脳みそ抜かれて女の子になって人類守るんだよ!   作:ハヤモ

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前回のあらすじ
over zone終

今回のあらすじ
酒を交わす老兵

over zoneの後
ツライさん達に何があったのか
アークからニケが上がってくるようになり、貧困街のアウターリムが出来たり、地上奪還作戦が行われ新星指揮官がエデンに流れる訳ですが、今のところ分からんのです
情報に様々な不備があると思いますが、温かな目で見てくれると幸いです

先ずは2度目のチュートリアル目指しつつ
地上のEDFやニケがどうなったかの描写回
長々移動や雑談回だと2周目行けないけども


合間の日常
37.斟酌


EDFの駐屯基地は、地上の者達の為に重厚な門戸を開けている。 一時逗留、応急手当、装備や物資の提供、逃れてきたニケや人々の受け入れ。

そして地上奪還という果て無き目標を夢見て、気狂いな狂喜共を相手取る。 それこそ気狂いな狩人だと唾棄して仕方ないが、よくもまぁよくも、人類が敗北した劣悪環境で1世紀続く予定だと云うから凄まじい。

それは此処、251も同様であった。 こう指折り数えてみれば忙しないが、地上という場所柄は中々に辺鄙だ。

最早地上は人類の味方ではなく、2時間以内にラプチャーと遭遇する。 それが雑魚か大物か、相対した人やニケが新兵か民間人かは分からぬが、そのまま死ぬか、命を拾って精々引き返す。 熟練兵ともなれば到達は容易かろうが、任務だ飯だと死に急ぐ。

言ってしまえば、物資に喘ぐ避難所に籠リングするのは難しいのだ。 それに基地内にもラプチャーが侵入する事があるから優雅に寛げない。

それでも物好きが集って、ズケズケと酒を煽り合ってはくすねてく。

こんな世の中になっても、人間性を保持している点は評価に値すると言って良い。

 

さても戦場にて剣客、此処にて酒客(ただし弱い)だと通された者は、小さな部屋に辿り着いた。 色気のない空間には、ロッカーに簡易な折り畳み長机、パイプ椅子、棚には弾薬箱や小銃、無線機が乱雑に鎮座している。

壁の衣装掛けには、緑迷彩の軍服に並んで、見慣れた笠が揺れていた。

紅蓮の笠。 白く大きく、とても目立つ。

 

 

「変わらないな」

「そういう君は変わるのだな」

 

 

ストーム1に投げる言葉は、何処か切ない。

紅蓮は勝手知ったる部屋の中、早々指定席に腰を落ち着けた。 するとツライとピナが奥から現れて、手に持つ酒瓶や肴を卓面に並べ、所狭しと置かれていく。 手慣れたものだ。

卓上から灼灼と誘って唆るが、そのどれもが基地の手作りで、狩った鹿の燻製やら魚の干物やら山菜、そして濁酒。 地上の何処か、或いはアークに上等な酒と肴が転がっていそうなものだが、生憎と今は無い。 だが手元は云うほど悪酒でもない。

 

 

「おぉ、ピナとツライは変わらんなぁ」

「紅蓮様もお変わりなく」

「相も変わらずですね」

「そういうものだ」

 

 

孫に逢えた祖父母の様に喜ぶも、意味するところを承知すると、やや重い。

それはニケと人間を隔てる1つの壁だった。

その気配を濃くした詫びか、紅蓮は話題を逸らし、図々しくも願い出る。

 

 

「そうだツライ、肴とは別に料理を出せぬか。 前にスノーホワイトから聞いたんだが、料理を覚えたそうだな?」

「はい。 戦闘以外でもお役に立てればと」

「殊勝な心掛けだ。 で、何か出来るか?」

「では……おから、不切(きらず)がありますので。 軽食兼酒客用しめご飯に雪花菜飯(きらずめし)を出しますね。 昆布や梅干しで煮出した汁かけ飯であります」

「ほぅ。 では頼んだぞ」

 

 

剣客で酒客な紅蓮に掛けた名を出すとした。

茶を濁してどうこうないが、今は良かった。

剣を置き杯で汲む。 そう刻む場であるから。

 

 

「勿論、ストーム1のも」

 

 

