おじさん、ポケモンの事なら何でもするんですよね? 作:石転法師
「……よし、撃破ー! これ、私がゲットしちゃっていいですか?」
「いいぞ。お前には勿体ないぐらいのポケモンだから大事に育てな」
俺達4人の総攻撃を受けて満身創痍のドラメシヤ。そこにすかさずヒメカがボールを投じ、何回目かの戦いも無事終わった。
「……んー、やっぱりスパイスは無いな」
「だろうなあ。ドラメシヤじゃせいぜい星3つってところだろう」
ペパーがドラメシヤの巣を漁るも、そこに残っていたのは飴や羽ばかり。これはこれでありがたく頂戴するとして、欲しいのはスパイスただ一つ、いや正確には5種類あるのだが。
「ペパー、喉が乾いた」
「あーハイハイ! 3種類あるぞ、どれがいい?」
「ん、じゃあミックスオレ」
ボタンは無表情でペパーからジュースをひったくり、遠慮無くぐびぐびと飲み干す。
ただ美味い物が食えると聞いてイーブイ一族総出で飛んできたオタク少女、ボタン。それを宥めるだけでも結構な手間を要し、結局はこういうお嬢様待遇をもって同行と相成った。
カラフ西のこんな砂漠地帯まで付いて来てくれるのだから、やはり問題児集団のまとめ役なだけあって面倒見の良い子なのだろう。
「……おっさん、なに?」
「俺も繊細な年頃なんだ。なんでも屋のお兄さんと呼びなさい」
前言撤回、やっぱりクソガキである。
「んー、ちょっとタンマ! ちょこっとだけ確認させてくれ」
まだスパイスが1個も集まっていない現状に業を煮やし、捜索を中断してペパーが皆を呼び集める。今捕まえたばかりのドラメシヤと早速じゃれていたヒメカもそれを頭に乗せたまま駆け寄った。
「……なんかさあ、相手が弱くねえか?」
「同意見だな。ぶっちゃけて言えばランクが低い」
五つ星料理を作るためのスパイスなら、ポケモンも同じぐらいの強さじゃないとダメなのだ。まだ進化もしていないポケモンが出てくるようじゃ貴重なアイテムには程遠い。
「どゆこと? うちらが悪いわけ?」
清涼剤代わりのシャワーズを抱えたボタンが俺を睨み付ける。この年頃の少女は皆そうなのだろうか、大人の男への当たりが強い気がする。
「……ポケモンも強い奴ほど強いトレーナーとの戦いを求めるところがあってな。俺達のオーラ的な何かが足りないのかもしれない」
「あのー……それってもしかして、私のせい……ってコト?」
バッジ4つ。半人前のヒメカが恐る恐る自身を指差す。
「かもな。お前、今からバッジ8つコンプリートして来い」
「むちゃくちゃ言わないでください。今ここで泣きますよ」
砂漠で貴重な水分を撒き散らす。遠回しに自殺すると言っている。
「いや待った。悪いなおっちゃん、実はオレもバッジ全部持ってるわけじゃないんだ」
「あ、うちも。無くてもブイブイは言うこと聞いてくれるし」
「……む」
これは意外だった。俺のギャラドスに競り勝つくらいの高レベルポケモンを所持しているのだから、てっきりバッジも集めているものだと。
しかしこのイーブイオタクちゃんが言うように、低レベルから自分で捕まえて育てたポケモンは例えレベル100でも言う事を聞く。従わないのはあくまで高レベルで出会ったポケモンだけだ。
──ロトロトロト……。
「あ、すまん。ちょっとメールが…………ほう?」
スパムか詐欺か、あるいは仕事か。俺に来るメールは大体そんな物で、どれにしてもろくなもんじゃない。しかし今回に限っては話が違った。これには今の仕事にも関わる重要な情報が混じっていたのだ。
「マリナードタウン近辺でテラスタル結晶が多数発生。これを対処して欲しいと」
「マリナードって、ここからめっちゃ近いじゃないですか。珍しくキツそうなお仕事来ましたね」
今いる砂漠を北西に抜ければそこがその町だ。料理人も新鮮な海産物を求めに訪れる港町で、レア物の競売を目当てに訪れる観光客も多い。そんな所にキラキラ光る結晶があろうものなら絶対に触る奴も出るだろう。
