3.墜落
「爆発!?」「ッ!?」
作戦領域の市街跡地に侵入した刹那、VTOL輸送機ノーブルBA-01は、突如として空中で爆発。
より正確には機体下部に抱えている切り離し式のコンテナが。 内部圧力で破裂するように横穴が空き、破片と火炎が空に撒き散らされる。 その衝撃は機体全体を揺るがした。
喧しく警報が鳴り響き、変なエンジン音が聞こえてくる。
「対空砲火か!?」
「違う! コンテナの爆弾が暴発した!」
慌てて操縦桿を握るパイロット。
答え合わせする様に、カーゴファイヤの警告灯が点灯。 大きく揺れるコックピット。 景色が早送りとなって流れ、方向感覚が狂いそうになる。
対して後部座席に座るニケ……マリアンは妙に冷静に、けれど隣の新米指揮官を庇う様に覆い被さった。
「ッ! BA-01墜落する!」
「コンテナを放棄する。 文句言うなよ!」
副操縦士は機体コントロールを失う中、考えるより先に一方通信、コンテナを切り離す。
作戦で使用予定の物資が積まれていたが、緊急事態だ。 地下暮らしで資源が限られるアークでは様々なモノは貴重な物資であり、それを浪費したとあっては下手すると処罰対象になりうる。 だが爆発した以上、中身はズタズタで使い物にならないだろう。
悩む必要は無い。 機体を軽くする方が先決だ。
「コンテナ投棄!」
ガコン、と切り離されたコンテナ。
車が軽く1台入りそうな大きさのソレは、暫く自由落下をして……次の瞬間、再度爆発。 空中で四散した。
それを見届ける暇も疑問に思う暇もなく、パイロットは歯を食いしばって機体制御に神経を尖らせる。
「制御効きません! 予告なしの緊急着陸を行います! 座標送ります!」
「予備電源起動、エンジンを垂直方向へ!」
「機首を上げて! 高度を稼いで!」
「フルスロットル! 全力で吹かせ!」
スロットルレバー全開。 油圧低下を起こし高度を下げる機体を必死に整える。
操縦桿を倒して、なんとか軟着陸出来そうな大通りを見つけると、そちらへ機体を傾けた。
「墜落する! 掴まれッ!」
機首を持ち上げ、胴体着陸。 大通りを轟音を立て滑り往く。
大通りとはいえ、人類が地上を放棄して整備されてない道だ。 廃車や標識、瓦礫にぶつかって減速しながらギアは折れ、キャノピーは割れ、翼が曲がり、ようやっと止まった。
「……BA-01ダウン! BA-01ダウン……くそっ、アークが応答しない。 無線までイカれたか……」
「え、エンジンを切れ……」
「……了解」
「敵が、ラプチャーが来る。 備えろ……!」
安堵する間も無く、行動する面々。
更なる爆発炎上の火種を消し、護身用のPA-11自動小銃を抱き寄せた。 地上でのラプチャー遭遇率は100%だ。 小さな音でも寄ってくる。 爆音ともなれば必然だ。 周囲のラプチャーが押し寄せているのは間違いない。
というかそうだった。 隊員らが着用しているサングラス・ディスプレイの右上に小さく投影されている歩兵用レーダーは、既に敵影を多数捕捉。 距離を詰めている。
「ルーキーとマリアンは無事か?」
「はい。 なんとか」「"ああ、無事だ"」
「よし。 ここからが本番だ。 頼むぞ」
どうやら除細動器、AEDは必要ないらしい。
正史では指揮官は心肺停止、開幕AEDという刺激的な目覚めだった。
健康体ならば、次にやるべきは決まってる。
ニケ……マリアンは機関銃を両手で保持。
「了解。 マリアン、戦闘状態に移行します。 指揮官、お辛いでしょうが、私達を指揮して下さい。 できますか?」