そう云い、ツライは引っ込んだ。

ピナは一礼すると、共に闇へ溶けていく。

さもひと時の逢瀬を邪魔しないようにと。 して従者の望み通り、残るは対面し合う男女、老兵2人となる。

 

 

「息災かね」

 

 

紅蓮、何度目かの軽い挨拶で切り出した。

見当外れなのは承知だった。

彼女が何を案じて、酒を1滴も呑まず内から憂いているのも。

 

 

「そっちも変わりないか」

「見ての通りさ」

「なら良い」

 

 

皮切りに互いの杯を汲んでやれば、濃く癖のある酒精を流し込む。

辛味と肴が絡まり、喉を焼くには足らぬも、情を熱するには十二分な鼻を抜ける香りに、ほぅと思わず息を吐く。

2つ、3つと互いの吐息が肴の上で交われって、卓上の肴をつつき、漸く言の葉が交わった。

 

 

「……こうして肩を並べて座り、たわいもなく杯を交わすのは楽しいものだ」

「そうだな。 だからと呑み過ぎるなよ紅蓮。 酒が好きな割に弱いからな」

「なんの。 呑み続けていれば強くなるさ」

「俺は弱った」

「ならばその分、私が呑もう」

「イケる口に後を託そう。 だが酔い潰れたら、何処ぞの男と同衾する羽目になるぞ?」

「おや。 一段と積極的じゃないか」

 

 

陽気な割に互いに暗く、杯を見る。

濁る酒は照り返す癖に、酒客を映さない。

 

 

「上機嫌だな」

 

 

微笑み尋ねるストーム1。

本心を覗き合う様に、今度こそ見合った。

老いを感じさせぬ眼光が交差し、先に逸らしたのは意外にも紅蓮の方であった。

彼の、ストーム1の手は皺枯れて、かつての覇気が無い。 対して己はどうだと。 ニケの、機械の体は老いを知らず張りがある。 精巧に作られたものが張り付いている。 美しく、滑らかな肌。 あの日と変わらない。 堪らず酒に逃げて行く。 刻を共有出来ない苦痛が此処にある。

 

 

「……気も知れず、皆して抜け抜けと」

 

 

やがて、遣る瀬無い想いを吐露する紅蓮。

酒が回り、気の知れた友の前。

今更に恥も見聞もなく、彼女らしからぬ感情を面に出して項垂れる。

 

 

「基地に赴く度、変わる顔触れに想う。 兵共は未来を赤子とニケに押し付けて、己は桁並み何処ぞへと逝くのだ。 あぁそうとも。 機嫌上々、気分も昂る。 私らは置いてかれる側さ。 お主もそうだろう?」

 

 

呑みの席の愚痴。 嘆き。 他所では底抜けの笑顔で呷るというのに、彼の前では鬱憤を晴らす様に語るのだ。

対する彼は嫌顔1つ見せず、無数の死線を超えた年長者の余裕をまざまざ見せる。 背も視線も曲がらず、ただただ愚直に真直ぐに。 堂々の姿勢に恥じらいすら覚えて、視線を肴に泳がせながら、何とも無い風を装う。

 

 

「昔からそういうものだ。 戦争があろうとなかろうと、死ぬ時は死ぬ。 そこにニケと人の隔たりは無いと思うがね」

「ああ、精一杯生きて、死ぬべき時に死ぬとも」

 

 

死ぬべき時。 果たしていつか。

この荒廃世界、碌な死に方が叶うなどと夢物語。 想像を絶する惨たらしい末路が、この世には満ち溢れている。

 

 

「……ドロシー達は元気なのか?」

 

 

死の匂いに呑まれる前に話題を誘導し、促す彼。 紅蓮は好き嫌いする事なく、素直に応えた。

 

 

「ああ、ピンピンしておるよ」

 

 

ここで死んだ、などと最悪な結果を聞かずして良かったと遅れて胸を撫で下ろす。 未来でも生き続ける名だたるニケが、早々くたばるとも思えないが、歴史は絶対では無い。

 

 

「エデンのインヘルトとかいう部隊に所属する予定らしいが、変わらず1ヶ月に1度の集会には顔を出しておる」

「寛容な職場だ。 ならゴッデスは健在だな」

「うむ。 混乱を避ける為、対外的にはパイオニアと名乗っておるがね」

「そうか。 元気なら良い」

 