「……待てよ。おっちゃんはバッジ全部持ってるんだよな。それが前に出て行けば強めのポケモンも出てくるんじゃ?」
「そういう結論になるわなあ。これついでにマリナードの仕事もこなすで構わないか?」
「ああ良いぜ、おっちゃん達だって二人じゃ無理な仕事だろ。オレ達も手伝ってやるよ」
初見では不愛想だと思ったが存外に親切な少年だ。口調は荒っぽいが実力も知識も豊富で将来が楽しみである。
「ペパー待てし。勝手にうちまで入れんな」
それに比べてこっちの子はここまで一度も笑顔を見ていない。まあ騙し討ちで連行した以上は不機嫌で仕方ないのだが。
「分かってるよ。俺の仕事に君まで付き合う必要はない。あと一人はこっちで調達するから帰って休んでな」
「だから勝手な事言うななんでも屋。この流れでうちだけハブる方がナシでしょ。行ってやるから、ちゃんとお願いしろ」
「そうですよおじさん。女の子はそういう事はちゃんと言ってほしいものなんです!」
めんどくさ。真っ先に出てきた感想がそれだが、俺も大人なので男同士で揃ってお嬢様に頭を下げる羽目になるのだった。
「……オッケー。だいたい、美味しい物で釣らなくても手伝って欲しいなら言えばいいのに。ペパーのお願いなら普通に聞くし」
「だーから悪かったって!」
やはりお嬢様はペパーの方にご立腹らしい。聞けばちょっとヤバいエリアで一緒にとんでもない体験をした仲だとか。ちょっとヤバいエリアの時点でパルデアの大穴である事は察しが付いてしまうのだが、確かにそんな関係だったら下手に隠し事をされる方が嫌なのだろう。
「……青春ですねえ。おじさんにもあんな時代があったり?」
「昔の俺は今よりもっと捻くれててな、あまり思い出したくない。というかこんな話、前にもしただろ」
「そーでしたっけ。私どうにも昔の記憶が曖昧で」
「ったく、人には昔の事を聞くくせに……」
学生時代に習ったであろうタイプ相性も頭に入ってなかったし、こいつには子供時代というのがぽっかり欠落したまま大きくなってしまったような歪さを感じる時がある。まあ大人になりきれないのは俺も同じなのであまり責められないのだが。
それでも、子供を導くのは大きくなってしまった人間の役割だ。俺のギャラドスにヒメカのフワライドの力も借りて、マリナードタウンへひとっ飛び。
最初はカラフ、次に砂漠、そしてマリナード。この忙しない移動に文句一つ言わず付き合ってくれるポケモンこそ一番の大人と思ってしまうのだった。
「すっご、黒くてふっと……」
ヒメカが言うと何やらいかがわしく感じるが、実際太いのだからそう言うしかない。
マリナードタウンに着くや早速海辺にテラスタル結晶を発見したのだが、これが結晶も黒いわ放つ光も太いわ、おまけにバリバリと放電までしている。誰がどう見てもレベルが違う奴が潜んでいるとしか思えない。
「……そういえばウチの先生が言ってたぜ。この黒っぽい結晶だけは本当にヤバヤバちゃんだって」
「とりあえず、誰も近付かないように掲示しとくか。戦うかは他を片付けてから決める」
こちらの依頼は対処して欲しいというだけで、必ずしも戦って倒せとは言われていない。このヤバヤバ結晶だって1日も経てばポケモンが移動して消えてしまうのだ。ただ、スパイスを含む貴重なアイテムが欲しかったらこいつを狙って間違いはない。
「……こっちの結晶も強そう。この動いてる影は、たぶんハピナスっぽい」
ボタンが覗き込んでいる茶色の結晶から見える地下奥、見えづらいがこの丸っこくてピンク色のボディは確かにハピナスだろう。
「こいつは狙い所だな。スパイスも期待できそうだ」
「じゃあやっちゃいますか! えーと、この色だと……何タイプでしたっけ?」
「岩だな。草、水、地面、鋼、格闘のどれかで物理攻撃が得意なのを出せ。できれば特殊攻撃に耐えられるやつ」
「えー、あー、お~? じゃあ、ドオーで?」
