おじさん、ポケモンの事なら何でもするんですよね? 作:石転法師
「なに負けてるんですかあっ‼」
ヒメカが物凄い形相と力で俺をガクンガクンと揺する。こいつ本当はチャーレム辺りが化けてるんじゃなかろうか。
「んー、強かったねー。最近の子供は本当にレベルが上がってて素晴らしい」
ほぼ互角の戦いになった時、俺の使うアクアテールは外すし相手のかみくだくは防御ダウンの追加効果を引く。昔っから俺はそういう星の下に生まれているのだ。
「おじさんは私の師匠なんですけど! 誰よりも強くないと困るんですけど!」
「そんな強かったらなんでも屋なんかやってねえっつの。この話何回させる気だ」
肝心な所で結果を出せない人生続き、いつしか俺は栄光だの名声だのへの興味を失っていた。
「……あのー、スンマセン。オレの話をしてもいいすか」
ペパーがおずおずと入ってきた。ギャラドスが落ちるやいなや俺に詰め寄っていた奴のせいでタイミングを逃していたのだ。
「ああ、悪いね。こいつは放っておいていいから」
「ぐぬぬ……」
「これが1対1じゃなかったら、おっちゃんはどうしてた?」
「ふむ、このケンタロスに交代だな」
赤毛の入り混じった炎タイプ付きの格闘ポケモンで、さらに威嚇もかけられる。ケンタロスはほとんどダメージを受けないだろう。
「う、オレのメンバーにはヤバちゃんな相手だぜ……」
後で知ったが彼のメンバーはどれもブレイズ種のケンタロスには出しづらかったらしい。まあまあ有利でパルシェンぐらいだろうか。
「オレにはさ、強い相手にちゃんとしたポケモンを出せる人が必要なんだ。オレが勝っちまったけど、おっちゃんはそれが出来る人だと思う。だからお願いしてもいいっすか?」
「負けちまったし、言う事聞かないわけにもいかんわな」
負けてもこの少年的にはそれで良いらしい。まあ1対1なんて戦略もクソもないじゃんけんみたいなもので、今回はあいこだけど相手のグーの方が良いところに入っただけの話だ。
「秘伝のスパイスっていう食材が欲しくてさ。研究用も含めて一つだけじゃダメで……」
「あー……アレか。そういう事か」
「ん? どういう事なんですか?」
簡単に言うと強烈な食事効果を引き出せる食材だ。ポケモンが直で食うと巨大化して暴れ回るくらい強烈なエネルギーを秘めている。首をかしげるヒメカにそう説明してやった。
「ほうほう、そんな食材が。でも秘伝って言うからには簡単に見つからないヤツ?」
「ああ。オレも一度はパルデア中を駆けずり回って集めたんだぜ」
「集めたの⁉ あれ、じゃあ場所も分かってるなら私たちいらなくない?」
「要るんだよ。まともな奴らが数人な」
あのスパイスはどうも日の当たる場所には生えないらしく、洞窟とか地下を探すしかないのだ。闇雲に探しても効率が悪いが、代わりにちゃんと分かりやすい目印がある。
「フィールドで、たまにテラスタルエネルギーが溢れてキラキラしてる場所があるだろ?」
「あるある。危ないから近づいちゃダメって偉い人に言われましたよ」
「何で危ないかっていうと、テラスタル状態でデカくなって暴れてるポケモンが地下にいるからだ。そんで、その中でも強い奴は秘伝スパイスを食いまくって溜め込んでる、と」
危ないと言われても貴重なアイテムを求めて挑むトレーナーは多い。そして大抵は返り討ちに遭う。
「おっちゃん詳しいな! そう、だから協力してくれる人を探してたんだよ。本当は前のスパイス集めでも手伝ってくれたダチに頼みたいんだけど、今あいつは林間学校に行っててさ」
「そんな食材を使って……あ~、もしかしてペパー君も料理コンテストに出ようと思ってたの?」
「そうなんだよ! 100万円も欲しいけど、オレの腕試しにはちょうど良さそうだしな」
なるほど、事情は完全に把握した。あとはやるか、やらないかなのだが。
「ついでと言っちゃなんだけど、スパイスが手に入ったら料理の試食もお願いしていいっすか?」
「やりましょう、おじさん。ポケモンが巨大化するぐらい美味しいなら絶対食べたいです」
俺がよく食うのに合わせてこいつも最近食い意地が張ってきたように思える。実際体も張ってきたんじゃなかろうか。
「……ま、良いだろう。少年の熱意は大事にしないとな」
「よっしゃあ! これで3人、あともう1人いれば何とかなりそうだな」
「3人……あれ? もしかして私も入っちゃってる?」
ペパーと俺、そして。ヒメカがきょろきょろ回りを見渡すも、他にそれっぽいのは当のヒメカしか居ない。
「入ってるな。まあリフレクターしたりとか攻撃以外でも貢献は出来るからそっちを任せる」
「またわざマシン作ってこないとなあ……頑張ります!」
「んで、もう1人にアテは有るのかい。あのデカブツが相手なら確かに4人は欲しいところだぞ」
ペパーの方がダメなら最悪俺の知り合いを招集する事になる。具体的には、動画のネタに使えるぞと釣れそうな目立ちたがりジムリーダーとか。
「あー、強いのって言ったらウチの生徒会長なんだけど、あっちも忙しそうだし……となると」
妥協して、仕方なくといった感じを微塵も隠さずにスマホロトムを取り出す。
──ロトロトロト、ロトロトロト……。
『……もしもし。珍しいじゃん、どしたん?』
『そんなにスペシャルな料理なの? んー……じゃあ行ってもいいけど』
『わかった。じゃあブイブイみんな連れてくから』
ピッ。
電話を切ったペパーはニッとしたり顔になるのだった。
その人物はペパーの友人であるそうな。
ポケモンや機械の知識に豊富で、学園内のスター団とかいう集団のボスまで務めるカリスマに満ちた人物らしいが、それに反して引っ込み思案で普段は陰から指示出しも多いそうな。
今回は愛してやまないイーブイ系ポケモンにも美味しい物を食べさせたい一心で遠出してきたわけで、だからこそ戦闘態勢をばっちり整えていた俺たちを見た少女、ボタンは開口一番にこう言ったのだ。
「……ペパー。てめー、騙したな」と。
普通にペパー君にやられたプレイヤーも結構居るんじゃないでしょうか