おじさん、ポケモンの事なら何でもするんですよね? 作:石転法師
そして本編のヒロイン回
「お返しだよ! ノンちゃん、10まんボルト!」
クワガノンが蓄えていた強烈な雷撃が相手を貫く!
水タイプにテラスタルしていたケケンカニが耐えられるはずもなく、ハイダイ最後の一体も力尽きるのだった。
「……いやぁ、お見事! 流石はなんでも屋君の教え子だい! 戦い方も一味違うねえ!」
パン、パン!
戦い終わったハイダイが、料理人らしい使い込まれた手で大きな拍手を送った。
「恐縮です。私は何もしちゃいませんがね」
「そんなことないですよ~。覚えさせてる技もだいたいおじさん案なんですから!」
「おま、バラすなって言っただろ……」
「ほほう、そりゃ随分と可愛がってるもんで。良きかな良きかな!」
騙し絵みたいにひょうきんなハイダイの顔に、にっこりと大きな笑顔が浮かぶ。そのまま対戦相手、うちの半人前バイトのヒメカにバッジを手渡した。
本日訪れているのはカラフシティ、そして目の前に居るのは水タイプのジムリーダー、ハイダイ。
何をしに来たかは言うまでもなく、ヒメカのジム修行に付き合っていたのである。
もっとも、ニャローテにクワガノンに特性がちょすいのドオー。この3匹を持つヒメカにとって、そこまで苦戦する相手ではなかった。
前回、ハッコウシティのナンジャモにはだいぶ苦労させられたが、あれはいろいろとおかしかっただけである。ぶっちゃけジムリーダー剥奪しても良いくらいだ。
ヒメカのバッジもこれで4つ目。次はこいつと出会うきっかけになったチャンプルタウンのアオキとの勝負になるだろう。また、面倒な依頼が飛び出して来なければいいのだが。
「これからどうします? せっかくだからハイダイさんのお店でお祝いしましょっか!」
「そりゃ、飯は食うけどな。これからも勝つ度に祝勝会開くつもりか……」
「お、来るかい? オイラに勝った特典で、ちょっと割引しちゃおうかなあ!」
「行くか。ハイダイさんの料理は絶品だからな」
「イェ~イ! 流石、おじさんは話がわかるー!」
ハイダイ倶楽部の中華料理はまさに五つ星。普段はちょっと尻込みするお高いメニューも多いのだが、割引と聞いて黙っていられるほど俺は育ちが良くないのであった。
『ナカナカ……』
『ヤバー!』
と、ヒメカのナカヌチャンと俺のヤバソチャも叫ぶほど、ハイダイの料理はなかなかにヤバい物だった。一言で表せば味の暴力、一口含むだけで華やかな香りと旨味が体内を埋め尽くす。しかもこれが今日に限ってお得に食べられるのだ。
ほぼ後方で腕組み師匠面していただけでこれを堪能できるのだから、この時ばかりはこいつを指導していて良かったとちょっとだけ思えた。
「……そういえば、料理コンテストももうすぐなんですよね」
それはそれとして、ヒメカが気になったのは店内の目立つ所に貼られたポスターだった。
「ああ、ここは町興しイベントに力を入れてるからなあ。カラフと言えばやっぱり飯なんだろ」
この町発展の功労者こそジムリーダーのハイダイなのだ。だから自然とそういう題目になるというか、主催側に彼も居るのだろう。
「優勝賞金は100万円! 金の玉200個分ですよ、おじさん」
「金の玉で換算するな。でかい金の玉投げつけるぞ」
以前俺が金の玉を2000個集めさせられたエピソードがよっぽどハマったらしく、こいつは事あるごとに金額を金の玉何個分かで数えるようになっていた。ここだけで何回キンキンタマタマ言わせる気だバカ野郎。
「おじさん、料理ってします?」
「……鍋なら」
「材料を煮るだけですね、と。まあ私も得意かって聞かれたらあんまり……」
ここで優勝して賞金狙うぞなんて言えるもんなら、なんでも屋じゃなくて料理人をやっている。だから参加しようとは能天気のヒメカでも言わない。
「私たちも審査員で食べられたりするのかなあ」
「どうだかな。やっぱりちゃんと判定するならプロの舌だろうし」
プロが唸る料理ならコンテスト優勝で文句はないだろう。ただ、味で一番の料理屋が必ず流行るわけでもないのが商売の難しさだ。大衆が審査員となるとまた結果が違ってくるかもしれない。