 

歴史の修正力は悪い方向ばかりでは無い。

正史だとドロシーが合流しないのを理由に、女神ではなく巡礼者と名乗っていたが、この世界線では別の理由で名乗っていたのだった。

それを確認するや、安堵と共に酒を呷る。

釣られて紅蓮も呷った。

気分を害するばかりが人生でも無い。

かといって、良い事ばかりでもない。 生存者が多い分、物資は正史より必要で、戦う以前に生きる為の問題が山積みだ。

 

 

「アークからの支援は届いているかい?」

 

 

今度は紅蓮が意表返しに聞き返す。

彼に悪意は無いのは存じているが、それでも一方的な回答は癪だった。

 

 

「喘ぐ通りだ」

 

 

珍しく呷り散らした。

酒気があるも、見るものによっては人間アピールにしか見えないが。

 

 

「輜重部隊がラプチャーに襲われる度に泣く泣く物資を放棄、補給線の再構築を繰り返している。 人員補充要請を送っても中々返事がない。 やっと来たと思えば、左遷された者や市民権を剥奪された者、旧式化したニケ。 そのままじゃ駄目だと再教育。 訓練教官の苦労をこの歳で味わうとは思わなかった」

「それでも支援があるのは良い事さ。 何事も前向きに考えるべきだよ」

「そうだな。 紅蓮もな」

 

 

正史には無かったアークからの支援。 ストーム1という絶対存在が関係しているのは云うに及ばない。

異能生存体、狂喜を超越した化物。 随伴する女神達。 その弟子達が地上を跋扈しているのだ。 その気になれば楽園がインフェルノになる。 恐怖でしかない。 故に楽園は顔色を伺いながら、最低限は支援しますよアピールで機嫌を取っていた。 正史では管理AIエニックがトーカティブと取引していただけに皮肉である。

 

最初こそ時間が経てば勝手にいなくなると踏んでいた中央政府だが、そう都合の良い恐怖では無い。

死神の偶像は地上に君臨、立ち続けているときた。 人間である以上、そう長くないが、ツライやピナ、ゴッデス部隊の様に意志を継いだ者達が大勢いる。 そんな彼等と地上に上がってきたニケが邂逅したり、無線使用による伝播がアークにまで入り込み、市民にも知れるところまできた。 現場だけなら始末出来るも、市民にまで噂が広がっては情報統制は困難だった。 中央政府の庇護よりEDFに救いを求め、求心力は増えていく。

 

アークのEDF総司令部としては、お陰で中央政府がデカい顔を出来ずにいて助かっている。 正史では中央政府の広報や責任転換で嵌められて尻に敷かれ、顎で使われたり罪を押し付けられていたが、これでだいぶ動き易くなった。 少なくとも会議室で意見が無視される事は減った。 インフラに関わる3大企業を加えた政財界へのパイプも維持、下手に攻撃出来ない存在地位を確立する。

 

この様にして組織によっては恐れられ、ありがたられ、良くも悪くもな崇拝対象であり続けたのである。

 

が、本人は「そんなの知るかボケ」だった。

現場の苦労は歳取っても絶えず続くのだ。

嗚呼、おいたわしやストーム1。 大戦を生き延び、相棒を失い、尚も戦い続けているとは。 それも基地運営面でも苦労している。

そんな今、彼は曹長を思い出す。 あの血の気の多い鬼教官の苦労は知れなかったが、よもやこうであるかと。

 

 

「日々工夫して生きる。 人材含めて」

「だからかね。 鉄騎が荷台載せなのは」

 

 

ここでいう鉄騎とは、コンバットフレームの事である。 既に荒廃仕様らしい。

 

 

「そう、恥を忍んで燃費重視。 歩行システムの開発者が泣く光景だ」

「くくっ、工夫した生き方、素晴らしいぞ」

「笑っとけ。 その方が可愛い」

「……君も恥じぬ男だなぁ」

 

 

顔を赤らめているのは、きっと酒の所為だ。

そんな彼女のは既に乾杯で、酒で磨かれた底が めんこい顔を映し出す。 より熱くなったのも、酒精が回ったお陰だろう。 そういう事にしておく。

 

