナとツライの言う通りになってしまった。
ここまで多くの戦友を失った。
ニケを。 隊員を。 市民を。
レッドフード……リリーバイス。
それでも無駄死にではないとしたい。
人類を確かに守った。 守ったのだから。
今は、それだけで十分。
私はゴッデス。
勝利の女神。 人類の希望。
その誇りを胸に植え付けてくれたのは。
絶対消えないよう奮い立たせてくれたのは。
この状況でも雄々しく生きる者たち。
ツライとピナ、ストーム1らEDFだ。
だからこそ応えねばならない。
応え続けねばならない。 命の限り。
「私達はゴッデス……ッ! 人類の希望ッ!」
涙を拭い、誇りを叫ぶ。
顔をぐしゃぐしゃにして、みっともなくも。
静かに、私の翼は包んでくれた。
温かな報酬に、私はわんわんと泣いた。
更新常に未定