ヒメカの手持ちではそれが正解だろう。もはやここまで細かく言うのが癖になっている自分がちょっと悲しい。
それはそれとして俺の方だが、格闘タイプで持久戦にも向いているタフな奴。それならばちょうど持っていたのでボールを放り投げる。
「あっ!」
「このポケモン……」
ペパー、ボタンの両者が声を上げる。やはり先の予想は正しかったようだ。
「くく、このポケモンが何なのか知ってるな? ちょっと変わったハリテヤマだと誤魔化せって君達の理事長様に言われたよ」
テツノカイナ。パルデアの大穴で出会った謎多きポケモンだ。そもそもポケモンなのかも怪しいが、強くて頼りになるのは確か。
「おっちゃん、どこまで見たんだ? 他にも持ってるのか?」
「持ってるのはこれだけだが、バンギラスっぽい奴は知ってる。やっぱり他にもいるんだな?」
「悪い……それは言えねえ」
ペパーは俯いて口をぎゅっと固く結んだ。この少年にとってよほどショックの大きな出来事か、或いは大事な思い出があったのだろう。
「ま、事の重大性は何となく分かるから言わなくていいさ。さて、俺はハリテヤマっぽいので行くから君らもポケモン出しな。ちゃちゃっと行かないと試作の時間が無くなるぞ?」
「……おう! やっぱり姉ちゃんの戦いっぷりから目を付けて正解だったぜ」
ペパーはキョジオーン、ボタンがリーフィアを選んだ。これならば問題はない。俺達は意気揚々と結晶の下に潜むハピナスに挑むのだった。
「よぉーしよしよし! だいぶ集まってきたぜ!」
ペパーはご満悦でキラキラと輝く秘伝スパイスを両手で抱えた。
砂漠での渋さとは打って変わり、最初のハピナスから連続してスパイスが出続けたのである。おまけに経験アメや真珠などの換金アイテムもウハウハだ。ハイダイの所での食事代をチャラにして余りある。
「……満足した? いい加減うちも疲れてきたんだけど」
この中で一番若いだろうに、ボタンが最初にぺったりとシートの上に座り込んだ。まあ一番若いが一番小柄、どう見ても運動が得意には見えないし無理は言えない。
「あー……悪いんだけど一番大事なもんが抜けててさ、できたらそれも欲しいんだ」
「マジかよ。何なんそれ」
「辛味、だな」
秘伝スパイスには5種類の味がある。塩味、苦味、酸味、甘味、そして辛味だ。スパイスと言えばやはりピリっと来なければ物足りない。他の4種は出ていたがこれだけが無かったのだ。
「辛いスパイスかあ……やっぱり辛いのが好きなポケモンが持ってる?」
「ほう、その通りだ。辛味を好む傾向にある攻撃の高いポケモンだな」
キノガッサやソウブレイズなど、そういったポケモンからは辛味のスパイスが出やすかったという報告も実際にある。
「当たってた! どうですおじさん、褒めてくれてもいいんですよ?」
「ああ偉い」
「もっと心を込めて!」
そう言われてもこれが俺の真心なのでどうしようもない。褒めただけマシだと思え。
「攻撃の高いヤツか……そうなるとやっぱ、最初のアイツだよな」
ペパーが言っているのはあの黒い結晶の事だ。挑みこそしなかったが、あそこから見えたシルエットは間違いなくドラゴンタイプのボーマンダ。その攻撃性の高さは誰もが知っているはずの強力なポケモンで、他でもない俺もしっかり育てている。
「ただでさえ強いポケモンがさらにヤバヤバちゃんなんだよね。おじさん、勝てそう?」
「やってみなきゃ分からん。ダメなら逃げる。いつも通りだ」
辛い事、ヤバい事からはいつだって逃げて何とかしてきた。まあその結果が今のこの姿だ。
「……ヒメカさん、だっけ? はっきり言ってゴメンだけど、そっちにはキツすぎると思う」
「うっ! はっきり言われた……」
酷いようだが、ボタンが言わなければ俺が言うところだった。本当にはっきり言う子供である。しかしこの少女も中々に手練れだった以上、ヒメカだけレベルで劣っているのは紛れもない事実だ。