 

「紅蓮様、お食事が出来ました」

 

 

そこにタイミング良く配膳するは、ツライとピナ。 お椀には雪花菜飯。 茶漬のようで、少し違うか。 通常きらず飯とは貧しい飯をさすらしいが、この場においても、ツライとピナの腕的にも最も上等に見える。

ツライがストーム1に、ピナが紅蓮の前に出す。 しめとして頂く頃合いか。

 

 

「おお、美味そうだ。 ありがとう2人とも」

「俺からも礼を言う。 いつもありがとう」

「はい、紅蓮様!」

「こちらこそ、どうもっす」

 

 

ツライとピナは会釈して、再び下がった。

紅蓮ほどではないが、ツライもまた、頬を朱色に染めていた様に見える。 ピナの笑顔の陰に隠れていたが、誰の目にも明らかだったから可愛らしい。

 

 

「……私は行く先々で畑を耕しておる。 剣ばかり握ってきた人生にクワが加わったのだ」

「そのようだな」

「だからと剣を置く気になれん。 身体の一部になる程に大切な物だからな」

 

 

紅蓮は杯を休め、箸と目の先を細める。

視線の先は湯気立つ食事。 かき込めば終わる優しい食事を、ゆっくり味わいたかった。 けれど終わる。 何事もそうだ。 感傷に浸る間も、冷めるのは一瞬だ。 過去に囚われるのも、一瞬だ。 瞼の奥で瞳が揺れる。 恋焦がれた、昔日を見る目。

 

 

「……だがお主は、捨て置くのだろう?」

「それは俺の台詞だと思ったが」

「お前さん、どれだけ女を泣かせてきた?」

「妙な事を聞く」

 

 

ふと、視線が交わる。 責めるような、縋るような切ない瞳。 彼が笑みで返せば、女の視線は椀へと逃れる。 貴様なんぞ知らぬ。 そう素気なく振ってやる。

 

 

「気楽な世捨て人のつもりでも、いざ直面すると辛いものだ。 もう失う物なんて無いと思えば、行く先々で数えさせられる。 儘ならないじゃないか。 隊員にニケ、姉に指揮官に……リリスにレッドフード。 瞼の裏に蘇る数々。 いつだって邪魔するのは儚く、脆い己だ。 酒を呑んで剣を奮い、辛い過去ごと敵を斬って漸くだ」

「情けを捨て、辻斬にでもなるつもりか」

「まさか。 そこまで拗ねていないよ」

 

 

まぁ、でもと。 お椀を浚い、顔をあげ。

 

 

「ラプチャー共を斬り捨てるだけさ」

「是非そうしてくれ」

 

 

酒瓶を持ち上げ、杯で応える。

酒を注ぎ合い、軽くぶつけた。 慰めの鐘が寂れた部屋に木霊する。

 

 

「愚痴なら何時でも聞いてやる」

「おや、嘘は聞きたくないぞ?」

「言った覚えは無いんだがな」

「卑しい奴め」

 

 

なみなみの酒を呑み干す紅蓮。

そうして卓上に身を垂れた。 手の甲に唇を付けて、余りの肴を潤んだ瞳で眺めてる。 咎める者は、この場にいやしない。

 

 

「守れまい。 私もそうだ」

 

 

冷たい言葉が空を切る。

卓上から据わった目が彼を見上げる。 より人工的な視線が偶像を逸らす事なく見つめている。

彼は静かに酒を飲み干し、彼女の髪を撫でる。

子をあやす様に。 心地良く微睡に誘う。

 

 

「ツライとピナに、美味かったと伝えてくれ」

「相分かった」

 

 

この幸せが続けば良いのに。

刻が止まれば、平等になれば良いのに。

 

紅蓮は人知れず、想った。




歴史改変点
生存者多数→末裔が多い、戦力が少し高い
給養員や技術者、戦闘技能が継承されている
AIエニック、継戦されるゲリラ戦を評価
トーカティブとの交渉決裂か
マリアン、生贄回避の流れへ

他のゴッデスメンバーとも絡めたらなぁと。
でも更新常に未定
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