「"なんとか やってみる"」
「士官学校出たての坊ちゃん、頼んだぜ」
「10秒後に接触。 輸送機から脱出し、ポジションを確保。 戦闘中は危険ですので頭を絶対に上げないで下さい」
扉が変形して開かないので、割れたキャノピーから脱出。 中途半端に残った破片を機長が銃床で弾き飛ばすと、皆揃って芋虫のように這い出てはボトボトと地面に接地。
痛む体を起こし、レーダーを参考に迎え撃ち易いカバーポイントに移動。 瓦礫の背後に隠れた。
落ち着くと、今のうちだとマリアンと指揮官は隊員に礼を言った。
「……パイロットの尽力の お陰で、何とか被害軽微で済みました。 感謝します。 そしてニケと共に戦列を組んでくれる事も」
「同じく。 帰ったら奢らせて欲しい」
「礼ならアークで聞く」
「ニケかなんて、関係ない。 共に頑張ろう」
機長らが笑顔で返答するや、前方より閃光。
無数の銃弾が掠め、瓦礫を削り始めた。
「エンカウンター!」
「来やがった。 いくぞ!」
「指揮官は頭を上げるな。 だが戦場を俯瞰して見るんだ。 冷静に戦局を見極める観察眼が必要だ。 難しいけど、勉強だと思って頑張って!」
「わかった」
マリアンが機関銃を構え、射程圏内の敵を薙ぎ倒し始める。 隙間を埋める様に機長らもフルオート射撃で牽制。
「EDF製、3桁マグの弾幕を喰らえ!」
「人間を、EDF歩兵を舐めるなよ!」
喧しくも勇ましく、銃撃を喰らわす隊員ら。
幾つかは怯み、幾つかは破壊された。
小口径弾は効果が薄いが、仮にもEDF製だ。 ラプチャーの装甲をへこまし、近距離ともなれば空気抵抗で威力が減衰していない。 そうなると、いよいよ抜けていった。
若き指揮官は、その様子を見て状況を掴んだのか、不慣れに声をあげて指示を出していく。
「"距離に気を付けろ! 弾幕絶やすな!"」
「まぁそんなもんだな」
「精神論ばかり教える最近の士官学校の出にしては、断然良いと思う」
小刻みに揺れる尻や太ももを堪能する暇もなく、野郎共は抵抗。 先ずは押し寄せたラプチャーを殲滅してみせた。
「クリア! マリアン、非戦闘状態に移行します」
「先ずは生き延びたか……輸送機は鉄屑になったし、アークは応答しない。 こうなったら、ランデブーポイントまで行って友軍と合流するしかないな」
「"大丈夫なのか?"」
「寧ろそうする事を推奨します。 作戦遂行の側面もありますが、ラプチャーが跋扈する地上で生き残るのは並大抵ではありません。 集まった方が火力が上がりますし、友軍が迎えの輸送機を呼べれば共に搭乗して帰還出来ます」
マリアンが説明すると、同意する隊員ら。
「そういうものだ。 さぁ行くぞ。 同じ場所に留まるのは危険だ」
「ランデブーポイントまでもう少し……ッ」
「"足を怪我したのか"」
「怪我というか、故障でしょうか」
ここで蹌踉けるマリアン。
心配した指揮官は、懐から包帯を取り出すと、故障箇所となる足に巻いてあげた。
「あの、指揮官。 気持ちは有難いのですが、ニケに包帯しても意味が……」
「今回の指揮官は、優しいじゃないか」
隊員らが気持ちを汲んだことで、マリアンも同調して……いや、本心から礼を述べる。
「ッ、そうですね。 もう良くなりました。 ありがとうございます。 さぁ、もう少しで合流地点です。 頑張りましょう!」
元気になったマリアンに続くように、EDF歩兵隊は往く。
既に歴史は変わりつつあるのか。
そうでないのか。
判断には、まだ早い。
歴史改変点
指揮官心肺停止→なし。 意識あり
+人間のパイロット×2
更新未定