「まあ仕方ないな。一発でやられちまうかもしれないが、お祈りしながら戦うしか……」
「ナカヌチャンにアメ、使っても良いですか?」
「……お前な、俺も思ったけど飲み込んだ事を」
ここまでの戦いでスパイス以外にも経験アメが結構な数集まっていた。強いポケモンに対抗するにはレベルを上げれば良い。ドラゴンのボーマンダが相手なら、フェアリーのナカヌチャンが適役。簡単な話だが、それを簡単にさせないのが人の心というものだ。
「分かってると思うが、進化レベルなんて一気に通り越しちまうぞ?」
共に戦って経験を積み、絆を深め、そして進化しての、そういう過程をすっ飛ばす事になる。それを何度も経験した俺が、既に所持しているポケモンに追い付かせる為にレベルを引き上げるのとはワケが違う。トレーナーとポケモンは一緒に強くなるべきだ。
もっとも、これはあくまで俺の考えであって、そんな事は気にしない奴だっているのも重々承知だ。だから押し付けはしない。
「私のレベルには相応しくないと思ったら、バトルが終わった後におじさんが預かってても良いよ。それでも、ただ出してやられちゃうだけみたいな役にさせたくないから……」
「そこまで。それが言えるなら、お前は一匹だけ強いポケモンに頼りきりなんて事はしないはずだ。アメをやるから、ナカヌチャンを出しな」
「……ありがと。やっぱり何だかんだおじさんは優しいね」
「何だかんだは余計だ、半人前」
ポケモンのエネルギーが詰まった不思議なアメ。それを口に含んだナカヌチャンの体が光り輝いた。体も一回り大きくなったが、それ以上に目立つのは持っている得物だ。岩すら楽々と粉砕する無骨な大槌は、そのポケモン名の由来でもある。カヌチャン系列の最終進化、デカヌチャン誕生だ。
「ヌーちゃん、改めてよろしくね。ちょっと怖い相手と戦うけど、頑張れる?」
『ヌッチャー!』
デカヌチャンは力強くハンマーを振り上げた。従ってくれるかの心配はどうやら杞憂らしい。この子はずっとヒメカのポケモンで問題ない。
「……ヒメカさん、変なこと言っちゃってごめんなさい」
「気にしないで。みんなと同じぐらい戦える方が私だって楽しいし!」
ボタンはぺこりと頭を下げた。その一言も出るなら人間関係も問題ない。コミュニケーション能力が不安な子供と思っていたが、こちらも要らぬ心配のようだ。
「よし、行こうぜおっちゃん。ボーマンダ、討伐開始だ!」
ペパーの号令に頷く。
俺が選んだのはまたギャラドスだ。氷技を備え、威嚇で攻撃を落とし、挑発して竜の舞を抑えこむ。これなら勝ち目はあるはず。
覚悟を決めた俺達はバチバチとエネルギーを放つ結晶に触れ、その奥で待ち構えていたボーマンダと……ボーマンダと?
「なんか、違くね?」
ボタンが代表して全員の感想を呟いた。
暗い洞穴に真っ赤な翼を広げて浮かぶ姿はまるで紅い三日月のようだ。そこに居たのは、ボーマンダに色が酷似した異形のポケモンだったのだ。
『グルゥアアアアアアアアアア‼』
俺達を敵と認識した相手が身の毛もよだつ咆哮を轟かせる。
それと同時に地上からの日差しが強く差し込んだ。ひでりの特性か、にほんばれを使っただけか。
その答えはすぐ判明する。後者だった。
なぜなら日差しが強くなった途端、ボーマンダのようなポケモンの攻撃力がさらに高まったのを感じたからだ。こいつは俺の知らない特性を持っているのだ。
「一時撤退!」
「は、はいぃ!」
俺の判断に一切の迷いは無かった。
まずボーマンダと同じタイプなのかも怪しいこいつにそのまま突っ込むのは決して得策ではない。
いったん退いて作戦を立て直す。無様に逃げ帰ったと言われても否定できない情けない状況だが、それとは裏腹に俺は高揚していた。
あいつは絶対に俺が捕獲する。見た瞬間、そう心に決めていたのだから。
実際ずっとやってると経験アメとかカンストして勿体ない事になります