「そうそう、それだい」
話の最中に、次の料理を運んできたハイダイが話に加わった。
「やっぱり盛り上がりを考えると一般審査員も増やしたいんだが、そうなると参加者の負担が増えるもんで」
「あー、その分作らなきゃいけないですもんね」
大量の料理を作り慣れているのなんて料理のプロに決まっている。これはアマチュアコンテストなのだ。
「そうそう、参加を尻込みされちゃあ堪らんのよ。だから皆が食べられるのは優勝者のだけって事になってるんで、そこは申し訳ない」
「いえいえ、一番美味しいのを食べられるだけで十分ですよ~」
もしやこの女、既に観戦するのは確定事項なのだろうか。別にそれ自体は構わないのだが。
「おう! 今回は参加者も気合入りまくってるようだから楽しみにしててくんな!」
優勝者の栄光に加えて100万円。これでやる気にならないとしたら毎日小遣いで50万円くらい貰ってるボンボンくらいのものだろう。俺だって自信があったら絶対に参加していると思う。
ハイダイが運んできた次の料理を口に運ぶ。強烈な美味の感覚が口の中で暴れ回る。こんな凄い料理を作れる料理人を唸らせる素人なんて、果たして居るのだろうか。
「あの、すんません」
「……んー? どうしたの?」
食べ終えて、店を出て、後は幸せ気分で帰るだけ。それだけだった俺達を呼び止めたのは、視界の悪そうな前髪を垂れ流した制服姿の少年だった。なんちゃってコスプレのヒメカと違ってこっちは本物のアカデミー生だろう、流石に。
「さっきのジムリーダーとのバトルを見てたんだ。姉ちゃん、なんでも屋って呼ばれてましたよね? 本当に何でもしてくれるんすか?」
「はいはい! 何でもしちゃいますよ、私の師匠なこっちのおじさんが」
「師匠じゃないし、なんでも屋は名乗ってるが何でもするとは言ってない。内容次第だが、俺達が食い終わって出てくるまで待つ程の事か?」
「はい。メシを邪魔するとヤバいのは経験上分かってるんで」
確かにそれは正しい。食事中のポケモンと戦闘すると相手はほぼ激昂する。それにリングマが食べ残した食料と知らずに持って行ってしまった人間が、臭いで執拗に追跡されて襲われるなど、食べ物絡みの事件は後を絶たない。
「オレ、ペパーって言います。頼み事はあるんすけど、たぶん危ない戦いになるんだ。だからその前に師匠のおっちゃんの強さを見せてもらってもいいすか?」
「おっちゃん……」
強さを見せろもさることながら、また俺を変な呼び方する奴が増えた。どうしてみんな素直に屋号で呼んでくれないのか。
「ほらほらおじちゃん、男の子が決闘を挑んでるんだから受けてあげなきゃダメですよ」
「おじちゃん言うな。テメエもヒメカちゃんって呼ぶぞ」
「うっ⁉」
ヒメカは本気で引いていた。それはそれでショックである。
「……仕方ないな。手っ取り早く、1対1で良いかな?」
「ああ、ノープロブレムちゃんだぜ!」
その言葉にもちゃん付けはどうかと思うが、ペパーとかいう少年はやる気満々だ。やっぱり男はタイマンバトルが好きなのである。
「となると……やっぱりこれか。スギヤくん、頼んだ」
「こっちも行くぜ、マフィティフ!」
『ギャスッ!』
『マフッ!』
俺がギャラドス、あっちはマフィティフ。互いに相手をコワモテで睨みつけ、体を震え上がらせる。
「……いかく、同士か」
威嚇で良かった。もしマフィティフの特性がばんけんだったら完全に裏目だったところだ。内心ホッと胸を撫で下ろす。
みず対あく、相性関係で特に有利不利はない。驚くべきことにこの生徒のポケモン、レベルもチャンピオンクラスに高いと見る。なら勝敗は完全に鍛え方の差で決まる。強さを測るにはまさに好都合か。
「アクアテール!」
「かみくだく!」
両者の最高威力、ギャラドスの尻尾が、マフィティフの牙が相手を襲う!
この2体はステータスまで似通っている。ならば勝敗を分けるのはほんの僅かな差。
そしてそういう戦いになった時に結果はどうなるか。
経験豊富な俺には確かな自信があるのだった。
このおじさん毎回何か食ってるな